FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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ENDまでの流れは全て頭の中で描き終わっているのと、確とメモってあるので安心して下さい。




第七二刀  殲滅戦の始まり

 

激しい戦闘に巻き込むから危ないと、数キロ先に待機させておいた子竜のイングラムを拾って、リュウマは引き続きマグノリア目指して飛んで行った。

 

一方で、リュウマとオリヴィエが戦っている間にもアルバレスとフェアリーテイルの戦争は開戦を迎えていた。

 

オリヴィエが姿を消して安堵の溜め息を吐いたフェアリーテイルのメンバー達は、固まっているところをメイビスの一声で気を入れ直して作戦計画を確認した。

計画を頭に入れたメンバー達は、攻め込んでくるまでは最後の自由時間となって思い思いに過ごしていたが、その僅か一時間後に敵は攻めてきた。

 

アルバレスは先ず、大空駆ける大型巡洋艦を約50隻用意して空から攻めて来たのだ。

先頭を切って進んでいる大型巡洋艦に乗っているのは、スプリガン12である砂漠王アジィール。

 

攻撃的な性格であるアジィールの号令の元、戦艦から砲撃を食らうフェアリーテイルではあったが、現在のフェアリーテイルで最高の防御力を持つフリードの術式による魔障壁で全弾を防いだ。

けれども、防いだだけでも多大な負担が掛かっているフリードが魔障壁を維持出来なくなる前にフェアリーテイルも攻撃を開始した。

 

飛ぶことが出来るハッピー、シャルル、リリーに抱えられてナツウェンディとガジルが戦艦のいくらかを破壊した。

地上ではビスカがフェアリーテイルの敷地内の地下に隠し持っていた魔導収束砲ジュピターに魔力を溜めていざという時の為に備えていた。

 

着々と戦艦を破壊していったナツ達は、一際膨大な魔力を感じさせる人物であるアジィールの居る戦艦へと降り立った。

しかし、ドラゴンスレイヤーは乗り物に弱く、トロイアという乗り物耐性を付加させる魔法が使えるウェンディも、この一年で乗り物がダメになっていた。

 

敵の前で早速動けなくなったナツ達を救い出したのはエルザであった。

ナツ達を下がらせて代わりとなってアジィールの前に立つと、言うが早いか戦闘を開始した。

 

フリードの術式を展開しているマグノリアは大丈夫なのかと問われれば、それは否である。

戦艦が来たことに気を取られて居る内にフリードの術式を無効化する者が侵入し、フェアリーテイルでその対処に当たった。

 

 

「サタンソウル…『ミラジェーン・セイラ』。命令する。全員仲良く────おやすみなさい」

 

 

タルタロスに所属し、命令して相手を操る呪法を使っていたセイラを接収(テイクオーバー)したミラの一言で殆どのアルバレスの兵士を眠らせた。

 

その同時刻、戦いに出遅れたルーシィのマンションの部屋には……スプリガン12のブランディッシュが現れ、裸の付き合いならぬ裸の勝負をということで一緒にお風呂に入って問答を繰り返していた。

 

所戻り、エルザとアジィールの戦いは白熱していて、肌に触れた途端に跳ばした剣を砂に変える強力な乾燥化の力を持つアジィールに攻め倦ねていたが、刃が水で出来ている剣を使って対応し、アジィールにダメージを与えた。

本気になったアジィールが突如、マグノリア一帯を全て巻き込む大砂嵐を発生させてエルザの視界を奪う。

引き続き水の剣で攻撃するも、砂嵐の一部となったアジィールを捉えきれずダメージを与えられていく。

 

絶体絶命とまでなったその時、エルザは鎧を換装させて強い光を放った。

目眩ましなど無駄だと叫ぶアジィールは、その時はまだ分かっていなかった。

 

光を悪い視界の中確認した地上に居るビスカは、光の正体がエルザだと確信し、魔力を溜め終わったジュピターを流石の射撃能力で寸分の狂いも無く発射した。

 

