FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ 作:キャラメル太郎
リュウマが強いのではない……リュウマだからこそ強いのだ(ゴゴゴゴゴゴ
っていうのは1割冗談だとして…。
ウェンディに持たせた球の価値はおいくらか?おいくらか?
ところで…いつからウェンディが弱いと錯覚していた?
本当はとても強く、潜在能力すんごいですからね?
時間にしてたったの数分…リュウマはタルタロス九鬼門であるフラマルスを瞬殺してしまった。
人の魂に接続して吸収…奪い取ってしまうフラマルスの呪法は、彼に対しては余りにも分が悪すぎた。
永き時を生きていて膨れ上がった魂の質と量…それにリュウマの魂は確かに一つだ。
これは生き物であるならば当然の摂理なのだが、彼の魂は一つであって一つではない。
引き抜こうにも引き抜くことは出来ず、かといって隙を見せれば彼が余興として魂を奪う者の魂を刈り取る。
彼のかつての盟友の2人と、オリヴィエがその話を聞けば「当然だな」の一言で終わらせ、尚且つリュウマを前にして愚かしくも命を狙った
彼等は元々死ぬ運命には無かったが…手を出す相手を間違えるに間違えてしまった。
一昔前ならば誰も彼に対して手を出したりしなかった。
何故か?理解しているからだ……手を出せば最後…滅びるのは己等である…と。
人間の癖に強すぎる?出鱈目だ?何故それ程までの力を?
そんなことを思っている時点で意味は無い。
人間でありながら彼であるからこその強さであるのだ。
理由?そんなものは存在しない。
出鱈目?お前達が軟弱すぎるのだ。
何故それ程の力を?同じ人間ならば凌駕せよ。
畏怖し、崇め、他の者達は媚びを売った。
そんな下らんもの…彼の者は欲してはいない。
本当に心から欲したのは……“敗北”であった。
真っ正面からぶつかり合い、全力を尽くしてでも尚敗北してしまうという圧倒的力を持つ存在を…彼は望み、焦がれていた。
ゼレフ書の悪魔?───片手間に創られた存在が勝負になるとでも?
では…それ程の存在が…一人の少女に何を持たせたのか…?
それはきっと…凄まじいことに違いはない。
「あった!ドクゼリ渓谷の大空洞!あれだよシャルル!」
「えぇ!」
タルタロスのキューブからシャルルの最高速度で駆け抜けてきたウェンディとシャルルは、フェイスがあると描かれていたドクゼリ渓谷の大空洞へと来ていた。
空から見て大地に大きな穴が空いているように見える大空洞の中へと入っていき下まで行く。
深いところまで行って見えてきた地面に降り立てば、シャルルの魔力もちょうど限界だったようで、魔法である
シャルルを抱き直しながら、辺りを見回して見つけた唯一の横穴からフェイスへと向かう。
しかし、薄暗い洞窟を進んでいくウェンディとシャルルを…見つめる鋭い目が2つあった。
「フェイスって形も大きさも分からない…どうやって探せばいいのシャルル!?」
「落ち着きなさい!集中して魔力を感じるの!」
シャルルの力強い言葉によって幾分か冷静さを取り戻したウェンディは、言われた通りにフェイスのものであろう魔力を辿っていくことにした。
そこでふと気づいたのが…此処ら一帯の空気が澄み切っておいしい…ということだった。
寒くならない程度の低温に、不快にならない程度の高湿度だから当然なのだが…この場所は虫のいい感じの住み家ともなっている。
「キャーーーーーー!!??虫ーーー!!」
太腿にカサカサと乗って上ってきた虫を慌てて払い落とすと、下からすんごい量の虫が湧き出て飛び去っていった。
虫がダメなウェンディは叫び声を上げて一気に奥へと進んでいくが、ぐったりしている猫のシャルルは全然気にしていなかった。
