FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ 作:キャラメル太郎
観光都市ナハトラを早朝に出発したリュウマ達一行は、途中で依頼人の義理の娘であるシルヴィアの必死の嘆願と、他でも無いクレアの説得の事もあり、本来ならば絶対に連れては行かない同行者を得、目的地へと向かっていた。
だが、その目的地とやらが何処なのかは解っていない。唯先を進んで行くリュウマの後を、バルガスやクレア達が追い掛けているだけに過ぎないのだから。故にリュウマに何処へ向かっているのか訊きたかった。しかし出来ない。何故なら今ほんの先程、リュウマはクレアに否定のしようの無い問いを投げ掛けられ、連れて行くべきではないと正当な倫理の果ての意見を、無理矢理覆されてしまったが為に、今のリュウマからは近寄りがたい雰囲気を発しているのだ。
100年クエストを開始してから一ヶ月。この様な何とも言えない張り詰めた雰囲気になった事は一度も無い。それが解っているからこそ、バルガスもイングラムも、この空気にさせてしまったことを自覚しているクレアも、喋り出すことが出来ないのだ。そして当然、無理を言って同行しているシルヴィアには、ここで何かを言う発言権は無い。
3人と一匹が、飛行能力を持つのに地を歩く、チームのリーダーである男の、黒白の翼が生えた背中を見る。何時もは言い知れぬ程の覇気を漂わせるその背中が、今は少し哀愁漂う気配を醸し出しているようにも見えた。
じゃり…じゃり…と、地を踏み締める音だけが響く。何とも言えない空気は居心地が悪く、それはリュウマも理解していた。
リュウマはチーム『
「昨日、依頼人より譲渡された魔道書の解析を終えた」
「あ、お…おう」
「……うむ」
「はい…」
「あの魔道書を書き記した者は…女…年齢は30序盤から中盤に掛けて…教養が良く、非常に頭脳が明晰…右利き…魔法学と天文学に秀でている…性格は慎重且つ冷静沈着型だ」
「何でそんなことが解るんだ?てか、どうやってそんなこと解ったんだ?」
「魔道書に書かれている文字の書き方で分析した。外れていることは無いと思うが、若しかしたら当たってもいない可能性もある。元よりそれらが専門な訳では無いからな」
「文字だけで性格まで…?」
歩みを止めること無く、背を向けたまま突然話し始めたリュウマに、最初こそどもってしまったものの、それを気にした様子も無く、リュウマは話を続けていった。まるでシルヴィアが居ないチームメンバーのみの時であったように、リュウマは言葉に何の澱み無く続けていく。するとチームの雰囲気は、先程までの張り詰めたものから、少しずつ元の空気へと戻っていった。
リュウマは昨日、魔道書の解析を行うにあたり、書いた人物は何者なのかという部分について、書かれていた文字から推測した。リュウマ程の頭脳を以てすれば、文字の一つから、それを書いた人物の性格や癖、性別に健康状態等も読み取ることが出来る。だが、リュウマには一つ不可解なことがあった。
「文字を見て推測したのか?」
「……何時もなら…魔法で…著作の…全容を視る」
「当然視た。だが、その者は全身をローブで覆い、尚且つ暗闇の中で蝋燭一本の光を元に書いていた。故に顔も何も解らんのだ」
不可能なことはそれだった。リュウマは魔道書を書いた者を魔法によって視ようとしたのだが、視るには視えた。だが顔も何も視ることが出来なかったのだ。何故なら、魔法で視た時には、魔道書を書き始める時から既に、全身をローブで覆い尽くし、真っ暗な部屋の中で蝋燭一本の明かりを頼りに書いていたのだ。
そんな状況下で書かれたが為に、リュウマは書いた本人がどんな顔をしているのか、一切解らないのだ。これはそう…まるで魔法を通して
まあ、リュウマはその事については特に何か言うつもりは無い。確かに不気味であり不可解な事かも知れないが、書いた本人がどんな者なのか知らなくとも良い。何故なら、リュウマ達のやるべき事は、魔道書を書いた者が何者なのか解き明かすことでは無く、400年前に存在したという観光都市ナハトラの、英雄の形見を見付けることなのだから。故に今大切なのは、魔道書には何が書かれていたかということ。
「魔道書を解析した結果、中は日記でもなければ赤と青の英雄についてのものでもなかった。これは文字で説明している天体図及び天球図の論文であり、理想郷への道導だった」
「……論文が…何故…理想郷と…関係がある?」
「最後のページにだけこう書かれていた…『大いなる炎が
「どういう意味なのでしょうか…?」
「大いなる炎とは、即ち『太陽』を指し示す。盈は
「──────『日食』か!」
「……では…闇に覆われる…というのは…日食時に見られる…暗くなる現象の事…か」
「お父さん!あんし?って何?」
