FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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一体どれ程の方々が待っていたか分かりませんが……リュウマの(実は最初から既に決まっていた)メインヒロインの登場と、盟友である2人の登場となっています。

感想や評価など待ってます。

あと、読んでいただきありがとうございます。
面白いと言って頂いてとても嬉しいです!

尚、今回は戦闘描写が多いです。




第漆刀  邂逅 揃う最強を担う者達

 

世界を4つに分断する超大国である、東の大陸代表フォルタシア王国、西の大陸代表ラルファダクス王国、南の大陸代表エレクロティオ王国、北の大陸代表トルメスタード王国が揃う。

 

此までの歴史において、この4つの国が1箇所に集まるという事は成り得なかった。

遙か昔から暗黙の了解となっていた不可侵が今や崩されてしまっている。

触れてこないならばそれでよいが、彼の大国が攻めてくるというのであれば指を加えて待っている訳にはいかない。

 

それが国を支配する王たる者の総意であり、王故の国の意思である。

数多くの国が4つの超大国を潰すためにでっち上げた、イタチごっこのように宣戦布告をしているという状況は危険極まりない状態である。

何せ集まり相見えるのは人間の極致に達してしまっている猛者なのだから。

 

今までのような生温い…適当な数と量で押し切れるような物足りないレベルの戦いにはならないと感じた王達は、準備に3日掛けて行い万全な状態を期した。

決戦する場所を偽の情報が言っていた4つの国が挟んでいる中央の大陸で行う為に軍を成して向かう。

 

東の大陸の王と飛べるというアドバンテージを持っている翼人の兵士は大空を駆け、巨人から始まり動物の特徴を持つ獣人等といった特殊な兵士等の普通の人間を含めた兵士は地を行進する。

 

西の大陸の王は馬が引く馬車の中に乗り込み、その周辺を所狭しと列を成す兵士に囲まれて向かい、外側からの突然の強襲にも対応出来る態勢。

 

南の大陸の王は威風堂々と王自ら軍の先頭に馬に跨がりながら向かい突き進む。

後ろには視界を埋め尽くす程の兵士がいるため、戦うに当たっては一筋縄にはいかない。

 

北の大陸の王は兵士達は地を征くのは同じであるが、王である者は直接自分で歩かずドラゴンの背に乗り向かう。

襲ったところを返り討ちにされたドラゴンは王の足として使われているのだ。

 

緊迫とした空気が漏れなく自軍を包んでいることとなっている状況で、王たる者達は前を見据えて進むのみだが…王達の間合いに─────他の王が入った。

 

 

 

「────────ッ!!!!」

 

 

「────────ッ!!!!」

 

 

「────────ッ!!!!」

 

 

「────────ッ!!!!」

 

 

 

思うところは確実に存在する。

例えば何故他に2つの強い魔力の波動を感じているのか、何故これ程までの強き力を感じさせることが出来るのか。

 

 

だが…結局思うものは皆が同じであった。

 

 

 

 

これは────兵士の手には負えない。

 

 

 

 

どれだけ兵士をぶつけて大将首を取ろうにもこれは無理だ。

これ程の力の波動を感じさせる猛者に対して、用意したとはいえ自軍をぶつけるのは愚策。

もし仮にぶつけたのだとすれば、それは此までに見たことも無い血で血を洗い流す血の海を作り上げる非なる状況を作り上げてしまう。

 

故に…本来であれば有り得ない異常とも言える一手……向かっていた王達は自軍に一声掛けて己のみが向かうことに決めて進む。

声を掛けるのは、兵士と言えども大事な国のために尽くして忠誠を誓ってくれた者達だからだ。

 

 

「お前達はこの場で止まり待機しろ。奴等はお前達の手には負えぬ」

 

「し、しかし…陛下っ」

 

「待っておれ。良いな」

 

「…………お気を……つけて…ッ」

 

 

 

「お前達は止まっていろ。馬車は引き続きこのまま進めろ」

 

「えっ…皇帝陛下!?」

 

「私自ら出向こう」

 

 

 

「……余のみで行く」

 

「王よ!我々も役に立ちます故にどうか…!」

 

「……ならん。……余のみだ」

 

「クッ……行ってらっしゃいませ…」

 

 

 

「おい!オレだけで行ってくるから着いてくるなよ?」

 

「姫!それは流石に了承出来ません!」

 

「姫じゃねぇ!!いいな!絶対に来んなよ!!…おい、中央に向かえ」

 

「うぐっ!?……人間めェ…!」

 

 

 

大陸のちょうど中間地点に向かう王達は、遠目でからも分かった王の気迫がさらに濃くなることに目を細めていく。

此までの人生に己に勝る者など幼少の頃の両親やドラゴンなどであったが、成長してからは敵う者など皆無となった。

 

そんな戦いにおいてつまらなさが募るばかりであった王達が────警戒していた。

 

そして向かうこと数分後、まず最初に着いたのがドラゴンに乗ってやって来た北の大陸の王だった。

 

 

 

「なんだァ?やっぱりドラゴンの方が足が速いか。オレが1番かよ」

 

 

 

トルメスタード王国国王 クレア・ツイン・ユースティア。

 

 

通称────轟嵐王(ごうらんおう)

 

 

 

 

 

次に着いたのが巨大な馬に跨がって着いたこれまた巨大な男…南の大陸の男だった。

 

 

 

「……ご苦労」

 

「♪♪」

 

 

 

エレクロティオ王国国王 バルガス・ゼハタ・ジュリエヌス。

 

 

通称────破壊王(はかいおう)

 

 

 

 

 

3番目にその場へと着いたのが、少し離れた所に馬車を止め、ドアを開けたと同時にレッドカーペットを引かせて優雅に降り立ち向かってくる女。

 

 

 

「凄まじい魔力を感じる……特に今から来る者からな」

 

 

 

ラルファダクス王国国王 オリヴィエ・カイン・アルティウス。

 

 

通称────滅神王(めつじんおう)

 

 

 

 

 

最後に到着したのが翼人としての特徴である翼で空を飛び、砂埃を巻き上げながら勢い良く着地した男。

 

 

 

「関係の無い者がいるが……なんと滾るものか」

 

 

 

フォルタシア王国国王 リュウマ・ルイン・アルマデュラ

 

 

通称─────殲滅王(せんめつおう)

 

 

 

 

 

たった今…世界の四分の一を手中に収めている者達が出揃った。

後にも先にも、彼等以外に一カ所に揃うという機会は訪れないだろう奇跡的瞬間は、なんとも殺没としたものであった。

三つ巴ならぬ四つ巴に立ち、他の者達の指の動きから呼吸数まで観察しあっている彼等は、己の国に宣戦布告をしてきた相手を睨み付けた。

 

しかし、相手を見れば相手は違う者を見て、それが繰り返されて全く関係ない余所者だと思っていた者が己を睨み付けている。

流石の王達もこの状況には困惑しながら北の大陸代表国の王であるクレアが相手だと思っているリュウマを睨み付けたまま口を開いた。

 

 

「おいてめぇ…なんでよそ見していやがる。喧嘩売ってきたのはてめぇだろうが」

 

「……フン。我は南の者に布告されたのだ。間違っても貴様のような小娘ではない」

 

「─────ア゙ァ゙?てめぇ今小娘って言いやがったか?オレは男だこのクソが!!」

 

「何?…………何処をどう見れば男なのだ」

 

「それには流石に私も同意しよう」

 

「……男?」

 

「こ…い…つ…らァァァ…ッ!!!!」

 

 

お付き者から度々姫と言われかけたり、最早姫と言われていたクレア・ツイン・ユースティアという者は、どこからどう見ても完璧な美少女にしか見えない容姿をしており、垂れ目の柔らかいイメージを突き付ける…本人曰くコンプレックスの一つであるという。

 

東の大陸で普及されている着物に似たような服を身につけているのも一つだが、他にも男の割には身長が小さく、リュウマを睨み付けているが身長182ある少し大きめのリュウマからしてみれば…ただ下から容姿の整っている小娘が見上げているようにしか見えない。

