FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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急ぎ足になり、話が急展開になっているかもしれませんが、御容赦下さい。




第六十刀  帰還

 

 

ゲンマニアクラブをリュウマの全魔力を籠めた一撃で見事打ち倒すことに出来たリュウマとトラは、やっと倒せたことに心を軽くさせ、トラが骸となったゲンマニアクラブの体に近づいていった。

 

心臓が1番価値のある宝石だと言ったが、正しくはゲンマニアクラブの体内で長年時間かけて生成される宝石のことである。

好物が宝石などの結晶であるゲンマニアクラブは、食べた結晶や宝石を少しずつ体内に溜め込み、1つの濃縮された宝石を創り出す。

 

出来上がった宝石は求愛するときに用いられてるのだが、ここに居るゲンマニアクラブは雌を見つけることが出来なかった雄であり、かれこれ100年以上生きている大物だ。

体内で生成された宝石は、他の宝石が霞んで見えるほどの莫大な価値を誇る。

 

 

「さて、洞窟崩れないうちに取り出しておくか。やっと見つけて倒したというのに崩れた洞窟の中に埋まった…など目も当てられん」

 

 

体の中央が貫通して骸となっているゲンマニアクラブに近づいて、頭部の場所から数十センチいったところにある宝石を取り出すために傷口から手を入れて宝石を探しにかかる。

中々見付からさず悪戦苦闘していたが、硬い物に指先が触れたので掴んで引っ張り上げた。

 

 

「おぉ…美しい。ここまで純度の高く美しい宝石は滅多に目にすることは出来ないぞ」

 

 

引き抜かれた宝石はダイヤモンドのように光り輝きながら、翳せば奥にある景色が透けて見えてしまうほどの透明感を誇り、当たった日光の光を浴びて優しい光を生み出していた。

形は球型であり、硬度はゲンマニアクラブの甲羅以上に硬いという優れ物だ。

加工は容易ではないが、これをブレスレットに使うとなると豪華極まりない代物と化すだろう。

 

見つけたことを教えてやるために、後ろにいるはずのリュウマへと振り向いて宝石をみせようとしたのだが…背後からポトッと気の抜けた何かが落ちる効果音が聞こえた。

何の音だと頭に疑問符を浮かべながら振り向いたトラが見たのは…槍を投擲するためにいた上空から落ちてピクリともしないリュウマだった。

驚きの光景に吹き出しながら近づいて頭の下に腕を差し込んで起き上がらせる。

 

 

「どうした!何があった!?」

 

「ま…魔力が…」

 

「魔力がどうした!?」

 

「調子に乗って…全魔力を使ってしまい…動けなくなってしまいました…」

 

「………………。」

 

 

確かにゲンマニアクラブの甲羅は硬く、先にトラが罅だらけにするほど破壊していたとしても硬いものは硬い。

なので失敗しないようにと槍に文字通り全魔力を注いで投擲したのだ。

放った今では全力攻撃が仇となって、上手く身動きが出来なくなってしまった。

動けなくなるまでやらなくてもいいのに…と思いながら、トラはリュウマの前で膝をついた。

 

 

「おぶっていこう」

 

「えっと…いいんですか?」

 

「もうこの洞窟は崩れる。早くしなければ生き埋めになるぞ」

 

「…よ、よろしくお願いします」

 

 

おんぶをされるのが恥ずかしいのか、少しだけ頬を赤くしながら、トラの肩に手を置いてから身を乗り出して背負って貰い、トラはリュウマがしっかり乗ったことを確認してから立ち上がった。

母や父…その他信用できる者にしかおんぶや抱っこをして貰ったことがないリュウマは、初めて会って間もない者に負ぶってもらい新鮮な気分だった。

 

まだ子供であるリュウマには魔力欠乏による身体能力低下はキツいらしく、トラの服を握る力はそれ程強くなく、下手したら体勢を崩すだけで落ちてしまうかもしれない。

背負っているトラからしてみれば子供を負ぶっているのだが、相手が異世界の若かりし頃の自分であるのでやはり複雑な心境であった。

 

背負ってバランスを整えていると、リュウマの投擲による破壊の仕業で洞窟の耐久力が著しく落ちてしまい、本格的に崩れ始まってしまった。

現在いるのは洞窟の中でも最深部…つまるところ地上から1番深いところにいるのだ。

 

このままでは大質量の土や岩石、結晶からはじまり宝石などが上から降り注いでくると直感したトラは、片手で背中にいるリュウマの体重を支えて、空いたもう片方の腕を天井に向かって翳して魔力を籠め始めた。

籠められた魔力は広げられた手の平の前に球型の形を成り、発射されてちょうど崩れてきた天井を巻き込んで地上まで突き抜けていった。

 

破壊の余波で周りの物も全て消し去ったおかげで上までの見通しが良くなり、太陽の光が2人を祝福するかのように優しく包み込んだ。

数時間ぶりに浴びる日光は、どこか久しぶりにも感じた。

 