「暗紫というのは黒みが掛かった紫色の事をいう。文の中にある暗紫の満月というのは、実際に月が暗紫色となるのではなく、
「月ってそんな色に見えることあるか?」
「それは月の魔力による透膜現象の事を言っているのだろう。満月の時の月は、大量の魔力を地球へと照射する。その時の魔力は
ナツ達も昔、ルーシィがギルドに入団したてだった頃に、無断でS級クエストを受けてしまったことがある。話が長くなるので大凡の話は端折るが、S級クエストの依頼内容は紫の月の破壊だった。そこで無断でS級クエストに行ったナツ達を連れ戻すために赴いたエルザが、月を破壊するという話を出し、半信半疑ながら試みたことがある。
実際は月が紫になっていたのではなく、ある野望の為に
「つまり前半の文は、月の魔力による透膜現象と重なった日食時に、其処ら一帯は暗闇となる」
「文の中に出て来る『私』というのは……」
「『私』というのは、他に何も無いため何とも言えぬが、依頼人の言っていた英雄達が眠ったとされる理想郷であると仮定する。英雄達は400年前にこの魔道書を手に入れて解析し、そこへ向かったのだろう。見失うというのは、恐らくは日食が終わった時点での事だ。そしてそこに選ばれし者が居る場合、理想郷とやらへの道は示され、至れるということになる」
「……憎悪に…関しては…?」
「憎悪という言葉を使用する場合、その怨念の比喩的な形から『炎』と称されるのが常だ。しかしここでは『光』と表現している。光は善、太陽、明日、星、等といったものが上がってくるが、この場合は希望であろうな。となると、憎悪の希望ということになる。そして憎悪というのを集団化させてみれば、憎しみを持った者達の希望…つまりはその者達にとっての英雄的ものとなる。願わくば永遠の眠りを…というのは、それを使えば何かが起きてしまうからこそ、使われる時が無いことを祈っているという意味だろうな。そうなると…クク…理想郷は余程な秘密を持っているのだろうよ。これだけ言うのだ、我々にとっての理想郷ではなく…理想郷とやらに住んでいた者達の理想郷なのだろう」
リュウマは既に、シルヴィアからの問いに関しても、普通に受け答えするようになっていた。一度連れて行くと決めた以上、己の意見を変えさせた存在だからと、無視するといった子供のような事はしない。シルヴィアを連れて行くことは既に決定事項となっており、一時的なチームの一員なのだ。
そしてこの言い回しが妙な文の解読には、創作文字の解読も合わせて1時間弱程度で解読していた。ならば、何に時間を掛けていたのかという点であるが、何を隠そう最初に言っていた、記されている文字が全て論文に過ぎず、本体は天体図及び天球図であるのだ。図が載っているのではなく、専門用語が飛び交い、解説通りの図体を書いていくと、一つの答に辿り着くというもの。
「完璧な月の魔力の透膜現象と、日食の周期を計算していた結果、その現象が重なるのは15年に一度起こり得るものであることが解った」
「15年だァ!?」
「それだけでは無く、魔道書には400年前から数えて13番目の日食…それは200年に一度という頻度だ」
「200年…!?…っ!つーことは……」
「うむ。今がまさにその200年周期の2回目…そしてそれが起こるのは、我の計算が正しければ29日と6時間43分16秒32後だ」
「細か!?どんだけ細かく計算したんだよ!?」
「因みにだが、指定されている場所があるのだが、それは此処から約600キロ離れている上に、途中壁で阻むような横へ広がる標高五千メートルの山脈もある。まあ何だ、急がずとも一日20キロ進んで征けば、自ずと目的地には着く。イングラムに乗って飛んで行ったとしても、日食時まで待たねば事は起こらん。何、気楽に征くとしよう」
流石に早く行ったとしても、日食が起きる時間は確と決まっており、リュウマ自身は計算が正しければと言っていたが、リュウマは念の為にと三度は最初から計算し直すという徹底振りなので、万が一にも間違っているということはない。秒数までどうやって計算したのかは解らないが、ここは気楽な旅となるだろう。
途中にも街がある事は地図で確認しているので、リュウマはその街に寄って、旅に必要に必需品を買っていこうとも考えていた。やろうと思えば、物などは創造すれば容易に手に入り、金が浮くかも知れない。しかし、リュウマ達は既に、莫大な報酬額を提示されている100年クエストを12個を遣り遂げているのだ。
こうなってくると、散財しなければ経済的に拙いのだ。報酬は山分けなので3人分に分割されてはいるものの、それでも一人が持つ金は途方も無い。金はサービスや物に使われ、売った会社が儲け、儲けた会社等が人件費や資財や設備やサービスにお金を使用し、その金がまた別の物に使われ……と、いった具合に、金を媒体とした物やサービスのやりとりが経済であり、金は常に循環し続けている。
