FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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第 ৪ 刀  数ある中唯一の唯一無二

 

 

「なぁオイ。まーだ着かねぇのか?」

 

「その台詞は5分前にも訊いたぞクレア。お前に甲斐性は無いのか?」

 

「ボクに乗ってくー?」

 

「……甘やかすのは…良くない。クレアは…最近…運動不足」

 

「もう少し歩きましょう?クレア様っ」

 

「……ちぇっ。わーったよ。けどよ、目的の町見えたら直ぐに──────」

 

「ほれ、町が見えたぞ」

 

「目と鼻の先かよッ!!」

 

 

 

登り坂のような道を進んでいた所為か、町が距離にして1キロ程度しか無いという事に気が付かなかったクレア。後どれ位歩かなければならぬのか…と、思い始めて早3時間。やっと休憩出来る場所へと辿り着いたと、安心からくる溜め息を溢した。別に本当に疲れている訳では無いが、歩きっぱなしだと精神的につまらなく、最もたる要因は、一々展開されるボケに対するツッコミである。

 

シルヴィアが初めての野営を行い、その日から既に3日が経った今現在。当初の第一の目標としていた、標高が六千メートルを越える山の麓付近にある町を目指していた。リュウマという優れすぎたナビゲーターが居るため、万が一の迷子という事件は起きず、実力差も解らない猛獣に遭遇しようと、バルガスという最前線の戦闘員が瞬く間に蹴散らし、シルヴィアの傍には常にクレアとイングラムが控えている。万が一どころか兆が一という危険の可能性も無い、安心安全の旅が送られていた。

 

食事に関しても、野に生えている草を食べたりするのではなく、リュウマは食べられるか否かを確りと調べ、栄養バランスも整えられて考慮された食事が、1日3食出て来るのだ。しかもそれは絶品ときた。そこらのツアーでの旅なんかよりも余程安心で快適な旅である。だが、そうなってくると、シルヴィアにとってはある意味死活問題である。

 

理由としては、何もやることが無い…ということになるからだ。戦いに関しても、認めてもらったは良いが、バルガスと比べられたら、間に何枚もの越えられない壁がある。料理もリュウマ程美味く作れる訳でも無ければ自信も無い。依頼者の娘であるからこそ、クレアというお目付役が居て、護衛を拒否することなど以ての外。では如何すればと考えて至ったのは、小さなお手伝いであった。

 

例えば、眠る場所であるテントの組み立て。これはバルガスがやっていたのだが、やり方を教えて貰い、自分でも建てられるようになった。食事の準備。これに関しては、リュウマが魔力操作で調理と同時進行で行っていたが、やらせてくれと願い出て、フォークやスプーン、食後の食器洗い等をやらせてもらえることになった。後は、何時も肩に留まって、自身の身の安全を守ってくれるイングラムの身体磨き等である。

 

こうして、シルヴィアはどうにか、旅に同行するだけのお荷物という肩書を背負うこと無く、立派な同行者になっていたのである。尚、ふんすと意気込んで張り切っていたシルヴィアを見て、クレアは苦笑いをしていた。

 

 

 

「さて…町にも着いた事だ。必需品の調達をするとしよう。ナハトラで胡椒を買っておくのを忘れてな。残り少なかったのだ。この残りでは肉の味付けが一つ減る…それは由々しき事態だ。良いな」

 

「はいはいわーったわーった」

 

「……固まって…行動…するのか?」

 

「いや、折角だ。ここは各自で思うように散策すれば良かろう。取り敢えず我うぶっ…!?」

 

 

 

(あるじ)──────っ!!」

 

 

 

「おぉ?アルディスが勝手に出て来たぞ」

 

 

 

話を続けていたリュウマに、覆い被さる影があった。それはリュウマの最強の眷属である、アルディスであった。ある時に、見上げるほどに巨大な神狼の姿だけでなく、人間の形態も取れることを教えるや否や、こうして人型で勝手に出て来るようになったのだ。しかし、ちゃんとリュウマの言い付け通り、人が集まる場所では面倒な騒ぎにならないよう、人型で出て来いという指示に従っていた。

 

400年前、地上も大空も支配していたと謂われるドラゴン。それを置き去りに圧倒的力にものを言わせ、森という領域(テリトリー)の最奥にて座していた伝説の神狼である。その強さは、暇潰しで彼のドラゴンの屠る程の力。リュウマ達が居なければ、確実に世界を手中に収めていたであろう者である。

 

 

 

「主っ。あぁ…主の……雄の匂い…良い匂いだ……うぇへへ」

 

「おい、アルディス。顔に乳房を押しつけるな、前が見えん」

 

 

 

こんな姿を見れば、本当にそうなのか疑わしくなるが。

アルディスは勝手に出て来た瞬間にリュウマへと飛び掛かり、頭を自身の豊満である胸に押し付け、そのまま両手両足を使ってガッチリとホールドし、抱き付いていた。後ろに数歩後退しながら受け止めたリュウマは、落ち着くようにアルディスの肩をタップするが、件のアルディスはリュウマの匂いを嗅いで夢心地になってしまっていて、全く聞く耳を持っていない。

 

はぁ…と、仕方なさそうに溜め息を溢したリュウマは、ハートを乱舞させて尻尾を振っているアルディスの、頭頂部に生えた美しい銀髪の獣耳をむぎゅっと鷲掴んだ。すると、嬉しそうに振っていた銀毛の尻尾が、忽ちぴんッとなって硬直し、アルディスは身体を強張らせた。

 

 

 

「はぅっ…あ、主っ…そこは」

 

「一度離れぬか、アルディス」

 

