FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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《警告》《警告》《警告》《警告》《警告》


この話は特に残酷な描写が含まれますので注意して下さい。

俺or私の考えてたリュウマはこんなことしない!と思いたくない方は見ないことをお勧めします。

内容は最強無双と最凶が混ざっていますので、外道極まりないことだってしますので、見た場合は自己責任でお願いします。
元々、リュウマはこんな感じなので。




第伍刀  滅びるは人故か 『殲滅王』

 

リュウマがマリア王妃との手合わせに負けてからというもの、今現在まで10年という月日が流れた。

 

過程を紹介しておくと、リュウマは負けてからの悔しさを糧に尚のこと鍛練に精を出すようになり、勉学が疎かにならないように復習や予習なども徹底的に行った。

 

200程度しか一度に出せなかった武器召喚に至っては、10年経った今では空を広範囲で武器のみで覆い尽くす事が容易く出来るようになった。

魔力はやはり増え続けており、年月が経つにつれて封印の数は増す一方である。

と言っても、魔力が増えることは全く悪いことではなく、精々力加減を間違えると周囲の物を壊してしまうという程度だ。

 

剣術についてはかなりの熟練度となってしまっている。

ソレは単にある程度満足する程度の腕前になってはマリア王妃に挑んでは敗北し、悔しさで口を苦くして鍛練に励み満足するまで行う。

それらを何度も繰り返していく内にマリア王妃でも手が付けられない程の腕前となった。

 

本来剣士ならば優れた師がいて弟子入りをし、教えを請うというものが一般であるが…リュウマは違った。

魔法に関してもそうだったが、リュウマは一人で学び一人で試行錯誤し一人で結果を出してきた。

つまりリュウマには師と言うべき者がいない。

これは悲観する事ではなく、たった1人で強くなってしまう程の才能を持っているリュウマに驚愕する事案である。

 

今年で18となったリュウマは心身共に大人びたものへと素晴らしく成長し、魔法も剣も頭も全てが規格外ということで歴代でも類を見ない18での王位継承となった。

本来ならば20代半ばか後半になったところで継承されるものだが、今回は他でも無いリュウマということで大臣等を含む臣下達の満場一致の賛成によって決まった。

 

戴冠式は恙無(つつがな)く行われ、いざ王の証である王冠(サークレット)を頭に載せた瞬間には、王国にいる民達が大いに湧き立ち3日ほどお祭り騒ぎとなった。

これでリュウマは第16代国王アルヴァ・ルイン・アルマデュラから王位を継承され、晴れてフォルタシア王国第17代国王リュウマ・ルイン・アルマデュラとなったのだ。

 

王位継承したからには必ずや更なる繁栄と平和を約束すると宣言し、その宣言を守るために先ずは、今まで前代国王のアルヴァが行っていた治政をより良くするための執務である。

しかし、はっきり言ってしまえば、リュウマは肩透かしを食らったような気分だった。

 

就いたばかり故に理解出来ない部分が発生し、父であるアルヴァを頼ることになってしまうのではと危惧していたリュウマは、いざ取り掛かってみると難しい案件など無く、精々フォルタシア王国領内にある幾つかの村や街で農作物が上手く育たないといったものだった。

 

農作物云々に関してはリュウマが出向いて大地に魔法を掛けてやる。

すると、作物が育たなかったところから元気で栄養価の高い素晴らしき作物が育つようになった。

必ずや必要になるだろうと、こっそり開発しておいた発育促進魔法による力で解決した。

 

他にも本来ならば国に猛獣が襲いかかってきて被害を受けたりと、この時代に蔓延るドラゴンなどによる被害も受けるのだが……この国に限ってはそんなこと有り得ない。

猛獣はまず、フォルタシア王国を囲う攻略不可能の難攻不落と言われる由縁の一つ、壁と扉を抜けることが出来ないからだ。

 

フォルタシア王国をよく思わない国は探せば幾らでもいるが、実際に攻めてきた国の兵は壁に阻まれて先に進めず、しかし壁の上からはバリスタや魔法による攻撃に晒されて全滅する。

しつこく攻めてくる場合はリュウマが出張り、魔法を一度叩き込むだけで殲滅が完了する。

時には運動したいという理由でマリア元王妃やアルヴァ元国王が出たりもするが、勿論相手の国力が瞬殺だ。

 

因みに、王位を退いたアルヴァ元国王は、日々行っていた執務が無くなったことによって空いた時間に、以前からやってみたかったという歴史的快挙となる程の大魔法の開発に勤しんでいる。

マリア元王妃は他国にいる王妃友達とママ友の会等を度々開いては楽しみ、時にはリュウマとアルヴァ元国王を連れてピクニックに行ったりする。

 

執務があるからと断ろうとすれば、料理長にとびきり美味しい料理をこれでもかと作って貰うという言葉にホイホイ付いて行ってしまった。

実際のところ、リュウマは優秀すぎて数日先にやるはずだった執務内容も淡々と終わらせてしまうため、2.3日の休暇は問題ない。

どちらかというと、大臣等はリュウマには休みを取って貰いたい側なので喜んで送り出している。

 

次に問題となっていたドラゴンについてだが、ドラゴンは人間とは相見えないという派閥が存在し、他にも人間と共存を考えているドラゴンもいる。

中でも人間を食物としか見ていないドラゴンの内、賢い者は喰わないでやるから食べ物を献上しろと脅す者がいる。

 

 

フォルタシア王国にもその手のドラゴンが来たが─────喰われた。

 

 

どういう意味か深く考える必要など無い。

ただ、脅しに対して国の代表であるリュウマが否と答え、襲ってきたところを返り討ちにして殺し、国の真ん中で大々的に丸焼きにして民達と仲良く食べた。

その時の料理はやはりのこと料理長が行い、ドラゴンは美味しいということをこの国に住む者達だけが知っている。

 

知り合いが中々帰ってこないと疑問に思ったドラゴンが偵察に来たりもしたが、そのドラゴンも屠って民達と仲良く且つ美味しく頂いた。

この世界において生存競争の上位的存在であるドラゴンを軽く屠って食べているのはこの国だけと言えよう。

 

他の国では共存を実現しようとしているドラゴンと仲良く暮らす国もあったりするが、リュウマは攻めてこないならばそれでよし。

襲い掛かってくるならば容赦なく皆殺しにすると考えているので興味は無い。

強いて言うならば襲ってきた方がまだ良い。

 

事実、ドラゴンの食べることの出来ない鱗や角といった部位に関しては、剥ぎ取って他国に対する貿易材料にしているので国の財力は増すばかりである。

当然のことながら、リュウマだけしかドラゴンに勝てないという訳ではない。

マリア元王妃やアルヴァ元国王も屠る力を持ち、兵士はリュウマからの魔法のバックアップがあれば楽に()れる。

 

フォルタシア王国は何不自由なく、このように日々を謳歌しながら毎日を過ごしていた。

 

 

 

 

 

しかし……時には例外というものが存在する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王よ」

 

「なんだ」

 

「例の物がつい先程……完成致しました」

 

「─────時が来たかッ!!」

 

 

玉座にふんぞり返りながら座る肥え太った男に声を掛けるのは1人の男。

報告を受けた者はこの国の王で、東西南北の東の大陸を統べるフォルタシア王国に次いで、東の大陸で2番目に力を持つ大国の王である。

 

この男は極度の負けず嫌いで知られており、特に国のこととなると一番を取っていなければ気が済まないという、国の王としては素晴らしい思想の持ち主ではあるのだが、いかせん性格に難がありということで対立されて嫌われている国がある王だ。

 

今報告にあって歓喜していたのは、今日この日から、己が治める国が東の大陸を代表となる超大国になる瞬間であると確信したからである。

国にいる傘下国から集めたエリートばかりで構成された学者達が造らされていたのは────兵器。

 

私欲を満たすためにと造られたその兵器は、この時代において…否……これから先の時代においても治療方法が確立しないと言われる病を発症させる恐るべきウイルス性兵器である。

 

 

「この兵器を造るに当たって出た犠牲者の数は───」

 

「そんなことはどうでも良い」

 

「数百にも……え?」

 

「どうでも良いと言ったのだ。元より犠牲が出るのは覚悟の上で造らせたのだ。それよりもだ……それを()()()に放り込んでこい」

 

「……………畏まりました…失礼します」

 

 

集められた学者が文字通り命を懸けて造り上げたというのに、この王のあまりの言い草に眉間へと微かな皺を寄せた男は、険しくなりそうな顔を隠すように一礼をしてその部屋から出て行った。

 

残された王は1人、部屋で高らかな笑い声を響かせた。

 

 

「クックック……ハーハッハッハッハッハッ!!!!これでついに…!ついにッ!!我が王国が世界一であるという証明になるのだッ!!覚悟しろォ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォルタシア王国よォ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王から出撃の密命を受けたその国の兵士達は武器を取り、いざ征かんとフォルタシア王国へと向かって列を成した。

兵力は大凡100万…先程の愚王の傘下にいる王国と同盟国から派遣して貰った兵士を使い、加えられた兵士達全てを合わせて約100万人にもなった。

 

だが、目的はあくまで兵器をフォルタシア王国の中へと侵入させて()()させること。

大抵の兵はこの場で殺されてしまうだろうが…引くことなど出来ないのだ。

もし敵前逃亡によって兵器の使用を怠ってしまおうものならば、愚王によって罰せられて処刑されてしまう。

そこには自身の家族ですら含まれてしまうということを知っている。

 

なのでもう後には引けないのだ。

行って自身のみが死ぬか、戻って関係の無い家族諸共殺されるかしかないのだ。

 

 

「そこで止まれ」

 

「ここから先が我等翼人が住まうフォルタシア王国と知っての狼藉(ろうぜき)か?」

 

 

