FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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高評価ありがとうございました!
これからも頑張っていきます。

それと、今回は地の文とセリフの間をもう一マス分空けました。
読みやすいようでしたらこっちで書こうかと思います。
私の場合は読み易いと思いますが…どうでしょ?




第五九刀  最深へと進め

 

 

リュウマとトラはタワンコングを狩った後、さり気ないトラの誘導の元…宝獣の住む住み家へと向かっていた。

道中も勿論色々な猛獣に襲われたりしていたのだが…2人にとっては大して気にするようなものでもなかった。

 

森の中でも比較的外側に位置した所に居る2人には、今鉢合わせている猛獣達は自分達を相手にするにはあまりにも役不足だったのだ。

一応補足しておくと、2人には楽であるが…一介の魔導士達にとっては普通にキツい。

 

 

 

 

───狩猟(ハント)レベル62

 

 

「何ですかこの亀みたいなの…」

 

「取り敢えず甲羅を砕いて中身を攻撃しよう」

 

「!!??」

 

 

 

 

 

───狩猟(ハント)レベル87

 

 

「よく分かんない生物ですね…兎?」

 

「足が速そうだな。……脚を先にもぐか」

 

「───ッ!!??」

 

 

 

 

───狩猟(ハント)レベル145

 

 

「木が動いてますね!」

 

「燃やせば一撃だな」

 

「……!!??────ッ!!??」

 

 

 

 

───狩猟(ハント)レベル219

 

 

「さっき倒したタワンコングに似てますね」

 

「亜種のようなものだろう。──また腕を引き千切ってやれば大人しくなる」

 

「!!!!!!!」

 

 

 

 

 

───狩猟(ハント)レベル354

 

 

「段々強くなってきましたね。これは…鼠みたいですね」

 

「前歯を折るか」

 

「────ッ!!─────ッ!!??」

 

 

 

途中途中で出会う猛獣達が可哀想になるほど弱点を見つけては攻撃して瞬殺する。

当然のこと、向かってきた猛獣達が逃げようとするが、襲ってきたくせに逃げるという手をリュウマとトラが許してくれるはずもなく、等しく狩られていった。

 

何気なく倒していっているが、現状襲ってきた狩猟(ハント)レベル300というのは、一般人ならば3000人必要で…魔導士で計算するならば300人必要である。

そのような強い猛獣を狩っているのはたったの2人であるので、凄まじいにも程がある。

 

猛獣もまさか小さいのが2ついるだけで自分達を倒せるとは露程も思わず襲いかかり、返り討ちにされているのだ。

決して学んでいないと言うわけではない……恐らく。

 

 

「いい加減鬱陶しいですね」

 

「仕方あるまい。それなりに中心に来ているのだ、自分の縄張りに入ってきた不届き者がいれば襲いもかかるだろう」

 

「でも限度があります。さっきから狙われて面倒くさいです」

 

「それは同意しよう」

 

 

リュウマのうんざりとした言葉に、トラも少なからず同意する。

目的地は確かにそこら辺にいる奴等の縄張りを侵入しなければならないが、それでも入った瞬間に襲ってくるのは早すぎる。

せめてもう少し離れたところにいれば、直ぐに縄張りから出て行くというのに。

 

 

「それにこの景色にも飽きてきました」

 

「まぁ、一面緑だからな」

 

「森の中ですからね…仕方ないんですが、でも飽きます」

 

「此処ら一帯焼いてみるか?」

 

「それはやめて下さい」

 

 

いきなり物騒なことを言いだしたトラにすかさずリュウマがツッコミを入れた。

戦っている中でトラが魔法に関しても強いということは分かっているので、やろうと思えばやれることを把握している。

因みに、トラは半分冗談半分本気だ。

 

歩き続けているリュウマとトラであるが…トラからしてみればもうそろそろ目的の場所に辿り着いてもおかしくはないのだが…中々その場所が見つからないのを感じて少し首を傾げていた。

ここが異世界…並行世界であるのは分かっているのだが…宝獣の住む住み家の入り口も違うとなっていた場合は目も当てられない。

 

 

───ここら辺だった筈なのだが…何処だったか…。

 

 

かつて己が見つけたときは確かにこの辺りだった。

だが、現状見付からないのを見ると、もしかしたら場所自体がここではなく、違う場所であるのかもしれないという考えが浮かんできてしまう。

まさかとは思うも、既に己の過去と違うところを思い出すと…不安にもなる。

 

 

「結構進みましたけど…何処にいるんでしょ?」

 

「分からん。勘だとこの辺りだと思うのだが…」

 

「う~ん…飛んで上から見ても森の木々が邪魔で見えませんし…」

 

「体中に宝石を付けているならば、地下のような所に居ると思うのだが…」

 

「そうですね…その可能性も無きにしもあらずあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…ッ!!!???」

 

「……合っていたようだな」

 

 

前を歩っていたリュウマが叫び声と共に消えた。

 

と、思うような光景ではあったが、その実…下にある広大な空間があるため、弱い部分を踏んだリュウマが下へと落ちていっただけであった。

これこそがトラの探していた住み家への入り口…洞窟の穴だ。

 

