FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

76 / 129
不穏な言葉を吐いていましたが(今初めて読んだ人は分からないですよね…)大丈夫だと思われますので、ご心配かけました。

これからも頑張ってみます。




第捌刀  勘違い 和解

 

リュウマとオリヴィエの戦いが始まってからというもの、その激しさと言えば兵士達が青い顔する程のものであった。

互いの魔力が相対関係にあるということは、リュウマの魔力はオリヴィエに効くが、代わりにオリヴィエの魔力がリュウマに通用してしまうということなのだから。

 

戦うにあたって、封印を掛けたままでは勝つことは不可能と判断したリュウマは、周囲を無差別に破壊しないギリギリのラインである封印第六門まで解放した。

すると、最初に受けた剣を完璧に防ぐことが可能となり、オリヴィエとリュウマは音速戦闘を行っていた。

 

どちらも回復手段を持っていて尚且つ、底知れない戦闘能力を持ち合わせているため傷付けば修復し突き進み、斬っては傷を負わせてやり返される。

血で血を洗うような、周囲に血が飛び散っている惨事を気にすること無く戦闘を続ける。

 

 

「ハアァ…ッ!!」

 

「グフッ…!?」

 

 

オリヴィエの剣の型は独特で、その時その時に反射的で戦うので明確な型というものが存在せず、癖を見抜こうにも態と癖を作って混乱させてくる。

癖だと思えば囮で、明確に癖を隠していると判断すればそれは誘い。

中々嫌らしい戦い方をしてくると、双剣を受け止めたリュウマは、受け止めた双剣が霧が晴れるように霧散して消え、本物の双剣が彼の腹部を十字に斬り裂いた。

 

傷が出来た途端に回復出来るよう常に自己修復魔法陣を体に組み込んでいるリュウマには、今は純白の魔力が帯びて激痛が奔ろうとも直ぐに治る。

故に腹部に注意を向ける事無く柄を握り締め、音すら鳴らない不可避の一閃でオリヴィエの胴を分断する気で斬り払う。

 

 

「ごほっ……『白き雷(アブトルム)』」

 

「ガアァ…!!クッ…『地獄の黒き雷(ジゴスパーク)』」

 

 

天から降り注ぐ白き雷がリュウマの上に落ちて落雷する。

痺れと共に通常では受けない激痛に肌を焼かれながら、体中から黒き雷を広範囲に放電してオリヴィエを巻き込む。

白が黒に、黒が白に、互いを消滅させんとするこの戦いは激しいことこの上なく、他一切の魔力や出来事の介入の余地を消す。

 

迸る雷撃は次第に勢いを消し、中央に佇む2人の体は煙を上げる。

しかして致命傷には至らず…目を開けた2人の内、リュウマは目前迫るオリヴィエの双剣持つ手首に、両手を添えて…あくまで押し遣る気持ちで押す。

軽くとはいえ腰を捻りながらの押し遣りに投げられるオリヴィエは、空で刃を返して首を狙うもその分だけ後ろに退かれて当たらず。

 

背中から落ちた途端に跳ね上がり顔を上げた時……目の前にリュウマの両の手が。

放たれる大魔力の咆哮にやられて吹き飛ばされるも、純白の魔力で自身を覆ったことにより事なきを得る。

 

 

しかし……リュウマは準備を終えている。

 

 

「眷属召喚────『神斬り殺す銀の神狼(アルゲンデュオス・インテルヴォルス)』」

 

 

呼び出されたのは、神をも斬るとされている靡く銀の毛並みを持つ神狼である。

オリヴィエの前に出て来たアルディスは呼び出された訳を理解し、目前に居るオリヴィエに牙を剥き出しにして唸り声を上げる。

共に現れた台座から神剣を引き抜き強く咥え戦闘準備を整える。

 

 

だが…ここでオリヴィエが持つ特異中の特異な力がその顔を出す。

 

 

狼と呼ぶには余りにも大きすぎるその体を…アルディスは誇り虚しく震わせる。

神狼が主が敵を前にして震える……相手たるオリヴィエは何かに気が付いたのか……アルディスを見つめて蠱惑的に舌舐めずりをした。

 

憶えているだろうか?オリヴィエの異名。

 

 

オリヴィエ・カイン・アルティウスは西の大陸でこう呼ばれている─────滅神王(めつじんおう)…と。

 

 

この名は時に今から数年前……西の大陸に何の因果か正真正銘本物の神が降臨した。

 

名は何と申したか……そんなことはどうでもいい。

 

重要たる事は、人々が信じ信仰を捧げる神たる者が、傍にある大地に群がる蟻が如き人間を煉獄の炎で灼いて滅したこと。

神とは思えないその諸行に人々は恐れを成して逃げ惑う。

 

神は言葉を発さず逃がさずと言わんばかりに人々を狙い滅していく。

魔法もまだまだ発展途上であり、科学もさほど進んでいない時代に、神の進行を食い止めることはおろか…倒しうる力を持つ訳が無い。

 

大地を灼き人を灼き空を焦がす神は無情に無関心に人間を滅し続け─────オリヴィエが治める国へと辿り着いた。

 

国の者は大慌てだ。

それはその筈…巷で騒がれている虐殺繰り返す狂った神が居るのだから。

 

 

だが……このオリヴィエは恐れず。

 

 

それが如何したと、高々見上げるほど大きく、魔法とは違う権能を使っているだけではないか。

手に持つ剣を振れば山を悉く砕き大地を抉り、空に漂う雲はその姿を消す。

嵐は生まれて一切を消し去り雷は移住を燃やす。

 

確かに凄い……人々が創作したとしか思っていなかった神という存在が本当に居ようとは……だが────

 

 

 

─────恐るるに足らず。

 

 

 

座して待っていたオリヴィエは玉座から腰を上げて神に問うた。

 

 

「貴公は神である。そんな神が人間に敗した事はあるか?」

 

 

……と。

 

そして神は初めて口を開き答えた。

 

 

「否。我は神。神は人に敗することは有り得ない」

 

 

……と。

 

聴き終えたオリヴィエは溜め息一つ溢して剣に手を掛ける。

 

一歩一歩歩みを進めながら…妖艶な笑みから一転……何者をも見下す笑み……()()()

 

 

神が()()()()()()()()こう答えただろう。

 

あの人の子は我々神を殺すことに長けた者……我たる者が何の抵抗も無く斬り裂かれ滅せられた。

 

 

戦闘時間等存在しない。

 

 

行った事は簡単も簡単────詰めて斬った。

 

 

ただそれだけで、神を殺すことは事足りる。

 

 

 

 

 

オリヴィエとは……純粋な人の身で在りながらその実─────その体に神殺しの力を宿しているのだ。

 

 

 

 

 