「あっあっあっあっ♡しょ…しょれはぁ…んんっ…ぁっ…はぁっ…!くぅーーーーーーんっ!」

 

 

 

掴んだ獣耳を親指と人差し指で挟んで扱くように擦り上げると、アルディスの身体には電流が流れたような感覚が迸り、身体を硬直させた。身体の周りにハートを乱舞させていたアルディスは、その快感に酔い痴れる。周囲に乱舞させていたハートは直ぐに鳴りを潜め、その代わりに主であるリュウマと同じ黄金の瞳の中に、大きなハートを作っていた。

 

ここだな…と、見切りを付けたリュウマは、右手を獣耳から離し、臀部の上、腰の辺りに生えた銀の尻尾の根元を掴み、先端に掛けて擦った。すると、アルディスはリュウマを思いっきり抱き締め、びくんと大きな痙攣を三回ほど繰り返し、掴まっているだけの気力が無くなったのか、真後ろへと崩壊する塔が如く倒れていった。

 

後ろへ倒れていくことは解りきっていたリュウマは、両腕を腰に回してアルディスを抱き留める。腕の中でくたりとして恍惚とした表情をし、小さな痙攣をしながら凭れ掛かってくるが、その姿は実に煽情的で妖艶である。しかもそこに獣耳と尻尾がプラスされた美女という要素も追加すると、自然と人目を集めてしまう。最も、リュウマはそんなもの全く気にしていないのだが。

 

バルガスとクレアはいつも通りだなと、呆れた表情をしているが、シルヴィアには刺激が強かったようで、顔を両手で押さえ、真っ赤な顔を隠している。しかし、それでも指の隙間からチラチラと見ているのを考慮すると、そういう事に興味を惹かれる年頃と言えるのだろう。

 

 

 

「はっ…はっ…♡あるじ…大好き」

 

「解った解った。その前に己が脚で立て。何用で勝手に出て来た?」

 

「……っ!…んんっ、そうだった。大事な用が有った」

 

 

 

何の用事があったのかと問われると、恍惚とした表情からハッとした表情に早替わりし、至極真面目な表情をした。だがリュウマは解っていた。何かの一大事でもなければ、真面目な話でも何でも無いと。何かの一大事なのであれば、アルディスは自身の力のみで解決するほどの力が有る。真面目な話だとしても、リュウマの眷属用の世界に居るというのに、何かが起きるということは有り得ないからだ。

 

 

 

「主!私とでぇとをしよう!」

 

 

 

「ぜってーそうだと思った」

 

「……予想の…範疇を…出ない」

 

「アルディスはお父さんのこと大好きだからね!」

 

「えぇっと…クレア様、この方は…?」

 

「あぁ。コイツはアルディス。リュウマの眷属で、本当の姿はでけェ神狼なんだが、人の姿も取れる奴なんだわ。触ろうとするなよ?コイツはリュウマ以外の奴が触れようとすると、いきなり殺しに掛かるから」

 

「な、なるほど……解りました」

 

 

 

これでもかとリュウマの胸に顔を擦り付けているアルディスの、頭頂部に生えている獣耳や尻尾に興味が有るようで、シルヴィアは触りたそうにしていたが、予めクレアから警告されたことによって断念した。これはシルヴィアに限らず、フェアリーテイルでも言える事で、リュウマの仲間だと言っても、アルディスの主であるリュウマと、同じ眷属であるイングラム以外からの身体接触を極端に嫌がるのである。なので、今でもアルディスに触れることが出来た者は皆無である。オリヴィエ?彼女は一番嫌われている。

 

でぇと、でぇとと言いながら身体を擦り付け、匂いを嗅ぎカながら匂いを付けまくっているアルディスと、流石に鬱陶しいと引き剥がそうとして四苦八苦しているリュウマ。別にデートするにはいいのだが、肝心の買い物があるので、素直にうんとは言えないのである。その事を伝えて次回に持ち越そうとしたリュウマだったが、そんな彼の肩にバルガスが手を置いた。

 

 

 

「……ここ最近…アルディスに…構って…いない…行って来い」

 

「だが、この町で購入しておかねばならぬ物が……」

 

「……それならば…余と…イングラムで…買い足して…おく。心配は…無い」

 

「む、然様か……ならば頼んだ。目当ての物はこの紙に書いておいた。それを購入しておいてくれ。それと、イングラムは手伝いの駄賃として好きな物を一つ買ってきて良いぞ。金も渡しておく」

 

「わーーい!なに買おっかな~?♪」

 

「話は終わったか!?なら早く行こう主!」

 

「おい待て、そう引っ張らずとも良い。では、各々用事を済ませた後、あの宿に集合だ。今日はこの町で一泊する故な」

 

 

 

それだけ言うと、リュウマはアルディスに手を引っ張られながらその場を後にした。件の引っ張っているアルディスと言えば、数日振りの主との交流あってか、爛々とした笑みを浮かべながらスキップでもするような軽やかな足取りだった。バルガスは、折角デートの行くのだから二人の方が良いだろうと、二人だけになるようにしてあげたのだ。イングラムは勿論、バルガスのその意を確りと汲んでいた。出来る子である。

 

バルガスは、リュウマがアルディスに引っ張られながらも、魔法で文字を焼き付けた買い物リストの紙に視線を落とし、先ずは何から買うか判断し、ここから一番近い八百屋に行くことを決めた。そして大方のルートを決め終えたら、肩にイングラムを乗せ、クレア達に振り返った。

 

 

 

「……そういう…事で…余と…イングラムは…買い物に…行ってくる」

 

「クレアとシルヴィアは二人だよ!」

 

「は…?オレ達だってその買い物に付き合って──────」

 

「……では…また…後程」

 

