FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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長い闘いです。

果たしてどちらか?




第七十刀  黒と白

 

だだっ広い土が剥き出しとなった寂れた荒野に、その場とは似合わぬ剣戟の音が響き渡る。

 

発生している音源は当然の如く、今から大凡400年前に世界を動かしていた四人の王の内の二人である。

智謀だけに留まらず武にも精通していた正に文武両道の具現たる二人の得物の打ち合わせは、寂れた荒野に多大な傷跡を残す衝撃を奔らせながら続けられていた。

 

一方の白き人…オリヴィエの攻撃は得物を振るう速度が異常で、一度振ったというのに相手を十度斬り裂いた。

 

もう一方黒き人…リュウマの攻撃は速さもさることながらではあるが、連撃に関してはオリヴィエには届かず、しかしオリヴィエの体を両断せん程の裂傷を与える。

 

 

「ぐぶッ────オォォ───────ッ!!」

 

 

「ごほッ────ハアァ───────ッ!!」

 

 

目に見えない連続の剣戟から一転して、構えた後音を捨て去る速度で交差した後、リュウマの体から数十箇所から勢い良く血飛沫が上がる。

一方オリヴィエの体には数多くの傷よりも、重く深い一撃が左肩から右脇腹に掛けて奔り夥しい量の血を滴らせる。

 

 

「ぐぅッ…ッ!『自己修復魔法陣』起動───」

 

「─────遅いッ!!!!」

 

 

体の隅々まで黒い線が曲線や直線を描きながら体に刻まれて傷を瞬く間に修復させる。

だが、既に傷が塞がっているオリヴィエには遠く及ばず、振り向いてはリュウマに向かって駆け出して両の脚の健を斬った。

 

足に力が入らなくなりバランスを崩し、急いで立つ立たないに関係ない宙へと飛ぼうとしたところをオリヴィエに足をむんずと掴まれ、勢い良く地面に叩きつけられた。

視界が一瞬で空を見上げるものとなって混乱している内に背中から強打…故に強制的に肺から空気を吐き出させられる。

 

『魔力が多ければ多い程修復が早くなる』というリュウマが持つことで出鱈目な性能を発揮する自己修復魔法陣よりも先に傷を治したオリヴィエの絡繰り。

 

竜王祭と呼ばれる戦争から400年経った今、オリヴィエは当時の姿のままで今も生きている。

でもそれは、オリヴィエが言っていた、とある村に伝わる不老不死の霊薬を全て飲み干したこと故の不老不死だ。

 

ここで肝心なのが、リュウマは『死という概念が滅失している』というのに対し、オリヴィエのそれは『起こり得る死という道を逸れる』という点だ。

 

つまり、リュウマは何をしようが死にはしないものの、体が完全に消滅しようと生き続けるという…体が無いのにそこに在るという奇妙な矛盾を起こす。

不老不死となったオリヴィエの場合は、傷を負って死を迎えるという選択を不老不死故に選ばない。

故に傷を負って死ぬという選択を無かったことにするために傷が勝手に塞がるのだ。

 

同じく不老不死であるゼレフも、オリヴィエ程の速度で回復はしないが、同じように負った傷が直ぐに消えるように治る。

 

 

純粋な不老不死に対して、欠陥の魔法を使われて迎えたリュウマの体質は─────不死。

 

 

体を消し飛ばされでもしたら、幽体離脱が如く()()()()()()()()()という地獄にも等しい現象を引き起こす。

だから誰もが疑問に思った事の一つ。

 

 

何故リュウマは不老不死だというのに自己修復魔法陣を使って肉体を修復しているのか?

 

 

それは単純に…不死なだけで傷が勝手に治らないから…ということに帰結する。 

 

 

幸いなことに不死の中には『老いによる死』も含まれていた為に、今の今まで老いることは無く当時の若々しい姿で生きてきた。

ただ、それだけだとオリヴィエの自然治療に遠く及ばなかった。

 

いくら速く傷を修復しようが……

 

 

『傷を負う』→『自己修復魔法陣起動』→『健全な体を解析』→『体を急速に修復』→『完治』→『追撃又は迎撃』

 

 

という工程を行っているリュウマとは違いオリヴィエは……

 

 

『傷を負う』→『傷を無かったことに』→『追撃又は迎撃』

 

 

傷を負っても無かったことにされてしまうオリヴィエとは、工程数が違いすぎて大きなダメージを受けた時には速度でオリヴィエに勝てないのだ。

 

 

「がッ!?あ゙あ゙あ゙あ゙……ッ!?」

 

「ふッ…!!」

 

 

所戻り、足の健を断たれて地面に叩きつけられたリュウマにオリヴィエが接近し、右腕の手首を両手で掴み、腕全体を又に挟んで両脚をリュウマの体に被せて関節を極める。

腕ひしぎ十字固めと呼ばれるこの関節技は、極められている腕とは反対の腕は脚で体を固定されているため届かない。

辛うじて足首を掴むことが出来るが、脚力は腕力の4倍以上と云われているため、相手が他でも無いオリヴィエで、それも脚の健を断たれて踏ん張りが効かない上に動かせるのが左腕となると引き剥がすのが極めて困難だ。

 

 

「あ゙がぁ゙…ッ!!ぐ…っ!」

 

「ふぐぐぐぐぐ……ッ!!」

 

 

万力の如く力を籠めているリュウマに対抗して全身を力ませて関節技を極める。

やがて力では無理だと悟り、オリヴィエが張り付いていることを良いことに…全身から純黒なる魔力で形成された雷を迸らせた。

 

しかし、オリヴィエも体に一瞬痺れが来たことに気付いて純白の雷を同じく迸らせた。

拮抗し合う雷は混ざり合うこと無く出力を上げていき大地を灼いた。

それでもオリヴィエはリュウマの腕から離れることなく関節技を極め続け……とうとう。

 

 

─────ぶちんッ…!!

