FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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軽い。身体が…そして何よりも、心が軽い。


清々しい。実に清々しい。良い気分だ。この戦いで、これ程の気持ちを味わうとは思っても見なかった。


すまぬが、もう少しだけ付き合って貰うぞ?何せ──────



我は今──────(すこぶ)る機嫌が良い。





第最終刀  斯くして戦いは──────

 

 

嘗て、その強さで以て世界を震撼させた伝説の王…殲滅王リュウマ・ルイン・アルマデュラ。そんな彼が、本来ならば足元にも至らない程の者達に殴打され、一蹴され、地を転がされている現在。仲間と言ってくれる者達と戦っている現状、そも…何故戦いに発展しているのか?

 

領地争いで戦争が起こり、殺し殺され、奪い奪われ、そんな血で血を洗うかのような状況が、当時の世の常であった頃、それでも、彼を含めた国民達は、幸福というものを噛み締めて過ごしていた。しかし、時は流れ、幸福の中にドラゴンという異物が混じりだした。後に人を襲い、喰らい、国を破壊し、何時しか人とドラゴンの戦争が勃発した。

 

竜王祭と名付けられたその戦いに於いて、人間でありながらドラゴンへ至った者…アクノロギア。そんな彼に国を滅ぼされ、更には国民や敬愛する父母までも皆殺しにされた殲滅王は、400年という長い年月の時を生き延び、過ごし、出会い、そして出逢い、最後には再びアクノロギアと邂逅を果たした。

 

過程はどうであれ、国を滅ぼしたアクノロギアを己が手で葬り去り、その直前には嘗ての盟友にまで手を掛けた。…目的が無くなった。400年も生きれば生にも飽きる。かと言って彼には死は許されず、存在しない。故に生きなければならない。だが、彼はもう…疲れてしまった。こんな事になるならば、いっそあの時に…共に国諸共死にたかった。そう何度思ったことか。しかし、それは直ぐに否定される。その想いは、生かしてくれた国民や父母に対する最大の侮辱である。そう理解していた。

 

400年で出会った者達との別れを済ませ、永遠の眠りに就こうとした彼の元へ、記憶までも消し、繋ぎ直し、改竄させた筈の者達が現れた。

 

心底驚いた。魔法を掛け間違える等…逆に不可能。魔法を自力で解くのも不可能。そも、魔法が掛けられていることにも気が付かない…不可能であった筈であった。しかし、彼等は不可能を乗り越え、彼の目前にまで躍り出た。

 

さて、戦いになった。どちらの声を開戦の狼煙にしたのだったか。その言葉はどんなものであったか。……忘れた。もうそんな、つまらない些事…そう、本当につまらない些事はとうに忘却の彼方へと放ってしまったさ。

 

話は進み、戦ってやはり実感する。“弱い”。弱すぎる。話にすらならない。だが、()()()()。最後の一撃まで持っていくことが出来ない。若しかしたら、仲間だった時の記憶の所為で手加減しているのかも知れない。いや、()()()()()()()()()()。まるで惜しむかのように、意味不明で意味が無い、無駄な手加減を施していた。

 

戦いは苛烈に、そして熾烈を極め、己の封印してきたものを全て曝け出し、全力の己を見せてやった。心を砕きにいくつもりであった。しかし、そんな彼等は耐えた。更にはまだ戦おうというのだ。そこまで言うならばと、ここまで追い詰めた事への敬意としても、本当の全力を見せてやろうと、片手で数えることが出来るほどしか解放したことの無い、刀の封印までも外し、己が誇る…正真正銘最強の(わざ)を展開した。しかし破られた。他でも無い、己を愛しているという若き娘共の贈られる“一なる魔法()”によって。

 

戦いはそこから防戦一方となりながらも、心のどこかでは、どれだけ全力で挑もうと、悉くを打ち破られ、まるで弱者の其れのような状況を楽しんでいたのかも知れない。何せ彼は最強だ。最強を突き詰め過ぎて相手が居なかった程だ。手を抜くということにすら神経を使う程の最強が、話にならないと言わんばかりに追い遣られるのだ。逆に楽しくなってしまっても仕方ないのかも知れない。

 

紆余曲折。最後の最後で、魔力に魔法。万能故の全能を捨て、全て一の極致に至る形態()にまでなり、刀を新調して挑みに掛かるところだ。これが本当に最後の奥の手。これ以上に隠している事など、事実も魔法も何も無い。人間であるからこその、その身一つでの戦闘を行わなければならない。だが、それでも彼女(かれ)微笑()みを浮かべる。

 

 

 

そんな彼女(かれ)は結局のところ、今自分が…どうして戦っているのか……最早分かっていないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「構えよ貴公等ッ!!これが最後の戦いだッ!!気力を振り絞れッ!!!!!」

 

「言われんでもやったるわ!!アイツの逆上(のぼ)せた頭なんぞ、一気に冷まさしてやらァッ!!」

 

「……身体が…保てば…いいが」

 

「っしゃーーー!!!!燃えてきたぞ!!」

 

「やっとここまできたな」

 

「絶対負けないんだからっ」

 

 

 

これで最後なのだと、リュウマの口から出た言葉が真実なのだと悟り、本当にこれが最終ラウンドであるのだと、そして、そんな戦いに決着をつけるぞと、オリヴィエは咆哮し、彼等彼女等は応えた。相手は一人。然れど一人。凡そ仲間と戦うよりも、力の強大さ故に単独戦闘を最も得意とする彼女(かれ)が相手だ。況してや、その為に魔力や魔法すらも棄てたという。何が起きるか分からないというのが本音だった。

 

男の姿を取っている時よりも、女の身体に為っている時は注意しなくては為らない事柄がある。それは内に秘めている殺しへの欲望が表へと露わになること。元より、リュウマは斬ることが好きだ。刀で肉を斬る感覚。固い骨を両断する手触り。それに伴い、斬られた者があげる絶叫。そのどれもが、最強を登り詰め、強者に飢えた彼女(かれ)の渇いた心を癒してくれる。率直に言えば、彼女(かれ)は人が絶望した表情や絶叫に、愉しみや愉悦を感じる類の人間であった。

 

世間一般的に言ってしまえば、人に理解されないようなものなのかも知れない。しかし、それがどうしたというのか。彼女(かれ)はそも、戦いに於いて他の種族の一切を粉微塵に変えてきた最強の翼人一族、その王である。元より、他者に対する可哀相だとか、そういった憐憫(れんびん)の感情を持ち合わせていないのだ。他者が死ぬから何だ。その死に哀しんでいるから何だ。そんなものは一切どうでも良い。それが彼女(かれ)だ。

 

そして、そんな彼女(かれ)は、女の身体に為った時、最も心を占めるのは……斬りたい。斬って生き物を殺し、命を絶つその瞬間を噛み締めたい。それが他者の愛する人であって、尚且つ絶叫をあげるならば尚のこと良し。素晴らしい。実に素晴らしい。彼女(かれ)の欠けてしまった(こころ)が少しであれ満たされ、潤う。実のところ、言ってしまえば彼女(かれ)は、女の身体になった方が余程──────慈悲が無い。

 

 

 

「ふふ……フハハッ!さて……征くとするか?」

 

 

 

「───ッ!!構えよッ!!来る─────」

 

 

 

オリヴィエがリュウマの一言を聞き取り、号令を飛ばしたその瞬間の事である。彼女の背後には既に…彼女(かれ)が居た。

 

 

 

「な…に…?」

 

()の力を持ち得ながら、()()()()()速度も目に追えぬか?」

 

 

 

目を瞑ったりなどしていない。決して目を離さず、常にリュウマの動きの全てに注視していたはずだ。だというのに、これは一体どういう事だ。…速い。余りにも速すぎた。目に追えるか追えないかの話では無く、気が付いたらオリヴィエの…それもリュウマの純黒の力すらも手に入れているオリヴィエの背後を、悠々とした佇まいで取っていたのだ。

 

来る。そう思った次の瞬間。オリヴィエの身体は既に、抜き放たれた天之熾慧國(あまのしえくに)によって斬り裂かれ、その身体を24の肉の塊に分割されていた。

目にも留まらぬ早業。あのオリヴィエであっても見切ることの出来ない超速度によって斬り刻まれ、当のリュウマは早速とばかりに、その場から消えていた。

 

オリヴィエの身体は不老不死故に直ぐに元には戻った。だが、斬られるまで全く反応が出来なかった。純白と純黒。その相反する最強の力の両方をその身に宿しながら、魔法も使っていないリュウマの動きに付いていけなかったのだ。

 

戦場は緊迫した静けさを産んだ。オリヴィエが今やられたのは見ていたから解る。だからこそ解らない。どうやって唯純粋な人の身で、それ程の事を起こせるというのか。そして、そんなリュウマは一体どこへ行ってしまったのか。

警戒を怠る事無く、信頼しあう仲間達と背中合わせになり、互いの背中を預け合う。さあ何処だ。何処から来る。何処に現れる。そう思いながら待つこときっかり10秒後…バルガスが動いた。

 

目覚めたばかりであるバルガスとクレアは、今先程まで竜王祭で決死の戦いをしていたのと同じ。そんな彼等の現状は、最も意識的ピークを迎えているのだろう。それ故に、研ぎ澄まされた五感をも越える第六感が全力で稼動し、勘と第六感のみで身体を無意識下に最適の動きを導き出していた。

 

 

 

「何だ。()の動きが見えていたのか」

 

「……勘だ」

 

「ほう…?……ふふ。然様か」

 

 

 

何も無い所へ、バルガスは水平に薙ぎ払うようにハンマーを揮った。そして響き渡る甲高い金属音。リュウマの持つ天之熾慧國と、バルガスの持つ赫神羅巌槌がぶつかり合い火花を散らしたのだ。

バルガスは受け止められたことに冷や汗を流す思いでありながら、赫神羅巌槌とかち合わせても折れぬどころか、罅すら入らない天之熾慧國の強度に、内心舌を巻いていた。

 

総重量10トンにも及ぶ、この世界で最も重い武器である超重量武器の赫神羅巌槌は、バルガスの専用武器であると同時に破壊不可能の謎の物質で形成されている武器だ。それ故に叩き付ければ万物を粉微塵に破壊する。その筈だというのに、リュウマの天之熾慧國は曲がることすら無く耐えていたのだ。いや、耐えるというのは語弊があった。耐えてなどいない。武器として当然の強度を発揮しただけ。

 

赫神羅巌槌と、其れを揮うバルガスの膂力でも破壊されないとなると、現状の地上では天之熾慧國を折ることが出来るものは皆無を意味する。破壊王という呼び名で通っていたバルガスに壊せない物は、盟友の3人の持つ専用武器以外に存在しなかったのだ。だが、今ここに新たな武器が破壊不可能物質として立ちはだかったのだった。

 

 

 

「──────『火竜の鉄拳』ッ!!」

 

「おっと……ふふ」

 

 

 

バルガスの巨体に姿を眩ませながら接近していたナツが、リュウマの事を狙うが、軽いバックステップで余裕を持って回避し、避けたところで魔力に者を言わせる、拳に灯した炎を爆発的に放出し、回避したリュウマを第二撃として狙うが、そんなことはお見通しと言わんばかりに宙へと跳んだ。しかし、幾ら避けるためとは言え、宙へ避けるのは愚策とも言えた。魔法も使えなければ魔力も無く、空を飛べないリュウマが宙へ回避するということは、どうぞ攻撃してくれと言っているようなものであった。そしてそれは、オリヴィエ達とて正しくそう認識していた。

 

クレアが扇子を揮った。そして捲き起こる竜巻がリュウマへと迫り襲い掛かる。しかし、リュウマの微笑()みは消えていない。それすらも、知っていたと言わんばかりの表情だ。

 

リュウマが身体の向きを変えた。伸びゆく竜巻に頭から立ち向かうように体勢を変え、リュウマはそのまま身体を回転すると竜巻の中へと身体を滑り込ませた。竜巻が回転して発生している所為もあって存在する、台風などに見られる目と呼ばれる空間。その空間の中に入り込み、竜巻の発生源であるクレアの元へと向かう。しかし、クレアは慌てなかった。

 

 

 

「今だッ!!やれッ!!」

 

「うっし…!任せろ!!」

 

「あぁ!!」

 

 

 

氷の造形魔導士であるグレイとリオンが、加減をしていた故に凍らせることの出来るクレアの竜巻を凍らせた。中に居たリュウマも同様に氷付けにされ、その動きを封じられる。するとそこへ、アルヴァの号令の元、各々が持つ最高火力の魔法を、凍てついた竜巻に叩き込んだ。

 

電撃が奔り、雷が落ち、赤雷が轟き、爆炎が発生し、光を生み出し、氷が隆起する。統一性の無い魔法が雨霰のように降り注いではリュウマの元へと殺到し、巨大な大爆発を産んだ。これは全力の攻撃だ。オリヴィエとて地形を変えない程度とは言え、それなりの魔力を籠めて攻撃に出ていた。魔力も無く魔法も無い、謂わば一般人にと置き換えられる彼女(かれ)に向けて、過剰とも取れる魔法を振らせた。

 

しかし、それでも届かなかったようだ。リュウマの動きをある程度までは予測する事が可能なマリアが叫び、オリヴィエは瞬時に歌のメンバー含む全員を囲えるだけの防御魔法を展開した。どうなったと目を凝らした次の瞬間、オリヴィエの防御魔法のバリアの向こうで覆う爆発によって立ち上っていた砂煙の向こうから、銀に輝く一条の線が放たれた。

 

砂煙の向こうから、姿を眩ませつつ斬撃を放っている。だが、生憎とオリヴィエの展開している防御魔法は、『白亜の境界(クレタァナ)』と呼ばれる防御魔法であり、これはリュウマの『廻り守護せん擬似太陽銀河(シュステーマ・ソラーレ・ギャラクシア)』に含まれる『流星群(ディアトル・アステラス)』という、文字通り魔力を籠めて大質量を保たせた天空からの流星群をも、罅一つ入れること無く防いで見せた超堅硬の魔法である。