湿度が高いと虫がいるということを分かっていたらしい。
「何だ?この小せぇのは。ふざけんなよキョウカの奴…!これじゃあ腹は膨れねぇ…」
ウェンディ達が洞窟の中に入って、横穴を通っていくところを見ていた鋭い目で見つめていたのは…タルタロスの一人だった。
頭に鋭利な刺のような物が無数に生え、腕が4本の足が6本ある好戦的なこの悪魔は、タルタロスの九鬼門の一人であるエゼルである。
九鬼門のキョウカからフェイスを起動させ、ここに向かってくる人間を殺してもいい…と魅力的な指示を貰っていたエゼルは意気揚々とこの場に来て、来る人間を待っていたのだが、現れたのは体の小さい女の子であるウェンディと猫のシャルルだったため、結構がっかりしていた。
だが、無いよりはマシであると考えて口を歪めながらウェンディへと体当たりをしてきた。
出会った瞬間から戦闘になるのは分かっていたウェンディは既に構え、寸前のところをシャルルを抱えたままであるが横にステップすることで避けた。
衝撃で砂煙を上げならも繰り返し突進するように迫って攻撃してくるエゼルを避けながら、ウェンディはこんな事をしている暇は無いのにと思っていた。
シャルルはウェンディが一人で敵う相手ではないと叫ぶのだが、ここはもうやるしかない。
魔力切れで動けないシャルルを攻撃を避けながら安全なところに座らせ、案外避け続けることから気分を良くしたエゼルはニヒルな笑みを浮かべて4本の腕を構えていた。
「全属性耐性上昇『
止まって振り向いたウェンディが自身の前に魔法陣が展開され、全属性に対する耐性を上昇させる付加魔法と、全身体能力を一気に上昇させることが出来る付加魔法を掛けた。
攻撃系の魔法でないことに身構えていたエゼルが驚き、隙が出来たところで更に魔法を施した。
「『
「ほう…
エドラスでエドラスの王の操る機械竜と戦うナツとガジルに施したのは攻撃力上昇や、防御力上昇などといったレベルであったが、
「『天竜の咆哮』ォォ!!」
倍加を施しているウェンディの咆哮はまさに竜巻の如し。
横向きに突き抜けるように放たれた風の竜巻はエゼルを易々と呑み込んで壁を破壊していったのだが…エゼルは4本の腕を振って斬り裂き、ウェンディの前に躍り出てきた。
「暴れていいのかよ!?アァ!?こんな小せぇ奴に暴れていいのかよォ!?」
「風を…!──『天竜の鉤爪』!!」
顔から迫るエゼルに隙有りと言わんばかりに、顔に向かって蹴りをお見舞いしたウェンディであったが、蹴りを入れられたエゼルは強化された蹴りをもろともせず、それどころかニヤリと笑ってみせた。
ダメージが入っていないどころか後退させることも出来なかったことに驚いたウェンディに、4本の腕を体を覆うように引き絞り…振り抜いた。
「天下五剣───『
「ダメ!ウェンディ避けて!!」
異様な程の空気の乱れを感じ取ったウェンディは体を曲げて小さくなり、飛んできた巨大の斬撃とも呼べる衝撃を避けることに成功した。
後ろを見てみれば、硬い岩で出来た壁にX字状に斬り裂かれて崩れそうになっていた。
楽しそうに笑いながら腕を振り上げてから振り下ろし、鋭い衝撃を生み出したエゼルの攻撃を、次は間一髪のところで躱したウェンディ。
しかし、間一髪すぎて右に避けたことから左側の結んでいた髪が断ち切られてしまった。
つい切れて宙を舞う髪に目を向けてしまったために出来た隙をエゼルが詰めて、6本ある足の1本を横凪に薙ぎ払って叩きつけ、ウェンディは後ろにある壁に埋め込んでしまう。
「天下五剣───『
「ウェンディ!!」
「防御魔法を…重ねがけ…してるのにッ…何っでっ…!うわあぁあぁぁあぁあぁぁ─────ッ!」