声も男とも女とも取れる中性的な高さなので判別が困難であった。

 

見た目は絶世の美少女であるが、口が悪くな短気なため、口を開けば女とは見られる事は無い。

しかし、残念なことに何もせずジッとしていると完全に美少女だ。

 

 

「オレは男だクソったれが!!もう我慢ならねぇ…てめぇはオレの禁忌(タブー)を犯したんだ。そもそもどんな状況だろうと関係ねぇ─────生きて帰れると思うなよ?」

 

「予想はしていたがこうなるか…そもそも私の国に仕掛けようとしているのは貴様だろう─────そのセリフはそのまま返そう」

 

「……西のに布告されたのは…余なのだが…お前が逃がさない…か」

 

「─────当然だ。南の王。我は元から貴様及び貴様等を殲滅するために態々出向いたのだ」

 

 

円を描くように睨み付け合う王達の体から、話が混沌と化している場を明らかに破壊する莫大な量の魔力が溢れ出し始めた。

大気が震え地が割れ海が干上がるのではと思える王としての気迫と魔力で、クレアが乗ってきて近場に居たドラゴンが恐怖に体を震わせていた。

 

自分が知っている人間は決してこの様な異質で…心を恐怖で満たすような存在感は持っていない。

此は何かの間違いで、この人間達は人間の皮を被っているナニかだと心の底から思った。

 

 

大地が割れ始めて足場が崩れる瞬間────動いた。

 

 

「フハハッ──────ッ!!」

 

「ヌゥッ──────ッ!!」

 

 

王達の中でも初速が速かったリュウマが、背後に展開した黒き波紋から刀を引き抜いて斬り掛かり、バルガスは後ろ腰に括り付けていたハンマーを手に取り迎撃した。

 

斬りつけたのがリュウマだというのに、只の小手調べ程度の武器の振りかぶりからの振り下ろしの威力に目を細め、剛では無く柔で受け止めて逸らし、翼を使って接近した後…鳩尾に向かって膝蹴りを放った。

 

しかし、バルガスは危なげなくリュウマの膝蹴りを片手で軽々と受け止めてから体を捻って反対方向に投げた。

離れようとしたところを引き抜けない握力で掴まれていたリュウマは投げられた方向へと身を投じざるを得なかったが翼で緩和し体勢を立て直して着地した。

 

全く力を入れなかったとはいえ、普通の人間ならば只の肉塊に成り下がる程の膝蹴りを軽々と受け止めたバルガスを面白そうに見て、瞬きをした瞬間には目の前で膝蹴りを放っていたリュウマのことをバルガスは見て、2人は動かず相手の出方を窺った。

 

 

「チッ…!」

 

()()舌打ちをするものではないぞ」

 

「─────ぜってぇブチ殺ス」

 

 

所変わり…同じくリュウマの速度に引けを取らない速度で接近しながら、両の腰に携えていた真っ白な双剣を引き抜いて片方のみで斬りつけたオリヴィエの攻撃を、出遅れてリュウマを逃してしまったクレアは舌打ちを打ちながらも懐から一つの扇子を取り出して振るった。

 

クレアの目前に展開された風邪の結界に阻まれて初撃を失敗したオリヴィエは怒ったクレアを微笑みながら見て、最初に使わなかったもう一つの剣を振りかぶって振り下ろした。

すると、二度目は凌げず硝子が割れるような音を立てながら四散して扇子本体で受け止める。

 

武器でも何でも無い扇子で受け止められたオリヴィエは、クレアの持つ扇子がやはり只の扇子ではないことを悟って剣を更に押し込んだ。

見た目は美少女だが、男だというのにオリヴィエに筋力で負けていることに気付いて額に青筋を浮かべたクレアが扇子を振るう。

 

 

「死にやがれ」

 

「ほうッ…?」

 

 

巻き上がる大規模の竜巻に舌を巻くオリヴィエは、余りの風圧に体が浮かび上がるがそのまま体を捻って乱回転。

何をする気だとクレアが訝しげな表情をしながら構えていると、直感が警報を鳴らすので急いで右へと回避行動を取った。

 

するとちょうどその時にオリヴィエが回転をしながら無差別に四方八方へと斬撃を放った。

空に地に真横に後ろに左右に…場所など関係なく放たれた斬撃はオリヴィエを捉えて離さなかった竜巻を消し去った。

突破することは見越していたクレアは既に攻撃手段を確立させていた。

 

全長数十メートルに及ぶ竜巻が四つ、オリヴィエの周囲から囲み潰すように迫った。

しかしそこは西の王…オリヴィエは体を空中で捻って一回転しながら斬撃を円に出して斬り消した。

余波がクレアにも牙を剥くが、上体を反らして避けてみせると────目前にオリヴィエが迫っていた。

 

 

「フンッ!!」

 

「あっ…ぶねぇ…!?」

 

 

避けられない状態だったので扇子を慌てて振るい、生み出した衝撃を使って左手側に進んで避けた。

振り下ろされたオリヴィエの双剣は空を斬るが、その威力は凄まじく大地にX字に傷を刻み込んだ。

 

冗談では済まされない威力を見た目以上に持っているオリヴィエの双剣を注意しながら、武器でもなんでない扇子を使って大立ち回りしているのは流石とも言える。

攻めても風のように溶け込んで避けては隙を見つけて攻撃に転じる。

ミスを犯さないヒットアンドアウェイ戦法には感嘆する物があると感心していた。

 

2人の戦いは生み出した風と、振り抜いた剣の衝撃に生じた斬撃によって周囲を刻み込んでいく。

まるで刃が住まう台風の中とも思える状況での戦闘は熾烈を極めていく。

 

 

 

 

 

 

「良くやる者よ」

 

「……当然だ」

 

 

所戻りリュウマとバルガスの戦闘は剛を以て剛を制す力業の戦いとなっていた。

 

2メートルを超える巨漢に贅肉など一切見当たらない鍛え抜かれた筋肉の鎧…いや、それこそ筋肉の要塞とも言える体を持つ筋骨隆々とした体格。

体中に数多くの筋が通り、赤く長い髪は風に靡いて蠢いているように見える風貌は正しく豪傑で歴戦の戦士。

 

無駄な物は一切身につけず、着ているとすれば腰に巻いている竜の鱗で出来た布と、取れないようにと頑丈に紐で足全体を覆っている靴だろうか。

上半身は剥き出しにしていて一切の防具無し。

武器は手に持つハンマー一つのみで心許ないと思える装備なのだが……その実リュウマからの攻撃を凌ぎ防いで今も尚立っているのだ。

 

 

「魔力変質化…『災厄(ディザスター)』へ。神器召喚───」

 

「……ムゥ…?」

 

 

背後の黒き波紋から顕現したるは、とある世界にて妖精界の神樹から作られた鋼を超える強度を持つ神器の槍。

引き抜かれたそれは手にすること無く宙を飛んでリュウマの周囲をゆるりと旋回している。

 

右手を挙げるとリュウマの右側に来て待機しながら、刃をバルガスへと向けて止まった。

そこから光り輝くと複数の小さな刃に分裂して背後に待機して命令を待つ。

 

 

「────『霊槍シャスティフォル』。第五形態『増殖(インクリース)』……やれ」

 

 

目にもとまらない速度で向かう小さき刃の大群臆すること無くバルガスはその場で顔を太い丸太のような腕で覆って防御の姿勢に入った。

周囲から完全に囲って中に居るバルガスを斬り刻もうと動き回る。

小さなシャスティフォルの刃に覆い尽くされて刻まれ、姿すら見えなくなっている状況が少し経った頃、リュウマが止めの合図を出すと止まって戻ってきた。

 

姿を現したバルガスはシャスティフォルの攻撃には為す術も無く体中を刻まれて死に絶えて────

 

 

「……何?」

 

「……痒い」

 

 