 

斬撃程度ならば恐るるに足らず。況してや今のオリヴィエはリュウマの力を手にしているが故に、強度に更なる磨きが掛かっていた。しかし、そこで手にしているリュウマの専用武器、黑神世斬黎から警告のようなものが直接流れてくる。言葉では無く、気配とも言うべきもののそれを、言葉として表すと……危険。故に即刻退避。

 

何故とも思った。しかし、あのリュウマが相手だ。壁の一つや二つ、軽く越えてきて疑問は無い。それを1番知っているのは、何を隠そう自分自身ではないか。そう思ったオリヴィエの思いと重なり、マリアの空へ跳ぶか伏せてという鋭い声が掛かるのは同時だった。そして次の瞬間…斬撃を放っている状況から一転し、斬撃を放っていたリュウマ本人が、天之熾慧國の抜き身にして構えながら突如現れたのだ。

 

 

 

「絶剣技──────『峯銀(みねがね)』」

 

 

 

現れたリュウマは、堅硬の魔力防壁へと、天之熾慧國の刃では無く、敢えて峰の部分で水平から叩き付けるように打ち付けた。すると、オリヴィエの展開した魔力防壁に罅が入り、リュウマが息を吸い込んで更に力を籠めると、力の向きと同じように衝撃が奔り、魔力防壁が上部分とと下部分へと真っ二つに叩き割られたのだった。

 

マリアの号令によって伏せるか、急いでその場で跳ぶかの選択をしていたので、護られていた者達に傷を負った者は、幸いなことに居なかった。しかし、問題なのは魔力も魔法も無しに、オリヴィエの防御魔法を軽々と叩き割った事である。どうやって割ったのか。物理的防御力は折り紙付きだ。何せリュウマの魔法をも耐える超強度を持っているのだから。だが結果は全壊。到底人に出来る域を越えている。

 

そも、リュウマはどうやってオリヴィエの魔法を割ったのか。それは刀を魔力防壁へ叩き付けた瞬間に答がある。

リュウマは魔力防壁に天之熾慧國の峰の部分を叩き付ける瞬間、全身の力を脱力していたところから一転し、魔力防壁と接している峰部分だけに、地面が陥没するほどの踏み込みから得た力を全身を通して伝達し、インパクトの瞬間にのみ、力そのものを叩き付けたのだ。

 

気が付き、不思議に思った者も居るはず。魔力も魔法も使えず、男性時よりも格段に筋力が劣る今のリュウマが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。バルガスが勘に頼ってリュウマに攻撃をし、リュウマはその攻撃が自身に届くのを瞬時に把握した。そしてリュウマはバルガスの攻撃を、オリヴィエの魔力防壁を破った方法と同じ手段を用いて受け止めたのだ。

 

何も常に超常的膂力を持っていなければならない訳では無い。攻撃力及び防御に徹するその瞬間にのみ、最大の力を発揮すれば良いのだから。

巨大な大陸を足踏み一つでかち割る膂力を持つ、男性時のリュウマは、そんな芸等せずとも軽く受け止めることが出来る。謂わばこれは、女性時であるからこそ、使用可能とも言える技であるのだ。

 

 

 

「クッ……このまま防戦では流れを掴めなくなる…!一度流れを取り戻すぞッ!!──────バルガス!クレア!」

 

「……うむ」

 

「おうよ!!」

 

 

 

戦況の流れを完全にリュウマに持っていかれている。このままでは、一方的に攻撃されるだけの立場に立たされると思ったオリヴィエが突破口を作ることにした。

名を呼ぶだけで求めていることを察したバルガスとクレアは、直ぐさま準備に取り掛かった。無論、そんなことはリュウマにすら筒抜けである。そして、そんな何かをしようとしている者を放っておくほど、リュウマは優しくは無い。

 

腰を落とし、走り出そうとするリュウマ。だが、そんな彼女(かれ)の元へ、黒い影が二つ差し迫る。オリヴィエが何かをするための準備に入ったと解るや否や、エルザとカグラがやって来たのだ。エルザは既に胸をサラシで巻き、下には袴を履いており、手には妖刀・紅桜を換装していた。カグラは変わらずリュウマから下賜されし震刀・揺兼平を持っていた。両者は互いにギルドに於ける最強の女魔導士であると共に、刀を扱う者達である。そんな彼女達が向かって来る姿を見たリュウマは、走り込む姿から一転、構えを解いて不敵な笑みを浮かべた。

 

絶世の美女の姿であるリュウマの笑みを見て、エルザとカグラはつい心臓を早鐘打たせてしまうものの、直ぐさま持ち直して真っ直ぐリュウマの元へと駆けていった。

 

 

 

「オリヴィエの邪魔はさせんッ!!」

 

「師匠には申し訳ありませんが…覚悟ッ!!」

 

「フハハッ!良い。良いぞ。久方ぶりに剣の腕を見てやろう」

 

 

 

エルザが真っ正面から。カグラは震刀・揺兼平に魔力を流し込み、その揺れの衝撃を利用した走破により、目にも留まらぬ速度で以てリュウマの背後へと回り込んだ。両者の息の合った斬り込みは、全くの同時にリュウマへと、まるで吸い寄せられるように振り下ろされた。肝心のリュウマと言えば、何時までも悠然とした佇まいでその場に立ち尽くしているだけ。

 

入った。そう確信させるほどの距離にまで刀が迫った途端。リュウマの身体が視界の中でブレ、気付いた時には納刀していた天之熾慧國を引き抜き、エルザの持つ紅桜の刃を鋒で受け止め、カグラの揺兼平の刃は柄頭でもって受け止めていたのだ。

 

 

 

「おい。驚いて固まっている余暇が有るのか?」

 

「──────ッ!!しまっ…!」

 

「ぐっ…!?」

 

 

 

エルザとカグラの攻撃に挟まれて固定されている天之熾慧國を手放し、手を地面に付いて倒立した。そして直ぐに足を開いてぐるりと回転し、瞠目して驚いているエルザとカグラの横面を蹴り飛ばしたのだった。互いに反対方向へと吹き飛んで行ったエルザとカグラによって、支えを無くして落ちる天之熾慧國を、鞘を手にして待ち構え、そのまま鞘の中へと納めて納刀した。

 

かちりという音が鳴って納刀した後、リュウマは転がってから体勢を立て直し、こちらへ向かってくるエルザとカグラを見、脳振盪の一つでも起こさせるつもりで蹴りを入れたのに、もう向かってくるのかと、面白そうに笑った。

 

変な小細工は効かない。それは長年仲間をやっていたからこそ知っており、弟子入りしたからこそ手解きされた為、使う手の内など知られていて当然だと思った二人。そんな二人の出た手とは、真っ正面からの斬り合いであった。二人並んで同時にリュウマへと斬り付ける。振り下ろしの唐竹斬りをエルザが、斜め下斜め上への切り上げである逆袈裟はカグラが行った。

 

だが、リュウマはエルザの唐竹斬りを天之熾慧國で防ぎ、カグラの逆袈裟は、届く前よりも先、抜き放つ瞬間に柄頭へと蹴りを入れて押さえ、抜かせること無く防いで見せた。

防がれた。又も同時に防がれてしまった。しかし、そんなことは百も承知だったはず。エルザとカグラは、驚くよりも先に次の一手へと身体を動かしていた。

 

足で押さえられている刀を一度引いて外し、再度逆袈裟に斬り込んだ。カグラの斬り込みを避けるために身体を屈め、エルザの攻撃を防ぐ為に構えていた天之熾慧國も引いた。それ故に自由になったエルザは、カグラの攻撃の後に続くように横から回り込むように斬り込んだ。

 

カグラの逆袈裟を屈んで避けた後、そこを狙って斬り込むエルザの斬撃を、天之熾慧國を持っていない左手を地面に付いて更に体を捻りあげる。身体の柔軟性が男性時よりも格段に高くなったリュウマは、男性時には取れなかった無理な体勢を取ることが出来るようになっている。故にエルザの攻撃をも避けること叶い、躱した時に勢い付いた遠心力を載せたムーンサルトキックをカグラの顎へと叩き込んでかち上げた。

 

顎を蹴り上げられて脳が揺れ、大きな隙を曝してしまっているカグラに、何時の間にか納刀していた天之熾慧國の柄を掴んで首を狙った。そこで、振り下ろし終わっていたエルザが紅桜を水平に構えた後、後方へと溜を作るために引き、今まさにカグラの頭を刈り取ろうとしているリュウマの顔面目掛けて突きを放った。

 

一切容赦の無い太刀筋。リュウマは横目で迫り来る紅桜の鋒を見詰め、眼球を穿つ1センチ手前で頭を傾けて躱し、そこで身体の向きを変えてエルザの目前にまで躍り出た。近い。危険だと後方へ下がろうとしたエルザの後退る右足の踵を、リュウマがエルザの股の間に右足を滑り込ませ、右足の甲で引っ掛けて体勢を崩させた。

 

後ろへと倒れようとしているエルザ。そんなエルザが紅桜を持っている右腕が伸ばしきっているところで、右腕の上腕の裏を首で押さえ付け、左腕の手首を右手で掴んで拘束し、後ろへと倒れそうになっている身体は右腕を腰から抱き締めるように回した。

身動きが取れない。正面から抱き締め合うような体勢の所為で、両者が持つ豊満な胸が潰し合って形を変え、エルザは余りにも柔らかいリュウマの胸の感触に、女性でありながらドキリとした。

 

紅桜を持つ右腕はリュウマの頭の所為で動かせず、左腕は拘束され、足は後ろへ倒れる所を抱き締められて固定されている為踏み込めない。完全に完封されていた。

 

 

 

「ふふ。動けぬであろう?嗚呼それと、カグラはあと30秒は起き上がれはせんぞ」

 

「…っ…くっ…!ふっ…!!…っ……」

 

「そう藻掻くな。()が手を離せば、貴様は唯支えを無くして転がるだけだ」

 

「…っ…!だからと言って何もしない私では無い…!」

 

「であろうな…それより──────」

 

「なん…だ…──────ひぅっ…!?」

 

 

 

ニッコリとした笑みを浮かべたリュウマは、顔を更に近付けていくと、エルザの頬へ自分の頬を押し付けて頬ずりをし、その後にエルザの頬をべろりと舐めあげた。ぬるりとした感覚が頬から奔り、リュウマに頬を思い切り舐められたのだと気が付くのに、そう時間は必要では無かった。

 

気の抜けたような声が勝手に漏れ、それを間近で想い人に聞かれた事に羞恥で顔を赤くする。そんな反応を示すエルザに気をよくしたのか、微笑みを浮かべたまま、今度は舐めていない違う箇所の頬をもう一度舐めた。

 

 

 

「ふっ…!んぅ……!」

 

「んっ…ふふ……塩味がする」

 

「そ、それは…!!」

 

「ふふ……美味いな」

 

「なっ…!?んぅっ……やめ……ぁ……」

 

 

 

味わうようにべろりと舐めた最初に比べ、二度目は確かめるようなソフトさで舐めあげた。そして三度目には、舌先だけで(くすぐ)るように頬を舐めながら動いていき、耳の下を通って首筋を通り、最後は剥き出しとなっている肩へと到達した。舌が通った所はリュウマの唾液によって、光る道筋を作り出していた。

 

リュウマはそのまま舌を引っ込めず、味を確認するように肩を舐めていた。生温かくぬるりとした感触にビクリと身体を震わせ、脚が股を締めてしまい、間にあるリュウマの脚を挟み込んだ。身体を動かす事が出来ず、されるがままになっているエルザは、その内熱い吐息を溢し、目の端に涙を溜めていた。

 

 

 

「ふふ……──────()()()()()()

 

「─────ッ!?あ゙ッ…あぁああぁあぁぁあぁッ!!!!」

 

 

 

ぞぶり…。そんな音が鳴った気がした。それ程の力で()()()()()()()()。それも、歯形が残るだとか、内出血するだとか、そんな程度のものではない。リュウマの鋭い歯がエルザの肩の肉に突き刺さり、大量の血を流していた。エルザの胸に巻かれるサラシに、肩から流れる血が染み込み赤黒い布へと変貌させた。

 

手首を掴まれている左腕に力がこもり、拘束から抜け出そうとするが許されず、その間にもエルザの肩の肉に、リュウマの歯が更に食い込み、更なる血がこぽりと噴き出る。眼だけで笑みを浮かべたリュウマは、勿体ないとばかりに、じゅるりと音を立てながらエルザの血を飲み込み、ごくりと喉を鳴らして嚥下した。

 

肩の肉を後少しで食い千切られそうになっているエルザは、身体を震わせて痛みに苛まれながら、リュウマに噛み付かれてからというもの、ある恐怖状態に陥っていた。それは…全身が底の無い深淵のような場所を、只管落下しているかのような感覚であった。これ以上続けられれば、戻ることの出来ない場所へ連れて行かれそうな、引き摺り込まれるような感覚に陥っていたのだった。

 

するとそこで、リュウマはエルザの肩から口を離し、その場から消えた。そしてその数瞬後、リュウマが居たところに刀が軌跡を描いて通り過ぎていった。

 

 

 

「大丈夫か?エルザ」

 

「すまないカグラ…危なく肩の肉を全て持って行かれるところだった…」

 

 

 

エルザを救ったのは、脳振盪から復活したカグラだったのだ。揺れる視界が定まり、眼に映ったのは、エルザの肩に噛み付いているリュウマの姿だったのだ。これ以上は拙いと瞬間的に直感したカグラは、エルザからリュウマを引き剥がすために背後から斬り付けた。残念なことに、復活したカグラのことは事前に察知しており、タイミングを見計らって避けられた。

 

肩を手で押さえて止血を試みているエルザに、早くシェリアの元へ行って回復して貰えと、カグラが声を掛けたと同時に、後方からオリヴィエの戻ってこいという言葉が掛かった。それを聞いて準備が整ったのだと理解した両者は、そこから離脱して仲間達の元へと戻っていった。エルザはシェリアとウェンディに心配されながらも、肩の治療を受けて傷口を治して貰った。

