sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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第3弾となる今回の話ですが…遂に長かったこのクエストの終わりとなります。
みなさん、ここまでお疲れ様でした(礼)

カナタ達の最後の勇姿をご覧ください……では、どうぞッ!!


024 A man of high caliber

みんなからの賞賛を受けて、ピコピコと水色の三角耳と尻尾を動かす猫族妖精(ケットシー)とアイコンタクトで会話する。

 

"流石、シノだね。あたしはやってくれるって思ってた"

"ヒナタが泣きそうな顔してるんのだもの。恋人としてほっておかないじゃない”

"あはは、そんな顔してたかー。上手い具合に隠したつもりなんだけどな"

"私にはバレバレ。ヒナタってば、困った時とか誤魔化そうとしている時ほど癖っ毛を掻くんだから"

"ごもっともです"

 

無言で見つめ合い、ニコニコと笑い合うあたしとシノンの間にピンク色の雰囲気が漂い始めそうになった頃

 

「ごっほん」

「あはは、カナタ達って本当に仲良しさんだよね」

 

と、フィリアがわざとらしい咳をしたのと、ユウキが無邪気な笑い声をあげたのとトンキーとキーボウが声をあげたのがほぼ同時だった。

 

くおおぉぉーーー……ん

 

二匹が長く尾をひく啼き声を放ち、八枚の翼を力強く打ち鳴らして上昇する。つられて、上を見ると今回のクエストで最大最後のスペクタクル・シーンが今から始まろうとしていた。

地底世界ヨツンヘイムの天蓋中心に深々と突き刺さっていたスリュムヘイム城が、遂に丸ごと落下し始めたのだ。

ボロボロと砕けていくスリュムヘイム城は下の方は既に跡形もなく消え去っているが、まだ全体のフォルムは保っていた。今まで見ることができなかった逆ピラミッド型の上も全く同じサイズの構造体を隠していたようで、今あたしの目に映るのはスリュムヘイム城は正八面体となっている。

各班の長さは三百メートルってことは、上下の頂点間の距離は一辺三百メートルの正方形の対角線と等しいので、300×√2で424.26。東京スカイツリーの特別展望ロビーが四百五十メートルだからそれに迫るってわけだ。

 

“うわー、たっか”

 

よくそんなダンジョンをあんな短時間でクリア出来たもんだ。まぁ、それもこれも…黒をこよなく愛する影族妖精(スプリガン)殿の上にあるピクシー殿がいたからこそ成せた技であるわけなのだが…。

そんなくだらない事を思っていると、氷の巨城は遠雷のような轟音を響かせながら真下へと落下していく。風圧に耐えかねてか、崩壊の激しさも増していき、極地のクレバスほどもあるひび割れが下から上へと無数に走り、やがていくつかの大パーツへと分離する。

 

「なんだか勿体ないですね」

 

キャリバーを一緒に持ってくれている愛弟子が落ちていく巨城を見ながら、小さく呟く。それに答えるのは、フィリアとレインだ。

 

「…そうね。まだ、ゲットできてないお宝沢山あったと思うのに」

「うん。私も新しい剣と鍛治で使うインゴットとか欲しかったな」

 

二人ともあの世界を一時期ソロプレイヤーとして過ごしてきたのだ強い敵には惹かれるし、フィリアはトレジャーハンターとしての血が騒ぎ、レインは鍛治族妖精(レプラコーン)としての血が騒ぐのか、実に残念そうに落ちていくスリュムヘイム城を見つめている。

 

そんな二人の隣に立ち、赤いカチューシャを付けて、濃い紫色のロングヘアーを揺らして、ニコニコと笑っているのはユウキである。

 

「僕は楽しかったよ。出てくる敵の全てが強敵だったし、何よりもみんなと馬鹿騒ぎ出来たのが嬉しい」

「そそ。贅沢は言っては言えないよ、レイもフィーも。あたしとルーの手の中にあるこのキャリバーを持ち帰れただけでもいいと思うとしようよ」

 

ここはユウキに乗ろうとこくんこくんとうなづくあたしの横に並び立つこのキャリバーをゲットするために一担をかったケットシー殿は腕を組みながら、話に混ざる。

 

「レインもフィリアも何か欲しい武器やダンジョンがあればカナタを誘えばいいわ。きっと二人の力になってくれるばすよ」

「ん!任せてよ、二人には普段から世話になってるからね!」

 

そこまで言い、胸を叩いたから気付いたのだが

 

“あ、…あれ?あたし、お嫁さんに今ナチュラルに売られた?”

