FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

68 / 129
タルタロス編これにて終了です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少し長いので、お付き合い下さい




第六七刀  終幕 別れ

 

 

激しい痛みと共にナツの体内から出て来たのは、体が紅蓮のように真っ赤で存在自体が稀少のドラゴン。

ナツの親である…炎竜王イグニールだった。

出て来たイグニールはアクノロギアを倒すためにナツとの会話を直ぐに終え、アクノロギアと他の膨大な魔力による爆発が起きた所へと向かった。

 

飛び去りながら向かっていると、魔力と気配からこっちに向かってきている事が分かりその場で滞空して待機。

何時でも黒竜と戦っている者と連携できるように身構えた。

やがて戦闘音と共に姿を現したのは所々に傷を負っているものの、最初と変わらない動きで攻撃している黒竜と、黒竜から放たれる力任せの暴力を掻い潜りながら隙を見つけて攻撃している翼を生やした男…リュウマが来た。

 

人間である青年があの黒竜と戦っている…それも1人で…。

黒竜が人間であった頃、戦いに明け暮れて竜の血を浴びすぎてしまったが為にその身をドラゴンへと堕とした者の強さは十分に理解している。

何せその黒竜に殆どのドラゴンが滅竜されてしまっているのだから。

 

破壊を撒き散らし絶望を呼ぶ黒竜と渡り合う人間…ナツの中にいることでその力は他とは一線を画しているのは理解していた。

だが、ここまで戦うことが出来るとは思わなかったのだ。

 

共に戦って黒竜を相手してくれるというのであれば、あのギルドというものの最強と呼ばれているだけあって、自分にとっても心強いというものだった。

すぐそこにまで来た黒竜とリュウマの戦いに参加するため、リュウマに声を掛けようとし…

 

 

「───何?アクノロギアの他にもドラゴンがもう一匹いたのか…チッ…先に始末してからアクノロギアを始末するか…」

 

 

黒竜を手に持つ大剣を振り下ろし、下方へと突き落として時間を稼ぎ……なんかこっち来た。

 

 

「逝ね…『龍を喰らう(ドラゴン───)────」

 

「まっ、待て待て待て!?オレは敵じゃない!アクノロギアを倒すために来ただけだ!」

 

「───何だと?…貴様は何者だ。嘘を言えば鱗を剥ぐぞ」

 

「恐ろしいことを言うな…オレは炎竜王イグニール。……ナツの育ての親だ」

 

「!!…成る程…貴様がイグニールか」

 

 

相手の魔力を視る事の出来る眼を使ってイグニールの魔力の質を視て、確かに荒々しい炎のような魔力を持っていることを確認した。

育ての父と言えども確かにナツをある程度育て上げたドラゴン…魔力で類似している所がある。

 

一先ず理解したリュウマは、イグニールに対しての警戒を解いて戦いで結託することにした。

1人でやっても良かったが、同じドラゴンが居るというのであれば是非も無し。

下から体勢を立て直した黒竜が向かってくるのを見たリュウマは、イグニールの頭の上に降りて羽を休めながら大剣を構えて指示を出した。

 

 

「俺はリュウマだ。どうやら貴様は()()()()()ようだからな…俺が後押しをしてやる」

 

「…すまん。助かるぞ…リュウマ」

 

「良い。では───迎え撃て」

 

「───任せておけッ!!」

 

 

接近してきた黒竜の顔面に向かってイグニールは振りかぶった拳を入れる為に突くが躱されて不発に終わり、黒竜は懐に潜り込んで来てから噛み付いてこようとするが、リュウマがイグニールの頭の上から黒い球を生成してぶつけ爆炎を上げる。

 

炎を司る竜の王であるイグニールには炎は効かない。

なので黒竜と一緒に巻き込む形で炎を放っても問題は無いと判断した故の攻撃だ。

爆発の衝撃と爆煙によって怯んでいる内にイグニールの2度目の拳が入り、更に怯ませた。

 

 

「───右下からの横凪の尻尾」

 

「心得た!」

 

 

次に来るであろう攻撃をリュウマが予測して伝え、イグニールはその指示に従い頭を下げれば…右下からの横凪に振り払うの尻尾が通過する。

予め知ることが出来たので通過してから丁度掴むことに成功し、回転して振り回しながら投げた。

 

地面まで一直線に墜ちていった黒竜に、リュウマはすかさず追い打ちを掛けに入る。

大剣に純黒の魔力を纏わせながら溜め込み、振り払って黒き巨大な斬撃を生む。

速度が速く威力も計り知れない斬撃は、大地に一筋の線を砕くように刻み込むが黒竜はまだまだ健在。

それらしいダメージにはなっていないが…少しでもダメージは入っている。

 

 

「────イグニールッ!!」

 

「バカが…!話しは後と言ったろうに…!!」

 

「今言えーーーーー!!!!!」

 

 

と、ここで下から炎と共にやって来たのはナツだった。

いくら黒竜を下に追いやってまだこっちに来ていないと言っても戦闘中である。

はっきり言って今のナツでは黒竜と戦ったところで相手にはならず、数瞬の間に蹂躙されて殺されるだろう。

故にイグニールは何故来たのかと思ったが、ナツは…我が子はこういうことを普通にするということに思い至り溜め息を溢した。

 

体に張り付いて、やれウェンディのドラゴンはどこだ、やれガジルのドラゴンはどこだ、やれ何で777年7月7日に消えたんだと吠えているナツをむんずと掴み…息を大きく吸い込んだ。

因みに、リュウマと一緒に戦っていることに対してかなり不満そうだった。

 

下から向かってくる黒竜に向かって咆哮を放つイグニール。

その炎はナツと同じように口から放たれたにも拘わらず威力と範囲が桁違いだ。

まるで太陽が直ぐそこに在るのではないかという程の熱量を放つ咆哮に、リュウマは魔法を掛けて補助をした。

 

 

「『魔力増強(パワーアンプリファイ)』」

 

 

他者の魔力や魔術に対して増幅効果を付与する事の出来る魔法によって咆哮は肥大化。

結果、黒竜の巻き込んで地面に到達し、リュウマが行った双子を使った爆発以上の爆発を作り出した。

 

リュウマの魔法ブーストを得ているといっても、余りある桁違いな威力を持った咆哮にナツは目を輝かせ、下でこの戦いを見ているフェアリーテイルの魔導士達は、黒竜とは違う他のドラゴンの力を目の当たりにして恐れ慄いた。

 

 

「す…すっげぇ…」

 

「いや、少量のダメージしか入っておらん」

 

 

地面が熱で熔解されて溶岩のように溶けているというのに、黒竜は煙を翼の一羽ばたきで散らせて姿を見せた。

リュウマによる爆発とイグニールの増幅された咆哮で確かにダメージが通っているが、目は鋭くイグニール達を捉えていた。

 

「燃えてきたわい。……ナツ、邪魔だ」

 

「邪魔ってなんだよ!!久しぶりに会ったのに言う台詞かよ!!」

 

「言っただろう。積もる話は後だと…お前はお前の仕事をしろ」

 

「仕事だぁ?」

 

「……長くなるようだな。アクノロギアは俺がやる。お前達は話しの続きをしていろ」

 

 

頭から飛び去ったリュウマに頷いたイグニールは、心の中で感謝の言葉を送りながら、再び手の中にいるナツへと向き直った。

 