 

「出来るだけしっかり掴まっていろ」

 

「分かりました。お願いしますね?」

 

「任せておけ」

 

 

立っている場所から壁に向かって走り始め、大きく跳躍したかと思えば反対側にある壁に向かって跳ね返るように跳躍…この繰り返しによって地上まで進み、繰り返すこと二十数回の後、緑に包まれている森の中へと降り立った。

 

 

「ここから東に向かって下さい。そこにボクが住む国があります。今回の御礼を是非ともさせて欲しいので一緒に行きましょ?」

 

「……あぁ…分かった」

 

 

これから目指すのはリュウマの育った国である翼人一族が住まう国…フォルタシア王国である。

 

 

しかしそれは同時に…この世界へ来てしまったトラのかつての生まれ故郷である。

 

 

意図せず異世界ながらの我が父と母に会うかもしれないという事に、不安になりながらも…とても…とても胸を締め付けられる想いだった。

叶えたくも叶えられなかった再会を…実際に腹を痛めて産んでくれた実の母や、いつも優しい目を向けてくれた実の父ではないにしろ、背に乗っているリュウマがかつての自分と同じ顔なだけあって必ず顔も同じ筈だ。

 

そんな2人がいる国に行って、ましてや懐かしき我が国を見て正気でいられるのだろうか?

涙を流さないでいる自信は残念ながら無い。

故の不安もありながら、()()()()()をしてしまった母と父の姿を今一度見ることが出来る歓喜に心は分断されていた。

 

軽くも重いという不思議な足取りで歩き出したトラと、何故か居心地が良すぎるトラの背で夢心地になっているリュウマは、ここから東に百キロ程行ったところに存在するフォルタシア王国へと向かったのだった。

 

 

 

───父上…母上…異界の()()()()息子ではありますが……私は今から帰還します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウマを背負いながら歩き続けること数時間、リュウマの魔力がある程度回復したことで自分の足で歩くと言い出し背中から下ろしてやり、一緒に国へ向かっている途中…陽が沈みかけているということでこれ以上遅くなるのは心配されるという意見により、ここから先はリュウマがトラを運んでいくことにした。

 

 

「本当に大丈夫か?」

 

「任せて下さい!ボクの魔力は既に回復しましたし、大人1人程度問題ないですよ!」

 

「…そうか」

 

 

一度運動前の屈伸の用量で背中にある6枚の翼をバサリ羽ばたかせた後、少し飛翔してからトラの背後へと回り、脇の下に腕を回して持ち上げて飛ぶ準備をした。

トラはこれから起こることに冷や汗を流していた。

何故冷や汗を流すのか?それは勿論───

 

 

「では…行きます!!」

 

「ゆっくりで頼───」

 

 

まだその小さい体に相応しい翼を広げて全力でその場から飛翔した。

推進力として魔力をつかった羽ばたきによる飛翔は、立っていた地を破壊していった。

冷や汗を流していたのは、狭い空間というものを無くしたリュウマが全速力で空を駆けるのではと懸念していたからである。

 

初速は時速200キロ程であるが、そこから2度目の羽ばたきと魔力補助による超推進力での第二加速で時速は500キロ…空気抵抗をなくすために前方に魔力障壁を展開することで更なる加速で時速は大凡1200キロ…マッハ1を超した超速度と化したリュウマとトラは…そこから数十分後に国へと着いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「……酔ったかもしれん…」

 

「いやぁ…ハハハ…すみません」

 

 

自分にも翼があるから飛んでいる以上酔うことは無いのではと思われるが、自分で飛ぶのと飛ばして貰うのでは訳が違うため少し酔ってしまう。

ここにナツがいたならば確実に口からキラキラを出して死んだように気絶しているはずだ。

それでも少し酔っただけで済むのは流石はトラといったところであろう。

 

少し荒くなってしまった息を整えてから恐る恐る顔を上げ、前に広がる光景を目にした。

目に映っていたのはやはり…過去に見てきた己が故郷であるフォルタシア王国へと入り口である巨大な門。

門の横から伸びる国を守る為の壁は高く連なっており、門以外からの侵入を許さない絶壁となっている。

 

しかもそんな壁の上にはバリスタや大砲などといった、戦争を仕掛けてきた者共の一切を一網打尽にする固定砲台が並べられていた。

故に入り口は前にある門しか無く、他にも入り口らしきものはあるが…それは万が一のためにと作られている脱出口となっているので入り口ではない。

 

結局のところ、翼人一族でない空を飛ぶ術を持たない者達はこの門を通ること以外に内部へ入ることは出来ないのだ。

門の前には薄い赤の翼と薄い緑の翼を持っている2人の兵士が立っており、訪れた者を見定めるために監視をしていた。

 

因みにであるが…この2人の兵士はかなりの腕前を持っている。

 

翼人一族というのは元々身体能力などに秀でた…所謂戦闘一族であるため、純粋な人間よりも元から強い一族であるのだが、この門の前に居る兵士はその中でも上位に位置する兵士だ。