故に今目の前に対峙しているアルディスは、オリヴィエから感じ取れる天敵とも言える神殺しの迫力に屈しかけているのだ。

神狼であるアルディスは神格を持っている…それ故にオリヴィエの力が顕著になっているのだ。

 

震えるアルディスに如何したのかとリュウマが問えば、アルディスはこのまま向かえば自分が確実に殺されると宣言し戦わずして負けを認めた。

神狼たるアルディスとてプライドがある。

にも拘わらず告げた敗北宣言に内心驚きながら、リュウマはアルディスをその場から消した。

 

 

「貴様……神を殺すことに長けているのだそうだな」

 

「ふふふ。先の狼が言ったのか?……そうだ。私は神を殺す力を持っている。だが所詮は神に対しての力…人である貴方には効くまい」

 

「無論。しかし…恐ろしき力よ。人で在りながら神を斬るとは……」

 

「こんな力は気に入らないか?」

 

「フッ…冗談抜かせ。人であるというのに神を殺めるという偉業に感嘆し世間が尊敬の眼差し向けることこそすれど、否と答える筈も無い」

 

「ふふふ。貴方に言われると特に何とも思わないこの称号も…重みを持つというものだ」

 

「誇れ。神殺しは未だ嘗て何者にも為し得なかった偉業も偉業たる諸行ぞ」

 

「では誇ろう。貴方に…他でも無い貴方からこそ貰ったお墨付きを」

 

 

微笑みを浮かべたオリヴィエが再び剣を構えて右の手に持つ剣をくるりと遊ぶように回した後、背後に嫌な気配。

直感に任せてその場を跳び納刀していた刀を抜刀して向かい打てば風の刃を砕き斬る。

 

その間にもオリヴィエはリュウマを狙って駆け出し、回転して遠心力を加えながら剣を横から払った。

一撃目を返した刀で受け止め、続く二撃目は腰に差している鞘を抜き払って止めた。

火花散らす向かい側に居るオリヴィエは、鞘を使って受け止めたことに驚き笑みを深くする。

 

使える物は何でもあろうと使うリュウマの戦法は独特で、それこそ我が身であろうと使うならば使う。

戦い辛いが戦っていてとても愉しく生を実感出来る。

今…私は運命に定められている相手と凌ぎを削っているのだと。

 

どちらも一歩も退かないリュウマとオリヴィエなのだが、ここで違う場所から戦闘音が響き近付いてくる。

もうこのパターンは何度も経験しているので特に驚くことは無い。

やって来たのはやはりのこと、戦いながら移動しているバルガスとクレアである。

 

風の刃で斬り裂こうとするが強靱な肉体が刃を通さず確と防ぎ、一撃必殺の威力を持つバルガスの一撃はクレアに届く前に何重にも張られた風の結界に威力多少なりとも削られ最終的には避けられる。

刃の傷痕と破壊の余波を撒き散らしながら近くまで来たバルガスとクレアは、一時手を止めていたリュウマとオリヴィエの存在に気が付くと同時に動きを止めた。

 

 

「何だァ?4人揃ったのかよ」

 

「……何度も揃ってはいた」

 

「まぁそうだな。私は夫と殺りあっていたが」

 

「夫…!?ヤりあってた!?夫婦かよ!?つか、こんなところでヤってんじゃねぇよ!!」

 

「夫な訳が無いだろう愚か者め」

 

「……普通は…気付く」

 

「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

キレやすいクレアは馬鹿にされたことに腹を立てて取り敢えずリュウマへと風の大砲を飛ばし、それを見事鞘の腹を滑らせるように軌道を変えて受け流した力はバルガスの元へと向かう。

手に持つハンマーで向かってくる風の大砲を叩き飛ばしたバルガスの次はオリヴィエの元へと向かい、魔力を籠めた足蹴りでクレアへと返ってきた。

 

1周して舞い戻ってきた風にアタフタしたながらも同じ威力を籠めた風をぶつけて相殺。

元はと言えばやったのはクレアだが、狙われたことを逆恨みして全方位へと風の斬撃を繰り出した。

 

予期せぬ4人の同時戦闘に異を唱える者は居らず、それぞれは近くに居る者達を狙って攻撃を入れていく。

 

リュウマの足下から赤い雷が発生し狙われるが、体に届くと言った直前に察知したリュウマは避雷針となる剣をその場に用意して避けて躱し、避け先にいたクレアに向けて手に取った弓に矢を番え射た。

時速にして約230キロの豪速で迫る矢に焦ること無く、己を囲うように風の結界を展開して風の流に乗せ、1周させてバルガスへ向ける。

 

ハンマーを地面に埋め込んでリュウマの足下から出て来るように赤い雷を操っていたバルガスに向かう矢に一瞥し、魔力で強化した脚を振り上げて矢諸共大地を叩き割る踵落としを決めた。

衝撃で直線上の地面が隆起しオリヴィエを狙うものの、肝心のオリヴィエは両手を振り上げて魔力を籠めている。

 

内包する魔力に察してオリヴィエ以外の3人が宙へと飛んだと同時、振り下ろされた純白なる魔力が大地を蹂躙した。

跳んで避けようにも余りある威力に、リュウマもクレアもバルガスも爆発の余波によって飛ばされる。

 

リュウマは翼で空に、バルガスは地に脚で削って獣道を作りながら着地し、クレアは風を操り柔らかく着地した。

ちょうど前に3人が揃っているように見えるクレアが最初に仕掛け、魔力を扇子へと譲渡すると扇子が魔力を増幅させる。

 

 

「食らえや────『迸り殺す刃の轟嵐(アンブレラ・テンペスター)』ッ!!」

 

 

比較的前に居て察知していたオリヴィエは消えるように回避。

バルガスが吹き荒れる刃と爆風の嵐の餌食となりかけるがハンマーで地面を砕いて避難場所たる穴を作って潜り込む。

残ったリュウマが1番遠いというのに1番出遅れたという事で絶対絶命と化しているが……。

 

 

リュウマは戦いが始まってから……初めて手札を切る。

 

 

 

 

「禁忌────『廻り守護せん擬似太陽銀河(シュステーマ・ソラーレ・ギャラクシア)』」

 

 

 

 

発動された魔法はリュウマが考え編み出した中でも、こと防御力において絶大な信頼を寄せる魔法だ。

本来封印を全て外さなくては完璧な状態を作り出せないため、九つ出来上がる球体のうち二つだけしか出現していない。

 

しかしこの軽く国を細切れに出来る爆風を防ぐには一つで十分である。

周囲を廻っている二つの球体のうち一つ…『金星(ウェヌス)』を発動させた。

発動された金星(ウェヌス)は砕け散り、破片がリュウマの体を覆う球体へと姿を変えた。

 

透明感のある黒い膜は、真っ正面から迫るクレアの魔法を完全に防ぎきり傷一つ付いていない。

恐るべき耐久力に目を見張ったクレアは、まさか完全に防ぐとは思わなかった故の挑戦的な笑みを浮かべた。

 