─────全くダメージを受けていなかった。

 

 

そもそも、上半身に防具を着けず素肌を晒しているということは傷を負う機会も劇的に多いということに他ならない。

躱す事に特化した魔法等を持っている場合は違うとも言えるが、バルガスは完全にそんなタイプではないことは確か。

 

 

であれば、何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

それはただ単純に────傷を負わないから。

 

 

「……『状態促進(ステータスプロモーション)』」

 

 

まさかとは思いつつも確認の為に、負っていたり負わせたりした傷を悪化させるという凶悪な魔法を使ってバルガスの体に出来た切り傷を促進させ、更なる深い傷をつけようとするが……変化は見られず。

 

それはつまり、刻まれること千回以上の刃による攻撃に、薄皮1枚であろうと傷を負わなかったということに他ならない。

 

頭が痛くなるような絶対な防御力を供え持っている天性の肉体は凄まじいことに、神器である刃を諸共しなかった。

その事実に面白そうに口を歪めたリュウマは、空に居るというアドバンテージを捨てて地面に降り立ち印を組んでいき手を地に付けた。

 

とある世界に蔓延る忍びと呼ばれた者達の頂点…忍びの神とまで言われ語り継がれた者が使っていたという技の中でも、広範囲に展開することの出来るものがあった。

一瞬で辺り一面を森へ化す秘術である。

 

 

 

木遁(秘術)────『樹界降誕(じゅかいこうたん)』ッ!!」

 

 

 

地面を割って生まれたのは力強い印象を抱かせる立派な木の根から始まり木そのものだった。

迫り出てから急激に育つ木の広範囲攻撃に驚くことも無く、バルガスは己の下から生えてきた木にハンマーを叩きつけて粉砕し足場を作った。

 

危なげなく串刺しにしようとする木々を躱しながら標的のリュウマからは視線を逸らさない。

この中で姿を見失うのは愚策であるということは是が非でも理解させられる。

 

斯くして木々の成長は止まると、何も無かった広大な剥き出しの大地に“森”が成った。

不思議なものだと心の中で呟いたバルガスは、前方で口の端を上げているリュウマへ駆けて武器を叩きつけようと、一歩踏み出したところで頭を後ろに反らして()()()()()()()()()()

 

躱したバルガスが飛んできた方向を見ると……一本の大木が枯れ果てて崩れ落ちていた。

逆に飛んで行った方を見れば、生えていた大木の真ん中に1センチ大の小さな穴が開いている。

 

 

「よもや完全な死角からの攻撃を避けるとは……フハハッ」

 

「……今のは…なんだ」

 

「何、只の木から搾り出して凝縮しただけの弾だ」

 

 

そう言いながら足下に生やした小さな幼木に人指し指を突き付けると、あっという間に枯れ果ててから含んでいたと思われる水分が凝り固まって弾となりバルガスへ放たれるが、バルガスは無雑作にハンマーを振って破壊した。

 

この魔法は空気中に含まれる水分を凝縮することは出来ないが、物から奪って凝縮する事が出来る。

もっともたる例が、今リュウマが行っている木々などの自然物から徴収するというものだ。

 

 

つまりは────こんな使い方も出来る。

 

 

「範囲を樹界降誕の発動範囲全域に拡大……『養分凝縮(コンデンスパワー)』」

 

 

降誕させた森の木々全てから水分を枯れ果てるまで取り出して凝縮し、多くの水の弾を精製する。

その数たるや今は千にもなり、森が崩れて消失した代わりに周囲は水の弾のみで囲われていた。

 

一度見渡したバルガスは目を細めてから右手にハンマーを構えて態勢を整えた。

リュウマは両の手を開いて、遠近法で小さく見えるバルガスを包み込むように手を叩いた。

すると、それが合図となり全方位から豪速で以て穴だらけにせんと迫り来る。

 

数の多さと先程躱した時に傷は負わないがダメージは入るだろうと分析していたバルガスは、目前にまで水の弾が迫り来る中────武器を掲げた。

 

 

「……轟け」

 

 

何も無い空から赤き稲妻が舞い落ちて全方位攻撃を成した。

 

墜とされた雷が持つ電力と熱量によって水の弾が刹那の内に全て全焼して消えた。

バルガスの立っている所から広がるように地面が焼け焦げている凄まじい力に、魔力障壁を展開して防いでいたリュウマは内心驚いていた。

 

今のリュウマの攻撃とはいえ、まさか一度に全て焼くとは思っても見なかった側としては、今まで見なかった強き者に心を躍らされていた。

 

 

「ククク……フフハハ……フハハハハハハハッ!!まさか一度に焼くとは夢にも思わぬわ!…小細工をしたところで貴様には効かぬということは承知した。であればこそ────」

 

「ムゥッ…───ッ!!」

 

 

立っていた所から消えて、刀を振りかぶるリュウマを見た時には既にハンマーを構えていたバルガスが居り、ぶつかり合う武器によって粉塵を巻き上げる。

威力によって岩盤が割れて岩が隆起しながら変形するが2人の足下は変わらず。

 

しかし、そんな中で拮抗していたはずの2人の得物に変化が起きた。

バルガスが手にするハンマーは変わりよう無く受け止めているものの、リュウマの手にする刀が罅を入れた後に砕けたのだ。

 

魔力で強度を最高まで上げていたにも拘わらず、ハンマーに傷を入れることにすら敵わなかった刀は無惨な姿へと成り変わる。

武器を失ったことで隙を晒したリュウマへとハンマーを叩き込もうとするが寸前を避けられる。

 

最早バルガスだけに限らず、離れたところで発生している斬撃と竜巻の嵐を見て、生半可な武器では相手をしていられないと感じたリュウマは────純黒な刀へと手を掛けた。

 

 

「決めたぞ。貴様や奴等には此を抜くに値する者だ。故に召喚した物ではなく、此で相手をしてやる」

 

「…ッ!……それは……」

 

「あぁ────受ければ死…あるのみぞ?」

 

 

左腰から鋭い音を立てながら引き抜かれる刀はどこまでも黒く黒く黒い…余すこと無く黒き刀であった。

並大抵の刃物は皮膚すら突き抜けることの無い強靱な肉体を持つバルガスを以てしても、アレに斬られればタダでは済まないと直感させられる。

 

 

だが、それはリュウマとて同じ事であった。

 

 

先程から何気なく使っているバルガスのハンマーに、リュウマは今まで見たことも無い武器故に警戒していた。

武器としてのハンマーのらば見たことがあり、似たような物を探せば幾らでも見つかるだろうシンプルな形状。

 

しかして…それでもバルガスが手に持つハンマーが只のハンマーであるとは冗談でも思えなかった。

まず最初に思ったのが、刀で受けた時に感じた衝撃だ。

腕力が凄まじいバルガスの筋力もあるだろうが、武器がかち合った途端に生じた衝撃が並々ならぬものであった。

 

他にも、先程砕かれた刀は普通の物ではなく…世に出回っている刀の強度の数十倍であるという、硬さを追求した極めて壊れにくいという逸品だった。

それを易々と壊しておきながら傷一つ無いという強度の異常性と、紙一重で躱したときに間近で見て解析しようとしても()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

そして最後に─────()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

現地点で判明している以上の事柄で以て、バルガスが手に持つハンマーは未知の物であると判断を下して最大限の警戒を敷いているのだ。

 

 

「征くぞ……容易く死んでくれるなよ。我をこれ程期待させたのだからなァ」

 

「……来い」

 

 

同時に駆け出したリュウマとバルガスの両名は、片や右上から左下への何物も斬る袈裟斬りで、片や右下から左上へと腰のバネまで全て使った破壊一徹の攻撃を見舞う。

 

激突した武器から火花を散らせながら鍔迫り合いをしている両名であるが、拮抗を保って互角に見えるが…実は全く互角などではなかった。

理由としては、リュウマが腕から始まり、見えないが脚や顔中にも青筋を浮かべて押し込もうと力を籠めているのに対し、バルガスは何も変わらない涼しい表情で受けていた。

 