 

入り口の警備と聞くと下っ端の兵士の仕事であると思われがちではあるが…そんなものはとんでもない。

国に入る手段である門の前の警備及び門番はかなり重要な役職だ。

であればだ、そこを守護する兵士が弱いわけがない。

むしろ守備として手練れ中の手練れだ。

 

 

「リュウマ様!御帰還お待ちしておりました!!」

 

「して、後ろの者は…」

 

「はい、この方はボクの手伝いをしてくれたトラです。御礼をするために招きました」

 

「了解いたしました。どうぞお通り下さい」

 

「リュウマ様に──敬礼!!」

 

 

見事に綺麗な敬礼を見せた兵士の間を、リュウマとトラは進んで行く。

すると間もなくして大きな扉は音を立てながら開かれていき、道を開いてくれた。

すると中から賑やかな街に住む人々の賑わいの声が聞こえてきて、門が開いて入ってきた人物がリュウマであると分かった瞬間更に賑わいを見せた。

 

 

「あはは…話さなくてすみません。ボクこれでも王家のものでして」

 

「そんなことだろうとは思っていたからな…大丈夫だ」

 

「そうですか。御礼をしたいので城まで来て下さい。おもてなしもしますから」

 

「…お邪魔させてもらおう」

 

 

城への道を空けながらも凱旋の如く開けられた道を進んで行くと、リュウマに声をかけていく住人の声が実に楽しそうであった。

勿論人々は翼人一族であるため、色取り取りの色をした翼を持つ翼人がいる。

 

翼人一族は戦闘能力が高いのも特徴の1つでもあるが、もう一つの特徴が、翼の色が様々であるということだ。

赤もいれば青もいる、黄色に緑、薄い紫等といった実にカラフルな色合いとなっている。

だが、やはりリュウマと同じように片方ずつで色が違う翼を持つ者はいなかった。

 

歩いて過ぎ去っていくリュウマの後ろを歩くトラを見た街の住人達は、最初こそ何故地人が?と、訝しげな顔や怪訝な表情をしていたが、他でも無いリュウマの連れ人であるということで視線を逸らしていた。

地人(ちびと)”というのは、翼を持ちながら人間である翼人と、翼を持たない純粋な人間を別にするときの別称である。

地を歩く人…からちなんで『地人』と翼人達は呼んでいた。

 

フォルタシア王国は広大な面積を持っており、国の象徴である城…シュレディウム城は国の中央に聳え立っているのだ。

国の端から端までを見通すことが出来るようにと建てられた城は、まさに圧巻の一言であるような大きさを誇る。

 

歩いて数十分かけて城へと辿り着いたリュウマの姿を見た兵士が掛け声を上げ、美しい装飾を施された門を開けた。

中は広々としており、フィオーレ王国にあるヒスイ姫達が住む城よりも更に豪華絢爛となっている。

フィオーレ王国は人口1700万人住んでいるのだが、フォルタシア王国は、人口大凡1000万人しか住んでいない。

これは翼人一族の総数にイコールと繋がっている。

即ち、翼人一族は全ての者を合わせても1000万人しかいないのだ。

 

しかし、それでも広大な土地を持って城や国を建てている以上城下町が存在し、領地内にある町などもある。

この数だけで他の数多く存在する国と渡り合っていかなくてはならないのは非常に困難であるが、翼人一族は元が強いため今もこうして国としてやっているのである。

 

リュウマとトラが城に入って来ているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()現国王と王妃はトラと謁見するために準備をしていた。

リュウマはトラと一緒に居て、同じく謁見を行うために玉座の間へと足を進めていった。

 

やがて扉の前に辿り着き、入り口にいる兵士から入室の許可を貰ってから中へと入っていき、中央の所で片膝を付きながら頭を垂れて跪いた。

この城に住んでいるリュウマはもちろん頭を垂れる必要もないので隣で立っている。

 

 

「陛下と王妃様の───御到着である!」

 

 

兵士の叫び声に伴い、玉座に向かって2人の翼人が姿を現した。

玉座の横側にこの部屋に通じる入り口のようなものがあり、王はその場から入って玉座へと向かうのだ。

 

入ってきた2人から感じるのは途方も無い魔力と存在感…そして…威圧感。

 

一国の王然りとしたその王威は姿を見させずとしても途轍もないプレッシャーを相手に与える。

王の横にいる王妃であっても同じ事である。

国王と比べればまだ優しい雰囲気を感じさせるが、やはり一国の王の妻…他の者達と魔力もプレッシャーも何もかもが違う。

 

 

(おもて)を上げよ」

 

 

国王の言葉に従い顔を上げていく…見えた顔はやはり…自分の知る母と父の顔であった。

 