 

「此を発動させた時点で、我への攻撃は二度と出来ぬ」

 

「……ならば…余が破壊してみせよう」

 

 

破壊王と呼ばれるバルガスが大地を蹴りリュウマへと向かっていき、手に持つハンマーを叩きつけた。

 

数年前にとある国が叡智を結集させて造り上げることに成功した、鍛え上げるのは容易ではないが超高度を持つ特殊合金製の戦車があった。

魔力を使って動くその戦車は、硬いという面で他の国からの支持を集め他国との戦いで大きな貢献をした。

 

次第に己の国に勝る者はいない、この兵器があるだけで我々は無敵だと驕りを見せ始めた国に挑まれたバルガスの国は、相手が噂の戦車だと知ると恐れを成したがバルガスは違う。

最前線に出ては狙い飛んでくる魔法の数々を躱し破壊し防ぎ、超高度の装甲を持つ戦車の前に躍り出る。

 

人にはこの兵器は破壊出来ないという驕りを叫んで宣う国の者達に、バルガスは無言で魔力を籠めたハンマーを使って剛打した。

 

すると、あれ程まで最高高度の兵器だと言われていた戦車は全体を粉々にひしゃげさせ、中に居る人間は勿論のこと潰れて皆死した。

その後も同じ戦車が立ちはだかるがバルガスは同じようにハンマーを叩きつけ破壊していく。

バルガスが走り抜けた後には無惨にも破壊し尽くされた残骸だけが残り、その光景を見ていた国の者が破壊王と呼び始めた。

 

やがてその呼び名が世間に浸透し定着した。

故に今バルガスのことを南の大陸の者達は尊敬の念を込めて破壊王と呼んでいるのだ。

 

立派な実績在りきの存在故にバルガスから繰り出される攻撃は正しく一撃必殺に万物粉砕。

だが────リュウマの禁忌魔法を破ることが出来なかった。

 

全力で打撃を加えたというのにビクともしない頑丈さ、堅固さ…それはただ単純に驚愕するに値するものだ。

手加減無しの攻撃を凌がれたバルガスは、続いて同じ所を二度三度と打撃を加えるも変わらず未だ健在である。

しかし、意地でも壊そうと試みているバルガスに、リュウマが呆れた視線を向けた時だった。

 

バルガスが体を後ろへ大きく仰け反らせ……膨大な魔力を溜め込み始めた。

クレアの時と同じく大きなのが来ると悟ったオリヴィエは退避し、クレアも不味いと思ったのか空へと逃げた。

リュウマはニヤリと笑みを浮かべながら中で腕を組み待つ。

 

待つこと数秒─────ハンマーが叩きつけられた。

 

 

「─────『万物粉砕せし破壊の業(デストルティオ・カタストロフィ)』」

 

 

大地が割れるのではと思える震動が走り、膜を張るリュウマを中心として周りの地面が蜘蛛の巣のように粉砕された。

だが……リュウマの魔法を破ることは敵わず。

 

 

─────ピシッ

 

 

「…………………は?」

 

 

しかし……なんと打ち付けたところに僅かではあるが罅を入れた。

罅程度しか入れられなかったかと、バルガスは内心残念にしていたが……罅を入れられたリュウマからしてみればとんでもないことをされたという気分だ。

 

絶大の信頼を寄せる防御魔法に、一撃で罅を入れたのだ……この魔法の根源がどのようなものであるのか開発したリュウマであるからこその驚愕であり、これ以上攻撃を入れられれば、そう簡単には壊されないだろうが罅が広がりその内砕け散るのではと判断してもう一つの球体と交換しようと……

 

 

「どれ、私が後押しをしてみよう」

 

 

と、そこでオリヴィエが躍り出てきた。

己の魔力と相対関係にあるオリヴィエの魔法を食らえば、流石の防御魔法と言えども罅在りなので持ち堪えるとは思えない。

 

 

「まっ…待て貴様…ッ!!」

 

「『崩壊示すは(エスカムル)──────」

 

 

両の手に持つ剣をを合わせると、二つを包む大きな純白な光の刃が形成され天へと伸びる。

最早叩き壊すとは言わず斬り壊すと言える予備動作に、リュウマは顔を引き攣らせて待ったを掛けるが全く止めようとしない。

 

仕方ないのでもう一つの球体で補強しようとしたが、その直前でオリヴィエが天へと伸びていた巨大な光の刃を振り下ろした。

 

 

「─────我が誇りよ(エルファダク)』ッ!!」

 

「補強し終わって─────」

 

 

叩きつけられたところが、狙ったとおりの罅の中心だった為に最初こそ砕かれず耐えてくれたが、次第に罅が全体へと広がり……砕かれた。

まさかこの魔法が砕かれるとは(本気で)思いもしなかったリュウマは咄嗟に刀を引き抜いて峰に左手を添え光の刃を受け止めた。

 

勢いはまだまだ残っていたのでクッションの地面がリュウマの脚から伝わる圧力に耐えきれず陥没していく。

顔に青筋浮かべるほど力を入れたリュウマは魔力を纏わせ、魔力の大放出を使って抵抗力を爆発的に上げた。

拮抗していた攻撃は白と黒が混ざり合い、化学反応が如く大爆発を起こした。

 

遠くに居ても見えるほどの爆煙を上げた中央には、やはりダメだったかという表情をしているオリヴィエと、割と本気で冷や汗を掻いたリュウマが立っていた。

 

 

「貴様等ァ……途中から三対一のように攻撃しおって…!」

 

「おいおい…アレ防ぐのかよ…?」

 

「……余では破壊…出来なかった」

 

「ふむ…絶対に当たると思ったのだが……やはり素晴らしき力♡」

 

「─────参る」

 

 

それなりに頭にきたリュウマからの超広範囲攻撃によって戦闘が再開され、戦う心に火を灯した王達の戦いは激化に激化を重ね……

 

 

 

 

────この日から実に…休み無く7日間続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ…!はぁっ…!」

 

「くっ…はっ…!げほっ…!」

 

「く、クソ…ったれ…!」

 

「ふぅ…!ふぅ…!」

 

 

本当の意味で7日7晩戦い続けていたリュウマ、オリヴィエ、クレア、バルガスは、決定的な一撃を食らわず凌ぎ防ぎ合いながらここまで来た。

体力が化け物である王達とも言えども7日間連続戦闘は堪えたのか、額に大量の汗を掻き膝を地に付けそうになりながら立っていた。

 

と言ってもリュウマは刀を地に刺して杖代わりとし、オリヴィエは両手の剣を同じように刺して二本の杖代わりとしていた。

クレアは脚がガクガクと震える程限界が来ているのでどうにか風のクッションを使って立っている。

バルガスはもう持ち上げていられないハンマーを握って腕を垂らすように脱力し、もう一方の手は膝に置いて休んでいた。

 