バルガスが一本前へと進む……リュウマが一本分後退する。

また一歩また一歩と後退させられているリュウマは、封印で筋力がガタ落ちしているとはいえ翼人であると同時にリュウマ本人が元々怪力だったので封印を掛けていても常人の数十倍はある。

 

それをものともせず押し返し且つ引き摺るバルガスの腕力に限らず膂力はどれ程なのだろうか。

走り出して勢い良く踏ん張っている為に出来る獣道を残しながら、後退していくリュウマは驚きに満ちているというもの。

 

 

どう足掻こうと今のリュウマでは押し切られてしまうので─────外した。

 

 

「筋力に限定した封印を第一…第二…第三…第四…第五…第六門…解」

 

 

一つずつ外すことによって強大になる力にバルガスは押し込む速度を下げ、今では2人の筋力は互角となっている。

しかし、()()()()封印の内筋力限定だが六つ外してやっと互角かと、相手しているバルガスの規格外っぷりに苦笑いを禁じ得ない。

 

武器を押し付け合う2人を中心として蜘蛛の巣のような地割れを起こしている。

と、ここでリュウマが突然力を抜いたことで勢いがついたバルガスが前のめりになり、刀を手放し咄嗟に出てしまった腕を絡めるように掴むと投げた。

 

背負い投げのように決まった投げで地面に叩きつけられたバルガスの顔面に向かって、空に展開した波紋から叩き潰すことに重きを置いた超重量武器を墜とした。

だが寸前で転がって武器を避けることに成功したバルガスは、リュウマから少し距離を取る形になるとハンマーを投げ付けた。

 

不自然なほどに綺麗に飛んで来るハンマーを余裕を持って回避したリュウマは逃がさぬと駆け迫るが……バルガスは避けることを想定していた。

 

リュウマがいるハンマーを投げた方向に手を向けると、何かの魔法かと思ったので斬り裂いて防ごうと刀を構えたときだった。

背後から何かが近づいているということを直感的に悟ったリュウマは、勢いを付けながら振り向き様に刀を振り下ろした。

迫ってきていた物を受け止めたリュウマだったが、飛んできた物から伝わる衝撃と重さに苦渋の声を上げる。

 

 

「ぐっ……」

 

「……────隙有り」

 

「なッ……ッ!!」

 

 

独りでに戻ってきて攻撃してきたハンマーを受け止めていれば背後からバルガスが巨漢には似合わない速度で走り寄って、振りかぶった腕を振るってリュウマに叩きつけた。

 

ラリアットと言われる技を首で(もろ)に食らったリュウマは投げられたゴムボールのように地面を数回バウンドしながら突き進み、巨大な岩にぶつかって破壊しながら止まった。

 

粉塵を巻き上げて姿が見えないリュウマに、やっと真面な一撃を入れることが出来たと思っているバルガスは……揺れる視界に眩み膝を突いた。

 

思ったように立てないという状況に混乱していると、巨大な岩を破壊して巻き上がる粉塵が散らされ、上に乗る岩の欠片を粉微塵に斬り壊しながら出て来たリュウマが歩いて向かってくる。

砂を所々に付着させていることはすれど、バルガスの怪力で放ったラリアットによるダメージが見られないことに不可解さを覚えた。

 

 

「貴様が我に腕を打つ瞬間、左腕は力溜めに使うため体の側面に置き、右腕は振りかぶっている。であれば開け放たれて無防備となる貴様の体前面に攻撃を入れるのは当然であろうが」

 

「……あの…一瞬で」

 

「フハハッ…そんなこと行うのに特別な技術など要らぬわ。強いていうならば貴様の攻撃の衝撃を()()()()()()()()()()労力を使ったわ」

 

 

リュウマはバルガスのラリアットを決められる刹那の時の中で、無防備となった前面にある顎に魔力を纏って強化した膝蹴りを入れて脳を揺らし、避けること敵わなかったラリアットの威力は痛みは生じるが真っ正面から受ければ首の骨が粉砕骨折するので衝撃だけを地面に受け流した。

 

後はバルガスの膂力の力を殺すために後ろへと飛んで勢いを殺していっただけだ。

まさか硬い岩にぶつかるとは思ってはみなかったが、そんなこと今更ダメージにはならないので気にするほどのものではない。

 

目前に立って止まっているリュウマの拳に魔力が集まって凝縮しているのを見て、アレを食らえばダメージがそれなりに入ると直感的に悟るバルガスは、リュウマの足下に落ちているハンマーに魔力を流し込んで赤雷を生み出した。

体を迸る電撃に怯んだその隙に回復して治った視界を確保したバルガスは接近して拳を腹に決める。

 

眉を顰めながらも衝撃を受け流すことに成功したリュウマは空中に持ち上がってしまう。

しまったと感じた時には時既に遅く、体勢を低くして予備動作を完了したバルガスは脚を振り上げた。

 

 

「……宙ならば…衝撃は逃げん」

 

「ぐっご…ッ…!」

 

 

浮かび上がったリュウマの腹に上段の回し蹴りを鳩尾に放って行動力を阻害し、回し蹴りを放った脚を地に付けて反対の脚の踵を使った後ろ向きのかち上げ蹴りに続き遠心力と脚力を載せた特大の回し蹴りを放つ。

 

防御無しで真面に食らったリュウマは視界をチカチカさせながら空へと打ち上げられ、空中で翼を広げて体勢を立て直した。

吐き気を催しじんわりと痛みを伝える腹を擦りながら下に居るバルガスを見て、バルガスは宙に行ったリュウマを撃墜するために手にしたハンマーから赤雷を撃つ。

 

飛んでくる雷を、大きく6枚ある翼で自身を覆って防ぎ、強く羽ばたくことで雷を霧散させる。

お返しだと腕を上げればバルガスの上空に百以上の波紋が現れて武器達が頭角を現す。

 

腕を振り下ろして落ち行く武器達と共にバルガスへ向かったリュウマの刀の振り下ろしをハンマーで受け止め、リュウマとの激しい剣戟とも言える攻防を降り注ぐ武器を紙一重で躱しながら行う。

 

洗練されて精密となっている操作技術で己へと武器は反らせ、バルガスに結集させている中で刀を振るっているというのに悉くを防ぎ、尚且つ反撃の機会を窺っているバルガスの近接格闘も出来る戦闘技術に笑みを浮かべてギアを一つ上げる。

 

無雑作に墜として地を爆散させていた武器達を振らせて終わりではなく、地に着く前に静止させて再び向かわせる。

咄嗟の反応で避けたバルガスに感嘆の声を上げながら全方位から狙って少しずつ追い込み、避けると思われる場所を瞬時に計算して弾き出し埋めていく。

よって避けることが敵わなくなってきたバルガスはハンマーを使って叩き落とし始めたが数が多い。

 

視界の全てが武器によって埋め尽くされている行っても過言ではない弾幕の中で、それでも弾き続けるバルガスはかなりのものと思わざるを得ないが、残念ながらリュウマの攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 

 

「──────『想像絶する大爆発(イオグランデ)』」

 

 

文字通りの想像を絶する大爆発が、動き回っていたバルガスが足を地面に付けた瞬間にそこが盛り上がり、噴火している火山の噴火口が如く…打ち上げるようにバルガスを包んだ。

しかし、飛んでくる武器達も健在であるため爆炎の中に入っては着弾したのか爆発音を立てながら衝撃が辺りへ奔る。

 

爆発が爆発を生む惨状が数十秒続いて止め、注意深く爆心地を見ていたリュウマは流石に頬を引き攣らせた。

 

黒煙が風に煽られて晴れると同時に現れたのは、傷を負わず無傷の状態で赤髪を風に靡かせながら威風堂々と立って健在としているバルガスの姿だった。

その姿は折れず曲がらず真っ直ぐに突き進み、障害の一切を破壊して進む大英雄が如く。

 

