FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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評価下がっちゃいました笑

恐らくリュウマが余りにも無情に殺人を行うので見損なったといった所でしょうか?
まぁ…、元々こういう主人公なので何を言われようが変えませんが…。

それに書いてありますもんね。
この主人公は正義の味方ではないって。

そもそも、私が正義の味方嫌いな方なので。




第拾弐刀  妖精の尻尾

 

自身が謀らずして不老不死となってしまった事に嘆き悲しみ途方に暮れていたリュウマは、この不死となった生を罪の償いとして生きろという己の運命(さだめ)だと割り切り、どうにか気を取り直して宛ても無い一人旅を続けた。

 

不死となった今…怨敵たる黒竜を無理に探さなくてもいい。

 

何故ならば…相手もドラゴンとなって長寿であると共に己は死ぬことが出来ないのだから。

 

 

「……そういえば…」

 

 

湖の畔から再出発したリュウマはふと気が付く。

 

この30年水が上流から下流に流れゆくように特に気にせず生きてきたが…“独り”となるのは初めてだな…と。

 

国が滅び去る前は臣下や使用人が必ずいたし、付き人が居らずとも愛する両親が居た。

他にも掛け替えのない盟友の3人も居た。

だが今やどうだ…王たる者……いや、今はもう王ではないか…。

 

あれ程崇められて畏怖されていた殲滅王が今や旅人の格好をし、野生の獣を狩っては己の手で調理をし、同じ飯を食べ合う者も居ない独りでの食事。

温かみ溢れ笑顔溢れるお喋りや、興味を引いたものの話など…もう出来ないのだ。

 

 

本当に……今すぐ黒竜が現れてこの手で葬り、死ねないが故に永遠の眠りにつきたい。

 

 

心の底からリュウマはそう思った。

 

 

「おうおう兄ちゃんよォ?命は助けてやるからよ、金目のもん置いてってくんねぇか?」

 

「領地の奪い合いの所為でどーも不景気なんだわ」

 

「オレ達を助けると思ってよォ?キヒヒッ」

 

 

思考の方向が暗くなってしまっていたリュウマの前に突然横の茂みから現れた3人が汚い笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 

金を恵んでくれと要約すれば言っているが、当の本人達の目はニヤニヤと笑ってリュウマの上等な服や腰に差している刀を舐めるように見ている。

最早頭の中ではどのくらいで目の前に居る男から巻き上げた持ち物が売れるのかと、飢えたハイエナよろしく涎を垂らしていた。

 

所謂盗賊というものをやっている3人の男達を見ているようで、その実全く見ていないリュウマからしてみれば、そんなことを態々喋り掛けてくるのではなく…己が前を通った瞬間に不意打ちで襲い掛かって強奪するなりすれば良かっただろうと考えていた。

生きるためというのであれば……それこそが当然の行動だろうが。

そう頭の中で紡ぎ…ゆっくりと腕を上げた。

 

 

「おっ?降参か?…いやぁ悪いねぇ。ほんと助かっちまう──────」

 

「…………え?…アニキ?」

 

「おい…おいおい…!ウソだろ!?」

 

 

力無く腕を無雑作に下ろすと…3人の中で一番前に居た男の頭上に黒い波紋が現れ斧が射出される。

ギロチンのようにうなじから刃が入って首を両断した。

 

頭を失った体は倒れ、飛ばされた頭は転がって残る二人の足下に辿り着いた。

よく分からない内に死んだ男の死に顔は、心底不思議そうな表情のままであった。

 

刹那の内に自分達のリーダーが殺された下っ端2人と言えば、殺しても変わらない無表情で見続けているリュウマと目が合ってしまい恐怖から失禁した。

刺激臭のあるアンモニアの臭いを感じながら、そんなこと構わず一目散に振り返って全速力でもって逃げ出した。

 

 

「は、速く走れ!!オレ達も殺されち────」

 

「ひ…ヒィィ!?」

 

 

足下に落ちていた石を爪先で小突き、ゆっくりとした動作とは釣り合わない豪速で一人の男の頭蓋を貫通させた。

血を吹き出して死んだ仲間に悲鳴を上げて尻餅をついてしまい、歩いて向かってくる男から逃げるために尻を地面で擦りながら後退(あとずさ)る。

 

涙や鼻水を抑えきれず顔をぐしゃぐしゃにして逃げていた男は、運が無いことに背後に生えていた木に気付かず背中をぶつける。

ハッとして瞬き一つした時には目の前に立っていた男を見て体を震わせた。

 

右手の親指を持ち上げて人差し指を立て、残る中指薬指小指を握り込んだそれは…子供が良くやる手を銃に見立てるやつだ。

男の額に人差し指を軽く付けたリュウマは、何か言い残すことは?とだけ言うと、死を覚悟した男はひと思いにやってくれと答えた。

 

 

──────“ばん”

 

 

生えていた木が一本……音を立てて砕き倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のぅ…頼めんか…?」

 

「……………。」

 

 

更に数十年後……リュウマはとある国の王から直々に頭を下げられて戦争への参加を依頼された。

戦争というが、それは領地を巡る領地争いでしかない。

 

命知らずにも襲ってくる者達を全て返り討ちにしていき、時には偶々繰り広げられていた戦争地域の一兵士に出会(でくわ)して戦争相手と勘違いされて襲われ返り討ち。

その様子を見ていた兵士が敵だと尚更襲い掛かってきては…という無駄な循環を繰り返し、何時しか敵でもなかった者達を人知れず皆殺しにしてしまい、それらの所業に噂が飛び交いこの国の王の耳に入った。

 

特徴と言えば羽織や袴を着た侍然りとした格好に頭に被る三度笠、腰に差している真っ黒な刀しかないリュウマを、兵士を総動員させて各地を探して回り見つけることに成功した。

訳も分からず食事をしていたところに押し寄せてきた兵士を数人気絶させては、雇いたいということで取り敢えずやって来た。

 

すると国に入って城に案内されるなり好待遇を受けたリュウマは、己が住んでいた城より見窄らしいものだと考えながら、両手を擦って顔色を窺ってくる王を出された豪華な料理に舌鼓を打ちながら興味なさそうに見ていた。

 

 

「……我を雇いたいのだな」

 

「貴様ッ!我等が王に何という口の─────」

 

「これ!頼んでいるのはこっちだ!お前達は口を挟むな!!」

 

「……フン。躾のなっておらぬ狗よな。して、雇うからにはそれ相応の対価があるのだろうな?無償で事が動くと愚考するのは圧倒的強者の特権。決して貴様ではない」

 

「こんの…ッ…!!騎士団長たるこの私を狗呼ばわりした挙げ句…!我等が王を弱者と…!!」

 

「事実であろう。それとも何か?否と申すならば()()()()()()()()()()()()()申してみよ」

 