況してやギルドに所属している魔導士が依頼を達成し、報酬額を貰う時、税金が発生せず、提示された金額はそのまま依頼達成者の物となる。つまり、リュウマ達のような莫大な資産を持っている者は、ばんばん散財しなければ経済が回らなくなってしまうのである。
因みにだが、リュウマはこの連続100年クエスト以前にも、S級クエストやSS級クエスト、10年クエストに100年クエストと、片っ端から名指しで頼まれて依頼達成している上に、特にこれといった欲しい物が無かったので使わず、今もその時の金の大半を所持している。つまり彼は、其処らの貴族や社長が霞んで見えなくなってしまう程、お金持ちである。
紆余曲折。兎に角目指す過程で町に寄る序でに、必要なものを買い出しに行こうと決めていた。それに、シルヴィアが持っている荷物が、少し大きめなリュック一つであるため、絶対に必要最低限だろうということを察していたのもあった。
「おい兄ちゃん達よ。すこーしここは通せんぼだ」
「アニキが止まれって言ってんだ!止まってもらうぜ?」
「あ?何だこのクソガキ共」
「……知らん」
「えっと…何かご用でしょうか?」
「此奴等は恐らく依頼人の邸を盗聴していた者達であろうな」
「あぁ。コイツ等か」
「と、盗聴ですか…!?」
「何だ、気付いていなかったのか?客室に小さな盗聴系の魔法陣が刻まれていた。恐らくそういった
使用人に案内された客室用の部屋には、既に盗聴系の魔法が施されていた。それに気が付いたリュウマが人知れず魔法陣を粉々に破壊したのだった。
何を隠そう。この二人組こそ、一年前に依頼人であるチャッチの邸から、リュウマが復元させた魔道書を盗み出した者達なのだ。その事をリュウマの言葉から察したクレア達であるが、ならば目的は何なのだろうかという話になるだろう。しかし、内容は意外と簡単な話となっている。
リュウマが解読した魔道書は、文字全てが創作文字であるものの、最初のページに母音等の言語表が書かれているので、専門家では無くても時間さえ掛ければ誰でも解読する事は出来る。だが問題は、途中途中に描かれている複雑な複層魔法陣に図形が、確りと解読しなくてはならないのと、その解読の難易度である。
唯でさえ解読するのは魔法陣の研究をしているエリート集団でも手を焼く程のものでありながら、全て読み解くと文字の羅列に切り替わるのだ。そして全てを読み解いたところで、中は天球図等といった専門用語の羅列である。それも内容魔道書一冊全562ページにも及ぶ。唯珍しいからといって盗んでも、そもそも文字を浮かび上がらせる為の
「して、何用だ小僧共。まぁ、何と言うか等解りきったものであるがな」
「お前らはこの本の内容を解読したんだろ。だったら内容を全て教えろ」
「痛い目見たくなかったらさっさとよこせ!」
「フハハッ!やはりな。想像通りでありながら、何と命知らずの阿呆共な事か?訊いたか、此奴等は我等を相手にして痛い目とやらに遭わせるのだとさ」
「……世間知らず」
「ぷくくッ…!おいおい冗談は顔だけにしろや。どんだけ身の丈に合ってねェこと言ってるか解ってんのか?いや、解る訳ねェか。解ってたらそんな言葉吐かねぇもんなァ!?アーハッハッハッハッハッ!」
「うーん…何か弱そう!」
「え、えっと……」
何と言えば良いのか困惑しているシルヴィアを置いて、リュウマ達は出て来た二人組に侮辱的な見下した視線を投げ付け、隠す様子も無くバカにした笑みを浮かべて嗤っていた。ゲラゲラと笑われている二人組の内、アニキと慕われた呼ばれ方をしていた男は、怒りで顔を真っ赤にしていた。
そもそも、リュウマが半日で解読したものを、察するに1年掛けても全く解読する事が出来ず、其処に仕掛けていた壊される前の盗聴魔法で解読し終わった事に関する旨を拾い上げたのだろう。しかし、相手が悪かった。依頼を受けてきたのは、世界の頂点に立っていた人間の極致に辿り着きし者達の集団なのだから。
何がどうなろうと勝つことは愚か、痛い目というものに遭わせてやる事など、世界が何度やり直されようと絶対に有り得ないのだ。況してや、リュウマ達は寄越せと言われて、はいどうぞと渡すほどお人好しでも無ければ優しくも無いのである。
「テメェ等…!オレ達がトレジャーハンターギルド『
「オレ達バカにして無事で済むと思うなよ!」
「チッ…正規ギルドか。これだと此奴等を殺す訳にもいかんか」
「おいおい珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
「……月が…墜ちてきそう」
「何、ルーシィ達から闇ギルドは兎も角、正規ギルドの者達を容易に殺すなと言い付けられているだけだ。尤も、殺すなと言われているだけで、痛め付けるなとは一言も言われてはおらんがなァ…」
「うっわ。悪っるい顔だわ」
