FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ 作:キャラメル太郎
『こ、こんな展開…!!一体誰が予想したでしょうか!?
大魔闘演武4日目のナツ達の第三試合…開始から5分しか経っていないのにも拘わらず、セイバートゥースの双竜であるスティングとローグは…ナツとガジルの前に両手両膝を付き息を荒げていた。
「そ、そんな…カボ」
審判として見守っているマトー君もあまりの信じられない光景に驚き、語尾を付け忘れるところであった。
それ程までに7年間という月日の中で、双竜の異名は世間に浸透していたのだろう。
「負けるものか…」
ローグがゆっくりと立ち上がりながらそう口にした。
そしてその言葉に同意するようにスティングも立ち上がる。
「あぁ…簡単に超えられる壁じゃねぇことくらい…分かってた…!」
「す、スティング君…!」
「ろ、ローグぅ…」
そんな2人を目の端に涙を浮かべながら見ているレクターとフロッシュ。
スティングはレクターと約束していた。
誰にも負けないほどに強くなる…と。
「レクターの為にも──負けられねぇんだよ!!」
しっかり立ち上がったスティングの体が、先程まで使っていた『ホワイトドライブ』という魔力増幅の術の時よりも光り輝き…顔から始まり体にも、所々痣のようなものが広がっていく。
ローグもスティングがそれを使ったことに伴い同じ物を発動する。
体の所々痣のようなものが広がり…陽炎のように揺らめく黒いオーラを纏った。
「!!!!」
「なんだ…この魔力は…!」
前に立つナツ達はその魔力の増加に驚いた。
ホワイトドライブやシャドウドライブの時よりも更に魔力量が上がったのだ。
「第三世代の真の力に恐れ
「バカな…!?自らの意志で発動できるのか!?」
セイバートゥース観覧席にいるミネルバは意地の悪い笑みを浮かべながら口にし、観客席でゼレフの魔力を追っていたジェラールは驚きに声を上げる。
スティングとローグの今の状態のことを魔法専門家はこう名付けており…知っている者はこう呼んだ…
「ど…ドラゴンフォース…!?」
滅竜魔法の最終段階…『ドラゴンフォース』…と。
ドラゴンフォースとは、滅竜魔法を使う者の最終段階であり、その力はまさにドラゴンと同等と言われている程のものだ。
過去にナツも使ったこともある。
その時は楽園の塔にて、エーテルナノを食べることで吸収し、一時的なドラゴンフォースを身に纏った。
その時の力は途轍もなく…ジェラールを一方的に倒してしまう程のものだ。
そしてミネルバが言った第三世代とは、スティングとローグのことを示す。
滅竜魔法に世代があり、本物のドラゴンから滅竜魔法を習った者を第一世代…ナツやガジル、ウェンディのことだ。
第二世代は、体に滅竜魔法のラクリマを埋め込むことによって滅竜魔法を使えるようになった者のことで…ラクサスやオラシオンセイスのコブラなどのことだ。
そして第三世代とは、ナツ達のように本物のドラゴンから滅竜魔法を学び、尚且つ体にも滅竜魔法のラクリマを埋め込んだ者のこと…つまり、どちらにも属しているハイブリッドな世代ということだ。
「ローグ、手を出すな」
ガジルに向かって歩き出そうとするローグを手で遮りながら言ったスティング。
「オレ1人で十分だ」
そしてスティングは1人で十分だと言った。
先程まで一方的にやられ、2人同時に劣勢に追い込まれていたというのにこの発言…そうとうの自身があるのだろう。
「なめやがって…!」
「けどこの感じ…強ぇぞ」
スティングの発言に苛立ちを覚えるガジルだが、ナツの言葉には同意する。
明らかにやられる前とは比べものにならない魔力と威圧感を感じているからだ
「はァッ!!」
「───ッ!!」
ナツに向かって踏み込む動作をしたかと思えば、既にナツの目前に出現したスティング。
それに驚きながらも両腕で向かってくる拳による攻撃を受け止めるも…競り負けてガードを崩された。
崩れたガードに第二撃目を入れようとするが、それを黙って見ている訳にはいかないのでガジルが蹴りを入れる。
だが、簡単に避けられて反撃を食らった。
体勢を立て直したナツが殴りかかるが易々と受け止められ、腕を引き寄せられて腹に強力な膝蹴りを入れられた。
鳩尾に入ったために嘔吐いていたナツに蹴りを入れてガジルの元へと吹き飛ばした。
「『白竜の──」
スティングは衝突した2人の頭上へと瞬時に移動し…
「───ホーリーブレス』!!!!」
強力な咆哮を放ちナツ達を呑み込んだ。
咆哮によって闘技場の床は破壊。