 

 

 

「女に噛み付くと女の敵だと言われてしまうぞ?」

 

「フハハッ!抜かせ。()にその類の糾弾が無意味であることは知っておろう」

 

「そう言うと思ったぞ」

 

「ふふ……して?準備は整ったのか?」

 

「あぁ。お陰様でな……──────バルガスッ!!」

 

 

 

オリヴィエの傍に立っていたバルガスが腰を落として武器を構えた。そしてそれをオリヴィエに向かって全力で揮い、オリヴィエは迫り来るバルガスのハンマーの打面に足を付け、振り切る瞬間に翼の飛翔までも使った跳躍を行った。バルガスの膂力に加えて自身も全力で跳躍し、爆発的な推進力を魔力で生み出し、音を置き去りにする程の速度を叩き出した。

 

しかし、それだけでは終わらなかった。進む先に居るのはリュウマだけでは無い。その中間にクレアが居たのだ。件のクレアは風を操り、リュウマに向けて風の結界を円形に創り出していたのだ。筒のようにも見えるそれに、オリヴィエが入った途端、風の結界は集束し、オリヴィエを弾丸のように弾き出して第二加速させたのだった。少しでも風の結界に綻びが有れば、進む方向に支障を来し、威力が弱ければ加速そのものが出来ず、タイミングを誤ればオリヴィエを巻き込んでしまう。実に繊細なコントロールが必要な技術であった。

 

リュウマが驚愕する程の速度を叩き出したオリヴィエは、一直線にリュウマの元へと飛び抜けて行く。音よりも速い雷すらも置いてけぼりにする程の速度の中で、右手に皓神琞笼紉を、左手に黑神世斬黎を携え構えたオリヴィエを迎えるべく、リュウマは一度だけゆっくりと瞬きをし、開いて縦長に切れた瞳孔を更に窄めて目を凝らした。しかし、それこそがオリヴィエの狙いだった。

 

 

 

「──────ッ!?眼が……ッ!!」

 

「この速度になれば、流石に目を凝らすと思っていたぞ!!」

 

 

 

右手に持つ皓神琞笼紉が、直視すれば網膜を灼きかねない程の眩い光を発したのだ。オリヴィエの動きを見極めるために注視していたことが災いし、目眩ましをほぼ直視してしまったリュウマは目を閉じてしまい、余りの眩しさに目を開けられなかった。しかし、オリヴィエは止まること無く向かっている。こうしている間にも、あと1秒も掛からない内に無防備となったリュウマを斬り付けるだろう。

 

だが、リュウマを甘く見てはいけない。たかだか眼を封じられただけでやられる訳が無いのだ。眼が使えないならば、その他を総動員すれば良いだけの事である。

眼は最早諦め、次に頼るのは長年の年月の中で鍛えに鍛えられた魔力感知能力と気配察知能力。経験則と類い稀なる頭脳から来る未来予知にも至る予測。超速度故に発生する風切り音を聴き取る聴覚。そして開眼している第六感である。

 

リュウマの頭脳の中でシュミレートされる。何億通り有るのか解らない、オリヴィエが目の見えていないリュウマをどのように攻撃してくるかの攻撃パターン。それら全てを一つずつ、且つ取る行動が高い確率のものから取捨選択していく。前か後ろか。左右のどちらか。はたまた上からか。それら全てをオリヴィエの性格から答を導き出していく。そして果てに、出て来たのは真っ正面の襲撃。それが確実だ。何故ならば、体内にリュウマの純黒なる魔力までも内包している所為もあり、搦め手が使えるほど慣れていない筈だからである。

 

決定付けるのは、オリヴィエがリュウマの魔力を取り込んでから今までの行動。リュウマの純黒なる魔力を取り込んだ、黒白を司るオリヴィエならば、今のリュウマを討ち取るなど容易も容易な筈。なのにそれを何故しないのか。それは単純明快。力が強大すぎて制御に苦難しているからである。若い頃とはいえ、リュウマですら封印という形で日常生活を送っていた程だ。つい数分前に手に入れたばかりのオリヴィエが十全に使い熟せる筈が無いのだ。故にリュウマは、真っ正面からと予測したのだ。

 

 

 

「──────『戦女神(いくさめがみ)諸相(しょそう)繊華(せんか)瓈剣(れいけん)』」

 

『─────ッ!?あれは私の…!?』

 

 

 

周りが全て遅緩して見える超極限の集中状態の中で、リュウマは嘗て実の母である戦女神、マリアが使っていた至高天とは別の業を模倣した。天之熾慧國の柄を両手で握り込み、鋒は地面に付けるように下ろして脱力する。発した光を抑えた皓神琞笼紉と黑神世斬黎を構えたオリヴィエは、そんなリュウマの姿を見て瞠目した。

 

武器を持っている筈のリュウマの手に、武器が見られなかったのだ。今まで持っていた。確かに持っていた。なのに何故、瞬きもしていない状態で天之熾慧國だけが掻き消えるのか。驚愕する事ではあるが、最早止まることは出来ない。両者は互いに数メートルの距離だ。武器を構えた両者は遅緩する世界で刻一刻と近付き合い、そして──────

 

 

 

「──────『不視(みせず)の太刀』」

 

「………─────────」

 

 

 

相手の無意識下での視覚を探り当てることで、意図的に手に持つ武器を不可視に見せる絶技によって、刀身を見せず間合いを欺く。そしてリュウマは手から伝わる感触により、オリヴィエの事を両の腕諸共胴体を斬り裂いたことを確信させた。しかし、それよりも腑に落ちないのが、エルザとカグラを向かわせてまで時間稼ぎした割には、安易に準備が終わるような作戦だったということだった。

 

何かがおかしい。そんな思いが胸を燻った瞬間…頭の中でアルファが危険信号を発令したのだった。

 

 

 

《警告…マスターが先程斬り裂いたのはオリヴィエ・カイン・アルティウスの()()です》

 

「──────ッ!?何…!?ならば本体は…まさか……!!」

 

 

 

「気付くのが少し遅かったようだなッ!!」

 

「先程のは囮であったのか…!!」

 

 

 

リュウマがオリヴィエ自身が真っ正面から来るという事は確信していた。そしてそれは予想通りの結果であった。しかし、問題は()()()()()真っ正面から向かってくるかということであった。無論、シミュレーションの中には囮の作戦による場合も考えてはあった。だが、それならば己自身が直ぐさま気が付くという線から、確信から外れていたのだ。

 

完全に無防備となったリュウマのことを、魔力を絶って気配を消し、息を潜めて周りと同化することで存在自体を眩ませていたのだ。囮は跳んでいる最中に創造した、自分自身の肉体そのものとも言える完成度である影武者である。気が付くことが遅れたリュウマに、オリヴィエはもう既に目前。リュウマは急遽迎撃の為に、納刀してしまっていた天之熾慧國に手を伸ばして柄を握った。

 

 

 

──────迎撃をせねば…!……ッ!?拙いッ!眼が回復しきっていない…!!目眩ませはこの為か…!チッ…!オリヴィエの気配が察知出来ぬ…!肝心のオリヴィエは既に()の懐に居るはず…!だが…っ…間に合わな─────

 

 

 

「ここだァ───────────ッ!!!!」

 

「がはッ……!?」

 

 

 

オリヴィエが斬り付けるその瞬間。リュウマは迎撃に出るのでは間に合わないと瞬時に悟り、相殺から回避へと手を移した。しかしそれでも間に合わず、オリヴィエが揮った第一撃目である皓神琞笼紉は避けることが辛うじて出来たが、二撃目の黑神世斬黎の斬撃を避けきれなかった。避けられなかった黑神世斬黎が、リュウマの右脇腹を大きく斬り裂いた。

 

いくら女の身体になったからと言っても、肉体的防御力は翼人である以上、普通とは一線を画している。だが、知っての通り、黑神世斬黎は持ち前の能力を除くと、切れ味と強度に完全特化した専用武器。肉体的防御力が高いリュウマの肌を、抵抗も無しに斬り裂いたのだった。

 

 

 

「ぐッ……ゔっ…!深…く…斬られた…か…!アルファ、この出血量だと…どれ程保つ…?」

 

《内蔵には届いていないものの、深く斬り裂かれた為出血が止まりません。適切な処置を施せば再度、全力とは言えないものの戦闘続行は可能です。しかし、これまでの戦闘結果から適切な処置を施す時間を与えられる暇が無いと判断し、時間にして10分…激しい戦闘となると5分未満と推測致します》

 

「ならば…っ……先程飲んだエルザの血液から生命エネルギーを抽出し……くッ……()の自然治癒力に回せ…止血さえ出来ればそれで良い…っ」

 

《了解しました。自然治癒力を右脇腹を最優先事項として集中させます》

 

「うむ…っ……頼んだぞ…アルファ……がはッ!?」

 

 

 

アルファが脇腹に出来た深い裂傷の修復に取り掛かったと同時に、リュウマの身体に莫大な力が作用した。上から下へ。余りの重さに両手両膝を突いてしまう。手に付いた地面だけでなく、リュウマの周辺の地面までも、襲いかかる()()()()に負けて亀裂を作り、隕石が落ちた後の巨大なクレーターのように陥没させた。

 

計り知れない重さであった。腕を上げることが出来ないほどの超重力。そんな中で、どうにか顔を上げた先に居たのは、星霊を喚び出していたユキノと、手の平をこちらへ向けているカグラであった。そしてその背後にはウェンディが居り、ユキノとカグラに両手を向けていた。

 

 

 

「申し訳ありません…リュウマ様。しかし…どうかそこから動かないで下さいっ」

 

「重傷を負っている師匠には心苦しいですが…お許し下さい…!」

 

「ごめんなさい…リュウマさん…!」

 

「ゔ…ぐっ……!あ゙…ぁ゙……!!」

 

 

 

ウェンディが魔法で、ユキノの喚び出した天秤宮のライブラとカグラに、魔法の威力を向上させるサポートの魔法を施して魔法の出力を上げ、オリヴィエの強化を十全に受けた2人の重力魔法がリュウマに襲い掛かっていたのだ。そしてそんな重力は通常の重力の大凡1000倍にもなり、これは50㎏の人間の体重が50tにもなる超重力である。普通ならば自身の重さに耐えきれず、潰れて絶命するところではあるが、リュウマは辛うじて耐えていた。

 

女性時であるリュウマの体重は、歌の影響を加味して、何tもある男性時とは違って100㎏程度しか無い。普通の女性からしてみれば十分重たいのだが、内包する筋力と翼も含めるとその程度の重さになり、そうなれば単純計算で、今現在のリュウマの体重は大凡1000倍の100tあるということになる。普通では想像出来ないような負荷が掛かり、身動きすら取れないのだ。

 

そんな絶体絶命の中で負の連鎖は続き、超重力の所為で脇腹の塞ぎ始めていた傷口が大きく開いてしまい、傷口からごぽりと大量の血潮が溢れ落ち始めてしまった。一刻も早くここから脱しなければ、出血多量で動けなくなってしまう。焦る気持ちを抑えながら考えを巡らせていると、歌のメンバーをシェリアとエルザとミラに任せて、ルーシィとカナが前へと出て来たのだ。

 

 

 

「いくよルーシィ!!」

 

「うん!!」

 

 

 

「……ッ……ま……さ…か………!!」

 

 

 

「集え!!妖精に導かれし光の川よ!!照らせ!!邪なる牙を滅する為に──────」

 

「天を測り天を開きあまねく全ての星々…その輝きをもって我に姿を示せ…テトラビブロスよ…我は星々の支配者…アスペクトは完全なり…荒ぶる門を開放せよ──────」

 

 

 

「超……魔…法……の…完……全っ……詠…唱……ッ!!」

 

 

──────拙いッ!!今この瞬間受ければ、確実に()は致命的なダメージを受ける事になる…!それは…避けなければ…!だが…糞ッ!!身動きが…!取れぬ…!!!!

 

 

 

詠唱をカットすることで威力を下げる代わりに、即刻の使用を可能にすることが出来るが、ルーシィとカナは超魔法の完全詠唱を行い、オリヴィエの強化も載った完全なる超魔法を放とうとしているのだ。星々の一撃と邪を滅する聖なる光が、今のリュウマに直撃などすれば助からない。男性時ならば耐えきれたであろうが、重傷を負っている今では分が悪すぎた。

 

どうにかしなければと藻掻こうとするも、そこへ更に超重力が加算された。地面が尚のこと陥没する。意識すらも落とされそうになるこの力の正体は、ルーシィやカナ達の元へと戻ってきたオリヴィエの魔法の所為であった。身体中からみしりという骨が軋みあげて悲鳴を上げる。元から動けない時に、更に追い打ちを受けてしまったのだ。

 

アルファの、これ以上は生死に関わる危険域だという警報が出されるがしかし、今のリュウマには如何することも出来なかった。そうしている内に、ルーシィとカナの超魔法の準備が整ってしまったのだった。

 

 

 

「──────『妖精の輝き(フェアリーグリッター)』ッ!!!!」

 

「全天88星…光る──────『ウラノ・メトリア』ッ!!!!」

 

 

 

全天88星と、天から墜ちて囲う聖なる光の輪が収束してリュウマを囲い込み、辺り一帯を吹き飛ばしかねない程の大爆発を起こした。待機していた者達は、飛んでくる石礫から顔を護るために腕で守り、弾き飛ばされそうになる衝撃に耐えていた。魔法も魔力も無いままで、この魔法を自分が受ければ、先ず間違いなく死ぬだろうと確信させられる破壊力を見せた。

 

砂煙と爆煙が朦々と立ち上る視界の中で、二つの超魔法が完全に当たったことを確信させながら、頭の片隅ではこれで死んでしまっていたらどうしようという考えがあった。しかし……それは杞憂に変わる。

風に煽られて揺れるように立ち上る砂塵の中から、人型のシルエットが浮かび上がったのだ。見えた者は瞠目し驚愕する。アレを受けきったのかと。唯の人の身でありながらと。そして人型のシルエット…リュウマは砂塵の中から出て来たのだった。先程と然して変わらない姿で。