放たれたジュピターはアジィールに直撃し、辛うじて避ける事に成功したエルザが吹き飛ぶアジィールに追撃をし、見事…スプリガン12の一人を倒した。

 

そして、アジィールとの戦いの最中に使った大砂嵐が原因で花粉が舞い、花粉症であったブランディッシュがルーシィとその場に駆けつけてきたカナとで戦闘に移行しようとしているところで、くしゃみが止まらずカナに後ろから殴られて気絶し、釈然としないスプリガン12の一人を倒した。

 

砂嵐が止む頃にはスプリガン12の二人を倒すという功績を挙げることに成功したフェアリーテイルではあるが、止んだと同時にマグノリアに入り込んでいた兵士が消え、代わりに体が機械で出来た機械兵が居た。

 

ミラと共に兵士撃退に当たっていたエルフマンとグレイとジュビアが、同じく機械兵を撃退するために攻撃を開始しようとしたところ、グレイには炎が…ジュビアにはスチームが、エルフマンには速い機械兵がといった感じで、各々の弱点特化型の機械兵だった。

因みに、弱点が無いと思われたミラの弱点特化型機械兵は、顔だけがエルフマンの似ても似つかない微妙な機械兵だった。

 

機械兵自体はそこまで強くないので、グレイの機転を利かした発想により、有利な機械兵とメンバーを交代することで全部破壊した。

 

機械兵を作り出していた兵士の隊長は既にその場から離脱して、フリードの居るカルディア大聖堂へとやって来ていた。

術式を使っている間は動くことすら出来ないフリードをビッグスローとエバーグリーンが護衛し、やって来た隊長の撃退に当たった。

 

ところが、隊長から生み出される機械兵がビッグスローとエバーグリーンの弱点を突き、眼に宿る魔法を使おうにも効かず、本体の隊長を(セカンド)魔法で攻撃しようにも、隊長本体ですら機械であったため苦戦を強いられた。

 

そこへ援軍としてフェアリーテイルをアルバレスからマグノリアまで運んできては、一週間クリスティーナの整備と燃料確保に合わせて放置されていた一夜が現れ、電撃の効力がある香り(パルファム)を使って攻撃した。

しかし、機械故に電気に弱いと思って攻撃したことが裏目に出て、電撃を食らって強化されるスプリガン12の機械兵の隊長に反撃される。

 

追い込まれてやられかける中で、力を振り絞った雷神衆と一夜の力で隊長は粉々に砕け散る。

放置された事に腹を立てていた一夜が、転がっている隊長の頭を踏ん付けては面倒くさい拗ね方をしていると、頭が突如笑い出して光を溢れさせる。

自爆だと気が付いた頃には既に遅く、爆発がカルディア大聖堂を粉々に崩壊させた。

 

そこで、少しの間意識を飛ばしていた一夜は目を覚まし…雷神衆に身を挺して守られていたことに気が付いた。

ラクサスも含めた雷神衆はブルーペガサスに所属していて、少しとはいえ所属したからには家族だという一夜の言葉に則り、家族は守り合うものだといって一夜を3人で庇ったのだ。

 

涙を流す一夜の哀しみの雄叫びが響き渡るが、残念なことに……破壊した機械兵の隊長は、スプリガン12の一人である機械族(マキアス)のワール・イーヒトが造った兵隊の一体でしかなかった。

本体のワールはフィオーレ南方ハルジオン近海から向かってくる数多くの戦艦に乗っていた。

当然、カルディア大聖堂で自爆した機械がやられたことも気付いていて、ブランディッシュが捕虜として捕まっていることも知っていた。

 

ワールの他にもディマリアというスプリガン12の内の一人が同席しているが、ワールはやられっぱなしというのが面白くないようで……港から30㎞離れている場所から狙撃をしようとしていた。

 

 

「港を粉々にするつもりか。まだ30㎞はあるぞ」

 

「いいや。狙いは─────妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ」

 

「ここから400㎞以上はあるぞ。当たるものか」

 