飛んでイグニールを狙う黒竜に大剣を振りかぶって振り下ろすと、辛うじて避けながら手でリュウマを鷲掴み握り潰そうと力を込める。

圧迫で潰されるかと思いきや握っている手の平が勢い良く弾かれて、中からリュウマが出て来る。

 

 

「お前はギルドとかいうのに入っておるのだろう?オレが正式に依頼する…見ろ。あそこに立っている悪魔の男(マルド・ギール)が持っている一冊の本…あれがEND(イーエヌディー)の書だ」

 

END(イーエヌディー)…」

 

「アレを奪ってこい」

 

「何でオレがそんな事……」

 

「───お前にしか出来ない事だからだ」

 

 

振りかぶった大剣を頭に叩きつけた瞬間に、潰されそうになりながらも籠めていた魔力を放出。

推進力を得た大剣は見事に脳天に決まり、追加攻撃で天から黒き雷が墜ちて2人を包み込む。

自分の魔力で放った魔法故にリュウマには勿論ダメージはないが、黒竜はダメージは少なくも体が痺れた。

 

隙が出来たところで一度離れ、魔力を籠めながら大剣を再度振りかぶると黒い光を放ち始めた。

黒竜の体の痺れが消える間際で振り下ろされた大剣から放たれた魔力の奔流は、極太の魔力砲となってジュピターに引けを取らない威力を実現した。

 

咄嗟に受け止めようとしたが間に合わず、荒々しく激しい魔力の渦の中へと呑み込まれた。

 

 

「奴は今回の騒ぎの首謀者だ。それだけでも戦う理由にはなるだろう」

 

「あいつが…」

 

「いいか、決して本を開くな。破壊することも許さん。奴から奪うのだ」

 

「……報酬は?」「何!?」

 

「当たり前だろ。ギルドで働いてんだから」

 

「………───お前の知りたいこと全てだ」

 

 

翼で体を覆って防いだ黒竜を目にして舌打ちをし、魔力放出で一気に接近してから翼を解いた瞬間を狙って顎に拳を入れる。

封印を三つ解放している故の剛腕によって頭をかち上げるが、第二の攻撃を入れる前に下から尻尾が飛んできた。

 

咄嗟に大剣の腹を盾に防御したが威力は強く、衝撃で上に弾かれたところで黒竜の上からの叩き付ける拳が背中から入る。

地面で巨大なクレーターを作るほどの攻撃に見舞われたリュウマはしかし、大剣を投げつけて攻撃をやめない。

 

首を捻って飛んできた大剣を躱すと、リュウマは何かの紐を手繰り寄せるような仕草をした後、勢い良く何かを下に向かって振り下ろした。

咆哮を放とうとしていた黒竜の後頭部に衝撃が走って、溜めていた魔力を霧散させてしまった。

 

実は魔力で作った魔糸を大剣の柄の頭に張り付けておき、躱されて過ぎ去るのを見越して投擲し、躱されてから思い切り引っ張ることで手繰り寄せて黒竜に衝突させたのだ。

 

 

「行って来い!!ナツッ!!!!」

 

「おう!!!!───絶対約束守れよ!!もうどこにも行くんじゃねぇぞ!!」

 

「───あぁ」

 

「約束だからな!!!!」

 

「───────。」

 

 

ナツを投げてマルド・ギールの所に送ったイグニールは、大きく逞しくなったナツの後ろ姿を見届け、直ぐに表情を引き締めてリュウマと黒竜の所へと飛翔して向かった。

 

丁度殴られてこっちに飛んできたリュウマを手でキャッチすると、頭の上に乗せて言えなかった感謝の言葉を送った。

 

 

「相手をさせてすまなかったな」

 

「元々1人でやっていたことだ。今更だろう。話は終えたのか」

 

「あぁ、お陰様でな」

 

「では────始めるぞ」

 

「燃えてきたわ!!」

 

 

リュウマとイグニールが再び力を合わせて戦いを始めたとき、下ではナツがマルド・ギールへと攻撃を仕掛けて本を奪おうとしている。

ナツの体からイグニールか出て来てから、激しい動悸に襲われていた別の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達は復活し、スティングとローグは、1人で戦おうとしているナツを言いくるめて3人でマルド・ギールへと挑む。

 

しかし、流石はタルタロスの悪魔の中で最強なだけはあって中々に強い。

セイバートゥースのトップレベルの2人と、フェアリーテイルのトップレベルの1人の攻撃を弾いては躱し、逆に攻撃を入れている。

マルド・ギールの呪法は荊…無限に増殖する荊を操る事が出来る呪法だ。

 

やられずとも善戦はせていたものの疲労が見え始め、そこに悪魔となっていた元セイバートゥースマスター…エンマが現れた。

天下一という座から引きずり下ろされたことで、己が矜持を踏みにじられ、弱いギルドを捨てたエンマはタルタロスのキョウカと出会い悪魔の力を得た。

 

倒さなければ過去を乗り越えられないスティングとローグは、己の実の娘であるミネルバを蔑んで愚弄し、弱者で使い物にならないゴミであると貶した。

憤怒したスティングとローグは怒りで更なる力を露わにし、エンマとぶつかり合っていく。

 

苦戦したが、最後は2人の合体技でとどめを刺して見事に打ち倒して見せた。

 

 

 

場面は戻り…イグニールと、イグニールに乗っているリュウマは黒竜の前に佇んでいた。

両者とも動かないが…ここで黒竜が初めて口を開いた。

 

 

「まだドラゴンが生きていたとは…不快」

 

「ほう…?やっと口を開いたか、アクノロギア」

 

「貴様とその人間を我の敵と認識…滅する」

 

「滅せられるのは貴様だアクノロギア。ドラゴンだけに飽き足らず…遙か昔に栄えた国をも襲い破壊した罪を償い死ぬるが良い」

 

「……やはり…その翼…あの一族の末裔か…」

 

「末裔…?否。俺は…いや、()()───貴様が滅ぼした国の王である!!!!貴様の所業は到底許されることではないし許さぬ。我が貴様を殺せば…先だった者共へのせめてもの手向けとなるだろう」

 

「……我のこの体に傷を入れた一族…忘れはせん…故に許しもせん!!」

 

 

魔力を溜め始めて咆哮の準備を始めた黒竜と、対してイグニールも咆哮の準備に掛かった。

溜め終わり放たれた両者の咆哮は中間で直撃で大爆発を起こして爆煙をもうもうと上げる。

翼を使って風圧で煙を霧散させる黒竜に近付いていたのはイグニール。

 

振るわれた拳は顔を捉えるがここで違和感を一つ。

先の戦闘で食らった拳よりも威力が上がり、思わず後ろへと飛ばされてしまった。

イグニールが放つと同時に、イグニールへと身体能力上昇の補助魔法を掛けていたリュウマは、先に飛ばされてくるだろう場所へと移動して待ち構えていた。

 

 

「封印・第四…第五…第六門…解。我が魔力を喰らえ…滅竜の(つるぎ)───」

 

 

元から計り知れないリュウマの魔力が、封印外すことで更に爆発的に上昇していく。

最早この時点でイシュガル四天王の域も抜け…魔導士の中でもトップと言っても過言ではないほどの魔力を内包していた。

第一門から第六門まで解放されたリュウマの総魔力量は…元の大凡64倍…これは地面に降り立つだけで、家程の大きさの物が浮かび上がり破壊される程のものだ。

 