リュウマも驚いて叫び声を上げながら落ちていき、数秒経ってドスンという音が聞こえたのを確認してから、トラも穴から入って下の空間へと進んで行った。

辿り着けばリュウマが腰をさすりながら涙目でトラを見ており、心なしか少し睨んでいるようにも見える。

何故睨んでいるのか分からないトラは首を傾げていた。

 

 

「……落ちていっているのに何でボクを助けてくれなかったんですかっ」

 

「…??飛べば良かっただろう?」

 

「………………………。」

 

「飛べば良かっただろう?」

 

「……さーてっ…この奥にいそうな感じがします。進みましょうっ」

 

「無かったことにしたな」

 

「進みましょうッ!!」

 

 

頬を膨らませてズンズン奥へと進んで行くリュウマを見て、トラはクスリと笑いながら後をついていく形で進んで行った。

今よりも小さい頃の自分を見ているはずなのに、どうしてか弟のように見えてしまい、微笑ましそうな顔になってしまうのは仕方ない。

 

髪の中から覗く耳が少し赤くなっているリュウマも、この先に他とは比べものにならない威圧感を感じ取っているのか、この奥に何かがいるというのは把握していた。

事実この奥には宝獣が待ち構えている。

もっとも、道中と同じように雑魚敵を倒していかなければならないのだが…。

 

この洞窟は壁の全面に結晶のようなものが埋め込まれており、その全てが天然物である。

地中の圧力などで結晶が形成され、地震や猛獣達の戦闘の余波などによって上の地面が少しずつ削られていき、最終的に地上に近いところにこの結晶の洞窟が存在していたのだ。

 

宝獣はその名の通り体中に宝石を鏤めており、食べ物も天然物で純度の高い結晶を好んで食べていたりする。

そんな宝獣の住み家であるこの洞窟は、入ったら1つの部屋の空間のようになっており、そこから違う部屋のような空間へと続く道が出来ている。

 

道を辿っていくと新しい部屋に差し掛かり番人の如く猛獣が配備され、これ以上は進ませないと言わんばかりに侵入者を撃退するのだ。

全体の構造としては蟻の巣のような形に似ている。

 

 

「なんか不思議な構造してますね」

 

「そうだな。この先進めば必ず何かしらが待ち構えているが…引く必要はないだろう」

 

「ですね!周りの結晶から考えると、宝獣がいるのも決定的ですしね」

 

「ただ、そこまで行くのが面倒だな。何体相手にしなければならないのか…」

 

「それは同意します」

 

 

進むにつれて道が少しだけ狭くなっていき、奥から獣の唸り声のようなものが聞こえてきた。

聞こえた2人は互いに目を合わせて頷き合い、これから起きるであろう戦闘に対応するためにスイッチを入れ替えた。

歩っていくと広い空間に出て、入ってきたリュウマとトラを見据えていたのは一匹のサイのような猛獣だった。

 

 

───結晶サイ・狩猟(ハント)レベル452

 

 

サイの角に当たる部分が透明に輝く結晶から形成されており、硬度は非情に高く純度が高い。

サイであるからか突進による攻撃を主としており、それに当たらなければどうということはない。

 

 

「先にボクが行きますね」

 

「なら俺は後手に回ろう」

 

 

翼を使って飛んでの攻撃には移らず、走って行くサイの方へと向かっていき手元に槍を換装する。

向かってきたリュウマを捉えたサイは前脚で砂を蹴り上げるような動作をした後、頭を下げて角で突き刺そうと狙う。

 

 

「まあそう来るよね!」

 

「…!?」

 

 

迫ったサイの角を紙一重で躱した後飛び上がり、外して突き進んでいくサイの右上を巧みな体裁きで過ぎ去った。

躱されると思っていなかったサイは、リュウマの奥側に立っていたトラをそのまま狙い突進した。

 

 

「一直線に向かって来て素直にやられると思ったか?」

 

「ボクもいますし──ね!」

 

「────ッ!!」

 

 

躱した後体を捻って回転を加え、手に持っている槍を通り抜けていったサイに向かって投擲。

猛スピードで突き進む槍はサイの後ろ足の丁度付け根の辺りに深々と突き刺さった。

猛烈な痛みと間接の間に入り込んだ槍によって突進の速度が低下したサイは、いきなり止まれるはずもなく蹌踉けるようにトラへと突進。

 

 

「クカカ…立派な角だな?嘸かし──よく物に突き刺さるだろうなァ?」

 

 

やられながらも意地で攻撃したが、体を横に少しずらすことでリュウマと同じように紙一重で躱し、左手を首元に、右手を角へとやって時計回りに回転した。

勢いに乗ったサイは脚に刺さっている槍のせいもあってうまく抗うことが出来なかった。

 

 

「そんなに突進が好きならば──壁にでも突進していろッ!!」

 

 

一番近い壁に向かって放り投げたトラの怪力によって、サイは勢い良く壁に突進して角を突き立てた。

あまりの威力に刺さった所から壁に罅が入り轟音と共に石粒が上から降り落ちてくる。

 

投げ飛ばされて屈辱的な受け流しをされたことに怒りを覚え、後ろ脚の痛みに耐えながら角を引き抜こうと試みるも……抜けない。

体を後ろに引いて抜こうとするも……抜けない。

 

 

冷や汗が出た気がした。

 

 