ある意味息が絶え絶えになっている4人も凄まじいが、この場に来ている各々の国の兵士達も己の王が戦っているのに帰る訳にはいかず、隊列を崩していないものの立ってはいられないので座り込んでしまっている。

軍も飲まず食わずで7日間…例え何もしなくても疲弊しきっているのでもう帰る力位しか残っていない。

 

王達は倒れそうになりながら、震える脚を前に出して進み、脅威とは思えない程の力無い動きで武器を振る。

しかしやはりのこと、少し避ければ当たらないので不発に終わり、代わり反撃されてもまた避ける。

こんな状況でも戦いが終わらないのは流石だが、本当に限界だった。

 

 

 

だが……この瞬間を待っている者達が居た。

 

 

 

4人集まっている所に突如、空からかなりの魔力が籠められた魔力球が放られて着弾し爆発した。

着弾し爆発する瞬間、各々の張った魔力壁によって真面に食らうことこそ無かったが、4人が一様に飛んできたと思われる方向を見ると……王達の魔法で異様な熱を持つ大地の所為で先が揺らめくように見える陽炎を作り出すが、それでも分かってしまう程に視界を覆い尽くす莫大な量の兵士達が向かってきていた。

 

誰の軍だと問い詰めるように鋭い目線を送るリュウマに、急いで首を横に振る3人はシュールだっただろう。

だが今はそんなこと言ってられない。

嘘をついていないことを魔法でも確認したリュウマは、誰の…というよりどの国の兵士達なのか見極めるために魔力で視力を強化して掲げる旗を見た。

 

そして驚愕……。

 

 

「おい、我の治める東の大陸に存在する国の他に貴様等の大陸にある国の旗を確認した」

 

「……は?それは本当か?」

 

「ア゙ァ゙!?げほっ……どういうこった?」

 

「……まさか」

 

 

固まっていて疲弊している自国の兵士達ではなく、真っ先に自分達を狙われ、剰え掲げる旗にはそれぞれの大陸に建国されている数多くの国の印がある。

 

最初にこの4人が邂逅した時、何故か分からないが誰1人同じ敵と認識している者が居なかった。

となると導き出される答はかなり絞られてくるわけであり、この状況を察した王達は顔を見合わせた。

 

 

「「「「─────嵌められた?」」」」

 

 

正しく嵌められている。

 

目の前に広がる合わせて六百万という莫大な兵士達は、世界中に居る「4人の王達が気に食わない」と思っている国全ての兵士達であり、兵士の他にも使役しているのか猛獣の群れと、全体を日の光で輝く鉄で覆われた戦車など、完全武装をしている。

 

王達が攻撃を受けたので立ち上がり武器を手にする四国の兵士達だが……残念ながら空腹に疲弊と重なり、一騎当千の力を持つ翼人の兵士達ですら戦う力が残っていない。

見せかけでしかない戦闘態勢を見ていた王達は、自国の兵士達に休んでいろと伝えて己が前に出た。

 

今1番動けるのは、1番動いていた筈の自分達であるということを既に承知している王達は、隊列を組む兵士達の間を抜き……六百万の兵士達と己等の兵士達の間の空間に躍り出た。

 

まだ六百万の兵士達の到着まで大凡十キロある。

だが、如何せん数が多すぎて直ぐそこにまで来ているように錯覚をしてしまう。

それでも王であるリュウマ、オリヴィエ、バルガス、クレアの四名は大群を見遣り……お互いを見つけた。

 

 

「何をするつもりだ?我が殲滅する。貴様等は退いていろ」

 

「あ~?てめぇさっきそれぞれの国に存在する国があるっつったろうがよ。ならオレんとこ(北の大陸)の奴等もいんだよな?だったらオレがやんなきゃダメだろうが」

 

 

「私も同意だ。しかし…クレア…と言ったか?貴公は休んだ方が良いのではないか?脚が震えているぞ」

 

「あ゙ぁ゙?これはてめぇ等がさっさとぶっ倒れねぇから7日間も動いてたんだろうが!!特にてめぇの攻撃が重いんだよ!!」

 

「……余は度重なる速撃に…腕が痙攣している」

 

「我は別段疲れは残っていないがな」

 

「私は魔力が少し危険域だな。……貴方は何故そうも大丈夫そうなのか甚だ疑問だが…」

 

「チッ!体力馬鹿が……!」

 

「……余ですら…疲労が来て魔力も…残り少ない」

 

 

揃って認知した王達は、無駄口叩きながら歩みを進めて大群へ目指す。

超遠距離攻撃が飛んでくるが、狙いがお粗末で当たりかけることすら無い。

 

脇を通り過ぎる攻撃になど見向きもせず、飛んできて偶々当たりかけた魔力で強化された矢をリュウマは掴み取って握り潰す。

 

 

「……これは提案なのだが」

 

「ん?」

 

「あ?なんだよ」

 

「……。」

 

 

ここでリュウマが口を開き提案を持ち出した。

特に何を思う事も無く歩っていたリュウマ以外の王達はリュウマを見て、今更なんの提案か頭の上に疑問符を浮かべた。

 

 

「浅はかにも嵌められた者同士─────協定を組まぬか?」

 

「「「─────────ッ!!」」」

 

 

提案した内容とは……即ち一時的な協力関係である協定。

それぞれが世界を股に掛ける大物達であるからこそ驚愕する内容に、例外なく驚いた表情を作った。

 

だが、オリヴィエは驚いただけで次には微笑みを浮かべながらリュウマの隣へと移動し、右腕を巻き込んで抱き付いた。

間合いに入ったので危なく反射的に斬ってしまいかけたことにジト目を向けながら見下ろせば目が合う。

 

 

「私は構わない。初めての共同作業だな♡」

 

「……そいつは置いておくとして…。お前分かって言ってんのか?」

 

「……類を見ない」

 

「無論承知の上でだ。この場を借りて言ってしまえば…我と7日も戦闘を続けられる貴様等を我自身が気に入っておるのだ。これまで真っ正面から戦えるのは父上母上置いて他に居ないとさえ思っていた我に新しき世界を…そして、そんな世界に光り輝く眩いまでの色を付けた()()()のことを」

 

「……チッ」

 

「……ぬぅ…」

 

 

リュウマが言ったことを理解出来なかった訳ではない。

バルガスやクレアとて人類の到達点とまで言われた絶対強者達だ。

どれだけ戦っても訪れるは……圧倒的勝利。

 

 

だが、今回は如何だろうか?

