FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ 作:キャラメル太郎
感想や評価待ってまーす!
リュウマがたったの3ヶ月という短い期間で自己修復魔法陣と肉体創生魔法陣を創り上げてから、実に4年の月日が流れた。
過程で言えば、リュウマはドラゴンにやられてしまい、己の母を危険な目に遭わせてしまったという念から、今までやってこなかった戦闘訓練というのを勉学と合わせて行うようにした。
最初こそ、マリア王妃が剣ならば私が教えると意気揚々として言ったが、リュウマは誰からも習わず、己の力のみで強くなってみせると言い放った。
とても残念そうにしているマリア王妃だったが、リュウマの母を超える為には本人から教えを請うてはならないという言葉に引き下がった。
それからというもの、リュウマは勉学の時間は真面目に受けて益々教養を付けていき、自己修復魔法陣などの魔法を開発するに当たって読み漁った魔道書のお陰もあり、魔法に関しては言うこと無しという所まできた。
では残りは戦闘訓練のみとなったが、リュウマは直ぐには始めなかった。
唐突に始めるのではなく、先ずは己の力がどれ程なのかということを把握してからにすれば、尚のこと効率が良いのではと考えたが故だった。
それで最初に思い浮かんだのが…武器の召喚。
華竜フランダルに一度だけ放つことが出来た武器の召喚を己の物とし、どんな戦況でも武器が尽きる事が無いようにと考案し実践してみることにした。
だが、中々武器が召喚させることが出来ず、いざ成功となると流れ込んでくる情報量の多さに頭を痛めていた。
二重の意味で頭を痛めていたリュウマは、これは実践有るのみと覚悟して1日10の剣の召喚を行っていき、慣れてくれば1本ずつ増やしていくという日課を開始した。
やがて2週間経った頃には……召喚することの出来る武器の数は200に届こうとしていた。
数が増えることに喜んだリュウマは、その他にもこの武器召喚の
まだまだ子供のリュウマには知識が足りず、確証は得られないものの、解へと手が届こうとしていた。
これが本当に自分の考えているようなものならば、それはそれは凄まじい力だということを悟ったリュウマは、早速我が物にしたいと願って鍛練に励み……武器の出し過ぎで一回熱を出した。
2日間寝込んだリュウマは流石に早計すぎたかと反省し、出来るだけ早く、しかして焦らずを心掛けて鍛練を続けていった。
因みに、熱を出した時はアルヴァ王もマリア王妃も心配して声をかけてくれたのが嬉しかった。
次に問題となったのが────魔力量
月日が経つ度……それも
最初は世界でトップと言っても過言ではない程の魔法使いであるアルヴァ王こと父に、己の魔力に細工を施してこれ以上増えないようには出来ないかと進言したのだが、リュウマの魔力は特異な純黒なる魔力…。
悩める我が息子直々の頼みということで聞き入れたかったのだが…お生憎リュウマの魔力が他の魔力を呑み込んで無効化してしまうため施しようが無かった。
残念だと思いながら自室で母であるマリア王妃の膝の上に乗って頭と羽を撫でられながら項垂れていた時のこと……ふと城下町に流れる小さな川と、塞き止めるために使われていたダムを見て閃いた。
己の魔力に誰も干渉することが出来ないというのであれば、自分でしよう。
そして────溢れないように
考えついたリュウマは速実行に移した。
幸いなことに魔法については、そこらに居る研究者達よりも一回りも二回りも優秀な頭脳と、城に置かれている膨大な魔道書等の書籍があるのでそうは困りはしなかった。
日々魔力が上がり続けるという特異体質の所為で息をするように周囲の物を破壊していく中、焦りを覚えつつ独自の封印魔法を開発した。
それがまだ1年経った5つの時の話である。
封印魔法はリュウマの魔力の全てを封印しておくのではなく、一部を完全封印して残りを使うというものだ。
魔力が増えるというのは悪いことではないので、完全封印したら魔力が増えないと考えて一部に掛け、魔力の増加を遮ることの無いようにした。
己自身の魔力の器から、体中に流れていく魔力の通る管とも言えるものに、自分以外の者では如何なる手を使っても外すことが出来ない封印の門を施した。
するとどうだろうか…?