「おやおや?おやおやおやおや????角が嵌まって抜けなくなっちゃったんですか~~??」

 

「それはそれは~…困ったものだなァ??」

 

 

リュウマが綺麗な人形のような可愛らしい笑みを浮かべながら近づいていき、見下したように顔を上に逸らせながらニタリと嗤いトラが近づいて来た。

 

リュウマの表情は確かに人形のような美しさがある笑みではあるが、数秒経ってもその笑顔が崩れず不自然に感じられ、近づくにつれて目元に影が掛かって見えるのは気のせいだと思いたいが…事実であるため恐怖だ。

 

トラに関しては綺麗な笑みどころか悪い顔を隠すつもりなど毛頭無く、身動きが取れないサイをそこら辺に落ちていた生ゴミを見るような目を向けている。

なのにその表情はニヤニヤした笑みで嗤って口元を歪めていた。

 

リュウマがその小さな身に不釣り合いなハンマーを換装して取り出し、トラは黒い波紋を起こして手元に1つの取っ手を取り出した。

その先には鎖が付いており、鎖が音を立てながら黒い波紋から暫く出てくると、先にこれでもかと棘が付いた巨大な鉄球が顔を見せ、落ちて地面を見事に陥没させた。

名を…モーニングスターという。

 

リュウマが取り出したハンマーの重量は大凡100キロ。

トラが取り出したモーニングスターの総重量は大凡400キロ。

 

 

 

ぶっ殺し確定の武器である。

 

 

 

「────ッ!!────ッ!!??」

 

 

 

嫌な予感が頭の中で警報を鳴らしているが、角のせいで抜けなく動けず、刺さった槍が力を入れようとする度に痛みを感じさせる。

必至の足掻きを見ていたリュウマとトラは優しい声でサイに囁いた。

 

 

「安心して下さい───頭は最後ですから♪」

 

「案ずるな───一撃で感覚など消え失せる」

 

 

 

 

 

 

この後一匹の猛獣の断末魔が響き渡り、同時に何かが押し潰されたかのような音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結晶サイをただの肉の塊へと変えた2人は更に奥へと脚を勧めていた。

ここまで来るにあたって、リュウマはもう既にトラの実力を認めていたのは必然であった。

普通ならば何十回と死んでいてもおかしくないような場所を、己と連携をとりながら戦っているのだから。

 

 

つまり、共に闘っていて楽しいのだ。

 

 

今まで自分が相手をしてきたのはもっと強い存在だったが、周りがリュウマのレベルに合わせることが出来ず、いつも1人で戦っていた。

己の母がいれば更に楽しいのかもしれないが、戦場へ誘うわけにもいかないので結局1人で戦っているのだ。

 

だが、今やどうであろうか?

 

偶然見つけた男を探し物に探しに協力してもらい、向かってくる猛獣共を屠っていけば、強くなっていく猛獣をも屠るその強さが窺える。

探し物の礼はぼんやり程度にしか考えていなかったが、これはちゃんと考えておかなければと思ったのは本音であった。

 

 

「次はどんな猛獣でしょうね!」

 

「倒してきた奴等よりも強力な生命力を感じるからな。それなりにやるとは思うが」

 

「ってことは…そろそろ宝獣へと辿り着くって感じですね」

 

「保証はしかねるがな」

 

「楽しみです♪」

 

 

この場では不釣り合いであろう話しをして、笑いあいながら進むこと数分…。

またも空間が広がっている場所へと出て来た。

今回の相手は何処に居るのか探してみるも、何処にも居ないため首を捻りながら進む。

 

 

「……あれ?いませんね」

 

「確かに気配は感じたのだがな」

 

「隠れているんでしょうか?」

 

「恐らくそうかも───」

 

 

と、両名が中央付近に差し掛かったところ…生き物の甲高い叫び声のようなものが聞こえた。

洞窟の中なので音が反響して位置が掴めず、仕方がないので目を凝らしながら見渡して探す。

互いに探し合っている時、リュウマとトラが反対方向に別れて探し始めたときだった…。

 

羽ばたくような音が聞こえたのだ。

 

音が後ろから聞こえたと瞬時に判断したトラは直ぐに振り返ってリュウマへと知らせようとしている。

知らされようとしていたリュウマは、案外近いところから聞こえた羽ばたきの音に気がついて振り向こうとしたのだが…少し遅かった。

 

 

「お前の背後に──」

 

「分かって───うああぁあぁぁああぁぁあぁ!?」

 

「……遅かったか」

 

 

振り向くのが遅れてしまったリュウマは、この場にいた猛獣に鷲掴みにされながら空へと連れ去られてしまった。

現れたのは体の所々に宝石のようなものを鏤めている鷹であり、暗くて見えなかった天井付近の出っ張りのような所で獲物であるリュウマとトラが散るのを待っていたのだ。

 

 

───ルビーノスリ・狩猟(ハント)レベル1656

 

 

全長4メートルの体に鏤められていたのは赤く輝くルビーという宝石。

獲物を相手の死角から狙う鷹には不釣り合いである程輝く宝石であるのだが、ルビーノスリは意図的にルビーの輝きを鈍らせることが出来、使いようによっては目眩ましなどにも使うことが出来る。

 