 

 

敵う物なしとまで常々思っていた己自身に長き時を凌ぎを削る戦いを行える者達がこんなにも居るではないか。

 

 

白状しよう。

 

 

倒すと思っている傍らで────楽しんでいた。

 

 

撃っても投げても殴っても放っても…どれだけ策を巡らし実行し陥れても、悉くを凌駕して無力化した。

その後は直ぐに反撃が飛んでくるし倒れやしない。

 

周りは凄い凄い、あなたこそが最強であると褒め讃え尊敬の眼差しを送り畏怖する。

 

 

最強というのは─────虚しいのだ

 

 

どれだけ戦っても結果が見えてしまう。

 

どれだけ軽く攻撃しても、それは他人からしてみれば大いなる一撃…倒れ伏す他ない。

 

どれだけ強者を求めても現れず、いざ〇〇の強者だと紹介預かり手合わせすれば……つまらぬ勝利。

 

 

これの一体何が楽しいというのだろうか。

 

 

確かに誇るべきなのだろう、讃えられるべきなのだろう、畏怖されるべきなのだろう、羨望の眼差しを受けるに相応しいのだろう。

 

 

だが自分達は全く嬉しくは無い。

 

 

並ぶ者無き力は虚しい他ないのだ。

 

 

しかし、この日は違った……どれだけ思いっきり戦っても持つ…どれだけ魔法を使おうとも咎められず死力を尽くせた。

 

そんな者達とこれからも顔を合わせ、時には更なる高みを目指し競い合い、戯れ程度の話をして盛り上がる。

用意された料理を共に食し無駄な会話を楽しむ。

 

 

なんと甘美な事であろうか…ッ!

 

 

故にリュウマへの返事はこうだ。

 

 

「─────いいぜ。乗った」

 

「─────国の平和にも繋がる」

 

「─────私は元々そのつもりだった」

 

 

3人の答は肯定である。

答えに満足したリュウマはニヤリと悪どい笑みを浮かべると両手を広げた。

それに伴い背の6枚の翼も大きく広がり魔力を放出する。

 

空から光り輝く雪が降ってくるように見える光景に上を見上げていた3人の王達は、ふと何かを感じて視線を落として広げた両の手を見た。

7日間連続の戦闘故に皮が捲れ肉が見え血を流していた手の皮が……治っていた。

 

それだけではない……失い枯渇寸前であった魔力ですらも驚異的速度で魔力の器を満たし力が漲る。

傷を治し魔力を分け与えたリュウマは今是に宣言した。

 

 

「では征こうぞ我が盟友達よッ!!誇り高き代表国が王を嵌めた事を骨の髄にまで教え込ませてやろうではないかッ!!!!」

 

 

敵に回すととんでもなく厄介だが、自分達側に付くとここまで頼もしくなるのかと、武器を取り出して魔力を迸らせる王達は凄みのある笑みを浮かべた。

 

 

「オレは矢鱈と上から狙って来る奴等をやるわ」

 

「……余は見覚えのある戦車を」

 

「私は何やら似たような気配を感じるからな。其方へ向かおう」

 

「我は地を這う塵山の掃除といこう」

 

 

斯くして王達は再びその力を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁってとォ…。戦ってて思ったけどよォ…あいつ戦いながら回復してるから厄介だとは思ったが、他の奴にも出来るんだな」

 

 

最初に攻撃を開始したのはクレアだった。

前に広がるのは敵…敵…敵…敵のみ。

その中でもクレアの前に居るのは殆どが魔法を使える者達で、中には使えない者が居るが…その手には先端に火を付けた弓矢を持っている。

 

彼の王達を遠距離から仕留めようという魂胆かも知れないが、クレアに対してそれは心許な過ぎた。

バルガスならば遠距離攻撃が限られてくる所なのだが、クレアの呼び名は轟嵐王…それは正しく吹き荒れし嵐の如く。

 

 

「よくも嵌めてくれたなァ…オレを怒らせて生きて帰れると思ってんじゃねぇぞッ!!」

 

 

魔力を滾らせて周囲に暴風を纏うクレアに恐れを成して脚が竦み、前進していた兵士達が隊を止めて列を乱す。

しかしその頃には既にクレアの準備は整い終わっており、前に居る約百万の兵士達に死の風を届けた。

 

 

「─────『吹き荒らす死の風(デスペナル・テンペスト)』」

 

 

頬を撫でるのは何てこと無い拍子抜けにすら感じる暖かな風。

 

 

だが……その風は文字通り死の風。

 

 

風に触れた所から崩壊が始まり、固まった土のように肌が崩れてしまう。

この風に触れてしまった百万の兵士達は激痛に気が付いて慌てふためき、無駄に藻掻くことで崩壊の速度が更に上がる。

 

泥人形が崩れるように死に絶えていく光景は悲惨なもので…後に残ったのは体が崩れて無くなった事で残された武器と防具だけだった。

性格と言動から見た目と反して動的な攻撃をすると思われがちだが、クレアは静を以て制する事だって出来る。

 

これはクレアを狙ってしまった者達の……当然の定めであるのだ。

 

 

「ケッ……こんな雑魚がオレを狙おうなんざ100万年はえーんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見たことがある…戦車だ」

 

 

バルガスの目に映るのは、数年前に自身が残らず破壊し尽くした鉄壁とまで言われた戦車の大群。

それまで圧倒的戦力であった戦車はしかし、バルガスに破壊されてからは多大な労力と金を使うことから疎まれるようになっていた兵器の一つだが、今回は世界中の国が結託して至近もあるので大量生産したのだ。

 

だが、結局はバルガスの手によって破壊され尽くした鉄の塊に過ぎない。

 

やることは変わらないバルガスは地面にハンマーを叩きつけて反力で飛び上がり、大群のど真ん中に降り立った。

付近で進軍していた兵士を叩き潰し血を被りながら横凪にハンマーを薙ぎ払う。

2、30人巻き込んだところでやっと全体がバルガスのことに気が付いたようで円を広げて広がる。

 

遠くから戦車の稼動音がするのを聴き取って頃合いだと判断し、バルガスは赤い魔力を立ち上らせてハンマー一転に濃縮していく。

やがて溜め込んでいる内に戦車が到着し、装着している砲門をバルガスに向けたとき……ハンマーを地に叩きつけた。

 

 

「──────『怒り哀しむ大地の孔(バンデオス・アバドン)』」

 

 

地上に…地獄へ通ずる大穴が空いた。

 

明日の地面がかち割れて地割れが発生。

鉄の装甲故に持つ超重量に耐えられず墜ちていく戦車を、バルガスは無感情に見ていた。

そこには人であろうと例外は無く、大群は転げ落ちて止まることの出来ない石のように穴へと墜ちていってしまった。

 

穴は下が見えない程に大きなものだったが、やがて大陸の横からの圧力によって少しずつ元に戻っていく。

仮に墜ちても辛うじて生きていたとしても、この大地の修正によって死に絶え、遠い未来の化石となる事だろう。

 

だが、ここは生憎なことに王達の先頭で地表を削られすぎて大きな凹凸が出来ている。

やがて訪れる大嵐の降り止まぬ雨と洪水によって湖と化し、埋まってしまった者達が世間の目に晒されることは無いのだ。

 