門の前に立ちはだかっているのは門番が二人。

他にも多大な兵士が向かって来ていることを察していた壁の上の兵も、バリスタに矢を…大砲に弾を…体中に魔力を……向かうとあれば容赦せんと構えている。

フォルタシア王国が建国されてから約1000年…一度の進行を許さなかった難攻不落を前に、捨て駒となっている100万の兵士は止まった。

 

足が竦み、手は震え、手に持つ武器を取り溢しそうになって涙が前の光景を歪めようとも、向かうしか道は無い。

 

 

この────()()()()()()()()()()兵器を放つまでは。

 

 

「全軍……進めぇ──────ッ!!!!」

 

 

『『『『オォ───────ッ!!!!』』』』

 

 

 

 

 

「我等が王である陛下の敵は我等の敵……やれ」

 

「前面の敵に向かって攻撃を開始ッ!!」

 

 

 

 

不毛な戦いが……始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下。どうやら始まったようです」

 

「うむ。全く…愚かな者よ。勝てぬと知り得ながら向かってくるのだ。門番共に伝えよ────1匹も逃がすな…と」

 

「承りました」

 

「陛下、この書類を────」

 

「それは昨日(さくじつ)に終わっておる」

 

「おっふ…」

 

 

敵対視する国の兵が攻めに来ていることを最初に察知していたリュウマは、特に何の指令を出さないまま執務へと戻っていった。

戦争を仕掛けて軍を率いるならば指令を出したりするが、攻めて来ているならば兵士に任せておけば対処してくれるのだ。

 

億が一にも押されそうになったならば、ここから補助の魔法を掛けてやれば持ち直す。

まぁ、難攻不落は伊達ではないので押されるということも有り得ない話なのだが…。

 

 

「ここ最近は攻め込んでくる国はおりませんでしたが、…珍しいですな」

 

「己の国力を過信しておるか、若しくは目先の欲(東の大陸代表)に目が眩んだのだろう。放っておけ。」

 

「陛下。この資料なのですが────」

 

「全てに目を通してある。誤りが3箇所あったぞ。我が手を加えておいたが精進せよ」

 

「おっふ……申し訳ありません!」

 

 

既に攻めて来る兵の数が50万を切るといった時のこと……とうとう目的であった兵器を壁内に飛ばされ侵入を許してしまった。

不可視の魔法が掛けられているため誰も気づかず、物を飛ばす事が出来る装置を使って高く放物線を描くように放たれたのだ。

 

包んでいる物を少しの衝撃で割れて解き放つ構造となっている球型の入れ物は、目論見通り地面への着弾と共に破れて中から黒い霧が発生した。

周囲で襲われているにも拘わらず何時ものように楽しく買い物を楽しんでいた民達がそれに気が付き、何だ何だと騒ぎを出した時だった。

 

近付いた1人の翼人一族の青年が突如苦しみだした。

目が血走り首や胸元を血が出るほど掻き毟っている青年の尋常じゃない様子に助けようとした者も、黒い霧に触れて肺に吸い込んでしまった途端に二の舞となる。

原因が黒い霧だと悟った民は叫び声を上げながら蜘蛛の巣が如く散り散りに逃げていく。

 

フォルタシア王国の中で特別に住むことを許可されている地人は地を蹴るようにして逃げ、翼人一族は持ちうる自慢の翼をはためかせて空を駆け逃げようとした。

が…その羽を使った羽ばたきがいけなかった。

 

翼を使ったことで生じた衝撃の風で黒い霧が煽られて範囲を広げ、そこから入ってくる風に乗って四方八方へと勢力を拡大していく。

もはや誰にも止められぬとなった時に、1人の翼人が陛下に助けをと叫び、人だかりの比較的外側にいた翼人が応と答えて城へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「伝令!伝令ェ!!!!」

 

「どうした!一体何事か!?」

 

「緊急事態でありますが故!!」

 

 

焦ったように額に汗を掻いている1人の翼人の兵士がリュウマのいる執務室へと入ってきた。

ノックも無しに一体何事だと怒鳴る大臣を余所に、半泣きになっている兵士は事の重大さを叫ぶように知らせた。

何かが起きていると察したリュウマは、書いていた書類から手を離して羽ペンを置き、入ってきた兵士を見遣る。

 

 

「貴様……その顔色は一体…?」

 

「陛下っ…街に…黒き……霧が…────」

 

「むっ…!おい!」

 

「はっ!!」

 

 

有り得ない顔色に眉を顰めたのも束の間……報告をし終わる前に前のめりに倒れた兵を受け止めるように指示を出すと、脇に立っていた大臣が滑り込むように兵士の体を支えた。

顔色が青ではなく……所々が黒色に犯されている兵士に目を見開いていると、開け放たれている扉の向こうから、城内で働いている者達の叫び声が聞こえてきた。

 

どうなっているのか見当が付かないリュウマと大臣が調べようとした時、扉の向こうから聞こえる叫び声とは別に────黒い霧が這うように入ってきた。

 

 

「こっ…これは…!?ゲホッゲホッ…!?」

 

「何をやっている!避難せんか!!」

 

 

翼で作った風の力で吹き飛ばしてやろうとした大臣の思惑と外れて覆うように被さってきた黒い霧を吸い込み咳き込む。

何をしているのだと、リュウマは魔法を放とうとした時に背後からリュウマにも黒い霧が被さってきた。

 

そういえば空気の入れ換えのために窓を開け放っていたと、この霧はやはり外からかと察したときには黒い霧に包まれてしまっていた。

どんな悪影響があるのか分からないのに吸い込んでしまったリュウマは、しまったと驚愕するが苦しくはない。

 

何だこれはと霧の中で手を開いたり閉じたりして動作確認をして、ふと違和感に気が付いた。

 

 

────魔力が蝕まれていた。

 

 

己の魔力は日々増え続けると共に封印を掛けていっているので途方も無い程あるが、それでも驚いてしまうほどの速度で魔力が破壊されていっている。

だが、リュウマは魔力超増幅の特異体質であると同時に()()()()()()()()()()()()

 

それのおかげで魔力が消えた途端から()()()()()いるので何の影響も無かった。

しかし大臣や兵士にはそんなものは存在しないので当然の如く黒い霧に囚われて犯されている。

早足で近付いて容態を見ると……やはり顔色が黒に近い。

触診によって調べると、両者にあるはずの魔力が空になってしまっていた。

 

 

「こんなものが城内にまで……何故気が付かなかったッ!!────父上…母上……父上ッ!母上ッ!!」

 

 

今とんでもないことに気が付いた。

 

この場にいるのは父と母であるアルヴァ元国王とマリア元王妃がいる。

この国の民も兵も勿論大事であるが、両親に関しては別次元の話となってくるため駆け出した。

 

部屋を出る前に大臣と兵士は床ではあるが横にさせて出て、通路を飛びながら進んで行くと使用人が全員黒い霧によって犯され倒れていた。

1人1人が荒い息を繰り返しているので既に重症だ。

これはうかうかしていられないと、今は緊急事態だと言い聞かせて壁に黒い3枚の翼を付けた。

 

 

「我が(黒翼)は破壊の翼───」

 

 

アルヴァ元国王がいるところまでに一直線で壁や床に風穴を開けて距離を短縮し一気に仰せ参じた。

 

 

「父上ッ!!」

 

「───リュウマ…か?」

 

「父上まで…!」

 

 

やはりリュウマ以外に例外など無く、アルヴァ元国王であろうが倒れてしまっていた。

いや、膨大な魔力を持っているアルヴァ元国王だからこそ、他の者達よりも苦しんでいた。

だがそんなアルヴァ元国王は、他にも一緒になってとある魔法の開発に携わっていた研究者を助けるために魔法の障壁を造っていたが、黒い霧には意味を成さなく突破されていた。

 

王位を退いても民のことを考えるアルヴァ元国王は素晴らしいが、今はそんなことも言ってられない。

倒れているアルヴァ元国王の元に着いたリュウマは首の後ろに腕を回して抱き起こす。

苦しそうにしているアルヴァ元国王を見ていると、胸を締め付けられるようである。

 

 

「リュウマ…お前は……無事…か?」

 

「はい…我はこの霧が効きません」

 

「そうか…良かった……ぞ……」

 

「父上…?父上ッ!!」

 

 

流石のアルヴァ元国王であろうと限界なようで、リュウマの腕の中で気絶するように眠ってしまった。

他の研究者も安静にさせるために魔法を使って眠らせる。

アルヴァ元国王はリュウマが背負って次のマリア元王妃がいる寝室へと向かう。

 

先程と同じく黒い翼を使って壁に直線距離に大穴を開けて作業室に入る。

中ではマリア元王妃が椅子から転げ落ちるように床に倒れていた。

背負っているアルヴァ元国王を落とさないように気をつけながら近寄り抱き起こして顔を覗き込むと、マリア元王妃は気が付いたようで薄目を開けてリュウマの顔を見た。

 

震える右手でリュウマの頬を撫で、左手を持ってくると握っている手を開いて中から何かを出した。

つい先日創作をしたいと言い出したマリア元王妃の為に、リュウマ自ら二級危険指定生物である雲ウルフと呼ばれる猛獣に生える雲のようにもこもことした毛を集めた毛糸玉を贈った。

 

そこらの毛糸よりも強靱のそれで丸1日かけて作ったのは、毛糸で造られた腕に付けるお守り。

王に即位したばかりだからと心配であったマリア元王妃は、リュウマの為に体調を崩さないようにとお守りを作ってくれていたのだ。

手を取られてそれを弱々しく付けられたリュウマは涙を流した。

 

 

「これ……作ったの…どう…かしら…?」

 

「ありがとうございます母上…。ですが安静にしていて下さい。我がきっと直してみせます」

 

「ありがとう…ね…?」

 

 

顔の前に手を翳して眠らせると横抱きにして持ち上げて、夫婦の寝室のベッドにアルヴァ元国王とマリア元王妃を静かに下ろして眠らせた。

意識が無くとも苦しそうにしている2人を見ながら、2人の頬に手をやって溢れそうになるのを抑える。

 