連れ去られたリュウマは両腕を左右の足で拘束されるように持たれているため両手が使えず、槍を換装させて攻撃することが出来ない。

力ずくで引き剥がそうとするが、獲物を足で捕らえるルビーノスリの力は凄まじくビクともしない。

 

ならば…と、魔力を練って魔法で爆発を起こし、無理矢理にでも引き剥がしてやろうとしたところ、飛んでいることで生じている向かい風が強くなってきた。

 

 

「加速!?は…はやッ」

 

「─────ッ!!」

 

 

飛んでいるルビーノスリは大きな翼を羽ばたかせ、速度を急激に上げることによってリュウマの行動を阻害していた。

同時に旋回しながら更に更にと速度を上げていき、掴んでいる足に力を込めると…壁へと一直線に向かってリュウマを叩きつけた。

 

 

「かはっ…!?」

 

「チッ…この鳥がッ!!」

 

 

最終的に達した速度は時速約800キロ。

普通の生物が出せる速度ではない速度で壁に叩きつけられたリュウマは、背中からの強烈な衝撃によって肺の中の空気を全て強制的に吐かせられた。

1つ前に戦った結晶サイの狩猟(ハント)レベルより4倍近く高いルビーノスリは、単体で優れた身体能力を持っていた。

 

 

「飛び回りおって…引きずり落としてやるわッ!」

 

「…!!」

 

 

空中の高い場所で旋回しながら、残っているトラの出方を窺っているルビーノスリを地へと落としてやろうと、手に黒い波紋を起こしながら弓を召喚した。

後に召喚した矢を弓に番え、魔力を練り込むことで強度と速度を上げさせた。

 

限界まで引き絞ることで弓から軋むような音が生じる。

折れるのではないかというほど引き絞っているトラの腕は、着物によって見えないので分からないが、幾本もの筋が入って血管が浮き出ている。

飛び回るルビーノスリに狙いを定めたトラは…掴んでいた弦を離した。

 

弦が切れる寸前まで力を加えられていた矢はかなりの速度で放たれ獲物を狙う。

速度が驚異的すぎて空気を切り裂いて進んで行くが、ルビーノスリが一度だけ大きく羽ばたき速度を一瞬上げたことで外れ、奥の壁に突き刺さって壁を破壊した。

 

たった1度の羽ばたきでそこまで速度を上げて避けるのかと驚いたトラは、次に備えて少し短めの矢を一本召喚した。

先程と同じように番えられた矢は限界まで引き絞られる事も無く、魔力を籠められただけで放たれた。

 

向かってくる矢を同じように回避しようとルビーノスリが大きく羽ばたいたのを見て、トラはニヤリと嗤った。

速度を急激に上げたルビーノスリが矢を回避したと同時に、壁に当たるはずであった矢は方向転換をして追尾した。

 

 

「!?」

 

「同じ手を連続で使うわけが無いだろう鳥が。精々飛び回って避けてみろよ」

 

「…………。」

 

 

速度を更に上げて矢を振り切ろうと画策するルビーノスリであるが、矢は速度を上げた分だけ加速して迫ってくる。

このままではその内追いつかれると感じたルビーノスリが、背後の矢から視線を逸らして前を向くと、何時の間にか違う矢が急接近していた。

少し慌てながらもどうにか体を捻って避けたが、避けられた矢は反対方向でもお構いなしに方向転換してもう一本の矢と並列して向かってきた。

 

 

「誰が一本だけだと言った?──貴様に当たるまで幾らでも放つに決まっているだろう」

 

「………。…?───ッ!!??」

 

 

いくら追い掛けてくる矢が2本なったといっても、速度では常に自分の方が上。

故に矢は当たることはなくそのままトラを狙えばいい…と考えに至ったルビーノスリであるが、上からの凄まじい威力の衝撃に吃驚した。

落ちていく中で首を捻って攻撃してきた存在を確認すると…槍を手にしたリュウマがいた。

 

 

「よくもやってくれましたね?───許しませんから」

 

「……!!」

 

 

攻撃を食らって落ちていっているため速度が落ち、背後から迫っていた矢が突き刺さらんと狙う。

空中にいたリュウマは翼を使って飛行ではなく、傍を通っていくところであった一本の矢に掴まって矢と共に迫った。

この体勢ではマズいと悟ったルビーノスリが体勢を整えようとしたところで、更に違う衝撃が右側の背中に走って体勢が尚のこと悪くなる。

 

 

「俺が見逃す訳がないだろう」

 

「ナイスタイミングです!」

 

「────ッ!!」

 

 

体勢を大きく崩されたことによって飛んでの回避という選択肢を潰されたルビーノスリに、矢から手を離したリュウマが槍を構えた。

先に到着した2本の矢はルビーノスリに当たりそうになるも、足掻きとして振り下ろされた足によって折られて地へと落ちた。

 

しかしリュウマはまだ残っている。

 

 

「これは先程壁に叩きつけてくれた御礼です。快く受け取って下さいッ!!」

 

「─────ッ!!」

 

 

矛先を突き刺すように叩きつけた威力でルビーノスリの体はくの字にひしゃげて地面へと勢い良く叩きつけられた。

あまりの威力に土煙が上がる中、槍で攻撃したリュウマは…手の痺れに顔を顰めていた。

 