「アヒャヒャヒャヒャッ!機械族(マキアス)のエリートたるワール様を舐めんなよ!」

 

 

不気味な笑みと笑い声を上げるワールが腕を合わせると電撃が奔り、ワールの前に巨大な装置が現れて膨大な魔力を蓄積していく。

 

魔力は数秒で溜められ、ワールの超遠距離対物(アンチマテリアル)魔導砲が放たれた。

 

極太の光線は港の上空を易々と飛び越えてフェアリーテイルに一直線で進んで行く。

リュウマの口から放たれる光線よりは威力に劣るが、恐ろしい程の遠距離からの狙撃に、巨大な熱源と魔力反応を感知したフェアリーテイルは大慌てとなる。

 

防ぐためにフリードに術式の再展開をテレパシーで頼むが、つい数分前に一夜を庇って戦闘不能となっていたこともあり繋がらなかった。

絶体絶命となり、もう目前に魔導砲が迫っているといった時……フェアリーテイルの前にクリスティーナが躍り出た。

 

狙われたフェアリーテイルの前に出るということは必然的にクリスティーナが破壊されるということに他ならない。

乗って操縦していた一夜は、これは戦いであるが、フェアリーテイルだけの戦いではないと言って、クリスティーナ諸共フェアリーテイルを守ったのだ。

 

後にフェアリーテイルに瀕死の重傷を負った一夜は回収されて医務室に送られ、斯くして一陣はどうにか凌ぎきった面々であった。

しかしながら、四方を囲まれて攻められようとしているのには変わりなく、ルーシィとカナは捕らえて地下牢に入れているブランディッシュと話を聞こうとしていた。

 

実はブランディッシュが花粉症でくしゃみをしているところを不意打ちで気絶させられる前、ルーシィとお風呂に入っている時…ルーシィがレイラ・ハートフィリアの実の娘であることを確信して攻撃されたのだ。

母のことをそう多くは知らないルーシィは、ブランディッシュに母のことを聞こうとするのだが…ブランディッシュがルーシィの母のことを話すことは無かった。

 

一方地下牢の上では、東の情報が入ってボスコ国のギルドがほぼ全滅しているということを仕入れていた。

ボスコ国の制圧のためか、アルバレスの勢力はそこから進軍やめてはいるものの朗報が入り、来たから攻めてくる軍に対してセイバートゥースやブルーペガサスが向かっているという情報が入る。

 

南の軍はハルジオン(こう)を制圧したアルバレスから解放するためにマーメイドヒールとラミアスケイルが向かっていた。

となれば、フェアリーテイルは東と西のどちらかの対処に処せば良いだけの話となり、大分負担が減ってはいる。

そこでフェアリーテイルの面々が加勢に行かせてくれとメイビスに訴え掛け、北へはミラ、エルフマン、リサーナ、ガジル、レビィ、リリーが行くこととなった。

 

南へ向かうのはナツ、グレイ、ジュビア、ウェンディ、シャルル、ラクサスとなっている。

…の、だが……。

 

早速ナツが自由行動をして何処かに消えてしまっているので南へは、アジィールとの戦いで多少負傷しているが動ける程度には回復しているエルザが代わりとして南の加勢メンバーに入ることとなった。

他の者はギルドの防衛に回り、西と東の対処は如何するのかというマカロフの言葉に、メイビスは西の進軍速度が他とは違って遅いことからゼレフ本体であると告げた。

 

西を除いた三つの方角の勢力とで決着が付いた後、残る残存戦力で迎え撃つ形となる。

では東の対処は如何するのかというロメオの問いに、東は現状最も脅威度が高いとのことで、こちらからも一番の兵力を出すと告げた。

 

ウォーレンがそこら辺の連絡の遣り取りをしており、東に向かったのはイシュガル最強の戦力チームであった。

聖十大魔道序列一位だったゴッドセレナを除いたイシュガル四天王3人に加え、聖十大魔道序列五位であったジュラが向かっていたのだ。

 