無差別に行っていた破壊活動はなりを潜め、今では一年前と変わることの無い普通の生活に戻ることが出来た。
なんと素晴らしいものを作ったのだと、部屋の中でスキップしながら自画自賛しているところをアルヴァ王とマリア王妃に扉の隙間から見られ、羞恥からくる感情の荒ぶりで封印を解いてしまい一室を破壊した事件などがありながらも、リュウマは何時しか封印魔法が得意な魔法となっていた。
魔法の開発が楽しくなってしまったリュウマは、時には年相応の悪戯で触れると体の自由を奪う封印魔法陣をアルヴァ王が執務を行う時に使う椅子に組み上げて使ったり。
同じ魔法陣を体に刻み込んだら、一方からもう一方へと一方通行の魔力譲渡を行う…何とも傍迷惑な魔法を作って差し出す魔法陣をアルヴァ王に、受け取る方をマリア王妃に刻んだりした。
何かと実験台にされていたアルヴァ王は困ったような顔をしていたが、楽しそうに魔法を使うリュウマの表情を見ているとこっちも楽しくなってしまい、ついつい許してしまっていた。
尚、やられて喜んでいるアルヴァ王をマリア王妃が気持ち悪いものを見る目で見ていたことには涙を流した。
悪戯で使用人達を全員困らせた後、そろそろ武器を使った鍛練に入ろうと考えたリュウマは────純黒の刀を使用することにした。
武器として使うのではなく……
日々の許される時間の限りをその知識を使った剣の鍛練に身を任せ、心身共に鍛えられていくリュウマは何時しか3年の月日を費やしていた。
勉学も教えてくれる先生が30分で匙を投げる程優秀になり、力も既に8歳にして王を除いたこの国最強である団長と戦って勝つ程まで強くなった。
そもそも、手に入れた知識による実戦訓練をということで数百キロ離れている“幻獣の森”を行ったり来たりしている時点で規格外であり、去年にはその幻獣の森にいる宝獣というものが持つ貴重な宝石を使ってマリア王妃の誕生日プレゼントである首飾りを作り、又同じく幻獣の森にいる凄まじい魔力増強の力を持つとされる幻の蝶である魔蝶を組み込んだ宝玉をアルヴァ王に贈った。
余談であるが、マリア王妃とアルヴァ王は互いに号泣してリュウマに抱き付きお礼を述べ、それぞれの贈り物に魔法で壊れない汚れない無くさないという魔法を掛けた。
そこまでする物かと苦笑いしていたリュウマであるが、そこまで喜んでくれたならば良かったと嬉しがってたりする。
言葉遣いも舌足らずなものからはっきりとした物言いとなっていて、今では成人男性と変わらないような流暢な喋り方となっている。
尚、まだ8歳なので声変わりが来ていないのだが、リュウマは早く大人になりたいという子供の時は必ず誰もが夢見る夢から、早く声変わりしないかと待ちに待っている。
リュウマ・ルイン・アルマデュラという少年は逞しく育ち、今では時々城下町に下りていってはこの国に住む民達との会話に花を咲かせ、国民からも愛される良き王子となっていた。
そんなリュウマは今日────マリア王妃と対峙する。
力を求めてかれこれ4年……。
4年前とは比べものにならない程まで強くなったリュウマは、この日マリア王妃と手合わせを願い出た。
愛する我が息子との剣の交わりを、4年もの間待ちに待っていたマリア王妃は歓喜して了承した。
朝早くからやりたいところではあるが、リュウマは少し時間を貰って昼前に行おうと提案したところマリア王妃はそれも了承。
ということで、リュウマとマリア王妃の手合わせは昼前に始まるということになった。
「うふふっ。どこからでもいらっしゃい?」
「……すぅ…はぁ……行きます」
城にある広い中庭で、リュウマとマリア王妃は対峙していた。
リュウマはどんな武器を使っても良いし魔法も使っていいが、マリア王妃が使って良いのは危険性の比較的少ない木刀のみで魔法も使用不可、勝負内容は戦闘不能に陥るか参ったと言った方の負けというシンプルなものだ。
木刀のみというところに舐められている感があってムッとしたリュウマであるが、マリア王妃は真剣でやるとリュウマを斬ってしまいそうで怖いということでこの様な形となってしまった。