 

───クッ…なんて硬い体なんでしょうか…ボクの手が少し痺れましたよッ

 

 

突き刺したのはいいが、ルビーノスリの体は思っていた以上に硬度が高かったようで槍の矛先を数センチ刺さった程度で止めていた。

リュウマの持つ槍は腕の良い鍛冶屋によって鍛えられた至高の逸品…貫かないものはあまり無いと思っていたが、その考えを覆された。

 

叩きつけられたルビーノスリが体を捻って藻掻き、上に乗っているリュウマを振り落とすと直ぐに飛び立って怒りの表情で下にいる2人の人間を見下ろした。

何か仕掛けてくると感じ取ったリュウマとトラが構えると同時に、翼を大きく広げ…力の限り羽ばたかせた。

 

後に訪れたのは凄まじいまでの暴風。

 

数回羽ばたかせるだけで時速800キロへと至らせる強靱な翼は、全力で使えば嵐と間違う程の暴風を生み出した。

暴風だけならばまだ許容範囲だったのだが…ここは入り口と先に進む道以外が岩石や結晶などによって密閉されている洞窟。

生み出された風は分散されることなくリュウマとトラを襲った。

 

 

「な…んて…強力なっ…風でしょう…かッ!」

 

「凄まじい…風力ッ!」

 

 

ルビーノスリから送られる暴風に吹き飛ばされないよう、リュウマは手に持つ槍を深く地面に突き刺して強く握り締めることでどうにか耐えていた。

逆にトラは暴風に晒されており、武器を召喚しようにも風が強すぎて手を伸ばすことが出来ない。

埒が明かないと判断したトラは、神器である『地獄鎖の篭手』から伸ばされる漆黒の鎖を四方八方の八箇所の地面に突き刺して体を固定した。

 

何処までも伸びて主人の望むように動く鎖がトラの体を締め付けながら固定しているため吹き飛ばされる心配はないが、それはつまりその場から動くことが出来ないということだ。

武器を投げても矢を放っても風に阻まれて無駄だと結論付けたトラは…相殺することにした。

 

 

「神器…召喚ッ!──『蒼神嵐漫扇(あおがみらんまんせん)』ッ!!」

 

───我が()()()()()である彼奴の至高の武具だ…覚悟せよ。

 

 

手元にどうにか召喚されたのは…見る者の目を…心を奪い尽くすような美しい蒼で形作られている1つの扇子。

本来扇いで風を送り涼む為の物である扇子は、戦闘において使われることの無い物であるが…これは違う。

 

決して戦闘において邪魔にならない程度に施された装飾…それでいて手にするだけで心を落ち着かせてしまう程の純粋なまでの蒼…。

しかし…その扇子から感じる魔力は…既に理解の範疇を超えていた。

その証拠に、風を耐えていたリュウマがトラの持つ扇子を見て目を見開いて驚愕していた。

 

 

「『迸り殺す刃の轟嵐(アンブレラ・テンペスター)』ッ!!」

 

「─────ッ!!??」

 

 

一度だ……たった一度の扇ぎで全ては決した。

 

 

魔力を籠めることなく、()()()()()()()()()()()()()放たれた轟風とも呼べる風と、計り知れない風の威力によって風が空気を切り裂いて刃となり、リュウマが持つ槍でも少ししか刺すことが出来なかったルビーノスリの体を細切れにして殺した。

 

生じたあまりの刃と化している風は乱流から竜巻状に姿を変えた後、そこら中の壁という壁に風の爪痕を刻んで洞窟自体を破壊しようとして止まらない。

竜巻状にまで()()()()()()()()制御しているトラは、両手で扇子を押さえるように持ちながら全神経を集中させた。

 

 

───…ッ…!!言うことをッ…聞けッ!!

 

 

洞窟の中で凄まじい破壊の力を生み出す竜巻を、少しずつ抑えることに成功し、やがてそこらの嵐による強風が子供に感じてしまうような風を消失させた。

全神経を集中させて操っていたトラは、肩で息をしながら()()()()()()()()()()()回復させる為に自己修復魔法陣を発動させて治した。

 

 

「……いやはや…とんでもない威力の魔法ですね…。あの鷹が一瞬で細切れになった後、更に細切れになって消滅しましたよ」

 

「…これは元々俺の友が持って自由に操り使っていた扇子だ。…()()()()()俺が使ったために言うことを全く聞かなかったからな…風を消すのに苦労した」

 

「……その友の方は…」

 

「…………。」

 

「そう…ですか。すみません。失言でしたね」

 

「いや、大丈夫だ。事実であるからな」

 

 

トラの言う友という者が今、どういう状況であるのか理解したリュウマは悲しそうな表情をして謝った。

割り切っているトラは苦笑いしながら立ち上がり、リュウマの頭を軽く撫でてから先へと進んでいった。

撫でられたリュウマは手で撫でられたところを触れてトラの背を見ていたが、トラに置いてかれないように頬を少しだけ赤くしながら槍を消して追い掛けた。

 