 

 

 

「はぁ…ッ…はぁ…ッ…!ふ、ふふ……危なかったぞ…?誠に死ぬところで…はぁ…ッ…あった」

 

「貴方……アレを…全て凌いだのか…?」

 

「ふふ─────()()()()()()()()()()()?………ごぼ…っ」

 

 

 

リュウマは決して少なくはない量の血を、ごぼりと口から吐き出した。全てを凌いだ訳ではない。そも、あの超魔法を全て凌ぐことは諦めていた。だからこそ、彼女(かれ)は可能な限りの衝撃を防ぐことに専念したのだ。

 

魔法が収束して爆発する瞬間に何があったのか。その全貌を明かすと、超魔法が大爆発を()()()()()()()()、身体を地面に縫い付けていた重力魔法に、ほんの少しでありながら一瞬の綻びが生じた。その瞬間を使って天之熾慧國を手に取り、周囲の膨大な魔力を一回転しながら斬り裂き、真空空間を生み出し、衝撃に備えたのだ。しかし、凌いだのは衝撃だけであり、飛び散る魔力の波動はリュウマの身体に直撃していた。

 

ばちゃりと大量の血潮を脇腹から流して足元を赤黒く染め上げながら、一歩…また一歩とゆっくり、しかし着実に迫ってくる。どれだけ強大な魔法や超魔法を放っても、囲うように攻め込んでも、その悉くを躱し、逸らし、打ち破って向かってくるのだ。逃げるという選択肢が元から無い。殺すか、殺されるか。その二択によって彼女(かれ)の戦いは構成されている。

 

 

 

「……ふぅ……私も()()()()()()()()()()

 

 

 

オリヴィエが覚悟を決めたように、そう呟いた。傍に居たバルガスとクレアがギョッとしたような表情をした後、本当にやるのかという意味を込めた視線を送り、それをオリヴィエは首を縦に振ることで肯定した。本来の奥の手ならば知っている。だが、それは本来オリヴィエだけの力のみで発揮した場合のものだ。今のオリヴィエはリュウマの力をものにしている。率直に言って、どれ程の規模で発動するのか解らないのだ。

 

しかし、もうやると決めた。リュウマはもう満身創痍となっている。油断している訳でも慢心している訳でも無い。これで最後だ。終わらせるのだ。この戦いに終止符を打つために、最後の手を打つのだ。

 

 

 

「いいか貴公等ッ!!私は最後の切り札を切る為にも時間が必要だッ!私も()()()()()()()()()()直ぐに破られるだろう!故に!!貴公等は決死の覚悟で時間を稼げッ!!」

 

 

「「「──────おうッ!!」」」

 

 

 

「ふふ…フフ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!ハーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!さぁ…()が征くぞォッ!!!!!決死の覚悟で臨むが良いッ!!」

 

 

 

「私は神を(けな)し…否定し…愚弄し…(もてあそ)び…(はずかし)め…殺す者。立ち上がれ…私によって(くだ)され、死せし傀儡(神々)共よ。我が手となり脚となり…私に仇なす存在を滅せよ」

 

 

 

オリヴィエがリュウマの く ろ の せ か い を展開した時のように皓神琞笼紉を水平に構えて浮遊させ、皓神琞笼紉が純白の光を閃光のように発した。辺りが光に呑まれ、視界を塗り潰した。そして数瞬後に光は朧気に消えていき、視界を確保出来るようになった。ナツやエルザ達は何が起きたのか解らないというような顔をしている。しかし、対峙しているリュウマは…まるで遙か高き山頂を眺めるが如く、首を上に向けて()()()見ていた。その縦長に切れた黄金の瞳を…見開かせながら。

 

何を見ているのかと、ナツ達は後ろへ顔を向けて振り向いた。そして見た。その巨大な巨漢を。其処いらの山よりも大きく、壮大で、尊ぶべき存在…神である。それも一体だけではない。横に後ろに、列を為すように現れた神は全てで25体。圧巻…なんて言葉では表せない。圧倒的な存在が其処には居たのだ。

 

 

 

「ふ、フハハッ!フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!そうか…!そういうことだったのかッ!オリヴィエ!貴様の神殺しの力は…それすらも可能とするのかッ!!素晴らしいッ!実に素晴らしいッ!!誠に見事であるッ!!」

 

 

 

「何……だ…?ありゃぁ……?」

 

「あたし達が見たヤクマ十八闘神よりも大きい…!」

 

「貴公等が見たヤクマ十八闘神は偽物であり、そんな偽物と比べるまでも無い力をこの傀儡(神々)共は持っているぞ」

 

「え、偽物…?」

 

「然り。私は()()()()()()()()()()()()()()()()()。神の力が完全に無効化される故に、私が神に敗する道理は存在しない。私こそが最強の神殺しなのだ。そして、私が殺した神はストックされてゆき、任意の時に召喚出来る」

 

「おまっ…こんなのオレ達ですら聞いた事ねぇぞ!?」

 

「……知らなかった」

 

「リュウマにもお前達にも訊かれなかったからな」

 

「そういう問題か!?」

 

『いやぁ…私もこんな光景初めて見たな…』

 

『これが神なのね。案外弱そうね』

 

『神に対してそう言えるのはお前かリュウマ、その盟友達位だぞ…?』

 

 

 

オリヴィエの、神殺しの真の能力とは、殺した神をストックすることで召喚可能な傀儡とし、操り、命令することが出来る。尚、この命令は絶対であり、既に殺されている事から、オリヴィエに対して叛逆することは有り得ない。そして、それだけでは無く、ストックした神の力を己自身に纏わせる事により、文字通りその神が持つ力…権能を全て扱うことが出来る。

 

但し、制約として、召喚した神を手元に戻すことは出来ても、召喚してから何者かにその神を殺されてしまった場合、殺された神は消滅して手元から消える。自身に纏わせる事も然りで、一度神の力を纏ってしまうと、その一度限りで、解いた瞬間に消滅する。だが、一度限りと言えども絶大な力であり、神が使う権能とは、人が何かしらで『このような理屈でこういう事が出来る』というものを、『唯、そうする権利があるからそうするだけ』という力である。

つまり、クレアが大陸の表面を削るような大災害のハリケーンを魔法で創るとすると、その規模や持続時間、力の向きや力のベクトル等を定めなければならない。しかし権能となると、そういうハリケーンを無条件で創り出す事が出来るのだ。

 

オリヴィエは、400年前にヤクマ十八闘神の十八柱を全てその手で殺し、その他地上に顕現した神の七柱を殺して傀儡とした。今はその神達をリュウマにのみ嗾けさせているのである。無論のこと、たかだかこの程度の神で倒せるとは思っていない。だからこそ、この傀儡という名の神々を時間稼ぎのみに使ったのだった。

 

 

 

「フハハッ!!来いッ!!神の力を()に魅せよッ!!()はその悉くを下し──────殲滅してやろうッ!!」

 

 

 

25居る神々が、その巨体を動かしてリュウマの元へと殺到していった。高さは目測200メートル。見上げても顔すら確認するのは難しい程の背丈を持つ神が、たった1人の人間を殺そうと一様に動いていたのだ。

最初に動いたのは、ヤクマ十八闘神とは違う神であった。リュウマに向けて手を翳すと、早速と言わんばかりに権能を行使し、空から月のように巨大な隕石を墜とした。軽く人類滅亡の危機なのでは?と、思えるほどの規模の隕石が墜ち、ナツ達は顔を蒼白とさせた。

 

対するリュウマは美しい顔に浮かべるべきでは無い、とても獰猛な表情を浮かべると、天之熾慧國を巨大隕石に向かって全力で揮った。そして隕石は、一本の亀裂が入ると二つに一刀両断され、そこから亀裂が二本三本へと増えていき、何時しか隕石が目に見えない程の砂塵へと斬り刻まれ、大気圏突入と同時に空で燃え尽きたのだ。

 

隕石をあっという間に完全に消滅させたリュウマの元へ、三体の神で集まり、手にする武器を振り上げた後、リュウマ目掛けて一直線に振り下ろした。体調200メートルを誇る巨大が持つ武器は想像を絶し、大地に叩き付ければ割ることすら容易いようにすら感じさせる。だがリュウマは振り下ろされた神の武器に、下から掬い上げるように武器へと天之熾慧國の刃を叩き付け、そこから峰に向けて上段蹴りを放って追撃した。するとどうだろうか、三体の神の武器が腕ごと上へと弾かれ、後ろへと体勢を崩した。

 

膝を折って屈み込み、一度の跳躍で200メートル地点まで跳び上がった。巨漢である神々と同じ目線になったリュウマは、天之熾慧國を円を描いて一閃し、三体の神々の首を全くの同時に斬り落とした。

一なる魔法()によって飛ぶことすら出来ないリュウマは、翼が有りながら地上へ向かって自由落下を開始する。しかし、そこで首を斬り落とされて消滅する筈の神の身体から、大剣が突き破ってリュウマへと迫る。

 

消滅する前の神の身体を利用して死角を作り、宙に居て回避すら出来ないリュウマを狙ったのだ。大剣の刃を横断するだけで多大な時間を取られるだろう、それ程の大きさである大剣が、リュウマが居たところを通過した。一撃で消し飛んだと思われたその時、大剣からばきりという音が軋み鳴る。目を凝らして見てみれば、大剣の側面に天之熾慧國を突き刺して乗っていたのだ。

 

顔を上げたリュウマの瞳が、黄金に輝いて妖しい光を放つ。大剣を持った神は武器を無理矢理振ってリュウマを振り落とし、リュウマは宙へと投げ出されながら天之熾慧國を上から下へと振り下ろして巨大な斬撃を放った。防ごうと思ったのだろう、神は大剣を楯代わりに構えた。しかし、斬撃はだからどうしたと言わんばかりに、楯代わりに構えていた大剣ごと、神を真っ二つに斬り裂いたのだ。

 

 

 

「はぁ…流石と言う他無いな…。魔力も無しに神を、それも瞬く間に4柱も殺してしまった。傀儡であるとはいえ…力は以前のままなのだが……まぁいい。所詮は時間稼ぎの傀儡なのだ。……ふぅ……──────解禁…及び解号──────」

 

 

 

ヤクマ十八闘神の内の1柱が莫大な魔力を迸らせ、上空に真っ黒な積乱雲を発生させると、大気を震わせる大災害とも言える特大の稲妻を、地上へ降り立ったリュウマへ向けて墜とした。稲妻の速度は秒速150km。音の速度が秒速約340メートルなので、実質音よりも速い。雷鳴が鳴り響き、稲妻が墜ちた場所は真っ黒に焼け焦げて煙を上げていた。そしてそこには、リュウマの姿は無かった。

 

細胞一つ残さず消し飛んだか。一瞬とは言えその考えが浮かんだナツ達は震えるが、その考えは轟音と共に消えた。何の音だと思って見えたのは、稲妻を墜とした神が、空き缶を上から踏んで潰したように押し潰されて無惨な姿を曝していた。そして、そんな潰された神の頭があった位置に、リュウマは居た。天之熾慧國を持つ右手とは別の左腕を振り下ろしたような体勢を取っていたのだ。

 

稲妻が直撃する瞬間。忽然と姿を消すような速度で走り抜けたリュウマは、稲妻を墜とした神の身体を伝って頭頂に辿り着き、殴打した瞬間に発生する衝撃を対象の物体に数百倍に伝える秘技(わざ)を使い、見た目に反する超常的力の作用で神を殴打一つで潰したのだ。

 

又もや宙へと身体を投げ出しているリュウマであり、そこを4柱のヤクマ十八闘神が横一列に並び、手をリュウマへ翳して莫大な魔力で形成された魔法陣を創り出した。そして接ぎの瞬間に放たれる魔力の奔流。4つの光線状の魔力の波動が、リュウマに届く前に一つに重なり合い、超極太の光線となってリュウマの姿を完全に呑み込んだ。

 

既に何体もの神が殺されていることか、魔力の光線を放つ4柱のヤクマ十八闘神は、光線を止めること無く照射し続ける。しかし、次第に異変に気が付く。放たれている光線がリュウマが居た場所から二手に別れているのだ。どうなっている。そう疑問が浮かんだ瞬間、超極太の光線が斬撃によって二つに断たれた。呑み込まれた筈のリュウマは健在で有り、そのまま自由落下をして脚を地面に付けた途端姿を眩ました。

 

何処へ行ったと頭を振って探している4柱のヤクマ十八闘神の内、左端に居た神がリュウマの事を発見した。しかしその時には既に、天之熾慧國を水平に構えて腕を引いていた。咄嗟の判断だったのだろう。リュウマに向かって手を伸ばして捕まえようとしたところで、リュウマは天之熾慧國を神に向かって突いたのだ。

訪れる一点集中の衝撃波。それは横一列に並んでいたヤクマ十八闘神の4柱の胴体に、等しく巨大な大穴を穿ったのだった。リュウマを捕まえようと伸ばした手の平ごと、抵抗も無く当然のように貫いた。

 

神でありながら人間の傀儡となりながらも困惑する。瞬く間に4柱の神を殺した()()人間の存在に。そして見失うのだ、その人間の姿を。拙いと思ったのだろう。そして直感したのだろう。ヤクマ十八闘神の1柱が全身を覆い尽くす灼熱を身に纏った。これならば仕掛けられまい。摂氏一万度にも及ぶ灼熱の中、手を出せなかろう人間にそんな思いを抱いた。それが最後の思いだとも知らず。そして、そんな自身の身体が既に、縦から一刀両断されているとも知らずに。

 

触れられないならば触れなければ良い。摂氏一万度の壁すらも透過した斬撃を放ったリュウマは、その場から消えて違うヤクマ十八闘神の頭上に現れ、その場で跳んで真下へ向かって天之熾慧國を突き出した。それによって下に居たヤクマ十八闘神は頭頂から股まで、衝撃波で串刺しにした。神を串刺しにした衝撃波は止まらず、大地にすら突き刺さり砂塵を巻き上げる。

 