絶対ぎゃふんと言わせてやるっ…と、意気込んで背後から1本の刀を取り出し正眼の構えを取った。
マリア王妃は木刀を右手で持って、地に垂らすように脱力する。
構えないのか問えば、既に構えていると微笑みながら答えたので、取り敢えずこのまま始めることにした。
「───────。」
「!!……へぇ?」
刀の切っ先を向けたまま、リュウマはマリア王妃の周囲を囲うように歩って回り始め────第二第三と複数のリュウマが現れた。
気配のみで相手に複数の自分を幻視させるこの技は初見で見切るのが難しく、達人となれば気配を的確に感じ取って対応するが、リュウマがそれを察しない訳がなく、現れたリュウマの一つ一つに本体と全く同じ気配が纏っている。
初めて剣を交わすというのに初手から高度な技を見せられたマリア王妃は感心したように微笑み、目だけを動かして出方を見ている。
複数の分身が現れてマリア王妃の周囲全てを囲ったのを皮切りに、リュウマの本体とリュウマの分身達は
本人は一人しかいないので、普通ならば全てが同じ動きになるはずの分身は1人1人全く違う動きで迫り来る。
であれば、相手は混乱し隙が生まれ────
「────1…2…3…4…5…6…と見せかけてここね?」
「うぐっ…!?」
斬り掛かってくる分身の最初の5体は無視して好きに斬らせ、当然の如く体をすり抜けて消えていくのを気にせず、6体目も無視する…かと思いきや木刀を振るって本物のリュウマの攻撃を防いでしまった。
まさか一度で暴かれるとは思ってみなかったリュウマは驚きに満ちた表情をし、隙が出来たところにマリア王妃は攻撃することもなく腕力のみで軽く押すように距離を取らせた。
宙で1度一回転しながら着地したリュウマは、直前で決まったと思ったのに完全に見切られたことに苦虫を潰したかのような顔をし、次の一手に講じた。
右足を少しあげて地面に叩きつける。
脚力で地面に爪先が少し埋まったのを感じ取って体勢を低くとり、刀を持っていない左手を軽く地面に付けて前方のマリア王妃を見遣る。
太腿二頭筋という足の太腿の裏の筋肉が膨れ上がるほど力を込めて初速から最速を叩き出した。
周りの風景が素速く後方に流れていく映像が流れる中で、真っ正面から行けば迎撃されるのは目に見えて明らかであるので、ルートを選択し攻撃への道を導き出す。
マリア王妃の間合い寸前まで迫ると大地を踏み抜く気持ちで蹴り、右手方向に直角で曲がる。
そこから更に方向を変えてはマリア王妃に向かっては方向転換を繰り返し、時には横をすり抜けるように駆けていく。
リュウマの残像が四方八方に現れているのを
「────シッ!!!!」
真っ正面から突撃するように見せかけて消失し、マリア王妃の真後ろから刀を振り下ろしたリュウマは入ったと確信し、斬るわけにはいかないので寸止めをしようとしたのだが、何時の間にか己とマリア王妃の間に木刀が置かれて攻撃を受け止められていた。
右から掬うように掲げられた木刀は真剣である刀を受け止めても斬れることも無く、力強くしっかりと受け止めていた。
木で鋼を受け止める技術と、完全に死角から気配を消して音も無く攻撃したのに反応してみせた空間把握能力に舌を巻く。
押し込むことが出来ない以上無駄だと悟って刀を引き、バックステップで後退すると、手の平に直径数十センチ程度の魔力球を創り出して投げつけた。
次いで魔力球を後を追うように自身も駆けて2度目の背後からの攻撃に出る。
木刀を最初の形に下ろしていたマリア王妃の右手がブレたかと思うと────魔力球を斬られた。
形を成すことが出来なくなった魔力球はその場で爆発して煙を巻き上げ、リュウマとマリア王妃の姿を覆い隠す。
自分も見えないが、魔力を音波のように周囲に飛ばすことで物に当たり跳ね返ってきた時間を計算して位置を掴むという技術でマリア王妃の居場所を把握、反対側の真っ正面から斬り掛かった。
「見えなければ当たると思った?うふふ。まだまだ甘いわね」
「……何で分かったんですか」
「うふふ。秘密」