国王でありリュウマの実の父であるその人物は、手に黄金色に輝く豪華な杖を持ち、王が付ける王冠などではなくこれまた黄金に輝くサークレットを付けている。

着ている服も豪華絢爛でありながら動きやすそうな装飾にとどめられている。

背中の翼は髪の毛や生えている髭と同じくブロンド色であり男ながらにして輝いて美しい。

全身の殆どが黄金か金に包まれていると言っても過言ではない。

名を…アルヴァ・ルイン・アルマデュラ。

 

 

「うふふ」

 

 

隣にある違う玉座に腰掛けているのは女性で、アルヴァ・ルイン・アルマデュラの妻だ。

髪は腰まであるであろう長くも美しいプラチナブロンドであり、背に生える翼も同じくプラチナブロンドだ。

顔は見る者を虜にしてうっとりさせてしまうような美しく整った顔立ち。

口から吐かれる声はまるで鳥の囀りのようで聞く者の心を落ち着かせる。

胸は豊満であるが美しい形を持っており、子供を産んだとは思えない美しいプロポーションを持っている。

前に跪くトラを優しい目で見つめており…いや、何故か凝視していて、何故か分からないが悪寒が止まらない。

名を…マリア・ルイン・アルマデュラ。

 

トラはこの2人を目に映した瞬間から涙を出しそうになったが、いきなり流すわけにはいかないため全力で我慢した。

 

 

「お母様!」

 

「うふふ。お帰りなさいリュウちゃん」

 

「ただいま帰りました!」

 

 

待ちきれなかったのかリュウマが母であるマリア王妃の元まで駆け出して飛び付いた。

抱き付かれたマリア王妃は危なげなくリュウマを優しく受け止めて聖母のような微笑みを浮かべながら頭を撫でていた。

一連のことをつい羨ましそうに見てしまった事にハッとしながら気が付いて、直ぐにアルヴァ王の方へと目を向けた。

 

 

「事情は知らんが、我が子と共に入国したところを顧みるに、我が子の客人ということで良いのだな」

 

「そうですよ!ボクの目的の物を探す手伝いをして貰ったんです!」

 

「あら、そうなの?どんなことを手伝って貰ったの?」

 

「それは…まだ内緒です!」

 

「そうなの?気になるわ…ふふ」

 

 

リュウマの補足により我が子の助太刀をしてくれた者であると理解したアルヴァ王は少しだけ笑いながらトラを歓迎した。

因みに、ここまででトラが腰にしている純黒の刀は預けるように言われていない。

本来ならば預けるのが普通なのだが…この国では武器を取り上げることは無い。

何故か?それは…取り上げる必要が無いからだ。

 

この国での王というのは、ただの血筋による継承で成り立っているのではない…1番強いから王であるのだ。

そんな者の存在を前にして攻撃を仕掛けるのは愚の骨頂であるし、何より触れることすら出来ない。

この場にいるのは国王王妃の他に、大臣や騎士団長などもいる。

その者達が…王への攻撃など許さないし、王単体が強すぎるのだ。

 

 

「我が子の客人であるならば是非も無し…地人であろうと歓迎しよう。今夜は泊まってゆっくりとしてゆくが良い。部屋は侍女に案内させる」

 

「ありがたき幸せでございます」

 

「──ちょっと待って下さる?」

 

「───ッ!」

 

 

短いながらもトラにとっては長い謁見が終了し、いざ下がって部屋に案内してもらおうとしたところ…マリア王妃から待ったの声が掛かり止まらざるを得なかった。

再び跪いたトラの元にマリア王妃が玉座から腰を上げてゆっくりと近付いてくる。

周りもいきなりの王妃の行動に驚いているが、止めはしなかった。

 

トラとしては何故近付いてくるのか分からないため混乱していた。

夢にまで見た母と瓜二つの顔と同じ声、同じ歩き方で近付いてくるマリア王妃は、余りにも心臓と涙腺に悪かった。

跪くトラの前まで来たマリア王妃は、立ち止まって目を合わせた。

 

 

「…っ…何かありましたでしょうか…」

 

「さっき私とリュウちゃんを見ていたでしょ?」

 

「…ッ!申し訳ございません」

 

「いえ、咎めたかった訳ではないの…ただね──」

 

 

言葉を切ったマリア王妃は、トラの両の頬に手を伸ばして優しく包み込んで目を合わせる。

マリア王妃の行動に目を見開くアルヴァ王と、母が何を言うのか気になっているリュウマは見守り、騎士団長や他数名の兵士は何が起こっても大丈夫なように腰にしている剣に手を置いた。

 

 

「ただ──あなたが他人には思えないの」

 

「────────ッ!!!!」

 

「それに、さっき私とリュウちゃんを見ていた時の目が…とても羨ましそうなものを見ているようでありながら……ひどく悲しそうだった…。それが気になったの…あなたを見たときから地人じゃなくて、もっと…なんて言えばいいのかしらね…他人に思えない存在感を感じるの」

 

「……御戯れを…私は一介の旅人に過ぎません…貴方様と私は……初対面でありますが故に…」

 

「そう…ごめんなさいね?」

 

「いえ…」

 