「ばいばーい!」

 

「訊けよッ!?」

 

 

 

クレアの叫びに反応すること無く、肩に乗ったイングラムとバルガスは、市場の人混みの中へと消えていった。何か態とらしい位人の言葉に聞く耳持たなかったな…と、思っていたクレアは察する。態とらしい位ではなく、十中八九態とクレアとシルヴィアを二人だけにしたのだ。そして何と言ってもバルガスの最後の行動だ。人混みの中へ消える時に踵を返した瞬間、無表情でウィンクしたのだ。

 

リュウマは謀らずしてアルディスに連れ去られてしまったが、バルガスと空気を察したイングラムは確信犯である。握り拳を作って肩を震わせているクレアだったが、仕方ないと言わんばかりに小さく溜め息を溢した。別にバルガス達の策略に則る訳では決して無いが、今はシルヴィアと二人で行動をする事にしたのだ。そう、仕方なくなので、少し上がった口角等は無いのである。決して。

 

 

 

「んじゃ、オレ達は適当にぶらつこうぜ。そんで服屋を見付けたら防寒服を買う」

 

「……本当によろしいのですか?私なんかの為に服を買って頂いても…」

 

「遠慮すんじゃねェよ。オレが後押ししたンだぜ?しかもリュウマから世話役に任命されてっしな。そんぐれェの面倒ぐらいは見るわ」

 

「…ありがとうございます。このご恩は必ず」

 

「別に要らねぇけどな。ま、取り敢えず行くか」

 

「はい!」

 

 

 

クレアとシルヴィアは、並んで適当な道へと入って歩みを進めていった。そんな2人の後ろ姿は、美少女二人組に見えることを除けば、デート真っ只中と言っても過言ではないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ…!このワンちゃん可愛いです…!」

 

「おう嬢ちゃんお目が高いね!その子は躾もなってるから良い子だぞ?ちっとお高いがな」

 

「この子はおいくら位なのですか?」

 

「そうだねぇ…まあ20ぐらいかね」

 

「20万Jですか…やっぱりお高いですね…」

 

「躾されてる犬猫なんつーのはそんくらい何じゃねーの?オレからしてみたら20万も100万も殆ど変わんねーけどさ」

 

「そっちの嬢ちゃんはお金持ちの出なのか?なら一匹どうだい?」

 

「……おいテメェ。今オレの事嬢ちゃんっつったか?えェ?オイ。足元のクソ犬ごとぶち殺──────」

 

「店主さんありがとうございました!行きましょうかクレア様!!」

 

 

 

シルヴィアは焦ったように眺めていた仔犬から目を離し、急いでクレアの袖を引っ張ると店から出て行った。突然急ぎ足で出ていくもので、店主は呆然としたまま見送ったのだった。

 

ぶらりと歩くウィンドウショッピングを開始してから1時間程経過した今現在まで、クレアとシルヴィアの容姿に釣られてナンパをしてきた男は数知れず。しかも容姿が飛び抜けて(女性的な意味で)美しいクレアを、男共が放っておく筈も無く、直ぐに声を掛けてくるわ、リードしようとするわ、果てには一目惚れで結婚の申し込みをする猛者まで居た。

 

だが、その者達はクレアが男であるとは露程も思わず、そして肝心のクレアは女扱いされることを一番に嫌う。勿論、見た目がチャラい3人組の男達がしつこくクレアを口説こうとし、シルヴィアにまでその魔の手が伸びようとした時、シルヴィアの前だからと我慢を続けていたクレアの堪忍袋が捻じ切れた。

 

余りにもしつこく、粘着質に声を掛け、果てには無理矢理連れて行こうとした男の手首を捻じ上げて鳩尾に膝蹴りを叩き込み、痛みで顔を俯かせた男の後頭部を持って下に下げ、そのまま顔面目掛けてもう一度膝蹴りを叩き込んだ。大量の鼻血を噴き出しながら気絶した男を地面に落とし、頭に足を載せて虫を潰すかの如く踏みにじった。それを見ていた仲間の男2人が激昂し、クレアに掴み掛かるが、容易に身体を翻して躱すと、2人の男の後頭部に手を置いて、地面へと思い切り叩き付けた。

 

あっという間に気絶させられた男3人組はそれだけでは終わらせてもらえず、直ぐそこにあった路地へとクレアに引き摺り込まれていき、全身数箇所にも及ぶ複雑骨折に大量の打撲を負う重傷にまで半殺しにされた。そんな光景を見てしまったシルヴィアは、もう他に犠牲者は出すまいと、懸命にフォローしているのである。故に、先程のペットショップの店主は、言葉通り売り物の犬諸共殺されかけたのである。シルヴィアの尽力もあって未然に防げたが。

 

 

 

「はぁ…クレア様?そう無闇に人を傷つけてはいけませんよ?あの店主さんは善意で聞いただけで、悪気は無いんですからっ」

 

「……チッ。わーったよ。つか、ほんと何なんだよ。オレはあと何回ナンパにあえばいいワケ?本気でイライラすんだけど」

 

「仕方ないと思います。クレア様は本当にお美しいので……」

 

「ハァ?ったくよォ。仮にオレが女だとしても、普通口調でアウトだろォがよ。つか、それならオレからしてみりゃあシルヴィアの方が美人だろ。オレみてぇに仏頂面じゃねぇし、表情豊かだろ?それに気配りも相当出来てフォローが上手ぇじゃねぇか。スタイルだって良いもん持ってんだし、女としてのレベルは比べる間でもねぇ。オレがナンパする側だったら先ず間違いなくシルヴィアを口説きにかかるだろォよ。容姿に釣られるのは阿呆がする事だわ。やっぱり女は中身だろ中身。その点シルヴィアは容姿も優れてりゃあ性格だって良いんだ、普通はシルヴィアを──────」