攻撃は易々と防がれてしまい不発で終わり、刀と刀をぶつけた衝撃で煙が晴れると今も尚微笑みを浮かべるマリア王妃がいた。
どれだけ数で惑わそうが強力な一撃を見舞わおうが悉くを防がれるリュウマは、どんな攻撃ならば効くのか思考するが頭が良いだけに結果は同じ。
どの攻撃も意味を成さない。
団長と戦った時は危なげな遣り取りなどが生まれて接戦していたものだが、ここまで圧倒的力を見せられるとは思いもしなかった。
出来るだけ剣での攻撃で倒したかったが、このままでは戦いにすらならないので魔法も使い始めた。
魔力で身体能力を向上させて体を作り上げ、力も上がった事を利用するようにとある武器を取り出した。
普通の刀よりも刃渡りが長い大太刀に分類される物干し竿と呼ばれる刀だ。
手に持つ刀を戻して背後の黒い波紋からそれを引き抜いたリュウマは右脚を後ろに大きく引き、両手で持った物干し竿を顔の横に持ってくる霞の構えを取った。
何が来るのかと、マリア王妃密かに胸を膨らませる。
「秘剣────」
「────ッ!」
とある世界で、とある男が生前に編み出したとされる剣技の中でも屈指とされる最高の技。
空を駆ける素速い燕を斬ろうと試行錯誤を繰り返し、一を斬ってもダメならば二の剣三の剣ならば如何様かという結論に至った純粋な剣術での魔法。
これは後にありとあらゆる人々から不可避の剣術と呼ばれ、その由縁は────
「─────『燕返し』」
詰まるところ……全く同時の三連撃である。
しかし────
「至高天・────『
マリア王妃は初見で
「………え?」
「うふふっ…面白い技ね?何時の間にこんな技覚えたの?」
何でも無いかのように振る舞うマリア王妃を、リュウマは信じられないものを見たような目でみた。
それも当然とも言えよう……彼女は初見で、尚且つ誰もやったことも見せた事も無い技を受けきってみせたのだ。
訳が分からずどうやったのか問うと、マリア王妃は小首を傾げながら何でも無いように言った。
「リュウちゃんが凄い技を使いそうだったから、私はリュウちゃんの動きを千分の一秒のズレも起きないように同じ動きをして同じ技を使っただけよ?」
「……………………納得できません」
まず長くない武器で、それも只の木刀で迎撃したマリア王妃の反則具合に叫び声すら上げる気にもなれず、目元を引き攣らせた。
ここまで理不尽な相手は絶対に居ないと確信したリュウマは、他にどうすればいいのか見当もつかないが、これならば魔法を撃っても斬られて終わるのでは?と思い始めてきた。
だが、一度挑んだ以上諦めるなど以ての外であるリュウマは物干し竿を消して又も1本の刀を取り出して構え、背後に大凡百に近い黒き波紋を広がった。
贅沢極まりないが、このどれもこれもが
「あらまぁ…凄い数ね」
「────覚悟です」
手始めに一本の剣が飛んで続く二本目。
射出された二振りの剣は寸分の狂いも無くマリア王妃目掛けて突き進み、串刺しにせんと迫るが避ける動作無し。
最早避けることなど最初から考えてすらいないマリア王妃は木刀を持ち上げて先をゆく剣を一閃。
弾かれた剣は第二の剣に当たり連鎖的に弾いた。
一度に二の剣を退けたマリア王妃は、凌いだと同時に迫り来る残りの百近い武器達に無雑作ながら構えた。
只飛んで迫る物などはたき落とすだけでよい単純作業故に苦など無く、一閃で四本弾いて四本に当て、高速の振り下ろしで発生した飛ぶ斬撃で延長線上の武器を両断した。
弾くだけなら未だしも木刀で両断するとは何事かと、この武具は至高の一品だ、だがもしや豆腐のように柔らかいのか…?と冷や汗を流しているリュウマは気を取り直し、次こそは一本取ってみせると構えた。
「飛天御剣流────」
未だに飛んでくる武具を一方的に迎撃しているマリア王妃は、リュウマが何かをしようとしていることに気が付きながらも態と飛び交う武具の対処に回っている。
左右から迫れば右に持った木刀を半円を描くように右から左へと一度に武具を叩き落とした。