最早ここが突破されることがあれば、一人を除いて東を抑える者は居なくなると言っても過言ではない状況であり、メイビスは創設メンバーのウォーロッドに心の内で抑えてくれるよう頼み…健闘を祈った。

 

するとそこへ、マグノリアの周辺まで見ることが出来る地図のモニターに、西の勢力に向かって進む点が表示された。

ゼレフ本体がいる西の勢力に向かったのはナツであり、実のところ…戦争が始まる前のオリヴィエが消えた後の話で、ナツはゼレフに関しては自分が決着をつけると言い、その為の秘策が右腕にあると述べていた。

 

そゆなナツを信じて他のメンバーはメイビスの作戦通りに動こうというエルザの言葉に対して、エルザはナツを信じすぎているというグレイとで一頓着ありそうになるが、グレイはグレイでナツを信じていない訳ではなく、ただ一人では心配だという事だった。

そんなグレイに、シャルルは人の姿をしながら微笑み、ハッピーが付いているから一人ではないと返し、グレイはそれもそうだと笑い返した。

 

 

「……ん?何だコレ?」

 

 

そんな話が他で行われているところで、地図を見て作戦についての確認をしていたウォーレンが地図上の不可思議な部分を見て頭を傾げていた。

 

それは人を点で表示する地図上に、不規則に点滅しながらゆっくりと…しかし着実に東の勢力のところへ向かっている者が居たのだ。

少ししてから点滅は消えてしまい、ちょっとした誤作動かと気にしなかったウォーレンだが……魔力が強大であれば強大である程顕著に印される点が、()()()()()()()()()()()()点が消えた事に気が付かなかった。

 

 

 

 

滅びが東へと……向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は戻り、西の勢力の主力たるゼレフの元に向かったナツは、ハッピーに抱えられて黒い絨毯にも見える夥しい敵兵士達の元へとやって来ていた。

勝ってな行動を顧みずやって来たことに何の反省もしていないナツは、早速ゼレフを炙り出す為に戦闘の兵士に攻撃し始めた。

 

全員魔導士で形成された兵士を前に、何の考えもなく突っ込んでいったナツではあるが、一年の間に付けた力の凄まじさたるや。

 

拳に宿した炎を鉄拳と一緒に爆破すれば数百人を巻き添えにし、武器を使われようが瞬時にに避けては砕き割って無力化しながら反撃の一撃で地に沈める。

一人を肘鉄で吹き飛ばせば後ろに居た数十人の兵士を巻き添えにして倒した。

 

 

「──────『炎竜王の咆哮』ッ!!!!」

 

 

魔法が飛んできても手で弾き飛ばし、魔法の弾幕を張られようと強力無比な咆哮(ブレス)を放って地を底から削って地形をも変えた。

 

たったの一分足らずで100万中の約1000人を倒したナツの前に、お目当てのゼレフが出て来た。

少しの皮肉混じりな挨拶をしたナツは、右腕に巻かれていた包帯を取り始めた。

それと同時に顕著となる膨大な魔力と莫大な熱量に、あのゼレフまでもが困惑とした表情をした。

 

包帯を取られたナツの右腕にあったのは……竜の形をした紋章だった。

 

呆気に囚われているゼレフの顔に、瞬きをするほんの刹那で接近したナツの拳がめり込み吹き飛ばした。

その後も追撃をしては吹き飛ばして追撃をしてと、ゼレフに反撃の余地を与えず攻撃していき、隙を突いてゼレフが反撃をしようと飛んできた魔法を燃やして無効化した。

 

出鱈目な力に気になったゼレフは、元は魔法の研究者ということもあり、その力は何なのかと質問を投げ掛けた。

ナツはそれに対してイグニールから貰った力と答えた。

 

一年前のタルタロスとの戦いの最中でやって来たアクノロギアを倒すためにナツの体の中から出て来たイグニールが、最後の力として残しておいてくれた力だった。

ナツはその力を解放するためだけに、修業期間の内の大半である10ヶ月を費やしていた。

 

 