 

 

「があ゙あ゙あ゙あ゙─────ッ!!!!」

 

 

腕の関節が悲鳴を上げると同時に曲がらない方向へと折れ曲がり、リュウマの腕の肘から先が引き千切られた。

宙を舞う右腕の所為で痛みが奔り隙を見せる。

絶好のチャンスをオリヴィエが見逃す筈も無く、痛みで顔を歪めているリュウマに向かってその場から後退しながら膨大な魔力を籠めた魔力球を放った。

 

起き上がって避けようにも間に合わないと計算して導き出したリュウマは、翼で己を包み防御の態勢に入った。

 

魔力球が翼に着弾すると、巨大な隕石が落下したのではと思える爆発音が響いて黒い爆煙が辺りを包んだ。

様子を窺わなくとも気配と感知能力で健在であると解っているオリヴィエは、次の攻撃に備えて右腕を大きく後方に振りかぶろうとしたところ……右腕が爆煙の向こうから照射した黒い光線に穿ち飛ばされた。

 

正確に肩の中央を貫いて威力で周辺の肉が吹き飛び、今先程引き千切った彼の腕と同じく右腕を失ったオリヴィエだが、既に彼女の再生を開始している。

 

 

「─────虚刀流・『百合(ゆり)』ッ!!」

 

「がは…ッ!?」

 

 

しかし、再生し終わる前に晴れ始めた爆煙の中から先に腕を再生し終えたリュウマが飛び出て、彼女の腹部に腰を捻り回転して遠心力を載せた回し蹴りを突き刺した。

 

くの字に曲がってから飛んでいくオリヴィエに追撃すべく、その場で手を翳すと紫電が奔り、目前に身の丈越える巨大な黄金の槍が顕現した。

計り知れない魔力と共に現れた槍は、手にすること無く自然に高速で回転し始める。

 

 

「神器召喚……牛頭天王、東方神、帝釈天の金剛杵。即ち聖仙骨より作られし神の槍。今こそ来たりて、あらゆる敵を撃滅せん─────」

 

 

廻る黄金の槍に手を翳しながら背を向けるように体を回転させて勢いを付ける。

そしてそのまま下から上に掬い上げるように、所謂アンダースローで今も尚飛んで行くオリヴィエの体中央に向けて全力で投擲した。

 

 

 

 

「─────『釈提桓因(しゃくだいかんいん)金剛杵(こんごうしょ)』ッ!!」

 

 

 

 

吹き飛ぶオリヴィエよりも速く突き進み、寸分の狂い無くオリヴィエの体に着弾した。

槍は衝突と同時に槍の姿を失い、替わりとして紫電に変わり彼女の体を刺し貫いて奥に有る大岩に無骨な大穴を開けた。

 

真面に食らったオリヴィエの腹部にあった服は弾け飛んで、中の肌は焼け焦げて無惨な黒色と化している。

超電力による電撃に体が痺れている内に、リュウマは更に攻撃を加えるべく右腕を上げた。

すると、リュウマの背後とオリヴィエ周辺の空間に黒い波紋が現れて中から多種多様な武器が顔を覗かせた。

 

 

「──────『殲滅王の遺産(ゲート・オブ・アルマデウス)』」

 

「─────ッ!!」

 

 

振り下ろすと同時に、展開された約300の武器がオリヴィエたった一人に向かって射出されていく。

右腕は戻っているが体の痺れと焼け爛れた腹部のダメージの所為で動けない彼女は、迫り来る武器達の餌食となった。

爆発が一度起きると立て続けにその後も爆発が起きて視界を爆煙の一つにする。

 

展開された300門の波紋からは一つ武器が射出されると、後から後からと同じく武器が姿を現して射出を繰り返していく。

全部で大凡3000の武器を射出してぶつけたリュウマは、純黒の刀の柄に手を掛けて一閃。

 

刀身も見えない、音すら鳴らなかったというのに発生した斬撃が爆煙を縦から両断して視界をクリアにする。

武器による爆撃の嵐に曝されていたオリヴィエは……半透明の白いバリアによって守られていた。

 

 

「『白亜の境界(クレタァナ)』……危なく串刺しになるところだった」

 

「……よもや全て防ぐか」

 

「────愛故に」

 

「如何様な愛があって堪るものか───よッ!」

 

 

左手に持った弓に矢を番えて矢を四連で射る。

 