直ぐに放たれた鋭い衝撃を緩和させるために、元から掛けていた防御魔法に更に防御魔法を掛けるという重ねがけと、魔力を体中に覆わせて防御力をあげたのだが…それがどうしたと衝撃が突き破り、ウェンディを壁の向こうに飛ばしていった。
斬れなかったことは幸いだったが、服も体もたったの一撃でボロボロになってしまったウェンディの上に、両手両足を押さえ込むように、足を使って拘束するような形で上に降り立ったエゼルに呻き声を上げる。
下の地面に罅が入るほど強く拘束されて痛みが走り、顔を顰めていると、エゼルが顎で奥を見るように促しながら見ろと言った。
苦しくも首を曲げて奥を見ると…目を見開いた…。
そこにあったのはここに来た意味…理由。
探していたフェイスが今…目の前にあったのだった。
人の顔が上を向き、空を目指そうとしているかのように伸びているように見えるその兵器はまさしく
発光していて、滑らかな表面と合わせてどこか神秘的なものを感じる。
呆然とフェイスを見ていたウェンディに気分がいいのか、エゼルが元議長から知り得たフェイスについての情報を話していった。
発動は今からたったの5分後…。
離れていたにも拘わらず空気が澄み切っていたのに、ここまで近くに来ると感じるのエーテルナノ濃度は濃い。
悪魔であるエゼルにとっては臭くて敵わないらしい。
だが…その
大陸にある全ての魔力を奪い、呪法を使うタルタロス達が世界を支配する…。
「ま、その前にお前は粉々に砕いてやる」
「うっ…!うぅ…!」
「───ウェンディを離しなさいよ!!」
何時の間にかここまで来てしまっていたシャルルが、ウェンディの手足を砕こうとしているエゼルの肩に乗って顔を爪で懸命に引っ掻き、やめさせようとしていた。
エゼルには全くダメージは入っておらず、引っ掻き傷すら出来ていない。
それでも…ウェンディを助けようと、エゼルが怖くても、目の端に涙を浮かべても引っ掻くことをやめない。
ハッとしたウェンディが攻撃をやめて逃げるように叫ぶのだが、シャルルは従わず攻撃を続けていた。
鬱陶しくなったのか、エゼルは肩に乗るシャルルを無雑作に鷲掴んで持ち上げた。
「んだァ?このネコはよォ?───食っていいのかよォ?」
「─────ッ!?いや!やめて!!!!」
泣きながら必至にお願いと言いながら悲願するウェンディにニヤリと笑ったエゼルは、尖った歯が所狭しと生えた大きな口を開けて、まずシャルルの頭に噛み付いた。
血が出てきているのに構わずウェンディに笑いかけ、掠れかけた小さな声で空気…と言った。
───空気…おいしい空気…フェイスの近くに漂っている高濃度エーテルナノ…これが混ざって…私の体内に入れば…もしかして…ッ!
「───────ッ!!!!」
どこからか…声が聞こえた…重く…だが聞き取りやすい威厳溢れる声…。
鋭い印象を与えそうな声で…澄み切ったふわりとした空気のような心地良さを感じる。
《願え。汝が願いを申せ。さすれば我が力を貸し与えよう…小さき
「私に…友達を…大切な友達を助けられる…守れる力を───貸して下さい!!」
《────良かろう。友の為に力を求めるその姿勢…我が力を使う者に相応しいと承認し…我が力を貸そう。受け取るが良い》
「───あ───ぁ───ああぁあぁああぁあぁあぁああぁあぁ─────ッ!!!!!」
「アァ!?なんだ!?」
シャルルの頭を今まさに噛み砕こうとしていたエゼルの体を…突如訪れた暴風が押し上げて吹き飛ばし、投げ出されてしまったシャルルを、優しい風が包み込んで下に降ろした。
何が起きたのが理解出来ていないエゼルは、ウェンディを見ると明らかに先程までの小さい少女ではなかった。
白を基調とした装束を身に纏い、頭の後ろ側には肩辺りから伸びた布がリングを作っている。