隙有りと言わんばかりに背後から射出された武具は、下の土を木刀で勢い良く抉りながら飛ばして無理矢理な軌道修正を行った。
真横を通り過ぎた武具は前から迫る武具に正面からぶつかり合い墜ちた。
今度は上から聞こえてくる風切り音に反応して上へと構え、一度の刺突で上空に流れる雲ごと散らした。
と……ここで完全に開けた懐へと潜り込むように迫るのは武具ではなくリュウマ。
速度も威力も魔力を使って超強化を施しながら刀を構えてソレを打ち出した。
剣術の基本である9つの斬撃……
壱・
弐・
参・
肆・
伍・
陸・
漆・
捌・
玖・
これらを飛天御剣流という神速剣術において神速を最大限に発動させつつ突進しながら同時に放ち、一度技が発動してしまえば防御も回避も不可能な技と言われる技である。
「至高天────」
天へと突いていた状態から既に正面へと構えていたマリア王妃は、ここで初めて真面な剣の構えを取った。
霞の構えから取る木刀を水平に保ったところから下へと下ろして霞の下段構え。
そこから宙を斬るように鋭く上へと持って行って勢いを付けると、霞みの構え上段に戻しから、斬り下ろしの連撃へ繋げた。
向かうは神速による九つの斬撃、対するは自身に多数の攻撃が行われた場合に撃滅する為に編み出された対多数撃滅型剣術。
「────『
回避不可能と言われた剣術を立て続けに真っ向から圧倒的力によってねじ伏せたマリア王妃には、現地点ではどう足掻いてもリュウマは勝つことが出来ない。
弱打とはいえ五十をも超える刹那の連撃を打ち込まれたリュウマは、手に持つ刀を木刀でありながら砕き割られ、尚且つ後方数メートルも吹き飛ばされて中庭を囲うように立ち上げられている壁に突っ込んだ。
壁が砕かれ上から崩れ墜ちてくる瓦礫の下に追い遣られたリュウマは意識が朦朧として目が霞んだ。
本気の全力でやられれば、寄って刀を振り下ろす前に細切れになっている相手なだけに、どれ程の策を巡らそうが上から圧倒的にねじ伏せられる絵図しか見えてこない。
そもそも、すれ違い様に数万回相手を斬って消滅させるように斬殺するマリア王妃に手数で勝とうとするのが間違っていたのだと、今更ながら上手く回らない頭の中で納得した。
であれば─────最高の一撃を届けよう
「ごめんなさいリュウちゃん!!待っててね!?今出して────」
リュウマの上にのし掛かっていた瓦礫の山が……弾けるように細切れに斬られて霧散した。
中から現れたリュウマの体中には幾多もの線が入って傷ついた体を修復し、これから行う技のために鋭気を研いでいた。
発動して僅かしか経っていないので少しふらついているがそんなことは知らず。
今は頼りなさそうに見えるが、後十秒もあれば鈍い痛みを感じる肉体は完治されるのだ。
自己修復魔法陣で体を治しながら、リュウマは鋭い視線をマリア王妃へと向けた。
「ボクはまだ…立っています…!自分の足で…今…!立っていますッ!!情けは人の為にならず…ボクはこれから最後の一刀を母上に放ちます。母上は全力では無理かもしれませんが────本気で来て下さい。」
「リュウちゃん……」
「ボクの為と考えて頂けるならば……お願いします」
「…………分かったわ」
リュウマから向けられる真剣な表情と迫力に負け、少し目を瞑ってから目を開けると……雰囲気が変わった。
「──────ッ!!」
「フォルタシア王国を治める王…アルヴァ・ルイン・アルマデュラが妃、『
全てを残らず抵抗無く…思うがままに斬り裂く抜き身の刀を喉元に突き付けられているような、いや、既に首を両断されて頭が胴と離れてしまっているのではないかと思わせる程まで研ぎ澄まされて与えられる剣気。
膝を突きそうになる圧力の中で気をしっかり持ち、震えそうになる右手を左手で抑え込んで止め、深呼吸をして刀を構えた。
中途半端な剣技では斬り伏せられ、手数で押そうなど以ての外である愚策も愚策。
今欲しているのは何処までも一刀の元に斬り伏せる剛を以て剛を下し剛を成す一撃。
でなければ前に佇み構えているマリア王妃には届かない。
必要なのだ────絶対の剣による技がッ!!