そんな計り知れない魔力の殆どを手に持つ大剣に注ぎ込み喰わせ…真っ黒な陽炎のように揺れる魔力を放出している。

黒竜の下に居るリュウマは、出し惜しみせず撃つことが出来る。

アレは不味いと感じ取った黒竜だが…大剣は既に自身に向かって振り下ろされていた。

 

 

「───『龍を喰らう滅殺の大剣(ドラゴンスレイヤー)』ァッ!!」

 

「─────────ッ!!!!!」

 

 

龍を滅したと言われる対龍特殊武器である大剣から放たれる魔力の質は…まごう事無き滅竜の魔力。

元は人間だったとはいえ、今はドラゴンの身となった黒竜には効果は覿面であったので、魔力の渦の中から逃げ出そうとするが勢いに負けて出られるず…攻撃が止んだ時には体中に傷を負っていた。

 

体中に痛みを走らせている黒竜に、イグニールは飛んで接近して拳に超高温の炎を纏わせた。

目を向けて回避行動するには遅すぎて、咆哮で攻撃して無理矢理距離を取らせるにも近すぎて…例え咆哮が間に合ってもリュウマからの攻撃がくる。

 

振り上げた拳を、全身の力を使って振り下ろしたイグニールの攻撃は…確実に黒竜の体の中心を抉るように捉えられ、リュウマの身体能力上昇の補助魔法と魔力増強の補助魔法のブーストによって、爆発音とそれに伴う衝撃とダメージが襲い、フェアリーテイルがいるタルタロスの崩れた拠点へと墜ちていった。

 

 

 

 

 

 

遡ること数分前…スティングとローグがエンマと戦っていることで、ナツがマルド・ギールと一対一で戦っていた時、滅悪魔導士としての力を手に入れたグレイが途中で参戦。

当たりさえすれば悪魔であるマルド・ギールを倒すことが出来るのだが、マルド・ギールは強く…切り札のエーテリアスフォームになることで戦闘力を更に上げる。

 

幾ら攻撃してもものともせず、且つ攻撃されればその威力に膝を突きそうになってしまう。

人間の中で魔導士と呼ばれる人々が使う魔法の更に上の存在と言われている呪法。

その昔…魔法というのは、たった1つの魔法…一なる魔法によって魔法は誕生し普及されていった。

 

やがて魔法は使用する人々の分だけ枝分かれしていくように多種多様の系統へと発展していった。

そんな歴史の中でENDは魔法の新たな可能性というのを見出していた。

 

それが呪法だ。

 

呪法…その力の源は“呪い”…恨み…妬み…憎しみ…その全ての負の感情が力となりて呪法となる。

マルド・ギールはそれを生命の本質に基づいた力だと称した。

 

 

「くだらねぇな!!だったら魔法は未来を作るものだ!!」

 

「…ッ!?何だこりゃ…!?体が…動かねぇ…!」

 

「どうなってんだ…!」

 

 

マルド・ギールが手を振るうと黒い霧が立ち籠めてナツとグレイを覆い、行動を阻害して中に閉じ込める。

魔法に未来など無く、呪法こそが全てにおいて上位の力だと言うマルド・ギールから、薄ら寒いものを感じた。

 

抵抗してその場から離れたくも、体が動かず移動することが出来ないでいる2人に、マルド・ギールは呪力を溜めていき呪法を発動させた。

 

 

「堕ちよ煉獄へ…これぞゼレフを滅するために編み出した究極の呪法……死の記憶───『メメント・モリ』」

 

「「─────────ッ!!!???」」

 

「永遠に……無となれ」

 

 

下から溢れ出てきた怨念とも言える負の感情の塊のような禍々しいものが2人を覆い尽くした。

不死であるゼレフを殺すには生と死という概念ごと破壊しなくてはならないため、この呪法は正を死も無く…ただ消滅させる呪法だった。

 

呪法が止んだ頃にはクレーターのように地面が削れているだけで、何も存在していなかった。

終わったか…と、確信したマルド・ギールはエーテリアスフォームを解いて案外出来る人間だったと余韻に浸っているところ…削れた地面が盛り上がり…ナツと体の半分を黒く染めたグレイが現れた。

 

生き延びていたことに驚愕したマルド・ギールは目を見開いていたが、理解した。

悪魔殺しの力を持つグレイが、体の半分を悪魔化させながらメメント・モリからナツを守ったのだ。

グレイは呪法が迫り来る中で悟っていた、未来を作る為に自分が出来るのは…信じることだと。

意識が途切れて倒れるグレイの背後には、自分でも状況を上手く理解出来ていないナツがいる。

 

自分の究極の呪法を人間如きに防がれたと、ゼレフを滅するために編み出した呪法が、人間に防がれてしまったのかと逆上したマルド・ギールは再びエーテリアスフォームへとその身を変え、ナツへと突進していった。

 

仲間をやられた事の心への衝撃で、ナツは昔に至っていたドラゴンフォースを身に纏った。

爆発的に上昇した身体能力と魔力…一撃一撃が重く、意識を持っていかれそうになる攻撃に晒されながらも、マルド・ギールはナツを屠ろうと攻撃を繰り返すが躱されてからカウンターを貰う。

 

上へと殴られて宙へと投げ出されたマルド・ギールは翼で飛行したが、ナツのドラゴンフォースを見て…悪魔であるのに恐怖してしまっていた。

形は人間であるはずなのに…身に纏うオーラと炎が…炎竜王に見えてしまった。

 

 

「イグニール直伝!!滅竜奥義…不知火型ァ!!」

 

「まっ…待て!!」

 

 

 

「────『紅蓮鳳凰剣(ぐれんほうおうけん)』ッ!!!!!」

 

 

 

最後の力を振り絞った全魔力による突進が……マルド・ギールに決まった。

しかし…マルド・ギールはまだ倒しきる事が出来ず…血を吐きながらも宙に投げ出されているナツの頭部を掴み、真下へと急降下して叩きつけてやろうした。

ナツは……グレイの名を呼んだ。

 

 

「聞こえてるぜ…ナツ!!」

 

「なに…!?」

 

 

気絶していたと思われていたグレイは…起き上がって氷で出来た弓と…滅悪の魔力で造り出されている矢を番えてマルド・ギールを狙っていた。

 

 

「消えろォ!!『氷魔零(ひょうまぜろ)破弓(はきゅう)』」

 

 

矢に貫かれたマルド・ギールは…ナツとグレイの合わせた力によって沈んだのだった。

 

 

「やったな…」

 

「いや…まだだ…ENDを破壊しなきゃオレは…」

 

「そうだった!あの本…!イグニールに取ってこいて言われたんだった…!」

 

「───悪いが、あの本は破壊する」

 

「……あ゛?ふざけんなよてめぇ…!」

 

 

起き上がったナツが見たのは、ENDの書を持っているグレイだった。

イグニール直々に依頼されたので本はイグニールに渡さなければならないのに、グレイは本を破壊しようとしていた。

グレイはタルタロスを作った奴であり、悪魔の頂点にいる奴だからこの場で破壊するべきだと考えている。

 

破壊するなと言われているナツと、破壊すると決意しているグレイ。

 