次の所で待ち構えているであろう所に向かっている途中、トラは自己修復魔法陣で修復させた右腕を見ていた。

大抵…いや、全ての武器を操ることの出来るトラが完全に扱うことの出来ない特殊な武器…。

それが蒼神嵐漫扇(あおがみらんまんせん)の他にも2つだけ存在し、そのどれもが使おうとすると使用者を攻撃してくるのだ。

だからトラの右腕が先程切り傷だらけになって負傷していたのだ。

 

主と決めた瞬間から、例えその主が死んでこの世から消えてしまっていたとしても、その従順さを色褪せることなく守り続けるその意思。

武器とも言えども凄まじいものであった。

この先にいるであろう宝獣にももしかしたら使うかもしれないと考えると、何となく気が重かった。

 

 

「トラ、この先にいるのはもしや…」

 

「うむ…宝獣というやつだろうな」

 

「……戦ってきた奴等よりも強大な魔力を感じますね」

 

「……だが引く気は無いし、宝獣の心臓が必要なんだろう?」

 

「はい。母の為にも必ず」

 

「では…征こう」

 

 

恐らくこれで最後になるであろう広く開けた場所へと進み出てきた。

葬ってきた猛獣達は、それぞれが警戒しながら戦闘態勢に入っていたり隠れて様子を窺っていたりと姑息な真似をしているのが大半であったが…今回は違っていた。

一際広いその空間に着いた時、まず最初に感じたのがなるほどという感情。

 

その訳とは…入って目にした宝獣は、侵入してきたリュウマやトラに対して警戒しているのでもなく、隠れているのでもなく、何か罠を仕掛けているわけでもない。

ただ…ただただ中央に鎮座していたのだ。

まるでここに来るのを分かっており、歓迎しているかのような自然体でいるその生物は…まさに此処ら一帯のリーダーに相応しい風格を纏っていた。

 

 

 

 

───宝王・ゲンマニアクラブ 狩猟(ハント)レベル4852

 

 

 

 

 

「いやぁ…これはとっても強いですねぇ」

 

「そうだな。戦闘を長引かせる訳にもいかんからな…そうなれば───」

 

「必然的に───」

 

 

 

「「短期決戦ッ!!」」

 

 

 

「…………。」

 

 

2人が同時に構えて臨戦態勢をとったのを見てから、ゆっくりと胴体を起こして同じく臨戦態勢をとった。

互いに両者が睨み合う中で先に動いたのは…リュウマであった。

今日の戦いの中で余り使われることのなかった魔力を、換装した槍を覆うよう全体に纏わせ、足全体にも纏わせてから膝を折り…その場から消えた。

 

 

「……??」

 

「───ここですよ」

 

 

次に姿を現した時には…立ち上がった時の全長10メートルという巨体を持つゲンマニアクラブの真上へと移動し終わっており、翼を使っての爆発的な推進力を使って貫通させんと急降下した。

勢い良く突き刺した槍はゲンマニアクラブの体を貫通───

 

 

「かっ…たいッ!!」

 

「…………。」

 

 

───することなく…数ミリも刺さることなく止まってしまった。

 

 

ゲンマニアクラブの体は全体を純度がかなり高く耐久度に優れた宝石をふんだんに埋め込まれており、千差万別であろう宝石をランダムに使われていることで驚異的な耐久性を誇っている。

そのおかげでリュウマの全力の刺突をものともしない甲殻が出来上がっていたのだ。

 

攻撃されたことで攻撃仕返そうと、巨大なはさみ状の爪を真上にいるリュウマへと振り上げて叩き潰そうと狙う。

勿論のことそんな攻撃が来ることを分かっていたリュウマは飛翔して爪を躱して空高くへと回避した。

蟹特有の黒い目をリュウマへ向けた瞬間を狙って、最初の位置に居たトラは大槌をその手に召喚して爪のある前足の他の8本ある足の右前一本の足を狙う。

 

後ろへと大きく振りかぶってから魔力による筋力ブーストと、魔力を推進力のためだけに使う魔力放出を行ったことによる破壊の一撃は、前足の付け根に当たって足そのものを叩き折った。

胴体の甲羅は耐久度が途轍もないかもしれないが、足の方はそこまでではないらしく、比較的簡単に折ることが出来た。

 

だが、蟹は足が合計で8本あるため、一本失っただけでは行動に支障は余り見受けられない。

しかし1と0では少なくとも違うため、次に何処を狙おうかと画策する。

足を取られた側であるゲンマニアクラブの方は、さして気にした様子も無く、近い位置に居るトラを狙って一本の足を振り上げた。

 

踏み潰そうとして隙が出来たことを、飛翔しながら上空で観察していたリュウマは、隙有りとばかりに初撃と同様に急降下して甲羅よりも先にはさみのある爪のある腕の付け根を狙う。

 

そこで…ゲンマニアクラブが振り上げた足を止めた。

 

攻撃してくると身構えていたトラは不審に思っていると、2つある目の内1つの目が、背後から迫るリュウマの方を向いていることに気がついた。

トラの方を狙えば背後にいるリュウマが攻撃を仕掛けてくると見越してのフェイントであった。

 

 

「───ッ!待て!!罠───」

 

「えっ───ごぶっ」

 

 

現状の最高速度で突っ込んで行ったリュウマへ、爪のある腕を振り向き様に振るって横から壁まで叩きつけた。

相当の威力であったのだろう攻撃を受けたリュウマは、壁に埋め込まれている宝石へ背中から突っ込みめり込んでしまっていた。

追い打ちをかけるつもりなのか、リュウマの元へと移動し始めたゲンマニアクラブへ向かってトラが足止めとして攻撃した。

 