「くッ…!!ぐうぅぅぅ…ッ!!!!」

 

 

真っ赤な顔で震えている騎士団長をお前は簡単な挑発に乗るのを除けば優れた騎士なのだがな…と思いながら、リュウマに向き直って再び王たる物悲し頭を下げた。

この戦争に勝たなければ後が無いほどこの国の領土は奪われているのだ。

 

 

「報酬として10億(ジュエル)出そう。前金で5億先に払う。……どうだ?私の国はこれ以上出せんのだ…」

 

「……嘘は吐いておらんな。……良いだろう。此度の戦争貴様の国に仇成す国の領土をくれてやる」

 

「そ、そうか!それならばよろしく頼む!もう君だけが頼りだ!!」

 

 

再度頭を下げた王を興味なさそうに一瞥した後料理を平らげ、案内されるがままに客人室に通されて夜を明かした。

真夜中に余所者が国の大役を買ったということで快く思わない者達が寝込みを襲ったが、代わりに覚めることの無い長き眠りに就くこととなった。

その事を王が顔を青くさせて謝ったが、寝てる間に無意識でやったので気にしていなかった。

 

 

後日、戦争にたった一人の男が加わったことで戦争は最早…蹂躙の二文字に変わった。

 

 

領土を手に入れて国の存続が確定し民に安寧を届けることが出来た王は、騎士として仕えてくれないか提案してみるもリュウマは断り、次の日には旅のためにその国を後にした。

本人は知らないが後日談として、感謝しても感謝しきれない王はリュウマに似せた石像を国の中央に置き、危機に瀕した国を救った英雄として語り継がせた。

 

 

ドラゴンと人間の戦い…竜王祭が終わっても人間同士の戦いが始まり終わることが無い。

そんな時代もリュウマは生き続け、時には干渉し、時には巻き込まれ、それでも彼は生き続けた。

 

本来人間の意識は100年以上も生きていられるようには作られていない。

何時しか意識は擦り切れ、生きているのに死んでいるように感じては廃人になってしまうだろう。

何の目的で生きているのかも忘れ自分が何者であるのかも忘却し意識が消滅する……だがリュウマは優秀な頭脳故に物事を全て考察しきり尚更不死という状況に嘆き苦しむ中……確と自我を保っていた。

 

時には己の存在意義がなんであるのかを忘れそうになるがどうにか持ち堪え、息抜きに魔法の創造を行ったりして生きていくということに深い考えが行かないようにしていた。

 

 

でなければ……精神が崩壊しそうだったから。

 

 

 

 

 

そして時は300年が経ち……

 

 

 

 

 

殲滅王と始まりの妖精が…邂逅した

 

 

 

 

 

 

X679年の天狼島…。

 

 

生まれて間もなく両親を早くに亡くした6歳になる少女メイビスは、島にある魔導士ギルド赤い蜥蜴(レッドリザード)で健気に働く毎日。

 

亡くなった母と同じく頭が良く本が好きだったメイビスは働いている合間合間に本を手に取り読み耽っていた。

その中でもお気に入りだったのが……妖精が登場する物語。

 

ギルドはとてもメイビスに厳しく、時には叩かれたり殴られたりで罰を与えられますが、泣いたら大好きな妖精に会えなくなる…。

いつか絶対に妖精に会うんだと夢みる程メイビスは妖精に夢中だった。。

 

一方、レッドリザードのマスターの一人娘である同じく6歳の少女…ゼーラは、非常に勝気な女の子であった。

同年代の女の子たちの中でもリーダーのような存在で、メイビスには辛く当たり、日によっては虐めのようなことだってしていた。

 

 

しかしそんな中、二人の少女の運命を変える歯車が…動き出した。

 

 

赤い蜥蜴(レッドリザード)と敵対的に対立する魔導士ギルド青い髑髏(ブルースカル)がレッドリザードが拠点を構える天狼島に突如強襲してきたのだ。

 

町は焼かれて火の海となり、ギルドや町に住んでいた人々も殺されてしまう。

仲良くしていた森の動物達に連れられて森の中へと逃げようとしているところに、瓦礫に挟まるゼーラを見つける。

 

今まで何かと意地悪をされてきたメイビスは迷う事無く……ゼーラを助けた。

 

助け出されたゼーラとメイビスは動物達の誘導の元、命からがら森へ逃げることに成功する。

ゼーラはメイビスに叫ぶように問うた。

あれ程嫌なことしてきた自分を何故見捨てずに助けに戻ったのかと。

 

それに対してメイビスは、目の前で友達が死にそうになっているのに助けない訳が無いと言った。

あれ程色々やってしまったのに、メイビスは自分のことを友達だと思ってくれていた。

今までの自分が情け無くなってしまったゼーラは泣き崩れるが、メイビスがそっと抱き締めて頭を撫でた。

泣き止むまでそうしてくれたメイビスに、ゼーラはこれから本当の友達になろうと言い、2人は晴れて本物の友達となったのだった。

 

 

そして、ブルースカルが天狼島を襲撃し、レッドリザードが全滅してから7年の月日が流れた。

 

 

揃って13歳となったメイビスとゼーラが住まう天狼島に3人の男が上陸した。

 

彼らの名は、ユーリ、プレヒト、ウォーロッド。

 

何を隠そう…将来にギルド、フェアリーテイルを創設する創設メンバーとなる3人だった。

ユーリとはマスターマカロフの父であり、プレヒトは皆の知る悪魔の心臓(グリモアハート)のマスターとなる男。

ウォーロッドは後にイシュガル四天王と呼ばれるようになる聖十大魔道序列4位の男だ。

詳しく言うと、指名クエストでナツとグレイを指名し太陽の村を救うように依頼した者でもある。

 

トレジャーハンターという人が普段行かないような魔境などを探検しては、そこに眠る宝を探し出す仕事をしているユーリ達は上陸した岸から散り散りになって目的の物を探し始める。

 

メイビスとゼーラが居る図書館に偶然入って来たのはユーリで、メイビスたちに遭遇する。

 

トレジャーハンターとして見つけ出したいというここに来た目的の物…天狼玉。

それの在処をこの島に住むメイビスから聞き出そうとするユーリと、島の宝を護ろうとするメイビスにより、ひょんなことからゲーム(勝負)が始まる。

 

内容は洞察力を以って『互いの真実』を言い当てるという子供の間で人気であるゲーム。

 

これまでこのゲームで於いて負けを知らないユーリは、絶対の余裕で勝利を確信しつつ勝負を挑むが……メイビスは若干13歳にして頭脳明晰の一言。

一枚も二枚も上手だった為に意表を突いた結果でユーリに勝利してみせたのだった。

 