ナツ達は咆哮の威力もあって闘技場の下にあった広々とした地下的空間の一番下まで落ちていった。
「闘技場の床が…」
「崩壊…!?」
「な、なんつー威力なんだ…!?」
応援席にいるマカロフやグレイ、観覧席にエルザなどが驚きで声を上げる。
闘技場の床は数日前に破壊一歩手前までいったことがある。
他でもない、バトルパートでジュラと戦っていたリュウマによって。
その時ですら、精々破壊一歩手前である。
それをスティングは咆哮の一発で破壊してみせたのだ。
この事実だけでもスティングの咆哮が強力であるのが分かるであろう。
一番下まで落ちていったナツ達は、やられるだけでは性に合わない性格なので反撃をするも、ダメージを負っている気配が無い。
「白き竜の輝きは万物を浄化せし──」
反撃をしたことで空中におり、スティングはダメージは無いものの反撃を食らったので下にいる。
つまり、今の状況ではナツ達に避けるという手段が無く、その隙を突いてスティングは魔力を籠めて狙いを定めた。
「『ホーリーレイ』!!」
光り輝く光の槍がナツ達を襲い多大なダメージを与えていく。
「光…!?」
「“聖”属性の魔法なのかい…?」
エルザや、医務室から念のためにとやって来ていたポーリュシカが言葉を溢す。
白竜は聖属性を司るドラゴンであり、その滅竜魔法も聖属性の魔力を持っている。
「おらァ!!」
ホーリーレイを受けて吹き飛ばされ、転がりながらも体勢を立て直したナツにスティングが迫る。
魔力を籠められて光り輝く拳を全身に力を入れてガードしたナツだが、ガードした腕からはメキメキと音を立てた。
「飛べよ」
「ぐっ…く…グアァァ…!!」
威力に負けてナツが吹き飛び、地下にあった建造物のような物に突っ込んだ。
そこへ後ろから強襲をかけるガジルだが、振り向きざまに蹴りを入れられて失敗。
瓦礫の中から復活したナツと、体勢を立て直して駆け出して接近したガジルの2人同時の攻撃を捌ききり、反撃するスティング。
──見ているか…レクター!!
やがてスティングの猛攻によって倒れた2人を余所に拳を上へと掲げるスティング。
その光景にはフェアリーテイルは暗い表情を作る。
「時代は移りゆく…7年の月日がオレ達を真の
スティング達の戦いを諦観していたローグは、出来た闘技場の穴へと降りていってそう言葉を紡ぎ、スティングもそれに同意した。
「でもさ…やっぱり強かったよ…ナツさんガジルさんは…」
ドラゴンフォースを解きながら告げるスティングは、何かをやり遂げた後のように清々しそうな顔をしていた。
『これはフェアリーテイルのナツとガジルの両者ダウンかーーー!!??』
実況は倒れて動かないナツとガジルにダウン宣言をするのだが…
「ちょーーっと待てって!」
「…!!」
ナツがスクッと立ち上がった。
それに続いてガジルもすぐに立ち上がる。
「おぉいってー…」
「思ったよりやるな」
体はボロボロだというのに、まるでピンピンしている2人に驚くスティングとローグ。
当然だ。
ドラゴンフォースで猛攻していたのだから、普通ならばとっくにダウンしている。
そう…相手がタフなナツとガジルでなければ…
「よっし…お前の癖は全部見えたぜ」
「何ッ…!?」
ニヤリとしながら告げた言葉にスティングは言葉を失った。
戦っている最中にずっと自分の癖を見て覚えていたのだから…つまり、攻撃を食らっていたのは態と…癖を見るためだけの行動だ。
「ナツ…クカカ。あの時教えたことをここで実践するとは…まったく」
フェアリーテイル観覧席ではリュウマがナツの言葉に呆れていた。
三カ月の修行期間の最初に教えた癖の有無を、まさかこんなところで…しかも土壇場でやってのけるナツには呆れたのだ。
しかし、それでも嬉しかった。
教えた事を実践するところをこの目で実際に見ることが出来たのだから。
「この試合はもう見る意味は無いな──ナツ達の勝利だ」
確信したリュウマは笑いながら映像ラクリマを見ていた。
「バカな…!こっちはドラゴンフォースを使ってたんだそ…!?」
「おう!大した力だぜ!おかげで体中痛ぇよチクショウ…」
所戻り闘技場では、スティングが有り得ないと叫んでいるが…ナツはそれに軽く返す。
体中痛いと言っておきながら笑っているため、説得力はない。
「つーか、今更だけどよ。お前のドラゴンフォースよりもリュウマの拳の方がいってぇぞ?」
「なん…だって?」
「だ~か~ら~…リュウマに殴られた方が痛ぇんだよ!」
ナツはこの試合を見ているリュウマの拳の方が痛かったと話し始めた。
「なんかよ…リュウマの拳ってこう…腹の奥にズドンって来るんだよな…」