これ程の…これ程の者が居たとは…!と獰猛な笑みを浮かべて嗤うリュウマと、ハンマーを握り締めて赤雷を生み出しながら見上げているバルガスがその場から消えて2人の中間地点で衝突する。

 

 

「ゼェアァ…ッ!!」

 

「……ヌオォ…ッ!!」

 

 

振り下ろされるハンマーに対して斬り上げを行いながら右へと反らせて隙を作り納刀。

野性の勘とも言えるものに従いハンマーを引いて構えると、目にも捉えられる事の出来ない神速の抜刀が放たれ衝撃が奔る。

 

振り抜き終わり何時の間にか納刀し終わり、もう一度抜こうとしている所を抜かれる前にハンマーを振るい、万が一の場合も考えて刀の軌道上から狙う。

抜いても防がれると理解したリュウマは抜刀の状態から一転…蹴りのモーションに入って顎を狙う蹴りを打つ。

だがバルガスは視界の端で迫り来る足を捉えると頭を後方へと反らした。

 

通り過ぎた足に思うことも無くそのまま逆回転で1周する過程で、リュウマの足を掴んだまま遠心力を使って地面へと投げ付けた。

となるとリュウマは翼で飛翔しようにも地面との距離が近すぎて間に合わず地面に叩きつけられて陥没させ、バルガスは上から縦回転しながら踵落としを決めた。

 

しかし、リュウマは両腕で足を受け止めて事なきを得ていて、そこから背中側からの魔力放出で無理矢理起き上がりバランスを崩したバルガスの胴に一閃。

だが辛うじて手に持っていたハンマーで対処をしたことで斬られることこそ無かったが……これはフェイク。

 

何度も野性の勘で防がれてきたことを踏まえて態と防がせ、防いだ直後の隙を突いて脚の裏面側から行く足払い

を掛けて体勢を大きく崩す。

両手の平を構えている間の隙間に魔力球が形成されて大地を震わし礫を粉砕する。

 

目前に突き出された魔力球から放たれる魔力の奔流が巨体であるバルガスの体を包み込んで離さず、遙か彼方へと吹き飛ばされそうになるが…左手で押さえながら右手で持つハンマーを下から上へと振り抜いて上空へと弾き飛ばした。

折れ曲がった魔力の波動は光の柱を作り出して神秘的に見えるが、撃った本人が凄まじい魔力を詰め込んだので夥しい魔力濃度を検出させる程だ。

 

魔力の波動を弾いて防いだバルガスが前を向いた時…リュウマは既にバルガスの懐に入り込んで両の拳を構えていた。

防御に徹する為に構えようとしたが、それよりも速く打ち出された拳がバルガスの腹に突き刺さった。

 

 

「────『双骨(そうこつ)』」

 

「ぐッ…がァ…ッ!!」

 

 

表面上には効かないだろうと解っているリュウマは拳の衝撃を体の内部に浸透させた。

流石の防御力を持つバルガスであろうとも…いや、防御力を持っているが故に今回の攻撃は効いたようで一歩二歩と後退するが……膝を突くことは無い。

 

もう一撃重いものを打ち込んでやろうと近寄る為に一歩踏み出した瞬間……バルガスの体から赤雷がスパークするのが見えた。

 

放電する気かと悟ったリュウマの行動は早く、翼で体を覆って防御態勢に入った。

そしてその直ぐ後にバルガスの体から超電力を持つ赤雷が周囲無差別に放たれて巻き込む。

地面ですら砕けて焼ける程の魔力に防御したままのリュウマはニヤリと嗤い、負けじと体の周囲に純黒な(いかずち)を放った。

 

鬩ぎ合う雷は互角と思えたが、リュウマの純黒なる魔力から作り出された雷は他の一切の介入を許さない。

赤雷ですら呑み込みバルガスを攻撃しようと伸びるが、回復したのかその場を離脱して難を逃れた。

もう少しそこにいたら、確実に体の隅々まで焼く雷の餌食になっていただろう程の魔法だった。

 

距離を取ったバルガスとその場に立ったままであるリュウマは、体中から膨大な魔力を高め地割れを引き起こしていく。

これ以上上がれば足場が持たなくなってしまう程になった魔力を練り上げて片やハンマーに、片や刀に流し込んで振りかぶる。

 

 

「──────絶剣技・『塵星裁断(じんせいさいだん)』ッ!!」

 

「──────『天砕くは人の手よ(カタルノフ・エルフノフ)』ッ!!」

 

 

高めた全ての魔力が乗った巨大な斬撃と衝撃波が放たれては衝突して大爆発した。

核ミサイルによる爆発が小さく見えてしまう程の爆発で大きなキノコ雲が出来上がって視界を0にする。

しかし、中から鉄をぶつけ合う音が鳴り響いており、その時の力で煙が掻き消されると、中から武器をぶつけ合うリュウマとバルガスが出て来る。

 

真っ正面から受け止められる程軽くないバルガスの攻撃は受け流され、リュウマの斬撃は受ければ斬られることを解ってしまうためハンマーで防ぎながら隙を作ろうとする。

しかしどちらも一歩も引かず、両者の武器が特異であるため攻め倦ねているのだ。

 

 

「────あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!クソうっぜぇししつけぇんだよクソ女ッ!!」

 

「────ふふふ。逃がさないぞ」

 

 

と、そこに違う場所で戦っていたオリヴィエとクレアが現れてしまう。

再び4人揃ったことに目敏く気が付いたクレアは、本来の目的であったリュウマが居ることを発見すると、どれだけ竜巻や台風並の暴風を生み出そうが離れず攻撃を仕掛けてくる出鱈目な(オリヴィエ)をバルガスに押し付けるために扇子を下に向かって振るった。

 

広がるように砂を巻き込みながら出来た暴風に、腕で目を守りながら防ぐとバルガスの体が浮き上がってしまい、そこを横から飛来した風の弾に押されてオリヴィエの所まで飛んで行ってしまう。

 

横目で()()()()()()()()()()()()()オリヴィエは視線を外して飛んできたバルガスに双剣を振り下ろして斬るが、バルガスがタダでやられる訳もなくハンマーを使って防ぐ。

お返しだと言わんばかりに上から押し潰すように叩きつけてきたハンマーを、オリヴィエは双剣を使って防ぎながら受け止めてみせた。

 

筋力では決して勝っている訳でもないというのに完全に受け止めて見せたオリヴィエに、バルガスが目を細めて見遣った。

2人の戦闘は激しさを強くしながら戦いを開始した。

 

 

「やァっとお前ん所まで来たぜ。あの女しつけぇったらありゃしねぇ…!」

 

「我は貴様に宣戦布告などしておらぬ。されたのは貴様が今し方飛ばして組み替えた南の王だ」

 

「んなこと知ったこっちゃ────ねぇんだよ!!」

 

「全く────ならば貴様からだ」

 

 

目の前に扇子を構えている少女にしか見えない男は、腰まである艶やかな蒼い髪を持ち、体の全体的な線は細く心許なそうに見えるが、コンプレックスである容姿を変えるために鍛練を欠かすこと無く日々励んでいるので、見た目以上にしっかりしている。

……残念ながら腹筋は割れないし力瘤も出ないしゴツくもならないので、日々の鍛練は戦闘能力の向上と見た目に反した力の向上だけだ。

 

北の大陸を治める国の王だというのに、着ている戦闘服はリュウマが治める東の大陸で普及している和服を想起させる。

他にも手に持っている美しい造形美を持つ扇子と合わさり絶妙なシンクロを見せてくれる。

クレアがこの和服を着ているのは、自国にやって来た商人から買い取ったもので、着てみれば着易いし案外動きやすい素材だということで気に入って着ているのだ。

 

しかし、クレアは知らない。

 

振り袖と呼ばれる和服に系統されるその服は、本来は少女や女性が着る物であるので、男が着るものではないということを。

だが似合いすぎて違和感を感じないのでそのままなのだ。

 