そしてこの魔力は強力にして強大であるため…大きなデメリットが存在する。

 

 

そのデメリットとは……この魔力は一度使えば二度と回復する事の無い一度限りの力。

(まさ)しくイグニールの執念である。

 

その説明を受けたゼレフは、この力ならば己の呪いである不死の(呪い)を破壊することが出来るかも知れないと、人知れず歓喜していた。

 

 

「─────モード…炎竜王ッ!!」

 

 

魔力とイグニールの力を解放したナツの熱量に、辺り一面の大地が燃え盛り、文字通り炎の大地となった。

 

燃えうる大地を踏み締めてゼレフの顔を全力で殴り抜いた瞬間……想像以上の爆発が辺りを襲い爆ぜた。

 

爆煙が晴れるとゼレフの姿が無く、完全に消し飛んだのかと思われたが後退しただけであり、しかしながら…あのゼレフが瀕死の重傷とも言える傷を負っていた。

放ったナツも予想以上の体力の消耗と、イグニールの執念の魔力の消耗に息を荒げていた。

 

後一撃撃てるかどうかと言える残量に焦りを憶えるナツだが、ゼレフはそんなナツに言葉を投げ掛けた。

 

曰く、ナツならば己を止めることが出来るかも知れないと…ずっと思い続けてきたが少し遅く、己は己の消滅よりも世界の消滅を選んだのだという…ナツに会うまでは。

 

次の一撃は、ナツの力次第では、本当の意味で不死であるゼレフを消滅させられるかも知れない…という状況であるからこそ、ゼレフは生きている今の内に大切なことを伝えておきたいという。

 

 

ゼレフは告げた……真の名を。

 

 

「僕の名はゼレフ・ドラグニル─────」

 

 

─────君の…兄だ

 

 

その言葉はナツと聴いていたハッピーの思考を奪った。

 

 

今から400年程前、ナツとゼレフの両親はドラゴンの吐く業炎に焼かれて死んでしまっていた。

そしてゼレフの弟であるナツも……その時に死んでしまっていたのだ。

ゼレフは弟であるナツを蘇らせる為の研究の末…ゼレフ書の悪魔(エーテリアス)という生命の構築に成功したのだ。

 

 

それこそがエーテリアス()ナツ()ドラグニル()である。

 

 

固まっているナツにハッピーが信じてはダメだと叫び、気をしっかり持たせ、ナツはゼレフの言葉を信じず、何よりイグニールはENDを倒せなかったと述べていたと言い、もし仮にナツ自身がENDならば小さい頃に捻り潰されていた筈だと言った。

 

それに対し、ゼレフは物理的に倒すのではなく、イグニールがナツに愛情を注いでいたからこそ倒すことが出来なかったのだと返した。

 

ゼレフの言葉を信じられず、尚且つENDはタルタロスを作った悪魔であり、自分は人間であると宣言する。

しかし真相を知っているゼレフは、タルタロスを作ったのはマルド・ギールであり、偶然見つけたENDの書を使ってENDの意志だと言って他の悪魔を従わせていたのだと告げた。

そういう意味ならば、ENDであるナツが作ったとも言えるだろう。

 

これ程の事実を並べられようと信じようとしないナツに溜め息を吐いたゼレフは、別の空間から一年前に回収したENDの書を取り出しては地に投げ…簡易な魔法で本を貫いた。

 

すると如何だろうか……ナツが胸を押さえて苦しみだしたのだ。

 

ゼレフの悪魔であるナツの本体とも云えるのは、ENDの書である。

つまり、本を攻撃されたことで本体にダメージが入り、肉体であるナツの体が痛みを共有したのだ。

 

苦しんでいるナツを見下ろしながら、ゼレフは昔からナツが聞き分けが悪く、言葉も字も全く覚えようとしないどうしようも無い子だったと懐かしみながら教えた。

頭を抱えていたゼレフは、友人である……イグニールに相談をしに行ったのだ。

イグニールがゼレフの友人であったことに対し、苦しげな顔をしながら本当かと聞き返したナツに肯定し、ゼレフはイグニールが当時では珍しい…人間を敵対視しないドラゴンであったと述べた。