手足にに力を込めて魔力を全身に張り巡らせたリュウマは……駆け出した。
「
「至高天・──────ッ!!!!」
2人の剣は重なり合った。
「今日の昼餉の献立どうしましょうか?」
「そうですね…今日はリュウマ王子とマリア王妃が運動をした後ということで、疲労回復の献立にしましょう」
「あと、リュウマ王子はお肉お好きでしたよね?」
「では、お肉料理をメインに考えましょうか」
「「「はい!!」」」
「……うぅ…まだ慣れないです…」
城の一階に位置する場所に設けられた料理室では、あと少しでなる昼餉に出す料理の献立決めを行っていた。
献立を大雑把ではあるが決めた料理長は、他に働く料理人達に指示を出して料理を作っていく。
この国は世界的に進出していることもあって、多数の限定的に取れる山の
料理長が手掛ける料理はアルヴァ王やマリア王妃、リュウマがとても美味しいと毎度呼び出しては声をかけてくれるので歓喜に身を震わせ、何時如何なる時でも満足して貰えるような料理を出すことを心掛けている。
今年で十代半ばになる、まだまだ若い料理長の地人である女性は、貧しき下々から無理矢理税を得ていた愚王が治める国で不幸にも生まれてしまい、幼少の頃から貧困極まる生活を強いられていた。
そこで子供の頃に手を出したのが料理だった。
食べる物が無く、時には鼠などといった小動物を食べて日々を凌いでいた当時の料理長は、そんな物を食べて病気にならないようにと調理をして出来るだけ料理として食べられるようにした。
病弱で栄養失調で動けない母に代わり、治政の改善を求めただけで殺された父の分も母に付きっきりにだった料理長は日々を頑張って生きていた。
幸いなことに料理長は稀に見る料理に対する磨けば何処までも光る原石を持っていた。
どんな不味そうな料理も美味しくさせる魔法のような才能に、母は苦労させてごめんと謝りながらも感謝した。
やがて匂いに釣られた他の貧困民が料理長に助けを求め、小さい子に少ないながら素材を渡し、美味しい料理を作って貰ってはどうにか日々を食い繋いだ。
それからというもの、料理の腕も劣悪な環境でも磨き上げられたが故に、既に腕前はプロに勝るほどのものとなっていた。
しかし、とうとう国を維持していられなくなってしまったその国は他の国に侵略され、兵など居てもいない程度の低兵力故にあっという間で墜とされた。
散り散りになる人々と同様、命からがら国を出て母と助かった料理長は、流されるがままに行き先が無いため適当な道を進んで行くと、運が悪いことに東の大陸に存在する幻獣の森に辿り着いてしまった。
普通の人では生きて帰ることは不可能となる場所に来てしまった料理長と料理長の母は、猛獣の餌食となりそうになるところを鍛練に来ていたリュウマに助けられた。
『なんでこんな所に居るんですか?……見たところ武に秀でたものを持っている様では無さそうですし…』
『あのっ…助けて頂きありがとうございます……』
『そう畏まらなくてもいいですよ。ボクはまだ子供なので、こんな小さい子供に頭を下げるのは嫌でしょ?』
『いえ、私と母を助けて頂いたのです。当然のことなので……お礼をさせて下さい』
『って言われてもですねぇ…お姉さんは何が出来るんですか?』
『えっと……料理…くらいならば…』
『─────へぇ?』
丁度今屠った猛獣がいることだし、試しにお礼の代わりとして料理を作って貰おうかと頼んだリュウマの言葉に、お礼が出来て嬉しそうに笑う料理長は綺麗な笑顔だった。