睨み合う両者だが…地響きが鳴り響いた。

 

 

フェイスが…起動されようとしているのだ。

 

 

数分前…エルザとミネルバ、ハッピーとリリーが制御室を見つけてフェイスを起動しようとしている死体の元議長を見つけた。

最初は生きていると思っていたが、実はネクロマンサーのキース程ではないが死体も命令で操れるセイラの仕業だった。

 

ミラとエルフマンの攻撃で意識を失っていたセイラは復活してすぐ、慕うキョウカの所に行って死体の元議長を操ってフェイスを遠隔操作しようとしていたのだ。

ジェラールから鍵としての権利を奪った元議長が替えの鍵となり、キョウカが殺したのだが…後にフェイスの起動には元議長がやらなくてはならないことが判明していたのだ。

 

残り少ない時間で倒そうと奮闘するが、テレパシーで密命を受けたキョウカはフェイスを動かす為の制御装置と生体リンク魔法を使ってリンクさせ、制限時間を急速に進めた。

焦ったミネルバはエルザと共に戦おうとするが、元のダメージと悪魔から人間に戻ったばかりで戦えず、せめてもと……攻撃に晒されそうになっていたエルザの盾となった。

 

後は任せたと倒れたエルザは確かにその意を受け取り、キョウカを倒そうとする。

ゼレフ書の悪魔の切り札…エーテリアスフォームになったキョウカは、1秒ごとに強くなるという反則的な呪法と、相手の感覚を操るという呪法を使ってエルザを一時圧倒…通学を風に晒されるだけで激痛となり、五感を全て奪われたエルザは尚も立ち上がり拳を握る。

 

五感を潰されたことで発言した第六感によってキョウカをねじ伏せ、打ち倒すものの殺さなければ制限時間は止まらない。

力尽きて倒れてしまったエルザの代わりに、キョウカにとどめを刺したのは力を振り絞ったミネルバだった。

エルザが最後に使って宙を舞っていた刀を絶対領土(テリトリー)で場所を入れ替えて手に取り、倒れたキョウカの心臓に突き立てた。

 

これでフェイスが止まると思われたが…刺されたキョウカの口元は笑っていた。

 

制限時間は0となりて…三千機のフェイスが発動された。

 

 

───のだが

 

 

突如…空からアクノロギアが墜ちてきた。

傷だらけで墜ちてきたアクノロギアに驚いたナツとグレイだったが、倒れているアクノロギアの上に、頭にリュウマを乗せたイグニールがのし掛かるように着地した。

 

 

「諦めるな…人間達よ」

 

「諦めるには早いようだぞ」

 

 

イグニールとリュウマの言葉を理解する前に…世界中に散らばっているフェイスの位置情報に×印が入っていくのをハッピーが見つけた。

 

破壊されて機能を停止した証だと理解したハッピーは、次々と×印がついていくマークに不思議に思うが…実は破壊されているのは全世界の魔導士達によるものではない。

 

 

超速飛行で体当たりして壊していく……ドラゴン達であった。

 

 

「解放されしドラゴン達が……大陸(イシュガル)の空を舞っておる」

 

 

ウェンディが…ガジルが…スティングが…ローグが…感じ取った気配…親のドラゴン達であった。

遥か遠い地から飛んでは次々とフェイスを破壊していく四匹のドラゴン達のお陰でフェイスは残らず全て破壊し尽くされ……世界中のエーテルナノ消滅は免れたのだ。

 

 

「フェイスが全部消えた!」

 

「何はともあれ…」

 

「えぇ…」

 

「ドラゴン達が…」

 

「大陸中のフェイスを破壊して……」

 

 

「ENDの復活は阻止され───我々の勝利だ」

 

 

フェイスを止められたことに、大陸中にいる魔導士達は喜びの…歓喜の叫び声を上げた。

まさか本当に止められるとは思ってもみなかったマルド・ギールは目を見開きながら呆然とし、負けてしまったということに頭が真っ白であった。

 

フェアリーテイルの滅竜魔導士達はアクノロギアに乗って抑えているイグニールの元へと集まり、話を聞こうとしていた。

自分達の親の気配が何故するのかを…

 

 

白竜(パイスロギア)は……生きてた…のか?」

 

影竜(スキアドラム)鉄竜(メタリカーナ)天竜(グランディーネ)も皆……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の体内にいた。秘術によって体内に眠っていたと言うべきか…」

 

「あの激しい動悸が起こった時に…体内から目覚めたのか…?」

 

「そーだ!そーいや聞いてなかったぞ!何で体の中にいたんだ!オレは食った覚えはないぞ!!」

 

「それには2つの理由があった。1つはこやつ…アクノロギアのように滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の完全なる竜化を防ぐため…もう一つは───」

 

 

ナツがアホなことを言っているが、イグニールは真剣な表情で事情を教えていき、最後の一つを教えようとするが、頭の上にいたリュウマがイグニールに叫んだ。

 

 

「おいイグニール!!アクノロギアが動くぞ!」

 

「なに─────」

 

「───グオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

勢い良く起き上がったことで砂煙を巻き上げて空へと飛んで行った。

それを追い掛けるためにイグニールも翼を広げて飛び上がり、ナツにENDの書を奪っておくように叫んだ。

事情の説明は後にして、今はアクノロギアを片付けなくてはならないのだ。

 

しかし…グレイが本を持って破壊しようとしている…ナツとグレイは再び睨み合った。

 

 

「竜の体内に入って竜化を防ぐ…その為に体内に…」

 

「貴様の目的は何だ!?アクノロギア!貴様の恐れるENDはもういない!人間に構うな!」

 

「貴様が暴れるだけで、無関係な市民が怯えている。いい加減にしろアクノロギア」

 

「恐れる?我がゼレフ書の悪魔如きに?…下らぬ。我は人間などどうでも良い。何故ならば…我は竜の王…アクノロギアである!!」

 

 

長い年月眠っていた反動で疲れが溜まってきているイグニールの拳と、アクノロギアの拳が打ち合い、隙を見てリュウマが補助魔法と攻撃魔法を使い分けて攻撃して援護していく。

 

 

「貴様も元は人間だったはず…ナツ達を貴様のようにはさせぬ!」

 

「そもそも、貴様はこの場で殺してくれる。二度とその姿を見なくて済むようになァ!」

 

「我が望むのは破壊…破壊ッ…破壊ッ!!」

 

 

空を駆ける二匹の竜と、翼を生やす人間の戦いはまだ続いている。

 

 

 

 

 

「ナツさんもグレイさんも、今はよしなって…」

 

「これだから妖精の尻尾(フェアリーテイル)は…」

 

 

下ではナツとグレイの睨み合いを取り持とうとスティングとローグが声を掛けるが、2人は全く耳を貸さず睨み合ったままだ。

だが…グレイの持っていたENDの書が突如消えたことで、その睨み合いは終えてしまった。

 

グレイが何かしたのだと決めつけたナツが怒るが、グレイは自分ではないと主張する。

確かにグレイではない。

やったのは……この場に現れたゼレフなのだから。

 

 

「この本は僕の物だ。返してもらうよ。大事な本なんだ」

 

 

「ゼレフ……」

 

「こ、こいつが…!」

 

 

まるで最初からそこにいたかのように登場を果たしたゼレフの存在に、皆が目を見開いて驚愕している中で、マルド・ギールは固まったままでゼレフを見ていた。

ここに目的の…創造主がいる…のだが…体が動かなかった。

 

