fate/kaleid liner ~転生の士郎~   作:kimito19

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第一話 再会

目が覚めると、俺はどこかの地面を歩いていた。服は破れていたり煤だらけだったり、それから体中は軋む様に痛い。吐き気がする体調がすぐれない、だが俺の体の事よりも酷いものが周りにあった。家は潰れその家屋が燃え下敷きになった人たちの痛いや助けてなどの呻き声が聞こえてくる、地獄だここは地獄だ。だがこの地獄には見覚えがあった、そうここは俺が衛宮士郎が生まれた第四次聖杯戦争後の十年前の冬木市だ。

俺はさきほどまで聖杯の穴の中に居た。聖杯の奴は俺に生きるチャンスをやると言っていた、確かに俺衛宮士郎が生まれると言ったらこの時この場所かもしれないが、まさかこんな状況からスタートとはどうにかならなかったのだろうか…どうでも良いか、今は体が痛いしもう歩けそうにない……

俺は力つきるように地面に仰向けに寝転んだ。その時に目はかすんできた、今更ながら前の世界で俺が爺さんに助けられたのは奇跡だったのだろうと思う。俺は瞼を閉じるのが我慢出来なかった…

 

「…み…ぶ…君…ょうぶ…君、大丈夫!?」

 

声が聞こえた。それはとてもきれいな声だった、目を開けるとそこに居たのはとても綺麗な女性だった。髪は綺麗な白銀に赤い瞳、その姿はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを大人にしたような女性だ。この女性は確か爺さんの奥さんでアインツベルンが造ったホムンクルスであるアイリスフィール・フォン・アインツベルンさんだ…

その時俺は「あ…」と意味を持たない言葉を放った。すると女性は目に大粒の涙をためていた。

 

「切嗣!居たわ、ここに生きている人が!」

 

アイリスフィールさんが誰かを呼んだ、走ってこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえた。少しすると足音が止まり俺を覗き込んでくる人間が増えた。その人間はぼさぼさ頭に無精ひげが特徴的な顔に、黒を基調としたスーツにその上から黒のロングコートを羽織っている男。その男の名は、

 

「ありがとう、生きていてくれて本当にありがとう…」

 

衛宮切嗣。俺が正義の味方を目指すきっかけを作ってくれた男だ。今だって大粒の涙を流しながら俺を抱きかかえた、その顔はまるで救われたかのような顔だった。俺が救われたはずなのにな、そうだこれが俺衛宮士郎の原点なんだ…この顔を見て死の直前に居る自分が羨ましく思えるほど、男は何かにありがとうと言った。一人でも助けられてよかったと言った、そうだこの姿にこの人に憧れたんだ…