 

「う…うぅ…その……クレア様…つ、次に行きましょう?わ、私あのお店に行ってみたいでしゅ…あぅ」

 

「ん?おう、別に良いぜ。じゃあ行ってみ……何でそんなに顔赤くして……あ」

 

 

 

 

頭が良いのは、時として考え物である。その所為で察しが良く、シルヴィアが何故顔を林檎のように真っ赤にしているのか気付いてしまい、瞬時に自身が今行った言葉を一語一句間違わず思い返すことが出来てしまうのだから。

 

意図せずシルヴィアの良いところだけでなく、クレアから見て好印象の部分を曝け出しつつ、褒め殺してしまったのだから、これは大変困った。どの位困ってしまったかというと、人との交渉術等を磨いて王然りとしたポーカーフェイスも持っているクレアが、恥ずかしさで顔をほんのり赤くしてしまう程である。

 

美人の恥ずかしそうな赤面というのは、何時如何なる時、どの時代であろうと画になる。それが2人も居て横並びしていれば、自然と視線を集めてしまう。そうなれば恥ずかしさは倍増も良いところである。視線にも敏感なクレアは、見ずともそれを察し、早くこの場から離れるべく動いた。

 

 

 

「お、おい!あっちがなんか賑わってっからあっち行ってみんぞ!」

 

「ぁ…は、はい…っ!」

 

 

 

そしてその時、人混みを掻き分けるときにはぐれてしまわないようにと、自然とシルヴィアの小さく可憐な手を確りと握っていたことに、クレアは気付いていない。そしてシルヴィアは、買い物に来ていたマダムからの微笑ましそうな視線を受けて、耳まで真っ赤にしながら、もう少しだけクレアの手の感触を味わっていたいと…密かに想い馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まだ向こうみてェだな!」

 

「えっと…はい。その様ですね……それであの…クレア様?」

 

「ふぃー……ん?どうかしたか?」

 

「クレア様の手…温かいですね」

 

「は?……………のわあぁぁぁぁぁあ!?ち、ちちちちちちげーぞ!?これはその…テメェがはぐれねェよォに握ってやってただけだ!勘違いすんな!」

 

「ふふ……はいっ。解っていますっ」

 

「ぐっ……ケッ。まだ距離あっから、途中の店見ながら行くぞ」

 

 

 

悪態をついて進んで行きながらも、クレアはシルヴィアの手を離すようなことはせず、シルヴィアもまた、クレアの手を離すような事はしなかった。それどころか、シルヴィアの方からクレアの手を少し強く、きゅっと握り込んだのだ。その感触を感じながら、クレアも返すように少し強く握り込み、隙間の無い繋ぎをしながら、ウィンドウショッピングを続けていった。

 

クレアは400年前の王であったが、現代の物には未だ珍しさが勝ち、よく置いてある物を物珍しそうに見ていき、シルヴィアはナハトラから余り出ることが無かった事で、他の街に売っている代物が珍しく、また、やはりそこはお年頃の女の子、可愛らしい装飾の付いた装飾品や、家具等を基本に見ていた。

 

しかし、クレアは繋いでる手に少し引っ張られた。それは手を繋いでいるシルヴィアが進む足を少しだけ止め、ある品物を見ていたからである。クレアはそれを一瞬だけチラリと視線に収めると、歩みを進める速度を少しだけ落とした。シルヴィアは見ていた物から目を逸らすと、直ぐに先程と同じ速度へと戻っていったのだ。

 

そして歩きながらウィンドウショッピングをする事10分後、先程から賑わいを見せていた観客の集まりに辿り着いたのだった。

 

 

 

「さぁさぁさぁさぁ!!次の挑戦者はいないかねー!?参加料はお手軽の1000J!!挑戦者は誰でもオッケー!因みに最高値は私の隣にいる相棒のナウだー!!」

 

 

 

「チックショー!結構自信あったんだけどなー!」

 

「良かったぞーー!!」

 

「次頑張れよーーー!!」

 

「次の挑戦者いけーー!!」

 

 

 

「へー、中々の賑わいだな。なァ、これ何やってンだ?」

 

「ん?これか?これは力自慢だよ。つっても、腕力とかじゃ無くて、魔法の威力の力自慢さ」

 

「へぇ…?」

 

「あっ、もしかしてあれが…?」

 

 

 

 

到着したクレアとシルヴィアが見たのは、周囲を観客に囲まれながら、その中央で何かの装置と、その装置の傍でマイクを持って宣伝している全身金ぴかの服とハット帽という、大観衆の中でも一際目立つ服装と色のした男と、そんな男が小さく見えてしまうほどの巨体を持つ大男の存在だった。

 

クレアが他の観客から聞いた話によると、中央に立っている男達の傍に鎮座する装置、その名も魔力測定器といい、マジックパワーファインダーと代物だそうだ。恐らく察することが出来ると思うが、その装置は軍にも使用される装置で、あの大魔闘演武でも使用されたものである。思い出せない者は、大会でリュウマが完全に消滅させた装置と言えば伝わるだろう。

 

兎に角、それに魔法をぶつければ、魔法に籠められた魔力の代償によって数値が浮かび上がり、どれ程強力且つ、魔力が内包されているのか解るという優れ物である。因みに、聖十大魔道の岩鉄のジュラは8000オーバーであった。

 

このイベントには、浮かび上がった数値によって商品が変わる。観客の輪の外側に設置してある豪華絢爛な商品の中から、自由に選び出すことが出来、内容としては、数値が大きければ大きい程、豪華な賞品を手にすることが出来るというもの。しかし、既に20人程度の魔導士が挑戦しているものの、500より上に到達した者は居ないとのこと。