「あぁ?そりゃどういうこった?」
「なんかな──」
そこからナツはガジルと雑談し始めてしまった。
余談ではあるが、リュウマは殴るインパクトの瞬間に魔力による衝撃を加えたり、技術的な事で衝撃を加えたりしているので体の中にまで衝撃を伝えているのだ。
つまり、腕でガードをしようが、リュウマがやろうと思えばガード越しに衝撃を伝えてダメージを与えたり出来るのだ。
それなら確かに、力だけのスティングの拳よりも痛い。
「つまり、アンタは何が言いたいんだよ?」
自分達のことをほっぽり出し、雑談をしているナツ達に苛立ちながらも質問をした。
「おっとそうだった。ある時に言われたんだよ、相手の癖を見ろって。例えばお前は攻撃の時、軸足が11時の方を向く」
「いーや、10時だな」
「いや11時だよ」
例えを出してみたナツだが、それにガジルは違うと反論した。
どうやら2人の癖の味方は微妙に違っていたらしい。
まあ、10も11も大して変わらないのだが…。
「半歩譲って10時30分!11時じゃねぇ!」
「11時だ!何だったら23時でもいい!」
「1周してんじゃねぇか!!」
何とも下らない言い争いをするナツとガジルだが、突如ナツがガジルを押し、後ろにあるトロッコの中に入れて始動するレバーを引いた。
それでトロッコは動き出してしまい、酔ったガジルは動けなくなって洞窟の奥へと姿を消した。
それには流石に意味が分からなかったのか、スティング達は呆然として見ていた。
「なめられた分はキッチリ返さねぇとな。オレ1人で十分だ…まとめてかかってこい!」
「「…!!!!」」
「燃えてきただろ?」
拳に炎を灯しながら挑発するように告げるナツに、冷や汗を流した。
「………。」
そんな光景を映像ラクリマを通して見ていたフードを被った謎の人物は…涙を流していた。
「…!!」
──これは…奴か?
街の中で闘技場での試合風景を映していたラクリマを見ていたジェラールは、目的の魔力の出現を感知した。
『ジェラール!今度は逃がさないで!』
「分かってる!試合も気になるが今は…!」
名残惜しそうにラクリマから視線を切ったジェラールは、直ぐさま魔力の元へと駆け出していった。
「ふざけやがって…!」
「お前にようはない。ガジルとやらせろ…!」
「だったらオレを倒してから行くんだな」
完全になめられていることに怒りをあらわにするスティングに、ガジルを寄越せと言うローグだが、ナツを倒さない限りはガジルの元へは行けない。
「ドラゴンフォースは竜と同じ力…この世にこれ以上の力は無いんだ!!あるはずがねぇんだよ!!」
「完全じゃなかったんじゃねーの?」
体に解いたドラゴンフォースをまた発動させ、ナツへと殴りかかるスティングだが…その攻撃を今度は完全に防いでみせたナツ。
「オレはこの力で
「そうか…だったらオレはこの力で──」
防いだ腕に力を込めてスティングのことを押し返す。
「──笑われた仲間の為に戦う」
スティング一気に押し切って殴りつけた。
スティングが殴られた衝撃で後方へと飛んでいく中、背後からローグが狙う。
「『影竜の咆哮』!!」
「『火竜の咆哮』!!」
振り向くと同時にローグへ向かって咆哮を放つ。
衝突した咆哮は均衡することもなく、ナツの咆哮がローグの咆哮を呑み込んでローグすらも呑み込んだ。
そこからはまさに一方的であった。
2人がかりであるにも拘わらず全ての攻撃を捌き、防ぎ、受け流し、時にはカウンターでもって反撃する。
ナツに向かって攻撃しているはずなのに、いなされて仲間同士で攻撃したりもした。
「スティング君…!」
やられてボロボロになっていくスティングのことを、観覧席にいるレクターは涙を溢しながら見ていた。
自分の中での最強はスティングだ…最強なのはスティング以外有り得ない…。
しかし、世界は広い。
スティングが最強であると信じるのはいい。
だが、時には世界に目を向けなければならない。
つまりは…上には上が存在するということだ。
「スティング…!」
「おう…!!」
掛け声に反応し、スティングはローグの元へと駆け寄りローグと一緒に魔力を解放する。
「
魔力が融合し始めたところを見たマカロフは驚きながら声を上げた。
ユニゾンレイドは術者同士の息が完全に合わないと発動しない超高難度魔法…。
狙ってやるにはあまりにも難しく、魔導士がユニゾンレイドを覚えようとして生涯全部の時を掛けても修得出来なかったと言われる程のものだ。
──僕は強いスティング君を見てるのが好きなんです。スティング君は最強なんです!