転ばせるか体勢を崩させるつもりで地面を思い切り叩きつけ、地割れの如く割ったことによる広がる罅が足に到達するといったところで…ゲンマニアクラブは体を少しかがめた後に高くジャンプした。

足止めの攻撃をその巨体からは考えられないような躱し方で回避したゲンマニアクラブは、ちょうど囲まれた宝石の中から出て来ようとしていたリュウマへ腕を振るっていた。

 

 

「身動きが───アァッ…!?」

 

「此奴ッ!最初から彼奴を狙って…!」

 

 

爪を開いてその間にリュウマを挟み込む形で壁ごと叩きつけたゲンマニアクラブは、腕をそのままにもう片方の腕で別方向から跳び上がってからの振り下ろし攻撃をしていたトラの大槌を受け止めた。

挟まれたリュウマは確かに衝撃もきていたが、それよりも後ろにある壁と左右と前を固めるように爪によって動きを制限されているため、文字通り動くことが出来ないでいた。

 

しかし、リュウマを拘束している以上同じく行動を制限されているゲンマニアクラブは、動けるトラにとっては格好の好きであることには違いないので、リュウマを巻き込まない程度の魔法を放ってリュウマを解放させようとしたのだが。

 

 

「何…!?」

 

「…………。」

 

「こいつ…こんなことが出来たんですか!?」

 

 

リュウマを壁に拘束していた腕を…胴体から()()()()()

 

ゲンマニアクラブが今行ったのは自切(じせつ)と呼ばれる行為である。

 

自切とは、特定の動物達が外敵から己の身を守る為に、足や尾などといった体の一部を自ら切り捨てる行動の事である。

有名なものでトカゲが外敵に尻尾を掴まれたり噛まれたりした時に、尻尾を切り離して本体は逃げるといった行動だ。

 

蟹も同様に、自らの危険を感じた時、ハサミや足を自分で切り離して逃げる。

これを「蟹の自切」と言うのだ。

ゲンマニアクラブはその自切を任意のタイミングで行うことが出来、それと同時に───

 

 

「再生まで…!」

 

「なるほど…蟹は自切したあと、再生が出来るのだったな…ここまで早いのはどうかと思うが…」

 

 

───切り離した腕や足を再生することが出来る。

 

 

本来ならば脱皮をする時に無くなった腕や足が小さく生え、そこから少しずつ元の大きさへと戻っていくのだが…ゲンマニアクラブは瞬時に切り離し、瞬時に再生させることが出来るのだ。

なのでリュウマを拘束している腕も、トラが大槌で無理矢理叩き折った足も再生して元の姿へと戻っていた。

 

蟹が自切と再生を行うことが出来ることを忘れていたトラは唇を噛んでいた。

もう少し早く気がつくか、それよりもリュウマが狙われていることを先に察知していればこの状況を回避することが出来た。

失念していたことに悔しさを覚えながら、召喚していた大槌を消してから刀を召喚し直した。

 

壁に縫い付けられているリュウマの方をチラリと見てから、駆け出して親指で鐔を持ち上げて刃紋の走っている刃を覗かせる。

駆け出してくるトラに冷静に生えたばかりの爪を振りかぶって薙ぎ払う。

神速の抜刀で迎え撃てば辺りに高い金属音をと衝撃波を生み出し、数瞬の拮抗を持って…トラの持つ刀が手から弾かれた。

 

得物を無くしたトラにもう片方の爪で攻撃した反動を使った横からの殴り抜きを入れてリュウマのいる壁とは離れた反対方向の壁へと飛ばして叩きつけた。

まともに正面から攻撃を受けたことで、威力そのままに壁に大穴を開けて上から衝撃で崩れた瓦礫が降り注ぐ。

 

生き埋めになってもう動けないだろうと判断したゲンマニアクラブは、行動を抑制させていたリュウマのいる壁に向き直り…固まった。

そこには確かに縫い付けていたリュウマがおらず、切り離した腕が地面に落ちていたのだ。

2つの目を左右別々に動かしながら何処に行ったのか探していると、背後から声が聞こえた。

 

 

「探し物はボクですか?」

 

「!!」

 

「残念こっちでした」

 

「─────ッ!!??」

 

 

背中の甲羅から聞こえたのでそっちに目を向けてみれば何もおらず、しかしリュウマは既に甲羅から前へと移動して手に握り直していた槍を振りかぶっていた。

トラが大槌で攻撃する時のように、魔力放出による威力増幅を模倣してゲンマニアクラブの両目を横の薙ぎ払いで斬り飛ばした。

 

手足を再生させることは出来ても、目を再生させることは不可能であるため突如訪れた真っ暗闇に驚いたことと、後に襲いかかる激痛から我武者羅に暴れまわって爪で周辺の宝石や岩石などを粉々に壊し回っていく。

 

暴れ回るゲンマニアクラブの姿を空に飛ぶことで攻撃範囲内から回避していたリュウマは、トラが吹き飛ばされた壁を見ていた。

まともに攻撃が入っていたが、その前に攻撃が拮抗した後に弾かれた刀は、回転しながらリュウマの横すれすれの壁に勢い良く突き刺さって壁を破壊し、重さでゲンマニアクラブの爪が下に落ちてその場から離脱することが出来たのだ。