まだバリアを張り続けていたオリヴィエには当然当たらないのだが……バリアに当たる前に軌道が逸れて離れたところに突き刺さる。

放たれた四つの矢は中央にオリヴィエを置くように正四角形を形作り、設置し終えたリュウマは弓を消して手を合わせた。

 

魔力を送られた矢は黒い罅のような線を奔らせて魔力を放出する。

突き刺さった部分から円形に魔法陣が形成されて、中にオリヴィエを閉じ込める魔法陣の檻が完成した。

 

 

「────晄に呑まれよ。『四矢光耀(ししこうよう)』ッ!!」

 

 

魔法陣が光り輝き、空に浮かぶ太陽が発する太陽熱を凝縮し照射する。

バリアで防ぐものの熱量を完全に防ぐことは敵わず、徐々にその身を灼かれていってしまう。

 

このままでは灰燼となるまで照射され続けると悟ったオリヴィエは双剣を地面に突き刺した。

大地に突き刺した純白の双剣の先端から膨大な魔力が注ぎ込まれ、地面が大きく盛り上がると大爆発した。

描いた魔法陣も、魔法陣を描くために使った矢諸共吹き飛んで魔法を維持出来なくなった。

 

凝縮されて降り注いでいた太陽熱はなりを潜めて無力化され、オリヴィエは落ちてくる土塊に紛れて姿を隠しリュウマへと急接近した。

 

気配で接近していることに辛うじて気が付いた時には、彼女は既に目前まで来て双剣を構えていた。

双剣故に二振り使った同時の刺突攻撃に、冷静な判断を下して手首を掴み防いだ。

もう逃がさんと手首を握り潰す程の力を籠めたその瞬間─────視界が揺れた。

 

 

─────な…んだ……顎の鈍い痛み……。此奴…この距離で膝蹴りを…!

 

 

「────フンッ!!」

 

「がは…ッ!?」

 

 

目が回って視界が左に傾きかける最中…目の前のオリヴィエは頭を後ろに仰け反らせ……リュウマの顔に頭突きを入れた。

鼻から血を流して更なる混乱を招いている間に、緩くなった手首の拘束を外して左手の剣で腹を突き刺し、右手の剣で目を横一文字に斬り裂いた。

 

真っ暗な暗闇になると共に奔る腹部への痛み。

感触で腹に剣を刺し込まれたと直感したリュウマは引き抜こうとしたが、刺さっている剣から純白の白焔が上がった。

 

貫かれた痛みに加えて体内を純白なる魔力で灼かれる痛みに、更には顎に一撃を見舞われて脳が揺れ、頭突きで既に頭がクラクラする。

目を開けたとしても視界が定まらないだろう絶不調の状態で、オリヴィエは右手の剣を振りかぶって彼の左肩に振り下ろした。

 

斬り下ろしを食らったリュウマは、類い稀なる筋肉密度と、普通では考えられない剛腕に耐えるだけの強靱な骨のみで受け止めて両断されることは防いだ。

純白の剣の一本は腹部に刺さり、もう一本は左肩の骨に到達したところで止まっている。

 

得物が無くなったオリヴィエは両の拳を構えてファイティングポーズを取ると……平衡感覚が可笑しいことになっているリュウマに加減無しの打撃を打ち込み始めた。

 

 

「ぶっ…ぐっ……!ごほっ…が…!?ぁぐ…!がは…!げほっ…げほっ…ぅぶっ!?」

 

「ゼェラァァ─────────ッ!!!!」

 

 

右ストレートが左頬に突き刺さり、衝撃で右を向いた途端に左からのフックが決まり顔は正面へ。

体勢を若干低くした後に繰り出される顎へのアッパーが美しく決まり、体が浮き上がった所を胸倉を掴まれて引き込まれ、腹部に刺さっている剣へ最短距離での膝蹴りが入る。

 

傷口を抉り込む攻撃に顔を歪めている間に、頭へ右下からの刈り取るような刈り蹴りが決められた。

蹌踉めいて左に傾き地面に手を付いた瞬間に、空いて隙が出来た左脇腹に蹴り上げが入る。

ミシリと嫌な音を立てた脇腹に血を吐き出したリュウマに、更なる追い打ちが入る。

 

衝撃で頭を上げざるを得なかったリュウマに、高く飛び上がったオリヴィエは、体を前に縦回転させて遠心力を加えると、脳天に向けて踵落としを落とした。

 

首が毟り取れたのでは?と錯覚する衝撃に首の骨に罅が入り、意識をほんの一瞬だけ飛ばした。

 

降り立ったオリヴィエは、剣が突き刺さっていない逆の右肩に左手を置いて固定し、右手を固く握り締めると…下から抉り抜くように剣が刺さっている腹より少し上……所謂鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

 

「────ッ!?かひゅっ…!?こほっ……!」

 

 

時間にして2秒という浅い気絶から、鳩尾に奔る吐き気を通り越して魂が口から出そうになる痛みに意識を覚醒させた。

だが覚醒しても酸素を思うように吸えず、しかしオリヴィエは全く同じ鳩尾に何度も抉り抜くような拳を入れた。

 