涙を溢れさせながら心の中で叫ぶレクター。
それを静かに見ている者がいた…メイビスだ。
──力だけでは決して破れない壁があります…
「「『
融合した魔力を同時にナツへと放った。
それを見ていたナツはゆっくりと構えた。
「滅竜奥義───」
──しかし…それを打ち破る力があるとすれば想いの力…
両手に集めた魔力を体を捻りながら放った。
それは1人でありながらスティング達のユニゾンレイドと同等の魔力を感じられる。
「『
──ギルドとは…想いを育む場所…。
スティング達の放った聖影竜閃牙をナツの放った紅蓮爆炎刃は易々と呑み込んで消し去り、スティング達を呑み込んで大爆発を起こした。
その威力には闘技場の地下の壁を破壊して風穴を開ける程のものだった。
──ナツ・ドラグニル…底が…知れない…
──レクター…強すぎるよ…ナツさん…
スティング達はとうとう倒れ…気絶した。
『こ、ここここここれは…!
闘技場の観客席から大歓声が上がり、闘技場内は凄まじい熱気に包まれた。
現最強のギルドで有名な双竜のスティングとローグは…同じ滅竜の力を持つたった1人の男によって打倒されたのだった。
これにて大魔闘演武4日目は終了した。
残るは最終日にある全員参加のサバイバル戦。
果たして…優勝は一体どのギルドとなるのか…?
「やっぱりこうなるのねぇ」
「さすが…というべきか」
「最終日の目標は決まったよ!」
応援席に座っているブルーペガサス、クワトロパピー、ラミアスケイルのマスター達は最初から薄々感じていたことを述べた。
「来い!!」
マカロフはそんなマスター達が向けてくる視線に応え、叫んだ。
この時点で標的はたった1つに絞られた…。
「「「打倒…
「待っていろグレイ…!」
「リュウマ殿。それにマカロフ殿の孫のラクサス殿か…」
「エルザ…」
「ガジルか…」
「メェン。楽しもうじゃないか…ナツ君」
観覧席にいる魔導士達は、フェアリーテイルにいる標的を見据えて声を紡ぐ。
──完敗だ…
地下で気絶から回復したが、体中の痛みによって動けないでいるローグは心の中で囁いていた。
──ガジルも…ナツと同じくらいの戦闘力だとしたら…オレ達はどれ程思い上がっていたんだろう…
気づいたときにはもう遅い。
あれ程自分達が強いと豪語していたにも拘わらず…戦ってみればこの様である…。
ローグは思い上がっていた自分自身を恥じた。
「クッソォ…!サラマンダーめ…ぜってぇぶっ殺す…!」
ナツが勝利したことで忘れ去られているガジルは、レールが無くなった事で転倒したトロッコから転げ落ち、気持ち悪さを抱えながらナツを恨んだ。
「つーかここ何処だよ!?闘技場の下の更に下なのか!?」
落ち着きを取り戻して辺りを見渡せば、全く分からない場所にいた。
取り敢えず進むしか手が無いので洞窟の奥へと進んで行く。
「な、何だ…こりゃ…!?」
先に進んで開けた場所に出たガジルが見たのは…
「ドラゴンの……墓場!!??」
数多くの竜の屍が転がる、広い空間であった。
──???