しかし…ゲームに勝ったメイビスだが、島にあるはずの天狼玉が既に何者かに持ち去られていることを知る。

奪った者がいるとしたらそれは……7年前に天狼島を襲撃した青い髑髏(ブルースカル)を於いて他は有り得ない。

メイビスはユーリたちに共同戦線の話を持ち掛け、船に乗せてもらい、一緒にブルースカルの足取りを追うことにするのだった。

 

天狼島を出たメイビスとゼーラが海を渡り初めて辿り着いた地は港町ハルジオン。

町に住む人の多さに圧倒されてしまうゼーラと、初めて訪れる町にはしゃぐメイビス。

いくらユーリから聞かされて決定してしまったとは言え子連れの旅にまだ少々納得していないプレヒトは、ブルースカルの情報を集めるために1人で聞き込みへ行こうとするが、メイビスがついて来てしまう。

 

溜め息を吐きながらも真面目なプレヒトは道行く人にブルースカルについて聞き込みを行うが、生まれ持った強面の所為で要らぬ恐怖を煽り話にすら発展しない。

そこで人懐っこいメイビスが代わりに聞き込みを行い、微かな情報を手に入れることが出来た。

 

情報を頼りに町にある酒場に行くと早速ブルースカルについて知っている者探しを始めた。

殆どが知らないと言う中、メイビスが酒場のマスターが知らないと言って嘘をついていることを言い当て、隠れていたならず者達と戦闘に入った。

トレジャーハンターは危険と隣り合わせな為プレヒトは強く、魔法は使えないので着ている服の袖口に隠している先端に刃が付いた鎖を使ってものの数分で倒し終える。

どうにかブルースカルについて情報を吐かせたメイビスとプレヒトは、待ち合わせ場所に戻って事を報告する。

 

ブルースカルの本拠地があるマグノリアの街を目指すメイビス達一行は、その途中、とある森でキャンプをすることになった。

森を探索する中、不自然に枯れている植物や動物の死骸があることに気付くメンバー達。

似た光景を見たことがあるというトレジャーハンターの3人は、過去の遺跡での出来事を思い出し、そこからユーリとウォーロッドの口喧嘩が始まって…パーティーは解散の危機になるがメイビスが間を取り持つことで解散の危機は去った。

 

その後、3日かけて歩きマグノリアの街に着いたメイビスたちは、ブルースカルの情報を得ようと街を散策し始める中、カルディア大聖堂で不気味な光景を目の当たりにする。

所々崩壊してしまっているカルディア大聖堂の上に、青いドラゴンの骨が乗っかっていたのだ。

 

不気味な光景に絶句しながらもその後、辺りの様子をもう少し見てみることにした一行は町外れにあった森と、森を抜けた先にあった神秘的な湖を発見する。

この数日で仲良くなったメイビス達は、メイビスのこの湖の畔に自分達の別荘を建てようという提案に夢を広げる。

この時皆の頭の中に浮かんだ物こそ……後の妖精の尻尾(フェアリーテイル)であった。

 

各々が物思いに耽っていると森の中から悲鳴が聞こえ、向かってみるとブルースカルの魔導士がとある母子に向けて魔法の弾を撃っている場面に遭遇した。

ブルースカルのメンバーを倒して助けた親子から、メイビス達はブルースカルが市民に対して魔法による力で圧政の強いているという実情を知らされるのだった。

 

赦せないと激情に燃えているところ、街に来たばかりであるというメイビス達に早くこの街から出て行くことを勧める老人が現れたが、やられたメンバーの仇討ちとして大人数でやって来たブルースカルのメンバーの一人の魔法で心臓を撃ち抜かれ殺されてしまう。

 

目の前で何の罪も無い人を殺されて激怒したメイビスは、島で独学で学んだ幻魔法を使って武装した兵士の大軍を作り出すが、同じく魔法が使えるブルースカルのマスタージョフリーによって見破られ掻き消されてしまう。

悪どい笑みを浮かべたジョフリーがブルースカルのメンバーに魔法で攻撃するように命令し、魔法を使えないユーリ、プレヒト、ウォーロッドはやられ、この時にプレヒトは右眼に魔法を受けて失明してしまう。

このままでは全滅すると悟ったメイビスの指示の元、気絶したユーリとプレヒトをウォーロッドが担ぎ、森へと敗走して行ったのだった。

 

気絶したプレヒトが目覚めてからは右眼の手当を行い、ユーリはまだ目覚めなかった。

心配で仕方がないメイビスは治療用の水を汲むために湖に向かう途中…不思議な少年に出会う。

マグノリアに来るまでに立ち寄った森で、木が枯れ果てて朽ちているという異様な光景があった。

実はこの少年がその光景を作り出した本人で、意図せずして周りに居る者の命を奪ってしまうのだ。

 

メイビスがその力の正体がアンクセラムの呪いであると一目で看破して、少年…黒魔導士は少女の博識具合に驚いた。

倒さなくてはならない者が居るというメイビスの強い眼差しを受けた黒魔導士は、メイビスから魔法を教えてくれという話を承諾したのだった。

 

教えるのは夜になってからという約束で一先ず別れたメイビスは、ユーリの治療を行うために必要な水の交換にゼーラと共にまた湖に来ていた。

仲良くお喋りしながら向かっていたその時……湖の方から水が飛沫を上げる音が聞こえた。

動物等が水浴びをしているときのようなものではなく…人が浸かっているような音だったので、2人は互いに口元に人差し指を抑えて静にというジェスチャーをした後…忍び足で向かった。

 

 

「…あれ…人?」

 

「恐らくそうだと思います。でも…何をやっているんでしょう?」

 

 

湖に着いた2人が見たのは、一人の若い青年が上半身が見えるだけの深いところに浸かり、水と腕が水平になるように広げてジッとしていた。

何をしているのか分からない2人は暫く見ていると…水面に変化が起こった。

 

青年を中心に最初は緩く…しかし次第に大きな渦を巻き始めていく。

青年は下には袴を着ていたが、見ている限りでは水の中に居たのに全く濡れている様子が無かった。

服に目が行っている内に水が更なる変化を起こして、等身大の大きさをした鹿や栗鼠(リス)、熊に鳥などといった動物が造り出されては自由に水面を駆けていく。

 

水の動物による駆けっこをしている間に水で出来た木が出来上がっては枝の上に猿が乗り、何かの食べ物を手に取って食べている。

狼が来て兎か食べられそうになるが、見掛けた熊が追い払い、助けた熊の上に兎が乗って楽しそうに走り回る。

まるで一つの劇を見ているかのように魅入っていたメイビスとゼーラだったが、メイビスがハッとして素晴らし魔法使いだということでこの人にも魔法を教えて貰おうと一歩踏み出した。

 

 

───────パキッ

 

 

「───ッ!何者だッ!!」

 

「キャッ!!」

 

「わぁぁぁ…ッ!!??」

 

 