 

「待っていて下さい。この様なことを行った者共を────殲滅して(皆殺しにして)来ます」

 

 

扉へと進むに連れて一歩ずつ魔力を解放していくリュウマの顔は、到底他人には見せられないような般若の如き表情だった。

 

ゆっくり城の頂上を目指して階段を上がっていくリュウマの心は、どこまでも怒りのドス黒い感情で満たされていた。

ここまでのことをした輩には死の鉄槌を下してやると心に決めたリュウマは、階段を登り切った所に設けられている扉に手を掛けて開ける。

 

中央に建設された城から周囲の街の様子が見渡せるようにと付けられたテラスで、街の様子を見てみると……黒い霧に覆い尽くされていた。

魔力で視力を強化すれば、街には力無く倒れている民達が見えた。

余りの惨状に目を伏せそうになるが、この惨状を救えるのは己だけだと…計り知れない魔力を高めた。

 

 

「──────『集え』」

 

 

後に『魔障粒子』と呼ばれる街に蔓延る黒き霧を、リュウマの手の中一点に集めさせていく。

本来魔力を持つ者には猛毒にしかなり得ない粒子を、リュウマは集めて集めて……一つの球状にした。

真っ黒なビー玉のようなものを一瞥したリュウマは純黒な魔力で覆って懐に入れた。

 

使う時が来ると判断したリュウマは持っていくことにして、その場から下まで飛び降りた。

翼を使ってゆっくりと降下すると、この国の門の所まで真っ直ぐに作られている道を進む。

 

魔障粒子が消えたのに後遺症として体を犯されている者達は道端で苦しみ、陛下、陛下と助けを求めている。

後で助けると心の中で呟き、進んで行くと…王であるリュウマ専用の王の装束を引っ張られた。

誰だと思って振り向き視線を落とすと……小さな翼人の女の子が口を押さえながらリュウマを見ていた。

 

目を細めながらしゃがんで上半身を起こすように抱き上げると、リュウマに移してしまうと思ったのか鼻と口に手を当てて吐息が行かないようにしながら話し始めた。

 

 

「王様……1人で…いっちゃうの?」

 

「……あぁ…お前達をこんな目に遭わせた者共を懲らしめにな」

 

「わたし……王様に…ケガして欲しくない…」

 

「…フハハッ。然様か。では怪我の無いように気をつけて行ってこよう。…待っていてくれるか?」

 

「…うんっ」

 

「うむ。では、あの者がお前の母親だな?母と共に待っているのだぞ」

 

「わかっ…た」

 

 

母親だと思われる女性に子供を戻してやると、その場で魔力を解放してフォルタシア王国全てを覆う半円のドームのような膜を造り出した。

これは中にいる者の怪我の症状などを遅緩させる効果のある特殊な魔法による膜だ。

 

確と発動していることを確認した後、大きな翼を広げて大空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

リュウマはたった1人────仇打ちへ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦は成功…か?」

 

「多分な…」

 

「兵の数は……半分以下か…」

 

 

兵器を放り込んだ兵士達は目的を達成したのだと、その場を返して帰還している最中だった。

兵の数は初期の100万から30万に減らされ、これだけでもフォルタシア王国の難攻不落具合が凄まじいことが分かる。

皆は一様に疲れた表情をしているが────滅びが近付いてきていることに気が付いていない。

 

後方で何やら兵士の叫び声のようなものが聞こえた。

だが、30万も入れば先頭の方では聞こえ辛くまだ気が付いていない。

見えない何かに()()()()()()()()()()()()()()()兵士に気が付かず進んで行くと、少しずつ叫び声が聞こえてきた。

 

何かが起きていると背後を振り向くと…宙に数多くの血飛沫が上がっていた。

目を見開いて呆然とその光景を見ていると、一つの影が頭上を通り背後で何かが着地した。

 

 

 

 

「────首謀国はどの国だ」

 

 

 

 

体の底から震え上がりそうになるほどの底冷えした声に体を硬直させ、恐る恐る振り向くと……翼人が1人。

何処までも無である無表情を浮かべるリュウマ・ルイン・アルマデュラが佇んでいた。

 

何故立っていられるのか、何故見つかったのかとか思うことあれど、最後に思うのはただ一つ。

 

 

────死んだな…。

 

 

これただ一つだけである。

 

 

「〇〇国…〇〇国…〇〇国…〇〇国……鎧の装飾から4つの国が手掛けたのは判断出来よう。でだ…首謀国はどれだ?正直に答えよ。でなければ────命はない」

 

 

リュウマは只問う。

 

だが、声の質から嘘をつけば殺すという意思が見えて体を尚のこと震わせてしまう。

その中でも1人、余りの恐怖に冷静な判断が出来なくなってしまったのか雄叫びを上げながら隊列から出てリュウマを槍で狙う。

 

隊長が止めるように声を掛ける前に事は起こった。

 

 

「がひゅっ…!?」

 

「我は答えよと申した。それが聴けぬというのであれば死ぬるが良い」

 

 

槍はリュウマの体に触れる前で壁に阻まれたかのように中間から拉げ、只の棒きれのように折れた。

やっぱり逃げようと思った愚かな男は踵を返そうとするが体が動かず、意思とは反してリュウマの元へと歩み進めて男の首にリュウマは手を掛けた。

 

ゆっくりと、じっくりと力を籠めていくと男は苦しみに喘ぎこみ暴れるが離されず。

首の骨が折れて皮膚を突き破ってきたが変わらず力を籠めて……男の首を無理矢理握り潰して頭を落とした。

 

頭を失った体は引き千切られた首の断面から大量の血を吹き出して後ろへと倒れた。

千切り取った頭を持つリュウマはその首を興味無さそうに、一番前に居る兵の足下へと放り投げた。

呆然としている兵士達は恐ろし気に声を上げて後退ると、今度は足の下から水のような音が出る。

 

何故ここに水がと疑問に思いつつ振り向けば……各国の兵士数人ずつを残して、他の数十万人が血を滴らせる肉塊へと成り果てていた。

 

 

「最初に情報を吐いた者は生かしてやる。他は殺す…後ろの塵のようにな」

 

 

言ったからには絶対にこの男はやると悟った兵士達の行動は皆…同じだった。

許しを請うように情報を吐き、我先にと、助かるのは己であるとリュウマへと進言する。

 

一気に喧しくなった奴等を前に、リュウマは手を一振り。

 

 

一名を残して皆体に焰が湧き出て灰へと還った。

 

 

「運が良かったな、名も知らぬ塵。早う情報を吐いて去ね」

 

「ひゃ…ひゃい!こ、こここ今回の襲撃の目的は────」

 

 

男は伝えられた襲撃の内容と、この戦いに参加した国の詳細、首謀国となっている国と傘下の国、同盟している国の全てを吐き出した。

聞いていたリュウマは話の最中に遮ってもういいと言うと、手を振ってこの場から去るように示した。

 

助かったと心の底から喜び、半笑いになりながらその場を後にすると────手足を斬り落とされた。

 

 

「ギャアァ─────────ッ!!??」

 

「真に生かして逃がすとでも思ったのか?ククッ……フハハハハハハハハハ!!!!逃がす訳が無かろうが!?貴様等は我の国を陥れた者達の主犯とも変わらぬ。であれば皆殺しだ。貴様等の家族友人知人すべからく全て殺してくれる。……精々あの世で待っておるが良い」

 

「か、家族…家族だけは…!!オレは殺されてもいい…!だから家族だけは…!」

 

「否────例外無く皆殺しだ。これは一方的殲滅…塵芥の糞共が」

 

 

手足が無くなり倒れている兵士の頭を足で踏み付け、踏み潰す。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も踏み潰して辺り一面に赤黒い染みが出来た。

そんな光景には一瞥すらしないリュウマは、羽を広げてその場を後にする。

 

行かなければならないところは多々あるため、ここに長居している暇等ないのだ。

 

 

 

 

 

「この世に細胞一つ残さぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空を翼を使って飛び、魔力の大放出によって驚異的速力を叩き出したリュウマは数百キロ離れた国の門の手前で降り立ち、槍を構える門番の首を魔力の遠隔操作で作った手で捻り取った。

 

前に聳え立つ門は片腕を振り上げて拳を叩きつけると、有り得ない轟音と共に破壊されて街の真ん中に落ちた。

被害は関係の無い民間人数千人にも及ぶ。

開いた門があった入り口を潜り通り中へと易々と侵入。

やったのが今し方入ってきたリュウマだと分かると蜘蛛の子を散らすように逃げていくが、リュウマの腕の一振りで頭が飛んだ。

 

無実である民間人にすら手を上げると分かると本格的に逃げようと足掻くが逃がさず、翳した手の平に真っ黒な炎の球を複数造り出すと無雑作に四方八方に向かって向かわせた。

着弾した民家は炎を灯して燃え上がり、中から住んでいた家族であろう男と女、歳ゆかぬ少女が出て来た。

 

炎は勢力を増すように横の2つの住居へ、その住居から他の住居へと移っていく。

街はリュウマが炎を灯してから10分と経たない内に火の海となって人々を燃やして死に至らしめている。

 

もうここには居られない!と、大多数の住人が思ったのだろう……壊された門があった所から国の外へと出て行こうとした人々は……見えない壁によって遮られた。

混乱している人々は叩いたりして出ようとするが出られずにいて更なる混乱を招き、しかして足下が黒く光り輝いていることに気が付いた。

 

この国全体を下から囲うように施されている純黒の魔法陣は、施した魔法陣の大きさに関係なく、中にいる者を魔法陣の外に出さないようにさせるものだった。

入ったと同時に作動させていたリュウマは振り返り、入り口にたむろしている人々に向かって────黒き獄炎を放った。

 

 