因みに、リュウマが時々街へと人知れず出掛ける時に着ているのは着物や袴や羽織などといった物なので男が着る物で合っている。

クレアと邂逅して己の国の女物を着ていることから女だと判断したのだが、自分で男だと主張していることから男物と間違えたか知らないかのどちらかだなと…特に納得して教えていないのだ。

 

初見が美しすぎて見惚れてしまい、男だと知った時に少し残念さが心を締め付けたのは気のせいだと思いたい。

 

 

「おォらァァァッ!!!!」

 

「…っ!広い…!」

 

 

そうこうしている内に始まったリュウマとクレアの戦闘はクレアの初撃から始まった。

手に持つ扇子から発生した暴風に晒されそうになってその場から消えるように回避したが、回避先にも暴風が届いて煽られそうになる。

 

両手を顔の前に持ってきて前のめりになるよう踏ん張るリュウマを尻目に、クレアは更に2度3度同じように扇いで地表を削りかねない風をぶつける。

 

風が強くなる一方であるこの場を離れようと脚の筋肉を力ませた時だった。

直感が警報を鳴らしたのでキツい体勢ながら顔を横に傾けると、何かが猛スピードで抜けていった。

あと少し遅ければ頭に風穴を開けられていた所であるリュウマは、目をどうにか開けながら正体を見破ろうと前を向けば同じ物が飛来する。

 

握り込んだ拳で裏拳の要領で破壊したのはいいが体勢が崩れ、戻そうと咄嗟に翼を広げてしまった失策で暴風の餌食となって後方に転がりながら飛んでいってしまう。

 

数十メートル転がってから引き抜いた純黒な刀を地面に突き刺して止まると、次々に飛来してくる物を翼で受けて防御した。

飛んできていたのは、クレアの魔力を帯びて硬度を強化された石礫。

そこらに山ほど転がっている石を暴風に載せて弾丸以上の速度で向けてきたのだ。

 

 

「小賢しい…!────『廃棄し凍る雹域(アイスエイジ)』」

 

「うおっ…!?」

 

 

振り上げた脚を地に叩きつけると、叩きつけた脚から地面が凍り付いていき、半径数百メートルにあたっての地表が全て氷の膜に包まれた。

これでクレアの石礫の攻撃を必然的に無効化されてしまったが、クレアにとってはこの程度の事で焦ることも無い。

 

攻撃手段など他に幾らでもあると言わんばかりに焦らず狼狽えず、冷静に跳んで凍り付く地面から逃げたクレアは、風を操って自身を浮遊させて上からリュウマを狙う。

一気に四度扇子を振るうことで発生した四つの大竜巻が四方から動けないリュウマを囲い覆い被さった。

 

四つが一つになってハリケーンのような状態になった風の暴力の中で、浮き上がりそうな体を魔力で氷の地面と張り付けることで難を逃れているリュウマは、接着性を解いて風を斬り裂いて脱出しようとする前に先手を取られた。

 

暴音が耳を刺激する中、一度(ひとたび)の風を切る音が聞こえ…右脚に激痛が奔った。

目を落として見てみると、踝から腿までの肉が裂けて血を噴き出していた。

バルガスとの戦闘ですら傷らしい傷を負わなかったリュウマへの初とも言える裂傷。

しかし、感傷に浸っている場合も無く、一撃目が合図のように風切り音が響く。

 

脚だけではなく刀で体を支えている腕、飛ばされないように力んでいる腹の側面である脇腹、背後から襲われて腰の部分。

翼にも当たるが魔力を集中させているので切り裂かれる事は無かったが、全身を隈無く狙われていることが解る。

早く脱出を試みなければ、刻まれてやられるのはリュウマであり、クレアはやられるリュウマを見物しているだけだ。

 

 

「…スウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………っ!」

 

 

鎌鼬と呼ばれる風の刃で体の隅々まで切り裂かれている中で、口を開けて大量の空気を吸い込み肺へと溜め込み魔力を練り混ぜる。

空気と魔力の配列を一対五で混ぜ合わせることで吸い込んだ空気の量よりも膨大に出来上がる大質量の風の魔力を……宙に居るクレアに向かって放った。

 

 

()ァ─────────────ッ!!!!」

 

「はッ…!?」

 

 

開け放たれた口から大質量を持つ極太のレーザー状の魔力の奔流がクレアを呑み込まんと迫るが、扇子を急いで振って得た推進力を得てその場から離脱。

避けられたにも拘わらず魔力は、リュウマを閉じ込めていた竜巻を掻き消しても止まらず。

大空まで飛んで雲を突き抜け大気圏をも突き抜け穿つ。

 

完全には避けることは敵わず、服の裾を消滅されたクレアは一度に放つ魔力量が島程度ならばを消し飛ばす、とんでもないレベルの物を撃ってきたリュウマに目元を引き攣らせた。

 

竜巻から解放されたリュウマは口から煙を吐きながら舌打ちをして外したことを悔やんだ。

あわよくば一撃で消してやろうと思って籠めた魔力砲を避けられるとは思っても見なかった。

だからこその大質量に重ねて面でも通ずる面での魔力砲だったのだが、クレアの移動力を見誤った故である。

 

もう一度撃たれるのは勘弁願いたいと思ったクレアは、宙から降りてきてリュウマの魔力砲の衝撃に負けて砕けた凍り付いていた地面に着地した。

リュウマから見てクレアが降りた立ち位置は、奥にリュウマの国の兵士が居るので今のような物は撃てないのだ。

撃ってしまえば全員消滅してしまう。

 

 

「ケッ…体中刻まれて、激痛が奔る傷だらけの体で良くやるぜ」

 

「傷だと?────()()()()()()()()()()?」

 

「あ?さっきオレの風にやられた……は?」

 

「クックック……」

 

 

クレアは確かにリュウマの体に裂傷を刻み込んでダメージを与えたはずだ。

上から高みの見物を決め込んでいる時にも、飛び散る血飛沫を確認したし踏み込んだりする時に使う腿の肉を削いだのは彼が操った風の刃だ。

だというのに、前に立つリュウマの体には全くの傷跡が無いし傷自体も無い。

 

リュウマの戦闘服ですら元に戻っていることに目を大きく開けて驚いているクレアを見て、リュウマはやはり己が創り出した魔法が万能である事を再確認して満足そうに薄い笑みを浮かべた。

 

魔力砲を放って衝撃で辺りの砂等を巻き上げて視界を潰した隙に自己修復魔法陣を体に組み込んで刹那の内に治したのだ。

元々、自己修復魔法陣とは()()()()()()()()()()()()()()という性質を持っている。

それはつまり、有り得ない程の魔力を持っているリュウマが刻めば忽ち治るというものだ。

後は戦闘服を魔法で普通に戻すだけである。

 

 

「矢鱈と攻撃されたからな……次は我だ」

 

「チィッ…!」

 

 

消えるように接近してくるリュウマからバックステップで距離を取りながら扇子を使い風の大砲を撃ち出す。

風の目に見えないという性質を使って見えない攻撃を繰り出しているので、当たるかと思えばそう簡単にはいかず。

まるで見えているかのように躱し、時には刀で斬り裂いて凌ぎ急接近してくる。

 

焦る気持ちも積もりながらだが着実に縮まってくる距離を伸ばす為に魔力を解放した。

竜巻がリュウマに向かっていくように放ち、捕まればミキサーのように切り刻まれてしまう代物を中へと入って正面突破する。

本来はやられるが、先程の攻撃から対処法を見つけたリュウマは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()避ける。

 

竜巻の中で刃を躱しきって目前に迫ったリュウマは刀を振り上げて、クレアは咄嗟に防御するために扇子を構えたが……リュウマは途中で刀を手放した。

 

敵の目前で武器を離すという愚行にて刀が上空に飛んでいくという状況に驚いているクレアの胸倉をリュウマは掴み、背負い投げで地面に叩きつけた。

肺にある空気を強制的に吐き出させられたクレアは苦しそうな顔をしながらも目を開けると、胸倉を掴んでいない手に放っていた刀が落ちてきて握られる。

 

