FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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一段落ということで、ヒロインとの話を上げなくては…。

物語には必要不可欠ですからね?

え?待ってた?……ではどうぞ

つ(イチャつき?話)




第玖刀  日常  ところにより非日常

 

リュウマ達が世界を代表する……ではなく、初めて出来たかけがえのない友達…という者達と一緒に飲んで騒いで楽しんだ宴会から実に7日経っていた。

 

また一緒に騒ぎたいところではあるが、王としての政務をやらないわけにはいかないので中々予定が組めないのだ。

それぞれの国から数千キロ離れているという果てしない距離に居るが、この四人に限っては本気を出せば僅か一刻程で着いてしまう。

なので、予定さえ合えば会えるのだが……リュウマはそれとは別にちょっとしたことで又も頭を悩ませていた。

 

何に頭を悩ませているか?……それは……

 

 

「陛下?あの…西の大陸代表…陛下の盟友であるオリヴィエ様から贈り物が届いております」

 

「…………………………はぁ」

 

 

宴会から7日経っていると言ったが、その7日間にオリヴィエから凄い量の贈り物が届くのだ。

酒から食べ物から、リュウマ宛の美しい花束に、花に添えられた読んでいるこっちが照れてしまうようなポエム等々。

 

贈ってくるのはこの際よそう。

しかし問題なのが、これらを見た大臣達やマリア等がリュウマに中々見られなかった浮いた話なので絶対に逃さないようにと、あれやこれやと手を組んで話を持ってくるのだ。

 

別に嫌いという訳ではないが、運命に縛られているというところが気に入らないのだ。

自分の相手は自分で決めたいリュウマとしては、結婚という面においてオリヴィエはまだまだ好感度が足りなかった。

何故と言われても、仲が良いといっても…結局の所会ってから2週間位しか経っていないのだから。

 

一方オリヴィエ側としては、リュウマがそんなことを思っているのは百も承知なので、結婚しても良いと思えるような…戦いでは負けたが気持ちの勝負では勝利を収めようと健気にも頑張っているのだ。

花束だって取り寄せた物ではなく、オリヴィエが住まう城の中庭にある庭園で手間暇掛けてオリヴィエ自身が育てた花達だ。

 

見えないので分からないが、リュウマのために花を摘み取っている時のオリヴィエはとても可愛らしく楽しそうだと、雇われている使用人は微笑ましい気持ちで見守っている。

 

因みにだが、数千キロ離れているのに1日で荷物が到着するのは、贈るための手段として飛ぶ速度が速いドラゴンをオリヴィエがボコボコにして、死にたくなければ荷物を運べと脅している。

万が一逃げようとすれば感知して自動的に大爆発する条件発動型の爆弾魔法を頭の中に設置しているのだ。

なのでドラゴンは、泣く泣くオリヴィエの荷物受け渡し係になっている。

 

 

「……全く…彼奴ときたら。仕方ない。貰われてばかりでは我の沽券に関わる。何が良いものか……」

 

「あのっ 恐れながら申し上げますっ」

 

「む?」

 

 

何を贈り返せばいいのか悩んでいるところに、頬に散るそばかすがチャームポイントの使用人が腕をピシッと上げながら提案をしようとしている。

取り敢えず案だけでも聴こうと、リュウマは近くに寄らせて言ってみろと言うと、肩をビクつかせて恐る恐るといった感じで寄ってきた。

 

 

「何をそう怖がっておる。我はお前を取って喰ったりはせぬぞ?」

 

「はひっ!?そ、そそそそのっ わ、私昨日から使用人として就かせて頂いている新人でしてっ!リュウマ様…ではなくて陛下の下で働くために学び舎で頑張り使用人として働く権利を頂戴しましたっ!」

 

「う、うむ。然様か? 学び舎からここに就いたということは、嘸かし優秀なのだろうな。お前…歳は幾つとなる」

 

「えっとっ 今年で14ですっ」

 

「ふむ……もそっと(ちこ)う寄れ」

 

 

リュウマに言われた使用人は、また恐る恐ると寄って来るので、そこまで緊張するものだろうかと思いクスリと笑いながら手招きする。

もうすぐそこの近くまで寄ったら、新人使用人の手首を掴んで引っ張り、背中に腕を回して横向きで膝の上に載せる。

 

突然の抱き上げに固まり、乗っているのがこの国トップである国王の膝の上だということに気が付いた新人使用人は急いで降りようとするが、リュウマが新人使用人の背中にある羽を落ち着かせるように優しく撫でた。

全身を石のように固めながら、心地良さにやられてリラックスしたところで話を始めた。

 

まだ14という少女だというのに、己と会うだけで変に緊張してしまうのを可哀相に思いながら可愛らしく感じ、小さな子供相手にするように膝の上に載せたのだ。

これは新人であり緊張している者達に気分でやる所謂「お兄様モード」なので、使用人の中では結構有名だったりする。

 

 

「して、お前はどんな提案を思いついたのだ?」

 

「た、大それたものではありませんがっ 彼のオリヴィエ様は陛下をお慕いしている御様子ということで…恐れながら陛下が直々に書いた手紙…などはどうでしょうか…?」

 

「ほう…?それは何故?」

 

「え…!?えぇっと…お、女の子は好いている方からの手紙には胸がトキめいてしまうものなんですっ」

 

「……ふむ。……何分そんなものとは無縁だったからな。我には良く分からぬがまぁ良いだろう。手紙を書いてみるとしよう。後は当たり障りのない贈り物も添えておくか。……ところで、手紙を貰うと女の子がトキめくのだそうだな。まるで実感しているような物言い…お前にも好いている者がおるのか?」

 

「………はへっ!?へ、へへへへ陛下!?わ、私如きにはそんな相手はおりませんっ」

 

 

まさかの変化球に顔を赤くした新人使用人は、リュウマの膝の上で腕をわちゃわちゃさせながら否定しているが、実はリュウマ…この新人使用人がどんな者なのか知っているのだ。

己の城で働かせる以上、その者の事細かな情報を頭に入れて把握しておくのは王としての嗜みと…一体何人分の情報を憶えているのか分からないリュウマの持論である。

 

なので、新人使用人が最初自己紹介していたが、実を言うとそんなことリュウマは全部知っていたのだ。

 

 

「『私如き…』と言ったが、我はそうは思わぬがな」

 

「……へ?」

 