「あづいあづいあづいィいぃィィぃ!!」

 

「だずげでぇぐれ゙え゙ぇェ!!」

 

「いやぁ゙ぁァぁぁァぁ!!!!」

 

「マ゙マ゙ぁ゙…じん゙じゃゔよ゙ぉ゙!!」

 

「ギャア゙ァ゙ア゙ァ゙ア゙ァ゙ァ゙ッ!!」

 

 

「逃がしはせぬ。この国に住む者は全て…む?」

 

 

「ぁ…ぁあ……!」

 

「ママ~!こわいよぉ…!」

 

「だ、大丈夫だからね…!ゴホッ…ママが守ってあげるから…!大丈夫だから…!」

 

 

この国に住む者は大凡の人間が死んだ。

何故ならば…下に構築された魔法陣は高さ40メートル程度の高度で天井のように見えない壁が出来ていて……炎が物を燃やした際に発生する物を他へ行かないようにしている。

 

 

そしてその物とは────二酸化炭素。

 

 

空気中に極微細にだが含まれているその物質は、炎が物を燃やした際に大量に発生してしまう。

二酸化炭素は人体に対して有毒でしかない為、二酸化炭素を大量に吸い込むことで、中枢神経が麻痺し、呼吸停止状態に陥り最終的には死に至るのだ。

 

二酸化炭素は空気より重いので下へ下へと貯まり、外から新鮮な酸素が送り込まれて来ないので二酸化炭素中毒となる。

先も述べた通り中枢神経を麻痺させる他にも、頭痛目眩吐き気を促す。

体に異常をきたしたのでそこに蹲る内に更に二酸化炭素を吸って死に至る。

 

リュウマは自分の周りに酸素を魔法で発生させているので無事で、街中に発生している炎は原料をリュウマの魔力で燃えているので二酸化炭素が増えて酸素が減っても燃え続ける。

 

しかし、背後から幼い子供の声と母親らしき声を聞いて振り向いた。

まさかこの二酸化炭素濃度の中を生きているとはと思ってのことであった。

2人の地人はリュウマが見ていることに気が付くと、互いに抱き締め合って少しでも感じる恐怖を緩和しようとしている。

 

その光景を見て嗤うと……一歩ずつ着実に近付いていく。

 

 

「そこな女よ」

 

「ヒッ!…な、何でしょう…?お、お願いですから…殺さないでっ」

 

「ふむ……いいだろう」

 

「ぁ…ほ、本当で────」

 

 

「────ただし」

 

 

抱えている幼い女の子の耳を塞ぎ何も聞こえないようにした後、母親の目と鼻の先まで近寄ったリュウマは、縦長に細くなっている金の瞳で母親の涙で潤んでいる瞳を見た。

 

そしてリュウマは母親を生かしてやるために……余りにも残酷な選択肢を突き付けた。

 

 

 

「貴様が抱えている小娘を────己が手で殺めれば…な」

 

 

 

「ぇ……」

 

「ま、ママぁ…こ、こわいよぉ…なにも聞こえないよぉ…」

 

 

驚愕からくる気の抜けるような声を上げる母親を見つめ、手で耳を塞いでいる幼い女の子の方へと視線を落とした。

そこには人々が死にゆく原因であるリュウマに耳を塞がれて震えている女の子が、母親に助けを求める瞳を向けていた。

 

事の内容を理解した母親が口を開けては閉じてと言葉にならなくなっているのを余所に、リュウマは引き続き如何するのかと問うた。

 

 

「さぁ……如何するのだ?この小娘を殺すならば貴様は助けよう。否と答えるのであれば…この小娘と貴様を同時に殺そう」

 

「そ、そんなこと───」

 

「選択出来ぬか?であれば同時に死ぬか?」

 

「……っ………。」

 

「ママぁ……」

 

 

もう問うことは無いという意思表示なのか、女の子の耳から手を離すと、三歩後ろへ下がって母親を見下ろす。

選択を迫られた母親は…余りの恐怖と頭に酸素が送られて来ない要因が混ざり合い、普段ならば絶対に選ばないような選択を選んだ。

 

 

小さき子供の首に───手を掛けた。

 

 

「ゔぇ゙っ……マ゙…マ゙…」

 

「ごめんねっ…ごめんねっ…!ママ…怖いのっ…助かりたいのっ…!」

 

「フハハッ…選択肢は決まったようだなァ?」

 

 

何で…?どうして…?何でママはわたしの首を絞めてるの?わたしが嫌いになっちゃったの?わたしがイケない子だから?嫌いな物残しちゃう悪い子だから怒ってるの?

 

少女の心の声はこんな感じだろう。

純粋無垢故に何故実の母親が自分の首を絞めているのか欠片も分からず、しかし次第に苦しいと感じていた感情すらも遠くにあるかのように感じられて────目の前は真っ暗となった。

 

この少女がその真っ暗から帰ってくることは……もう無いのだ。

炎に焼かれて死ぬならば未だしも、少女は母親の手によって死んでしまったのだ。

 

 

「うぅっ…!ごめんねぇ…!ごめんねぇ…!」

 

「フン。よもや本当に手に掛けるとはな」

 

「こ、これで助けてくれるんですよねっ!?」

 

「うむ。確かに小娘を殺めたからな。()()貴様を殺さぬ」

 

「助かった…助かったわっ…〇〇ちゃんのお陰でママ助かったわっ!ありがとう!!あはははははははははっ」

 

 

嬉し涙か悲しみの涙か分からない雫を垂らしながら狂ったように笑う母親の横を通り過ぎて、リュウマは奥に有る城へと向かっていく。

母親はずっと笑っていたが笑う事を止めて立ち上がり、ここから逃げるために入り口へと向かった。

 

 

しかし母親は知らない。

 

 

この国にはリュウマの魔法陣によって囲うように出られないように阻まれ、中の空気は大多数が二酸化炭素によって満たされているということを。

確かにリュウマは殺していないが、直に数分もしない内に二酸化炭素中毒で死ぬことを……知らない。

 

 

()()殺さぬからな。……どれ、この国の王は生きておるか死んでおるか見物よな」

 

 

歩いて周りを見渡し、生き残っている住人がいないのか確認してから魔法をソナーのように使って本当に誰1人も生きておらず、確実に皆殺しにしたことを確認し次第城の王が居ると思わしき場所に超直感を使って壁を破壊しながら入り込んだ。

 

すると中では数人の初老の男達と、王然りとした格好をしている男が倒れ伏していた。

足下にいる死体が邪魔だと、適当なところに向かって蹴り上げて退かし、王の格好をしている男のところまで行くと空気の層を作って酸素を送り、黒雷を放って電気ショック治療を無理矢理行った。

 

 

「─────ハアァっ…!!」

 

「おいこの国の王。我が何者か分かるか?」

 

「な、なん…よ…翼人…一族…」

 

「そう。我は貴様等が滅そうとした翼人一族の王…リュウマ・ルイン・アルマデュラである。貴様は此度(こたび)の事案に関わっているな?」

 

「ヒィィィ…!?そ、そんなこと知らないっ…!」

 

「知らぬ…と?」

 

 

─────パキャッ

 

 

這い蹲る男の手の甲へ振り上げた足の踵で踏み付けて骨を踏み砕くと、体をびくりと震わせてから断末魔のような声を上げた。

リュウマは無表情で見下ろしながらもう一度関わっているなと問うと、今度は手を貸したと泣きながら答えた。

 

踏み付けている足から与える圧力を増やし、グリグリと踏み付けて更なる痛みを与えながら、他にも関与した国の建国場所を吐けと脅した。

痛みで声を出せない男は首を振って否と答えると、リュウマは右手で手刀を作り振るうと、男の両脚が太腿辺りから刃物で両断されたように断たれた。

 

 

「うぎゃあぁ─────────ッ!!!!」

 

「喧しい。高々脚を両断されただけであろうが。そんなことよりも答えろ。他の国の場所を」

 

「い、いいまじゅ…!いいまじゅがら…ごろざな゙い゙でぇ゙…!」

 

 

芋虫のようになって血の池を作りながら懸命にリュウマへ他の情報を売る男は、客観的に見ると全く王には見えず、行った愚行を考えれば全く王に相応しくなど無い。

若しかしたらそれ故に今、行ったことに対する罰が下っているのかもしれない。

 

吐き出させた情報に満足したリュウマは踵を返して突き破ってきた壁から翼を使って飛び去った。

居なくなったことにホッとした男は残る片腕でどうにか這いながらこの国から避難しようとしていた。

 

飛んで行ったリュウマといえば、遙か上空から炎に包まれる国を見下ろして目を細めていた。

やがて手の平を天に翳すように構えると……その手の平から始まり直径数キロにも及ぶ超弩級の純黒なる魔力で構成された魔力球を造り出す。

 

黒い太陽だと言われても納得してしまうような大きさのソレは、リュウマが腕を振り下ろすと同時に下に向かって墜ちて行った。

リュウマは既に聴き出した国の方角へと飛び去っており、墜ちる魔力球が国の真ん中で着弾すると───眩い光りを放ちながら想像を絶する大爆発を引き起こした。

 

後にそこは国があったとされる底が見えない程の大穴だけが残されており、国に住んでいた者達の生存者は0である。

 

 

 

 

「────1国目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、誰かコイツを止めろォ!!」

 

「これ以上先に行かせるな!!」

 

「な、何なんだよコイツはァ!!!!」

 

 

「喧しい限りの塵芥よなァ」

 

 

次の国へと到着したリュウマは早速国の入り口を破壊して中へと入り、堂々たる侵入者を撃退すべくこの国の兵士はリュウマに立ち向かう。

だがその行為も全てが無へと帰る。

 

魔法を全力で放てば己に帰ってきて自滅をもたらし、剣や槍で攻撃すれば悉くを砕かれ意味を成さず、見えない何かに首を捻り切られてしまう。

意味の分からない同胞の死に怖じ気付いた兵士は敵前逃亡を謀るが無駄に終わる。

 