 

「マルド・ギール。君は良くやったよ…ENDが蘇るまであと一歩だった」

 

「………………。」

 

「もう眠るといい」

 

「マルド・ギールは…あなたの望みを叶えることは……────」

 

「君には無理だ」

 

 

それが……マルド・ギールの最後の言葉だった。

体が一冊の本へと変わり、本は瞬く間に燃え盛る炎によって灰すら残さず消されてしまった。

余りの所業にグレイか自分の作った悪魔に何てことをするのかと怒鳴るが、ゼレフは気にした様子もない。

 

そもそもだ、ゼレフはEND以外には自分を殺せるとは全く思ってない欠陥品だとしか思っていないのだ。

目の前で死んだとしても、何の感情の揺らぎも起きないのだ。

つまり……もういらないのだ。

 

 

「僕は今日。君と決着をつけるつもりでいたんだ」

 

「あ?」

 

 

ゼレフは向き直ってナツと対面するように話し始めた。

まだタルタロスの本拠地が空に飛んでいた時に、周りの時を止められてナツとゼレフは邂逅していた。

その時は武器で攻撃したが、触れた部分から消滅して攻撃にならず、一言二言会話して消えてしまっていた。

 

ゼレフは空を見上げながらアクノロギアという邪魔が入ったことで決着を付けられそうにないなと言った。

つまり、アクノロギアがいなければ…ゼレフはここでナツと戦おうとしていたのだ。

 

 

「彼がもう一度歴史を終わらすのか…奇跡が起きるのか…僕には分からない」

 

「何を言ってやがる」

 

「……。……もしもこの絶望的状況を生き残れたならば…その時は───僕が更なる絶望を与えよう」

 

 

死を感じさせる冷たい眼と表情をしながら、ゼレフはその場で踵を返して空気に溶け込むように消えてしまった。

ENDの書も持っていかれてしまい、破壊することも、ましてやイグニールに持っていくことすら叶わなくなってしまった。

 

 

「ごふっ!?」

 

「ぐあぁあぁぁあぁぁ!!!!」

 

 

上空でやり合っていたリュウマ達だが、疲労が見えたイグニールの隙を突いて攻撃してきたアクノロギアの攻撃に、まともに食らって弾かれてしまったリュウマと、地面に投げられてから乗られて押し潰されそうになっているイグニールがいた。

 

復活したアクノロギアはこの程度なのかと叫ぶが、イグニールはやられているにも拘わらずニヤリと笑って、長い間眠っていたからと冗談のように言った。

更に圧力を掛けられて血を吐き出すイグニールは、リュウマに横っ面を殴られて上からどいたアクノロギアを相手にしながら、テレパシーをナツへと送った。

 

 

これで最後だと悟ったからだ。

 

 

『ナツ』

 

「イグニール!?」

 

『今のうちに言っておく事がある────』

 

 

ナツはイグニールの声色から、何か良くないことが起きると直感的に悟ってしまい、焦ったようにその場から駆け出して戦闘音が響いている所へと向かって行った。

 

イグニールは語る。

 

我々ドラゴンが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の体内に居たのは、2つの理由があった。

 

1つ、これは先程話したとおり人間であるナツ達を竜化しないように抗体を作る為。

それによってナツ達はこれから先、竜化をする恐れは無くなったと言ってもいい程だそうだ。

今まで如何なる時も姿を現さなかったのは、この抗体を作っていたからであった。

 

2つ、ドラゴン達の負の遺産…アクノロギアをイグニールがその手で倒すため。

 

 

「その話は後って言ったろ!!待ってろイグニール!オレが加勢に行くからな!!」

 

『来てはならん!!アクノロギア…リュウマという者の力を借りているというのに恐るべき強さ…巻き込まれるぞ!』

 

「構わねぇ!!オレとイグニールが組めば…無敵なんだ!!」

 

 

アクノロギアとぶつかり合っているイグニールとリュウマの姿が見えてきた。

イグニールが拳を握り締めて殴るが躱され、爪を立ててイグニールの心臓を抉ろうとアクノロギアが狙うが、大槌を召喚して構えたリュウマがその手を横に殴って弾き、懐に潜り込んで空へと吹き飛ばす。

 

手を突いて起き上がったイグニールは、今出せる力を振り絞って飛び立ち…リュウマはその背に乗って刀を召喚して構えた。

 

 

「グオォオオォォオォォッ!!!!」

 

「我が心は不動。しかして自由にあらねばならぬ。(すなわ)(これ)────」

 

 

 

 

 

空に────紅い華のような血飛沫が舞った。

 

 

 

 

 

「………────────」

 

「────無念無想の境地なり。『剣術無双(けんじゅつむそう)剣禅一如(けんぜんいちにょ)』……ごぽっ…」

 

「ゴオォオオォオォォオォォォ……ッ!!」

 

 

イグニールはアクノロギアの左腕を食い千切り…リュウマはアクノロギアの尻尾を斬り落として、左肩から右脇腹に掛けて大きな刀傷を刻み込んだ。

しかし……

 

 

「リュウマ…!イグニール…!!!!」

 

 

イグニールの体は、胴体の半分以上を抉り飛ばされ…リュウマは上半身と下半身に断裂してしまっていた。

 

ナツは目の前が真っ暗になったような気がした。

しかしアクノロギアは止まること無く、重傷で大量の血を流し、吐き出しながらも旋回してイグニール達の真上へと来た。

 

口を開いて魔力を溜め込むのを見て…ナツは走り駆け出した。

 

 

ナツ……ずっとお前の成長を見守っていた……

 

 

 

大きく……なったな

 

 

 

「い、イグニール…!」

 

 

 

お前と過ごした日々が……一番幸せだった…。

 

 

 

 

そしてアクノロギアの咆哮が───

 

 

 

 

人を愛する力を貰ったんだ

 

 

 

 

────イグニールとリュウマに向かって解き放たれた。

 

 

 

 

「イグニィィイィイィイィィル…ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラゴンに助けられた…ワシには勇気が無かった…ルーメン・イストワールを使う勇気が…!」

 

「それで良いのです」

 

 

フェアリーテイルの地下にあるルーメン・イストワールの前で、マカロフは項垂れながら自責の念に駆られ、その背後には幽体のメイビスがいた。

アクノロギアが来たということでフェアリーテイルの秘匿大魔法…ルーメン・イストワールを使おうとしたのだが…使った後の事が頭を過ぎると踏ん切りが付かなくなって結局…使うことが出来なかった。

 

 

「まだ…その時ではなかった…ということです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グランディーネ!」

 

「愛と勇気…あの人間の力とイグニールのおかげでアクノロギアを退けた」

 

 

久しぶりに会えたグランディーネに、ウェンディは嬉しそうに見上げながら見ていた。

グランディーネは皆のおかげであると言ってお礼を述べる。

 

 

「ドラゴンが味方って…すっげー優越感!!」

 

「だな!!」

 

「フェイスを全部ぶっ壊したんだろ!?」

 

「すっげー……」

 

 

フェアリーテイルのメンバー達は思い思いに思ったことを口にして、目の前にいる四頭のドラゴンを見上げていた。

今までドラゴンと言えば、アクノロギアしか知らないため、善の位置に居るドラゴンが珍しい…というよりも興味を惹くのだ。

 