吐き気が治まる前に鳩尾への衝撃に、今己が何をしているのか分からない…という深刻なダメージを負っていると、十度の鳩尾への攻撃が止み……オリヴィエは拳に純白なる魔力を纏わせていた。

意識が朦朧としているが、魔力の感知は怠っていないリュウマは急いで回避しようとするが、此だけ急所に攻撃を打ち込まれたのに直ぐ動ける訳がなかった。

 

 

「─────『四肢へ響き渡る衝導(ゼノム・インパルス)』ッ!!」

 

「─────が…ッ……っ!?」

 

 

純白の耀きを纏う拳が、リュウマの何度も打ち込まれたのに鳩尾に入り、魔力と衝撃が背中から突き抜けた。

抉り込むような角度故に、空に漂う雲が彼の背中から突き抜けた衝撃波に曝されて霧散する。

 

それ程の衝撃が奔りながら、リュウマはまだ立ってはいるものの、度重なるダメージは到底無視できるものではなかった。

まるでサンドバッグよろしく打撃技を打ち込まれた彼の体は、内部から破壊されて危険域にまで達している。

 

立ってはいても動けないだろうと踏んだオリヴィエは、腹と肩に残っている双剣を無理矢理引き抜きにかかり、柄に手を這わした途端……血が滴るリュウマの手に掴まれた。

咄嗟に手を引っ込めたが、先程まで殴られ続けた者とは思えない力で握られて引き剥がせない。

 

 

「ごぼっ……。よくぞ只管に拳を叩き込んでくれたなァ──────次は我だ」

 

 

自己修復魔法陣の重ね掛けにより瞬く間に傷を治したリュウマは、突き刺さっている剣はそのままに、掴んだオリヴィエの手を離さず持ち上げて反対側の地面に叩きつけた。

だがそれだけには留まらず、もう一度持ち上げて反対側の地面に、また反対側の地面に…と、交互に地面に叩きつけていく。

 

背中から行ったり体の前面から行ったりと、叩きつけられ続けているオリヴィエとは別に、リュウマはオリヴィエを振り回しながら神器を召喚して、己の周りに十二個…時計の数字と同じように配置した。

やがて地面に突き刺さった神器一つ一つから稲妻が発生し、ドームのように囲って雷の迸る空間が出来る。

 

 

「があぁあぁぁ───────────ッ!!」

 

「神器召喚──────」

 

 

その傍でリュウマは又も身の丈越える槍を一本取り出して右手に掴み取った。

全身を強力な雷に曝されてダメージを追い続けながら叫んでいるオリヴィエとは別に、リュウマは彼女に攻撃していない所の雷を槍に吸収させていく。

貪欲のように漏らさず全ての雷を吸収していく槍は、内包する雷の魔力が跳ね上がり心の臓腑が如く脈動する。

 

暫くして蓄えていた雷の魔力を出し尽くした十二の神器は光の粒子へと変わり消えていった。

雷を浴びせられ続けたオリヴィエは体中から煙を上げて、体には雷が帯電して行動の自由を奪う。

 

そんな彼女に近付いたリュウマは肩に触れて魔法を一つ発動させた。

 

 

「禁忌────『絶対零度の永遠凍結(エターナル・アブソリュート)』」

 

「─────────。」

 

 

雷による行動の制限から抜け出せるといった絶妙なタイミングで、オリヴィエはリュウマの手によって純黒の氷の氷像に変えられた。

禁忌に指定されているこの魔法の威力は凄まじく、対象を絞っているにも拘わらず辺り一面をも黒く凍てつかせた。

 

この魔法の真髄は、破壊不可能の純黒な氷の結晶が相手を包み込み凍結させ、中で急速に相手の寿命を削って死に至らしめ、中の生物が死ぬと同時に砕け散るという凶悪極まりない魔法なのだが……オリヴィエにはやはりのこと通用しないようで、純黒な氷にピシリという音を立てて砕き始めた。

 

本来ならば死ぬと同時に砕けるのだが、オリヴィエはなんと中で凍らせられているというのに抗い、自力で出ようとしている。

だが、残念なことに所詮これは…少しの時間稼ぎに過ぎないのだ。

 

 

「────『()べ』」

 

 

リュウマの吐いた言葉に魔力が載って言霊となる。

凍っているオリヴィエは宙に浮遊してある程度の高さになると止まってその場で静止した。

 

浮かせた本人であるリュウマは、左手をオリヴィエに向け、槍を握っている右腕を限界まで引き絞った。

全力で投擲しようとしているためか、腕の筋肉がミシミシと音を立てているが気にする様子もなく、更には全身から純黒なる魔力で出来た雷を放出して槍に吸収させる。

 

今から一年前に、リュウマはこの技を一度だけ使用したことがある。

その時は全力とは程遠い力と魔力で投擲したが、その時ですら海を割り地を砕き天を犯し惑星を粉微塵に変えた。

しかし今回は吸収させた魔力も桁違いであり、投擲する力も一線を画す程である。

最早どれ程の威力を持っているのか想像すら出来ない。

 

 

そんな槍をオリヴィエに向け─────放った。

 

 

 

 

 

 

「─────『稲妻纏う灼熱の神槍(ブリューナク)』ッ!!」

 