材料は肉しか無いので焼いて終わりだろうと高を括っていたリュウマはその数分後、今まで嗅いだことの無い御馳走の匂いに釣られて腹を鳴らした。
自分が肉を焼いたときはこんな良い匂いなど出なかった。
一体どうなっているのかと覗き見たリュウマは、凄く楽しそうに肉を焼いて料理をしている料理長を見た。
それも幻覚の類なのか、見たことも無い具材が彼女の周りを従うように囲っていたのだ。
やがて完成した見た目は普通の骨付き肉である料理を出されたリュウマは、恐る恐る口に持っていき一口齧りつく。
────何時の間にか食べ終わっていた。
ハッとした時には大きな猛獣の肉を全て食べ終わっていて、一体こんな小さな体のどこに入ったのだろうと、摩訶不思議な物を見る目を送る料理長と料理長の母を見て察した。
まさかこれ程とはと思った…それよりももっと食べたいと…この人の料理を今度こそ味わって食べたいと心から感じたリュウマはこの場から動かないようにと2人に言いつけて、手頃の食い扶持がありそうな丸々太った猛獣を10匹程屠って持ってきた。
余りの量に笑顔を引き攣らせている料理長を気にする様子も無く、作ってくれればこっちがお礼をすると言って作って貰った。
今度は3人で食べて極上の味の余韻に浸っていたリュウマはお礼として、病弱だった料理長の母の『病弱』という部分を加護を与えて消し去り健全な人間へと戻した。
その時の光景を目の当たりにして顔色が見違えるように良くなった母を見た料理長は、涙で顔をくしゃくしゃにしながらリュウマに土下座する気かというほど頭を下げて感謝した。
もう料理するだけでは恩を返せないと言った料理長に、では専属の料理人…料理長になってくれと進言した。
どういう意味なのか分からない料理長と料理長の母だったが、魔法で隠していた羽を現したリュウマのことを見て驚き、城へと案内されてアルヴァ王とマリア王妃に事の詳細を楽しそうに、味を思い出して恍惚とした表情で話しているフォルタシア王国王子…リュウマ・ルイン・アルマデュラを見て気絶した。
斯くしてそれからというもの、アルマデュラ一行は料理長の料理をえらく気に入り、文字通り料理長に任命したのだった。
翼人一族の住まう彼のフォルタシア王国の王族専属料理人になるとは思っても見なかった料理長は、今では元気な母と一緒に平凡な家に住んで日々を謳歌していた。
そんな彼女が料理を作って半分ほど作り終わったという時────壁が爆発して何かが舞い込んできた。
阿鼻叫喚となってしまった料理室で冷静に状況を整理して、取り敢えず飛来して壁に大穴を開けたモノの正体を確かめることにした。
飛来したモノは左の壁をぶち抜いて右の壁まで貫通して尚止まること無く進んで行ったので、空いた穴を通っていけば見つけられる。
瓦礫で足を挫かないように慎重になりながら穴の向こうへと目を向けると─────リュウマがいた。
勢いが破壊された壁で殺されたのだろう、特に分厚く作られていた図書室の外側の壁にめり込んでから重力に従い床へと落ちていた。
四肢を力無く垂らして髪で隠れているため表情は窺えないが、ピクリとも動かないことから気絶している事が分かった。
だとしても、翼人一族だとしても若干8歳の子供が複数枚の壁を破壊さながら飛んできたのだ。
ましてや相手がこの国唯一無二である王子ともあろうものならば、目をこぼれ落ちるぐらいまで見開いて悲鳴を上げるだろう。
「きゃーーーーーーーーー!!??リュウマ様ぁぁぁぁぁ!!??」
こんな感じに。
「リュウちゃん!!」