丁度良く落ちていた枝をメイビスが踏んづけて折ってしまい、音がなった事に反応した青年が水の劇を止めて…代わりに水で造り出した槍を投擲した。

槍は寸分の狂いも無くメイビスの頭に向かって飛んだが、青年の声に驚いたメイビスが尻餅をついて槍が外れ、背後にあった木に水で出来た槍がめり込み貫通した。

 

一瞬死にかけたメイビスだったが、頭脳明晰故に気になったのか、水で出来た槍を見て目を輝かせていた。

ゼーラは槍の威力に顔を青くさせてピキリと固まっており、奥から青年が歩って寄って来ていることに気が付いて急いでメイビスの後ろに隠れた。

 

 

「覗き見とは何用だ小娘。碌でも無い用ならば……」

 

「ヒイィっ!?め、メイビスっ!早く謝って帰ろ!?」

 

「いえ、こうなった以上は引けません」

 

 

不穏な言葉を吐きながら今度は土が盛り上がって土で出来た槍を手に取った青年に、メイビスは背後にゼーラを伴いながら意を決したように話し掛けた。

 

 

「つかぬ事をお聞きします。あなたのそれは魔法…ですよね?」

 

「……それ以外の何に見える」

 

「先程の水のやつも魔法…ですよね?」

 

「見ておったか。フン…アレが自然現象に見えるか?……今更魔法の一つや二つの何が珍しい」

 

「…っ!私はメイビス!この子はゼーラ!……私達は倒さなくてはならない人達がいて、その為にも魔法を憶えたいんです!……いきなりですみませんが力を貸してくれませんか?」

 

「うぅ…っ」

 

「……魔法を…憶えたい?」

 

「はい!」

 

 

この時が青年────リュウマとメイビスの初めての邂逅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくメイビスの奴…何時になったら戻ってくんだよ」

 

「お前の傷の手当てに使った水を捨てに行っているんだ。感謝こそすれど急かすものではない」

 

「うぐっ……」

 

「ハッハッハ!ユーリ言われてしまったな」

 

「うっせ」

 

「………………。」

 

 

森の開けた場所に居るユーリ達は、離れたところで3人を見ている黒魔導士と共にメイビスの帰りを待っていた。

3人が雑談をしているところに黒魔導士が混ざることはなく、かなり離れたところで静に佇んでいた。

 

 

「皆さん!お待たせしてごめんなさい!」

 

「おっせーぞメイビス!…あ?そいつ誰だ?」

 

 

振り向いて迎えたユーリ達が見たのは、メイビスと連れ添っているリュウマの姿だった。

 

黒魔導士の他にも助っ人を得られたのかと感心している3人を置いて、邂逅した黒魔導士とリュウマは互いに目が合い…目を細めた。

 

 

「この方は黒魔導士さんと一緒に私達に魔法を教えてくれる……お名前聞いていませんでした」

 

「「「ガクッ……」」」

 

「所詮は短期間の顔遭わせだ。好きに呼べ」

 

「教えてくんねーのかよ…。んー、じゃあ剣を持ってるから剣士な!」

 

 

笑いながらリュウマの呼び方を決めたユーリはメイビスに早速魔法についてのレクチャーをして貰えるよう促し、メイビスが2人にお願いしますと言うと黒魔導士は落ちていた木の棒を拾って先端に炎熱魔法を掛けた。

魔法を掛けた棒の先端を木に押し付けると木が焼けて削れ、文字が書けるようになる。

 

離れたところでやっているのでユーリ達が何故離れてやっているのかと言うと、何故離れているのか知っているメイビスは離れなくてはダメなのだと…よく分からない補足をした。

リュウマは全て知っている基本中の基本なので離れながら適当に流していた。

 

 

「─────つまり、魔力はエーテルナノを吸収することで再び器を満たし、再び使えるようにするんだ」

 

「うーん……口頭で言われてもなぁ…」

 

「オレ達は今までエーテルナノという物も知らなかった…だからソレがあると実感出来ない」

 

「ワッシも少し難しく感じるぞ」

 

「……ならば一つ例を見せてやる」

 

 

黒魔導士の説明が終わった頃には、本で魔力というものを多少なりとも知っていたメイビスは目を爛々とさせながら聞いていたが、ユーリ達には少し難しく理解は出来ても実際のものが分からない。

 

混乱しているユーリ達を見たリュウマは助け船を少し出してやろうと動き出し、訝しげな表情をするユーリ達を尻目に木の棒を5本拾ってきた。

 

 

「持っていろ」

 

「おう。ワッシに任せろ」

 

 

3本の棒をウォーロッドに持たせてしっかり握らせ、リュウマは左右の手に一本ずつ木の棒を持っている。

正面に立ったリュウマと向かい合うウォーロッドの周りにメイビス達が集まり、遠くからは黒魔導士も見ている。

 

 

「貴様等が魔力がどういうモノなのか理解していないようだからな。どれ程のモノか実践で見せてやる」

 

「お!そりゃありがてー!」

 

「金髪の貴様。我が持つこの何の変哲も無い木の棒を、目の前に立つこの男が持つ三本束にした木の棒にぶつけ合った場合…どうなる」

 

「金髪…我…?まぁ…お前が持ってる方が折れんじゃねーの?」

 

「質問するほどでも無く…このようになるな」

 

 

手に持つ棒を振りかぶってウォーロッドの持つ三本束の棒に横から叩きつける。

勢い良く行ったので三本束にしていた棒は一本も折れること無く健在で、逆にリュウマが持っていた木の棒が衝撃に耐えきれず半ばから折れてしまう。

 

 

「ここにもう1本同じ木の棒がある。それに先程黒魔導士とやらが言っていたように魔力を練り上げ…纏わせれば──────」

 

 

体から純黒なる魔力が纏うように放出され、体全体から木の棒へと譲渡する。

そしてそのまま魔力で覆われた木の棒をウォーロッドの持つ木の棒へと最初と同じように叩きつける。

 

 

──────バキッ!!