 

 

 

 

 

第一波とも云える槍本体が、まず最初に光速に差し迫る速度で破壊不可能である筈のオリヴィエ(氷像)を刺し貫いて天へと至り尚も征く。

地球の周りに多数存在する(隕石)に偶然ぶつかっては粉砕すること20数回。

更には太陽系外である、未だ人に発見されていない小惑星に到達……破壊。

 

突き抜けた後も偶然進行方向の先にある星へと至り……破壊。

莫大な魔力を吸収して投擲された神槍は勢いが劣る事無く進み続け、とある領域内に侵入。

 

 

名を─────ブラックホール。

 

 

周囲は非常に強い重力によって時空が著しく歪められ、ある半径より内側では脱出速度が光速を超えてしまうというもの。

つまり、光ですらもブラックホールの前には抜け出せず、無限の重力を持つ…所謂重力の特異点である。

 

しかし、神槍はそんな無限の重力空間に直線を描いて突き進み……()()()()()()()()穿()()()

 

最早止めること敵わぬ神槍は……魔力の続く限り星を砕き物理法則を無視し一つの現象として在り続けるだろう。

 

そして…第二波がオリヴィエに襲い掛かる。

本体の槍を遅れて追い掛けるように、莫大な熱量と電力を持つ魔力が奔流となって呑み込み、リュウマの視界には雷以外の一切が見えなくなった。

轟雷を成して轟音を響かせるその一撃は…正に神の如き力の顕現。

 

余波で大地がとんでもないことになっているが、荒野であるのが幸いして荒れ狂っている事以外に大事はない。

 

轟雷の嵐に見舞わられたオリヴィエの姿は止んだ後にも存在せず……リュウマの剛の一撃で消し飛び────

 

 

「……どうなろうと再生するか」

 

「─────ふふふ。いやはや、これ程の一撃は早々味わえないぞ?まぁ…不老不死となった私には無駄であったな」

 

 

何も無い空間に赤い霧のような物が集まっては凝り固まり人の形を形成していく。

見慣れたシルエットになると、オリヴィエの体が再結成されて何事も無かったかのように話し掛けてくる。

リュウマのやったことは、莫大な魔力消費をしただけに過ぎなかった。

 

 

と、言っても…リュウマが魔力切れを起こすことは絶対に有り得ない。

 

 

「なぁ、貴方?一つ聞いても良いか?」

 

「……何だ」

 

 

仕方無しと、左腰に差している純黒の刀に手を掛けたリュウマに、オリヴィエは宙から降りてきて手を握ったりと動作確認をしながら質問の確認を投げ掛けた。

 

眉を顰めたリュウマは右手を刀の柄に起きながら余所見などせずに、聴くだけ聴いておこうと耳を傾けた。

話を聞いてくれると分かったオリヴィエは、剣に手を掛けること無く、あくまで自然体で話を始めた。

 

 

「何故貴方は先程、私があのギルドに居ると分かった時に殺気だけを向けた?」

 

「……戦場(いくさば)を選んでのこと。あの場で剣を交えようものならば、我と貴様の力に耐えきれず崩壊を招く」

 

「そう!そこだ!!何故貴方はあの有象無象共を庇う?何故(なにゆえ)あのような弱者の心配をする?貴方は己の民以外に対して極度の淡泊ではなかったか。それとも…嘗て世界を手にした偉大なる王ともあろう者が(ほだ)されたか」

 

「…………。」

 

 

オリヴィエの言葉に反論出来ず、リュウマは黙ったままであった。

だが、オリヴィエはそれを良しとせず、畳み掛けるように話を続けて追い詰めていく。

 

 

「可哀相な貴方。憐れむべきか、同情すべきか…。もしや、失った民の代わりをと思い傍に居たのではないか?」

 

「……否」

 

「貴方を慕うあの者達は、識りうる限りで貴方の全てを見て仲間意識を持っている。だが…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…否」

 

「失うのが怖い。見限られるのが恐ろしい。善かれとして行ってきたことを糾弾されて非難されるのを怯えている。太古の昔と云えど何故!()()()()()()()()()()()()()()()()()!…と」

 

「…っ……。」

 

 

リュウマは恐れている……時代が過ぎると共に変わっていく人々のモノの価値観に。

 

400年前ならばリュウマの王としての行動は全て王故に当然であると云われ賛同されるだろう。

事実、そうしなければ生き残れない弱肉強食の時代であったから。

王が舐められれば必然的に民が…国そのものがそうあれかしと舐められてしまう。

 

となれば貿易も何も良く回らなくなり、国から民が消えていき、国の傾いた行政に異を唱えられて刎首だって有り得たかもしれない。

こんな王では国が成り立たない……と。

 

 

だが…今の時代は如何だろうか?

 

 

国や国境、状勢はあれど、この時代に戦争というものは余り見掛けないものとなっている。

精々いざこざがあってギルド間の争いが勃発して戦争となることもあるかもしれないが、本物の戦争というものはもう起きていない。

 

法律が敷かれ倫理を語られ価値観が変わり、前の時代よりも前の時代よりもと緩くなった価値観が植え付けられる。

彼が時代が変わる毎に一番苦悩したものは知っているか?