嫌な予感を感じ、参加したくはなかった家族を置いてきた兵士達も同罪であり、参加してしまったことには変わりは無い。

 

 

「……ムゥ。……余が二番目…か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、西の王だァァァァァァァ……ッ!!」

 

「ひ、ヒィィィ…ッ!!」

 

「や、やべぇよ…こ、殺される…!!」

 

 

「ふん。狙っておきながら及び腰とは…これだから私達を危険視している国は……」

 

 

曲線を描きながら魔法で浮遊して途中途中兵士を斬り殺していたオリヴィエは地に降り立ち、兵士はオリヴィエを視界に入れるや否や後ろへと下がってしまった。

狙っておきながら攻撃もしてこない敵兵に呆れを通り越してリュウマの事を考えていた。

 

最早自分達のことを内心敵とも見られていない兵士達は恐怖で竦み上がっているが、奥に居る魔術師達は慌てることも無く準備していたモノを発動させた。

 

何を隠そう、数日前に案で出て来たヤクモ十八闘神を召喚させる作戦を採用していたのだ。

ただ、ヤクモ十八闘神を召喚するのは、術者と膨大な魔力を持っていなければいけない…という訳ではない。

必要なのは、一体につき複数の術者か、1人膨大な魔力を持つ者。

それらを()()()()()()初めて召喚に成功するのだ。

 

人間は死に関してデリケートで、誰もが生きたい…死にたくないと思うのが常なのだが、今回の戦いにおいては正に決死の覚悟で挑んでいる。

つまり……死の覚悟があるのだ。

 

 

「「「今是に生贄を捧げ……ヤクモ十八闘神を降臨する!! 我が敵を討ちたもう願い奉る!! 来たれ──────我が神よッ!!」」」

 

 

『『『『──────オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』』

 

 

 

「ほう…?確かに神の気配はするが…()()()()()()()()()

 

 

自軍の兵士を所々で踏み潰しながら顕現したのは、やはりのこと十八いる闘神である。

 

その体は山よりも大きく、感じられる魔力は何千人分の魔力を集めたとしても足下にも及ばない強大なもの。

見る人はこの光景に絶望するだろう。

 

ただ大きいというだけでも足で踏み潰されれば終わりなのに、相手は闘いに関する神であるのだから。

手にはそれぞれ巨大な武器を持ち、鬼のような顔を晒して目線を合わせるのに浮遊したオリヴィエを捉えて離さない。

圧巻の一言である神々の顕現にオリヴィエは……退屈さを感じていた。

 

前に闘神がいるというが、オリヴィエは滅神王……こと神に関しては絶対の力を持っているのだ。

 

物量で押すならば未だしも、オリヴィエを相手にヤクモ十八闘神を向かわせれば反撃に遭うと会議でも結論を出しておきながらこの有様。

救いようが無く、失策としか言いようが無いだろう。

 

その証拠にオリヴィエは─────既に一体の神の首を斬り落とした。

 

 

「私に対して神をぶつけるとは……はぁ…可哀相でも何でも無いが、頭の残念な者共の集まりなのだな。まぁいい……神を殺して()()()()()()()()()

 

 

刹那の内に一体の神の首元に行き、剣を一本だけ使って頭を落とすと……双剣が白く淡い光を出しながら脈動した。

残り十七となった神々は、光の粒となって滅せられた神のことなど目もくれずオリヴィエに群がる。

 

一歩で足下の兵士を数百人潰し、十七体で二千人は一歩で潰しているので密かに一石二鳥だと思いながら、オリヴィエは向かって縦一列に並んでいる四体の神々に左手の剣を投擲した。

 

重力を感じさせない位に直線上で突き進んだ剣は、先頭の神が持つ武器で防がれても進みを止めず、衝突した武器を砕き割って胴に大きな風穴を開けて尚のこと進み…後ろにいた残り三体の神を易々と貫いた。

目から光を消して滅せられた四体を神々は手から武器を取り溢し、下に居る兵士を潰してしまう。

 

神を殺される一方で自軍の兵士を失っていく生贄となった魔術師とは違う魔術師が、残り十三のヤクモ十八闘神に、多少の犠牲は仕方ないと考え前後左右からオリヴィエを狙うように指示を出した。

従った神々が十三体定位置に着くのを()()()()見届けていたオリヴィエは、剣の先に強大な純白な魔力を溜め込んでいた。

 

地面と平行になるよう伸ばした左右の手には純白の剣がそれぞれ握られ、先端には注視してやっと見える程度の光を纏わせている。

だが一方で計り知れない魔力を感じさせる剣の先端から……直径1センチ程度の極細のレーザー状で魔力の光線が放たれた。

 

 

「─────『神の命絶つ淡き晄(デフューザル・フルルミナス)』」

 

 

二条の光の光線は狂い無く左右から向かってきていた神の首を穿ち、時計回りで勢い良く四回転すると……光線に斬られ、神々はまるでサイコロのように分割されてしまった。

だがそれだけでは終わらず、神々の肉の破片は崩れ落ちて消える前に散乱して下の兵の殆どを潰してしまった。

 

それでも残っていた運の良い兵士達は勝ち目が無いと叫びながら踵を返してその場から逃げ去っていく。

然れどオリヴィエは逃がさず。

 

放ち続けていた光線を使って、走り逃げ惑う兵士達を囲うように円形に地面を刳り抜いて、持ち前の膨大な魔力で刳り抜いた大地を持ち上げると引っ繰り返して墜とした。

他の兵士には光線をそのまま向けて体を分割して死体へと変え、一切の容赦なく百万の兵士をものの数分で壊滅させてしまった。

 

 

「……不完全燃焼だ。………そうだっ。この後は……ふふふ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空にいんのって……」

 

「あ…ぁぁ…東の大陸の王…」

 

「リュウマ・ルイン・アルマデュラだぁ…」

 

「殲滅王……」

 

「か、勝てる訳がねぇよぉ……!」

 

 

「ふむ。矢鱈と我の所には兵が集中しておるわ。数は……311万4672…か。五分あれば十分だ。神器召喚────」

 

 

魔法を使って敵兵の総数を見破ったリュウマは、オリヴィエ達とは違って三倍はいる兵士達を空から見下ろして小さく呟いた。

殲滅王の名に違うこと無く、リュウマは事殲滅という面において比類無き力を発揮する。

 

だがそれは、巧みな魔力操作などを使った戦法ではなくて、ただ目の前の敵を残らず消すためだけに力押しで使う殲滅魔法のことだ。

数年前に数国を壊滅させてからは、この様なことがもう一度あると面倒だということで魔法の開発に一時期のめり込んだ。

 

その時に出来上がってしまったのが禁忌魔法なのだが、それとは別に目的だった殲滅魔法は完成していた。

結局大群で襲ってくることはなく、お披露目の幕は上がらなかったが、今はまさにその時とも言えよう。

 