如何にも悪巧みしてる悪役です、とでも言うようなあくどい顔つきであるリュウマに、クレアはケラケラ笑いながらコメントした。しかし仕方ない。殺すなとは言われただけで、傷付けるなとまでは言われていなかったのだから。リュウマが敵対した者を無傷で返す筈も無い。勿論その事を、その場で訊いていたオリヴィエは気が付いていたものの、まだまだ甘いなと思いながら黙認していた。言わずとも知れた確信犯である。
魔導士ギルドとは違って、世界各地に眠るお宝を発見することを生業としているトレジャーハンター。そのトレジャーハンターが所属するトレジャーハンターギルドの中でも、トップクラスの実力を持つと思われる男2人組は、馬鹿にされた挙げ句、更には話を無視された事によって顔を真っ赤にしている。それを横目で確認したリュウマは、更に畳み掛けた。
「貴様等程度の小僧共が、そも我等に声を掛けること自体が烏滸がましい。話は精々風呂に入って身嗜みを整え、頭を垂れてから申せ。出なければ対峙する気にもならぬ」
「……邪魔。早く…退け」
「こっちは依頼中なんだよ。テメェ等みてェな石ころ発掘して狂喜乱舞してる阿呆共とは訳が違うんだよクソカス。解ったらさっさと回れ右して消えっちまいな」
「…ッ!!……ンのヤロォ…!相当痛い目見ねぇとわかんねぇようだなァ!?」
「散々コケにした事後悔させてやるぞゴラッ!」
「ハン。其処らに転がる石礫以下の貴様等には、多少の躾けが必要なようだなァ?ならば良かろう。存分に味わってゆくが良い。良し、やってしまえシルヴィア」
「……………えっ。わ、私ですか!?」
まさかこのタイミングで振られるとは思ってなかったのか、事の成り行きを黙って見ていたシルヴィアに矛先が向いた事に本人が驚き、瞠目した目でリュウマを見上げた。しかし振ったリュウマといえば、逆にさも当然だろう?とでもいうような顔で見下ろしていたのだ。全く自身の発言に疑問を思っていないことで、シルヴィアの中では、あれ…自分が可笑しいのか?という不条理が成り立とうとしていた。
しかし思い留まる。絶対に今の話の振り方は不自然だったと。それを口に出して問おうとしたシルヴィアの先手を取り、言葉を発そうとしたシルヴィアの唇に人差し指を当てて遮った。言わんとすることなど見なくとも解る。そんな悪戯っ子のような薄い笑みをリュウマは浮かべていた。
「魔導士ギルドに於ける最高難易度クエスト、100年クエストに同行することになったのだ。それ相応の実力を見せねばなるまい?なればこそ良い機会というもの。己が口から吐いた言葉だ。我等に見せよ。でなければ貴様は、名実共に単なる荷物となる」
「───っ!……分かりました。やらせて下さい」
「うむ。何、不安になることは無かろう。いざとなればクレアが割って入る。これは所詮試験だからな」
「てか、オレが入んのかよ!?」
「何を当然な。シルヴィアをこのチームに引き入れる背中押しをしたのはお前だ。故に今この時を以て、シルヴィアの世話係に任命すると同時に、シルヴィアに於ける一切の傷害を禁ずる。いくら同行すると言えども、我にバルガス、クレアの名でクエストを受注した以上、シルヴィアはあくまでこのチームに同行する他人でしかない。況してや依頼人の娘だ。傷を付けされる事は我が赦さぬ。反論も意見も受け付けぬ。良いな?それが最大限の譲歩だ。無論、この試験での傷害はカウントせん」
「……解った。それで良い。シルヴィア、お前もいいな?」
「はい。よろしくお願いしますクレア様」
条件を突き付けたリュウマの目を見て、これ以上は譲らず、これ以上の好条件は出ないと察したからか、クレアは何も言わずその条件を飲んだ。だが、ここでリュウマの身内に対する甘さとも言える優しさが出ている。色々言ってはいるものの、内容を整理すれば、シルヴィアはどのみち連れていく。但し、シルヴィアの世話係はクレアが行い、護ること。これは甘い条件だ。
例え荷物という判定になろうと、置いていくという選択肢は取らず、尚且つそれでもクレアの監視下に入れられ、外敵からの危険を回避されるのだから。クレアは元よりリュウマやバルガスと同等に渡り合った嘗ての伝説の王その人である。それが例え400年前の話であろうと、現代でクレアに傷を付けることは愚か、近付くことが出来る者等居るかどうかも怪しい程だ。
そんな者の監視下に入れられたならば、シルヴィアは周りを破壊できないバリアで完全に覆われていることと同義である。故に、リュウマの出した条件というのは、有っても無いようなものであるのだ。その事に気が付いているクレアは、心の中でリュウマに感謝の言葉を贈る。口に出してしまえば、条件という体で話していたリュウマに泥を塗るからだ。
「オレ達が居るってェのに、ごちゃごちゃと話とは舐められてるもんだなァ!?容赦はしねぇぞ!!おい!行くぞ!」
「へい!アニキ!」
「そら来るぞ。構えよ」
「…っ!はい!」