「────名は〇〇。血液型はA型。生年月日は〇〇年〇月〇〇日。生真面目で掃除が得意ということで仕事の内容は掃除関連が主となっている。戦闘面では学び舎を第2位という成績で収め、頭脳は同期の中でもトップで卒業している。実家は裕福とは言えず田舎。学び舎に入り学ぶ資金は両親が負担してくれ、その恩に報いるために学び舎ではかなりの速度で内容を取り込みものにした。家族構成では長女で下には8歳になる弟と3歳になる妹が居る。給金に関しては実家へと給金の約七割を仕送りし、残り三割を使って生活している。何時も笑顔絶やさず丁寧に接してくれるため、他の使用人からの印象は好意的。小さき頃から我に憧れていた……と。

 

確か詳細情報にはこう書かれていた筈。これだけの有能性を持ち得ながら如きという言葉を使えば、それは単に皮肉と捉えてしまう恐れがある。……この城で働く為の金を出してくれた両親に報いるためにここまでするお前は正しく有能だ。誇りこそすれど謙遜する事は無い」

 

「わ、私のことを…そこまで……」

 

「我はお前達使用人を雇っている主ぞ?下々の者達の事を頭に入れずしてどうする」

 

「うっ…うぅっ…!」

 

 

感激した新人使用人は涙を溢し始め、リュウマはポケットに入れてあった金の刺繍を施された最高級のハンカチを取り出して新人使用人の涙を拭いた。

最初そんな高価そうな物を使わせられないと拒否したが、リュウマが無理矢理目尻へと押し当てる方が早かった。。

 

それに、リュウマは完全な善意でこれを行っているのではなく、使用人の中でも一番偉いメイド長にリュウマへと直々に頼まれてこうした話の場を設けているのだ。

 

 

「メイド長から聴いておるぞ。優秀な子が荷を煮詰めすぎて倒れかねない程のオーバーワークをしているとな」

 

「うっ……申し訳…ありません」

 

「うむ。そんなお前には罰を与える」

 

「はぅえ!?……はい…仰せのままに…」

 

「では────手紙を書く手伝いをしろ。政務以外に手紙など書いたことが無いからな。お前が我の綴る文法に可笑しな点が無いか教えるのだ」

 

「……え?それだけ…ですか?」

 

「それだけとは何だ。我にとってはそれなりに大事ごとぞ」

 

「も、申し訳ありません!!」

 

 

新人使用人が勢い良く頭を下げるのを見て、笑みを浮かべてから左の白翼から紙と、それを入れる手紙入れを創り出した。

魔力で浮かせて机の上に置いたリュウマは、新人使用人を膝に載せたまま羽ペンを手にして文字を書き始めた。

 

大切な盟友に贈る手紙を、一緒に内容を考えるといえども読んでしまって良いものかと混乱したが、それに気付いたリュウマの「そこまで大それたものは書かぬ」という言葉に渋々だが従った。

 

後に、一月(ひとつき)の給金が配られた時、中には本来の給金よりも五割増しで支払わられていて、驚きながら何かの間違いなのではと思うも、メイド長から新人使用人宛てに手紙があるとのことで開いて確認。

差出人の名は書かれていないが、見覚えのあるとても達筆な文字で書かれていることと内容からリュウマであることが分かった。

 

内容は手伝って貰った礼に特別手当として給金の五割増しと、3日の休日を贈るとのことだった。

追伸で実家の方に顔を出して親を安心させてやれという言葉も贈られていた。

泣きながら居ないリュウマへ御礼を呟くと、他にも違う物が入っていることに気が付く。

 

それは、何かの魔法陣が描かれている紙だった。

何の魔法陣か調べようと触れた瞬間、見覚えのある家の前に跳ばされていた。

場所はなんと……彼女の実家。

 

リュウマが事前に調べておいた彼女の実家の前に座標を特定させておいた瞬間移動の魔法陣だった。

涙ぐみながら迎え入れてくれる家族達を見ながら、新人使用人はこれから一生リュウマへついて行こうと心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────翌日

 

 

「皇帝陛下」

 

「……ん?なんだ」

 

 

執務室で酔っ払って顔を赤くしながら目を回している、何気なくレアなリュウマの写真を置いている机で、オリヴィエは王としての仕事を熟していた。

そんなオリヴィエの元へ使用人の一人が近付き、今朝届いた贈り物について報告した。

 

 

「贈り物が届いております」

 

「ほう?何処からだ?」

 

「フォルタシア王国からです。中にはリュウマ様から皇帝陛下宛ての─────」

 

「よこせ。早く、速く、疾くよこせ」

 

 

酷い変わり様に今更驚く使用人ではなく、慣れた手つきでオリヴィエにリュウマが贈った手紙を渡した。

一人きりで読み耽りたいということで退出するよう仰せつかった使用人は、扉の前で一礼すると出て行った。

 

手紙の他にも美味しい食べ物や木の実や織物等があるのだが、それらに比べればリュウマからの手紙の方が嬉しいのだろう。

破り開けず、丁寧に丁寧に“R”と描かれた蝋印を剥がし、中に入っている手紙を取り出した。

 

綴られている文字が自分より達筆なので驚きながら読んでいく。

 

 

『オリヴィエ・カイン・アルティウス様へ

 

 

7日間贈られた贈り物について先ずは礼を言おう。

 

どれも見たことの無い美しい花は、特別花に興味をそそられた事の無かった我が見惚れる程の花束であった。

 

それに対するお返しという訳で、我からは東の大陸で良く着られている和服の織物を送っておいた。

寝間着などにも着れるような物から、外出時であれ着れる物まで揃えておいた。

 

それと、手紙を送るのに態々他の贈り物は添えんでいい。

聞くところによると、男女間で行う手紙の遣り取りというのは“文通”というらしいな。

我とその文通をするのであれば1日おきに送る…というもので良かろう。

 

勘違いするなよ?これは善意でやってやるだけだ。

惚れた腫れたという話で行う訳では無い。

 

長くはなったが、今一度相見える時を…まぁ、楽しみにしておく。

 

 

リュウマ・ルイン・アルマデュラより』

 

 

読み終えたオリヴィエは手紙を入れ物に戻し、鍵の付いた箱の中に入れるとガッチリ施錠し魔力で覆った。

これでもかと頑丈に施された防御魔法を掛け終えた後、オリヴィエは身悶えた。

 

 

「~~~~~っ!!ぶ、文通っ 何と甘美な響きっ!何者にも私達の遣り取りを邪魔させず、しかして当人等は二人だけの秘密である話に興じるというものかっ!?嗚呼…美しい……。

 

それに“勘違いするな”という部分が素直じゃない子供がせめてもの言い訳として使いそうな言葉でいじらしさ醸し出させるっ ああっ イイッ♡

 

ダメだ…リュウマが書いているところを想像すると…ふふっ 胸がキュンキュンするっ おっと…鼻血が……」

 

 

鼻から溢れてくるリュウマへの愛を拭き取ったオリヴィエは、ふと8日前に酔っ払っているリュウマへ施した魔法のことを思い出した。

 

 

「そろそろ…“アレ”が発動するはず……」

 

 

一体何を仕掛けたのか……?