出会いとしては、研究の為の薬草を採りに行っている時に偶然会った。

 

その時だ、イグニールがナツに滅竜魔法を教えると決断したのは。

 

イグニールや他のドラゴンであるメタリカーナやグランディーネ等はある計画を練っていた。

滅竜魔導士を己の手で育て上げ、自らの力を“魂竜(こんりゅう)の術”にて魔導士の体内に封じて未来に行く事を……アクノロギアを倒さんが為に。

 

では何故ドラゴンが未来に行く必要があったのだろうかという点は、弱っていたドラゴン達が復活するためのエーテルナノ濃度の問題であった。

エーテルナノの豊富な時代へ行かなければ魂竜の術は解けない。

 

この計画に選ばれたのは5人の子供────

 

 

ナツ…ガジル…ウェンディ…スティング…ローグであった。

 

 

この5人は身寄りが居ない子供達であり、ナツにはゼレフが居たが他でも無いゼレフが賛同した。

それには当然…アクノロギアとは別にナツが強くなればゼレフ自身を殺してくれるかもという望みがあった。

 

未来への扉はエクリプスを使い、アンナという星霊魔導士が扉を開いた。

 

当然のこと、辿り着く未来については定まってなどいなかった。

アンナという女性の一族が計画を紡ぎ、エーテルナノ濃度の高くなった今の時代へと出口が開けられた。

そして…レイラ・ハートフィリアという星霊魔導士がエクリプスを開いた。

奇しくもルーシィの実の母親である。

 

それがX777年7月7日…ナツやガジルやウェンディ達が親のドラゴンが消えてしまったと思い込んでいた日。

実際には、選ばれたナツ達がこの時代へやって来て目覚めた日である。

つまり……ナツ達5人の純粋な滅竜魔導士は400年前の子供だった。

 

ゼレフはその400年を生き抜いて来たが…400年という月日は余りにも長すぎた。

幾つもの時代の終わりを見ては、人間の生死の重さが分からなくなっていった。

リュウマに会ったし、メイビスとも出会って別れた。

 

そう告げたゼレフにナツは信じられないと叫びながら飛び掛かり、イグニールの魔力を解放するが…ゼレフは憐れな者を見る目でナツを見て告げた。

 

 

「君はゼレフ書の悪魔だ。僕を殺せば────君も死ぬ」

 

「それが─────どうしたァァァァッ!!」

 

「な、ナツーーーーーっ!!!!」

 

 

ゼレフから告げられた衝撃な事実を告げられようと、ナツは止まることなど無かった。

ナツは既に迷うことをやめている。

ゼレフを倒すためだけにここに来たしここに居る。

涙を流しながら最後のチャンスだと教えるゼレフに、ナツが腕を振りかぶり──────

 

 

「なっ!?ハッピー!何すんだ!!降ろせ!」

 

「オイラ…やだよ……ナツぅ…ナツが居なくなるなんて嫌だよぉ…!!」

 

 

ハッピーがナツの襟を掴んで空へと持ち上げて離さず、その間もナツの右腕に描かれた竜の紋章が消えていく。

イグニールの力が消えていき、早く離すよう叫んでもハッピーは離さなかった。

 

腕の紋章は次第に効力と魔力を消していきながら、紋章自体も消えて無くなってしまった。

ハッピーはナツの熱を帯びる服を掴んで手が焼けるが構わず…ギルドへ戻るためにその場を飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同じ頃、ハルジオン港では……ワールとディマリアが占拠しており、そこに集まったラミアスケイルとマーメイドヒールがハルジオン解放戦を始めようとしていた。

 

フィオーレ北方でもセイバートゥースとブルーペガサスが解放戦をしているが、順調に倒していっていると思われた戦況にスプリガン12の一人であるブラッドマンという死神のような格好をした男が現れて劣勢に追い込まれていった。

 