 

 

「「「なっ!?」」」

 

「この様に、魔法でもなく纏わせるだけでも木の強度を上げる事が出来る」

 

 

三本束にしていた木の棒は見事にへし折られ、リュウマの持つ一本の木の棒は健在で傷一つ無かった。

持っていたウォーロッドも驚いて折られた断面を見て不思議がっていたりして騒ぐ。

黒魔導士はリュウマの魔力の使い方を見て、遠くからでは分からない程度に目を少し見開いた。

 

魔力の流が余りにも静かで緩やか…まるで風も生物も存在しない世界にある海に、一粒の雫を落としたような流動性と操作性。

極め付けは魔法を自在に使える黒魔導士だからこそ視認出来た真っ黒な純黒なる魔力だった。

 

その後も魔力の持つ可能性に興奮した面々の魔法による授業は黒魔導士によって行われ、実際の魔法をリュウマがやってみせるというやり方が定着した。

やがて夜遅くになったということで黒魔導士が後は明日にしようと言って切り辞め、森の中へと姿を消した。

その後をリュウマが追い掛けるように向かい、ユーリ達は寝る準備に入る。

 

メイビスは居なくなった2人の事が気になって見ていたが、ユーリ達に呼ばれたので目を離し駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ると思っていたよ」

 

「であろうな。態々止まり待っておったのだから」

 

 

少し離れた所でリュウマと黒魔導士が密会していた。

互いが互いを他とは違う者と認識した事による邂逅であり、黒魔導士としても会いに来てくれて良かったというものだ。

 

 

「君は何者だい?……まぁ…僕としては大方予想がついているけどね」

 

「ほう…?ではお聴かせ願おうか黒魔導士…否……黒魔導士()()()

 

「─────ッ!凄いな…ヒント無しで言い当てるなんて……」

 

 

一目視たその時に保持する魔力が其処らに蔓延っている魔導士とは一線を画していることを看破し、態々他人から不必要に距離を取るという不審行動で答えを導き出していたのだ。

そもそも…黒魔導士ゼレフは400年前に世界へと知れ渡っていたので、王であったリュウマが知らないはずも無い。

 

やはりゼレフだったかと言い当てたリュウマがゼレフに近付いた時…ゼレフが手を翳して待ったを掛けた。

 

 

「ダメだ。それ以上僕に近付いてはいけない…!」

 

「フン。アンクセラムの呪いか?それがどうした」

 

「君もやっぱり知って…いや、待って…!それ以上僕に近付いたら君を殺してしまう!僕は君を殺したくない…!あ……」

 

 

既に遅かった。

 

 

アンクセラムの呪いとは、命を尊く思えば思う程周囲に居る命ある者を死に至らしめ、逆に命をどうでもいいゴミか何かと思えばその効力を発揮しなくなるという矛盾の呪いだ。

 

しかし今、何もしていないリュウマを殺したくないと思ってしまったので矛盾の呪いが発動し、死の波動が解き放たれる。

 

 

「く、来る…死が……!」

 

 

蹲ったゼレフの体から死の波動が撒き散らされ、周囲にあった木や小動物が息絶えていく。

そんな光景を見たくも無かったゼレフは目を瞑り、また何の罪も無い者を殺してしまった…と。

 

 

「─────これがアンクセラムの呪いの力か」

 

 

だが…肩に手を置かれて喋り掛けられた事で眼を大きく見開くこととなる。

 

呪いは今確実に発動されてしまった。

その所為もあって周囲に生えていた多くの木々は枯れて朽ち果て、小さい動物や大きな動物も息絶えて倒れ伏している。

しかし……リュウマには何も起きておらず、剰え触れるだけでも命を奪ってしまうゼレフの体に触れていた。

 

 

「ど…どうして…」

 

「我の体には()()()()()()()()()()()()。故に貴様のアンクセラムの呪いによる死の力は働かず我はこうして生きておる。……と言ったものの…この体で生きているというのはまた違うものかも知れぬがな」

 

「……はは。当時から何かと出鱈目だったけど…そんなことになっているなんてね。僕も驚いたよ」

 

 

300年ぶりとなる人と肌との接触に懐かしさと微かな感動を憶えているゼレフは既に、目の前に佇む青年ことリュウマが当時300年前に世界を騒がせた殲滅王…リュウマ・ルイン・アルマデュラであることに気が付いている。

それ程までにリュウマの魔力には特徴があったからだ。

況してやゼレフは元魔法研究学者で天才と云われていた者だ。

 

何のヒントも無しで正体を看破することは無理でも、少しの可能性で解に辿り着くことが出来る。

と、言っても…結局はリュウマの方が頭が良いのだが…。

 

差し伸ばされる手を取って起き上がったゼレフはリュウマに、何故死なない体を手にしてしまったのか問い、リュウマはゼレフが何かと出来ないかと己とは違う視点を得るために教えた。

アンクセラムの呪いではないことに興味を持っていたが、終ぞゼレフでも良案が浮かばなかった。

 

近付くと相手の命を奪い、触れれば例外なく死なせてしまう自分とここまで近い距離で気軽に話せる存在は初めてで、魔法の専門的な事でも問題なく話を合わせられるリュウマとの話し合いはとても充実したものだった。

その場で時も忘れて…それこそ何百年という途方も無い時を過ごしているので今更ではあるが…話し続け、真夜中を通り過ぎ、朝日も出ようとしているところで気が付き2人は別れた。

 

数時間後には再び集まってユーリ達に魔法を教え、元から魔法に関する素質があったプレヒトは直ぐに魔法に必要な魔力の発揮に王手を掛けた。

体から漲る魔力に驚きはするが集中を乱すこと無く続け、プレヒトは3人の中でも一番魔法に近付いていた。

 

一方ユーリは只ジッと考えるのは性に合わないということで何かのストレッチ等をして体を動かし、体の内に秘められた魔力の蓋をこじ開けた。

 

最後にウォーロッドだが……ウォーロッドは次の日には魔力を発現させることは出来ても、魔力を銃のように撃ち出したり得意の鎖を模った魔法を使える訳でも、ユーリのように雷の魔法を使える訳でも無い。

ただ魔力が使うことが出来るだけという中途半端な状態に陥って無力感に苛まれていた。

他より遅れているという状況に、このままでは大切な仲間を守ってやれないと焦っていたウォーロッドに、見かねたメイビスは逆に2人はウォーロッドに助けられて守られていると告げた。

 

事実、プレヒトもユーリもブルースカルにやられた時もウォーロッドに担いで貰ってその場を逃げることが出来たし、メイビスと出会う前のトレジャーハントでも何度も何度もウォーロッドに助けられた。

だから焦ることは無いと告げられたウォーロッドは落ち着きを取り戻した。

 

 

「剣士。少し良いか」

 

「……何だ」

 

 

黒魔導士はメイビスと話をしているということで、大きな岩の上に座って空を見上げていたリュウマの元に来た。

因みにだが、リュウマが座っている岩は、ウォーロッドが魔法をどうにか所得しようと殴り続けた岩で、その証拠に側面には拳大の罅が入っている。

 

 

「ワッシはユーリ達や元から魔法が使えたメイビスのように何かを掴めた訳ではない。だから頼む…ワッシにも使えるような魔法を教えてくれ」

 

「……まぁ良いだろう。貴様には貴様の魂の本質に合う色がある。それは……緑だ」

 

「緑…?」

 

「目を閉じて耳を澄ませ」

 

「…??」

 

 

リュウマに言われた通り、その場で立ったまま目を瞑り耳を澄ませる。

程よい風が吹いてウォーロッドの頬を撫でていく。

妖精の悪戯して頬を撫でたような擽ったさを感じ、緩く微笑みを浮かべる。

 

 