視界が悪くなる。お陰でリュウマの姿を完全に見失う。全長200メートルもある神をも覆い隠す砂塵の中で、銀の輝く光りの線が何度も繰り返し発せられる。次第に風が砂塵を彼方へと掃き飛ばした。砂塵が消えた事で姿を現したヤクマ十八闘神の八柱がその動きを止めており、次の瞬間には八柱の身体に軌跡を描き込まれていく。神は描かれた軌跡に従うように、その強靱な五体をサイコロのように分割されたのだ。

 

 

 

(すべ)てを(つつ)()()(かえ)せ──『皓神琞笼紉(しろかみせいろうじん)

 

 

(すべ)てを()()()(つぶ)せ──『黑神世斬黎(くろかみよぎり)

 

 

 

残り少なくなってしまった神々は、なりふり構わずと言った具合でリュウマの元へと向かって駆け出していった。巨体に相応しい質量の所為もあって、一歩踏み出す度に自身のように大地を揺らす。地響きが発生する地上で、リュウマは腰を落として駆け出す予備動作を終えると、その姿を途端に消してしまう。次に現れたのはヤクマ十八闘神とは違う神の足元だった。

 

目的の位置に辿り着いた途端に跳び上がり、神の膝を横合いから蹴りを入れた。ぼきりという耳障りの音が鳴り響き、神の右脚が出鱈目な方向へと曲がり折れていた。痛みと共に体勢を大きく崩し倒れていく。どうにか堪えようとして手を彷徨わせたところ、隣に居たヤクマ十八闘神の1柱を掴んでしまい、捲き込むように倒れてしまった。土煙を上げながら、その中をリュウマは駆け抜けており、倒れたヤクマ十八闘神の首目掛けて天之熾慧國を抜刀した。

 

豆腐を斬るようにヤクマ十八闘神の首を斬り落とし、膝を蹴り折られた神には、二体の神が転倒したことで隆起した円柱状の岩の根元を斬り飛ばし、脚を地面に叩き付けた。するとその踏み込みの衝撃で円柱状の岩が宙を舞い、その岩をリュウマは蹴り込んで神へと弾き飛ばした。岩の尖った尖端が神の右眼へと直撃して怯ませた。眼を押さえて叫んでいる神の身体を駆け上り、リュウマは眼を押さえている両の腕諸共、神の首を斬り飛ばした。

 

地面が大きく震動した。何事かと思えば、巨大なハンマーを持っているヤクマ十八闘神の最後の二柱が、左右から地表を削りながらリュウマ目掛けて揮っていたのだ。十中八九大地ごとリュウマを挟み込んで押し潰すつもりだった。そしてその時は直ぐに来てしまい、リュウマが動いていないのにも関わらず、二つのハンマーはリュウマを挟んで叩き込まれたのだ。衝撃で地面に大きな亀裂を生み出し、空に浮かんでいる積乱雲を弾き飛ばして快晴な空を作った。

 

完全に潰した。確かな手応えを感じたヤクマ十八闘神。しかし、ハンマーの断面はぶつかり合ってなどいなかったのだ。ハンマーとハンマーの間に1メートル数センチ程の小さな隙間が出来ていた。そこに居たのは…リュウマであった。特に何もせず、唯佇んでいるだけだ。ならばどのような手を使って凌いだというのか。それは、天之熾慧國が原因だったのだ。ハンマーとハンマーの間に、つっかえ棒のような役目を果たして耐えていたのだ。

 

巨大な五体を持つヤクマ十八闘神、そんな二体が一点に向かって全力で武器を揮ったのだ。力の大きさは計り知れないだろう。しかし、それすらも天之熾慧國は耐えきってしまった。ぎちりという音を立てている天之熾慧國だったが、ぱきりという音が響いた。流石に全ては耐えきれなかったかと思ったその時、()()()()()()()()()()()広がっていった。次第に範囲は広げていき、ヤクマ十八闘神の二柱が持っていたハンマーが全壊したのだ。

 

瞠目して驚愕する1柱の元へと、天之熾慧國を手に持ったリュウマは駆け抜け、何度もやっているように身体を伝って登っていく。しかし、登っていく過程で、ヤクマ十八闘神の身体に天之熾慧國の刃を付けて斬り裂きながら駆け上っているのだ。そして頭頂まで登り切った時、刃を付けていたところから線が入り、そのヤクマ十八闘神はその身体を斬り落とされていたのだ。

 

恐るべき切れ味を見せ付けたリュウマは、斬られて消えようとしている足元の神を踏み台に、ハンマーを持っていたもう一体のヤクマ十八闘神の元へと跳んだ。瞬間移動にも見える速度で、神の顔の目前まで躍り出ていた。天之熾慧國を持っていない左手を強く握り込み、引き絞って突き出す。神の顔の横面を殴る。唯それだけでヤクマ十八闘神の頭を跡形も無く消し飛ばした。

 

残りはたったの神二柱だけとなった。既にヤクマ十八闘神は全て殺されており、この時点でこの世界に伝えられるヤクマ十八闘神は完全消滅を果たしてしまっていた。さて、後は如何するかと顎を擦って考えていたリュウマの周囲をぶ厚い風の結界が包み込んだ。手で触れてみるとばちりと弾かれてしまい、相当に強力なものだと解る。そして次には、風に囲まれたリュウマを中心に、何処からとも無く現れた大津波が襲い掛かった。権能によって創り出された風の結界と大津波がリュウマを呑み込んでしまったのだ。

 

風が健在を示すように、押し寄せた莫大な水が渦を巻いている。窒息死をしてしまうか、風の結界によって体中を引き裂かれてしまう。そんな状況下で、渦を巻いてい渦潮の中央が爆発するように弾けたのだ。水飛沫が雨のように降り注ぎ、快晴の空に虹が架かった。水が弾き飛ばされた後、そこに居たのは当然リュウマであり、彼女(かれ)の髪も服も水に濡れ、服が肌に張り付いて完璧なプロポーションを曝して妖艶な姿を見せるも、傷を負った様子はない。言うなれば、オリヴィエに斬られた脇腹の傷のみである。

 

どうやって権能を破壊したのか解らないまま、残った二柱は無意識の内に後退っていた。髪が濡れて前にも垂れ下がっている所為で顔が窺えないが、その暗闇の奥に黄金に輝くものが二つ見えたのだ。

リュウマは水を滴らせる天之熾慧國を一閃。刀身に流れる水が神速の一閃によって滑り放たれ、水の斬撃が発生する。斬撃は残る二柱の事を忽ち真っ二つに斬り裂いたのだった。この時を以て、嗾けた25の神は全滅し、文字通り殲滅されてしまったのだった。

 

 

 

「──────『天輪・五芒星の剣(ペンタグラムソード)』ッ!!」

 

「──────限界突破(アンリミテッド)・『一斉乱舞』ッ!!」

 

「──────『雷炎竜の咆哮』ッ!!」

 

「──────『破邪顕正・絶天(ぜつてん)ッ!!』」

 

「──────『ホーリーノヴァ』ッ!!」

 

「──────『影竜の連雀閃(れんじゃくせん)』ッ!!」

 

「──────『ヤグド・リゴォラ』ッ!!」

 

「──────『ソウルイクスティンクターッ!!』」

 

 

 

「──────模倣…至高天・『鰯暮(いわしぐれ)』」

 

 

 

神を殲滅し終わったリュウマを待っていたのは、オリヴィエの前に立って時間稼ぎに買って出た者達であった。間髪入れずに襲い掛かる統一性の無い魔法の嵐。リュウマは冷静に天之熾慧國を抜き放ち、マリアの使っていた剣術を模倣して見せた。ぶつかり合う魔法と衝撃。だが、マリアの剣術は対多数を想定されて編み出された業である。つまり、それを扱うのがリュウマである以上、魔法であろうと意味は為さない。

 

数多くの魔法が重なり合って所狭しと迫っているところに、初撃同時九連撃から始まる五十と二の太刀が放たれる。魔法はリュウマの放った剣圧に負けて四方八方へと飛び散るように霧散し、ナツ達は霧散した魔法によってリュウマの姿を捉えた。しかし、直ぐにその姿は消える。来る。そう思った時、グレイの前には既にリュウマが居たのだ。

 

どこんという音と共に腹部へ奔る衝撃と痛み。鳩尾を抉り込むような角度で打ち込まれた拳に、腹部を押さえて蹲った。ハッとした時には遅く、歴戦の魔導士よりも遙かに優れた反射神経で反応したエルザには、左脇腹から肺がある位置へと、柄頭を使った打撃を打ち込んだ。砕け散る天輪の鎧。それでも余りある衝撃が体内を浸透して肺に打撃を与え、暫しの呼吸困難を起こした。

 

一気に実力者が倒された事により動揺が駆け抜ける。あっと思った時には、ローグの前に現れて殴打を腹に打ち込み、傍に居たスティングの横面に回し蹴りを放った。呼吸困難と、脳を揺さ振られたことで蹲り、その間にリュウマはミネルバの背後へと回っていた。気配で察知したミネルバは、無意識の内に最善の手を打ち、遠くにある石とリュウマの位置を交換したのだ。しかし可笑しい。確かに場所を交換して入れ替えた筈だ。その証拠に、その入れ替えた石は後ろで落ちた音が聞こえた。ならば何故、リュウマがミネルバの目と鼻の先に居るのか。

 

訳も分かっていない状態で胸部に掌底を打ち込まれ、強制的に肺の空気を吐き出させられた。リュウマは止まらない。弟弟子であるグレイを心配していたリオンもリュウマによって手痛い殴打を受けて蹲ってしまい、聖十大魔道であるジュラも、岩鉄を使って身を固めようとしたところ、その岩鉄ごと殴打を打ち込まれて破壊され、膝を付いてしまう。

 

ジェラールとウルティアとメルディの内、メルディが最初に狙われてしまい、それを助けようとしたウルティア諸共掌底を受けて倒れ、ジェラールは自信の中で最速である流星(ミーティア)を発動して一歩踏み出したところで、目前に迫っていたリュウマに殴打を受けた。残りの者はリュウマの弱体化の為に歌を歌っており動けない。

 

次と言わんばかりにバルガスとクレア、そしてオリヴィエの元へとゆらりと足を進めたリュウマは、その足を止めて立ち尽くした。バルガスとクレアは左右に別れ、オリヴィエを差し出すような行動に出たからだ。どういう事だと訝しげな表情を見せたリュウマだが、件のオリヴィエと言えば、彼女はリュウマに微笑みを浮かべていた。

 

 

 

「私の皓神琞笼紉に、貴方の黑神世斬黎の封印を解き…更なる力を得た私に躊躇いも無く向かってくるのは、貴方位だ」

 

「無論。でなければこの戦いは終わらぬ」

 

「ふふ。だろうな。しかし、ここで言っておかねばならない事がある」

 

「……何だ?」

 

 

 

「──────準備は整った」

 

 

 

オリヴィエの身体から純白と純黒、その相反する魔力の波動が噴き出ていく。地響きが鳴り響いて大気が振動し、生物が恐怖に縮み上がる。大地震が起きたような震動に体勢を崩したリュウマは蹌踉めき、後ろへと数歩後退る。その間に、オリヴィエは長い時間を掛けて準備をしていた魔法を発動させたのだった。

 

本来はオリヴィエの力のみで発動するところを、リュウマの黑神世斬黎のバックアップも受けていることで、発動範囲は途方も無い事になっていた。つまり、リュウマにこの魔法を防ぐ術は皆無であった。

 

 

 

 

 

 

 

「世に生まれ魅了する華の噺を私が紡ぎ訊かせて魅せよう──────『神秘揮う殲麗な楽園(ミュステリウム・ガーデン)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ッ!!これは……」

 

 

 

オリヴィエが魔法を発動させた瞬間…オリヴィエの足元から始まり、辺り一面の全てが美しい花々によって埋め尽くされていった。見渡す限りの地平線の彼方まで、遠い遠いところまでの全てに花が咲き誇る。快晴の空と相まって、幻想的な光景を映し出す。花は色それぞれが揃い、赤から青に至り黄色、オレンジ色や紫色等、色とりどりの花によって地表は出来上がった。それはまさしくも、楽園というに相応しきものだろう。

 

何処まで続いているのか。その答は“何処までも”という言葉が当て嵌まるだろう。この花々は、地球上の大陸全てで咲いているのだから。リュウマ達が戦っている事を知らない、遙か遠い地では今頃、突然足元に隙間無く咲いた花に関して驚愕していることだろう。

 

リュウマは解らないという表情をしたまま、斬り込みに行くわけでも無く、その場に佇んでいた。リュウマはこの魔法を見たことが無かった。バルガスとクレアは、運動としてオリヴィエと一戦を交えていた時に発動され、その凶悪性を知っている。しかし、リュウマはその時、国の政務で忙しく、その目にすることが無かったのだ。故に彼女(かれ)は、唯花を咲かせるだけなのかと思っていたのだ。

 

そして、そんなリュウマの身体に異変が訪れる。左手が痙攣し始めたのだ。それに気が付いた時には既に遅く、今度は重度の腹痛。頭を揺さ振られているかのような強烈な目眩。腸が煮えくりかえっているかのような漠然とした吐き気。それらがリュウマに襲い掛かってきたのだ。思わず膝を付いて口を手で押さえ、吐き気に堪えようとしていたところで、手元に生えている、見るからに美しい紅色の花弁を持つ花を見た。そして気が付く。

 

 

 

「────ッ!!これ…は…!“ヘランドリカ”…!」

 

「おぉ…ふふ。知っていたんだな。さて、教えよう。この『神秘揮う殲麗な楽園(ミュステリウム・ガーデン)』とは、私が見たり触れたりした記憶にある植物を、私の魔力を媒介に無限に生育する魔法だ。本来ならば大陸二つ覆うのが限界だったが、貴方の力によって、今では世界中で花が咲いていることだろう。そしてこの花達にはある特性が一つ組み込まれている。それは生い茂る花々は、太陽光や大気中に含まれるエーテルナノを吸収して魔力を生成し、私に送り込んで還元させるというものだ」