背を向けた瞬間に体の中央を何かが突き抜けて臓器が腹から流れ出るように飛び出てくる。

白目を剥いて死んだのに、その男から出て来た長い十二指腸は独りでに動いて隣にいた兵士の首に巻き付いて締め付けて殺害した。

 

 

「まっ…待ってくれ…!妻と子供には────」

 

「あ、貴方…?」

 

「父ちゃん…?」

 

 

庇うように妻と子供の前に出て来た父親の頭を、蠅を払うように無雑作に振るった手で千切り飛ばし他の住人の頭へぶつけて破裂させた。

首の無い死体が倒れるのを見ていた妻と子供は頭が真っ白となり、目前にいるリュウマの恐ろしさに目を瞑る。

 

…が、何もしないままリュウマは傍を通り過ぎて他の向かってくる兵士を鎌鼬で両断して殺していく。

助かったと息を吐いた瞬間だった。

 

282人目の兵士を殺したところでリュウマが指を鳴らすと、背後にいた見逃されたと思っていた妻と子供の体から黒炎が発生して火達磨になった。

熱くてどうしようもなく、水の入った樽の中に体を沈めるが炎は何故か消えず。

 

水の中でも消えない炎によって妻は水の入った樽の中に沈んだまま燃え切り、息子は身の焼ける痛みで悶え苦しんで居る内に民家に頭から激突して気絶し、体に迸る炎が家に燃え移って画材が燃えて折れると息子の上に落ちて圧死させた。

 

 

「止まれ!!」

 

「む?」

 

 

無差別な殺人を繰り返していると、筋骨隆々な1人の男がリュウマの前に立ちはだかった。

兵士の中に親友が居たこの筋骨隆々の男は我慢ならぬと躍り出て、決して許さぬとリュウマを憎悪の炎が揺らめく瞳で睨み付けた。

 

住人の中でも屈指の怪力を誇る男は、自慢の丸太のように太く鍛え抜かれた腕を振りかぶってリュウマの顔を殴るが……殴ったのは何時の間にか死体となり果てた兵士の横っ面だった。

 

何処に行ったと探していると背後から声をかけられて振り向くと、瞬きもしていないというのに見失っていたリュウマが背後へと抜けていた。

今度は逃がさないと駆け出そうとすると、リュウマは後ろに隠していた手を男に見せるように晒すと……手に持っていたのはナニかを包んでいる布だった。

 

 

「貴様は気付かぬか?」

 

「何をだコノヤロウ!!」

 

「────己の()()()消えていることに」

 

「んだと?……あ?」

 

 

何も取られてない…と確認し終わったところで何かが足りない。

分からないが何かが足りないと察した男は体をくまなく確認していくのだが、どうしても分からない。

一度何を取られたのか確認するためにリュウマの持つナニかを包んでいる布を見ると────鼓動を刻んでいた。

 

下部には赤い染みを作っていて一定の間隔で動いている。

まさかと思って胸元に手を突いて再度確認してみると……無い…無いのだ────心臓が。

 

 

「ようやっと気付いたか。我の位置に死体を置き、脇を()()()抜けた際に引き抜いてしまってな」

 

「か、返せ」

 

 

其処らに転がっている住人の服を破って作った包みに入れられた男の心臓が、次第に鼓動を弱々しくさせていく。

男は手を伸ばして返せと呟くような声量で繰り返しながら摺り足になる歩みで向かう。

 

 

「心の臓ではなく、御自慢の腕の方が良かったか?」

 

「か、返せぇ…返してくれぇ…!」

 

「────フハハッ」

 

 

包みを下に落として脚を持ち上げ……踏み潰した。

果実のように血を噴き出して潰れてしまった心臓を見た男は、顔を白くさせて前のめりに倒れた。

重音を立てながら死んだ男のことを一瞥せずに踵を返して逃げようとする住人の頭を覆う水を造って溺死させた。

 

魔力を張り巡らせた事で周囲のことが分かるので、リュウマの事を避けるように国から出ようとする住人を感知した時、腕を上に持ち上げて指を鳴らした。

魔法によって指を鳴らした時の音と衝撃が数千倍に倍増されて周囲の建物を破壊し、音が耳に届いた住人の鼓膜を破って脳を揺らした。

 

大きな振動を受けた脳は耐えきれず壊れて住人を死に至らしめた。

リュウマを中心として空から見ると円を作るように周囲の物を薙ぎ倒して破壊した後、国の裏側から密かに逃げようとしているこの国の王を見つけた。

特に逃がさない者が逃げ果せようとするのを許すわけが無く、ここで初めて攻撃的な歴とした魔法を発動させた。

 

 

「塵が。禁忌(きんき)世界時辰儀(ワールドクロック)────『刻送り(プロペテス)』」

 

 

 

世界にすら干渉してしまうという理由から自身で禁忌指定した滅多に使う事の無い恐るべき破壊力を持つ魔法を発動させた。

 

範囲は当然のことこの国全域となっていて、生き残りの人間も…死体に成り果てた元住人も…燃えている住居も…壊れている住居も…土も…流れている川も…範囲内のすべからく全てのものが時を刻んでいく。

 

 

もたらすは────強制的な風化。

 

 

人は肉が腐り白骨死体となった後骨すらも風化して砂のような粒へとなり、住居や城は木で出来た物は腐り果てて崩れ、石造りとなっているものは余りの歳月の刻みによって砂へと戻る。

土は栄養があったものは栄養が消えて戻り、土の中に居た昆虫や生物は無となりて微生物すらも残らない。

 

辺り一面が砂漠のようになっている光景を、一歩分国から出ていたこの国の王が信じられない程の悍ましい光景に息をすることを忘れ、一度瞬きをすると前にリュウマが立っていた。

驚きの声を上げて後ろへと下がる前に手足を何かで撃ち抜かれて膝を突くことを余儀なくされた。

 

 

「言い残すことは何だ」

 

「ぐっ…!うぅっ…!!!!わ、私は命令されてやったのだ!だから頼む!殺さないでくれ!」

 

「その言葉は聞き飽きた。他に述べる事柄は無いのか」

 

「う…ぁ…あ、見逃してくれれば…えっと…そうだ!私の娘をやろう!いや、差し出そう!ちょうどこの国にはおらず生き延びておる!世間からは宝石の王女と呼ばれて────」

 

「その娘の顔が分かる物は」

 

「きょ…興味を持ってくれたか…!こ、これがその娘なのだがな!?」

 

 

二の腕を圧縮した空気で撃ち抜かれたことで流れる血を滴らせながら、胸元に掛かっているロケット───開けると小さな写真等が入っている首飾りのことだ───を開けて美しく描かれている写し絵をリュウマに見せた。

そこには確かに宝石と称され、絵の通りならば引く手数多だろう美しさを持っている女がいた。

 

他にも妻は居るのかと問うと、娘を産んで他界したと言われたので魔法で頭の中を覗くと確かに死去していた。

であればこの男に残された血の繋がっている者はこの者だけかと考えてロケットを掴んで毟り取り、絵を見ながら言葉を紡いで魔力を練り込み言霊を発した。

 

 

「人物を特定────『参れ』」

 

 

「────あら?ここは何処かしら?」

 

 

「なッ…!?」

 

 

その場に現れたのは絵の通りの…いや、絵よりも美しさをもつ絶世の少女だった。

景色が変わった事に目を白黒させている少女は、目の前でこぼれ落ちそうなほどに目を開けている父を見てから手を流す四肢に気が付いて顔を青くさせた。

 

なんで血を流しているのか問いながら、拭ける物が無いからと自身の服のスカート部分を引き千切って患部を縛って止血する。

後ろに居るリュウマに気が付かず、手当てをしてくれる美しく育った愛娘に今日ばかりは心の底から感謝して取引を再度始めた。

 

 

「ど、どうだろうか!?美しかろう!?この美しき私の娘を其方の妻にしてくれて構わん!だからどうか…!」

 

「お父様…?あら、貴男はどなたかしら?いつからそこに?」

 

「ふむ……」

 

 

顎に手を当てて少し顔を捻らせて喉から声を上げているリュウマにどうなるのかと冷や汗を流していると、宝石の王女は宝石と称される所以となる輝いて見える蕩けるような笑みを、顔が整って翼を6枚生やした神々しい身なりのリュウマに向けた。

 

先ずは自己紹介だろうと、砂漠と化している場所では不釣り合いな程洗練された美しい所作でスカートを摘まんで膝を落とし挨拶をした。

が、目の前の男は()()()()()()()()()()()()()()悩んでいるので挨拶には答えず、無視された宝石の王女はムッと可愛らしく頬を膨らませた。

 

 

「もし?挨拶をしたのですから挨拶を───」

 

「決めた」

 

「ちゃんと…え?今何とおっしゃいましたか?」

 

「何、ただ貴様を────」

 

 

三日月のように口を歪めて嗤うリュウマの影が沸騰した水のように泡を出し始め、薄黒い状態がドス黒い見ていて目を背けたくなるような色になったかと思えば……複数の目が開いた。

 

気持ちが悪く薄気味悪く、見ていて鳥肌が立つものを見た宝石の王女がリュウマから離れようとしたところを手を伸ばして髪の毛を鷲掴む。

毛根が引っ張られて痛みを感じる宝石の王女は悲鳴を上げながら掴む手を叩くがびくともせず。

 

その間に影は流動体のように広がると隆起して朧気に形を成していく。

最終的に出来たのは形が定まらない、まさに動く影を切り抜いたような姿をした4匹の獣のようなものだった。

しかし体中には開いた目が鏤められて常に動き、リュウマの掴んでいる宝石の王女を見ると全ての目を固定した。

 

 

「────(いぬ)の餌にしよう」

 

「ぇ…?キャッ」

 

 