頭に被る装束から覗く髪は、ウェンディの青い髪などではなく、ピンク色の髪をしていた。
優しい目は、今や鋭くエゼルを射貫き見ている。
左の腰には、ウェンディの背丈に合った刀が差してある。
「───荒天・真【冠】、荒天・真【衣】、荒天・真【袂】、荒天・真【帯】、荒天・真【袴】…身に纏っているこの装備と高濃度エーテルナノを吸収することで力が漲ります」
───あんなに…あんなに臆病で弱々しかったウェンディが……今…
とある世界に…空を…天空を統べる
渓流の奥深く…霊峰に舞い降りたとされる伝説の古龍。
想像を絶する大嵐と共に現れることから、嵐そのものの化身とされ、古き伝承に載って後世に語り継がれていく龍。
暴風と竜巻を従える厄災の龍として人々に恐れられ、天災にも匹敵するその力から───『嵐龍』と呼ばれる龍の力の一端を…ウェンディは貸し受けた。
その他にも…この場に漂う高濃度エーテルナノを大量に摂取することで、滅竜魔導士が辿り着く究極の力…ドラゴンフォースを手にしていた。
果てしない力を手に入れたウェンディの魔力は…今や封印を一つ外したリュウマにも匹敵する。
この事実はつまり───エゼルに勝ち目など無い…リュウマを相手にしていることを指し示す。
「何じゃこりゃァ!?あァ!?」
「───あなたは私の大切な友達を傷つけた。私はそんなあなたを許しません。来なさい…あなたには勝ち目などもう存在しないのです」
小さき少女はこの時点で…新たなステージへと至り───
今の彼女にはこの場全ての風の声が聞こえ、大気の鼓動を己の鼓動のように感じ、この空間は…彼女が支配していた。
変わりように驚き、戸惑って固まっていたエゼルであるが、突如その場からウェンディが姿を消し、見失ってしまった。
何処に行ったと探すエゼルだが、ウェンディは既に探しているエゼルの背後にいた。
「私はここです」
「ぐあぁあぁあぁぁあぁあぁぁ!!!???」
空中で背中へと叩きつけられた踵落としが綺麗に決まって地面へと真っ逆様に落ちて叩きつけられ、追加攻撃で踵落としが入った時に付着した風の塊が暴発してダメージを与える。
地面に追いやられて風の爆弾にもやられ…少なくない血を吐き出したエゼルだが、直ぐに立ち上がって跳び上がり、斬撃を生み出す腕を全力で振り下ろすが…ウェンディの腕の一振りで生じた暴風に吹き飛ばされて天井にぶつけられた。
出来上がった大きな穴から這い出てきたエゼルは、強くなったウェンディに口元を歪めるように笑った。
頼もしくなったウェンディの姿からフェイスに視線を向けたシャルルは、フェイスの制御に使う魔法陣に後4分半しか残されていない事を知り、ウェンディに伝える。
か細いシャルルの声をしっかりと聞き取ったウェンディは、シャルルに向かって優しく微笑みながら頷くと、両の手に風を纏わせて魔力を籠め始めた。
「時間がありません。これで決めます───」
「アァ?」
向かってくるエゼルの周りを分厚い風の結界が取り囲み、中にいるエゼルを逃がさないように逃げ道を全て潰した。
感じたことのない魔力と風を感じたエゼルは見渡して困惑するが、ウェンディは静かに準備を終えていた。
「───滅竜奥義…『
籠められた魔力は、中にいるエゼルのみを狙って放たれ、エゼルは魔力と風の塊に穿ち抜かれる…かと思われたのだが、エゼルはエゼルで隠し球を持っていた。
ゼレフ書の悪魔が持つ切り札。
「オレの呪法は全てを斬り裂く!『三日月』!」
ウェンディの放った強力な風と魔力の奔流を散り散りに斬り裂いたエゼルは、その身を黒く変色させ、4分の腕は鋭利な剣そのものと化している。
身に纏う迫力までも鋭利な刃物と化したエゼルは、前に居る強敵と定めたウェンディを斬り殺そうと迫った。