 

「フェイスの破壊…よく頑張ったわね。ウェンディ」

 

「シャルルと…っ…一緒だったから…!」

 

 

 

「…………………。」

 

「…………………。」

 

「…………目つきが悪いのぅ」

 

「うるっせぇわ!?」

 

 

ガジルとメタリカーナの会話は、数年ぶりであっても気まずさを感じない感じだった。

 

 

 

「オレは確かにアンタを殺した…」

 

「オレも影竜(スキアドラム)が死んだのをこの目で見た」

 

「人間の記憶など幾らでも改竄出来るわい」

 

「イグニールには反対されたんだがな……あの時は滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に「ドラゴンを殺した」という記憶と実績を与えるつもりだった」

 

 

光のドラゴンであるパイスロギアと、影のドラゴンであるスキアドラムは、イグニールに反対されていた記憶の改竄を行ってドラゴンをその手で殺したという自身を与えたかったようだ。

 

 

「……と、いっても…死んだというのは半分正解だな」

 

 

パイスロギアの言葉に、その場に居る人間が全員固まり、どういうことなのか聞く前に、真相をグランディーネの口から聞くこととなる。

 

 

「私達は既に死んでいるのよ」

 

「………………え?」

 

 

放たれた言葉を理解する間もなく、グランディーネは固まったウェンディを余所に話を続けていった。

曰く、その昔…アクノロギアの力…滅竜魔法によって全員“魂”を抜き取られてしまっているのだそうだ。

 

なのでウェンディ達の体内に居たのは「竜化を防ぐ」「アクノロギアを倒す」という目的の他に、「自分達の延命」という目的もあったのだそうだ。

 

一度外に出てしまえば二度と体内に戻ることは出来ない。

つまり、今日ウェンディ達に見せたフェイスを破壊した圧倒的力は、最初で最後の力…。

故に今まで姿を現さなかった。

 

 

「イグニールでさえもアクノロギアは倒せなかった…だが、イグニールもまた死せる前の最後の力だった…人間達よ…どうか炎竜王の尊厳にキズをつけることなかれ───」

 

 

───イグニール程勇敢で……人間を愛したドラゴンは居なかった。

 

 

メタリカーナの言葉は、人間達にはとても重い言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「父ちゃん……」

 

 

ナツは地面に埋め込んで、最早血すら流していないイグニールの骸の前に両手を付いて跪いていた。

悉く涙が視界を歪め…しかし拭う気持ちにはなれない。

唯一の父親であったドラゴンが…目の前で死んでしまったのだから。

 

歯を食いしばりこれ以上涙を流さないようにと踏ん張るが……無駄な事であった。

親を亡くすということの悲しみを…そう簡単に割り切れるものではない。

 

 

「約束……しただろ…もう……どこにも……行かないって……約束……破るなよ……」

 

 

前にいるイグニールは答えない。

 

 

「オレ……オレっ……ずっと…ずっと探してたんだぞ……」

 

 

イグニールは…答えない。

 

 

「字……書けるようになったんだ」

 

 

イグニールは……答えない。

 

 

「友達も…いっぱい出来たんだ……仕事もやってる…オレは……オレはっ……」

 

 

イグニールは────

 

 

「もっと……もっと話がしたいよっ…イグニールぅっ……!」

 

 

 

────答えない。

 

 

 

流れる涙を止める魔法を……知らない。

 

 

 

知っていたとしても……これは止められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ全て伝え終わった訳ではないけれど…時間が来たわ……お別れの時よ」

 

「や、やだ……グランディーネっ…」

 

「これから先も数々の困難が待ち受けてるだろうけど、あなた達ならきっと大丈夫」

 

「やだよ…グランディーネっ…行かないでっ…!」

 

 

涙が溢れてくるウェンディの頭に、ガジルが手を置いて胸を張って見送ってやろうと声を掛けた。

そんなガジルの姿を、メタリカーナは目を細めて、どことなく眩しそうに見ていた。

 

 

「人間達よ!争い…憎しみあっていた記憶は遠い過去のもの……今、我々はこうして手を取り合うことが出来た」

 

 

「我々ドラゴンの時代は、一つの終焉を迎えた」

 

 

「これからの未来を創るのは…人間の力」

 

 

「400年前……人間と(ドラゴン)との間で交わされた盟約……大憲章(マグナカルタ)に則り───」

 

 

 

 

我々ドラゴンは……人間を見守り続けよう────永遠にッ!!

 

 

 

 

ドラゴン達の体が光り輝くと、雲を突き抜ける程の光の柱が立ち上った。

幻想的光景の中…ドラゴン達の体が浮かび上がって少しずつ透けて消えていく。

 

これでもう本当にお別れなのかと思うと、やはり涙は堪えきれなかった。

 

 

 

「グランディーネーーー!!!!!」

 

「愛してるわ…ウェンディ」

 

 

 

「………目つきが悪いのぅ」

 

「最後までそれかよ!!……っ…チクショォ」

 

 

 

「ありがとう白竜(パイスロギア)

 

「達者でな」

 

 

 

影竜(スキアドラム)……」

 

「ではな、ローグ」

 

 

ドラゴンが消えていく…それはナツの親であるイグニールとて同じであった。

 

 

「イグニール……」

 

泣くな…ナツ……ホラ、悲しいときはどうするんだ?教えただろ

 

「うん…分かってる」

 

じゃあやってみろ。立ち上がるんだ

 

「うん」

 

 

ナツは聞こえてくるイグニールの声に従い、立ち上がった。

しっかり…自分の足で。

 

 

オレはずっとお前と一緒にいる…今までも…これからも……

 

もっと…もっと見せてくれ…お前の成長を…お前の成長した姿を……

 

 

お前の……生きる姿を……

 

 

「っ……あぁ────オレはもっと生きていく!!オレはもっと強くなる!!オレがアクノロギアを倒してやるんだッ!!!!」

 

 

 

 

そうだ……未来を語れ

 

 

 

 

 

それが……生きる力だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────イグニール…炎を司る竜の王…炎竜王イグニールよ…貴様は竜でありながら人間を愛し…人間に愛された善なる最後の竜よ…貴様を今ここで失うには惜しい…故に───貴様の魂を頂くぞ」

 

 

上半身と下半身を自己修復魔法陣で付けて治したリュウマは、離れたところで天へと昇っていくイグニールの魂を引き寄せて鷲掴んだ。

荒々しく…魂なのに炎のように熱き魂を手にしたリュウマは、もう片方の手を消えかけているイグニールの骸へと翳した。

 

 

「死した貴様の体の鱗…皮膚…内蔵…抉り消えている物は俺が持つ記憶の中から同じように創造し生成。脳…心臓…肺…眼球に関しては縮小させて使わせて貰う。在るのに使わないのは勿体ない」

 

 

消えかけのイグニールの体からリュウマの手元まで瞬間移動したように現れた肉の塊を捏ねて形と成し…20センチ程の小さく幼いドラゴンのような姿となる。

魔力の器はリュウマの魔力の器を分け与えた。

リュウマの魔力の絶対値が幾らか下がるが、この程度は取るに足らないものなので気にしていない。

しかし…これだけでは小さいドラゴンの形をした肉だ。

 