横へと投げられると掴まれている髪が数十本近く宙を舞い、痛みに頭を押さえていると荒い息遣いが聞こえてきた。

顔を上げると先程リュウマの影から創られた4匹の気味の悪い獣が目の前に居て見ていた。

怖いが敵ではないと…美しい微笑みを浮かべて頭を撫でるために手を伸ばす。

 

 

ばくんッ  ぐちゃッ

 

 

「きゃあぁあぁぁ────────っ!!!!」

 

 

先頭にいた狗が撫でようとした宝石の王女の手首から先を丸呑みにして食べた。

無くなった手首を振って叫き散らしている宝石の王女へ開始の合図が上がったように飛び掛かり捕食していく。

肉を食い千切る音と骨を噛み砕く音が鳴り響き、宝石の王女の断末魔が上がっていたが、少しすると喰われる音以外響かず……父親の王たる男は呆然と見ているだけしか出来なかった。

 

音が止んだと同時に4匹の狗はその場から離れてリュウマの足下に擦り寄る。

頭を撫でてやれば体中に付いている目がうっとりしたように細められて尻尾を振って喜びの感情を指し示していた。

宝石の王女が居たところには無惨に引き千切られた服の切れ端と血の染み込んでいる土だけだ。

 

顔を青を通り越して白くなった男に指を差すと、走り出す予備動作のような格好を4匹の狗が取り合図を待った。

何が起きるのか分かってしまった男は負傷していることを忘れているように手を振って止めてくれと叫んでいるが────リュウマに情けと慈悲の文字は無い。

 

 

「────喰らえ」

 

『『『『──────────ッ!!』』』』

 

「ぃ、嫌だ…嫌だぁ───────っ!!!!」

 

 

男は抵抗虚しく魔法生物である狗に骨すら残らず生きたまま肉を食い千切られて死去。

噛み砕かれて腕が飛び、他の狗が捉えて呑み込む様を見ていたリュウマは無感情でその場を後にし、食べ終わった狗が彼の影の中へと戻っていった途端に翼で空へと駆けていった。

 

 

 

 

「─────2国目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神器召喚────」

 

 

次にやって来たのは外からの侵入を防ぐことに特化した造りとなっている国で、その全貌は…国を集めた金属を使って外壁を一面金属張りとして高度を上げ、空からの侵入や攻撃を受けないようにと、人力で歯車を回すことでサイドから鉄の天井が迫り出て覆い隠すという…読んで字の如くな鉄壁な要塞である。

 

流石に手を組んだ二国が滅んだということが知られているのか、天井が既に鉄の塊によって覆い被せられて侵入を許さない状況となっている。

やろうと思えば拳の一つか剣の一薙で簡単に開け放つ事が出来るのだが……鉄で覆われているならば好都合であると、黒い波紋を生み出して中から一本の刀を引き抜いた。

 

何の変哲も無い刀に見えるがしかし…これは一振りで途轍もない厄災を生み出すことが出来る使用を控えるべきもの…。

その理由は────能力とリュウマとの相性にある。

 

 

 

 

万象一切灰燼(ばんしょういっさいかいじん)()せ────『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』」

 

 

 

 

厳重に掛けられた封印から解き放たれるは……途方も無い程の魔力と炎を噴き荒らし天をも焦がさんとする力は、まさに力そのものとも呼べるものを体現する。

荒々しすぎてリュウマの体を隠してしまう程のその炎は、余りの熱量に空気が熱せられて上昇気流を作り出し大気を震わせる程。

 

足下の地面は炎の生み出す熱にやられて熔解されてマグマのように赤くなって流れる。

この周辺の気温が数百度に感じてしまう熱量を放つ刀を握っているリュウマは何ともなく、魔力を送って更に火力を上げさせる。

 

遙か上空を飛ぶ渡り鳥が下から伝わる熱に犯されて死に絶え、落ちてくる最中に焼かれて丸焼きとなるが、更に近付いて焦げ始め、鳥の姿が見える前に灰となって風に流されて消える。

そんな太陽一切の存在を許さないような熱を放つ刀を振り上げ─────振り下ろした。

 

爆炎は真っ直ぐ目の前の鉄壁を誇る国へと目指し、目の前で二手に別れると周りを囲うように進んで行くと、合流するように二手に別れた炎が合わさって、炎の壁の中に鉄壁の国を丸ごと閉じ込めた。

 

 

「────『城郭炎上(じょうかくえんじょう)』鉄壁を誇る壁内で熱せられ死ぬが良い。ただし、王は我が殺す」

 

 

鉄で国の壁面がコーティングされている所為で流刃若火から放たれた灼熱の炎により鉄の繋ぎ目は溶けて熔着されて中からは出られないようになってしまった。

この時点で中に居る者達の運命は決まってしまい、リュウマは王だけは己の手で殺さなければ気が済まないということで、ちょうど鉄壁の国と言われている国故に王は顔だけ知ってるので呼び出せる。

 

言霊を使ってこの場に中で熱せられていただろう王を呼び寄せて、現れた瞬間に背後に出現した十字架の磔台に手足の先に巨大な杭を打ち付けて固定した。

訳も分からない内に訪れた激痛に顔を歪めて叫ぶ男に、喧しいと言いながら腹を殴打すると苦しそうに嘔吐してから静まった。

 

代わりに目の前に居るのが翼人一族が王…リュウマ・ルイン・アルマデュラだと分かると恐怖で体を震わせて額に大量の脂汗を掻いて顔面蒼白となる。

面白い顔色の変化を見ていたリュウマは、もういいかと頷いてから背に生える白い3枚の翼を羽ばたかせてると、風が磔台の下…男の足下に大量のよく燃えて長続きすると評判の最高級焚き火用薪が()()()()()

 

満遍なく全体に火が通るように薪の位置を調整しているリュウマの姿にまさかと察した男は、矜持も何もかもを捨てて叫ぶように止めてくれと、助けてくれと叫んだ。

しかし辺りに人はおらず、助けに来てくれる者も居なければご都合主義の如く現れる正義の味方も居ないし来ない。

 

 

「フハハッ。貴様の国は後数分もすれば跡形も無く燃え去り消える。そして────貴様もだ」

 

「な、何が目的なんだ!?何故こんな事をする!!お主に人間としての心は無いのか!?」

 

「何故…?貴様が我の国を陥れる手助けをしているのは知っておる。相当な学者を〇〇国に派遣したそうだな?」

 

「ど…どこでそれを…!?」

 

「今は(もうこの世に)居ない良き(断末魔を上げる)協力者(塵共の王)から伝えられた(吐き出させた)情報故な」

 

「クッ…!だ、だが…!私の国を滅ぼせば世界の情勢に穴が────」

 

「興味無いな。貴様等塵共を殲滅(皆殺し)出来れば其れで良い。他の国がどうなろうと知ったことでは無し。滅ぶならば滅びれば良い」

 

「お前は…あ、悪魔だ…化け物だ!!」

 

 

唾を飛ばしながら怒声を上げる男を無視して、リュウマは再度流刃若火を炎が出ないように調整しながら薪を切っ先で刺して炎を灯した。

燃えやすい最高級の薪故に炎は数瞬で全体へと行き渡り燃え広がった。

十字架の形をした磔台に杭で四肢を縫い付けられた男は、どこぞの神の子を沸騰させる光景だ。

 

流刃若火とリュウマの魔力を練り合わせて灯されたこの炎は水に晒したところで消えることも無く、解除(ディスペル)を行おうとしても純黒な魔力の性質上解除を許さない。

更には十字架は燃えない素材で出来ているが熱を通しやすい特殊な素材で出来ているので熱せられた鉄板のようになって背を焼く。

 

 

「だ、だずげでぐれ゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙っ」

 

「む?痛いのか?仕方ない奴よ。特別に熱を原料とする『改良型自己修復魔法陣』を貴様の体に刻み込んで助けて(苦しめて)やろう」

 

「~~~~~~~~~~~~っ!!!!」

 

 

助ける気など毛頭無く、逆に苦しめるために自己修復魔法陣を刻み込んだリュウマは、皮膚が治っては灼熱の炎に被皮膚を焼かれて、治っては焼かれて、治っては焼かれてを繰り返して気絶と痛みによる覚醒を往復する男を眺めながら、小腹が空いたので下の灼熱の炎に枝の先に刺した芋を翳した。

 

断末魔の叫びが上がっている下で黙々と焼き芋を作っているリュウマはシュールな事この上ないが、焼かれている男からするとそんなことを気にしている場合ではないし、今まさに本来ならば一体何度死んでいるのか分からないほどの苦痛と絶望を味わっている。

 

 

「出来た……はふっ…熱いっ……うむ、美味(うまい)

 

 

いい感じに焼けた焼き芋を食べながら、目の前で十字架を磔台にされて身を灰になるまで永遠と焼かれ続ける男を静かに鑑賞する。

ふと思い出したように焼き芋を口元に持っていきながら体を横にずらして十字架の奥にある国を見てみると────何も残っていなかった。

 

強いて言うならば焼け焦げて真っ黒な炭のようになっている何かだけであった。

存外巨大な建物の方が早く燃やし終わったかと、焼き芋の最後の一口を食べて呑み込むと、まだまだ炎は消えなく…炎の熱によって動いている自己修復魔法陣も消えなさそうなので、この男はここから先数時間の間燃え続けて貰って己は最後の国へ行こうと検討した。

 

別に見ていても良いのだが、フォルタシア王国で黒い霧である魔障粒子によって苦しめられている民やアルヴァ元国王とマリア元王妃が心配だ。

いくら最後に掛けた魔法で症状を遅緩させても、遅いだけで蝕んではいるため治さなくてはならないのだ。

 

燃え続ける男をその場で燃やし続けて放置し、リュウマは早速最後の国へと向かって飛び立った。

 

 

 

 

「──────3国目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう…?首謀国なだけはあるようだな」

 

 