 

 

人々の生死に関する価値観の違いである。

 

 

盗賊に襲われた。

身包みを剥がされそうになり撃退した。

 

ほうほう、相手は殺さず敢えて倒して撃退し、自主的な逃走を謀らせる。

殺生をしないとならば、それはそれは良いことではないか。

 

人の命は尊く短く儚い。

それが例え他人であろうと命に優劣など無く皆平等だ。

 

 

うむ、そうだな。

 

 

故に───()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

襲い掛かってきたのだ…襲い掛かってくる以上は決死の覚悟で挑んで来ている。

言い方を変えれば生存競争に於ける決闘だ。

勝った方が生き存え、負けた者が死ぬ。

 

 

「あなたのことが食べたいのです。襲って食べても良いですか」

 

「えぇ、どうぞ。私は貴方と平等の生き物ですから。あなたがお腹を空かせているならば私が餌となり、あなたの空腹を紛らわせましょう」

 

 

自然界でこのような会話があると思えるだろうか?

 

 

答えは一択─────否である。

 

 

襲われたのだ、襲い掛かってきた者に対して敬意を払い威を見せるのが当然であると彼は云う。

 

 

しかし、時代がそれを赦さない。

 

 

殺生は御法度。

同じ人間を殺そうなど、それは人としてやってはいけないものの一つである。

 

彼からしてみれば、命を狙われているのに何故相手を淘汰せず、命を奪わぬよう加減をしてやらねばならぬのか…と感じてしまう。

 

 

だからこそ、ギルドに入り、仲間達と共に過ごして居心地が良くなってきた頃に、その考えが周りからしてみれば異常であると悟り隠してきた。

それと同時に、もし…己の真実を話し、今まで行ってきたことを打ち明けたならば……皆は何と言うのだろう。

 

 

少なくとも……良い想いは抱かない。

 

 

例えるならば、酒を飲む場で偶然知り合った者と話していたら息が合い、時間を経て友となる。

 

 

そんな友からある日突然……自分は昔、興味本位で人を殺めた事がある…と、告げられた場合どう思う?

 

 

勿論……そんな奴だったのか…と、非難めいた目を向けるだろう。

 

 

彼はそんな目を向けられるのが…向けられると思うのが途轍もなく怖かった。

 

 

日夜考えないようにしていた、世界から切り離された己という人々に忘れられ、置いて行かれた独りの人間であることを、無理矢理にでも自覚させられるという事実が。

 

 

「貴方は見ているようで見ていない。見て欲しいが見て欲しくない。傍に居て欲しいが居て欲しくない。己という存在を認めて欲しいが認められたくない。何故なら……貴方は他とは違うのだから。認められたら、それは同時に己という存在を己自身が肯定してしまっているからだ」

 

「……っ……っ。」

 

「なぁ、何故私の愛を受け入れてくれない?」

 

 

オリヴィエの声は、何度も聴いてきた中でも極めて……哀しそうな声であった。

 

 

「今までに何度も愛を語った。何度も愛を注ごうとした。何度も何度も何度も…貴方を愛していると告白した」

 

「………っ」

 

「だが────()()()()()()()

 

「ぅ……」

 

 

言葉で…本心からの言霊にリュウマは後退する。

先程の勇ましき姿は何だったのか…自慢の翼は力を無くして草臥れて萎れている。

 

刀の柄に置いていた右手は左腕を掴み、左手は右腕を掴んで己の身を抱き締めている。

まるで悪さをした子供が母親に叱られてしまっているような、見ていて痛々しい姿を……リュウマ・ルイン・アルマデュラが一人の無防備な女の前に曝している。

 

 

「他でも無い、この私が核心を突いてやろう。貴方は────」

 

「ぃ、言うな…わ、我は────」

 

 

力無く拒否しているリュウマを無視し、永き時の中で、誰にも打ち明けず…打ち明けられず…只管己の心の内に蓋を閉めて封印していた核心を突いた。

 

 

 

「─────貴方は愛を欲している」

 

 

 

「……──────────」

 

 

リュウマが求めたもの……愛。

 

 

しかし同時に……リュウマが最も()()()()()()()()()()()()

 

 

「愛を欲しているのに、貴方自身が愛に対して恐怖を感じている。愛することは勿論、愛されることすら怖がっている。拒否している。否定している。拒絶している。退けている。そして……愛に対して放棄している」

 

「……黙れ」

 

「否、黙らん。黙っていられる訳が無い。貴方が思っている以上に、私はしつこいんだ(愛が重いんだ)。……400年。400年間貴方が愛を受け容れない理由を考えた。考えて考えて考えて考えて考えて考えて……私は一つの結論に至り確信した」

 

「…ッ!……貴様…!」

 

 

誰にも理解されなかったからこそ、気付かれたことへの動揺。

 

400年も彼を愛して考え抜いたからこそ至ることが出来たオリヴィエの結論は……彼の思考を停止させた。

 

 

「貴方は完璧な王であるために弱点を克服してきただろうが……貴方が唯一どうしようも無かったが故に今も尚苦しめ続けているもの……()()()()()()()