 

手で触れられた頬の部分が尋常でないほどの熱を持っている気がして、顔が真っ赤でないか気が気では無かった。

しかし、何時までも美しい顔を見れたことに満足しながら、やっと心臓に悪い問答が終わったことにホッとした。

 

 

「ところで…これは少し違う話なのだけどね?」

 

「はい…何でございましょう?」

 

「あなた…とっても強いのね?」

 

「…ッ!いえ…それ程では…」

 

「謙遜しなくていいのよ?リュウちゃんと一緒に居たということはかなりの相手と戦って生きているということでもあるし…私には分かるもの」

 

───やはり…母には筒抜けか…。

 

 

リュウマ及びトラの母であるマリア王妃はとても強い…マリア王妃は女性でありながら武器を用いた戦闘を得意としており、父であるアルヴァ王は魔法による戦闘を得意としていた。

純粋な戦闘力で言うならば…国最強であるアルヴァ王より、マリア王妃の方が断然強いのだ。

 

 

「疲れているところ申し訳ないのだけれどね?もし良かったら…少しだけ手合わせ願えないかしら?」

 

「───ッ!?手合わせ…でございますか…」

 

「えぇ、いいわよね?貴方?」

 

「む?…うむ…まぁお前が言うならば良いぞ。しかし、客人のトラが一休みしてからの方が…」

 

「いえ、私は大丈夫で御座います。お時間を態々割いて貰う必要はありません。王妃様のご要望であれば、今すぐにでも行う次第でございます」

 

「まあ!そうなの?それなら…いいかしら?」

 

「もちろんでございます」

 

 

怒濤のように過ぎていく話に、少し置いて行かれそうになるもどうにか着いていき手合わせを了承した。

もう行えないと思っていた母との手合わせに、トラも食い気味に了承してしまったが、後悔は無い。

一生に一度のチャンスであるかもしれないからだ。

 

言ったが早いか、直ぐに戦闘を行うための中庭にある広場へと案内されて移動をしていく。

武器は何がいいか聞かれたので、腰に差している刀を指さしながら刀であると答えておいた。

戦う際には用意された木刀を使うからだ。

 

 

「ルールは…そうね、一撃入れるか参ったと宣言したらでいいかしら?」

 

「はい、それで問題は無いです」

 

 

マリアは木で出来た槍を持って正面に立っている。

対するトラは渡された木刀を持って自然体で構えている。

木の槍の矛先を地面に向けた状態で立っているだけなのだが…マリアから感じる気迫は覇王の如し…常人ならば対峙することも出来ず、これから先自分の身に何が起きるのか分からないまま降参を申し出るであろうしかし、トラは前にしても立って構えていた。

 

 

───かつて己の身と…こっちでは刀であったが…武器1つで戦場を駆け、戦争相手を残らず全滅させたその単騎最大戦闘力、そして美しい姿から『戦女神(いくさめがみ)』と呼ばれたマリア・ルイン・アルマデュラ…今の俺にどこまでいけるかどうか…。

 

 

佇みゆったりと構えるトラを見て、マリアはやはり自分の目に狂いは無かったことを確信した。

自分自身が強いというのは自負している。

それは驕りや慢心から来るものではなく、ただの事実として理解しているからだ。

 

だというのに、目の前にいる男は目を離さず此方を見ている。

これだけでも見ず知らずの会って間もない旅人に手合わせを願い出て良かったというものであった。

 

 

「……………。」

 

「……………。」

 

「……トラ殿とマリア王妃の手合わせ…開始!」

 

 

審判の変わりとして1人の兵士の掛け声と共に、2人の姿はその場から消えた。

これは魔法によって消えているのではなく、超高速戦闘によって見えないほどの速度で動いているのだ。

姿は見えずとも、木と木を高速でぶつけ合わせる音だけが響いていた。

 

姿が消えて見えるほどの高速戦闘中、トラの木刀がマリアの木槍を持つ手元を狙って振るうが、来ることを察知していたマリアは腕を引きながら槍の特徴である長さを生かして離れながらトラの顎を下から上へと狙う。

 

 

「クッ…!」

 

「フッ…!」

 

 

辛うじて後ろへと頭を反らせることで寸前のところを回避、ムーンサルトキックでお返しにと顎を狙うのだが水平に構えた槍で防がれて不発に終わる。

防がれたことで止まった足に力を入れて元の体勢へと戻り上から木刀を振り下ろすのだが、半身になって避けられる。

次に何が来るのかと思った矢先…槍から手を離した。

 

 

「ただの正拳突き…なんてね」

 

「…危ないところです」

 

 

自身の得物を態と離しながら拳を引いて打ち出す。

シンプルな攻撃であるが、やったのがマリア王妃となると話は全くの別物となる。

軽く放っただけで…音を置き去りになりかける程の威力を見せる。

食らうのはマズいし一撃が入ってしまい敗北となってしまうので、木刀で地面を突いて反動を使い後ろへと飛んで回避した。

武器を持ちながら無手による攻撃はまさに、普段トラが使う武器格闘混合型の攻撃方法だ。

 