「エーテリアスフォーム!!斬撃モード!!オレの妖刀の斬れ味は更に増すぜぇ!!!!」
「ウェンディ!!時間が…!!」
───私は知っている。本当に全てを斬り裂く事の出来る人を…。私は見てきた。そんなあの人の戦う姿を…。
ウェンディは腰に差している1本の刀を静かに引き抜き、両手でしっかり握って正面に構えた。
仲間のサポートを主とした戦い方をし、時には肉弾戦で戦うウェンディには剣の才能は無い。
使い方も知らなければ教えられたことも無い。
だが…刀を…武器を…全てをまるで体の一部のように巧みに扱う事の出来る人物の事を…彼女は見てきた。
とある仕事に
戦闘をする専門としてリュウマが戦い、ウェンディがサポートする。
戦闘はそれで成り立ち、たったの数分で盗賊は頭を除いて全滅した。
最後に残った盗賊の頭は実力を伴っていたことから、リュウマが相手をしていたのだが…最後の決め技でリュウマは手に持つ刀を一振り…たったの一振りで打ち勝ってしまった。
行ったのはただの袈裟斬り…しかし───
ウェンディは……とても美しいと思った。
何の小細工も無く…魔力も何も使わず…ただ…ただただ真っ直ぐに…正面に居る敵のみを討ち取るために放たれたその一刀が…何処までも美しいと感じた。
あの時の光景を頭の中で思い浮かべながら刀を上へと振り上げる。
二人の戦いを見守っていたシャルルはこの時…確かに見た。
「…………………。」
『…………………。』
振りかぶるウェンディの隣に…全く同じように振りかぶっているリュウマがいた。
「オォオォオオォオォオォオォオォ…ッ!!」
大声を上げながら迫り来るエゼルを前に、目を閉じて精神を統一…再現するはあの時の一刀。
彼の者のように永年積み上げてきた経験値もなければ剣の腕も知識も無い。
だが…今は必要ない。
ただ…振り下ろせばいいのだ…あの時のように。
「一斬ることの嵐の
『一斬ることの嵐の
目の前に来たエゼルは、刃と化したその腕をウェンディに向かって振り下ろすと同時…ウェンディも一刀を振り下ろした。
「絶剣技奥義───『
『絶剣技奥義───『
振り下ろしたことで発生した、風と言うには余りにも強力過ぎ、斬撃と呼ぶには余りにも範囲が広かったその一刀はまさに…
衝撃はエゼルを簡単に呑み込み、途中で斬撃モードによる斬れ味の増した腕で斬り裂こうとしたが…斬り裂こうとした腕を体と共に一瞬で斬り裂かれた。
抵抗など無く当然と斬り裂いたウェンディの攻撃の余波は、この場から遥か100キロ先にある村に荒々しい暴風を届けた。
フェイスはエゼルの背後にあったことで縦から真っ二つにされ、自重に耐えきれず斬り開かれた真ん中の隙間を埋めるように崩れていった。
解除するにはどうしようかと考えていた矢先、強力無比のウェンディの一刀が決まり…破壊することに成功したのだった。
だが───
「え…なん…で?」
「ウソ…フェイスが…」
───フェイスはカウントダウンを刻み続けていた。
オブジェクトのようなフェイスは破壊したのだが、刻まれている魔法陣は消えることはなく、未だに時を刻み続けていた。
表示されているのは残り3分8秒の文字…。
力を使い果たし、ドラゴンフォースも解けて、着けている装束が砕けて落ちてしまったウェンディは、疲労からその場に倒れ込んでしまった。
「か、体が…あ…れぇ?こんな…はず…じゃ…」
「カウントダウンが…止まらないなんて…ッ!?」
カウントダウンが進むにつれて、世界中の魔力を消すその力を発揮しようとしているのか、フェイスだったものを取り囲む魔法陣が光り輝き、其処ら一帯の大地を砕いて光の柱を打ち立てていく。
タルタロスのキューブが共鳴して揺れるのを感じ取ったフェアリーテイルの者達は、まさかと思いながらも九鬼門と戦っていた。