「自然の存在を感じ取れ。木々を…草花の傍を潜り抜ける風の息吹を聴け。陽の光に当たり喜ぶ様に共感しろ。

古来より森とは母なるもの…その母は貴様に微笑みかけている」

 

「…………。」

 

「貴様は今や一本の大樹…根が地に張り巡らされ芯があり枝が四方に向かって力強く伸びている。残るは華。貴様が栄養(切っ掛け)を取り込んだ今────咲き誇れ」

 

「─────────ッ!!」

 

 

己が内に潜む強大な力を今……ウォーロッドは手にした。

 

ユーリやプレヒトの攻撃系魔法とは違い、ウォーロッドが手にした魔法は…緑魔法。

 

 

「それが貴様に合った魔法だ。自然を愛し自然に愛された者だけが手にする力…自然を掌握し操る魔法だ」

 

「これが…ワッシの魔法…!!」

 

 

手の中で木の実だった種を急速に生長させて芽を出させたウォーロッドは、驚いた様子でそれを見ていた。

 

ウォーロッドは攻撃系魔法ではなく、仲間をサポートし勝利へ導くための道導(みちしるべ)となる魔法を憶えたのだ。

やっと手にした魔法で芽が出たばかりの幼い若芽に魔法を掛け、成長を促して見上げる程の巨大な大樹を生み出した。

 

遠くからでも見えるその大樹に気が付いたユーリ達は直ぐにウォーロッドの魔法であると気が付き、心の中で祝福した。

 

斯くして魔法を憶えたユーリ達はその日から競い合うように魔法の鍛練を積んでいき、ブルースカルとの戦いに備えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんっ…?」

 

「どうしたのぉ…めいびす……」

 

「起こしちゃいましたか…?ごめんなさい…ゼーラ…」

 

 

魔法の鍛練を始めて3日目の夜…正子を過ぎている頃…眠っていたメイビスが何かに気が付いて目を覚ました。

隣で仲良く眠っていたゼーラも身動ぎしたメイビスに気が付いて眠そうに目を擦りながら起きた。

 

舌足らずな状態でいるゼーラに謝ったメイビスは、よく分からないが湖の方から不思議なものを感じて引きつけられる。

ハーメルンの笛吹き男に誘われた子供のように起き上がって向かうメイビスに、少し覚醒したゼーラは後を追い掛けた。

 

 

「ちょっと…!どこに向かってるのメイビス!」

 

「分からないです…こっちから不思議な感じがするので向かったのですが…この方向は湖ですね」

 

 

今気付いたとでも言うように答えたメイビスに訝しげな顔をするゼーラ。

よく分からないがこの先に何かあるということで良いんだろうと考えて、メイビスの裾を掴んで恐ろしげに着いて行く。

 

そこまで離れている訳ではないので、ものの数分で湖に着いた。

 

すると奥からリュウマとメイビスが出会った時のような水が散る音が聞こえてくる。

またあの時のように誰かが水を浴びていたらどうしようと思いながら、怖い物見たさに唆されて木の陰から覗き込んでしまった。

 

 

「ぇ…?」

 

「う…そ…」

 

 

それを見た瞬間……メイビスとゼーラは言葉を失う。

 

 

何を見たのか? 何のことは無い。

 

 

只少し……

 

 

「『──♪───♪──♪───♪───♪』」

 

 

魔法を教えてくれた剣士の背に…翼が生えていただけなのだから。

 

 

「ま、魔法…?」

 

「……魔法を使った時の魔力が感じられません。つまり…あの翼は()()()()()()()…ということです」

 

 

驚きに眠気も吹っ飛び絶句しているゼーラに、自身も多大に驚きながら冷静な一面で解説していく。

何時の間にか消えていた黒魔導士と同じく、剣士からも魔法を教わっただけに魔法に使われる魔力の感知も出来る。

 

故に彼が魔法を使って翼を生やして水浴びをしているということは有り得ないと分かった。

 

水浴びをする以上、極限まで鍛え抜かれた美しい肉体美を晒し、リュウマは自慢の3対6枚である黒白の翼を1枚1枚丁寧に水洗いしている。

手慣れた様子から普段もこの様に翼を洗浄しているだろうことが分かる。

 

真夜中だというのにご機嫌な為か、聴いていて落ち着くような声色で静かに歌を歌っている。

子守歌にも聞こえるそれは、リュウマの母のマリアがリュウマの為にと考案した歌に改良を加えたものだ。

子守歌よりも歌らしくなったそれはリズムも良く、翼を洗う青年と月が浮かぶ水面とでマッチして幻想的だった。

 

ついつい又も魅入っていたメイビスは……既視感溢れる感じで枝を踏み折った。

 

 

「─────ッ!!何者だ!!…………また貴様等か小娘共」

 

「あ…あの、本当にごめんなさいっ」

 

「わ、悪気は無かったわよ…?」

 

「悪気は無かった?流石は小娘だ。我には何を言っているか皆目見当がつかんな。それとも何か?貴様等は他人様が水浴びをしているところを覗くのが趣味であると?」

 

「「ご、ごめんなさい……」」

 

「フンッ……」

 

 

見られた以上は取り繕う事は無く、生えていた翼は空気に溶け込むように消えて、リュウマの染み一つ無い筋肉質な背中が露わとなった。

思春期に入るぐらいの歳であるメイビス達は少し頬を染めながらリュウマから視線を逸らした。

 

特に気にする様子も無く湖から上がり、異次元に格納していた服を魔法を使って着てその場を後にしようとした。

そんな傍らで翼について気になってしまったメイビスはリュウマを追い掛け、ゼーラはふと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()驚いた。

 

歩幅が違いすぎて追い掛ける形になりながら追い付いたメイビスは、リュウマの裾を掴んで止まってくれるように促し、リュウマは眉を顰めながら振り向いた。

 

 

「剣士さん。アレは剣士さんの体の一部…ですよね」

 

「魔力を感知しなかっただろう。詰まるところそういうことだろう」

 

「……あなたは人間ではないのですか?」

 

「……………。」

 

 

翼が有るだけで  人間だとは思われない。

 

 

300年前ならば翼を持つ人間…翼人一族のことは世間で知れ渡っていたというのに、今では文献にすら記されていない“絶滅した人類種”。

 

 

たった一人を残して。

 

 

最早…誇り高く気高き空の王者たる生きた戦闘兵器の翼人一族は己を置いて他に居ないのだと…改めて実感したリュウマは刹那の瞬間に哀しそうな感情を眼に宿すが……メイビスが気付く前に元に戻った。

 

 

「誰が人間に翼が無いと決めた?所詮は見たことも無い輩が臆測で立てた俗に言う“世の常識”というやつだろう。現に我は人間として翼を持って生きておる」

 

「そう…ですか。やっぱり島の外は私が知らないことでいっぱいっ。剣士さんと同じ翼を持っている人はみんなあなたのように隠しているんですか?」

 