 

 

 

生み出したい花の全てはオリヴィエに決定権があり、場所に限らず種類、範囲までも決める事が出来る。元々オリヴィエは花が好きであり、400年前の自分の国に聳え立つ城の、中庭には自分が育てた花園が有ったほどだ。そんな花好きであり、自然に恵みを与えて我が物とする事が出来る彼女(純白)だからこそ行える魔法であるのだ。

 

今はリュウマの周辺にのみ、毒性が強い花だけを生やしているのだ。それ故に、リュウマ以外の者達の足元には、傷を回復させる滋養強壮にも良い花々が生い茂っている。一度発動さえしてしまえば、花が光合成の如く魔力を生成し続けて還元させていく。だが、この『神秘揮う殲麗な楽園(ミュステリウム・ガーデン)』は発動させるためにも、オリヴィエを以てしても莫大という他ない魔力を消費すると共に、発動するまでの時間が掛かってしまうのだ。

 

自然の全てはオリヴィエの元に集い、オリヴィエの味方である。純白という尊い魔力を持っているからこその芸当であり、純黒であれば草花を成長させることは出来ても、一つ一つの花に役割を与えたりする事は到底出来ない。やろうと思えば出来るかも知れないが、それは精々触れたら爆発を起こす等といった、攻撃的なものでしか無い。

 

 

 

「き、傷が治ってく…」

 

「あれっ?何か、力が漲ってくる!!」

 

「体調も良くなったぞ!」

 

「この花たち一つ一つから…ものすごい魔力を感じる」

 

 

 

「……っ……ごぼ……」

 

 

 

「ふふ。言っておくが、花を刈り尽くそうと考えない方が良い。花はその命を散らした途端に、次へと継承するために胞子状の種を撒き散らす。一つ散らすだけで相当な数の花へと生まれ変わる。それに…この花達は世界中に咲いているんだ。最早貴方に避ける術は無い。そして、貴方の周辺には、古傷を開く第二級危険指定生物である花も咲かせてある。つまり…だ。貴方にはもう後が無い」

 

「ゔぶッ……ごほ…っ……」

 

 

 

口から血潮を吐き出し、それ以上に脇腹からの出血も相当なものとなっている。無視するように、オリヴィエの召喚した神々と戦っていたが、その途中でも、脇腹からの出血は常に続き、服を赤黒く染め上げていたのだ。

 

実のところ、リュウマの目は既に出血多量によって霞始めており、手先や足先すらも痺れを起こしてきている。頭は思考そのものを鈍らせてきており、悪く言えば死に体であったのだ。

 

花が咲き誇る平原で、リュウマとオリヴィエは対峙し、武器をその手に掛ける。語るに及ばず。此にて雌雄を決しようというのだ。

 

 

 

「──────征くぞ」

 

 

「──────来いッ!!」

 

 

 

オリヴィエの『神秘揮う殲麗な楽園(ミュステリウム・ガーデン)』によって回復された者達は、オリヴィエとリュウマによる一騎打ちの最後の戦いを見守った。その中にはアルヴァとマリアもおり、アルヴァは拳を強く握り締め、マリアは祈るように両手を合わせて見守っている。バルガスとクレアも、盟友達の戦いの行く末を、傍観者として見守っていた。

 

本当に最後の瞬間…世界最強の男と世界最強の女の、全身全霊を以ての戦いであった。過去にも未来にも、これ以上に価値ある戦いは無いだろう戦いが、火蓋を切って落とされた。

 

 

 

「─────────ッ!!!!」

 

 

「─────────ッ!!!!」

 

 

 

高鳴り合う両者の心の臓腑の音が重なり合った瞬間……両者は忽然と姿を消し、両者が居た中間地点で鍔迫り合いを起こしていた。

 

両者の顔は険しく、全力で出している為か、武器を持つ腕が痙攣のように震える。ここで両者の頭の中では、次に、相手がどう打って出るのかという考えに満たされ、己自身と相手の偽像が四方八方に散らばり斬り合っていた。目に見えるものでは無いため、第三者は見ることが出来ないが、何と両者が思い浮かべる偽像は両者共に同じものであったのだ。

 

相手を知っているからこそ起きる奇蹟のような読み合い。繰り返すことに数千回。これだと思った読みに賭けて、両者が全くの同時に動き出した。

 

リュウマが右膝でオリヴィエの鳩尾を狙ったのと同時に、オリヴィエも右膝でリュウマの鳩尾を狙っていた。衝突しあった膝の威力に衝撃が発生し、固まった空気の壁が邪魔な砂利を吹き飛ばした。互いの威力に脚を痺れさせながら、次は刀と双剣による目に見えない攻防が始まった。

 

リュウマの攻撃どころか、動きすらも見えなかったというのに、オリヴィエは今…極限の集中状態で無意識という意識の端に捉えるリュウマの動きに付いていっていた。黑神世斬黎のバックアップのお陰かも知れない。若しかしたら、黑神世斬黎が居なければ今でも見ることが出来なかったであろう超速戦闘に入るリュウマの姿。成る程、こんな世界で動いていたのかと、オリヴィエは直感する。周りが余りに遅い。止まっているようにしか見えない世界で、2人だけが動いているかのようだった。

 

双剣である以上手数では圧倒的にオリヴィエが有利。しかし、リュウマは女の姿と為ろうと、一刀の元に斬り伏せんばかりの剛の太刀は変わらない。それでいて切れ味という面で分かりきっているからなのか、天之熾慧國の刃と黑神世斬黎の刃を合わせようとはしない。鍔迫り合いも皓神琞笼紉の刃とぶつけ合っていた。リュウマは解っている。どれだけ頑丈な天之熾慧國であろうと、黑神世斬黎の切れ味には到底及ばないと。

 

黑神世斬黎の刃には当てず、腹の部分にのみ刃を合わせて弾き返し、逸らし、防ぐ。そんな神経を使う動きを取っていても、オリヴィエはリュウマの防御の壁から向こうへ辿り着けないでいる。力量が違いすぎる。双剣故に型の無い動きを主としているオリヴィエだが、リュウマのそれは多岐に渡る。それこそ膨大とは言い表せない程の。一度異世界の剣術を呼び寄せて使えば、模倣能力で完全に己の物とし、更に改良を加えてしまう恐ろしい災能の持ち主故に、対応出来ない型が無い。

 

それも、この戦いに於いては、リュウマは確かに『神秘揮う殲麗な楽園(ミュステリウム・ガーデン)』によって咲いた、毒性の強い花の影響下にあるというのにこの動きである。舌を巻かずに居られる訳が無い。だが、それはリュウマとて同じ。対応出来ない型が無いというのに、そんなリュウマがオリヴィエに攻め込めていないのは、対応出来ない型が無いリュウマの力をも越える不規則な型の無い動きに詰まっているからである。

 

型を見破り対応する型と、型で見破られないように型という概念が無い自由奔放な型。不規則な動きには付いていってその場で対応するのがやっとということ。そうなれば、これは永遠の鼬ごっことなってしまう。しかし、その攻防は…案外脆く崩れ去った。

 

ずきりと脇腹の深い裂傷が疼き、リュウマは気の抜けない攻防の中で苦しげな表情をするほどの痛みに襲われた。傷が出来て治そうとしては重力魔法によって開き、神との激しい戦闘によって血を流して続けながら戦闘をし、更には傷の治りを遅緩させる毒と、傷口の痛みを倍増させる毒に身体を犯されていたのだ。

 

ほんの一瞬。ゼロコンマ1秒にすら満たない刹那の時間。しかし、出てしまった隙を見逃すオリヴィエではなかった。痛みによって緩んだ刹那の防御を変え潜り、交わした攻防の中でも一番とも言える、武器の弾きをリュウマに与えた。天之熾慧國を両手で持っていたことから、武器を弾かれた事によって身体が少しだけ逸れてしまった。そして露見してしまう、空いた胴への道筋。

 

オリヴィエは渾身の力と魔力を籠めて、リュウマの右側の胴体、つまりはオリヴィエによって付けられた深い裂傷に向けて、左手に掴んでいた黑神世斬黎を手放して拳を向けた。黑神世斬黎で攻撃すれば尚のことダメージを与えられたかと思えるが、黑神世斬黎の重さと空気抵抗によって拳よりも遅く到達し、若しかしたら辛うじて防がれてしまう可能性が有るかもという配慮だった。

 

固く握り込んだ拳が、大量の血潮を流す脇腹の傷に抉り込むように叩き付けられた。ばきゃりという耳障りな音が響き、血潮が脇腹から噴き出し、口からも溢れ出た。だが、リュウマとてやられて終わりな訳が無い。肉を斬らせて骨を断つ。脇腹の痛みを無視し、両手で持つ天之熾慧國を弾かれた所からオリヴィエに向けて振り下ろした。

 

訪れているであろう激痛の中で、刀を揮うのかと驚きながら、右手に持つ皓神琞笼紉で受け止めた。だが、リュウマは剛の太刀。双剣によって受け止められた剛の太刀を片手で受け止められる訳が無い。天之熾慧國の刃が右肩に埋まり込み、そこから短く息を吸って力み、最後まで振り下ろした。それによってオリヴィエの身体には斜めからの大きな裂傷が入り、両者は互いに一歩二歩と後退りながら大きく息を吐く。リュウマの傷は悪化したというのに、オリヴィエの傷は不老不死の力によって瞬く間に消えた。

 

リュウマは肉体的に限界であった。傷が深すぎて血を流し過ぎたのだ。最早倒れるのも時間の問題だった。だからこそ…最後の一手に出たのだ。そしてそれは、オリヴィエにも伝わり、オリヴィエも最後の一手の為に予備動作へと入った。リュウマ抜き身となった天之熾慧國を鞘へと納刀し、右の半身を前に出すように半身となり、腰を落として左手は天之熾慧國の鞘を掴んでいた鯉口を切り、右手で柄を軽く握る。

 

オリヴィエは右手の皓神琞笼紉と左手に呼び寄せた黑神世斬黎を背後へと持っていき、身体は前に倒すように低姿勢を取る。背後に持っていった二振りの刃をクロスさせるように持ち、右脚を前に出して踏み込んだ。不穏な風が両者の間を吹き抜ける。これが最後の一刀だ。仮に凌げたとしても、動く力が残されているか解らない。いや、十中八九限界だろう。故にこそ最強最高の一刀を繰り出そう。

 

固まったままの両者が動くその時を、固唾を飲んで見守る。ごくりと喉を鳴らし、これからどうなってしまうのか、どういう展開になるのか想像も付かなかった。だが、これだけは言える。自分達の全ては今…オリヴィエの最後の一振りに全て賭けると。

 

 

 

 

 

そして──────時は満ちた。

 

 

 

 

 

「──────参冠禁忌が一つ」

 

 

「──────オォオオオオッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

駆け出したのは……全くの同時。

 

 

 

 

速度も……両者全くの互角。

 

 

 

 

リュウマは三つある最後の参冠禁忌の一つを…。オリヴィエは白と黒が揃ってこその業を。

 

 

 

 

「絶剣技()()……──────」

 

 

 

だが、リュウマは最後の参冠禁忌を口にすることも…天之熾慧國を抜刀することも出来なかった。彼は眼を向けた先…オリヴィエの姿を見て…魅入ってしまった。純黒が純白に魅入ってしまったのだ。

 

美しかった。唯々真っ直ぐに、一直線に、迷い無く、躊躇い無く…己が内に秘めた想いを全て曝け出し、純真にぶつけてくるオリヴィエのその姿が……余りにも美しかった。

 

 

 

 

「私はァ…──────()けないッ!!」

 

 

 

 

両手に持つ相反する二つの最強、純白と純黒を…全力で揮った。

 

 

 

 

 

「──────『黒き白を、黒き貴方に(ニィゲン・ラァモル・サンケファル)』」

 

 

 

 

 

オリヴィエ渾身の二撃が、リュウマの持つ天之熾慧國を手から弾き飛ばし、飛んで行った天之熾慧國は回転しながら放物線を描き、大地に突き刺さった。そしてそこから続く追い打ちの二撃がリュウマの身体をX字に深く斬り裂いた。

 

X字に刻まれた深い裂傷から噴水のように血潮を噴き出し、ごぽりと口からも吐血した。眼が虚ろとなり、黄金の輝きを見せていた瞳から光が消えようとしていた。腕は垂れ下がり、事切れようとしているのは明らか。だが、オリヴィエはそこで皓神琞笼紉と黑神世斬黎を手放して放り投げ、右腕を大きく振りかぶった。

 

 

 

「フォルタシア王国第17代目国王、殲滅王リュウマ・ルイン・アルマデュラ…これが私、私達の想い()だ…歯ァ────食いしばれェッ!!!!」

 

 

「…………────────────。」

 

 

 

突き出したオリヴィエの右拳が、リュウマの左頬を全力で殴り飛ばした。

 

 

完全の無抵抗で受けたリュウマは、後方へと勢い良く弾き飛ばされて行った。そして何処までも吹き飛んでいき、途中で衝突した岩も木々も粉々に粉砕していった。轟音と砂煙を巻き上げながら、リュウマはそれでも止まらず吹き飛び、やっとの事で動きを止めた。

 

リュウマが飛んで行った方向には、地表を削っているかのような獣道が出来ていた。肩で息をしていたオリヴィエは、殴った後の体勢を直して見守っていた者達へと振り返り、一言だけ告げた。

 

 

 

「──────行くぞ」

 

 

 

皆は一様に頷き、出来上がった獣道を辿って吹き飛ばされていったリュウマの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ごぽ………………っ…………」

 

 

 

リュウマがオリヴィエに殴られて吹き飛ばされて行き、最後に辿り着いたのは、何の因果か敬愛する父母の墓の元であった。墓の直ぐそこの地面に横たわって倒れ、大量の血痕が撒き散らされているように、周りに広がり付着していた。

 

右の脇腹と胸から腹部に掛けての刻まれた裂傷から血を流し、口からも血を吐き出しているリュウマは、まさに全身が血塗れであった。近づけば血の臭いが濃く、見た目で判断すれば、無惨に殺された死体と同じだった。