降り立った目の前に広がるのは10万程度の大地を埋め尽くす兵士の行軍だった。

傘下と同盟を結んだ国が3つとも崩されたということを通信用ラクリマで知らされた愚王は急いで兵を調達した。

兵器投下で翼人一族を壊滅たらしめることが出来ると確信していた愚王は、最初の兵士投入で殆どの兵を使ってしまい、この10万の兵の内大多数が国の住人である。

 

男は勿論、中には女や少女とも言える幼い子供までも兵士として向かわせている以上、この国の存亡は決まったようなものであるが、見た途端に兵士は殆ど残されておらず無駄な悪足掻きに過ぎないと看破したリュウマは、目障りな兵士と住人を一度に殺せて一石二鳥と捉えている。

 

 

国から派遣されて向かうは国の住人を織り交ぜた総勢10万の兵士達……対するや翼人一族の男ただ1人。

 

 

絵図的には不利を通り越して死んで当然なのだが、相手が翼人一族の王でありリュウマ・ルイン・アルマデュラとなってくると、敵対する者に残された選択肢など1つ以外無いも同然。

 

我に仇なす者は死…あるのみ。

立ち向かうのは誉めて進ぜよう、しかし、我の命を狙う以上貴様等は命を狙われても異議は無いものと知れ。

 

前から歩いてただ1人向かってくるリュウマを目で捉えた兵士達は号令の元雄叫びを上げて広大な緑の大地を駆け抜けた。

愚王から死にたくないならば戦い打ち勝てと、無理難題を押し付けられて戦う以外の選択を切り捨てられようとも、兵士に選ばれなかった妊婦や本当に歳ゆかぬ幼き子や赤子などがこれからも平和に過ごせるように戦う。

 

 

 

「顕現したるは害悪たる存在から()を守護する緑の巨人────『大地を見護る者(デーフェンド・ギガステラ)』」

 

 

 

だがこの世は無情にして彼は非情なり。

 

踏み締めていた緑の大地が盛り上がって隆起すると、全長20メートルに届きそうな巨大な人の形をした魔法生物が現れた。

まさしく圧巻にして巨人たるに相応しき存在が、下から見上げてくる人々を見下ろして見つめていたが驚異と判断したのか、巨大な手で一度に数十人を鷲掴んだ。

 

 

「た、助けてくれェ!!」

 

「いや!いやぁ…!いやぁあぁぁ…!!!!」

 

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」

 

「下ろせぇッ!!」

 

「離して…!離して下さい…!お願いします…!お願いしますっ!」

 

 

 

 

「目に付く者は全て生きて返すな。我に仇なす者達の殲滅が我の望みだ」

 

『グオォオォォ─────────ッ!!!!』

 

 

掴んだ人々を口元に持っていき大きく上に向かって開けた口の中に────放り込んだ。

 

 

「いやぁ─────」

 

「助け─────」

 

「死にた─────」

 

「神様どうか─────」

 

 

 

─────くちゃッ ばきゃッ ごちゅッ

 

 

 

中に生えていた大地が隆起すると共に木が砕かれて巻き込まれ、巨人の一部となっていた鋭利な歯と呼べばいいのか牙と呼べばいいのか、ソレが所狭しと並ぶ口の中に放り込まれた人間の運命は必然的なものだった。

 

放り込んだ姿勢のまま目を閉じて咀嚼すると最初の内は悲鳴が聞こえていたが直ぐに止み、代わりに巨人の口端から赤い液体が流れ出て来る。

ごくりと呑み込むと標的を変えて手を伸ばす。

捕まれば同じ運命を辿ると理解した人々は逃げ惑うが、足下の地面が巨人に向かって下がるように…まさに蟻地獄のような形状となって表面が流砂の変化する。

 

藻掻いて先に進もうとするも乾燥して滑るように抵抗出来ない砂の地面によって中央にいる巨人の元までまっしぐら。

手に掴まれて口へと放られて咀嚼による激痛。

後に呑み込まれて辛うじて生きていたとしても、中にある胃袋に当たるところには人の死体が山積みだ。

 

 

 

「眷属召喚────『神斬り殺す銀の神狼(アルゲンデュオス・インテルヴォルス)』」

 

 

 

召喚されたのは数年前に“幻獣の森”でリュウマが死闘を尽くした恐るべき戦闘能力を持つ巨大な神狼である。

銀に光り輝く毛並みは絢爛で美しく、肌触りも良くて人をダメにする程の物。

右の目には斬り裂かれた後があって、目は無事で支障は無くとも、傷と放たれる神気によって尚のこと迫力感を増大させる。

 

狼としての体のバランスを黄金律にて形成され、神気を纏う神格を有するのに神殺しに特化しているという…神話に登場するフェンリルを彷彿させるが、戦闘力はリュウマを困らせる程のもの……彼のフェンリルであろうとも恐らく()()()()()

 

幻獣の森の“主”であるこの神狼は、結局中央にいる森の主はどんな奴なんだというリュウマの疑問から偶然出会い、丸二日の戦闘の末にリュウマに隷属させて眷属とした。

メリットは何時でも何処でも好きなときに呼べるし、やろうと思えばリュウマの精神世界とも呼べる領域に神狼を住まわせておくことが出来る。

デメリットは呼び出す時に本当にハンパではない程の魔力を持っていかれる。

だが、リュウマは日々魔力が上がる特異体質と瞬間的に魔力を回復する以上能力を持ち合わせているので関係ない。

 

この神狼の強いところは神を殺せるという部分では無く、単純に強いのだ。

リュウマは殺すならば簡単だったが、ボコボコにして大人しくさせるのに丸一日と、矢鱈と強く面倒な力と()()故に丸一日…計丸二日かかった。

では、先程から出ている武器や斬殺とは何かと言われると……この神狼…通称アルディスと名付けられた神狼が使用するのは────剣

 

狼が剣を使うとは馬鹿なことを思うかもしれないが、このアルディスは共に召喚された大理石の台座に突き刺さる一本の美しい剣の柄に噛み付いて引き抜く。

刀身が全てアルディスの毛並みと同じく綺麗な銀で構成されているこの剣は、何処から持ってきたと言いたくなる神剣である。

 

切れ味も凄まじい事ながら折れず曲がらず錆びず、しかもアルディスが念じると飛んで行って勝手に動いて敵を攻撃したり、引き抜くと消える台座に刺したいと念じれば台座が現れるという便利な代物だ。

ただ、強いのは剣だけではなく、アルディスの速度が音を超えて脚力も並々外れ、化け物しか存在しない幻獣の森で座して頂点に君臨していたことだけはあるスペックだ。

 

今では主であるリュウマにとても懐いていて、時々城の中庭に呼び出しては毛並みに埋もれて休憩の昼寝をする。

リュウマの愛玩動物?にして戦闘においても絶大な信頼を寄せる眷属である。

 

 

「最近は喚べずにすまんなアルディス」

 

『主が気にすることではない。確かに心細かったが何時でも会える。私は気にしない……本当は少し気にしていた』

 

「フハハ…然様か。ではこの蹂躙が終わり次第狩猟に行って、お前の好きな肉を焼いて食そうか」

 

『べ、別に好きという訳ではないがっ…主が言うならば仕方ないなっ』

 

「尻尾の振りすぎで千切れるぞ」

 

 

因みに隷属させているのでリュウマとだけならば言葉を交わせる。

頭の中に声が響いてくるテレパシーに似た会話の方法となるが、相手が狼なだけあってそれが普通でもある。

 

尻尾を振って喜んでいるが、神剣を加えて目の前に居る人々を睨み付けているという器用な事をするアルディスに、リュウマは命令(オーダー)はこの場に居る人間共の皆殺しだと伝えた。

すると了解したアルディスは少ししゃがみ込み────消えた。

 

姿が見えなくなる程の速度で駆けているアルディスの攻撃は回避不可能であり、口に咥えている神剣の切れ味から大地に深い溝を作りながら一緒に両断される。

風が頬を撫でたかと思うと、首だけが残り体が消し飛んでいるという刹那の出来事を体感する約一万人の人々は、どうやって死んだのか分からないまま死んだ。

 

咥える神剣を現れた台座に突き刺して少しの間だけ戻し、大きく息を吸って………吼えた。

すると周囲の物を一切合切吹き飛ばし、人間が消滅して何も残らない大地だけが残された。

吼えた時の衝撃に肉体が耐えられず、粒子と言っても過言ではないレベルまで分解されてしまったのだ。

 

アルディスが生き生きと人々を消滅させては斬り殺し、リュウマからの命令を忠実に遂行しているのを見て満足していると、気付かれていないつもりなのかリュウマの背後から忍び足で槍を持つ男が寄ってきた。

勿論気が付いているリュウマは足を踏み鳴らすと木の根が男の足下に来て飛び出し、先端が鋭利な針のようになっている木に串刺しにされて絶命した。

 

他にも前に巨人とアルディスから逃げようと後ろに居るリュウマに気が付かず後退する住人がいたので、冷気で煙を上げると右腕を振るって約500人の住人だった氷の彫刻が完成した。

時間と共に命を削るその氷は、凍らされた者の命が尽きると砕けるので……きっかり10秒後に全て砕け散った。

 

次に手を上に翳して手の平に小さな球を作り出すと空へと放ち、上空で弾けると真っ黒い雲が形成されて広がる。

所々で雷が鳴り響いて突然の異常気象と包んだ暗闇に、人々が顔を上げた瞬間……リュウマは雷が帯電する人指し指を振り下ろした。

 

真っ黒い積乱雲から轟雷が轟き落雷が発生し、武器を持っている約三万人が落雷によって灼かれて絶命した。

そこには人の形をしたい炭が3万個置かれていたが、風と共に砕けて散乱した。

この雷は全部リュウマが作ったので本来の雷の大凡百倍近い電力を持っているので、人など一瞬で灰となる。

 

 