 

万象一切灰燼(ばんしょういっさいかいじん)()せ────『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』」

 

 

背後の黒き波紋から引き抜いた刀を抜き放てば、雲を蒸発させる程の莫大な熱量が噴き荒れる。

地上で抜き放てば精密な熱調節が必要な危険極まりない刀だが、遙か上空で解き放てば幾らかマシとも言える。

 

眼下に居る凄まじい人間の数に、一気に殲滅戦を開始したリュウマは先ず……刀の本当の力を解放した。

 

 

「─────卍解」

 

 

手に持っていた刀から放たれていた爆炎はその形を消し始め、刀の中に無理矢理押し込めるように封印すれば、姿形が普通の刀であった流刃若火の形状は…刀身を短くさせた。

 

 

「────残火(ざんか)太刀(たち)

 

 

刀身が封じ込めた爆炎によって焦げて炎ではない熱を放っている刀を、下に向けて言い放つ。

 

 

「残火の太刀 南 『火火十万億死大葬陣(かかじゅうまんおくしだいそうじん)』」

 

 

兵士達を囲うように足下の地面が盛り上がり、中から遺骨化した人の骨が出て来る。

これまで斬った者達の灰に刃の熱を与えて叩き起し操る技なのだが、リュウマは改良を加えて斬らずに兎に角この刀で殺した者達を蘇らせる。

 

蘇らせられた死者は黒い骸骨のような姿で敵を塵となるまで追い詰める。

蘇らせると言ってはいるが魂は入っておらず、刀の炎を与えられているだけなので生き返った訳では決してない。

なので、この骸骨を殺したとしても直ぐさま直って再び襲い掛かってくる。

 

 

「あづいぃいいぃぃいぃ…ッ!!」

 

「た、助けてぇ…!!」

 

「この骸骨…砕いても直っちまう!」

 

「何なんだよぉ…!!」

 

 

囲われることで必然的に中央に集められていく。

 

外側の兵士が骸骨に焼き殺されていく一方で、リュウマは内側の兵士に急降下して向かう。

外側と内側の境処に降り立つと同時に、刀を振り下ろして一人の兵士を唐竹割りで半分に斬り裂くと、刀が地面に……触れた。

 

 

すると──────直線上の一切が消し飛んだ

 

 

谷になる程まで消し飛ばされた大地と一緒に、兵士の数万人が巻き添えになって細胞一つ残さず消し飛ばされる。

爆炎で燃やすことが無いこの刀は、ただただ目の前のものを消し飛ばすのみ。

 

 

そんな刀を……左から右に薙ぎ払った。

 

 

「残火の太刀 東 『旭日刃(きょくじつじん)』」

 

 

大地を消し飛ばす力が横凪に振るわれ、地上に列を成している兵士達の三分の二が消し飛んだ。

 

たった一刀……たった一刀で約二百万の人間が消されたのだ。

 

残った百万人の兵士達に目を向けると、先頭にいた兵士が恐怖から白目を剥いて失禁しながら気絶した。

何もしていないのに次々と気絶していく兵士に、可笑しそうにクスクス笑ったリュウマはしかし……その笑みからは想像できない凶悪な魔力を迸らせる。

 

 

「殲滅魔法────『狂い迫る恐怖(フゲレス・フォーミュラァ)』」

 

 

この魔法は敵が多く、強ければ強い程凶悪と化す魔法であるのだが、その魔法の効果とは……対象に恐怖から来る強烈な『生き長らえたい』という感情を付与させるという魔法。

 

別に一瞬で敵を死に至らしめたり、苦しめたりと直接的な魔法ではなく─────仲間内で争わせる魔法。

 

『生きたい』という強烈な感情は、周囲に居る人間が自分の生き長らえる為には邪魔以外の何物でも無いという風に錯覚させる。

するとどうなるだろうか?

 

邪魔者を排除する為に隣の兵士に武器を振り下ろし殺すと、他に目に入った者を今度は襲い殺そうとする。

しかし襲われた側も邪魔者としか思っていないので反撃に出てどちらか一方が殺すという循環を繰り返す。

数は半分ずつ死に絶えていき、3分後には既に一人の兵士を残して全滅だ。

 

生き残った兵士は終わった後に達成感を感じるが、リュウマが魔法の効果を消すことで次第に絶望した表情となる。

仲間を殺したという意識から罪悪感と嫌悪感が生まれ、最後に残った兵士は……仲間の血を滴らせる剣を首に当て…斬り裂いた。

 

斯くしてリュウマの殲滅は、リュウマの宣言通りものの五分で完了してしまったのだった。

 

 

「無駄なことをする者は……やはり出て来るのだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレが一番乗りだぜ」

 

「……順番は…関係ない」

 

「質ならば私が断トツだろう」

 

「量ならば我だがな」

 

「オレは…オレは……チクショウッ!!」

 

 

戦っていた所に戻ってきた王達は、最初の頃とは打って変わり軽いノリで話し合っていた。

血を血で争うような戦いが待っていると思っていたそれぞれの兵士達は、戦わないことに超したことはないと安堵の溜め息を吐く。

 

世界で初めて四つの大陸が一つになったことは類を見ず、歴史的快挙であると言わざるを得ない。

一つの悪意から始まった戦争で、リュウマ、オリヴィエ、クレア、バルガスは……唯一無二の友を得たのだ。

 

暫く談笑していた四人だが、少しずつ話が終わりを迎え沈黙を生んだ。

 

 

この場に居る四人は─────武器を手に取る。

 

 

「回復させて貰ってわりーんだけどよォ……オレさっきので不完全燃焼食らってよォ」

 

「……同じく」

 

「私はまだ貴方を負かし終わっていないからな…ふふふ♡」

 

「……であれば…だ」

 

 

「「「「少し手合わせ願おうか…全力で」」」」

 

 

これからが本番である。

 

また7日間続いたような長期戦が始まるのかと、軽く絶望を感じている兵士達を尻目に、離れているようにと指示を出した王達は回復した魔力を滾らせて、武器の力を本当の意味で解放していった。

 

 

「解放────」

 

 

バルガスからは─────赫い魔力が。

 

 

「解除────」

 

 

クレアからは──────蒼き魔力が。

 

 

「解禁────」

 

 

オリヴィエからは────純白なる魔力が。

 

 

「解号────」

 

 

リュウマからは─────純黒なる魔力が。

 

 

 

 

 

今 解き放たれる

 

 

 

 

 

万物破壊(ばんぶつはかい)はこの世の(しるべ)(なり)──『赫神羅巌槌(あかがみらがんつい)』」

 

 

バルガスの赫い魔力が破壊の力を撒き散らし、大地を粉砕していく。

この魔力によってもたらされるのは破壊のみであり、一切の生還を許さない凶悪な魔力である。

 