 

リュウマの元へ辿り着いた者達は、血塗れで動かないリュウマに瞠目しつつも、近付いて皆で円状に囲う。その中でオリヴィエが出て来てリュウマの上に跨がり、胸倉を掴んで無理矢理上半身を起き上がらせ、先程殴った後のある頬を、弱々しい力で殴る。

 

 

 

「……っ…このっ…ばかものっ……こんなになるまで戦って…!私の想いにも答えずっ…400年も私の前から姿を消してっ」

 

「………ぅ……ごぼっ………」

 

「私が…わたしがっ…!どんなっ…っ……どんな想いで貴方の事を探したと…思っているんだ…!」

 

「………ッ……………げほ…っ………」

 

 

 

リュウマは光が殆ど宿っていない瞳でオリヴィエの事を見上げ、己の事を涙を流しながら、顔をくしゃくしゃにして弱々しく殴る姿を見ていた。

 

殴られたところを何度も、例え弱くても同じところを殴られれば痛い。だが、それ以上に…オリヴィエの想いを訊いて胸が痛かった。

 

何度も何度も殴っていたオリヴィエだが、その勢いも更に落ち、今では胸倉を掴んで嗚咽を上げて泣いていた。400年も想いを伝えて断られて、平気な訳が無い。何度だって人知れず泣いたし、どうすればいいのかと嘆いた。

 

しかしそれでも、オリヴィエは諦めるということは絶対に、何があってもしなかった。何よりも優先していたし、常日頃考えるのはリュウマの事ばかりだ。何百年経とうが、その姿を見るだけで胸が高鳴る。顔が熱くなる。人一倍積極的で、人一倍負けん気で、人一倍乙女心を持っていた。

 

泣いているオリヴィエに釣られ、同じくリュウマの事を愛している8人の乙女達も、その目から涙を流してリュウマを見ていた。記憶を改竄されたとはいえ、好きな人に好きな心を消されたのは、酷く悲しかったのだ。

 

リュウマはもう感覚など消え失せている手に力を振り絞り、左手でオリヴィエの頭を弱々しく撫で、右手を挙げた。その手を8人の乙女達が優しく握り込み、リュウマはその手の温もりを微かに感じながら、今の己に出来る笑みを浮かべた。

 

 

 

「ごぼ…っ……こうなる…ことは……解って…いた……」

 

「…解っていた…?」

 

()が…創った…く ろ の せ か い が破られた時点で……げほっ……()の…最強が…崩れた…時点で……敗することは……視えて…いた」

 

「……………。」

 

「す…ま……なかっ……た。お前…達の…想いを……()は……踏みにじっ……た…のだ……後は…語る…まい……()のこと…は……好きに…せよ……」

 

 

 

リュウマは己が敗北するだろうことは、直感していた。く ろ の せ か い が破られた時点で、リュウマの全てを、愛が遙かに上回ったという、何ものにも勝る証明と為っているのだから。頭でも口でも、敗北は有り得ないと言っておきながら、最も敗北することを悟っていたのは、何者でも無い、リュウマ自身だった。

 

そして、彼女(かれ)は敗北を認めた。故に敗した己の事は勝者の手に委ねられる。彼女(かれ)は何処までも、王であった。

 

 

 

「じゃあ──────生きろよ」

 

「………?」

 

「生きろよ。生きることが辛いなら、オレ達が埋めてやる。退屈だってんなら、楽しいこと見つけさせて笑わせてやる。死にたいってんなら、死にたい何て言えねぇぐらい生きる意味を教えてやる。一緒に生きようぜ!今までと同じように!それが──────オレ達(家族)だろ?」

 

「…ナ…ツ……」

 

 

 

ナツの言葉が、リュウマの心に響いた。生きたくない。死にたい。だが死ねない。死ぬわけにもいかない。そんなことばかり考えていて、一緒に生きようと思うことが出来なかった。だが、この少年や青年、少女達が一緒に生きてくれるという。一緒に生きる。その言葉を噛み締めていたリュウマは何時の間にか、涙を流していた。

 

人の円を掻き分けて、リュウマの掛け替えのない盟友であるバルガスとクレアが寄ってきて、リュウマの顔の傍にしゃがみ込み、意地の悪い笑みを浮かべながら覗き込んできて、言うのだ。

 

 

 

「どうだ?このアホ助。ちったァ目、冷めたかよ?」

 

「……余達も…居る」

 

 

 

「……っ……嗚呼…冷めた……実に……清々しい……敗北で……あった……ふ…は…は……──────」

 

 

 

リュウマはその後、安心しきった表情で意識を手放した。このままでは本当に死んでしまうと、シェリアとウェンディか半泣き…いや、泣きながら懸命に魔法によって傷を癒したお陰で、幸いなことに命に別状は無かった。

 

傷が治ろうと、失った血は元には戻らない。血が足りていない事が原因で目を覚まさないのかは解らないが、起きないリュウマのことはバルガスに任せてお姫様抱っこで連れて行き、オリヴィエはバルガスに嫉妬の視線をこれでもかと突き刺した。

 

バルガスとクレアに、フェアリーテイルの者達が、折角だからギルドに入れと勧誘している間に、オリヴィエははたと気付いて後ろを振り返った。ここまで来れたのは全て、リュウマの実の父母であるアルヴァとマリアのお陰であるからだ。その事に多大な感謝の念を用いて、感謝の言葉を贈ろうとしたところ、2人は既に何処にも居なかった。

 

2人はリュウマの幸せを願い、世界と契約を交わした。そんな2人が居ない…最早語る必要は無いだろう。

 

オリヴィエはせめてもと、両手を合わせてアルヴァとマリアの墓に黙祷を捧げ、最後に深いお辞儀をした後、草むらに隠れていた子竜イングラムの首根っこを掴んで抱き抱えられるリュウマの後を追った。

 

バルガスに運ばれているリュウマは眠りながら、頭と頬を、慈愛に溢れる手で撫でられたような感覚に酔い痴れ、くすぐったそうな笑みを浮かべた。

 

そして…妖精の尻尾(フェアリーテイル)やその他のギルドの協力者達は、何処からか聞こえる、クスクスとした笑い声を訊いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────1年後……X793年

 

 

 

 

 

「今年のケム・ザレオン文学賞の新人賞を受賞したのは…ご紹介しましょう──────」

 

 

 

世界を揺るがす“あの戦い”から1年後の今現在。1年の間に色々な…それはもうたっくさんの色々があったけれど──────

 

 

 

「『イリスの冒険』の著者である……ルーシィ・()()()()()()()()()()さんです!!」

 

 

 

あたし達は、今も元気でやっています!

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、『イリスの冒険』の主人公…イリスのモデルは作者様と聞きましたが……」

 

「まさか、これ程までに美しいお嬢さんだったとは!」

 

「あら、お嬢さんだなんて失礼ですわよ?知らないの?ルーシィ様は既に“あの方”と()()()()()()()()()()?」

 

「おっと、それは大変な失礼を…」

 

「いいえ。あたし…じゃなくて、私も結婚してまだ1年も経っていませんもの。まだまだですわ」

 

「まあまあ!お熱い新婚様ですわぁ!」

 

「そ、そんなことは…!」

 

 

 

煌びやかなドレスに身を包むマダムの言葉に、ほんのりと頬を染めたルーシィの姿に、周囲に居る男は目が釘付けになる。美しさに磨きが掛かっているルーシィに、我も我もと言葉を交わしたいと言わんばかりにルーシィの周りに男が群がり、ルーシィは笑みを浮かべながら対応していくが、困ったような笑みも浮かべていた。

 

 

 

「そういえば…ルーシィ様はあの魔導士ギルド…妖精の尻尾(フェアリーテイル)にご所属だとか…」

 

「なんと…!」

 

「だ、だからですか──────」

 

 

 

1人の男が確認するように言った言葉に、周りの人達は苦笑い浮かべ、ルーシィは恥ずかしそうに俯き、耳まで赤くなった。

 

 

 

「──────御友人が騒がしいのは……」

 

 

 

 

「うっひゃーー!!この肉うんめぇーー!!おーい!この肉もっと持ってこいやーー!!!!!」

 

「ナツさん食べ過ぎです!!」

 

「もっと酒は無いのかい?これじゃあ足りやしないよぉ…」

 

「お前は酒瓶何本分飲んでんだ!!!!つか、お前は飲むな!!」

 

「コラ、グレイ!人前で服を脱ぐな!!」

 

「うお!?何時の間にッ!?」

 

「この鉄うめぇなオイッ!!やっぱ高級品は違ぇな」

 

「ガジル?それ鉄じゃないよ……?」

 

「オレ達のルーシィが新人賞取ったぞーー!!」

 

「取ったぞーーーー!!!!」

 

 

 

「~~~~~っ!!もうっ…恥ずかしから騒がないでって言ったでしょ!?」

 

「うん。無理」

 

「あい!」

 

「もおぉ………」

 

 

 

ルーシィは急ぎ足で騒いでいる筆頭であるナツの元へと急ぎ、注意をするが全く聞いていなかった。というよりも、解っていてやっているような節さえある。

 

 

 

「クレアとバルガスも止めてよぉ…!」

 

「いや、オレ達ァお守りに来たんじゃねェし」

 

「……この酒…美味い」

 

「全っ然気にしてないしぃ……!」

 

 

 

男の鼻の下をゆるゆるにし、何故かドレスを着ているが違和感等全く感じさせないクレアと、体格に合った正装が見つからず、無理矢理押し込んでパツンパツンになっているバルガスに助けを求めるも、知らぬ存ぜぬで追い返されて、ルーシィは羞恥で涙目になっていた。

 

そんな時、フェアリーテイルの恒例行事とも言える、ナツとグレイのつまらない喧嘩が勃発した。

 

 

 

「つか、正装って言われただろーがてめぇは」

 

「服着てから言えやコラ」

 

「あ゙?」

 

「やんのかゴラ?」

 

 

 

「は、始まっちゃうぅ…どうしよう…!!」

 

 

 

止められない事を悟り、また週刊ソーサラーの一面に、ケム・ザレオン文学賞の新人賞授与式に、フェアリーテイルがまたやらかして会場は全壊!被害総額は〇〇〇万J!…なんて記事がデカデカと飾られると、憂鬱な気持ちになっていたところで、耳に聞こえてきた音にハッとして顔を上げた。

 

殴り合おうとしていたナツとグレイの上に、何かが落ちて来ては、2人の頭を地面に叩き付け、後頭部を持って持ち上げた。

 

 

 

「──────騒がしい小僧共が失礼した」

 

 

 

「リュウマぁ…!!」

 

「リュウマ…リュウマ・ルイン・アルマデュラ様か!?」

 

「ほ、本物か!?」

 

「生で見られるなんて……!!」

 

 

 

墜ちて来たのはリュウマであった。早速と言わんばかりに気絶させた2人は、フェアリーテイルが座っている席の、リサーナの元へナツを投げ、ジュビアの元へグレイを放り投げた。危なげにキャッチした2人は、気絶したナツとグレイの頬を軽く叩いて起こそうとしている。

 

大きな翼を広げている男の姿のリュウマの登場に、フェアリーテイルの席に居る者達はカチリと固まって静かになった。ルーシィは蕩けるような笑みを浮かべてリュウマの元へと走り、その胸に勢い良く抱き付いた。翼も使って両腕で抱き締めながら受け止めたリュウマは、世を魅了する笑みをルーシィだけに贈る。

 

 

 

「けど、どうしたの?今日は指名式のクエストがあるからって朝早くから行った筈じゃ…」

 

「ふふ…()()()()晴れ舞台だ。来ない訳にはいくまい?全て最速で終わらせて飛んで来たのだ…まぁ、授与式には遅れてしまったが…すまなかった」

 

「ふふっ…んーんっ!来てくれただけでも嬉しい…ありがとっ」

 

「何、お前達の為ならば何でもしよう」

 

「ぁ…リュウマ…ダメだよ…こんな所で…っ…みんな見てるんだから」

 

「フハハッ!良い良い。見せ付けてやれ。矢鱈と我の妻に色目を向ける不埒な輩が居るからなァ……それに…今宵のルーシィも誠に美しい。我慢しろという方が酷というものであろう?」

 

「で、でも…っ……んぅ…っ」

 

 

 

周りの目も気にせず、リュウマは腕の中に居るルーシィの唇を奪った。最初は羞恥からか少しだけ抵抗していたルーシィも、接吻を繰り返していく内に抵抗をやめ、リュウマの首に腕を回して強請るように唇をリュウマのそれに押し付けた。

 

官能的なリップ音を鳴らしながら接吻を行い、更には激しさも増して舌も入れて絡め合う。大人の接吻も行い始めたリュウマとルーシィに、周りの既婚者の大人達は微笑ましそうに見守り、未婚の男女は羨望の眼差しを送り、子供が居る大人は手で子供に目隠しをした。

 

接吻に夢中になりそうになりながら、理性にものを言わせてリュウマはルーシィの唇から離れた。2人の間に銀の橋が架かり、ルーシィの頬は薄紅色に染まって熱い吐息を吐き、リュウマに熱い視線を向ける。

 

 

 

「んぅ…はぁ…ねぇリュウマぁ…もっとぉ…」

 

「ふふ。家に帰ったら(ねや)で…な?」

 

「うんっ♡」

 

 

 

甘い空間を展開していたところから一転。ルーシィから離れたリュウマはフェアリーテイルへと向き直り、身も凍えそうな冷たい視線を送った。

 

 

 

「さて……我は言った筈だ。『ルーシィの晴れ舞台だ。恥ずかしくないようにするのだぞ?』…と。して──────遺言は?」

 

「殺すの確定かよ!?」

 

 

 

反論したマカオに黄金の瞳を向けた後、目を細めると縮み上がってしまい、直角に腰を折りながら頭を下げて許しを請うた。

 

 

 

「まぁ待て貴方?騒がしいのは今に始まった事でもないだろう?」

 