つまり…トラの戦い方の原点だ。

 

互いに距離をとる形となったことで武器を構え直しあい、足に力を入れて膝を折り踏み込んだ瞬間…マリア王妃とトラは武器を振り下ろした状態ですれ違っていた。

中央の地面が途中で重なり合った衝撃で砕け散り爆散した。

上がった土煙が邪魔で仕方ないため、木刀で振り払うことで起きる剣圧で全て飛ばす。

 

 

「隙有りね」

 

「───ッ!」

 

 

煙が晴れた時にはトラの目と鼻の先にまで既に接近して木槍を構えていた。

驚きながらも木刀の柄の部分で突くように、突いてくる木槍の矛先を受け止める。

2人の持つ武器から威力から軋むような音が聞こえてくるが、お互い引かず押し込もうとする。

 

ここでマリアが少し頭を下げたかと思うと…横から右足の踵が飛んできた。

体勢を下に下げることで予備動作を終え、次に左足を軸に右足の踵蹴りを起こしたのだ。

木刀を持っている右手とは別に左手をクロスするようになりながら側頭部に来る足を受け止めた。

衝撃が強く左手が痺れたような気がしたが、それを気にしている様子は無い。

 

 

「お強いのね」

 

「これが限界でございます」

 

「うふふ。嘘をつくなんてイケない子」

 

「そんなわけでは…」

 

 

その場で跳躍することで後退しながら2度目の距離の取り合いをした。

構えた木刀と木槍から透明の湯気のようなものが上がる。

それは2人の魔力であり、次の一撃で決めようと思っての準備であった。

構えて魔力を籠めてからきっかり10秒経った時…2人のいた場所から爆発音が上がって姿が消えた。

 

 

「…………参りました」

 

「…………ふふふ」

 

 

交差し終わって姿を現したときには、トラの持つ木刀は縦から半分に別れてから粉々に砕け散った。

対するマリア王妃の木槍は無傷であった。

 

これにて勝負は決し、勝者はマリア王妃ということになった。

 

マリア王妃はトラの元まで歩いて行き手を差し出したのを見て察したトラも手を差し出して握手をしたのだった。

因みに、トラはこの時また母に触れられたことに心の中で号泣していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうであった?」

 

「えぇ、地人でかなりの手練れね。手合わせなのが惜しいくらいだわ」

 

 

時間もいい時間となり、今日の晩餐までに時間があるからと風呂へトラを案内させた後、アルヴァ王とマリア王妃は手合わせに関しての話をしていた。

残念ながらアルヴァ王は魔法による遠距離攻撃を主としているため、近接の戦いについてはからっきしだ。

なので実際に戦ったマリアに王妃に話を聞こうと思ったのだ。

マリア王妃は先程までの手合わせが予想以上に面白かったのか、顔を少し綻ばせながらアルヴァ王に如何だったか話す。

 

 

「とってもお強い方だったわ。本気の殺し合いならどうなっていたことか」

 

「…?接戦はしていたが、勝ったではないか」

 

「そうね…表だっては私が勝ったわね?でも──」

 

 

笑顔を濃くしたマリア王妃は着ている服を少し引っ張った。

すると服が右肩から左脇腹まて斬り裂かれていて、引っ張ることで下に着ている服が斬り口越しに見えてしまっていた。

それを驚いた風に見たアルヴァ王にマリア王妃は解説していく。

 

 

「私はすれ違い様にトラさん…だったかしら、トラさんの木刀を縦から斬ったの。けど…トラさんはそれよりも先に木刀を振って傷をつけず上の服一枚分だけを斬り裂けるだけの威力に落とした弱い斬撃を飛ばしたのよ」

 

「つまり、攻撃は元々トラの方が速かった…ということか」

 

「そうね…刀は速度がものをいう武器、単純に斬るのではなく付けてから引くことでものを斬る武器よ。その為には必然的に速度が無くては相手を斬れないもの。私が使うのは槍、長さ故のリーチの長さと突きを主とした攻撃が多くなる。…速度で負けてしまったわね」

 

「だが、お前は()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「そうね。けど、それはあちらも同じ筈。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…ということね」

 

「ふむ…地人にそこまでの者がいようとは…我等翼人に迫る者か…これは他国を更に警戒していく方が良さそうであるな」

 

 

話し終えた2人も城の中へと消えていき、アルヴァ王は晩餐が出来るまで残った執務を終わらせるために執務室へと戻っていき、マリア王妃は愛しの我が子と楽しいお話しをするためにリュウマの部屋へと向かって行くのだった。

 

何も興味本位で手合わせを願ったわけでは無い。

トラが無意識の内に流してしまっている強者特有の存在感をアルヴァ王とマリア王妃は感じ取り、翼人ではない地人の者が現状どのレベルの力をつけているのか探るために願ったのだ。