「あの日…私達は優勝を信じていた…」
とある場所にて…顔に傷のある1人の少女が日記に向かって座り、事を書き込みながら言葉を紡いでいた。
「最終日はすごい激戦だったよね…
その顔に傷のある少女は、どこかで聞いたことのある人物の呼び名を溢す。
「そして7月7日…私達は…運命という言葉に負ける」
日記に一粒の水が垂れた。
それは少女が流した涙であった。
「◼◼◼は死んだ。◼◼◼も死んだ。◼◼◼も◼◼◼も…大好きだった◼◼◼も…言葉にならないよ…ルーちゃん…!」
その顔に傷のある少女…
「もうイヤだよ…誰か…助けて…」
レビィ・マクガーデンは泣きながら救いを求めた。
「止まれ」
「……。」
──女…か?
ジェラールは、街を駆けて漸く目的のもの…人物の元へと辿り着くことが出来た。
その人物はローブで体を覆っているが、足は女物のサンダルを履いていることから女と推測する。
「オレも正体を明かす。だからお前も正体を明かせ」
「…………。」
そう言って同じく顔を隠すためのフードを外したジェラールと、それを承認したのか振り返るローブの女。
「────ッ!?お前は…」
ジェラールはその女の顔を見て驚愕した…
一体…どんな顔をしていたのか…彼女の正体は何なのだろうか…。
───大魔闘演武4日目の夜
最後のナツ達の戦いから数時間後。
良い子は寝静まるような時間のこと、街の人々は一つのボードの前に集まり賑わいを見せていた。
賑わっている理由は、この大魔闘演武4日目時点での得点が表示されているからだ。
得点の方はこうなっている。
1位
2位
3位
3位
4位
5位
「
「現在1位かよ!」
「やっぱ
「オレは
「にしても
「こりゃあもうダメだな…セイバーは」
街の人達はこの得点を見て騒いでいたのだ。
今1位に躍り出ているのはフェアリーテイル、次にあれだけ騒がれていたセイバートゥース…。
街の人々は簡単な手の平返しでフェアリーテイルを褒めちぎっている。
やれ、リュウマはどうだの。やれ、ルーシィはどうだの。やれ、ナツはガジルはと…。
最初の日に散々バカにし、蔑み、ブーイングをしておきながら1位を取るとこの有様…この場にリュウマが居たならばふざけるなと言っているだろう。
そして今やセイバートゥースを応援している人は余りいない。
あれだけ騒がれていたというのにたったの4日でこれだ。
大魔闘演武の影響力は凄まじいことこの上ない。
「でもよ、セイバートゥースもこのまま終わるとは思えねぇぞ?」
1人の男がそう口にした。
そう、セイバートゥースはこのままでは終わらない。
腐ってもフィオーレ1を名乗っていたのだから。
───クロッカス・ガーデン
ここはセイバートゥースが拠点を置いている場所。
その宿泊地の中では…セイバートゥース史上一番と言ってもいい程の緊迫した空気を醸し出していた。
その理由は…スティングとローグだ。
「スティング…ローグ」
「「………。」」
広場に集められたセイバートゥース全メンバーと、マスターであるジエンマの間にスティングとローグは立たされていた。
ジエンマは一際豪華な椅子に深く座りながら2人を睨み付けている。
そして問うた…あのザマはなんだ?と。
「言葉もありません…完敗です…。ナツは雷を纏った炎を使わずにオレ達を圧倒してみせた…想像を遥かに超える強さです…!ナツ・ドラグニル…!」
ローグは数時間前の戦闘を頭の中で思い出しながら悔しそうに手を握り締めて告げた。
しかし、ジエンマが聞きたいのはそんな言葉ではない。
「それが最強であるギルドに所属する者の言葉か?ア″ァ″?誰があんなみっともねぇ姿晒せって言ったよ?誰が敗北してこいと言ったよ?」
体から膨大な魔力と覇気を出しながら告げるジエンマ。
スティング達の戦いには相当の怒りを持っているらしい。
「最強ギルドの汚しおってからにッ!!!!」
「グッ…!」
「グァ…ッ!」
ジエンマを中心として放たれた衝撃波に2人は後方へと吹き飛んでいった。
そんな2人を後ろに控えるメンバー達は見向きもせず、ずっと前だけを向いている。
それはユキノの時と同じ光景だった。
それ程までに強者主義のギルドなのだ…ここは…。
「貴様等に
「グハッ…!」
「あぐっ…!」
激昂し、窓が割れるのではないかという程に叫びながら2人を殴りつけた。
傷が回復しきってない2人は上手く起き上がることも出来ない。