 

加害者であるオリヴィエは弾む胸を抑えながら、来るであろう時のために急いで執務を終わらせていく。

 

 

「ふふふっ 楽しみだ 」

 

 

 

 

 

 

 

「……zzz………zzz」

 

 

その日の真夜中……眠るリュウマの背中に施されている魔法陣が光り輝き……一度閃光が奔ると次第に勢いを失っていき消えた。

 

背中にある魔法陣をも消え失せ……夜が明ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────フォルタシア王国の王の寝室

 

 

「んっ…ふわぁ……ん?……ふふふっ」

 

 

朝日が顔に差し掛かり、ゆっくりと眠っていた自分は気持ちの良い目覚めと共に自分の体を見下ろし笑みを浮かべた。

ベッドから起き上がって軽くジャンプし、翼を上から下に無雑作に振り下ろすと宙に浮いた。

暫く翼を使って空を飛んだ後、広げた手の平を見つめて閉じては開いてを繰り返し感触を確認する。

 

そして着ている和作りである寝間着に手を掛けて……脱ぎ去った。

 

となれば、今は全裸となるので、大きな鏡が置かれている所に行って全身を映し体の造形美に酔いしれる。

序でに股の部分にぶら下がっている男の象徴を凝視しながら目に焼き付け頬をほんのり赤くする。

 

 

「なんと逞しき…っ。こ、これがあの人のアレ…おっと…鼻血が」

 

 

取り敢えず出て来た鼻血を急いで拭き取り、見覚えのある服に着替えて記憶にあるサークレットを頭に付ける。

寝癖の付かないサラサラの髪に軽く嫉妬しながら、腹が減って音を慣らすと同時に部屋がノックされ、使用人から朝食の準備が出来たということで返事をして使用人の後をついていく。

 

てっきり後から来ると思っていたのだろう使用人が、自分の事を不思議そうに見てきたので、何でも無いと答えて当たり障り無い事を言って朝食を取るところへ案内させた。

 

終始首を傾げていた使用人がどうぞと言いながら扉を開けたので中へ入ると、知る人にそっくりな男性と、思わず見惚れてしまうような美しい女性が既に席へ座り自分の事を待ってくれていた。

 

 

「おはよう()()()()

 

「おはよう()()()()()()♪ 何時もはリュウちゃんの方が早いのに珍しいわね?」

 

「済まない。つい長く眠ってしまった」

 

「へぇ?珍しい事もあるのね♪」

 

 

最後に面白そうなものを見たというような母のマリアに少し思うことがあれど、席に座るよう促されたので席に着いた。

すると、座ると同時に扉の向こうから料理服を拵えている者達が何人も入り、両手にはお盆を持っている。

それらをアルヴァ、マリア、自分の前に置いていき、置き終わると直ぐに部屋を出て行った。

 

 

「では…いただきます」

 

「いただきます」

 

「…?いた…だきます」

 

 

食器の横に置かれているフォークとナイフとスプーンの内、ナイフとフォークを先に手に取り、朝から?と思われる自分の所だけに置かれているステーキ肉を少し切って食べた。

歯ごたえが良く、中までしっかり火が通されていて噛めば噛むほど味が出る美味な肉に幸せを感じていると、声を掛けられた。

 

 

「あら?リュウちゃんは何時も前菜から食べているのに…どうしたの?」

 

「───ッ!!いや、少し気分転換に…ハハハ」

 

「あら、そうだったの?珍しいものだからてっきり─────」

 

 

 

 

──────ガッシャーーーーーンッ!!!!

 

 

 

 

と、ここで部屋に取り付けられていた大きな窓ガラスが派手に割られ、何かが入ってくるものの…そのまま転がっていき壁にぶつかった。

そしてぶつけた頭を擦ってから勢い良く立ち上がった()()()()()はずんずんと自分の前まで来ると胸倉を掴み凄みのある顔で怒鳴りつけてきた。

 

 

「貴様ァ…!!()()()()()()()()()()()()!?」

 

「ふふふ。もう着いたのか?()()()()よくここまで飛んで来れたものだ」

 

「何度空中でバランスを崩して地に墜ちそうになったと思っている!?安定して飛べぬ故に1時間掛かったぞ……って違う!そんな話ではない!!早く我の体を元に戻せッ!!」

 

 

怒り狂っているオリヴィエは、何処かで聞いたことある喋り方で、逆にリュウマの方は何時もとは少し違う話し方である。

 

他の人が見れば何がどうなっているのか分からなく混乱するだろうが、この場に居るアルヴァとマリアは「やっぱりか」と言うような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

──────時を遡ること……一時間前

 

 

時刻7時きっかりのこと、体内時計で目を覚ましたリュウマは背伸びをしながら起き上がった。

 

起きて直ぐは少しだけ寝惚けているリュウマは、目を擦りながらベッドから降りて顔を洗うために部屋に取り付けられた洗面台へと目指す。

 

 

「むっ!?うぐっ…!?」

 

 

しかし…二歩目でバランスを崩して倒れ込む。

 

手を突いて顔から行くのは防いだリュウマは……肩から垂れ下がる自分の髪色ではないオレンジ色に赤を落としたような珍しい色で……立ち上がれば腰に届きうる程長い。

 

指は白く細い、今まで見てきた自分の指ではない。

背中に目を向ければ、翼人一族の特徴たる3対6枚あった黒白の翼が……無い。

 

急いで立ち上がってバランスを崩して倒れかけながら、必至で鏡を探して見つけると覗き込む。

 

 

映ったのは──────オリヴィエの顔だった。

 

 

「な…な…なァ…!?何だこれはァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!??」

 

 

有り得ないことに、自分の体がオリヴィエのソレとなっていることに仰天し、ガラにも無く大声で叫んでしまった。

何の魔法を使われたのか、何時から仕掛けられていたのか分からないので解析しようとしたが……この身はオリヴィエ……お得意の解析は出来ないのだ。

 