「─────翼人は既に我のみだ」

 

「…………え?」

 

「他にはもう存在せんと言っておる」

 

 

あっけらかんと告げたリュウマに、メイビスは笑顔のまま固まり、言葉の意味を理解した途端に視線を落として俯くように頭を下げた。

 

 

「そうとは知らず…浅はかでした…ごめんなさい」

 

「謝罪されたところで事実は変わらぬ。我は事実を只述べたのみ。貴様が気落ちする必要など無い」

 

「でもっ……」

 

「─────二度は言わぬ」

 

「はい…ごめんなさい」

 

 

先程までの興味津々だった態度から気落ちして暗い表情浮かべるメイビスを見て……リュウマは溜め息を一つ溢した。

 

嘗てのフォルタシア王国にも歳ゆかぬ子供などは山と居た。

それこそ、翼人一族に限らず居場所を失って迎え入れた地人の子供や巨人族の子供や獣人族の子供まで。

彼はそんな山ほどの子供達と時には触れ合って王として民と親睦を深めたりした。

 

当時の感覚が残って消えていない為か、殲滅対象ではない落ち込んだ子供を見るとつい居たたまれない気持ちにされる。

 

 

「……はぁ。…そこまで気にするなという事だ。時に貴様はギルドというものを設立したいのだったな」

 

「え…あ、はい!名前も大体決まってるんですよ!」

 

 

今とても気になっているギルド設立に話題を振られたメイビスは暗い表情を一転…年相応の爛々とした瞳を再度浮かべて興奮したように話し始めた。

一度話すと中々止まらないメイビスに、会ってから初めて仏頂面から苦笑いを浮かべた。

 

違う表情も出来るのだとポカンとしているメイビスに、真夜中だがお陰で目が覚めたから少しの間話し相手になれとと言って適当な岩の上に腰掛ける。

続くようにメイビスもリュウマの隣に腰を下ろして話しの続きを始め、リュウマは表情こそ無だが相槌を打って話を聞いていた。

 

途中でブルースカルを倒し終わったら一緒にギルドを設立しないかと誘われたが、リュウマは宛ての無い旅を続けるからと断りを入れた。

残念そうな表情ながら恩人であるリュウマを少しだけ諦めきれないメイビスは、旅の途中でまた会ったその時は入って欲しいと言った。

 

不死であるリュウマからしてみれば時が過ぎるのは夜明けを迎えるように早いもの…再びここに来るのは数十年後か或いは数百年後か……死なない己としてはタイミングなど何百年経とうが変わらないのだ。

故にリュウマは、もう会うことはないだろうと、メイビスに再び相見えたならば入ろうと約束してやった。

 

最初に断られた時とは違い、やったー!と言いながらぴょんぴょん跳ねてはしゃいでいた。

年相応の反応に頭が良くともやはり子供かと納得して、メイビスにもう寝るように言いつけて、彼は薄暗い闇が広がる森の中へと姿を消した。

 

 

翌朝……リュウマは居らず、黒魔導士と同じく何時の間にか消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────大凡100年後

 

 

一人旅を続けていたリュウマは転々と場所を変えてはあらゆる地方に行って名産の食べ物を食べたり、身なりに騙されて襲い掛かってきた盗賊を返り討ちにしたり、強いという噂を聞き付けて雇われの身で領地争いに参加したりと、普通の人ならば色濃い生活を送っていた。

 

その内リュウマは適当な木を使って一人用の船を造り、乗り込んでは魔法で操縦して海を渡っていた。

並に揺られ晴天の陽射しを受けて日向ぼっこしている状況で、そろそろ陸に着く頃ではないかと頭を起こした。

 

首を回して周辺を見ることで眼に映ったのは……中心に御大層な巨大樹が聳え立たせる島だった。

 

島にしては少し狭い位の面積だと思いながらも上陸の準備に掛かり、近くまで寄ったら船の先端に付いている紐を手に取り…海に身を投げた。

と…言ったものの、彼は海の中に落ちること無く、水面をアメンボのように歩いていた。

魔力を海面に張らせて足場となる膜を作り、その上を悠然と歩くという仕組みになっている。

 

上陸したリュウマは探索に出て、中央の所にある風化が進み遺跡のようになっている町の跡地を見て、住人は居ないと関連付けた。

なれば用は無いと思ったリュウマが踵を返し、船に乗り込もうとした時……声を掛けられた。

 

 

「──────剣士さん?」

 

「────ッ!貴様は……あの時の小娘か?」

 

 

約100年振りの再会は……幽霊のように浮遊しているメイビスとの再会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程。後にはその様な事が起きたか」

 

「えぇ。あの時はとても助かりました」

 

 

適当な所に腰掛けているリュウマの前にはふわふわと浮遊しているメイビスが居て、2人は久し振りの再会故に色々な事を話していた。

 

メイビスが約100年経った今でもこうして姿を見せているのは、とある事があって死んだのだが、幽体のようになりながら墓の建てられたこの天狼島に居続けていたのだそうだ。

ギルドは確と設立され、自分が初代マスターとなって2代目にはプレヒトに任せたと教えた。

 

今ではユーリ・ドレアーの子供であるマカロフ・ドレアーがギルド…妖精の尻尾(フエアリーテイル)の3代目マスターの座に座り、ギルドを存続させているという事も話された。

他にも、メイビスは会った時と何ら変わらない容姿で幽体となっていることから、別れた後直ぐに死んだのかと問えば、密かに黒魔導士から教えて貰っていた古代の超魔法を自身の裁量で使ってしまい、代償として……肉体的成長が望めない体となった。

哀しいことはそれだけではなく、親友だったゼーラ…あの少女は助けたと思っていたがその時には既に死んでいて、あのゼーラはメイビスの幻魔法を無意識に使って()()()()()()()()()()

 

だからメイビスと初めて出会った頃のユーリはゼーラという()()()()()()()少女に話し掛けているメイビスに戸惑っていたのだ。

事実…あの黒魔導士ですらその事に気が付いたが可哀相だと思って言わないでおいたのだ。

 

ゼーラがリュウマと会話が成り立ったことに驚いたのはつまりは、そういうこと。

自我を持つメイビスにしか見えない聞こえないゼーラだからこそ、聞こえない見えない筈のゼーラと()()()()()()()()()()リュウマに驚愕したのだ。

 

ブルースカルとの戦いに勝利し、ギルドを建てていこうとしたところで一大決心したユーリによってその事を伝えられ、自覚したことで無意識という状況下が消えてゼーラが意思とは反して消えてしまったのだ。

 

魔法の代償…親友との決別…耳に痛い話に少し眉を顰めはすれど、何時ぞやの日の夜のように静かに話を聞いてくれた。

久し振りに人と話すと思い出してお喋りに興じる時のメイビスの笑顔は、昔と変わらない笑顔だった。

 