2人に言葉は不要…互いが互いを理解し合っているからこそ、自然の流れでの調査を兼ねた手合わせの申し込みだったのだ。

 

結局、翼人どころか異世界でいう自分達の息子の力を見て感じて、地人への警戒心を強めてしまったのだが、そこはご愛嬌だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、おやすみなさいませ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

最早露天風呂なのでは?と言えるほどの風呂にたっぷり二時間入らせて貰い満喫した後、一体何時ぶりなのか懐かしさすら感じないほど昔に食べた自分の城の食事を食べさせて貰い、今は客人用に造られた部屋のベッドに腰掛けて夢心地を味わっていた。

 

もう見ることすら出来ないと思われた両親の顔を見ることどころか、あまつさえ少しだけだが触れることも出来た。

どちらも全く力を出し合っていないじゃれあいのような手合わせには実に心躍った。

元を辿れば10年クエストをクリアした時の追加報酬から貰った一冊の本から出来た出来事なのだが、今はとても満足する世界規模の旅行を楽しめた。

 

 

「これで…終わりか」

 

 

己しかいない客人用の部屋に、トラの言葉が溶け込むように消えていく。

もう察していたのだ…この大規模な世界旅行の旅が今夜終わるということを…。

何しろ風呂に入った時から注視しなければ分からない程度ではあるが、体が透け始めていた。

とどのつまり、元の世界に還されてしまうという前兆だ。

 

元々トラは跳ばされた瞬間から長居することは出来ないだろうと考えていた。

 

昔…それも300年前に創られた世界を跳躍する魔法。

現代でも解明どころか開発も出来ない超高度な魔法をリスク無しで使用することは困難を極める。

恐らくリスクとしての代償は籠められた魔力なのではと推測している。

 

何せこれだけのことをしでかす魔法だ。

世界を渡らせるための魔力が少量ですむわけが無い。

ここへ来る前にトラは本に都市が滅ぶほどの大魔力を注ぎ込んだ。

籠められた魔力量は普通の魔導士ならば三日三晩注ぎ込んでもまだ足りないほどの魔力だ。

それ程までの魔力を籠めれば魔法は発動してしまう。

 

過去や未来であるならばタイムパラドクスなどを考慮して出来るだけ何もしない事が望ましいのだろうが、ここは異世界であるので、多少の事は許されるだろうと考えて、部屋に置かれているベッドの横にある机の上へと寄る。

 

母に渡すのが首飾りなのではなく、ブレスレット。

リュウマの代名詞とも言える多種武器の出し方が換装のような仕様。

1番有り得ないであろう主武器が刀ではなく槍であり、母であるマリア王妃も槍を使っていたこと。

国の中に()()()()()()()()()()()()

 

これだけのことがあれば完全に並行世界…つまり自分が歩んできた道の別の可能性というものがはっきり分かってくる。

ならば、消える前に置き手紙を置くのもいいだろうとの考えで手紙を書くことにした。

 

手紙と万年筆を黒い波紋の中から取り出して机の上に広げる。

日が沈んで部屋の中は暗いので、机を照らすために設置されたランプの明かりを付けて手元を明るくさせる。

暗い部屋の中で小さいランプの明かりを受けながら手紙を書くトラの後ろ姿は…とても悲しそうだ。

 

黒縁の眼鏡を掛けていざ、手紙を書いていく。

相手が相手なので下手な字なんて以ての外であるが、散々仕込まれたトラの文字は達筆も達筆だ。

異世界に影響を与えないような軽い話をすらすらと書いていき、最後に偽名を添えると机の上に置いて上と下に重し代わりに洞窟の中でちゃっかり回収していた綺麗な結晶を置いておく。

他にもちょっとした物を置いておく。

 

文の中に間違えがないことを確認すると眼鏡を外して後ろへと放る。

空中で消えた眼鏡を一瞥することもなく、疲れからくる大きなあくびを1つして腕を上に上げて体を伸ばし、ふかふかな上質のベッドの上に横になった。

 

 

「……これで終いか。短くもあったが長くもあった今日(こんにち)であった」

 

 

目を瞑り独り言を溢しながら意識を少しずつ飛ばしていく。

 

可能だったならば…アルヴァ王、マリア王妃、リュウマの3人が幸せそうな笑顔を浮かべながら、家族大団円で楽しくお喋りしているところや、笑い合っている光景を目にしたかったと心の中で思いながら。

 

時間が迫っているのか体の透け具合が進み、今では向こう側にある壁すら見えてしまう程の透明度になってしまっている。

少しずつ空気中に解けるように光の粒子となって消えていくトラ…いや…リュウマは幻想的であった。

 

そしてとうとう…

 

 

「さよう…なら…父上…母上…この世界の…俺…よ───」

 

 

異世界から迷い込んだ(リュウマ)はこの世界から姿を消した。

 

 

 

 