 

「───────────」

 

 

とうとう……オリヴィエがリュウマの唯一を看破した。

 

 

愛に弱いというのは精神面での話しではなく……本当に愛に対してリュウマは防ぎようが無い弱みを持っているのだ。

 

 

「瞳孔が開いている。看破されて動揺しているな?だからこそ─────貴方は私の罠に気がつかなかった」

 

「─────ッ!?何─────」

 

 

リュウマの足下の地面が耀き、純白の魔法陣が出現した。

 

漏れ出る魔力の量は、リュウマを以てしても莫大としか言いようがなく、抜け出そうと翼を広げた瞬間鎖が地面から伸びて翼を雁字搦めに拘束した。

同じく腕も脚も鎖が巻き付き動きを制限され、総てを呑み込む純黒なる魔力が霞んでしまう程の魔力に覆われる。

 

 

「─────もう遅い。とっくに手遅れだとも。顕現せよ 『愛に飢えた女神の束縛神殿(オプリディオ・デア・テンプロム)』」

 

「ごほっ…!?」

 

 

翼に繋がれたリュウマの首に白き首輪が嵌め込まれてから地面が迫り上がって真っ白な無垢の大神殿が顕現した。

 

リュウマの居たところは一つの祭壇となっていて、彼の背後に翼を生やして手に槍を持った女神像が創造された。

女神像は独りでに動いて、手に持つ槍を背後からリュウマの体に突き刺して貫通。

その程度ならまだ良かったが…リュウマは刺し貫かれた体の場所に目を見開いた。

 

 

「貴…様……!どう…して…ごぷっ…魔臓器の…場所を…!」

 

「何故知っているか…か?今はその程度は些細なことだろ?」

 

「ぐッ…!」

 

 

体内にある魔臓器と呼ばれる、普通の人には存在しない臓器を貫かれたリュウマの魔力は自慢の超回復を起こすことが無い。

 

それどころか純白の鎖に繋がれたリュウマの翼は色を落として若干くすんでいる。

身動きも出来ず魔力は減る一方……翼を封じられて飛び出すことも出来ず、この鎖に繋がれてからというもの…物理的に動けないのとは別に…力が入らない。

 

 

「一年前に私の分身と貴方が戦い、宣戦布告をしてからというもの…私はこの日…この時この瞬間の為に、一年間只管に魔力を濃縮し()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

アルバレス帝国で、ゼレフにオリヴィエが準備は整えたと云っていた発言はこのことを言っていた。

愛する男行動パターンを思い返し、精密な計算をした後、悟らせないようにこの場まで誘導する。

 

後は精神を揺すって意識を己に向けさせ、密かに魔法陣の発動の機会を窺う。

一年越しのオリヴィエ最大の攻撃は見事決まり、あの殲滅王を捕らえることに成功した。

 

 

「ふふふ。嗚呼…貴方をとうとう……捕まえた」

 

「…………。」

 

 

祭壇に上ってきたオリヴィエは、神に捧げられる生贄のような状態になっているリュウマの元まで歩んで近付くと、頬に手で愛おしそうに擦り、反対の頬に口付けを落とした。

 

 

「あれ程世間から悪魔だの恐怖の権化だの殲滅王だの騒がれていた貴方が……今や私の手の上……!ふ、ふふふ…!この高揚感ッ!暫くは忘れられまい」

 

「…………。」

 

「そう嫌そうな顔をしてくれるな。その鎖は文字通り私の愛と一年掛けて濃縮し抽出した高濃度魔力の結晶体だ。いくら貴方と云えども脱出は不可能だ」

 

「…………。」

 

 

確かに何度も破壊しようと試みているものの、この体中に巻き付いて拘束してくる鎖は外れず、変に力むと体を貫いている槍が激痛を与えてくる。

 

 

「あぁっ…!もう我慢ならぬ!」

 

「んっ…!」

 

 

捕らえられたリュウマを見ていたオリヴィエは、長年溜め込んでいた愛が溢れ出して自分でも止められなくなり、頬を両手で挟んで正面を向かせると……唇を奪った。

 

 

「…っ…ふっ……っ…ふ…んむっ…!」

 

「んちゅっ…はむ…ん…ちゅっ…ちゅっ…」

 

 

固く閉じているリュウマの唇に己の唇を重ねていく。

舌がぬめりと動いて唇を叩き、中に入ろうとしてくるが固く閉じているため侵入を赦さない。

 

だが、接吻に夢中になっていると思っていたオリヴィエはリュウマの鼻を摘まんで呼吸を止めさせる。

最初こそ我慢出来ていたが、暫くすると酸素を吸うために口を開けざるを得なくなった。

 

リュウマが口を開けて空気を吸ったタイミングを見逃さず、オリヴィエは薄く開けられた彼の口の中に舌を入れて歯茎を舐め上げ、奥へ逃げた彼の舌を探して口内を縦横無尽に動き回る。

 

 

「…!?んちゅっ…はぁっ…んむ…!ちゅぱっ…やめ…んんっ!?れろっ…ぁ…んちゅっ…!」

 