因みに、本来ならばフェアリーテイルの紋章をその身に刻んだ者にしかメイビスを視認できないのだが…リュウマに対してそれは無粋というものだろう。

万能故に魔法を使えばちょちょいのちょいでどうにかなる。

 

 

それこそがリュウマ クオリティであるが故に。

 

 

「……今更ですが…あなたのことを訊いてもいいですか?」

 

「……………。」

 

「この100年。あなたは姿形変えること無く生きている。私には不思議でなりません。若しかしたらまた不躾な問いになるかも知れませんが…あなたが持っていた翼とこの長寿…あなたは何者なんですか?」

 

 

メイビスの言葉には真剣さが宿り、先程までの楽しげな雰囲気から辺りには緊迫した空気が流れる。

 

問われたリュウマと言えば特に表情を変えること無くメイビスの顔を見ていたが、話しても問題はないだろうと判断して話すため、重い腰を上げて立ち上がる。

 

背から3対6枚の大きな翼、服装を羽織り袴から、翼を生やし祈りの所作を取る女性の背後に剣が二本交差している紋章を刻んだ…真っ黒な軽装の鎧を身に付けて頭に被っていた三度笠が消え、朱い宝石が一つ付いている代々継承されていく王のサークレットを装着した。

体から膨大な純黒なる魔力が溢れ、天狼島一つが地震に遭ったように揺れる。

 

 

この姿こそ─────

 

 

「文献にすら記されておらず幻が如く消えた、嘗て東の大陸を治めた大国…フォルタシア王国。我こそはフォルタシア王国第17代目国王─────リュウマ・ルイン・アルマデュラである」

 

「フォルタシア王国…国王……」

 

 

呆然として言葉を紡ぐメイビスは、明晰である頭脳を使ってフォルタシア王国という名に検索を掛けてみるが、一向に思い当たるものが無かった。

それもそのはず、フォルタシア王国は今から400年前の時代に於いて、アクノロギアと数百万という途方も無いドラゴンに襲われて滅んだのだから。

 

竜王祭と呼ばれるその一つの時代の終わりには他の国も幾つも滅ぼされ、とてもではないが国が何故どのように滅んだのか書き記される事は出来ない。

故にあれ程栄えた大国は語り継がれる事無く消えてしまった。

 

長寿の秘密についてはメイビスと同じ様なもので、欠陥があった魔法の行使によって死という概念が無くなってしまっているということを教えた。

同じく魔法による呪いとも言えるものを負ったメイビスとは、同じく思うものがある。

後は黒竜を殺すためにあちこち転々として、ここには偶然来たということだけを伝えた。

 

 

「そう…だったんですか。翼人一族…初めて知りました」

 

「であろうな。今この時代を生きる者達からすれば、知りもしなく書物にすら載せられていない…それこそ“存在しない国”なのだから」

 

「……リュウマ…と呼んでも?」

 

「好きにしろ。問われ名乗ったのは我だ。王ならば不敬に当たり否であるが…我は最早王ではない」

 

「……では、リュウマ。私が設立したギルドに入って下さい」

 

「……あの時の話か?」

 

「それもありますが、ギルドとは家、仲間は家族である魔導士の帰る場所です。リュウマもギルドを家とし仲間を家族となってみて下さい。そして時には子供達を助けてあげて下さい。それに虱潰しに黒竜を探すよりも、情報が飛び交うギルドに入って情報探しから入るのもいいと思います。失望はさせません」

 

「……言ったものは今更飲み込めぬ。……良いだろう。一興として加入しよう」

 

 

頭を縦に振ったリュウマにメイビスは微笑みを浮かべた。

 

謀らずして国を失ってしまった憐れとも言えるリュウマに、失ってしまった家族愛を教えてあげたいというメイビスの配慮である。

それに気が付きながらも、リュウマは偶には一カ所に留まっているのも良いだろうと判断を下し、最後に…黒竜を見つけたらギルドを去り、己に関する情報をギルドの者達に話せと言った。

 

何故話す必要があるのか、確かに隠し事となってしまうが、リュウマの場合は隠して然るべき内容でもある。

それに説明を己でするのではなく、何故自分に任せるのかと思いながら、ギルドに入ってくれる以上そのくらいの願いは聞こうと了承した。

 

 

後にメイビスは、この願いが()()()()()()()()()()()()()知るよしも無かった。

 

 

 

 

 

 

「あっ。口調と一人称と普通に変えて、姿は子供の姿からお願いします」

 

「いや何故だ」

 

「そんな王様のような…王様でしたものね。とにかく、その高圧的な話し方ではなくもう少し柔らかく。姿は…これから先どの位滞在するのか分からないので、歳を重ねるのではなく、小さい頃から元に戻っていった方が簡単ですよ?」

 

「ムゥ……相分かった。年少の頃になれば良いのだな」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここか」

 

 

最高レベルの頭脳を持つリュウマは、約100年前に見た景色を頼りにギルド、フェアリーテイルの前まで来た。

一度見れば事細かに記憶するのは、魔法を創り出すに当たり、書き記した魔法陣を機能させる為の文字を憶えておくためにも使えるので必然的に鍛えられる。

元々絶対記憶力とまではいかないが、それに追随するほどの記憶力は持っている。

 

記憶を思い返していると、湖のあった場所は変わらないが、嘗てユーリ達に魔法を教えていた森の開けたところにフェアリーテイルは建てられていた。

 

体を少年と青年の中間辺りに変えているリュウマは、外だというのに既に騒がしい音が中から聞こえてくる扉を押して中へと入る。

 

 

─────ふむ。此奴がユーリと言ったか…彼奴の息子か。内包する魔力は“可も無く不可も無く”…だな。

 

 

中に居た老人のマスターマカロフに仕事をしたいからギルドに入れて欲しいと言うと、まだまだ小さいのに立派だなと言い、並の子供よりも貴様は小さいがな…という言葉は飲み込んだ。

 

 

 

 

「歓迎するぞぃ。ようこそ────妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ」

 

 

「…あぁ。よろしく頼む」

 

 

 

 

フェアリーテイルの紋章を左鎖骨の下に黒で入れて貰い、リュウマは取り敢えず、ギルドというもののメンバーらしく仕事を受けてみることにしたのだった。

 

 

 

 

 

因みに、いざ仕事に行こうとしたところフェアリーテイルの恒例行事たる新人との顔合わせ勝負で、若い頃のワカバとマカオが相手となったが同時に相手で2秒KOだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?最初の内は簡単なものからだと?…これはどうだ。……わ、ではなく…この俺がネコ探し…だと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて…次から原作に戻ろうと思います。

原作メンバー達との邂逅の話が読みたい人が居れば、番外編として書こうと思います。


この小説も終わり近いなぁ……。


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