「な…ッ!?オリヴィエ!?お前は何故ここに居る!?」

 

「何故って…()()同じく貴方の妻であるルーシィの晴れ舞台を見にだが?」

 

()()()()もしもの事があったらどうする!?今お前は()()()()()()()解っているのか!?」

 

「…??()()()()()?」

 

「家で安静にしていろとあれ程…!!」

 

「寝てばかりではお腹の子にも悪いだろう?それに少しの運動ならば問題無い」

 

「そういった意味では無い…!腹に強い衝撃でもあったら──────んむ…!?」

 

 

 

心の底から心配しているという表情を隠さないまま、熱が入ろうとしているリュウマに、オリヴィエは()()()()()()()()()()()近付き、リュウマの唇に接吻をして無理矢理塞いだ。

 

 

 

「んっ…はぁ…私は大丈夫だから…な?それにほれ、あそこに酒を飲んでいる者が…」

 

「ゲッ…!オリヴィエあんた…!」

 

「──────カナァ?」

 

「は、ははは……よ、よぉリュウマ?お早いご帰宅で…へへ」

 

「まだ家に居ないがな。それよりもカナ……お前…飲んだか?」

 

「の、のののの飲むわけねーじゃん!」

 

「ならば右手に持っているものは何だ?」

 

「あっ…やっべ」

 

 

 

能面のように無表情になったリュウマは、人を掻き分けてカナの前にまでくると、背中に隠した酒の瓶を魔法で瞬間移動させて手元に出し、カナの眼を間近で覗き込んだ。冷や汗をダラダラと流すカナに、後ろでは言わんこっちゃ無いないと、仲間が額に手を当てて肩を竦めていた。

 

 

 

「お前も、()()()()悪いから酒は飲むなと言った筈だが?もう5()()()()なのだぞ?」

 

「わ、悪ぃ……」

 

「ん?」

 

「ご、ごふぇんらふぁいぃぃぃぃ…っ」

 

 

 

顔を逸らすカナの頬を掴んでムニムニの刑に処した後、後は何も起きていないということを確認して、深い溜め息をついた。

 

フェアリーテイル所属、聖十大魔道序列一位であるリュウマ・ルイン・アルマデュラは、クエストから帰ってきたばかりだというのに疲れてしまい、そんなリュウマの為に皿によそった料理を持って来たウェンディを捕まえて抱き締め、その唇を(ついば)みながら癒され、飲み物を持って来たミラのお尻を軽く触れると、今はメッと言われて叱られた。

 

1年経った今、リュウマは美しい美女や、美少女達の9人と結婚し、あと少しで父親になろうとしている。その為、初めての自身の子供ということもあり、少し過保護気味になり、周りからは苦笑いされていた。

 

だが、此処まで至るのも相当な苦労もあり、どんな理由があれ、仲間を殺そうとした事は言語道断だとマカロフ叱られ、数ヶ月間の破門処分を言い渡された。他にも、400年前から生きていたということもあり、世界中に魔法を掛けた罪を免除する代わりに、暫くの間の無償奉仕を言い渡され、歴史の研究の為の情報提供。一般人にも使える新たな魔法の開発。地球の緑化拡大への助力等、万能の力故に何処からも引っ張りだこだった。

 

アルバレスとの戦いで活躍したルーシィの先祖である、アンナ・ハートフィリアは、まだこの時代に残り、小さな村で学校の先生をしている。ナツはアンナの事が昔好きで、良く懐いていたことから、度々リサーナやハッピーと共に会いに行っている。

 

ギルドで一番最初におめでたい関係となっていたガジルとレビィは、更に仲良くなっている。そしてレビィのお腹には新しい命も宿っているということを、リュウマの眼には視えている。

 

シェリアは蛇姫の鱗(ラミアスケイル)から抜ける事無く、リュウマが気を利かせてシェリアが住んでいる家とリュウマの家とを、瞬間移動することが出来る魔法陣で繋げている為、離れ離れになることは無い。

天空シスターズもウェンディと続けており、アイドルでありながら人妻という、中々な属性を身に付けているが、一部のものはそれこそが至高と叫んでいたとか。

 

因みに、時々だが天空シスターズを返せと、天空シスターズの熱狂的なファンがリュウマの元へ訪れるが、我の愛する妻達に色目を使うなと言われながら、その場で半殺しにされて地面に頭から突き立てられている。

 

剣咬の虎(セイバートゥース)に居るユキノも、シェリアと同様に所属ギルドはそのままに、今まで使用していたアパートとリュウマの家を魔法陣で繋いでおり、ユキノは楽しそうにギルドでの話しをリュウマに聞かせてくれる。しかし、ユキノもお腹には子供が居るので、無茶はしないようにとはリュウマの弁。

 

カグラは当初、フェアリーテイルに転属すると言っていたが、最強の女魔導士が人魚の踵(マーメイドヒール)からいきなり消えるのは困るからと、説得に説得を重ねて引き続き人魚の踵(マーメイドヒール)に所属し、借りていたアパートとリュウマの家をユキノやシェリアと同じように魔法陣で繋いだ。

因みに、中々自分のお腹に子供が出来ない事を気にしており、一週間リュウマとノンストップで交わろうと企んでいたりする。

 

ミラはリサーナとエルフマンで一緒に同じ家で住んでいたのだが、リサーナとエルフマンの一押しがあり、リュウマの自宅に移って同棲している。勿論、そのお腹には四ヶ月になる子供がおり、妊娠中でありながら、週刊ソーサラーで妊娠中で幸せの絶頂期の女性というタイトルでモデルをやっていた。リュウマは相当に渋ったが。

 

エルザはアイリーンとの関係も今では良好であり、リュウマと結婚するや否や、フェアリーヒルズに居るべきではないと、母親として追い出され、リュウマの家で同棲している。そのお腹は膨れてはいないものの、一ヶ月になる子供が居るので、最近では鎧を着るか着まいか悩んでいるそう。因みに、リュウマは絶対に着させるつもりは無い。

 

グレイとジュビアの関係も、雨降って地固まると言った具合か、最近ではやっと同棲までするようになったらしい。そのことを仲間の男性陣からは遅いと呆れられ、女性陣はジュビアのことを祝福した。

エルフマンとエバーグリーンは普通に仲が良いが、エルフマンは最近自室で何かの荷造りをしていて、寂しくなるなぁとリサーナは既に察していた。

 

フィオーレ王国では、先代国王が隠居し、今ではヒスイ姫が女王として即位していた。その時に、ヒスイ女王は魔女の罪(クリムソルシエール)を城へと呼び出し、恩赦が与えられた。

 

 

 

「オレ達は…自由…なのか…?」

 

「罪を…許された?」

 

「でも…私達は闇ギルドだったんだゾ」

 

「えぇ。その事に関する事情は聞き及んでいます。そして、あなた達の過去に関しても。ですが──────無辜なる人々を傷付け、傷付けようとしたことは紛れもない事実」

 

「「「──────ッ!!」」」

 

「過去の罪は消え去ることはありません。しかし、消えないだけで贖罪の為に闇の中であろうと戦い続けてくれていたことも…紛れも無い事実であり、それも消え去ることはありません」

 

「え…?」

 

「ふふ…これからも人々の為に戦い…生き続けて下さいね」

 

「「「……っ……はいッ!!」」」

 

「生きる……」

 

 

 

ヒスイ女王は、ある人から与えられた罰によって国民から愛される女王となり、女王に相応しき気品と王の覇気を身に纏っていた。ジェラールは、女王に許されたとしても、過去が過去であるため、複雑な表情と心境であった。だが、前を向き続け、罪を償っていくとカグラと約束しているため、下を向くことは止めたのだ。

 

そして何と言っても、リュウマやルーシィ達は、新人賞授与式の会場で、嘗てのフェアリーテイル初代マスターてまあるメイビス・ヴァーミリオンと、黒魔導士ゼレフ・ドラグニルに瓜二つの子供を見つけたのだ。生まれ変わりにしては歳が合わない。だが、フェアリーテイルには、その2人が嘗ての彼等にしか見えなかった。そして、リュウマには視えて解っていた。彼等の魂が…あの2人だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーシィ?」

 

「んぅ…?」

 

「ほら、起きろルーシィ」

 

「……ん~…ふぁ~い……」

 

 

 

9人と美女美少女達と、同じベッドに寝ていたリュウマは、裸で体中に内出血の後を付けているルーシィを揺すって起こした。だが、夜遅くまでお楽しみだったのか、中々起きてくれず、終いにはリュウマの翼に埋もれ、その柔らかさを堪能した後…寝息を立てた。

 

困ったような笑みを浮かべた後、悪戯が思い付いた子供のような笑みに変えた。翼を退けてルーシィの顔を覗き込み、鼻をむにゅりと摘まんで唇を重ねた。

 

 

 

「んむぅ……っ………んっ……んんっ……んんんんんんっ!!!」

 

「ちゅ…おはようルーシィ。目は覚めたか?」

 

「はぁ…っ…はぁ…っ…!もぅっ、リュウマ?普通に起こしてよ…!息できなかったじゃない!」

 

「揺すっても起きないものでな」

 

「てか、ふわぁ~あ……こんな時間にどうしたの?」

 

「ルーシィ……はぁ………今日は記念すべき()()()()1()0()0()()()()()()であろう?」

 

「……………………忘れてたぁぁぁぁっ!!」

 

「そら、ウェンディも起きぬか」

 

「ふぁい……えっ…?もうこんな時間っ!?」

 

「おはようウェンディ?」

 

「んちゅっ…は、はぃ…おはようございますぅ…」

 

 

 

ルーシィはすっかり忘れていたようで、慌てて下着を探して身に付け、慌てたように自身の服を探しに行った。ウェンディも寝惚けているものの、リュウマからの接吻で、目が覚めた様子。それを見て仕方がないと思いながらクスリと笑い、ベッドから起き上がろうとしたところ、手首を掴まれた。

 

 

 

「貴方?私におはようのキスは無いのか?」

 

「何だ、起きていたのか…ほら─────」

 

「んんっ…はむ…っ…ちゅ……んはぁ…ふふ。行ってらっしゃい。気を付けてな」

 

「うむ。行ってく──────」

 

「リュウマっ。私も私も!これも“愛”だよね!」

 

「師しょ…んんっ…リュウマ…さん…私にもお願いします。出来るだけ激しいのを」

 

「酒飲めないからね。その分リュウマが代わりのものちょーだい。…まっ、仕方ないからキスでいいよ?」

 

「あの…リュウマ様…私にも……っ」

 

「勿論、私にもしてくれるのだろう?リュウマ」

 

「も・ち・ろ・ん…私にもねっ♪」

 

 

 

「う、うむ……時間通りに行ければ良いが…」

 

「お父さん…遅刻しちゃうよ?」

 

「……はぁ…先に行っていろイングラム」

 

「はぁ~い!」

 

 

 

その後、リュウマはベッドに引き摺り込まれそうになったが、クエスト前にミイラのようになる訳にはいかないため、どうにか離して貰って家を出る。暫く歩って擦れ違う住人に挨拶を受け、マグノリアの駅のホームに着くと、既に待ち合わせの人物達は居た。

 

 

 

「あっ!お父さん来た!」

 

「ったく。おっせーぞリュウマ」

 

「……10分の…遅刻」

 

「すまぬ。離してくれなくてな」

 

「あっ…おい!……首元隠しとけよ」

 

「………………やられた」

 

 

 

此処まで来る途中で、矢鱈と住人の人達が微笑ましそうな笑みを浮かべて見てくる理由を察したリュウマは、恥ずかしさで翼をバサバサしながら、一度咳き込んで空気を入れ換えた。

 

 

 

「さて、我々も100年クエストに征くとするか。早くせねば何時帰れるか解らぬぞ?何せ100年クエストが1()3()()()()()()()()()()

 

「かーっ!めんっどくせぇ!」

 

「……列車より…飛んだ方が…早い」

 

「ボクに乗って行く?」

 

「フハハッ!確かにお前の方が速いな。まぁ、偶には列車を使うのも良かろう。オリヴィエが居ないが…征くぞ!チーム『人類最終到達地点(クァトル・デュレギレーション)』ッ!」

 

「「──────おうッ!!」」

 

「うんっ」

 

 

 

太陽の光が爛々と差す快晴の青空の日。リュウマは掛け替えのない盟友の2人と、目的地まで行く特急列車に乗り込もうとした。扉が開き、クレアに続いて子竜イングラムを肩に乗せているバルガスが乗り込み、リュウマが乗ろうと一歩踏み込んだ瞬間…何かを察知したように青空を見上げた。

 

そこに在るのは雲一つない真っ青な空。何かが見えたのか、空を見詰めて何かを探している様子。

 

 

 

「何やってンだ!閉まっちまうぞ!」

 

「お父さん早く~~!」

 

「……どうした」

 

「……ん?ふふ……──────何でも無い」

 

 

 

リュウマはもう一度だけ空を見上げ、今日この日の最高であろう笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

──────父上…母上…ありがとう御座いました。我は今……幸せです。

 

 

 

リュウマはもう居ない、敬愛する父母へと言葉を送り、特急列車の中に入ると、扉が音を立てながら閉まった。

 

 

扉が閉まりきるその瞬間…優しげな笑い声が聞こえた気がしたが、リュウマは笑みを浮かべるだけで、クレアとバルガス、イングラムの元へと歩んでいった。

 

 

 

 

 

 

世界最強の人間は、敗北を得て……世界最高の幸せを得た。

 

 

 

 

 

 

若しかしたら、貴方の世界にも魔法があるやも知れません。

 

 

 

 

え?そんなもの有るはずが無い?…いやいや、必ず有りますよ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一なる魔法()が……ね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






やあ!最後まで見てくれてありがと!長い長い話になったけど、楽しんでいただけたかなっ?


…………これボクが言っていいの?まぁ、いいけど。


それにしても…はぁ…いいなぁ。羨ましい!


ボクも君に会えるのを楽しみにしているよ?



異分子(イレギュラー)のリュウマ・ルイン・アルマデュラ君♪




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