 

最高記録は、運営している金ぴかハット帽の隣に居る大男の記録で4823とのこと。この数値は普通に魔導士の中でもS級に至れるほどのものを持っていると言える。セイバートゥースの精鋭の内の一人であるオルガでさえ、3800だったのだから。

 

その説明を聞いていたクレアは、最初こそふーん…と、興味無さそうにしていたが、興が載ったのか、やる気になったのかは解らないが、誰も挑戦者が手を上げて立候補せず、誰も居ない空気の中で手を上げたのだった。

 

 

 

「おぉっと!?新たな挑戦者のお出ましだー!!さぁさぁ!壇上にお上がり下さいませ!」

 

 

 

「えっ…!?クレア様!?」

 

「ンじゃ、ちょっくら行ってくるわァ。ま、期待して待ってろよナ」

 

「は、はい……」

 

 

 

シルヴィアの手を離し、自然と人が割れた事によって出来た道を進んで行きながら顔だけ振り返り、ニヒルな笑みを浮かべて壇上へと上がっていった。連れだという事を考慮されてか、他の観客から一番前の特等席で見守ってやれという言葉に頷き、譲られるが儘に壇上の下の一番近い場所にてクレアの事を見守った。

 

 

 

「ようこそ挑戦者ァ!!お綺麗な貴女様のお名前をお聞かせ願えるかな!?」

 

「……クレア。あとオレ、男だから間違えんなよ」

 

「おぉっとそれはスミマセン!!では気を取り直して挑戦者クレア!お望みの商品は何かな!?商品は数値が1000の壁を越える度に豪華さを上げていき、9000以上ともなれば最早…このイベントに於いて伝説の称号を手に入れると同時に超超超超超豪華な商品を──────」

 

「──────関係ねぇ」

 

「差し上げ……はい?」

 

 

 

金ぴかハット帽の司会者の言葉を遮り、クレアは商品説明を聴かなかった。折角どの商品が欲しいのか聞き、目標数値を聞こうと思った司会者は出鼻を挫かれながらも、驚きでズレた金ぴかハット帽を元に戻してクレアにマイクを向け、それはどうしてなのかと問うた。

 

 

 

「数値何ぞ下らねぇ。要らねぇンだよ説明はよ。そんなもん──────9000代叩き出しゃあ関係ねぇ。テメェ等、目ん玉かっ開いてよォく見てやがれ。『本物』を見せてやらァ」

 

 

 

「「「「──────おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

「おぉっと!?クレア選手、まさかの9000以上を宣戦布告ーー!!私の相棒であるナウでさえ4800だったのを考えると、9000以上は怪物も怪物、大怪物の域だァーーー!!因みに、この装置は軍の保証を得ているので故障も無ければ不正も許されません!況してやここには魔法のスペシャリストである相棒のナウが居ますからね!よーし!ではクレア選手にいってもらいましょう!どうぞ──────挑戦…スタート!!」

 

 

 

クレアの堂々たる宣戦布告に観客が爆発した。もし仮に9000という数値を越える魔法があるならば、是非とも見てみたい。それが観客の想像を膨らませた。20人以上も挑戦してきて、未だに500以上の数値を上回った者すら居ないこのイベント。世の人々は強く大きい存在という者に情景を描き、求めるものなのだ。それがこんな場所で見られるともなると、期待せずにはいられない。

 

大勢の観客に四方八方を囲まれて見られ、シルヴィアに見守られる中、クレアが動いた。設置されたマジックパワーファインダーの元までゆっくりと歩みを始めた。その一歩を踏み出し、壇上を踏み締める度にクレアの周囲に膨大という言葉では表せない莫大な魔力が迸り、光を捻じ曲げ、奥の景色を無理矢理に歪曲させていく。まるでクレアの周囲だけ別次元に居るかのように錯覚させるその異常な景色は、今までの光景とは別物であった。

 

170にも満たない、男にしては小さなその体から解放され、溢れ出す青より蒼い美麗な超常的莫大な魔力。その全てが一瞬で鳴りを潜めたかと思うと、握り込んだ右拳に一点集中された。先程まで体全体を覆うように解放され、風景を歪めていた魔力が、拳に集束されて不穏な空気を生み出す。そしてその時がやって来た。

 

 

 

「クレア様!頑張って──────っ!!」

 

 

 

「おう──────オレに任せろやァッ!!」

 

 

 

魔力を籠めただけの拳を、マジックパワーファインダーに叩き込んだのだ。その瞬間、拳を打ち込んだとは思えない爆音が鳴り響き、衝撃波が観客を襲った。吹き飛ばされそうになる程の衝撃波を助け合いながら凌ぎ、帽子や日傘等が宙を舞った後、観客達が見たのは度胆を抜くものだった。

 

 

 

──────『9999』

 

 

 

9という数値が横並びに4つ。それがクレアの文字通り叩き出した数値であった。観客は瞠目して口をこれでもかという程まで大きく開き、驚愕を露わにしていた。心の何処かでは不可能だろうと高を括っていたからかも知れない。そんな華奢な体格では真面に魔法すら扱えないのだろうと侮っていたのかも知れない。そもそも、真面な数値すら出せないと嘲笑していたのかも知れない。だが、目の前にこうも簡単に出されると、思考というのは止まり、考えるよりも先に──────

 

 

 

「「「「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」」」」

 

「すげーーー!!!!」

 

「アイツすげーよ!マジで9000以上出しちまいやがった!!」

 

「しかもあれカンストしてんじゃん!!」

 