間に合わなかったと悟ったウェンディは、地面に這いつくばりながら涙を流してこの場にいないフェアリーテイルの者達に只管謝り続けていた。
顔を伏せていたシャルルが、弱々しく立ち上がりながら止める方法が無い訳ではないと言い出した。
まだ手があるのかと希望が見えたウェンディは顔を上げてシャルルを見るが…何故かシャルルは浮かなそうな顔付きをしており、踵を返してフェイスの魔法陣の所へと向かっていった。
「フェイスは今…大量のエーテルナノを吸収してる。そのエネルギーを別の属性に変換できれば…自律崩壊魔法陣が発動してフェイスは自爆するはずよ」
何故そんなことを知っているのか分からず、ウェンディが尋ねれば、シャルルは私の予知能力で視た未来から知り得たと言った。
生まれ持った力である未来予知…シャルルはそれを使ってフェイスが自爆する未来を視たのだ。
実際はフェイスが発動しなかった未来…いや…正確には未来の中で検索をかけた。
幾つも存在する未来の可能性の中から、フェイスが発動しない未来を見つけることに成功していた。
この短時間にそんなことが出来たんだ…と、ウェンディは素直に凄いと思った。
未来を視たシャルルは、魔法陣に手を翳して内容を弄くっていき、中に設定されている部分を書き換えていく。
これで私たち…と、ウェンディが言ったところで…シャルルはここまでだと言った。
「…え?」
「この先の未来は…真っ白なのよ…もう無いわ」
「どういう…こと…?」
フェイスは止まることはないのかと思ってしまったウェンディに察したシャルルは、それは違うと直ぐに否定した。
魔法陣の真ん中に現れた文字に触れればフェイスはその機能を停止して自律崩壊魔法陣が作動…自爆によって完全に機能を停止する。
そう…
つまり…彼女等は助からない
はっきり告げられたことに、ウェンディは頭の中が真っ白になってしまった。
「私ね…思うのよ…魔法が無くても生きていけるって…ほら…エドラスみたいに…」
「ダメ…だよ…みんな…みんな戦ってる最中なんだよ…?今…急に魔法が使えなくなったら……」
「ウェンディ。爆発の範囲が予想…予知も出来ないの…ここは私がやるから…出来るだけ遠くに逃げて」
「何言ってるのよシャルル!!そんなことダメだよ!!」
シャルルの言葉に過剰に反応せざるを得なかったウェンディは、痛み疲労を感じる体を無理矢理起こしてシャルルのところに向かおうとするのだが…一歩歩って倒れてしまった。
だが、一人にさせないためにも這いずってでも向かっていた。
早く行くように言うシャルルに、力強く嫌だと答えた。
シャルルも負けじと早く行けと言うのだけれど、ウェンディは更に力強く嫌だと…自分達はずっと一緒だと答える。
ウェンディの言葉に振り向いてしまうシャルルの目には、光で輝く涙を溜めていた。
残りは1分と40秒。
「もう…飛ぶ力も残ってない…逃げられないのよ…」
「分かってる…私だって…もう…動けない…遠くなんて…行けないよっ…でもね───」
這ってでも辿り着いたシャルルの元へ来たウェンディは、シャルルに抱き付いた。
「───どこでも一緒だよ」
抱き締められたシャルルはもう我慢が出来ず、とうとうその目から涙を溢してしまった。
泣き出すシャルルの頭を撫でながら、何時もとは逆の立場となったウェンディは、優しく語りかけた。
「私達の冒険もここまでだね…。でも楽しかったよ。ずっと…シャルルと一緒だったから…」
「…っ…うんっ…!」
洞窟の中が崩壊をし始めてしまい、そこら中に天井から落ちてくる岩の破片が飛び散るが、ウェンディとシャルルは気にしなかった。
「これに触ればいいんだよね?」
「うん」
「一緒にやろっ」
「ずっと…一緒だったもんね」