「はぁっ…ふふっ…見つけたっ。はむっ…んん~…んちゅっ…れろぉ…はぁむっ…ちゅっ…」

 

 

逃げる舌を追い掛けて舌で捕らえたオリヴィエは、幸いなことに長い己の舌を限界まで使って舌の奥から先端まで扱くように絡める。

少し上から接吻をすることで己の唾液をリュウマの口内に流し込み、飲み込むことを拒否しようとしても口を塞いでいるので出させない。

 

早く飲み込まなくては息が出来ず苦しい状態が続くので、リュウマはオリヴィエの唾液を飲み込んだ。

しっかり飲み込んだことを確認したオリヴィエは更に舌を絡め、リュウマと己の唾液を混ぜ合わせる。

 

舌の下側から上の表面まで隙間無く舌で蹂躙して、水気を含むぴちゃぴちゃとした水の音を楽しみ、紅潮してうっとりした表情のまま接吻に没頭した。

 

身動きが取れないリュウマは口付けをされた瞬間は体を強張らせていたが、舌を絡めるようになってからは驚いて顔の拘束から逃れようと藻掻いている内に頭がボーッとしてきて、舌と舌が合わさり擦られる快感に体を脱力させていた。

 

時間にして約10分…リュウマは只管オリヴィエに舌を絡める口付けを施され、口を離した時には両者の唾液で出来た銀の橋が掛かった。

 

 

「んちゅっ…。はぁぁ……ふふっ。私の初めてだ。やっと捧げられたな」

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 

「接吻とはこれ程良いものなのだなっ。……良し。家を建てたら一日計3時間の接吻は最低でもしよう。夜の営みは毎日欠かさず朝までしっぽりねっとりと♡」

 

 

それでいくと、一体いつ寝るつもりなのだろうか…という質問はしてはならない。

彼女は今、幸せの絶頂に居るのだから。

 

 

しかし……リュウマはそんなオリヴィエを嗤った。

 

 

「ふ、フハハッ」

 

「?? 如何した?何故笑う?」

 

「貴様はこの程度で、真に我を捕らえたと思っておるのか」

 

「……何が言いたいんだ?」

 

 

要領の掴めないリュウマの物言いに、オリヴィエは訝しげにしながら問い掛け、彼は全く気が付いていない彼女に目を細めながら言った。

 

 

「先程よりも矢鱈と─────()()()()()()()?」

 

「眩しい…?」

 

 

言われて初めてリュウマから視線を外したオリヴィエは、立ち上がって周辺を見渡してみると確かに明るいような気がする。

 

それも、陽が強くなった為に明るくなった光ではなく……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

リュウマは賢明で頭脳明晰だ。

そんな彼は例え追い詰められようとも、必ず切り札を残しておいて戦うように心懸けている。

 

 

ならばここで質問だ。

 

 

彼は動きと魔法を阻害されただけで素直に敗北を受け入れるような男であろうか?

 

 

答えは……否。

 

 

それも、この時に限っては今までに無いほどの奥の手を隠していた。

 

 

「────ッ!!まさかっ────な…!?」

 

 

憶えているだろうか?

 

ジェラールがまだウルティアに操られていてゼレフを復活させようとRシステムなる楽園の塔を建設していた時のことを。

 

その当時、Rシステムが起動することを恐れた評議会が楽園の塔に()()()()()()()()()()

 

そしてその時に、リュウマは複写眼(アルファスティグマ)と呼ばれる眼を使って()()()()()()()()()()

 

 

「どうやって…!魔法は封じられている筈…!あんな物が創られている兆候すら見ていないっ!」

 

「当然だ。我はこの状態になる前に予め隠蔽工作を施しながら組み込んでいたのだからなァ…!」

 

 

オリヴィエが空を見上げてみたもの、それは巨大な……衛星魔法陣(サテライトスクエア)

 

 

「我の魔力を持ってすれば、この程度の魔法の構築等造作も無い。しかし…その威力は如何(いかが)たるものか?」

 

 

リュウマが密かに遙か上空で構築していたのは……評議会の最終兵器……超絶時空破壊魔法。

 

 

 

 

 

又の名を─────エーテリオン。

 

 

 

 

 

「退避にはもう既に手遅れよッ! 時空をも破壊する国の最終兵器…共に味わおうぞッ!! フハハハハハハハハハハハハハハハハハ──────」

 

 

「……ハァ…全く。貴方は本当に…出鱈目なことをしてくれる──────」

 

 

 

 

 

 

 

一組の男女のみしか居らぬ荒れた荒野に、本来の色とはかけ離れた黒き光が─────2人の頭上に向かって墜とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 




もう一話予定していたのでお付き合い下さい。

超絶時空破壊魔法エーテリオン。

評議会が最終兵器として使う超魔法で、議決の末に過半数が賛同しなければ使用できず。

使用する際は評議会の上級魔導士10人掛かりで取り組む。

全ての属性を混ぜ合わせているという超複合体の光線だが、そこにリュウマの純黒なる魔力を注ぎ込むことで色が黒へと変化し出力も上がっている。

地球上の何処であろうと正確に狙い撃つ正確性と、時空をも破壊する威力に国で禁忌指定されている魔法である。


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