「生でこんな光景見れるなんて超ついてんじゃん!!」

 

 

 

「目ん玉に焼き付けたかテメェ等。『本物』ってのはなァ…相手ぶちのめすのに魔法何ぞ要らねぇンだよ。魔力でぶん殴りゃあ十分オーバーキルだぜ」

 

 

 

「クレア様……すごい…!!」

 

 

 

観客の大歓声に包まれる中で、クレアはシルヴィアに向かってサムズアップの仕草をしながら微かに笑い、どうだといわんばかりにウィンクを飛ばした。その表情が余りにも美しく、そして勇ましく、何と言っても輝いて見えて、シルヴィアの心臓は手で鷲掴みにされたかのように苦しくなり、全力疾走した後のように早鐘を打っていた。そして顔も段々と熱を帯び始め、急いで両手で隠すように覆って俯き、必死に熱を冷まそうとしていた。

 

そんなシルヴィアとクレアを余所に、違う意味で心臓よ早鐘を打っていた人物が居た。何を隠そう、このイベントの司会者である金ぴかハット帽の男であった。

 

 

 

──────な、何だとォ…!?あ、ありえねぇ…!何かの間違いだ!!あの装置にはこのオレ様が細工をして、本来の数値の0.5倍(半分)の数値が出てくるようにしてあったはず!!クソッ…こんな女みてぇなチビ野郎が、ンな大層な数値を出せる筈がねぇ!!それにこのままだと賞品を持っていかれちまう!!へっ…まあ、最初からお前等みたいな魔法が使えるだけのクソ共には豪華賞品なんか渡す気なんてねーんだよバーカッ!!

 

 

 

司会者の金ぴかハット帽の男は、所謂悪徳商法の男で、最初から豪華絢爛な商品の数々等渡すつもりは毛頭無く、手頃な1000Jという健全に騙されて挑みに掛かる、挑戦者という名の金ずるから、金を巻き上げていく計画だったのだ。そしてまだ一度も喋っておらず、金ぴかハット帽の傍に居る巨体を持つ大男は、確かに金ぴかハット帽の男の相棒でありながら、その昔『魔導士狩り』という名で知られていた相当に腕の立つ男なのだ。

 

金ぴかハット帽は、隣に立つナウと言われた大男に目配せをして合図を送ると、万が一の時の為にと予め決めていた作戦を決行するように指示を出した。大男は目配せによる合図に従い、クレアの元へと歩み進めていく。しかし、彼等は気付いていない。マジックパワーファインダーに仕掛けられた不正は()()()作動していた。それを現すのは──────

 

 

 

「貴様、今装置に魔力を叩き付ける瞬間に不正を働いたな。オレの目は誤魔化せ……ッ!?」

 

「オイ。このオレ(轟嵐王)を見下ろしてンじゃねェぞ?クソチビがよォ?」

 

「───ッ!?ぐッ……ぉ…ぁ゙あ゙……!」

 

 

 

少なくとも、先程打ち込んだ魔力は数値にして約15000は出ていたという事になるということ。

 

ナウという大男はクレアの目の前に立つと、丸太のように太い腕を持ち上げて肩に手を置き、万力のような力を籠めて痛め付けてやろうとした。だがしかし、その手は何時の間にか虚空を切っており、ナウという大男は胸倉を掴まれて無理矢理壇上の床に頬を付ける程押し込められていた。

 

それも、振り解こうにも全く体が言うことを聞かず、出来るのは少女のように細く可憐な腕によって、床に押し伏せられている事と、それを振り解く事も出来ず、土下座をするような格好でクレアを下から見上げることだけであった。2メートルを越える大男の体幹は今では、170にも満たない小さな体の更に下に位置し、温度を全く感じさせない冷徹な目線に見下ろされ、見下されていた。

 

 

 

「お、おい!何をやっている!?使えん奴め!君!君が今不正を働いたことは解って…ふぐっ…!?」

 

「オレが不正しただァ?アホ抜かすンじゃねェぞクソガキ共?こんなガラクタでこのオレの魔力を測りきろうってのが先ず烏滸がましいンだヨ。つか、不正してんのはテメェ等だろうが」

 

「か…かは…っ……何の……」

 

 

 

金ぴかハット帽の男は、大男のナウが押し伏せられている光景を見ると舌打ちをしながら悪態をつきながらクレアへと詰め寄った。不正を認めず、相棒に手を出したという事で軍に引き渡すぞと脅そうとしたのだ。しかし、金ぴかハット帽の男は、クレアの空いていた左手に首を掴まれ、足が浮き上がるほど上に持ち上げられて吊された。

 

懸命に解こうと藻掻くが、クレアの腕は全く小揺るぎもしない。しかも、大男のナウは胸倉から手を離された後、後頭部に足を置かれて足下に敷かれた。全身に魔力を滾らせ、無理矢理振り解こうとした瞬間、クレアが足を力ませた。すると、大男のナウの頭からミシリという嫌な音が響き、激痛が奔って急いで止めた。苦しげに呻き声を上げている大男のナウが、それでも魔力を使って抜け出そうとしようものならば、今頃壇上の床には粉々に散らばった頭蓋骨と、破裂したように撒き散らされた脳味噌があり、死体が1つ出来上がっただろう。

 

 

 

「知ってっかァ?魔力測定器には魔法が掛けられててよォ、その魔法が撃ち込まれた魔法の内包する魔力量を瞬間計測して、基となった基準魔力量を基点に魔力量を簡易的な数値として導き出して弾き出すンだぜ?」

 

「こ……こほっ……それ…が……!」

 