「残りは……2万といったところか?……面倒だな。一度に消してやろう」

 

 

2万がちょうど良く固まっている円形の集団の真ん中まで飛んで降り立ったリュウマは、下に居た2人の男の頭を両手で押し潰して殺しながら、逃げようとする人々が逃げられないように範囲内にいると出れなくなる魔法陣を設置して発動させた。

 

見えない壁に逃げられなくなってしまった人々は涙を流しながら拳を振り上げて無駄な抵抗をする。

拳が砕けて血を滴らせ、骨が見えようとも止めずに殴り、この場から一刻も早く逃げだそうとするが……無理な話だ。

魔法陣が発動した瞬間にもう逃げ道等…等に消え失せているのだから。

 

 

「死にゆく全ての塵共よ。恨むならばこの惨状を招いた己の王を恨むのだな────終いだ」

 

 

リュウマが持つ禁忌魔法の中でも取り分け手加減が難しい無差別殲滅魔法を発動させた。

 

 

 

 

禁忌

 

 

 

 

死に歓喜し身を委ね滅び逝くが彼の理である(The last of all concept is perish)

 

 

 

 

 

 

リュウマしない背後に古い時計が姿を現して、一秒ごとに長い針が時を刻んでいく。

それからきっかり12秒経って盤上を1周した瞬間────“死”が訪れた。

 

そこに確かに居た三万人の人々は消え去り、地面に生えていた草木は死滅し空気をも死に絶えている。

発生した範囲内にいるリュウマ以外の者や物が全て全て全て……死んだ。

 

 

この魔法至って単純な能力……命亡きものにも死を与える魔法。

 

 

こうして向かい来る兵士住民合わせた十万の兵士が全滅し殲滅されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってお願い!お腹に赤ちゃんがいるの!」

 

「────喰って良いぞ」

 

 

懸命に後ずさりながら妊娠10か月で大きくなったお腹を庇う母親を前に、リュウマは無情にも影から生み出した4匹の狗に指示を出して襲わせた。

最後までの抵抗虚しくお腹の赤ちゃんごと食べられた母親は最後の瞬間まで、絶望に満ちた表情をしていた。

 

そもそも、襲ってきた国の者達をも皆殺しにすると決定付けているリュウマからしてみれば、いくら命乞いをしようが関係ないので…逆にこれだけ殺しているのに命乞いをすれば助かると思っている方が不思議だった。

 

 

「待て!!」

 

「む?」

 

 

壁内に入ったリュウマは、引き続き3体増やした4体の巨人と、アルディスに住人を襲わせて残り僅かとなったことを感知した時、城へと向かう途中でリュウマの前に立ちはだかる青年が現れた。

 

背中に一本の剣を背負って、それなりの防具を身につけているその青年は、国の住民を次々と殺していくリュウマのことを鋭く睨み付けている。

何だこの塵はと全く興味を示さないリュウマを尻目に、青年は背中の剣を引き抜いて切っ先をリュウマへと向ける。

 

 

「なんで…なんでこんなヒドイ事を…!」

 

「だからなんだ」

 

「もっとみんなが仲良く暮らしていける道があったかもしれないのに…君は何でこんな事をするんだ…!」

 

「貴様等の王が我が国を陥れたからだ。故にその国に住まう貴様等の塵芥も同罪。我直々に裁いてやっているのだ…感謝こそされど恨まれることをしている憶えは無いなァ?」

 

「君は…なんて…なんて男なんだ…!関係の無い人々を殺していく君を…僕は許さない!君に殺された友達の魂が僕の背中を押してくれる……そんな僕が君に負ける訳にはいかないんだ…!!!!」

 

 

正義感の強い青年は到底リュウマを許すことが出来ず、友達が背中を押してくれているという実感と、悲しみと怒りからくる感情で覚醒した力を使って大地を蹴った。

 

普段を普通に過ごしていれば、善に属する主人公のように輝ける人物であろう青年は1人、巨大な(リュウマ)に立ち向かった。

世にも珍しい神聖な光の魔力を身に宿す青年は、こと悪という負の産物に対して絶対の力を示す。

 

故にこの振りかぶった剣はリュウマを捉え、傷を付けることに成功する。

 

 

「────話にならぬ。その程度の力で我に挑もうなど不敬にすら思える。……死して人生をやり直せ」

 

「ごっ…そ…んな……────」

 

 

───訳が無く、すれ違い様に手刀で上半身と下半身を分断されて死んだ。

 

正義感や一時の感情程度でリュウマを凌駕出来るはずも無く、少し覚醒しただけで傷を付けることも出来るはずも無い。

どれだけの別次元の強さをリュウマが保有しているのか、力の一端すら見ること叶わず死に絶えた青年は憐れである。

 

邪魔な青年の体を蹴っ飛ばして衝撃で破裂させ、民家の壁の赤い染みに変えた後、無駄な時間を使っている内に4体の巨人とアルディスが殲滅を完了したようなので、巨人は魔法を解いて大量の土と木片へと戻り、アルディスは神剣を台座に戻して消してからリュウマの後ろに付き従う。

 

城の中へと入ったリュウマは殺されて兵士がいない寂れた通路を進み、魔力ソナーを使って感知した首謀者である愚王の元へと進んで行く。

 

 

「我が何者か……承知しておるだろうな?」

 

「────フォルタシア王国の王だろう」

 

 

一際豪華な扉が付いた部屋へと入ると中に居たのは、玉座に座って入ってきたリュウマ達を見ている男だった。

この男が今回の騒ぎの首謀者その人であり、リュウマが3つの王国を殲滅する理由となった者だ。

 

これから殺されるというのに、この愚王は特に騒ぐことも無く静かにしている。

 

 

「何故我の国を襲った。貴様の国は我の国に次いでいる実力が伴った国であるはず」

 

「我が国が頂点だと信じていたからだ。まぁ…今やそんな陰すらも見えんがな」

 

「当然だ。我が出向いているのだからな。……言い残すことはあるか」

 

 

「私の中では常に────我が国こそ頂点」

 

 

「フン。精々来世に期待するのだな」

 

 

その場から消えたリュウマは愚王の目の前に姿を現し、驚きに口を開けた瞬間に懐から出した黒い球を押し込み呑み込ませた。

食わせたのは最初にリュウマが国に蔓延る黒い霧こと魔障粒子である。

 

これは魔力のある者の魔力の器内にある魔力を蝕み破壊し、後に身体機能すらに異常を来させて防衛機能を阻み、細胞を破壊し尽くして死に至らしめるウイルス性破壊兵器。

 

生み出した者が生み出された物によって殺されるのはなんという皮肉だろうか。

只でさえ死が確定しているというのに、リュウマは追い打ちを掛けるように魔障粒子による細胞破壊と互角程度の修復速度に落とされた自己修復魔法陣を刻み込んだ。

炎によって焼かれている3国目の王のように、長い長い苦痛を受けることになった愚王は苦しそうに首も戸を押さえて玉座から転がり落ちた。

 

 

「貴様の送り込んだ物だ。己の不始末は己で始末を付けろ」

 

「ぐっ…がァッ…!?おぐぅっ……!!」

 

 

苦しみ続ける愚王を無視して、リュウマはアルディスと共に城を後にして国を出る。

その際に国の上空に眩い光りを放つ巨大な魔力球を放って少しずつ下に墜ちるように調整する。

時間は自己修復魔法陣が切れる一時間後に着弾するようにされていて、愚王は一時間は死ぬ程苦しい苦痛を受けながら死ねず。

 

しかし、今から一時間後に国を消滅させる程の魔力の奔流の大爆発で愛する国と共に滅ぶだろう。

 

 

 

 

 

こうして────リュウマの世界に激震を走らせる殲滅劇が幕を下ろした。

 

 

 

 

 

フォルタシア王国に帰ってきたリュウマは症状を遅緩させる魔法を強化して、広大な面積を持つフォルタシア王国全てを包む範囲内に自己修復魔法陣を結成して同時に大凡数百万の人々を治した。

 

1人1人治していくなら早く終わるが、流石に本当に1人1人やっていったら数百万の人口分が終わらないので一気に治療を施す。

その代わりに多大な時間が掛かってしまい、超広範囲による自己修復魔法陣結成を一週間…つまり7日間休まず寝ずにやり遂げた。

 

余談だが、民の全員を救い出して治し終わったリュウマは元気な姿で走り寄って来るアルヴァ元国王とマリア元王妃の姿を見てぶっ倒れた。

発動し続けるのに問題は無かったが、行かせん7徹はキツかった……。

 

 

3日間ぐっすり眠ったリュウマは起き次第溜まっているだろう執務を終わらせて(大臣が頑張って殆ど残っていなかった)アルディスの毛並みに埋もれて癒された。

因みにアルディスは、リュウマの枕代わりになっているのに嬉しそうだった。

 

 

 

 

後にリュウマは全世界に向けて言葉を送った。

 

 

 

 

『我が国に攻め込むのは良しとしよう。我が国及び我は座して待とう。しかし────此度のようなことが今一度あれば国諸共殲滅する。

 

 

敵対視している王国は覚悟せよ────一方的殲滅を目の当たりにしたくなければ余計な手を出すこと勿れ。

 

 

我こそは翼人一族が王────

 

 

 

 

 

フォルタシア王国 第17代目国王 リュウマ・ルイン・アルマデュラである』

 

 

 

 

 

たったの一人で攻め込んだにも拘わらず半日で4つの王国を壊滅させたリュウマの力に恐れた世界の王国は、リュウマの事を畏怖と触れてはならない存在としてこう呼ぶこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

殲滅王

 

 

 

 

 

 

 

 

これが世界を震撼させた殲滅王の誕生秘話である。

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたか?

これこそが真のリュウマ・ルイン・アルマデュラです。

正義の味方とかには絶対に属されない主人公なので、嫌いな方は嫌いかもしれませんね。


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