 

それ即ち、トラはリュウマを助けるために態と攻撃を受け、召喚した刀は元々リュウマのいる傍の壁に突き刺さるように計算して手から離したのだ。

一連動作を瞬時に考えついて尚且つ実行するその行動力と判断力に感心し、御礼を言おうと決めたのだ。

 

だが、それよりも先にゲンマニアクラブをどうにかしなければならないので、気持ちを入れ直してこれからどうしようか考えた時…大きな破壊音が鳴り響いてそちらに目を向けた。

目を向けた先には…片手で持てる程の大きさをした(ハンマー)を持ったトラが、崩れていた岩石をその槌で全て粉々にした後であった。

 

 

「俺が彼奴の甲羅を砕く。最後は任せたぞ」

 

「え?でも、あいつの甲羅は相当硬いですよ?ボクの槍が全く刺さりませんでしたから」

 

「同じく友が使用していたこの『赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)』があれば、彼奴の甲羅なんぞ幾らでも砕ける」

 

「…分かりました。空で待機しています」

 

 

提案された内容に頷き、翼を羽ばたかせて飛翔し天井のギリギリの所まで上昇してから下にいるゲンマニアクラブと槌を構えているトラを見やった。

赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)蒼神嵐漫扇(あおがみらんまんせん)と同じくトラの()()()使用していた至高の武具であり、片手で持てる程の大きさだ。

 

だがそれでも…トラは手にして持ち上げているだけでも腕全体に筋が入り、右腕どころか顔にまで血管が浮き出ている。

それ程までに力を込めなければ今のトラには持ち上げることすら出来ない程の重量がある。

それにだ…トラは封印を限定的に外している。

 

 

「筋力限定での封印第四門までを解放…ッ…だが…それでもッ…これは重いッ…!」

 

 

気を抜いたら地面に滑り落としてしまいそうな程重い槌を持ったまま、幾分か痛みが引いて暴れることをやめているゲンマニアクラブに向かって駆け出していった。

持っている赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)の重さによって踏み込んだトラの足が地に大きな亀裂を入れていくが、魔力を張り巡らせて完全に陥没して体勢を崩さないようにしていた。

 

近くにまで迫ったトラは足に限界まで力を入れて地を蹴り砕きながら跳び上がり、音で迫って来ていたトラの存在に気がつき、野生の勘とも言える直感で両の爪を伸ばして攻撃した。

爪が迫るのを見ていたトラであるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()振りかぶった。

 

 

 

 

「『万物粉砕せし破壊の業(デストルティオ・カタストロフィ)』ッ!!!!」

 

 

 

「─────────ッ!!!!!」

 

 

 

 

我が身へと迫る巨大な2つの爪は…赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)に触れた瞬間何の抵抗も無く、当然と言わんばかりに木っ端微塵に完全粉砕された。

続いて逃げるには余りにも手遅れ過ぎたゲンマニアクラブの背中中央に向かって振り下ろした。

 

リュウマが初撃の時に突き刺そうとしても全く刃が通らなかった果てしない硬度を持つ甲羅は…叩き込まれた赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)の威力による轟音を鳴り響かせたが、それは甲羅全体に蜘蛛の巣状の罅を入れた時の音であった。

 

本気でこの赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)を振るって叩きつけると、地球の地盤をぶち抜いて遥か地中の下にまで巨大な風穴を空けてしまう程の威力を誇るため、()()()()()()叩きつけたのだ。

そのおかげでゲンマニアクラブの甲羅をほぼ全壊させる程度に収めて洞窟は崩れていない。

 

 

「───今だ!!」

 

「待ってましたし───準備は出来てます」

 

 

余計な被害を生む前に()()()()()()()()()()()()()()()()が流れる体に鞭を打ち、その場から退避すると同時に赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)を消した。

合図として上空にいるリュウマに叫べば、リュウマは既に準備など整っていた。

 

小さな体の全身から流れる膨大な魔力が、手に持つ()()()()に流れていき纏わせていく。

流し込んだ魔力のあまりの量に、槍が黄金の光を生み出して薄暗い洞窟の中を金色に照らした。

金の太陽ではと思ってしまうその槍を、3対6枚の翼を持つ人間が今…投擲しようとしている姿はまさに神秘的光景という言葉が合っているだろう。

 

 

 

「この時の為に温存した全魔力を解放…さようなら」

 

 

 

文字通り全ての魔力を纏わせたリュウマは、狙いをトラが槌で叩きつけた痕の真ん中に絞った。

ただその一点を穿つために神経を集中させ──全力で投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『穿ち貫く黄金の至高槍(プラドル・アニムス・ランケアナ)』ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

計り知れない魔力を放つ黄金の槍は…狙った通りにゲンマニアクラブの甲羅中央に突き刺さり…地面の遥か数キロまで貫通し破壊した。

 

 

 

 

 

 

リュウマとトラの戦いは…見事な勝利で幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 




赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)の形は「マイティー・ソー」が持つハンマー「ムジョルニア」に似ている感じだと思って下さい。

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