故に、これから手に持った魂を与え、名を与えて一つの生命として誕生させようとしていた。

 

 

「後は名だな───我…リュウマ・ルイン・アルマデュラの名の下に…其方に(いみな)を与え…この世に生み落とさん。名を刻み我が(しもべ)とす。名は其方を表し器は此処に。我が(めい)と魔を持ってここに顕現す。其方の名は───“イングラム”…誇り高き炎竜王の生まれ変わりである。さぁ…目を覚ませ」

 

 

小さきドラゴンの幼体を腕に抱えたリュウマは優しく揺すり、ドラゴンの幼体…イングラムは瞼を開けて炎のように紅い紅蓮の瞳を見せた。

 

数度瞬きをすると目に映ったリュウマの顔をジッと見て、自分の親だと思ったのか胸元に頬擦りをした。

可愛らしい顔をしながら、彼の手の平を頭に乗るように潜り込み、撫でてやると満足したのか可愛らしい音を喉から鳴らした。

 

 

「イングラム…愛称はイングラ…イース…グムス…うむ…難しい…愛称は追々考えるか。それまではお前はイングラムだ。いいな?」

 

「キュっ…!」

 

「うむ、では共に征こうか───()()()()()

 

 

羽が小さく飛べない代わりに、服を掴んでよじ登ったイグラムスは…リュウマの肩へと乗って首筋に擦り寄ってから丸くなって眠りについた。

 

まだまだ小さくて可愛らしい小ドラゴンに、クスクス笑いながらリュウマは思い出したかのように懐に手を入れた。

 

 

「その前に、これに魔法を掛けておかなくてはな」

 

 

その手には、8通の便箋が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……一週間の時が経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一週間…冥府の門(タルタロス)との戦いはあたし達に多くの傷痕を残した。

 

ギルドもボロボロになっちゃって…ううん…それだけじゃないの…

他の街もフェイスの出現に大変だったみたい。

 

大地を裂いて出て来たから民家が壊れちゃったり…

 

それに……この1週間…リュウマを見てないの。

 

 

 

 

どこに行っちゃったんだろう…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ!髪の毛が元に戻りました!」

 

「お安いご用…エビ」

 

 

街の公園の近くにある道で、ウェンディはルーシィの星霊であるキャンサーに、短くなっていたウェンディの髪を元の長さに整えてもらっていた。

切って短くするだけではなく、長さをも変えることが出来るのだ。

 

嬉しそうにお礼を言うウェンディに、やっぱり長い方が似合うと言って頭を撫でてあげているルーシィは良いお姉さんといった感じだ。

 

そんな2人のやりとりを見ていたシャルルは、親であるグランディーネとの別れからいつも通りに過ごしているウェンディを見て、強がっちゃって…と、溢した。

 

同じドラゴンスレイヤーであるガジルはというと、道の通りにある石を積まれただけのベンチに寝っ転がって寝て、レビィに起こされていた。

だが、少しだけ何時もより大人しいように感じる。

 

シャルルはナツも心配していたが、ナツにはハッピーがいるから心配は無いというリリーの言葉に、シャルルは微笑んでそうね…と返した。

 

件のナツとハッピーは家の中の物を全部引っ繰り返す気かと思えるほど散らかし、旅に出る準備を整えていた。

ナツは準備を整え終わってから、紙を取りだしてとある家に向かった。

 

 

 

 

 

「あ、ぁの……グレイ様…」

 

「…っ!?」

 

 

マグノリアから少し離れた雪の降り積もる所…いや、グレイが実の父親のシルバーと凌ぎを削って戦い合った場所にて、座り込んでいるところにジュビアが現れ、グレイは振り向きながら驚いていた。

 

 

「おまえ…つけてきたのかよ!!」

 

「ごめんなさいごめんなさいっ…!…ジュビア…どうしても言っておかなくてはならない事があって……」

 

 

落ち着いてから話し始めたジュビアの話の内容は、グレイの父…シルバーを操っていた死人使い(ネクロマンサー)を倒したのは自分であるということ。

そのせいでシルバーがただの死人に戻ってしまったということ。

 

全て嘘偽り無く…グレイに伝えた。

 

 

「お…お前が…」

 

「ジュビアはもう……グレイ様を…愛してはダメなんだと…思ったんですっ…グスッ…ジュビアは……お父様を…ヒック……殺したんですっ……」

 

 

告白された事に歯を食み締めたグレイは立ち上がり、肩を震わせながらジュビアの元へと歩き出した。

 

 

「お前が…!」

 

「ひっ…!」

 

 

胸倉を掴み上げ、声を荒げるが…ジュビアは涙を流して嗚咽を漏らすだけで、無抵抗だ。

グレイに何をされても…それは自分のしたことの罪であると考え、何をされても当然だと思っている。

 

そんなジュビアに…グレイは───

 

 

「…ぇ…?グレイ…様?」

 

「ありがとう…っ…」

 

 

ジュビアの胸元に顔を埋めた。

 

肩が震え…いや、体が震えて胸元が濡れていくことから泣いていると理解したジュビアは、雪に膝を突いて一緒に崩れたグレイの頭を撫でて抱き締めた。

 

 

「ごめん…っ…ごめんな…!」

 

「グレイ様…」

 

「ごめん……ごめん…っ…」

 

「グレイ様……あたたかいです」

 

「うぅっ…ぅ…うっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

マグノリアにある河川敷に、エルザは膝を抱えて座り込んでいた。

タルタロスとの戦いにおいて、キョウカによって拷問紛いの事をされたとき…昔の…楽園の塔にいた時の記憶が蘇って体が震えてしまう。

 

裏切られ、騙され、醜態を晒してしまった。

 

それだけのことがあった自分は…これからも人というものを信じていけるのだろうか?

エルザはそう思い小さくなっていた。

 

 

「お前なら大丈夫だ」

 

「───っ!」

 

「大丈夫」

 

 

ふと背後を通り過ぎながら聞こえた声は…ジェラールの声。

驚き振り向き、その背を見ていると、背中越しにまた勇気づけるような声を掛けられた。

 

 

「お前は人の強さも…弱さも…よく知っている。前へ……光の道をただただ前へ。……あいつと一緒に歩むんだ」

 

「……………。」

 

 

新しく魔女の罪(クリムソルシエール)のメンバーとなった、元オラシオンセイスのメンバー達と、ジェラールはエルザから離れて次の場所へと向かっていった。

 

エルザは少しの間黒いローブを頭から被っている集団の後ろ姿を見ていたが、体の震えは…止まっていた。

 

 

 

 

 

 

「おぉ!戻ったかスティング!ローグ!」

 

「レクターにフロッシュも」

 

「それに……」

 

 

「ミネルバ様!!」

 

 

セイバートゥースに帰ってきたのはスティングやローグ、同行していたフロッシュとレクターの他にも、人間に戻ったミネルバも一緒だった。

 

突然居なくなった自分に笑いかけてくれる嘗ての…いや、仲間達の事を目に捉えると…体が震えてきてしまう。

 

 

「お帰りなさいませ」

 

 

見かねたユキノが近付き、ニッコリとした笑顔で声を掛けた。

ミネルバは言わなくてはならない言葉があるのは分かっているが…中々言い出せず、服を握り締めて言った。

 

 

「た、ただいま…っ」

 

 

「「「お帰りなさい!!!!」」」

 

 