「消せ!ギルドの紋章を消せ!!我がギルドに弱者なんぞいらぬわァ!!!!」
「ま、まぁまぁ…マスター…スティング君もローグ君も頑張りましたよ」
怒り狂うジエンマに話しかけ、スティング達を弁護するのは…スティングの相棒であるレクターだ。
そんな出て来たレクターをジエンマはただ見ている。
「今回は負けちゃったけど…僕は誇りに思いますよ…?」
「レクター…」
スティングの元へと歩きながら話すレクターは、ジエンマの放つ覇気と強面の顔に怯えながらもどうにか話を続ける。
「僕は思うのです。人は敗北を知って強くもなれるって…スティング君は今回の戦いでそれを学びました…!」
レクターのそんな言葉に、スティングは這いつくばりながらも感動し、何時の間にか成長していた相棒を誇らしそうに見た。
しかし…ジエンマは違った…
「誰だうぬは」
そもそも、レクターの存在自体知らなかった。
「ぇ…い、いやだなぁマスター…僕だってここにセイバーの紋章を入れたれっきとした──」
服を捲って背中を見せるレクター。
そこにはセイバートゥースである者が刻んである紋章がしっかり刻まれていた。
それをこの人物は…
「何故に犬猫風情が我が誇り高き
犬猫風情と称した。
仲間であるはずのレクターに対してそんな言葉を放ったかと思えば…
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!!!!」
「スティ…ング…君───」
「レクターーーーーーーー!!!!!!!!」
レクターに魔法を放ち…消し飛ばした…。
「目障り目障り…猫が我がギルドの紋章など入れてからに…」
ジエンマがそう言ったのを皮切りにスティングは泣きながら叫んだ。
目の前で相棒であるレクターが消された…その悲しみと怒りから叫んだ…心の底から…。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「ガブぁッ!?」
「「「「「「!!!!!!!」」」」」」
そしてスティングは…これ以上無いという程に魔力を溜めた拳でジエンマを殴り…ジエンマの腹に風穴を開けてみせた。
それには後ろに控えるメンバー達も目を見開き、驚愕していた。
「フフフ…それで良い」
そんな光景を…ミネルバは口を歪めて笑って見ていた。
「一体何があるんですか?ガジルさん…」
「いいから黙ってついてこい」
セイバートゥースで事件が起きているとき、フェアリーテイルの一部のメンバーがガジルの後をついていっていた。
面子はナツ、ガジル、ウェンディ、ハッピー、シャルル、リリー、グレイ、ルーシィ、そして…リュウマだ。
「リュウマも気になるの?あたしもその口なんだけどさ」
「あぁ、ガジルが態々ついてこいと言うほどだ…俺も気になってしまった。迷惑だったか?」
「んーん?全然!」
ルーシィはそう言いながらリュウマの腕に抱き付いた。
その反動で腕に何か柔らかい物が存分に当たって…押し付けられ、リュウマは少し視線を泳がせる。
──ふふふ、かーわいい♪
「ルーシィさんズルいです!」
そこに先を歩っていたはずのウェンディも加わり、両手に花の状態となった。
因みに感触は…これからに期待だ。
そんな光景は今に始まったことではないので周りは気にしてすらない。
「ついたぞ、ここだ」
「ぇ…」
ガジルの言葉に前を向いた面々は驚きに目を見開き口をポカンと開けた。
リュウマはそんな光景を目を細くして見ている。
案内されたのはガジルがナツによってトロッコに乗せられ、たまたま行き着いた竜の屍が転がる墓場であった。
「これ全部竜の骨!?」
「それもすごい数…」
「竜という生き物の存在を決定づける場所だな」
リリーの言葉はもっともだ。
世界には未だにドラゴンの存在を信じない人々がいる。
中には研究者でありながらドラゴンの存在を認めないという者も居るくらいだ。
そんな奴等を一発で黙らせるほどの光景が今…目の前に広がっているのだ。
数多くの竜の骨を見ていたハッピーが、もしかしたらこの中にイグニールが…と発言し、失言だったとナツに謝ったが、ここにイグニールがいるのは有り得ない。
イグニールやその他のグランディーネやメタリカーナが姿を消したのは、封印されていた期間も合わせて14年前…ここに転がっているのはそれよりも遙か昔の遺骨だからだ。
「ウェンディ、ここでミルキーウェイをやってみたらどうだ?」
「あ…そうですね!」