完全に逃げ場を失っている事に危機感を持ったクレアは、振り下ろされる刀が肌に触れる直前で刀に向かって刀の刃の部分丁度という極狭な範囲に風の魔力を打ち付けた。

 

面で防ごうとすればするほど他の部分に強度を使ってしまうということで、一歩間違えれば場所がズレて抵抗なく斬られていた一種の賭け。

見事勝つことの出来たクレアは辛うじて上に弾くことの出来た隙に、己の体とリュウマの体の間に風の爆弾を配置し起爆させた。

 

体を魔力で覆ってダメージを軽減させたが爆発によって距離を取らざるを得なくなってしまい離れる。

抜け出したクレアは首を擦り付いていることを確認した。

 

リュウマに胸倉を掴まれ刀を振りかぶられた時……人生で初めてである走馬灯が見えてしまった。

 

強烈な死の臭いを嗅ぐわせる一連の攻防に冷や汗を流していた。

今は見事な精密操作で難を逃れることが出来たが、同じ様な状況にもう一度陥った場合、動きの手を見切られてしまい距離を取らせるということは不可能に近い。

何せ完全ランダムに四方八方から狙う風の刃を、一つ残らず完璧に避けてしまう男だ。

 

此からの戦闘は近付かせること無く遠距離からの攻撃に入ろうと臨戦態勢を取って扇子を構えた途端────

 

 

「……ヌウゥ…!!」

 

「そろそろ相手の交換だぞ…ふふふ」

 

「やべぇ…こっち来やがった!?」

 

「……何故隕石が墜ちて来ておるのだ?」

 

 

最初と同じ様に激しい戦闘を繰り広げていたバルガスとオリヴィエが2人揃って武器での攻防をして凌ぎあっている上空から巨大な隕石が墜ちて来ていた。

今クレアとリュウマが居る所にピンポイントに狙って墜ちて来ていることにクレアが焦り、リュウマは何で隕石が頭上に墜ちて来るのか解らなかった。

 

実を言うとオリヴィエやバルガスがこの隕石を降らせた……という訳ではないのだ。

 

 

では何なのかと問われれば────自然現象である。

 

 

偶々超巨大な隕石が地球の重量に引っ張られて墜落を始め、偶々戦闘をしているリュウマとクレアの頭上に墜ちて来て、偶々此処にオリヴィエとバルガスが向かっていたという奇跡的偶然の積み重ねである。

 

 

「絶剣技─────」

 

 

このままだと自国の兵士達が巻き込まれると直感したリュウマはその場から飛び去って巨大な隕石の元へと飛翔して向かう。

隕石が地表近くに寄れば余波で風が巻き起こり天変地異の前触れのようになるが、フォルタシア王国の兵士達は慌てること無く向かうリュウマを見つめていた。

 

確実に我等が王であるリュウマが解決すると確信している兵士達は、ここから助かるために逃げるという選択肢など無い。

そもそも、億が一にもリュウマに無理だったならば共に死ぬという選択肢を取るような者達だ。

その手の質問は愚問であるというものだ。

 

隕石まで数メートル地点に近付いたリュウマは腰に差している鞘に左手を添えて右手で柄を握る。

空中だが腰を下ろして構え─────抜刀。

 

 

 

「──────『区斬三頭余(くぎりさんずあまり)』」

 

 

 

宙を覆い尽くすように巨大な隕石が綺麗に三等分で両断された。

 

威力で少しばかり墜ちてくる速度が墜ちてしまったが、頭上にあるのは超弩弓の質量を持つ隕石であることに代わりは無く、三等分された隕石は狙い通りに他の王達3人の上に墜ちていく。

助けることなど毛頭考えていないリュウマは、これだけで倒れるとは思っていないが対処方法を探るために隕石を使った。

 

上から落下してくる隕石の欠片を見てやはりこうなったかと、半ば確信していた王達もまた武器を構え終えており、邪魔な石ころを退かすかという軽い気持ちで攻撃を開始した。

 

 

「─────『穿ち砕くは獣の牙(カタラ・ファング)』」

 

 

「─────『願い出る風神の風(エンプティオ・ラルカナ)』」

 

 

「─────『抱き沈める焔の腕(マザーラルフ・エンバッハ)』」

 

 

隕石の欠片はバルガスの剛腕から繰り出される轟撃に負けて粉砕され、クレアから発生した巨大な竜巻を囲うように八つの竜巻が生まれてその全てが隕石を呑み込んでは削りきって消し去り、オリヴィエの向けた双剣の内の一本から迸る白焔に焼き消された。

 

巨大な隕石は地上に降り注いで多大な死傷者を出すかと思われたがそんなことは起きず、4人の王達の手によって跡形も無く消し飛ばされた。

 

対処方法を見ていたリュウマは撃ち出す時のタイミングや視線の動き、感肉の動きから呼吸法まで事細かに分析して頭の中に入れる。

戦闘スタイルを頭の中で確立させている間に、目が合ったバルガスとクレアが戦闘を開始し始め、リュウマは下で彼が降りてくるのを佇んで待っている女……オリヴィエの元へと向かった。

 

最初の少しの話し合いから戦っていないオリヴィエに、リュウマは持っている双剣とクレアがしつこいと言っていた言葉から、主な戦闘スタイルは接近し続けて攻撃を繰り返すというものだろうと仮定した。

分析されていることを知らず、降り立ったリュウマの事を見つめていたオリヴィエが初めて彼に向かって言葉を投げかけた。

 

 

「貴公がフォルタシア王国の王か?」

 

「フン。今更尋ねる程のものでもなかろうが」

 

「まぁな。どういった者か今一度確と見てみたかったが……やはりな…やっと()()()()()()()()

 

「……何?」

 

 

何か含みのある言い回しに、訝しげな表情をするリュウマを放っておきながら、美しい微笑み浮かべながら矢鱈と熱い視線を送ってくるオリヴィエに、背筋が冷たくなるのを感じて…()()()()()()()()退()()()

 

笑みを一瞬深くしたオリヴィエは忽然とその場から姿を消失させ、リュウマの背後へと抜けていた。

 

気配が後ろに移ったことを感知したのを皮切りに、後ろへと振り返ってどういう意味なのか問おうとした時……胸から腹に掛けて違和感を感じた。

目線を落として体を見てみると……王の戦闘服に斬り込みが入った。

 

やがて斬り込みは深くなり、皮膚を斬って肉を斬り血を噴き出した。

 

 

「ごほっ…何だと……?我が……捉えられなかった…だと…?」

 

「ふふふ。それだけではない。そら、そろそろではないか?」

 

「…ッ!炎…!?」

 

 

噴き出る血液とは別に、傷口から白焔が立ち上りリュウマの体を…皮膚を肉を焼き始めた。

直ぐに消し去ろうとしたところ、例外無く総てを呑み込み塗り潰す特異な純黒なる魔力が────燃やされていた。

 

破られたことも、ましてや燃やされたり消されたりされたことすら無い己の魔力の惨状に驚嘆し出遅れ、()()()()()()形成された白焔はリュウマを包み込んで焼いた。

 

 

「がッ…!アァアァァアァアァァッ!!!!」

 

「私の魔力と貴公の魔力は()()()()()()()。故に貴公の純黒な魔力を私の純白な魔力は消滅させることが出来るし、逆に私の魔力を消滅させることだって出来る……そのようにな」

 

「グゥッ…!…はぁっ……はぁっ……!」

 

 

体を包み込んで焼き消そうとしてくる白焔を、純黒な魔力で無理矢理覆い尽くして消し去った。

だが皮膚は焼き爛れて無惨な姿となっていたが、自己修復魔法陣を組み込むことで完治した。

人生で初めての計り知れない激痛に息を乱してしまうが落ち着きを取り戻し、深呼吸をしてオリヴィエを見据えた。

 