消えたベッドの枕には…一粒大の水が落ちたような痕があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、朝を迎えたことで異世界のリュウマを起こしに来た侍女がもぬけの殻となっている客人用の宿泊室を見て大層驚き、机の上にある手紙を見つけて差出人がトラということで直ぐに届けた。

 

いつの間に消えたのだと驚いていたこの世界のリュウマとアルヴァ王とマリア王妃であったが、一先ず差出人が客人だということで3人で読んでみることにした。

 

 

『アルヴァ王様、マリア王妃様、リュウマ様、見ず知らずの地人であるこの私を城に泊めていただき誠にありがとうございました。とても夢心地で眠ることが出来ました。

 

御礼の言葉がこのような置き手紙になってしまうことをお許し下さい。

私にはやらねばならぬ事がございます故。

 

1泊のご恩…というにはつまらぬ物かと思われますが、差し支えなければこの置き手紙と共に置いてあった結晶と、3つの指輪を受け取って頂きたい。』

 

 

ここまで読んでから手紙を持ってきた侍女に視線をやると、跪きながら手を掲げ、手の中には書いてある通り3つの指輪があった。

1つは金色に輝く宝石を埋め込まれている指輪、1つは銀に輝く宝石を埋め込まれている指輪、最後の1つは白と黒の宝石が半々に別れるように埋め込まれている指輪。

指輪を受け取りながらもう一度手紙の内容を読んでいく。

 

 

『私はスパイでも敵でもない正真正銘の旅人…といっても警戒されるのは仕方ないことではありますが、どうかその指輪を受け取って頂きたい。

 

とある方と共に宝石が形成される洞窟に行ったときに持ち帰った純度の高い宝石を加工して使い指輪にはめ込みました。

魔力を溜める性質を持つその指輪には、私から付けた者の魔力を増幅させる効果のある特別な魔法を施させていただきました。

 

有効的に使って頂ければ幸いです。

 

長くなりましたが…私は目的の為に旅を再開させていただきます。

 

ありがとうございました。

 

そしてさようなら

 

またいつか会う…その日まで

 

 

 

あなた方のこれからの人生に…幸あらんことを

 

 

 

時の旅人 トラ』

 

 

読み終わった3人は躊躇いも無く指輪をその手に付けた。

サイズが合わない程大きいリングは、付けた途端に収縮してその指にあった大きさにまで小さくなった。

サイズが分からないので付けた途端にサイズを合わせるように条件式伸縮魔法を施してあった。

 

次いで感じたのは己の魔力の最大値がかなり上がったという点だ。

手紙に書かれていた通り魔力が上がった。

想像以上であった魔力増幅に驚き、これ程の魔法を施すことの出来たトラという旅人は素晴らしい力の持ち主だと確信した。

 

リュウマが少し悲しそうな表情をしていることに気が付いたマリア王妃は、優しく抱き留めながら頭を撫でてあげていた。

 

 

「さようなら…トラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…ここは…」

 

 

目を開けたリュウマは見慣れた天井を見たことで、無事に元の世界へ帰って来れたのだと直感的に理解し、溜め息を溢した。

 

ゆっくり寝ていたリビングの床から起き上がり、最後に黒い渦のようなものに吸い込まれた時の衝撃で紙や魔道書が散らばって散乱しているダイニングテーブルの所まで行き、今回の話の元凶たる魔道書を手に取った。

 

魔力を籠めればまた違う異世界に行けるかもしれない伝説的な代物である魔道書を、リュウマは魔力を手に籠めて───

 

 

「これ以上余計なことをされて堪るか。消えて無くなれ」

 

 

───黒き炎で焼き払った。

 

 

数秒足らずで灰と成り果てた魔道書を一瞥した後、カレンダーを見て1日しか経っていないことを確認すると、台所に立って朝食の準備をした。

 

一般家庭で恒例とも言えるスクランブルエッグに刻んだハムを混ぜたものと、噛めば音を奏でるほどに新鮮なキャベツとレタスに添えられたトマトのサラダ。

自分好みに濃くした味噌汁に湯気を上げながら輝く白米。

 

満足出来る朝食を片付けたテーブルの上に置いてゆっくりと食べ進めていく。

 

食べ終わったら台所の流しに置いて洗い、魔法で瞬時に乾かした食器を棚に戻して玄関へと向かう。

 

目指すはフェアリーテイルのギルド。

 

1日置いただけでは大して変わらないであろうギルドへと向かい、今日も異世界に行く前に行っていた大層面倒な指名式クエストを消化しようと玄関を開けた。

 

照らされる朝日の心地よさと涼しいそよ風を浴びながら、リュウマは歩き出した。

 

 

 

「さて…どんな仕事が来ていることやら」

 

 

 

その足取りは…とても軽かった。

 

 

 

 




急ぎ足になりましたが、ここでそんなに時間をかけるわけにもいかないので、仕方なかったんです…。

これを書いた目的というのが、リュウマの両親がどんな人物なのか朧気にも知って欲しいということです。

なので別に内容を濃くする必要はありませんでした。


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