堪えきれなくなった涙を流しながら、ただいまと言えばお帰りと返してくれた。

 

 

 

それが溜まらなく…嬉しかった。

 

 

 

「お!?お嬢がお泣きに!?」

 

「明日は槍が降るぞ!!」

 

「ちょっと!?それは流石に失礼ですよ!?」

 

「「「「あはははははははは」」」」

 

 

───ギルドは……あたたかいのだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

破壊されたフェアリーテイルの跡地では、ドランバルトがマカロフから実はドランバルトが元々フェアリーテイルの一員であるということを打ち明け、記憶を消して評議院に潜入していたフェアリーテイルからのスパイてあったことを教えられた。

 

困惑していたドランバルトだったが、服の下からフェアリーテイルのマークを出て来たことから、それが真実である事が窺える。

だが、マカロフはもう終わったから今更だと言った。

ドランバルトがどういう意味なのか問えばマカロフは、至極真剣な表情で告げたのだ。

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)を解散させる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人の気配がする…さてはナツとハッピーだな?」

 

 

ルーシィは暗くなる頃に自分のアパートに帰ってきた。

鍵を開けていざ入ろうとすれば、中から微かに人の気配というものがしたのだ。

 

さては、何時もみたいにナツやハッピーなどが勝手に上がり込んでいるな…?リュウマなら歓迎するけどっ…と、思いながら勢い良くドアを開けた。

 

 

「コラーー!!ま~た勝手に中に入っ…て…?」

 

 

だが…中には誰も居なかった。

あの気配は何だったのだろうと思っていると、誰も居ないのに紙が落ちるような音が聞こえた。

その方向に目を向けると、リビングに置いてあるテーブルの上に一通の便箋が置いてあった。

 

先程まで何も置かれてなかったというのに…いつの間に…と、少し不気味に思いながらも手に取り、魔法の類が掛かっていないことを確認すると、開けようとして“R”と書かれた紅い蝋印を剥がした。

 

 

「えっ…?なにこれ超字綺麗!?どんだけ達筆なのよ……ん~と、どれどれ?」

 

 

ルーシィ・ハートフィリア様へ

 

 

これを見ているという事は無事に届いたらしい。

 

一週間…俺はルーシィ達に姿すら見せなかったのはとある理由からだ。

 

早速になるが…本題に入ろう。

 

 

今までありがとう。

 

 

仲間達に出会えて本当に楽しかった。

束の間の時であったが…今では忘れられそうにない程の思い出だ。

 

ルーシィとの思い出も、出会えたことも、今まであったことも、もしかしたら運命だったのかもしれないな。

 

風邪を引かぬよう…気をつけてくれ。

 

2度目になるが…今までありがとう。

 

 

 

さようなら

 

 

 

リュウマより 友愛を込めて

 

 

 

「………………なに…これ……?」

 

 

書かれていたものを読み終えたルーシィは、直ぐさまアパートから飛び出して道を駆けた。

まだどこか…近くに居るかもしれないと、走って走って走って……息が苦しくなって…涙が溢れて…立ち止まった。

 

 

「なによっ…これぇっ…リュウマぁ!!」

 

 

涙を流しているルーシィは、言葉の文脈から…一つの答えを導き出していた。

 

 

「まるで…まるでっ……これで一生のお別れみたいじゃないのよぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

さようならという単語が…更にそれを促進させた。

 

ルーシィの他にも、エルザ、ミラ、ウェンディ、カナ、ユキノ、シェリア、カグラの所にも同時刻送られてきており、内容は似たようなものであった。

皆が…同じように涙を流していた。

 

ナツが持っていた手紙はリサーナの所に置かれていて、リサーナはそれを読んで泣いてしまい、リュウマからの手紙を読んだミラと一緒に泣いていた。

エルフマンはそんな姉と妹に何て声をかければいいのか検討つかず、オロオロとしているしかなかった。

 

他の7人にもルーシィと同じような内容のものが送られ、共通しているのは…言わずもがな。

 

 

 

 

 

ルーシィはその場で涙を流しながら泣いた。

 

 

 

 

 

次の日……フェアリーテイルは、他でもないマスターマカロフの言葉に則り……解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────????

 

 

 

「ふぅ…やっと着いたな」

 

「キュウっ キュウっ」

 

「なんだ?空を飛ぶのがそれ程までに気に入ったか」

 

「キュウっ♪」

 

「然様か。お前も直ぐに飛べるようになる」

 

 

マグノリアから東に遥か数千キロに位置する大陸に、1人の男と小さい生き物は降り立った。

1人は背中に3対6枚の白と黒の美しい翼を持った男…リュウマと、リュウマの事を親のように慕い懐いていて、彼から一時も離れない小さな紅い赤ちゃんドラゴンであるイングラム。

 

2人は一週間、休憩を取りながら飛び続け、この大地へと降り立ったのだった。

 

ここは…緑に囲まれた深い森の中心……そこには何かの城…いや、街だったような物の跡地となっている。

木が多く生えていて見づらいところもあるが、中央にある城だったと思われる所には、1本の若い木しか生えていない。

 

その若い木の下には、二つの墓石が置かれている。

 

 

 

アルヴァ・ルイン・アルマデュラ 此処に眠る

 

 

マリア・ルイン・アルマデュラ 此処に眠る

 

 

 

リュウマの────父と母の墓石であった。

 

 

 

誰かに建ててもらったのではない…リュウマが石を持ってきて己が手で削り、名を刻み文字を刻んだ。

 

 

墓石の下には遺骨など無い。

 

 

そこら一帯をくまなく探したが……終ぞ見つけることは出来なかった。

 

悔しいが仕方なく……墓石を建てて近くに木を植えた。

神樹とも言われるその木は…400年経った今でもまだ若木も若木…あの時から少し成長した程度だ。

成長して大人の木になるにはどれ程掛かるのだろうか。

しかし、リュウマはそれを植えた。

 

 

せめて、来れない時だけでも己の分身とも言える木が…傍に付き添って居られるように。

 

 

「……ただいま帰りました。父上…母上。400年振りの墓参り、お許し下さい。私は1年後…決着をつけようと思います。その為にも……私にあなた方の温もりを与えて下さい」

 

「キュウゥ…」

 

 

寂しそうな…悲しそうな…悔しそうな顔をしているリュウマの頬をイングラムが舐めて励まし、微笑んだリュウマはお礼を言いながら頭を撫でてやった。

嬉しそうに羽をパタパタするイングラムは、見ているだけでも癒される。

 

調子を取り戻したリュウマは、飛行の途中で詰んできた花を二つの墓石に同じ数ずつ供え───

 

 

「────少し眠ろう…イングラム」

 

「キュウっ……zzz」

 

「ふふふ。おやすみイングラム。おやすみなさい…父上…母上」

 

 

神樹の下に頭を持っていき、イングラムを腕の中で抱き締めながら、両親の墓の間で眠りについた。

 

 

 

 

やがて深い眠りに入りそうになった時…誰かの手が、頭を…頬を…優しく撫でたような気がした。

 

 

 

 

 

夢は────400年前のあの頃の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅっ…父上ぇ…母上ぇ…我を───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おいていかないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これからは過去編にございます。

これからもよろしくお願いします。

あと、都合上リュウマにはアクノロギアにやられましたが、苦渋の決断でした…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。