「つまり、魔力測定器にも魔法陣は刻まれてんだヨ。しかもその魔法陣は魔法を撃ち込まれたコンマ2秒の瞬間だけ浮き上がる。オレは『解除(ディスペル)』は苦手だが、魔法陣を読み取るなんて造作もねェ。リュウマ程早くはねェが出来なくはねェんだよ。ンでそん時に見えたのが()()()刻まれた魔法陣とは少し違ったモノだった。オレは魔法の解析は得意分野じゃねェから20秒ぐれェ掛かっちまったけどよ…解析は済ませてあるぜェ?本来でる数値より0.5倍になるように下方修正してンだろォ?言い逃れは出来ねェぞ。刻まれた魔法陣をその手の奴等に見せれば一発だからなァ?」

 

「くっ……!ごほ……!」

 

「あーそうそう何だっけ?()()()()()()装置なンだっけかァ?じゃあよ…軍にでも見せてみっかァ?そしたらテメェ等オシマイだなァ?このガラクタ軍から借りてきてンだろォ?そんな大切なもんの魔法陣を弄くって不正働いて、しかも商売しちまってんだからよ。あぁ、軍の場所なら知ってっから安心しろヨ。この手のガラクタは何処の軍の代物か判別出来るように魔力を流せば浮き上がるコードが表面に組み込まれてンだ。相手が悪かったなァ?素直に商品渡せば黙ってやってたが、向かってくんなら慈悲は掛けねェぜ?クソガキ共」

 

 

 

クレアの言葉によって、逃げ道を塞がれて八方塞がりとなっていた。事実、このマジックパワーファインダーは軍から嘘八百万でどうにか借りてきた正真正銘の本物。それを出て来る数値が0.5倍になるように下方修正し、金稼ぎのために悪用していたのだ。だからこそ、もし万が一にその事が客にバレそうになった時の為に、腕利きの相棒を控えさせていたのだが、残念なことに相手が悪かった。

 

しかし希望もあった。何と言ってもこの状況、主催者側を吊し上げている現状こそが、この場を乗り切る最後の希望。この男に脅されている、助けてくれ。それを言ってしまえばいい。金ぴかハットの男は、首を絞められながらもどうにか助けを請うた。しかし、周囲を囲む観客達は誰1人として、金ぴかハットの事を助けようとするどころか、現状に困惑する事も無い。未だクレアが出した記録に興奮を隠せない様子だったのだ。

 

 

 

「『何で気付かないんだ?』か?」

 

「────っ!」

 

「そりゃあ勿論オレの魔法だ。この場に居る観客共には、適当に最高記録の称賛を送る場面を幻覚で見せてる。だから気付くことは無ェ。残念だったなァ助けは来ねェぜ」

 

「何…が…望みだ…!賞品の…全てか…!?」

 

「ぁあ?訊いてなかったのかテメェ。オレは()()()()()()()()()()()()()()()って言ったンだぜ。テメェ等が悪徳商法で儲かろうが見付かって捕まろうが知ったこっちゃねェ。オレが欲しいのはアレだ」

 

 

 

そう言って空いた手で指差した物に、金ぴかハットの男は訝しげにした後困惑した。それでいいのかと。そしてクレアは最初からそれしか興味無いし、それ以外はどうでもいいと言った。それを聞いた金ぴかハットの男は、それをクレアへと渡すから命だけは助けて欲しいと懇願し、首の拘束を離してもらった。絞められていた首を擦って咳き込んでいると、相棒のナウも解放されたようで、金ぴかハットの傍らに後退した。

 

解放された二人は互いに顔を見合わせ、困惑したようにもう一度クレアに問うた。憲兵に突き出さないのか、軍に告げ口しないのか、本当にアレでいいのかと、クレアは諄いと言って眉間に皺を寄せ、これ以上何か言うのならば望み通りに突き出すと言った。それを聞いた二人は大慌てで大量の賞品を荷車に載せ、風のようにその場から逃げるように…いや、風のように逃げたのだった。

 

クレアはそんな逃げて行った二人組に、呆れた視線投げやりながら小さく溜め息を吐いて()()()逃がしてやった。そして次に、クレアは観客達に見せていた魔法による幻覚も止めて目を覚まさせる。すると、必然的に光景が一気に変わってしまい、ざわめきが起きるのだが、クレアは気にする素振りも無く、観客達と混じって困惑しているシルヴィアの手を取って静かにその場を後にした。

 

 

 

「あの…クレア様?先程は一体何が…?何故あの人達が突然居なくなったのですか?」

 

「あ?ンなもん知らね。急ぎの用でもあったンじゃねェの?オレァ賞品貰ったから何でもいいわ」

 

「…??解りました……。ところでクレア様。クレア様の貰った賞品とは何だったのですか?」

 

「……っ……コレ」

 

「……っ!?それは…!!」

 

 

 

そっぽを向きながら、握り込んでいた右手の手の平を開いて見せると、シルヴィアは瞠目して口元を手で覆った後、まん丸の目をクレアに向けて何度も瞬きを繰り返した。クレアが差し出した手の平の上には、野原に吹く神の息吹のような風と、それに載って踊る葉をイメージしたかのような装飾を彫り込まれ、それらを際立たせるでもなく、存在感を一際放っているでもなく、共に在り共に芸術の一部となっている碧色の宝石。それらが全て完璧にマッチした逸品である銀の指輪だった。

 

これは、クレアを手を繋ぎながらイベントがやっている広場へ向かう最中、高級のアクセサリーを取り扱っている代物が幾つか窓際に並べられており、シルヴィアはその中でもこの指輪をほんの一瞬だけ見詰めていた。それが欲しいのだと察したクレアだったが、同時に欲しいと口にしない理由も察した。何とこの指輪は1つに、42万Jという値札が付けられていたのだ。