 

「いと()(あれ)厄災(やくさい)(ごと)く──『蒼神嵐漫扇(あおがみらんまんせん)』」

 

 

クレアの周囲に数多くの巨大な竜巻が発生し、中心に居る美しき少女の外見を持つ男のクレアの体からは蒼き透き通った魔力が立ち上る。

嵐を生み出す事が出来るこの魔力は、静かで清らかな魔力に思えるのに、体からは危険信号を発せさせる。

 

 

(すべ)てを(つつ)()()(かえ)せ──『皓神琞笼紉(しろかみせいろうじん)』」

 

 

解禁されたのは、総てを優しく包み込み安心と安寧を感じさせる優しき光の魔力。

なのに何故だろうか……この身の毛もよだつ力の波動は…味方ならば頼もしく優しい力に感じるのに、敵となればここまで恐怖を煽ってくるのだろうか。

 

 

3人の力が対抗しあい、世界が悲鳴を上げている……が。

 

 

 

 

 

その全ては此処までである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(すべ)てを()()()(つぶ)せ──『■神世■■』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「──────────ッ!!??」」」

 

 

言葉では言い表せない……途方も無い力が世界を覆い尽くし、純黒な黒へと塗り潰されていく。

 

これまで計り知れない力を出していた3人の力が……消え去った。

 

驚いて武器に目を落とし、魔力を送り直そうとするも……()()()()()()使()()()()()()()()()

 

 

 

 

「この力を使うのは父上母上を除き初めてだ。故に誇るが良い。これが─────我の真の力だ」

 

 

 

 

 

()()()()()()()()リュウマの力を…3人は思い知った。

 

 

互角?とんでもない。

 

 

最早相手はリュウマ一人に絞られた……でなければこれは戦いということにすら発展しない。

 

 

 

 

争いというのは……同レベルの者でしか発生しないのだから。

 

 

 

 

最初の7日間が何だったのか?

 

 

 

この戦いは……たったの数時間で終結した。

 

 

 

後にリュウマ以外の3人は語る。

 

 

 

 

 

「彼奴の力は流石に反則だろ」と。

 

 

 

 

 

「こ…いつっ……化け物…かよッ……!」

 

「がはっ……余は…もう…動けん……」

 

「うっ…ぐッ……ふふ…ふ…凄まじい…力…」

 

 

「──────クックック…フフフ……クカカッ……クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!フハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!ハーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!いやはや…何と素晴らしき事か。我は生まれて初めて全力を出したぞ…そうか……()()()()()()()()()()()()()()ッ!!ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!……ふぅ…」

 

 

「「「早く治してくれ。体中が痛い」」」

 

「……やり過ぎたか?」

 

 

 

健全で…()()()()()()()()()()()()リュウマは、目の前でボロボロで倒れている3人に魔法を施して傷を治してやった。

 

 

この時…非公式であるが、リュウマは確かに……

 

 

 

 

 

世界の頂点に君臨した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーったくよぉ…?なんなんだよあの力はよぉぉ…?ずりーだろーがよぉぉぉぉ………!」

 

「……うぅむ……ぐごーー……っ」

 

「ふふふ♪さぁ、もう一杯どうだ?お酌するぞ?」

 

「ふはははははぁっ。ではいただこうっ…おーい料理はまだかーっ。これの三十倍は持ってこんかーー!!」

 

「は、はいぃ…!た、ただいまぁ!!」

 

 

取り敢えず終結してから一旦自分の国に戻り、疲弊しきっている兵士達を休ませ、7日間の不在でたまりに溜まってしまっている政務を終わらせたリュウマ達世界を代表する四人の王達は、豪華絢爛に造った会場で四人だけの集まりを開き楽しく飲んで食べて騒ぎ、仲を深めていた。

 

因みに、7日ぶりに帰ってきたリュウマの母親であるマリアは、心配で7日間録に眠ることが出来ず目の下に隈を作りながらリュウマを出迎えた。

走って来てはあのリュウマが、くの字に曲がるほどの威力で抱き付いたマリアは、心配に比例して強くなる力で抱き締めたリュウマを鯖折りにして殺しかけた。

 

何とかアルヴァに止めてもらって事なきを得たが、リュウマはマリアを心配させないようにしようと心に誓いながら、痛む腰を擦った。

 

所戻り、宴会が始まってからというもの…楽しく談笑していたまではいいが…運ばれてきた料理と酒に手を伸ばし始めた頃にクレアが一口で酒に酔った。

可愛らしい容姿に舌足らずな言動と頬をほんのりと赤く染めるという、なんともそそられる状況……だが男だ。

 

そんなクレアを膝の上に載せて頭を撫でているのがリュウマで、バルガスはテーブルに突っ伏して片手に骨付き肉を握りながら爆睡。

 

オリヴィエはリュウマの膝に座って頭を撫でられているクレアに嫉妬しながら、それを表情におくびにも出さずリュウマの持つグラスへ酒を注ぐ。

もう既に50人前の料理を平らげ、20樽分の酒を飲み干しているリュウマは酔ってベロンベロンになっているが、更なる料理を出すよう料理人に叫ぶ。

 

 

「ふふふ。酔っている貴方も素敵だ♡」

 

「ふはは~…そうだあろう そうであろう…!」

 

「な~に~?おれのほうがいい男だぜ~…!」

 

「お前は……可愛いだけであろう」

 

「誰が可愛いじゃーーーー!!!!」

 

「ふはは。女と見間違える美貌だぞー、誇るが良いわー!かははははははっ」

 

「……うむ。そろそろ仕掛けるか」

 

 

最早椅子から立ち上がったら倒れる程には酔っ払っているリュウマに、オリヴィエは近付いて体に触れると、とある魔法を発動させた。

 

効力を発揮するには少し時間の掛かる代物であるといわれたモノだが、そんなことは気にせず気長に待ち、その間にアプローチを仕掛けようと考えていた。

 

確かに戦いには負けてしまったが、リュウマからの印象は悪くなく、己より強い者にしか興味が無いと言ったがやはり運命の相手。

時々無意識なのだろうが太腿や胸等に視線を感じていることに、オリヴィエは確かな好印象を感じていた。

 

友となってから遠慮が(元々だが)無くなっているオリヴィエは、リュウマに微笑みを浮かべた。

 

あれだけ殺し合っていた四人が、今では態々何千キロも渡って集まっては食事をしたりしているのだ。

酔っ払って平衡感覚が可笑しいことになっていながらも、オリヴィエにステーキを口へ運んでもらっているリュウマは……楽しそうだった。

 

 

 

因みにだが、騒ぎすぎて眠りこけた3人は両親が回収しに来て、オリヴィエは飲んでる風で飲んでいなかったので付き人と帰っていった。

 

 

 

 

 

 




伏線の数把握しきれていないかも……?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。