続けて言えば、使い勝手が違いすぎて魔力ですらちゃんと操ることが出来ず、翼が無いのでバランスが取りにくいのだ。

 

 

「な、何故こんな事に…!?……む?」

 

 

ふと…本当にふと鏡に映った今の自分の服をチラリと見えてしまい、つい視線を落として見てしまった。

オリヴィエとて人だ。

 

であれば、寝る時は寝間着に着替えるというもので、今着ている服は寝間着に違いないのだが……その寝間着が(リュウマには)刺激的過ぎた。

 

 

「ブフォッ!?な、何だこれは…!?す、透け透けではないか!?」

 

 

とっっっっっっっっても透け透けで中がどうなっているのか見えてしまう程の寝間着─────ネグリジェであった。

 

それも、ネグリジェの中でも更に生地が薄く作られていて、オリヴィエはその中に────

 

 

「ま…まさか……この感触─────着ていない?」

 

 

まっさかの中は裸である。

 

 

勿論、何時もならば中には流石に下着を着ているのだが……もうそろそろこの入れ替わりの魔法が発動すると見越して態と着ずに寝たのだ。

 

 

「み、見ていない!?我は見ておらぬぞ!?決して胸の頂など……ヌガァァアァアァァッ!!!!」

 

 

リュウマは今……戦っているのだ。

 

 

「風通しが良すぎる……ま…さか……下も?」

 

 

戦って……いるのだ。

 

 

王然りとした日常しか送って来なかったリュウマからしてみれば、女の体など解剖学書でしか見たことないし、況してや今は自分の体がその女の体だ。

追加で言うならば絶世の美女であるオリヴィエのパーフェクトなボディだ。

 

本来の男ならば見るし触るだろうところを、リュウマは出来るだけ見ないように手で目を覆いながら服を探している。

 

何て紳士的なのだろうか?

 

 

……ヘタレと言ってはならない。

 

 

「ふ、服を…!服を着なくては何も始まらぬ…!!」

 

 

歩き回って探すこと数分…どこか触り憶えのある触り心地に誘われ目を開けると、なんと都合が良いことか、先日贈った和服があるではないか。

 

この時だけは、何時か斬ってみたいと思っていた神に感謝し袖に腕を通した。

サイズが合わず、萌え袖のようになってしまったがそんなことに構ってられない。

 

いきなり王が消えるとなると大問題に繋がりかねないと、部屋に置いてあった紙に少し散歩してくる等適当に書いて窓を開けて魔法で飛び上がった。

翼で飛ばない時は魔法で飛んだりもするが……純白の魔力は全く使い勝手が違う。

 

純黒なる魔力が他一切を関係無く圧倒する暴力的な魔力であるならば、オリヴィエの純白なる魔力は対象を優しく包み安心させる清らかな魔力といったもの。

例えるならば、レーシングカーからエコカーに突然乗り換えたようなものだ。

 

 

「クッ…!思うように飛べぬ…!ぬぉっ!?」

 

 

意識を余所に向けた途端に魔法が途切れ、地面に向かって真っ逆様に落ちていく。

焦りながら魔法を再度発動して、地面から一メートル程のギリギリの所を急上昇して元の高さに戻る。

 

 

「オリヴィエぇ…ッ!余計な事はしてくれるなよ…!?」

 

 

そして現在に至る。

 

 

 

 

「やっぱりリュウちゃんじゃないのね」

 

「まぁ、私達は一言交わした時から気が付いていたが」

 

「……むぅ。何処が違うのかお教え願えますか?」

 

「おい!オリヴィエ貴様…!我を無視ン゙ン!?」

 

「貴方?少し静かに…な?」

 

「んん~!!」

 

 

オリヴィエの体に入っているリュウマのことを、リュウマの体に入っているオリヴィエが背後から抱き締めて口を押さえた。

腕力でリュウマの肉体相手では流石に勝てないのでジタバタと暴れていたが、器用に純黒な魔力で体を覆い拘束した。

 

 

「私視点だと、あのリュウちゃんが女の子を抱き締めてるように見えるわ♪

……まず一つ目としては、リュウちゃんは私達には敬語で話すの。

二つ目は、リュウちゃんは王としての仕事を最初に少ししてから朝食を取るから必然的に私達より早いのよ?

三つ目は、リュウちゃんってさっきも言った通り最初に前菜を食べてから大好きなお肉を食べる癖があるの

四つ目は、翼に寝癖が付いているわ。リュウちゃんは翼をとても大事にしているからお手入れが欠かせないの♪ そのくらいかしら?」

 

「あと、リュウマは武術も使うから体の重心が常に真っ直ぐ芯が通っている。君が歩っている時は少し重心のズレがあったから…というのもあるな」

 

「なるほど……お見逸れしました。お義父様、お義母様」

 

「まあ♪お義母様だなんてっ いいのよ?私のことはお義母さんで♡」

 

「うぅむ…初めて会った者にお義父さんと呼ばれるのは…ブツブツ」

 

「ンン~~っ!!」

 

 

何かオリヴィエとマリアが意気投合し、体はリュウマだが…互いに綺麗な笑顔を向け合っていた。

アルヴァはいきなりオリヴィエから言われたお義父様に少し困惑しているが、他でも無いリュウマの友達ということで悪印象は持っていないようだ。

 

因みに、オリヴィエ、バルガス、クレアのことはリュウマから聞いているので、リュウマがオリヴィエの体のままで名を呼んで気が付いた。

 

 

「さて、貴方?しばらくの間は元には戻らないからな。一緒に部屋で待とうか♪」

 

「……良いだろう。我の体のままで何をされるか分からぬからな。食い損ねた食事は我の部屋に持ってくるよう伝えて下さい、母上」

 

「えぇ。分かったわ♪」

 

 

マリアはニコニコしながら手を振ってリュウマとオリヴィエを見送り、アルヴァはイソイソと砕かれた窓ガラスを魔法で直していた。

料理長はマリアから食事を後でリュウマの部屋に運ぶよう命じられ、冷めた物は食べさせられないと1から作り直していた。

 

一先ずオリヴィエ(リュウマの体)に何もされていないことに安堵したリュウマ(オリヴィエの体)は溜め息を一つ溢し、自室に行こうとして一歩踏み出そうとしたのだが……後ろからオリヴィエに抱えられた。

 

 

「ぬぉっ!?な、何をするか!?」

 