 

胸を叩いた状態で固まるあたしを見て不思議そうに小首を傾げるルクスになんでもないと手を振りながら、後でシノンを問い詰めようと思うあたしであった。

 

そんなあたしの視界の先で遂にスリュムヘイム城が崩壊し、そして天蓋近く萎縮していた世界樹の根が解放され、生き物のように大きく揺れながら太さを増していくのだった。散り散りだった根たちが身を寄せ合い、集まりながら、何かを求めるように真下へと突進していく。

 

大きくなっていく世界樹の根はかつてのグレート・ボイドを満たした清らかな水面に吸い込まれ、大波を立て、放射状に広がっていく。するとたちまちに広大な水面は網目のように覆い、先端は岸に達する。

 

それは女王ウルズが見せてくれたあの幻の風景にそっくりで…

 

「…良かったね、トンキー、キーボウ」

 

クエストは間に合ったと知ってはいたけど、こうして目の前で劇的な変化を見せられるとつい歓喜極まってしまう。この時をトンキーもキーボウも待っていたのだろう。今までスリュムの手下達に嬲られ、居場所や仲間を奪われ、惨めな思いをしたに違いない。その時感じていた悔しさがやっと晴れるのだ。

 

ウルウルと空のように透き通る蒼い瞳を潤ませるあたしへと優しく語りかけるのはシノンである。

 

「…ヒナタ。まだクエスト終わってないでしょう、ほら泣かないの。副隊長なんだからしっかりしないとね」

「ほら、これで涙を拭いて。カナタ君」

「あんなにキーボウとかトンキーのことを可愛くないって言ってたのに…結局は情にあついわよね、貴女って」

 

レインから貸してもらったハンカチで溢れる涙を拭きながら、呆れたように言うフィリアに文句を言ってやろうと思うが溢れ出る感激によってたちまちに言葉を失う。

 

「ちーん。だっ…て、トンキー、もキーボウも…きっと、スリュム達に悪いことされてて、それでもここまで…っ、頑張って…って、きたん、だよ?そう、思うと…もう、涙が…っ、じゅる」

 

すんすんと鼻をすすりながら言うあたしにフィリアに続いて、ルクスやユウキまでもがあたしの頭を撫でる。

や、やめろー!あたしは子供じゃない!この涙は嬉しい涙なんだ!

桃色の癖っ毛撫で回されるあたしはくしゃくしゃにされる癖っ毛がうっとおしく、涙を引っ込めるとまだ撫でようとするみんなを追い払う。

 

そんなほのぼのシーンがキーボウ組で繰り広げられている中、トンキーやキーボウ達の仲間が住んでいた世界は徐々に本来の形へと戻っていき---フィールドを覆っていた氷は溶けていき、そこから芽吹くのは鮮やかな緑が覆う草原だ。今まで感じていた肌寒い風は生暖かい風が頬を掠めていき、その春の日差しのような暖かいフィールドを徘徊するのはおまんじゅうのような胴体に長い触手を生やした象水母達や脚が沢山あるワニのようなもの、頭が二つあるヒョウのようなものなど様々な種類を持つ多数な動物型邪神達が地面や水面から止めどなく出現する。その姿にまたうるってしそうになるけど、なんとか耐えて…前を向くと同時に現れるのは、今回のクエストの依頼主である身丈が三メートルの金髪美人《湖の女王ウルズ》である。

 

「見事に、成し遂げてくれましたね」

 

そう言い、あたし達へと不思議な色を放つ青緑色の瞳を細めて微笑みかけるのはウルズはおぼろに透き通っていた前回と違い、明らかに実体化している。スリュムの手から逃げ延びるために隠れていたと言う泉から脱出したのだろう。真珠色の鱗が見える手足や先端が触手状に揺れる金色の髪、体を包むライトグリーンの長衣全てが陽の光を受けてキラキラと輝いている。

 

「《全ての鉄と木を斬る剣》エクスキャリバーが取り除かれたことにより、イグドラシルから絶たれていた《霊根》は母の元へと還りました。樹の恩寵はふたたび大地に満ち、ヨツンヘイムはかつての姿に戻りました。これも全てを、そなたたちのお陰です」

 

その言葉に正反対の行動を取る攻略チームの総団長と副団長。

 

「いえ…そんなことないです。俺らだけじゃあスリュムは倒せなかったし…トールやここにいる仲間達の力があってこそです」

「いえいえ、そんなことありますよ。あたし達ならあんな敵ちょっちょいのちょいですよ」

 

そんな異なるセリフにウルズが反応したのはキリトの方だった。

 

「かの雷神の力は、私も感じました。ですが……気をつけなさい、妖精達よ。彼らアース神族は、霜の巨人の敵ですが、決してそなたらの味方ではない……」

「味方じゃない…?それってどういう…?」

 

あたしの曖昧な質問はカーディナルの自動応答エンジンに認識されなかったのだろう。

ウルズは無言のまま上昇すると

 

「---私の妹達からも、そなたらに礼があるそうです」

 