トレジャーハンターの二人組の男の内、アニキと呼ばれている男はアニキとし、もう一人の男は下っ端という仮称とする。アニキは怒りで朱くした顔のまま、背中に背負っていた鉄製の柄を握り締め、目前に持ってきて構えた。すると振った反動で大きな鉄の棍棒のような状態から、中から刃が伸びてロングブレードへと早変わりした。
下っ端の方も背中に括り付けていた武器を取り出した。鉄の棒のようなものだったが、持ち手の部分に付いているボタンを押すと、先端に打面が現れ、両手で持つ大きな大槌へと変形したのだった。どちらも攻撃に特化した武器であり、盾等といった壁役は居ない。
準備を整えた二人組と同じく、シルヴィアも戦闘態勢に入っていた。背負っていたリュックに関しては、何時の間にかリュウマの手の中にあった。戦闘にはお荷物だろうと、リュウマが魔法で手元に持ってきたのである。中には戦闘に役立つものが無い事は把握済みなので、必要なものを取られてしまったという心配は無い。
シルヴィアは被っていたフード付きのロングコートを整え、フードを深く被り直した。そして手に持っている長い杖に魔力を流す。この戦いで一番最初に動いたのは、意外にもシルヴィアだったのだ。
魔力をそれなりに籠めた杖を下から上へと振り上げ、先端に形成した魔力球を空へと打ち上げた。何かの攻撃かと警戒した二人組だったが、魔力球は爆発する様子も無ければ墜ちてくる様子も無い。単なる脅しかと判断した二人組は気を取り直すことにした。ロングブレードを確りと握り締めたアニキは、体を屈ませて勢いを付け、素速い高速移動を行った。その速度は中々のもので、五メートルはあろうかという距離を瞬く間に縮めた。
素速い動きに虚を突かれたのか、シルヴィアの反応が一瞬遅れてしまった。その所為で回避には間に合わないと判断したのか、シルヴィアは魔法で前方に二メートル四方程度のバリアを張った。すると数瞬後、アニキの持つロングブレードが勢い良くバリアに叩き付けられた。幸いなことにバリアが破壊されるという事はなかったが、男が全力で振ったにしては音が軽かった。
無論シルヴィアはそれに気が付いた。しかし、その原因を突き止めるよりも先に足を取られたのだ。初めてのアイススケートで転倒してしまったように、背中から倒れるように転んでしまったシルヴィアは、転ぶ瞬間に鈍い痛みを発した右足首を見た。そしてそこには、アニキの左手から伸びている細いロープが伸びていたのだ。
実はアニキという男は、斬り付ける瞬間までは柄を両手で持っていたが、バリアにロングブレードを叩き付ける瞬間に左手を離し、袖の中に隠していた仕込み縄を使ってバリアの張られていないサイド側から狙い、シルヴィアの右足首に縄を括り付け、思い切り引っ張って転倒させたのである。アニキは男。シルヴィアは女であり、体重は40キロと少ししか無い。となれば、大の大人が引っ張ればあっという間にバランスは崩すだろう。
大きな隙が出来てしまったと、シルヴィアはアニキからの追撃を恐れてバリアの範囲を大きくした。しかし、相手は1人では無いのだ。アニキは所詮攻撃が通るだけの隙を作るために特攻していったに過ぎない。本来の狙いは、避けづらくする事にある。
「オレ達は女でも容赦しねぇんでな!」
「──────ぶっつぶれろッ!!」
──────…っ……やはり、私とは違って戦い慣れている方達っ。ですが…無理を言って同行を許してもらった以上…!私なんかのために、一緒に頭を下げて下さったクレア様の為にも…負けられません!
「──────『
「ほう…。風の上級魔法か。確かに内包する魔力に相応の実力は有るということか。だが、此処にはクレアという風魔法最強の者が居る。そう簡単には肥えた我の目を満足させられぬぞ?まぁ…
アニキの背中を踏み台にし、下っ端が跳び上がってシルヴィアの張ったバリアを、上を通過することで抜け、重力を味方に付けた振り下ろしの攻撃に入った。華奢な体型をしているシルヴィアが当たれば致命的ダメージにもなるだろう。況してや今は転ばされて仰向けになってしまっているのだ。さぁどうなるとなった瞬間、シルヴィアの目には、此方を見ているクレアが映った。
本当ならば絶対に連れて行ってはくれないところを、連れて行ってくれるように説得までしてくれたクレア。その期待にも応えたい。そしてこのチームの単なるお荷物ではないのだと、せめて足手纏いにはならないところを見せようと、シルヴィアの胸の内に根気の炎が灯った。
風魔法の中でも上級とされる
曰く、この魔法は普通の魔導士に当てれば、体中が細切れになって原形を留めていられなくなる程の欠損ダメージを与える、危険な魔法でもあるとのこと。だが、それは本気で放ってノーガードで命中した時に於ける理論上の話だ。シルヴィアは勿論、二人組を殺すつもりなど無い。故に彼女は、