「折角だから私がお連れしよう。一時間も飛んできて疲れただろう?」

 

「そう思うならば背負え。この体勢は我が嫌だ!!」

 

「ふふふ。これが俗に言う『嫌よ嫌よも好きのうち』というやつか♡」

 

「違うわ!?一体そんな言葉どこで…あっちょ…!待て!せめて降ろせェェェェ!!!!」

 

 

リュウマがされているのは……まぁ察せられると思うがお姫様抱っこである。

 

やったこともなければやられたこともないリュウマは、昔読んだ本の中に描かれていた抱き方で、やられる側としては途轍もなく恥ずかしいだけだ。

それもやっているのが幸せそうな顔を向けてくる自分の顔で……中身は女であるオリヴィエなのだから。

 

湧き上がる羞恥心から顔を真っ赤にして、(体だけ)リュウマの腕の中で顔を手で覆い隠している図は……何と絵になる事だろうか。

後ろで「あらあらまあまあ♡」という声と「我が息子よ…強く生きろ…!」という声が更に羞恥心を加速させる。

 

他でも無い両親の前で一時的とはいえ女の体になっているままお姫様抱っことは、一体何の拷問だろうか?

 

廊下で擦れ違う使用人は中身が入れ替わっているという事を知らないので、唯リュウマがオリヴィエをお姫様抱っこで自室に連れて行っているという構図にしか見えず、使用人は顔を赤くして黄色い歓声を上げながら二人を見送った。

 

……こんな状況で消えそうな程のか細い声で道案内するリュウマは尊敬するに値する。

 

 

 

 

 

 

 

「このっ…愚か者!!」

 

「ふふふ。如何したのだ?そんな可愛らしく私のことをポカポカ叩いて?」

 

「貴様意識を入れ替わる事を見越して、妙な封印を己の体に予め施したな!?力が全く出ぬ!!」

 

「私だけが知るキーワードを言葉で発しなければ解けず、力は従来の十分の一以下…魔力は知っているだろうがここに来るだけで空になる程度しか無い」

 

「巫山戯るな!?これでは…これではまるでっ」

 

「か弱い女…か?…ふふふ。しおらしい貴方も可愛いな♡」

 

「やめよ…我の顔でそんな言葉を吐くな…」

 

 

自分の顔を見てゲンナリしているリュウマとは対象的にオリヴィエは今この瞬間を楽しんでいる。

力では勝てない相手を、陥れ…罠に嵌めていいようにするのはとても気分が良かった。

 

因みに、この魔法を仕掛けるために宴会の席でリュウマにしこたま酒を飲ませていたのだ。

それを含めてオリヴィエは精密な計算をしていた。

尚、これを開発させられた魔法師達は度重なる疲労に倒れたが、完成した魔法の詳細が綴っていた紙を渡した後…親指を立てながら床に沈んだ。

 

 

「ふふふ」

 

「むっ…なんだ。何をする」

 

「何とは?……後ろから抱き締めているんだ」

 

「ハァ……今更力では敵わぬ。好きにせい」

 

「はぁ…幸せだ♡」

 

 

ベットに腰掛けていたリュウマの背後から忍び寄り、脇の下に手を入れて持ち上げると自分の膝の上に下ろし、腕はオリヴィエの体のリュウマの腹部に回し抱き締める。

密着度がかなり高い状態であるので、一応腹部に回っている腕を剥がそうとしたが岩のように動かず諦めた。

 

 

「んっ…おい、匂いを嗅いでも己の体だぞ。意味など────ひっ!?」

 

「そうか?では……自分の体なのだから何をしても私の自由であるな」

 

「ま、待てっ そ、それとこれとは…ぁっ」

 

 

リュウマの拘束を両腕から片腕に変更、空いた腕を上に持っていってオリヴィエの体の女性の証したる乳房を揉み始めた。

 

口から出て来た甘い声に自分でも驚いたリュウマは、ハッとしながら口を手で押さえて声が出ないようにしようとしたのだが……リュウマの肉体クオリティをオリヴィエが使って、残像を生み出す速度で拘束を緩めると今度は両腕をも巻き込んで拘束した。

 

身動きが取れなくなっていたことにサーッと青くなったリュウマとは別に、オリヴィエのセクハラが続行された。

 

 

「やっ、やめよっ…貴様…!触れているのが己の体だと分かって…あんっ…ハッ!?」

 

「ふふふ。私の体はどうだ?敏感だろう?なーに、心配することはない。恐くない恐くない」

 

「ふざけっ…!あっ…やめっンン~~~っ!!」

 

 

全体をマッサージするような触れ方から一転、乳房の敏感な一箇所を残して丹念にねちっこく揉みしだいた。

元の体ならば何も感じなかっただろうに、今は何故か小さい電気が体に流れている感じがする。

意思とは別に体が反応してしまい、吐く吐息が甘く切ないものとなってしまう。

 

首筋に顔を埋めていたオリヴィエは、長い髪で隠れている耳を露出させると舌を入れて舐め始めた。

艶めかしい水の音が頭の中で反響し悶えている内に、揉んでいることで着てきた和服が少しはだけてきていた。

 

好機と言わんばかりにキュピーンと目を光らせたオリヴィエは服の中に斜めから手を入れて直接乳房に触れた。

流石に女性の下着の着方が分からないリュウマは、下着を着けず和服だけを身に纏って来てしまった。

今ではそれが痛恨のミスとなっている。

 

巨乳というには少し小さいものの、十分大きく美しいお椀型の乳房は言わば美乳というに相応しい。

今では己の体故に隅々まで知り尽くしているオリヴィエの手腕により、弾力のあるマシュマロを捏ねているように様々な形にその姿を変える。

 

 

「はぁっ 直でやるなどとっ…正気か…貴様?んっ」

 

「正直に言えばどうだ?────気持ちいいだろう?」

 

「ふっ、んんっ…愚か者め。誰がこの程度っ」

 

「ほ~~~う?なら仕方ないな。今まで敢えて避けていたここを攻めるしかない」

 

「……は?いや、待て今のは言葉の─────」

 

 

触れないように気をつけていた乳房の頂を……摘まんだ。

 

 

「ぁっ……はぁっ…!?んんんんんっ!!??」

 

 

甘い痺れが頭から爪先まで電流のように走り抜けた。

想像以上の衝撃に体をすこし仰け反らせておとがいを上げる。

頭の中で電流がスパークしているリュウマを尻目に、オリヴィエは乳房への刺激送りを続行してしまう。

 