それとは別にマグノリアでは、地下牢に捕まっているブランディッシュの元へ、空間の掟といって空間魔法を無効化するマリンが潜入して潜り込んでいた。

助けに来たと思っていたブランディッシュであるが、マリンは今まで散々扱き使われていたことを恨んでいて、助けるどころか首を絞めて殺そうとしてくる。

 

酸素を吸えず意識が朦朧としていき、意識を失ったブランディッシュを間一髪助けたのは…丁度様子を見に来たルーシィとカナだった。

 

意識を失っていたブランディッシュが目覚めると医務室で寝かされており、事の事情をルーシィから聴いて情報を吐かせるためかと問えば、ルーシィはニコリと笑いながら一緒にお風呂に入った仲だからと答えた。

何とも言えない顔をしながら、温かい何かを感じたブランディッシュは、アルバレスの情報の代わりにルーシィの母親の話をすることにした。

 

手錠を外してルーシィと二人きりにして欲しいという条件に声を荒げて否定するカナをルーシィが宥め、医務室に居るポーリュシカは拘束は外すが魔封石は外さないという条件で出て行った。

 

医務室に2人だけとなったことを確認したブランディッシュは早速ものの本題に入った。

ブランディッシュは己の名がブランディッシュ・μ(ミュー)といって、母の名がグラミー。

そしてその母親がルーシィの母であるレイラ・ハートフィリアの使用人の内の一人であったことを明かした。

 

思いがけない告白に固まっているルーシィを尻目に話を続け、レイラは星霊魔導士を引退する際に自分が所持していた三つの鍵を3人の使用人に託した。

一つは八年前に天狼島にやって来たグリモアハートに属し、カプリコーンに憑依していたゾルディオに、もう一つは…今はもう無くなってしまったが、ルーシィの豪邸の世話係をしていたスペットという使用人にキャンサーを、そしてブランディッシュの母であるグラミーには……アクエリアスを。

 

グラミーはレイラの事をとても尊敬していた。

託されたアクエリアスの鍵も毎日毎日飽きもせず磨いていた程でもある。

だが、ブランディッシュはレイラが母のグラミーを裏切ったと叫んだ。

 

 

「あんた、アクエリアスの鍵はどこで手に入れたの?」

 

「ママ…から……だけど…」

 

「私の母が受け継いだ物を何であなたのママから渡されたと思う?」

 

「…っ!」

 

「レイラはね─────鍵を取り返す為に私の母を殺したのよ」

 

 

ブランディッシュが言った言葉を到底信じられる筈も無く固まっているところをブランディッシュはだからこそ甘いと称し、自分の見えている世界しか信じていないと言って……飛び掛かった。

 

不意を突かれたルーシィはマウントを取られて手脚を拘束され、口を塞がれて声を上げることも出来ない。

魔封石を嵌めていて魔法こそ使えないものの、拘束は外されているのが仇となり丸め込まれてしまった。

 

 

「んっ…!!」

 

「母さんの無念……アンタの命でしか晴らせない…ごめんね……死んでっ」

 

「んんっ……!んーーーっ!!」

 

 

口と鼻を同時に塞がれてしまい息が出来なくなり、苦しさから藻掻いて暴れるルーシィを離さないブランディッシュ。

しかしその状況も長くは続かず……。

 

暴れている内に棚から落ちた花瓶の中に入っていた水が広がり波紋を作り出した。

そして意志を持つように迸るとルーシィの上に乗っていたブランディッシュを弾き飛ばし、ルーシィを助けた。

 

 

「私の鍵が……何だって?」

 

「アクエリアス……!」

 

「…………。」

 

 

助けたのは……アクエリアスだった。

 

水が床に浸透しているのが幸いし、水がある場所でしか召喚する事の出来ないアクエリアスが出て来ることが出来た。

ルーシィはアクエリアスが危ないところを助けてくれた事に喜んで抱き付き、そんなルーシィをアクエリアスは仕方ないといった表情で受け止めていた。

 