「え?どういうこと?」
リュウマとウェンディの会話を、傍で聞いていたルーシィが質問した。
ミルキーウェイとは、ポーリュシカが頭の中に語りかけてきたグランディーネの言葉を聞き、書き留めたウェンディの滅竜奥義のことだ。
天の川へと続く
「よし、準備が出来たぞウェンディ」
「ありがとうございます、リュウマさん!」
ミルキーウェイには魔法陣を描く必要があるため、リュウマが魔法陣をそこら辺に落ちていた枝を使って描いた。
ウェンディが書いてもよかったのだが、間違えるかもしれないということでリュウマに頼んだのだ。
まあ、リュウマにとっては魔法陣を描くなど朝飯前なので、ものの数分で描き終えたのだが。
「では皆さん、少し下がってて下さいね」
ナツ達はウェンディの言葉に後ろへと下がっていった。
そしてウェンディは魔法陣の中央へと座り、意識を集中させた。
「さまよえる竜の魂よ…そなたの声を私が受け止めよう…『ミルキーウェイ』」
発動した瞬間…光り輝く綺麗な光が辺りを包み込んだ。
洞窟内でのその光はとても美しく幻想的である。
そして洞窟内にあるドラゴンの屍がカタカタと震えだす。
…ルーシィは怯えてリュウマに抱き付いた。
「竜の魂を探しています…この場にさまよう残留思念はとても古くて…小さくて…っ!見つけた!」
ウェンディがこの場にある唯一の残留思念を見つけて呼び寄せた。
現れたのは…
「いっ…!?」
「これは…!?」
『グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』
翡翠色をしたドラゴンであった。
「「「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」」
巨大なドラゴンに驚き叫ぶナツ達。
しかし、リュウマは分かっていた…これが所詮は幽体であると。
『アァァァァァァァぁあーはっはっはっは!』
「「「「…!!??」」」」
『人間の驚いた顔というのは…いつ見ても滑稽じゃのぅ…!』
翡翠の竜は突然流暢な言葉で喋り始めた。
それにはナツ達も驚く。
元々、ドラゴンは高い知能を持っているため、人間の言葉を話すことが出来るのだ。
『我が名はジルコニス…
ジルコニスと名乗ったドラゴンは辺りを見回し、魂を呼んだであろう天竜を探す。
だが、そこにいたのはウェンディであった。
『かーわええのぅ…こ~んなちんまい
「おい!ウェンディに近づくな!」
『嫌じゃ。この娘はワシが食う!』
「てめぇ!」
食うと言ったジルコニスに対して、ウェンディの前に立って立ちはだかるナツ。
まあもっとも、それは意味がないのだが…
『冗談に決まっておるだろうが!馬鹿な種族よ!!ほれ、幽体であるワシに何が出来ようか!?ぶあっはっはっはっは!!』
「こっ…こいつ…!!」
それで理解した、このドラゴン結構ウザいと。
「何なのこのふざけたの…」
「ドラゴンだろ…」
『我が名はジルコニス…翡翠の竜とも…』
「「さっきも聞いたわ!!」」
下らないやりとりに呆れたのか、シャルルが質問することにした。
「ここで何があったの?」
「ここには竜の亡骸がいっぱいあって…」
「その真相を知るためにお前の魂を呼び覚ましたんだ」
『ふん、人間に語る事など無い。立ち去れ』
ジルコニスは人間が嫌いであるため、人間に語ることはないと言って素っ気なく返す。
「でもオイラ達猫だよ?」
『そうだな…あれは400年以上前のことだ…』
「なんだそのアバウトなルール…」
結局話すことになったようだ。
それにはナツ達もずっこけたが、話してくれるということで聞くことにした。
『かつて竜族はこの世界の王であった…自由に空を舞い…大地を駆け…海を渡り繁栄していった…。この世のもの全ては竜族のものであった…人間などは我々の食物にすぎなかったのだよ…ぐふふ』
話が話であるため、言いたいことはあるがナツ達は静かに聞くことに徹した。
そこからジルコニスは語った…
その竜族の支配に異論を唱える竜達がいた…。
人間と共存できると…そんな世界を作りたいと言ったのだそうだ。
それに賛同する竜と、反対をする竜との間で戦争が起こった…。
ジルコニスは反対派で戦っていたそうだ。
『ワシは人間が好きではない。食物としてなら好物であるがな!』
「食いもんと喋んのかオメー…プクク」
『ほら!そういうのがムカつくの!』
どうやらバカにしたりしてくるのが嫌なようだ。