 

~~~☆~~~☆~~~☆~~~

 

俺は目が覚めると薬品の臭いがした、天井は白く俺が横たわっていたベットも白いどうやら前の世界と同じように病院のベットで寝ていたようだ。よく見てみると体は前の世界の時に比べ大きく縮んでいた、当然の事と言えば当然か、あいつは転生させるって言っていたんだ転生と言えば新しい肉体に既存の魂を入れ第二の人生を送るということ事を言ったはずだ、まあ転生ではあるんだろうけどたぶんだろうけど別世界で自分の肉体に宿ることになるとは思わなかったが、あいつの話を翌々思い返してみれば俺の未練を晴らすための生きるチャンスを与えると言っていた。とすれば自分の肉体で転生するのも当たり前か…さてこれからどうするかだが、これまでの事から今後の事について推測するとこの後きっと……

俺がゆっくりと今の状況やこの後のことを考えていると、こちらに近づいてくる足跡が聞こえた。ここは個室の病室ではないから他の患者のお見舞いか、医師の人たちの見回りかとも思ったが何となく違う気がした。足跡がこちらまで近づくとピタリと止まった、するとカーテンに手がかかりゆっくりと開いた。そこに居たのはアイリスフィールさんと切嗣だった。

 

「あら、起きているようよ切嗣」

「そうかい、それなら良かった。こんにちは士郎くんだね」

 

白い陽射しにとけ込むような笑顔。

それはたまらなく胡散臭くて、とんでもなく優しい声だった。

 

「率直に訊くけど。孤児院に預けられるのと、初めて会った夫婦に引き取られるの、君はどっちがいいかな」

 

俺は迷わず爺さんを指差した。別世界で、しかも第四次では聖杯の器だったはずのアイリスフィールさんが何で生きているのか一瞬思ったが、よくよく考えてみれば俺がセイバーを好きになった世界では、イリヤは聖杯戦争か終わっても、しばらくの間は生きていたっけ…ということはアイリスフィールさんも短命何だろうか?爺さんも確か聖杯の泥を浴びて俺を養子にしてくれた五年後に、俺に夢を託して死んでしまった。この世界ではどうなのか、あの災害があったということはこの世界でも第四次聖杯戦争があったということだ。ならば、十年後にはまた第五次聖杯戦争があるのだろうか…俺は知らなければならない、最悪を回避するためにもう誰もせめて、俺の友人や大切な人たちを傷つけないために…

 

「それじゃあ新しい家や家族にも、一刻も早く馴れるために準備しようかアイリ?」

「ええ、そうね切継。早くセラやリズ、それにイリヤを紹介しなくちゃ士郎は今日からお兄ちゃんになるんだから」

 

アイリスフィールさんの言葉に鼓動が早くなり、体が熱くなるのを感じた。イリヤが俺の妹に…今の俺が6~7歳、つまりイリヤは聖杯戦争の時の年齢は俺が居た世界より遥かに年下ということだ。本当にどうなっているんだこの世界は…だが、今一つだけ心から嬉しい事がある、イリヤはアインツベルンで地獄の様な日々を過ごさなくてもいいんだ…ここに、爺さんたちと一緒に居るということは、普通の女の子として生きていけるんだ…

俺はボソッと「良かった…」と言うと眼から溢れんばかりの涙が出ていた。

 

「どうしたの士郎?!」

「どこか痛いのかい⁉」

 

爺さんとアイリスフィールさんは当然涙を流した俺を心配して、顔を覗きこんできた。俺は顔を反らしながら「大丈夫」と言いながら袖で涙をふいた。たが、喜んでばかりもいられない。俺には確認しなければならない事がある、もしかしたら教えてもらえないかもしれないし、はぐらかされるかもしれないだけど、俺はそうしなければならない義務があるのだから

俺は完全に涙を拭き取り、爺さんとアイリスフィールさんの顔を見て口を開いた。

 

「突然だけど、二人に聞きたい事があります」

「何かしら士郎?」

「気になる事があるならなんでも聞きなさい」

 

俺は焦りそうな気持ちを、深呼吸しながら落ち着かせ聞いた。

 

「二人は、魔術師何ですか?」

 

俺が聞くと、アイリスフィールさんは「えっ⁉」という様な顔をし、爺さんは優しくだがどこか厳しい目をしながら俺の肩を掴んできた。本人は優しく掴んでいるのだろうけど、少し痛い子供の体は不便だと思った。

 

「士郎、どうしてそう思ったのかな?」

「簡単だよ爺さん、俺は知ってるからだよ第四次聖杯戦争セイバーのマスター衛宮切継」

俺たちは爺さんの提案で、俺の荷造りを早々に終え人気の無い公園へ向かった。俺がベンチに座ると、切継は俺の目の前に立ち手をコート裏の腰に入れていた。当然といえば当然なのかもしれない、俺はあの時この人に助けてもらった。けれどそいつがいきなり自分の正体とも言えるようなことを言ったら、誰だって警戒する。特に爺さんなら尚更だ、聖杯は爺さんがマスターになるまでどんな事をしていたか大まかに情報としてくれた。聖杯戦争中だってそうだったようだ、敵マスターを不意討ちしまくりでセイバーとは相性が良くなかったようだ。そんな人が俺を警戒しない訳がない。だが、その手をよく見ると震えていた。まるでどこか脅えるようそんな印象だ、顔は真顔で真っ直ぐ俺の目を見ているのに、なぜか俺にはこの人が脅えているように見えた。

 

「答えてほしい。士郎、君は一体何者なんだい?」

「俺は、俺はな爺さん何処だろうとどんな世界だろうと、あんたの息子の衛宮士郎だよ」

 

俺は、これまでの事を話した。どこから来たのか、衛宮切継の息子としてどう生きてきたのか。第五次聖杯戦争でセイバーのマスターになって、遠阪と協定を結んで、イリヤと戦ってキャスターを倒そうとしたり、アーチャーの奴が裏切ったり、そのアーチャーが実は未来の俺だったり、アーチャーに勝ったのは良いけど今度は英雄王と戦うことになって、勝負に勝ったのは良いけど最後は聖杯の穴に吸い込まれて死んだこと。そしてそこで、俺の世界で起こりえた様々な可能性と、爺さんたちの第四次聖杯戦争の記録や爺さんのやってきた仕事の事について等、俺は話せるだけの事について話した。

話しが終わると、アイリスフィールさんは泣きながら俺の頭をそっと抱き寄せ、爺さんは腰から手を離し、地面に膝をついた。その顔は涙でぐしゃぐしゃで優しく俺を抱き締めてくれた。俺も驚いた、爺さんにこんな一面があるなんて思いもよらなかった。

 

「すまない士郎、僕は君にとんでもないものを託してしまったようだ。許してほしいとは言わない。だがすまなかった…」

「二人は俺の話しを信じてくれるのか?こんな突拍子もない話しを…」

「当たり前じゃない、前の世界ではどうであれこの世界では士郎あなたは私たちの息子よ」

 

アイリスフィールさんのその言葉に俺もなぜか涙が溢れてきた。ああ、今ようやく分かったような気がする。俺の未練は、皆を護りたかっただけじゃあなかったのか、俺は普通の家族みんなが笑いあえるようなそんな居場所を護れるようになりたかったんだ…

俺たちはしばらくの間大泣きした。まだ昼間だ、もしかしたら人目もあったのかもしれないそれでも俺たちは家族というものを認識したのだった。

 

「爺さん、俺は別に爺さんから受け継いだ正義の味方になる夢を重荷に何かに感じたことなんか一度も無いよ」

「え?」

「アーチャーとの戦いであいつの人生を、俺がいつか辿るであろう道のり守護者としてのそれからを見た、それははっきり言って地獄だ。あいつもこの夢で苦しんだとも言っていた、俺の正義は偽善だとも言っていた。きっとそうなんだろう、俺の正義は借り物で偽物なんだとしても、俺はその道を歩もうと思う。だってそれはけして間違ってはいないんだから」

 

俺は思っている事を切継に伝えると、切継は微笑みながら「そうか」とどこか満足したような顔で頷き、アイリスフィールさんは微笑みながら泣き俺たちを抱き締めてくれた。きっとこれが俺が忘れてしまった母親というものなんだろう…




fate/kaleid liner ~転生の士郎~楽しんで頂けたでしょうか?次回はやっとプリヤこと登場します!

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