 

クレアからすれば、100年クエストや10年クエスト等で手に入れた、億にもなる大金を所持している為、たかだか42万Jぽっきり払えない筈が無い。だが、それをシルヴィア自身が許すはずが無い。唯でさえお荷物に等しいというのに、更には一般人からすれば大金である40万という金を掛けて貰うわけにはいかないのだ。それを見越し、クレアはあのイベントに参加した。

 

数多く並べられた賞品の中に、シルヴィアが見詰めていた指輪を偶然発見したからである。でなければ、あんな結果が見えているイベント事に大人気なく参加しようと思うはずも無い。そう、これはクレアがシルヴィアの為だけに取ってきた、ある意味唯一無二の指輪なのである。

 

驚きで固まっているシルヴィアに、クレアはぶっきらぼうに手を取って手の平に載せて握らせた。シルヴィアの手の中には指輪がある。あの時に見た、少しだけ欲しいと感じてしまったが、値段を見て即断念した代物が。しかし、それは軽いようでとても重かった。シルヴィアは数日間一緒に旅していたから解る。クレアがあのようなイベントに参加しようとする性格ではないことを。しかし参加した。態々己から手を上げてまで。それは何故?それは……指輪を欲した()()()()()

 

 

 

「ぁ…はぅ……あの…クレア様……これっ」

 

「……や、やるよ!欲しかったンだろ!?偶にはいーかなーとか思ったお遊びに興じてたら、偶々賞品の中にそれがあっただけだ!他に欲しいもんなんざ無ェし!?一番の豪華賞品とかいうやつもフツーにポケットマネーで幾らでも買えるからオレ!だったらそれ貰った方がまだいいだろ!か、勘違いしてんじゃねーよ!偶々…偶々だわボケッ!!」

 

「で、でも…これはクレア様のお力で手に入れた……」

 

「ハァ…?適当に魔力籠めてガラクタぶん殴っただけだわ。苦労もクソもあっかヨ。……い、要らねーなら貸してみろ、オレも要らねーから適当なところにぶん投げてやるよ」

 

「ありがたく頂きます!!」

 

 

 

何故クレアが指輪を取ってきたのかを理解したシルヴィアは、顔を真っ赤にして湯気を出しながら、それでもこれはクレアの力によって手に入れた賞品なのだから、何もしていない自分には受け取れないと言おうとしたのだが、クレアが割と本気で投げ棄てようとしたので、急いで胸元に両手で握り締めながら後退して死守した。

 

シルヴィアが確りと受け取ったのを見たクレアは、少し嬉しそうに口の端を緩めたが、ハッとしたようにシルヴィアに背を向けた。幸いそれをシルヴィアに見られる事は無かったが、残念なことに真っ赤になった耳が丸見えである。

 

そもそも、この指輪はイベントで数値を3000以上出せば貰える賞品の1つだったのだ。当初は面倒くさがって5000ぐらい出して終わらせようとしたのだが、つい力が入りすぎてしまって15000以上の魔力を籠めて殴り、数値がカンストしたのである。では何故力が入りすぎてしまったのかといえば──────

 

 

 

──────クソッ…オレとしたことがっ。シルヴィアからちょーっと応援されただけで魔力籠めすぎちまったじゃねーかよ…。これじゃ、まるで好きな奴に良いところ見せようとして張り切りすぎてる思春期のガキじゃねーか…よ……好きな奴…?……………ハイしゅーりょー。別にオレはシルヴィアの事なんて好きじゃありませーん。気になってもいませーん。そもそもなんでオレが好きになんなくちゃならないの?なる理由ねぇだろアホくせー。そうだな、おうそうだな。これはあれだ。これからも頑張れよっていうちょっとしたプレゼント的な奴で、別に下心とかねーからー。はーつれーわー。鼓舞で()()()()に贈り物するオレとかマジ良い奴だわー…………………自分の女って何ッ!?

 

 

 

まあ、クレアも色々あるので、例えリュウマをも越える精密な魔力操作の技術を持っているクレアだとしても、ふとした時のミスの1つや2つや3つや4つや5つぐらいあるのである。だからこそ、このように何とも言えない葛藤が生まれたりするので、こういう場合は放っておいた方が賢明の判断だ。

 

シルヴィアは暫くクレアからプレゼントされた指輪を見詰めていたが、見ているだけではなく、実際に付けてみることにした。落とさないようにそっとした動きで、シルヴィアは左手の小指にその指輪を通した。この指輪には大きさを変える魔法が付加されており、どの指に付けても完璧な大きさに変わるのである。指輪を付けたシルヴィアは暫く指輪を付けた自信の左手を見ていると、顔を上げ、クレアに幸せそうな笑みを浮かべた。

 

それを横目でチラリと見たクレアは、直ぐに前を向いて歩き出した。シルヴィアはそんなクレアにクスリと笑みを浮かべると、早足でクレアの隣に立ち、女の子の手と間違えるほどほっそりと、しかし頼りになる手に自分のそれを重ねて繋ぎ合うのだった。

 

指輪を左手の小指に嵌める場合、自身の願いを叶える効果があると言われている。シルヴィアはそれを知っていて付けたのか。それとも知らずに付けたのか。もし仮に知っていたのなら、叶えたい願いがあるのか。それとも知らなくて付けていたとして、意味を教えられたとしたら何か願いでも抱くのか否か。それは、シルヴィアという少女にしか解らない。だが、本人はとても…幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

「お前の言い付けは守ってやったからな」

 

「…?何か言いましたか?」

 

「ケッ…何でもねーよ!……ばーか。ククッ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







「──────クレア様?そう無闇に人を傷つけてはいけませんよ?」




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