思い出すのは…ウェンディとシャルルが初めて会った時のこと…卵から孵った不思議な猫を見つけたウェンディが、小さいシャルルと一緒に今は無きケットシェルターのギルド内を走り回っているところ…。
二人は同じ事を思い出しているのか、顔を見合わせて涙を流しながら綺麗な笑みを浮かべあった。
オラシオンセイス討伐作戦に参加した時…置いていってしまったと思っていたシャルルが着いてきていて、最初は何で来たのかと思ったが、一緒に居られて嬉しかった。
仕事先にあったプールに一緒には入り、互いに水を掛け合っていたら火が落ちていて寒くなり、同時にくしゃみをして笑いあったりもした。
意思表示の弱いウェンディと、そんなウェンディを引っ張っていくシャルルだが、喧嘩をするときは喧嘩をし、お互いにごめんと言いあって仲直りもした。
フェアリーテイルに入ってからも怒濤な毎日を過ごしていっているが、楽しくないとは思ったことなど一度も無い。
毎日がとても楽しく…こんな日が一生続けば良いとさえ思っていた。
「また…友達になってねっ?」
「当たり前じゃないっ!」
二人は一緒に手を繋ぎ合いながら…
半径数百メートルを巻き込むほどの大爆発が巻き起こり…爆炎が
「────…ッ…ごぼっ…うっ…も…『戻れ』…ぐっ…」
フェイスの自爆範囲からかなり離れている所に一人の男が…夥しい量の血を地面に吐き出し、片手を地に付けながら倒れそうな体を耐えきらせ、もう片方の腕をフェイスの爆心地へと向けていた。
彼…リュウマの言葉に従うように、黒い地球の表面のような模様が付いた球体が浮き上がり、リュウマの目の前まで来ると粉々に砕けた。
中にいたのは…爆発の余波を全く食らっていないウェンディとシャルルだった。
「…ごぽっ…『
血を吐き出しているリュウマは、血が着いていない手でウェンディとシャルルの頭を撫でてやりながら自己修復魔法陣を組み込み、魔力量に依存するので少しずつであるが傷を回復させていった。
何故、彼がこんなにも満身創痍なのか?
それは彼の起動させた魔法にあった。
「…ッ!…はぁ…修復出来たか…本来であれば殆どの封印を外さなくては起動できない
本来殆どの封印を外していなくてはならないと起動すら出来ない禁忌の魔法…それを急ぎのために内蔵3つと生命力を魔力に無理矢理変換させることで一つだけ創りあげることに成功した。
しかし、それでも従来の百分の一程度の防御力しかなく、9つある内の一つしか創れていない。
これだけで、使った魔法にどれ程の魔力が必要だったのか計り知れない。
だが、今はそれよりも…フェイスを破壊してくれたウェンディ達を救い出せたことに安堵していた。
キューブが揺れたことでフェイスが起動しそうになっていることを悟ったリュウマは、ウェンディ達なら必ずやってくれると信じていたのだが…嫌な予感が特大の警報を鳴らしているので勘に従ってここまで全速力で来たのだ。
結果はどうにか間一髪であるが間に合った。
「ありがとう。ウェンディ、シャルル。お前達の繋いでくれた道筋は…必ず繋げていこう。今はゆっくりおやすみ」
優しい顔で微笑んだリュウマは二人をその場に寝かせ、タオルケットを召喚すると上から掛けてやりその場から飛び立つ準備をした。
キューブから急いで来たが…戦いはまだ続いているからだ。
気持ちいい肌触りのタオルケットに包まれたウェンディとシャルルは、互いに抱き合いながら可愛らしく眠っていた。
「さて…今度はキューブの方から嫌な予感がするな…何も起きていないといいが…」
ただし、リュウマは優しくない顔付きであった。
ウェンディは完璧な絶剣技を使ったのではなく、名前だけですのでリュウマが放った場合とは威力が違います。
そもそも、絶技故の絶剣技なので笑