通常斬られただけでは到底感じないほどの……それこそ痛覚神経を剥き出しにして鑢で削られているような計り知れない痛みを味わったリュウマは、オリヴィエが言った言葉を咀嚼して理解はした。

 

落ち着いて集中してみれば、何故だろうか……目の前に立つオリヴィエから何か……自分でもよく分からないモノを感じ取る。

生まれてからずっと傍に居たような、まるで何時も一緒に居たのに記憶を無くし、今まで知らずに会っていなかった者と会ったような気持ちである。

 

だが、そんなことは有り得ない。

確かに目の前に居る女とは初対面であり、子供の頃に会ったという事など十中八九有り得ない。

大抵は国の中の城内に居たし、出たとしても猛獣の森だろうが、会ったのは数人で全員が男だった。

捜査のために来たと言う男達はその後に目の前で猛獣に喰われて死んだので絶対に無い。

 

混乱しているリュウマを面白そうに見ているオリヴィエは、純白な色合いを放つ双剣を両の腰に突いている鞘に戻して我が子を迎えるかのように手を広げながら話を始めた。

 

 

「混乱しているのだな。私は小さい頃からこの世界に違和感を感じていた。私の両親は特別戦いに優れた能力を持っている訳でも特出した才能を持っている訳でも無い普通の両親だ。

 

しかしその2人の間に生まれてきた私は今ではコレだ。

 

世界の四分の一を手に治める王…特に戦闘能力や魔法…とある力に……更にはこの膨大な純白なる魔力。小さい頃から強者と戦ってきたがどいつもこいつも手応えが無い。しかも男を見ても思春期であっても何も感じなかったし、何時も()()()()()()()()()()()()()。心に穴が空いているのかと問われればそうかもしれないと答えられる位にはな」

 

「…………………………。」

 

「去年から矢鱈と結婚を勧めてくる両親と臣下にほとほと呆れていたし、目鼻立ちが整った王子等を見ても()()()()()()()()()()()()()。歳を重ねるに連れて感じてきた違和感にこんな確信を持った……私に相応しい…

 

否────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!…と。

 

何処に居るのかは分からない…感じ取っているわけでもない…勘と言われればそうかも知れないが確信はしている……この広い世界の何処かに私と同じかそれ以上の力を持つ私の夫と成るべき者が居ると!!そして今日この日……貴公に初めて会って心に愛の矢を射られた気分だった」

 

「………………。」

 

「なぁ…もう感じ取っているのだろう?私の体から目が離せないのだろう?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

貴公()()は2人で一つと言っても過言ではない。だがそれも当然だ……光あるところに闇があるように、善があるところに悪があるように、陽があるところに陰があるように……私達は出逢うべくして出逢ったのだ」

 

「……。」

 

「ふふふ。一目見た瞬間から私は貴公に夢中だ。戦っていても感じ取ってしまうし、激戦の中でも目が離せない。今も尚本能的に貴公を求めてしまって仕方がないッ!!

 

出来ることならばこのまま押し倒して交合いたいし押し倒されて滅茶苦茶にされたい。

それ程まで貴公を求めて止まないのだ。欲しいのだ…心から。

 

知りたいのだ…貴公を!!知って欲しいのだ…この私の全てを!!

 

……どうだ?貴公も日々違和感を感じていたのだろう?気づいていないのではない…原因が分からないから

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

しかしその違和感の正体がここに居るぞ?貴公の運命の相手だぞ?

 

 

─────私の夫となれ。

 

 

さすれば退屈はさせないし何時までも隣で寄り添い合う素晴らしい日常が手に入るぞ」

 

「…………───────」

 

 

語られたリュウマは顔を俯かせていて表情を見ることは出来ない、だが彼の頭の中では色々な事柄が飛び交い弾けていた。

無理矢理視線を逸らすことは出来たが、彼女が言うように何故か分からないが目が離せないし本能的に求めているような節がある。

 

生まれてきて今現在までの22年……過程で幾つもの激しい出来事があったこそすれど、何不自由無い生活を送ってきたが……彼女の言うとおり()()()()()()()()()()()()

 

原因を調べようにも、『そんな気がする』といったあやふやなものの原因を探すことなど到底不可能であるし、己が日常の何に違和感を感じているのかも分からない状態な上、そんなことを探している暇なども無かった。

だから彼はこの不思議な気持ちに蓋をして()()()()()()()()()()()()

 

何もかも見破られてしまった彼の心にはそうなのかも知れないと納得してしまう自分自身がいた。

 

何かの間違いだ…魔力の色が正反対で同じ特異な魔力だとしてもそれだけ……それだけの事で運命の相手な訳が無い。

その程度の事柄で相手を決められるかと言い聞かせようとしても、言い聞かせられない自分がいる。

 

全身から力が抜け腕を垂らしているだけの状態であるリュウマは、覚束無いような重いような軽いような不思議な足取りでオリヴィエの元へと向かう。

 

近付いてきてくれた事に、オリヴィエは嬉しそうに目を細めながら微笑みを深くすると手を差し伸べる。

歩いて距離を詰めたリュウマは、そのオリヴィエを手に取る─────

 

 

 

 

 

「─────巫山戯るのも大概にせよ」

 

 

 

 

 

────ことは無く、手を弾いた後に刀の柄へと手を伸ばして抜刀。

 

目の前に居るオリヴィエの右脇腹から左肩までを深く斬り裂いた。

斬られて血飛沫を上げているオリヴィエは、痛みなどよりも先に驚いた表情を作って後ろへと跳んだ。

傷口から大量の血が流れているが、傷口から白き焔が上がると次の瞬間には傷が塞がっている。

 

傷があったところを触りながら確認したオリヴィエは不思議そうな表情をしながらリュウマを見て、そんなオリヴィエに、リュウマは呆れたような…苛立っているような表情を向けていた。

 

 

「運命だと?…フンッ!我がそのようなものに縛られて堪るものかよ。我はフォルタシア王国の王、リュウマ・ルイン・アルマデュラである!!運命が何だ、定めが何だ…我が(みち)は我が定めるものである!間違っても貴様ではない!!我が欲しいだと?戯けが。欲しいならば─────力尽くで奪ってみよ。我より弱き女には興味など皆無だと知れ」

 

 

魔力を滾らせて周囲に破壊を撒き散らしながら、リュウマはそう述べた。

 

言われた側であるオリヴィエは、別段傷付いたような顔も悲しそうな顔もしていない。

彼女は─────恍惚とした表情をしていた。

 

 

「何と勇ましき事か…何と力強い事か…何と心惹かれることか…何と…何と……素晴らしき事かッ!!やはり私には貴公が…いや、()()を置いて他には有り得ないッ!!力尽くか…ならばそうしよう。力でねじ伏せ我がものとし我が夫としよう。嗚呼…滾る…滾るぞ!こんな感覚は生まれ生きてきて味わったことはない!!」

 

「貴様の魔力は我には毒のようであるからな。手加減などせぬぞ────」

 

「無論。全力の貴方を打倒し愛を築いていこう」

 

「………………変に焚き付けたかもしれん」

 

 

相手のオリヴィエは背筋が凍ってしまう程の熱を発する熱い熱い視線を送りながらリュウマを見て武器を取り出した。

純白の魔力だけでは無く、武器までも毒なようで薄ら寒いものを感じさせるので危険だということは一目瞭然だ。

 

刀を一度鞘に戻して腰を落とし居合の構えを取ると、オリヴィエは双剣の刃が半分だけ両の腰に差している鞘に収まっているような状態に成りながら体を前のめりにして脚を一本前に出し双剣の柄を握っている。

 

 

静止した2人は……瞬間─────消失した。

 

 

丁度中間地点に現れた2人は武器をかち合わせて火花を散らせていた。

 

 

 

 

 

戦いはまだまだ続き……悪意は迫る

 

 

 

 

 




長くなりましたが、次のはそこまで長くはならないと思われます。


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