しかしそれでも、上級魔法の威力はかなりのものだ。例え必要最低限の魔力で放ったとしても、一般の魔導士には大ダメージを負わせることが出来る。だが、大槌を構えている下っ端も、唯やられる訳では無かった。流石はトップクラスのトレジャーハンターを名乗るだけはあるということか、下っ端は
魔法と武器の衝突によって、衝撃波の波が発生して周囲の木々を大きく揺さ振る。アニキの前にはシルヴィアのバリアが有ったのだが、魔法と武器が衝突する刹那に解除し、アニキも衝撃波を全身で受けることとなった。
トップクラスのトレジャーハンターであるからか、持っている武器もトップクラスの性能を誇るらしく、まず邪魔にならないようにコンパクトな形に出来、その耐久力は折り紙付きだろう。それは加減されているとはいえ、上級魔法を正面から受けて傷一つ無いところを見れば解るというもの。
ぶつかり合う魔法と武器であったが、競り勝ったのは下っ端の方だった。最後まで振り切って
何処へ行ったと周囲を見渡している下っ端を余所に、アニキは驚いていた。シルヴィアの右足首に巻き付けた縄が途中で切れていたからである。何時の間にか切断され、逃げられてしまったのだ。当然、持っている武器が高性能ならば、その他に持っている小道具等も優秀な性能を持つ。先程巻き付けた縄は、細い鉄の縄を織り込むことによって更なる耐久力を持ち、直径5ミリ程度しか無い細さにも拘わらず一トンまでの重さに耐えられる。それを切断したのだ。
一体何時それを実行したというのか、という疑問だが、シルヴィアは
その結果がアニキの巻き付けた縄の切断である。それも、足首に巻き付けられた縄を切断する為の、たった一つの鎌鼬の鋭さを上げて、アニキに察知されないようにさり気なく放ったのだ。的を外せば己の脚を切断する事になるというのに、シルヴィアは遣り遂げたのだ。これは魔法を放つ難易度よりも更に上のコントロールが必要とされる。
「あの女どこ行きやがった!?」
「縄を切りやがった…!おい!まだ見付かんねーのか!」
「すいやせんアニキ。どこにも居やしません!」
「──────『
「はっ?─────ごはッ」
「なっ?─────ふべッ」
武器を構えながら周囲を見渡していた二人組に、真っ正面からシルヴィアの声が響いた。そして二人組に同時にぶつけられたのは、風のバリアであった。突然バリアを顔から叩き付けられた事により、両名は後方へと吹き飛ばされていった。そしてその後、何も無かった場所に、忽然とシルヴィアが姿を現したのだ。
どうやって姿を消していたのか。それは自然界でも見られる蜃気楼と呼ばれるもので説明が付く。蜃気楼とは、密度の異なる大気の中で光が屈折し、地上や水上の物体が浮き上がって見えたり、逆さまに見えてしまったりする不思議な現象の事である。光は通常直進するのだが、密度の異なる空気があると、より密度の高い冷たい空気の方へ進む性質がある。
シルヴィアはそれを利用し、密度の高く冷たい空気を自身の周りに覆うように展開し、光を屈折させた。それによって光がシルヴィアを避けるかのように曲線を描いて屈折し、奥の何も無い風景がそこに在るように見えたのだ。そして姿を眩ませたシルヴィアは、杖に再度魔力を籠めてバリアを作り出し、叩き付けたのだった。
「クソッ…いってぇ……」
「鼻っ…鼻がぁ…!」
不意を突くことに成功したシルヴィアだったが、身体能力も高い二人組は、空中で一回転すると危なげも無く足から着地した。少々顔に痛みがあるが、そんな者は壁に気付かず歩ってぶつけた時のような程度の知れた鈍い痛みだけだ。到底倒しきれるほどのダメージを与えた訳では無かった。
だがそれで良かった。その程度でも良かったのだ。問題は…そう。二人組が
「──────『風魔の結界』発動っ!」
「なん…っ!?何だこりゃ!?」
「あ、アニキっ!?出られませんぜコレ!?」
突如、二人組を囲う風の結界が出現したのだ。何も無かった場所に忽然とハリケーンのように発生した小規模の竜巻とも言える結界が、二人組を呑み込んで動きの制限を掛けたのである。二人組は思う。何時こんな魔法を放ったのだ…と。そんな予備動作も何も感じなかった上に見ていないと。だが、それもその筈、その時二人組は余所見をして別の魔法に気を取られていたのだから。
種明かしをすると、この風の結界が仕掛けられたのは
後は此方に向かって来てばらけてしまった二人組を、どうにか一カ所に集め、同時に元の場所へと無理矢理押し込んだのである。そしてその時がきたので、予め仕掛けておいた魔法を発動し、風の結界というなの檻の中に閉じ込めたのである。だが、攻撃はコレだけでは終わらない。
風の結界を仕掛けると同時に、もう一つ仕掛けた魔法がある。それが、今回で一番重要な魔法であったのだ。