揉み込まれることに気が付いたリュウマは止めるように声を上げるが聞く耳持たず無視された。

だが肩越しから耳を舐めながら面白そうに笑っている声が聞こえてくるので、声自体は届いていて態となのだと察したくないのに察せられた。

 

我慢できず甘い声を上げてしまい羞恥心を感じる一方で、両耳を交互に嬲られながら、はだけすぎて最早乳房を隠せていない状況で乳房の頂を抓られ擦られ摘まられ引っ張られる。

 

そんなことをノンストップで二十分程の間責められ続けたリュウマは、口を半開きにしながら息も絶え絶えとなっていた。

頬はほんのりと赤く色づき、火照って仕方なく微かに汗の香りを嗅ぐわせる。

 

 

「あぁっ…も…やめっ…はあぁ…っ」

 

「ふふふ。そろそろ朝食が出来上がって運ばれる頃だしな?……声を出さないことを勧める」

 

「…な…に?……ま、待っ─────」

 

 

片腕でずっと行っていた拘束を外すと、すかさず左手で左の乳房へ右手で右の乳房へ添えると揉み込み、両手の人指し指と親指で強く捻るように摘まんだ。

 

 

「ぁ…だめだ…逝っ…~~~~~~ッ!!!!」

 

 

足の先をピンと伸ばして背筋を最大まで仰け反らした後に、数度ビクッと体を震わせると、くたりと背後にいるリュウマの体であるオリヴィエに寄り掛かった。

体から香る匂いがほんのりな汗の他に、甘い匂いを嗅ぐわせる。

 

 

「はぁっ…はぁっ…ぁ…お…ぼえ…てい…ろ…」

 

「良いではないか。所詮は私の体なのだから」

 

「そういう…もんだいではぁ…んんっ」

 

「案ずるな。もう続きはしないが……私は少し手が疲れた。だからここから動かないぞ」

 

「何を…言って…?」

 

 

──────コンコンコンッ

 

 

意味を聞き出そうとしたところにタイミング良くドアのノック音が響いた。

料理長がリュウマとオリヴィエの分の朝食を作り終えたので使用人が持ってきたのだ。

すっかり忘れていたリュウマは、上手く立ち上がれないのでオリヴィエに頼もうとするが……今さっき動かないと言ったのを思い出した。

 

外に聞こえないように小声で取ってくるように言うが、リュウマの顔で意地の悪い顔をするばかりで一向に動こうとしない。

再度ドアをノックされて入って来ようとしているのを感じ取り、仕方なく……本当に仕方なく震える足で立ち上がりドアを開けた。

 

 

「はぁっ…ご、ご苦労…っ…」

 

「ふぇっ!?…は、はいぃ…」

 

「後は…我…んんっ…私が持っていくから…下がっていい…ぞ?」

 

「は、はいっ…お楽しみなところお邪魔しましたっ」

 

「……は?ま、待てっ…!」

 

 

オリヴィエの体であるリュウマの格好の詳細を話しておくと、出来るだけ急いで来たのではだけていた服を雑に整えており、前屈みでドアを開けたので重力に従ってボリュームを上げた女房が大事な部分だけを隠して見えてしまっている。

顔は薄紅色に色づき色気を感じさせ、荒い息づかいの所為もあってそれを更に促進させてしまう。

 

女性だった使用人が同性ながら目が離せなくなりそうな色気を放つ妖艶たるオリヴィエ…の姿をしたリュウマからどうにか眼を逸らすと、部屋の中でベットに横になってオリヴィエ…の姿をしたリュウマに妖しげな笑みを浮かべていた。

 

盛大に勘違いをした使用人は直角に礼をして顔を真っ赤にしながらその場を後にした。

尚、勘違いされたことに気が付いたリュウマの静止の声を振り切って行ってしまったので、この内容が城内で知れ渡るのも時間の問題だと絶望した。

 

 

「あぁ……か、勘違いをされてしまった…!」

 

「おぉ…!城の料理人はやはり凄いな。先程少し食べたが頬が落ちるかと思った」

 

「気楽だな貴様ァ…!元はと言えば貴様が…!」

 

「さぁ、腹も空いただろう?共に食べよう」

 

「話を聞かぬか!!」

 

 

怒鳴っても意に介さずオリヴィエはリュウマの運んできた料理を見ては感嘆としている。

言っても聞きやしないオリヴィエのことを諦め、自分の体ではないが朝食を取らずここまで出来うる限りの全速力で来たので腹が減った。

 

もう何でも良いから胃に食べ物を積み込みたいリュウマは、並べられている東の国ならではの箸を持って食べ─────

 

 

「私も居るというのに無視し先に食べてしまうのか?」

 

「……ハァ…食べれば良かろうに。何故食わぬ」

 

「私はこの…棒二つを使って食べる事は出来ない。私の国というより大陸にはこんなもの普及していないんだ」

 

「“箸”のことか?……確かに。他の国では先ずナイフとフォークのみ…か」

 

「ふふふ…うむ!」

 

 

何故か嬉しそうに答えるオリヴィエに首を傾げて何気なく男心を擽る仕草をするリュウマは悲しきかな……本人はそういう意図があってやっているのではないのに完全に只の美女だ。

 

言ったら反論した挙げ句しょんぼりと落ち込むのが目に見えているので言わなかったが。

 

仕方ないと、火照りから回復した体を立ち上がらせてナイフとフォークを貰いに行こうとするリュウマの手首を万力が如くの力で掴み、また膝の上に載せ、今回は体ごと左向きに抱えるようにしてから右手を腰に回し固定、左手はリュウマの太腿に添えている。

 

突然のことで倒れ込むようにこの体勢を取ってしまったリュウマは、自分の体の持つ握力に冷や汗流しながら藻掻く…のは諦めた。

 

取り敢えず何が目的なのかとジトッとした目を向ける。

 

 

「お前の為を思って態々ナイフとフォークを取りに行ってやろうとした我に何をするか」

 

「そんな事せずとも食べられるぞ?」

 

「何だ、我が時々やるように浮遊させて食すのか?」

 

「そんな事していたのか?器用だな……。そうではなく…あ~」

 

「……?口を開けて何をしている?」

 

「むぅ…察しが悪いな。────食べさせてくれ」

 

「は?」

 

 