それはジルコニスも同じなのでどっこいどっこいだ。
話を戻すが、戦争の戦況は拮抗していた。
竜同士であるのでそれは必然で、竜と竜の戦いは幾つもの大地を裂く程のものであった。
やがて共存派の竜は一つの作戦を思いついた。
人間に竜を滅することの出来る魔法を与え、戦争に参加させた。
「滅竜魔法…」
「
その戦争に投入された滅竜魔法を使う人間達の力は絶大であり、人間との共存を望んだ竜達の勝利は目前と迫っていた。
しかし…ここで誤算が生じた…
『力をつけすぎた滅竜魔導士たちは…人間との共存を望む竜達でさえも殺していった…』
「…………。」
ジルコニスが始まってから、リュウマは諦観しながら話を聞いていた。
そして人間の中に一人…竜の血を浴びすぎた男がいたのだ…。
ジルコニスはその男の名を口にするのも恐ろしいと言った…それは恐怖の象徴であると…。
『男は数多の竜を滅ぼし、その血を浴び続けた…。やがて男の皮膚は鱗に変わり…歯は牙へと生え替わり…その姿は竜そのものへと変化していった…』
「人間が竜に…!?」
『それが滅竜魔法の先にあるものだ』
滅竜魔法を使う人間が竜へと変わったと聞いてルーシィは驚き、ナツとガジルは冷や汗を流す。
『ここに眠る竜たちもその男により滅ぼされた…男は人間でありながら竜の王となったのだ…竜の王が誕生した戦争…それが──竜王祭だ』
竜王祭とはどうやら、竜の王を誕生させてしまったことを称した日のことをいうそうだ。
そして…ジルコニスはその男の名を口にした。
それにナツ達も覚えがある名だ…
『王の名は“アクノロギア”…竜であり竜ならざる暗黒の翼』
「「…!!」」
「あれが…」
「元々は人間だったのか…!?」
「…………。」
みんなが驚く中…ただ一人、何の反応を示さない男が一人…リュウマだけだ。
『そして…竜の滅びを話すならばこの人間のことを忘れてはならない…いや…忘れる訳にはいかない…!』
「…?まだ他になんかあんのか?」
含みのある言い方にナツが質問した。
人間であるナツに質問されて少しムッとしたが、しょうがないと言いながら話すことにした。
『アクノロギアが恐怖の象徴ならば…“奴”は全ての竜にとっては死の象徴…その人間は…滅竜魔法を使わずに竜を屠っていった…』
「滅竜魔法を使わずに…!?」
ジルコニスが言うには、その人間は滅竜魔法を使わず…ただ純粋な人間でありながら竜を殺していったようだ。
それだけで、その人間の強さが分かる。
『その者は幾百幾千もの竜を殺し…喰っていった…!』
「ドラゴン食ったのか!?」
『そうだ。竜たちは最初、そんな人間なんぞありえんと聞く耳も持たなかった…しかし、それを調べに行った竜が帰ってこなかった』
「「「…!!!!」」」
その後も何度も竜が調べに行ったが、その竜たちも帰って来ることはなかった。
そしてそのまま戦争が始まり…アクノロギアが生まれて竜たちは殺されていった…。
だが、実際に全ての竜が死に絶えたのは…アクノロギアが生まれてから数日後のことだったそうだ。
アクノロギアが生まれて7日後に隠れていた残りの竜が一気に殺され始め…それから僅か7日で残りの竜の全てがその人間によって殺されたそうだ。
『その人間の名は───』
「『黄泉へ還れ』」
ジルコニスは光の粒子となって消えてしまった。
まるで無理矢理
突如消え失せてしまったジルコニスに慌ててウェンディに駆け寄ってどうしたのか聞いた。
「……ダメです。この場から思念が完全に消えました…東洋の言葉で成仏というものでしょうか…?」
「つーか滅竜魔法使いすぎるとドラゴンになっちまうのか!?」
「それは困る!」
「どうしよう…」
消えてしまったものは仕方ないと、諦めることにした。
それよりも、ナツ達はドラゴンになってしまうというのが気になって仕方ないようだ。
そんな中で…リュウマは光となって消えたジルコニスが居た場所を…鋭い眼で見ていた。
やがてもういいのか向き直り、後ろにある岩へ向かって言葉を発した。
「何時までそこにいるつもりだ。さっさと出て来い」
リュウマの言葉に驚いたナツ達は、リュウマが見ている方を見た。
するとそこから男が現れた。
「いやはや、やはりバレていたか。流石はリュウマ殿だ」
その男は…シャルルが未来予知の時に見た白い鎧を着た騎士であった。
はい、後に上げると言ってこんな時間になってしまった!
書くことが多くて遅くなりました…。