シルヴィアは第二の魔法を発動させた。すると、足元に緑色の魔法陣が姿を現した。次第に魔法陣は光り輝き、多大な魔力を放出し始めたのである。コレは危険だと察知した二人組だったが、いくら武器を叩き付けようと風の結界は健在、アニキが縄を木々の枝に伸ばして回避しようとするも、風の結界によって遮られて弾かれるのだ。
ならば上ならどうかと視線を向けた二人組は、表情を凍らせた。何故ならば…上からナニカが墜ちてきていたからである。だが、それには見覚えがあった。それはそう…シルヴィアが
「おい!分かったっ!降参だ降参ッ!だから魔法を止めろおぉッ!!」
「オレ達の負けでいいから止めてくれぇ!!」
「えっと…ごめんなさい。風に遮られて良く聞こえないんです。けど…私も負けるわけにはいかないんですっ──────『
二人組の足元の魔法陣が限界まで光り輝き、大きな爆風を起こして爆発した。足元からの爆発だが、周囲に展開された風の結界が爆発の衝撃を飛び散らせること無く、上へと力の向きを変更させる。それにより、二人組は凄まじい勢いで上空へと吹き飛ばされていったのだ。そして近付く巨大な魔力球。二人組が回避出来る可能性等、万に一つも無かったのだ。
精密な計算とコントロールによって、打ち上げられた魔力球は、時間を置いてから落下を開始し、風を受けることによってその風を吸収し、威力と規模の大きさを上げていったのである。
コレから起きるのは、完全にシルヴィアの勝利であると言える現象である。打ち上げられた二人組は、墜ちてくる巨大な魔力球と接触を果たし、上空で2回目の大爆発に捲き込まれたのであった。
「クッソおぉ───────────っ!!」
「覚えてろよおぉ──────────っ!!」
空の彼方へと吹き飛ばされていき、捨て台詞と共にキラーンと星になって消えたのだった。それを見ていたシルヴィアは、どうにかこうにか勝つことが出来た事にホッとすると共に、この勝利は自分だけでは為し遂げられないものであるということを解っていたのだ。ソレが無ければ、恐らくシルヴィアは勝つことは愚か、接戦に持っていくことすら出来なかっただろう。
「……っ…はぁっ…はぁっ……うぅ…っ!」
「あ、おい!」
「焦らなくとも案ずる事は無い。あれだけの威力を内包した魔法を連続使用したのだ。単なる急激な魔力消費による疲労だ。暫し休息を取れば問題は無い」
「……中々の…戦い方…だった」
「頑張ったね!」
息切れを起こしたシルヴィアは、崩れるようにその場に座り込んだのだ。持っていた杖を支えにしていたシルヴィアに、クレアが駆け寄って肩を貸した。リュウマは冷静に坐り込んだ原因を特定した。リュウマの眼には今、シルヴィアの残りの魔力が可視化されており、最初に比べて十分の一程度しかないことを視て知っているのだ。
クレアに肩を借りて弱々しそうに立ち上がったシルヴィアにリュウマは近付き、その細い肩に手を置いた。その瞬間、シルヴィアの体に膨大な魔力が流れ込んできたのだ。驚いて瞠目し、体をビクリと震わせていると、クレアがシルヴィアから離れた。突然離されたら倒れる。そう思ったシルヴィアだったが、彼女は倒れること無く自分の足で立っていたのだ。
不思議そうにしているシルヴィアだが、直ぐに気が付いた。あれだけ大量に、それこそ9割方の魔力を消費したにも拘わらず、今では体中から溢れんばかりの魔力が満ち満ちていたのだから。無論、その原因はリュウマである。純黒なる魔力とは違い、数々の色の魔力を模倣する事が出来るリュウマは、シルヴィアの薄緑色の魔力に合わせて己の魔力を変化させ、シルヴィアへと魔力を譲渡したのである。
序でに転倒した際に出来た手の平の擦り傷等も完治されており、今では戦う前よりも体調が優れていた。リュウマからしてみれば、S級にすら匹敵する魔力等、たかが知れてる程度のものでしかないのだ。それも失った魔力もコンマ5秒さえあれば魔臓器が創り出して回復させるのである。
「ありがとうございます。そして重ねてありがとうございました。リュウマ様やバルガス様、クレア様が彼の方々を挑発してくれたお陰で隙を突くことが出来ました」
「その程度しなければ、貴様は十中八九手も足も出んぞ。あの小僧共はアレでもトレジャーハンターギルドでもトップクラスを名乗っていたのだ」
「……挑発して…直線的な動きにする…それは…戦いに於いて…基礎中の基礎…覚えておくと…いい」
「まあ無駄に挑発はしたが、本心だけどな。あの程度のクソガキがオレ達相手しようってのは余りにも無謀だ。それに、オレ達がやったら加減難しくて最悪殺しちまう」
「そうなると我の妻達が喧しいのだ。何故か闇では無い正規ギルドの者を殺したことが知られる。………本当に謎だ」
リュウマ達が二人組をらしくも無く挑発していたのは、シルヴィアが戦うときに短絡的な戦いを起こすように仕向ける為であった。真っ先に挑発を開始したリュウマの意図に素早く気付いて察したバルガスとクレアも、リュウマと同様に二人組を挑発したのである。3人は最早アイコンタクトをしなくとも察し合える仲であるので、言葉も必要無いのである。