因みに拘束はこうなった以上は振り解くこと不可能。

力でも魔力でも現状勝てないのでどっちみち意味を成さず、他にも言えば右手に添えていた右手を離してワキワキと奇妙な動きをさせて乳房を狙っているので、「食べさせてくれないと……揉んじゃうぞ♡」というのが伝わってくる。

 

冷や汗流しながら急ぎ気味に食べさせることを了承し、期待でキラキラさせた目を向けてくるオリヴィエに溜め息を吐きながら、違う朝食として出された新鮮な内に焼いた魚料理の骨分けをする。

 

本来ならば魔法で中にある骨だけ瞬間移動させて身だけを食べるのだが、この体では出来ないので小まめに一つずつ気を付けて取るしかない。

けれども、流石はリュウマといったところか、綺麗に骨から身だけを切り離して取り分けていく。

 

最初に骨と身で別けた後、ゆっくり食べるのがリュウマ流なのでこの様になった。

 

 

「そら、取り分け終わったぞ……何を見ている」

 

「いや…その…“はし”?という物を余りに繊細に美しく使うものだから……つい見惚れていた」

 

「っ…ふん。誉めても何も出ぬわ」

 

 

少し照れ臭そうにしているが、そんなことは頬が少し赤く色づき俯くリュウマの反応を見れば一目瞭然なので口にせず堪能しているのだが、ここまで胸をキュンキュンさせるならば男より女に生まれ、自分が男として生まれた方が良かったのではないのかと思えてきた。

 

……心の片隅で今度は“性別を入れ替える”魔法を作らせようと密かに画策したオリヴィエに、何やら不穏なナニかを感じ取ったリュウマは又してもジト目を向けた。

 

 

「今良からぬことを考えたな?」

 

「良からぬこととは?」

 

「……まぁいい。それよりも腕が疲れる、早う食べぬか」

 

「分かった分かった。……うん、美味いな」

 

 

向けられた箸に摘ままれた魚の切り身を口に含め噛み締めれば、身から程よい魚の脂が気にならない程度のみ溢れ出て旨みの爆発を発生させる。

 

美味しそうに満喫しているオリヴィエを余所に、茶碗に手を付けているリュウマは中から白く耀き湯気を放つ白米を一口サイズで取り、オリヴィエの口元に持っていく。

 

この時でも箸で取った物が落ちても大丈夫なようにと、空いた左手を下に添えている行儀の良さは流石と言わざるを得ない。

 

だが悲しきかな(2回目)…端から見れば甘える夫に仕方なく付き合ってあげている良妻にしか見えない。

 

 

「魚は米と共に食べるのが合う。試してみるが良い」

 

「なんと……おぉ…!確かに美味い!」

 

「そうであろう?……ふふふ」

 

 

余りに美味しそうに食べていくオリヴィエに釣られ、つい自分が食べることも忘れて口に運んでいき食べさせる。

 

程なくしてオリヴィエが東の大陸ならではの料理に舌鼓(したつづみ)を打ちながら食べ終えた。

 

リュウマの体なのでこれしきの量で満腹感など毛ほども感じないだろうが、食べたことは食べたので満足感を感じているようだ。

けれども、満足感に浸ろうとも体を拘束する右手が健在なのは変わらず。

 

どれだけ引っ付いていなければある意味満足感を得んのだ…と思いながら、そろそろほんとに腹が減ったので自分の分の朝食に手を付けた。

 

 

「“いただきます”」

 

「……なぁ貴方?」

 

「もぐもぐ…ごくっ……。何だ、食べている最中に話しかけてくるな」

 

「だが気になってな……その“いただきます”とは何なのだ?先程も貴方のお義母様とお義父様が言っていたが」

 

「何やら不穏な言葉が…。そうか、お前の大陸では言わぬのか」

 

 

イソイソと魚の骨から身を剥がす作業に勤しんでいたリュウマに、オリヴィエは気になっていたことを質問した。

自分の国では食事をする前に対して、いただきますという言葉を言う習慣が無いので疑問を感じたのだ。

 

習慣が無い以上知らないのは当然かと納得した。

然れど、無知蒙昧とは言ったものか、知らないというよりは知っておいた方が良いだろうと考えて、目で疑問を投げかけてくるオリヴィエに教えてやることにした。

 

食べていた最中だったので手に持っていた箸を、元々箸の下に置かれていた箸置きの上に一度置く。

オリヴィエの膝の上だが背筋を伸ばして佇まいを整える。

 

 

「良いか?“いただきます”というのは、食事を始める際に東の大陸では使われている挨拶だ」

 

「ほう…そうなのか」

 

「うむ。挨拶と言っても、感謝を示すということを言葉にしたというものだがな」

 

「それは誰に対してだ?作った者に対してか?」

 

「惜しいが、少し違う。山から採れた恵みに海から獲った(さち)、育み収穫した恩寵に、それらを成り立たせた自然からの恩恵。他にも食物を加工し料理として出した料理人という全てに対してだ。どれか一つでも欠ければ成立しない事柄に対し、与えられる者達は感謝をせねばならぬ。それ故に“いただきます”と呼称する」

 

「ほう…成る程な」

 

 

今まで出された物に対して美味いか不味いか、食えるか食えないかとしか考えてこなかったオリヴィエからしてみれば、リュウマが語る“食べ物やその他に対してのありがたみ”とは何たるかの言葉には目から鱗が落ちる思いだ。

 

 

「無論、食べ終えた後にはいただいたぞという事の表れとして“ごちそうさま”という。これは食材の命を奪い己の血や肉に変える物を貰ったということで“馳走になった”ということから丁寧語を加え“ごちそうさま(御馳走様)”という言葉になったのだ。知っていて損無き事だ。頭の片隅にでも入れておくが良い。所詮は我々の風習と化している事柄故」

 

 

そう言い終わったリュウマは再度向き直り、箸を手に取って冷めかけた朝食を取っていく。

膝の上に載せている故にリュウマの事を背から見つめていたオリヴィエは、やはりリュウマは頭も良く食に対する有り難みというものを辨えているのだなと感嘆していた。

 

何かとフォルタシア王国を狙ってきた国の兵士などを大量虐殺している血も涙も無い王かと思われるかも知れないが、リュウマは歴とした一国を治める王である。

この程度の事は常識として知っているし、巷では賢王などと言われていたりする。

 

ただ、人外的力が目立ち冷酷非道なだけあってそうは見えないだけなのだ。

能力と価値観さえ抜きにすれば素晴らしい王なのだ。

 

 

「ごちそうさま」

 

「さて、食べ終わったところで…何かしないか?」

 