そんな言葉とともに、ウルズの右側の水面のように揺れて、たちまちに人影が現れる。

身体は姉よりもやや小さい---といってもあたし達に比べる全然大きいのだが。

そんな人影は姉と同じく髪は金髪で、こちらは少し短く。長衣の色は深い青。顔立ちは姉を"高貴"と評するならば、彼女は"優美"と評するだろう。

 

「私の名は《ベルザンディ》。ありがとう、妖精の剣士たち。もう一度、緑のヨツンヘイムを見れるなんて、ああ、夢のよう……」

 

甘やかにそう言ったベルザンディはふわりと右手を振るう。途端、あたし達の目の前にアイテムやユルド賃などがざらざらーっと落下していき、テンポラリ・ストレージへと流れ込んで消える。

 

“もし、これが七人とか少人数ならあっという間にストレージが埋まっちゃうんだけど…。流石、13人ってとこか…あんなに流し込まれているのにビクともしない”

 

あんなに戦い、ユルド賃とかも稼いだと思うのに…まだ空きがあると言う恐ろしさ。

13人パーティーってすごいなぁ…とマヌケな事を思っていると、今度はウルズの左側につむじ風が起こり、3人目の人影が登場。

姉二人と違い、鎧兜姿の彼女はヘルメットと左右とブーツの側面から長い翼を伸ばしている。また、金髪は細く束ねられ、美しくも勇ましい顔を左右に揺らしている。そして何より驚くべき特徴があったそれは---あたし達プレイヤーと同じサイズなのだ。

 

そんな三女さんは凛と張った声で低く叫ぶと大きく手を上に持ち上げる。

 

「我が名は《スクルド》!礼を言おう、戦士達よ!」

 

そして、例になくアイテムやユルド賃が現れ、テンポラリ・ストレージに入っていく。しかし、ビクともしな色を13名のストレージ…本当に凄いな。

そうこうしていると、スクルドからの褒美も終わり、こんどはウルズが前に進みでる。

 

「---私からは、そのつるぎを授けましょう。しかし、ゆめゆめ《ウルズの泉》には投げ込まないように」

 

微笑みかけられながらそう言われたあたしとキリトが同時にうなづく。

 

「は、はい、しません!」

 

その反応にもう一度微笑み、ウルズの合図とともにあたしとルクスの手に抱かれていた伝説武器《聖剣エクスキャリバー》はすっと姿を消した。どうやら、あたしかルクスのストレージのどちらかに収納されてしまったらしい。あとでこっそりキリトにそれは渡すとして…あたし達へとクエストの報酬を終えた美女3人はふわりと距離を取り、声を揃えて言うのだった。

 

「ありがとう、妖精達。また会いましょう」

 

そのセリフとともに、視界の中央に凝ったフォントによるメッセージが送られる。クエストクリアを告げる一文が薄れると、三人は身を翻し、飛び去ろうとした。

 

しかしその途端、前に進み出たクラインは大きく空気を吸い込むと叫ぶのだった。

 

「すっ、すすスクルドさん!連絡先をぉおお!!!」

 

その叫び声を聞いたあたしは思った---アホか、と。そもそもNPCが連絡先を持ってるわけないだろう!?とかそうやってころころと変えたり、するから女子に嫌われるんだ!?などなど浮かんで消えるツッコミのどれを言えばいいのか分からずフリーズするあたし達の予想を超えることが起きる。

 

姉二人は素っ気なく消えてしまったのに、末っ子のスクルドはくるりと振り向き、あたしの目が悪いのか、面白がるような表情を使った後、もう一度小さく手を振る。

そして、振った掌から流れ出るキラキラと輝く光はクラインの方へと飛んでいき、すっぽりと手のひらに収まったのを見て、今度こそ戦女神様も姿を消し、後に残るのはスクルドからもらった物を大事そうに抱きしめるクラインとそんなクラインを見つめたまま沈黙する12名+1名で…そして、しばらく経った頃にリズベットが小刻みに首を振りながら囁くのだった。

 

「クライン。あたし今、あんたのこと、心の底から尊敬してる」

 

同感だった。全く同じ気持ちだった。

まさかNPCから追加で報酬をもらうとは……これもめげずに色んな女性へとアタックし続けているクラインだからこそなせる技だと思う。しかし、ここまで粘り強いのなら、何故女性にモテないのだろうか…やはり、あの下心丸見えの顔がいけないのだろう…。

全くもって不思議だと思ったところで、あたし達13人+1名の大冒険は終わりを告げたのだった……




ということで、無事完結したヨツンヘイムダンジョン攻略ですが…無事終わってよかった…(笑)
やり残したのは、ヒナタも私もギャグに全力疾走でマトモな戦闘シーンが書けなかったとかでしょうか。

さて、次回の話で終わりとなった今回のキャリバー編、楽しんでここまで読んでいただいていると嬉しいのですが…

では、第4弾で会いましょう!

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