シルヴィアはリュウマ達が態々やりやすい場所を提供してくれたことに気が付いて、思い切った作戦に出たのである。本来の二人組ならば、両者が同じものに目を奪われる事も無く、まんまと術中に嵌まることも無かった。しかし、勝ちは勝ちである。確りとリュウマ達による後押しを利用して戦いに挑み、勝利を収めたことが重要なのだ。
「シルヴィア。貴様を合格と見なし、我のチームに同行するだけの力量、そして智恵があるものと判断し、改めて同行を許可する」
「あ、ありがとうございますっ」
「但し、我の命令に逆らうことは禁ずる。そして貴様はクレアの監視下に居ることを命ずる。これは先も言った通りだ。良いな」
「はいっ!よろしくお願いしますっ」
「クレアも良いな?もし仮に、シルヴィアに傷を負わせた場合、お前の身体の性別を反転させ、その容姿に合わせた性別にする」
「おう。任せろ…………はぁ!?オレ女にされんのか!?お前マジで巫山戯んな!?」
「……責任…重大」
「お父さんっ。ボクは!?ボクは何すればいい!?」
「イングラムは…そうだな。シルヴィアの傍で虫から守ってやれ。これから先には刺されれば高熱や下痢、嘔吐等といった症状を催させる虫がいる。それらが近付けんように傍に居てやれ」
「分かったーー!よろしくねシルヴィア!」
「わっ…!よろしくお願いします、イングラム様」
「うんっ」
「オイ!オレの性別反転の話終わってねェぞ!!」
「良し。先ずは北を目指すぞ。目標は20キロだ」
「ちょっと待てやァ─────────ッ!!」
叫び騒ぐクレアを余所に、リュウマ達は先へ進み、目的の地へと向かって目指すのであった。因みに、リュウマは本気でクレアの性別を反転させるつもりである。有言実行。良い言葉。
「い…いってぇ………あの女ァ…!」
「痛てて……らしくないやられ方しましたね、オレ達。で、アニキ…オレ達どうしやす?」
シルヴィアの魔法によって星に変えられたトレジャーハンターの二人組は、今絶賛器に引っ掛かって逆さ吊りになっていた。二人組は頭に血が上っていた事を反省しながらも、悪徳を付いていた。
「決まってんだろ!アイツら追い掛けるんだよ!この魔道書だって専門の奴に見せて回って一年間、結局解読すら出来なかった。っつーのにあの翼がある男、コイツをたった半日で解読して秘密も解きやがったッ!!クソッ!絶対お宝はオレ達が先に見付けて手に入れるっ!」
「でもどうやるんです?あの女には今度は負けないとして、その他の奴等は多分めちゃくちゃ強いっすよ」
「アイツらに関することは情報屋に聞いとけよ。それにアイツらと必ず戦わなきゃいけねぇってわけじゃねぇ…。アイツらには道案内をさせて、お宝の所まで辿り着いたら横から掻っ攫っておさらばだ!!」
「おお!いいっすね!あと、アニキがそう言うと思って、先に情報屋の所に連絡送っときやしたぜ。…おっ!?返信が来ました!」
「よし、どういう情報だ」
薄型の連絡用ラクリマを通して、独自のルートで関係を持った情報屋と下っ端が交渉し、リュウマ達に関する情報が送られてきたのだ。それを教えろというアニキに、下っ端は冷や汗を多く流しながら、送られてきた情報をアニキに教えるのだった。
「あの…一番巨大な図体してる男はバルガスって男で、今までに傷を負った事が無い、意味の分からない防御力を持った男だそうで、持っているハンマーで大陸に巨大な地割れを作ったとか…。そして女みたいな奴は実は男で、名前はクレアっていうらしいっす。近年良く起こる歴史上最高記録を大きく更新した巨大サイクロンを作った張本人だそうです」
「なんだ…そりゃぁ…?」
「そして…一番ヤバいのが翼の男ですぜ…名前はリュウマ。この男が魔力を解放した時、瞬間的に記録したエーテルナノ濃度が大凡800億イデリア…27億イデリアが世界中の魔導士の魔力を掻き集めた時の数値らしいっす…しかも、構成人数300人の闇ギルドの人間を瞬く間に全員殺して…そのギルドの天井に全員首を吊したとか…他の国から暗殺者を送られたらしいっすけど、心臓と脳味噌抉り取って送り返したらしいっす。とにかく、この男が一番残忍で冷酷で…容赦が無い…って」
「800億イデリア…?な、何かの冗談じゃねぇのか!?」
「エーテルナノに関する専門機関が計測した結果らしいので、間違ってる事は無いだろうって…見付けたら絶対に手を出すな、殺されるぞって…しかも……」
「な、何だよ……」
「あれは……人間の皮を破った化け物って…」
「……作戦に変更はねェ…但し接触は無しで、お宝を掻っ攫って直ぐに離脱する。いいな?」
「……はいっす」
その人間の皮を破った化け物と対峙し、あの時殺すとか殺さないとか聞こえた単語が、実はかなり重要な事だったという事に気が付いた二人組であり、接触は断とうと決断した瞬間であった。