「何かとは?」

 

「そうだな……久し振りに王戯などやってみないか?」

 

「ほう…?この我に王戯を挑むとは…泣き面掻いても知らぬぞ?」

 

 

因みに王戯とは、自軍側に配置された王と、それ以外の色々な役職を持つ駒を使って如何に相手の王を取るか…というもので、言ってしまえばチェスに似たものだ。

賢明なリュウマからしてみれば、戦いを挑んだ時点で手の上なので余裕の表情だ。

 

間が良いことに、リュウマの自室に丁度王戯が置いてあったので持ってきて、リュウマとオリヴィエで戦いを始めた。

 

 

「因みに、貴方が一つの駒を取られる毎に戯れ(セクハラ)1分だ」

 

「……は?待て、それだと我が圧倒的────」

 

「では開始だ」

 

「巫山戯るな!!」

 

 

この後合計3分セクハラを受けて官能的姿を晒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、この魔法は一体何時になったら戻るというのだ」

 

「さぁ?だが、今日中には戻る筈だ」

 

 

王戯の他にも世界的に普及されている知能的ゲームをやって興じていたリュウマとオリヴィエは、戦い続けること数時間後…全てにおいてリュウマが勝利を収めたが、オリヴィエが何かと負の悪い罰ゲームを出してくるのでその全てに引っ掛かっていた。

 

一刻も早く元の体に戻りたいリュウマとしては、制限時間さえ分かれば気が楽と言えば楽なのだが…如何せんオリヴィエでも知らないということで知ろうにも知り得なかった。

 

少しずつやることがなくなってきたリュウマとオリヴィエは、政務はここ数日分のを終わらせているので問題は無い。

であれば何をするかということになったが、王として過ごしてきた分リュウマはこういう時の時間の潰し方を知らなかった。

 

 

「あ、そうだ」

 

「……なんだ」

 

「近々ピクニックに行かないか?」

 

「ピクニック?」

 

 

突然の話題に驚きながら疑問符を頭の上に浮かべてオウム返しのように返す。

オリヴィエが言うには、自分の国の近くに推定樹齢1000年の大樹があり、その気が実らせる花は滅多なことでは咲かないという珍しい花なのでリュウマと一緒に二人で見に行きたいとのことだった。

 

ストレートに二人で見に行きたいと言ってのけたオリヴィエに、逆にリュウマが照れるという場面が有れど、そんな大樹があるというならば是非見てみたいと興味をそそったリュウマは、日取りが合えば考えてやると言った。

 

 

「ではその時は、是非とも私の国にも寄っていってくれ。最高のもてなしをし歓迎しよう」

 

「フン。一体何をされるか分かったものではないがな」

 

「ふふふ。二人きりなら未だしも、他に何者かがいる状況では私とて遠慮程度しよう」

 

 

本当にそうか…?オリヴィエならば敢えて他の人の目があるところで行って見せつけようとするのでは…と、先を読んでいるリュウマとは違い、オリヴィエは頭の中でその日を迎えるに当たっての準備などを頭の中で組み替えていた。

 

 

「ふむ…やることが無くなったな。また戯れてもいいが……」

 

「次やれば二度と口を聞かぬぞ」

 

「それは困る。……では昼寝でもしようか?」

 

 

そう言ってオリヴィエはリュウマの体でベットに寝転んでリュウマのことを手招きして誘った。

 

仕方ないと言った感じの表情をして溜め息も溢した後、リュウマはもっと端に詰めるように指示を出すとオリヴィエに既視感を感じる形で手首を掴まれ、3対6枚の翼と腕の中に入れられ抱き締められた。

 

 

「~~っ!ぷはっ…突然何をする!?」

 

「ふふふ。抱き締め合って寝てもいいだろう?まぁ、拒否されてももう遅いが」

 

「ハァ……」

 

 

溜め息を吐いているリュウマの事を背中に手を回すように密着して抱き締めたオリヴィエは、同じようにも翼を使って覆い尽くす。

 

自分で包むのとは違い、オリヴィエの体で包まれるとふんわりとした柔らかい感触と共に石鹸のような良い匂いがしてきて眠気を誘う。

覆われているのに全く暑くはならない不思議な翼に包まれたリュウマは、元は自分の体だというのに何時しか眠ってしまっていた。

 

 

「……zzz」

 

「ふふふ。おやすみ…貴方」

 

 

何だかんだ大凡の元の体に戻るまでの時間を知っているオリヴィエは、眠って少ししたら体が元に戻るので、リュウマの腕の中から出て来れるように軽く腕を回す程度にしておいて浅い眠りに着いた。

 

時間にして約1時間後……入れ替わった時に放たれた光が二人を包み……元に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

 

思った以上の深い眠りについていたリュウマは、日が昇りきってカーテンの向こう側から差し込む日差しに目を刺激されて眠りから覚めた。

 

起き抜けなので背伸びをすると、背中に有る翼までもが伸びきった。

はたと気付き、そういえば体が戻っていると思い全身を隈無く確認すると安堵の溜め息を一つ。

それと同じにオリヴィエが消えていることに気が付き、逃げられたかと悟った。

 

 

「チッ…我のことを矢鱈と弄んだ借りを返してやろうと思っていたものを……む?」

 

 

────カサッ

 

 

起き上がろうとして手に紙の感触がした。

何故こんな所にと思いながらも掴み取り、何の物なのか読もうと目を向けると……差出人はオリヴィエからだった。

 

内容は何てこと無く、気持ち良さそうにしていたから起こさないように忍び足で出て行ったとのこと。

そして近々、一緒に大樹の花を見にピクニックに出掛けよう♡という内容であった。

 

 

「フッ…仕方の無い奴よ。盛大な美味なる料理を振る舞えば此度のことは水に流してやるとしよう」

 

 

何だかんだ……少しだけ…ほんの少しだけ楽しめた日であった。

 

 

「さて…、今日の政務をやってしまうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ♪リュウマと二人で出掛ける…楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 




手紙を送る話を最初にしたら矢鱈と長くなりました笑

今このリュウマ物語を書き終えたら何を書こうか迷っててですね……(リュウマがいる故の)全宇宙絶望ルートのドラゴンボール話なんて如何か?笑

ドラゴンボール好きな方々から反感凄そうですね……。

ここは一度書いてみたかったフェイトゼロですかね…。

グランドオーダー?……どのタイミングでどの英霊を出せばいいのか分からないし喋り方迷子になりそうなので……。


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