「えっ!?王妃様!?これは一体…!」
「ご、ごめんなさいっ。本気でやって欲しいって言うから全力ではなく本気でやったら勢い余ってここまで……」
「えぇ!?と、取り敢えず治療を…!!」
驚愕している料理長の背後から慌てた様子で来たのは勿論のことマリア王妃である。
予想以上に力を籠めすぎた為に中庭からここまでの距離を吹き飛ばしてしまっていたのだ。
やった後に何をしているのか気が付いたマリア王妃が血相を変えてここまで走って向かってきたということだ。
出血はしていないというのは目視で確認出来たので、体の内部に至るダメージが心配だと料理長が優しくリュウマの体に触れた時だった。
リュウマの体は着ている服が無事であるのが不思議である程の超高温の熱を持っていた。
手を翳してみると、特に右腕からの発せられる熱が凄まじいことが分かる。
「あの…!リュウマ様の体が熱くて…!」
「────摩擦熱よ」
「摩擦…熱…??」
料理長が振り返ってマリア王妃にリュウマの現状の事を教えると、マリア王妃は真剣な表情でリュウマの右腕の部分を見ていた。
こんな状態なのに摩擦熱とはどういうことなのかと、無理にリュウマの体へ触れることの出来ない料理長は問うてみた。
「最後にリュウちゃんと私は一撃を同時に放ったの。その時に私は本気でやっていたわ…周りが遅緩して見える世界で……リュウちゃんの速度は一時的とはいえ私の速度を凌駕した」
「…え?それは……」
「えぇ……リュウちゃんは素速く動きすぎて空気との摩擦熱によって体が熱暴走しているのよ」
では早く冷やしてあげなくてはと急いで水と氷を用意をしようとした料理長を、マリア王妃は片手を上げて止めて、リュウマの体をよく見るように言った。
何があるのかと、焦る気持ちを抑えて冷静さを取り戻してからリュウマの体をよく見てみた。
すると先程まで気が付かなかった事に気が付いた。
彼は戦闘服が所々破けているが、その破けたところからは幾多もの線が入っていた。
身に刻まれていたのはお得意の自己修復魔法陣で、手を翳して確認してみると、燃えるように熱かった体は普段の温度を取り戻し、肌も青なじみになっていたところを綺麗な色を取り戻して治っていた。
実は超高速移動中に二人の攻撃が重なり合う寸前で自己修復魔法陣を予め掛け直しておいたのだ。
やられるということを見越して発動するのは悔やまれたが、勝てないのは明白だったので伏線だったのだ。
マリア王妃の最早目に捉えることの出来ない速度で放たれた剣を受けて、意識が飛ぶまでの間にリュウマは、絶対に次は勝つと心に刻み込んで意識を手放して飛んできた。
完治したリュウマのことを使用人達が起こさないようにゆっくりと、リュウマの自室に運んでいくのを見ていたマリア王妃は……
互いに向かい駆けたので避ける暇が無く、やむを得ずリュウマの剣を受けた時のことだった。
受けた木刀が砕け散る一歩手前までいって、その時に伝わる衝撃はマリア王妃の右手を大きく痺れさせた。
リュウマに技を決めたまではいいが、結局その後マリア王妃が使っていた木刀は木っ端微塵に砕けて使い物にならなくなった。
たったの8歳で既に開花している己と同じ剣の道…否。
きっと近い将来…リュウマは『
その時は是非とも────
「うふふっ……と~っても楽しみだわ♪」
余談だが、破壊音と衝撃に駆けつけたアルヴァ王は事の詳細を聞いて溜め息を溢しながら壁を直していた。
因みに、次の話は大分年月が経って皆さんの大好きな─────蹂躙系です。