仲睦まじい光景にブランディッシュが黙って見ていたが、アクエリアスが久しいなと言うと目を剣呑に顰め……

 

 

「オイッ!反応ねぇのかよクソガキッ!!!!」

 

「ご、ごめんなさい…()()()()っ」

 

「ご主…!えぇ…??」

 

 

何かとんでもない反応の仕方に、ルーシィは困惑した。

 

 

「捻くれた女になりやがって。そんなんじゃいい男出来ねーぞ?お?」

 

「ふ、ふぁい…」

 

「あのルーシィでも泣きながら求め────」

 

「その話は今いいでしょ!?てか、何で知ってんのよ!?」

 

「そりゃあ、お前が夜のお供にあの男とあっつ~い淫らな妄想─────」

 

「キャーーーーーーー!!!???////////」

 

 

どうにか全部は言わせなかったが、ギリギリセーフのようなアウトの事を言われて、ルーシィは顔が真っ赤になっていた。

わたわたしているルーシィを揶揄って遊び終えたアクエリアスは、ブランディッシュに犬のマネをさせたり誉めてからビンタしたりと躾けていた様子をルーシィに見せ付けてドン引かせた。

 

暫くして真剣な話を終えたアクエリアスは、ブランディッシュの主人である自分の主人がルーシィである事がどういう意味か分かるかと問えば、意味を理解したブランディッシュはしかし…どれだけ凄まれようと己の母を殺したレイラを許すことが出来ないと答えた。

 

ルーシィはレイラではないとアクエリアスに告げられて俯くブランディッシュに、レイラはブランディッシュの母を殺していないと告げた。

アクエリアスがこの場に現れたのは、その真実を語りに来たが故だった。

 

 

いや……()()()()でもある。

 

 

突如床下から漏れ出た光の柱が迫り出て、ルーシィとブランディッシュを呑み込んで一瞬視界の全てを白く染めた。

 

目を開けた時……2人はアクエリアスのような人魚の格好をしながら宇宙空間のような星が集まっている場所に居た。

 

驚き困惑していると、先導しているアクエリアスがこの場の説明を軽くした。

 

ここは“星の記憶”……星霊たちの紡ぐ記憶の記録保存所(アーカイブ)である。

簡単に言えば夢のような所であるが、ここに映し出されるものは紛う事なき真実であると。

 

説明された2人は顔を見合わせながら宇宙空間を進み…流れていく映像を目にした。

 

森の中を歩んで進み、開けた場所に出て来た女性が一人居た。

女性の名はアンナ・ハートフィリア。

ルーシィの先祖であり、偉大な星霊魔導士だった。

 

今から400年前、黒魔導士とドラゴンと星霊魔導士によって、ある計画が実行された。

それがドラゴンに育てられた子供にドラゴンを封印し、未来へと送ってアクノロギアを倒すという計画だ。

何度も言われている通り、未来へ行くために使われた魔法はエクリプスであり…星霊魔法の一つである。

 

アンナがエクリプスの扉を開き、ハートフィリア家は代々その扉が開くその時を見守ってきた。

 

何故代々見守ってきたのか分からず、ルーシィがどういうことからと聞くと、アクエリアスは本来エクリプスは入り口と出口に二人の星霊魔導士が必要であり、それを怠れば大魔闘演武の時のような悲劇が生まれる…そう答えた。

 

この場合の出口とは未来…つまりはハートフィリア家とは、扉が開くその時を何百年も待ち続けていた。

そしてレイラ・ハートフィリアの代で扉は開かれた。

 

扉を開くためには本来、黄道十二門の鍵が全て必要であり、レイラは預けた鍵も含めて全ての星霊魔導士に集合するよう呼び掛けた。

だが、西の大陸(アラキタシア)に渡っていたグラミーだけには連絡が届かず、宝瓶宮(アクエリアス)の鍵だけが揃わなかった。

 

 

レイラ・ハートフィリアは……足りない分の魔力を己の生命力で補ったのだ。

 

 

結果……扉を開くことには成功したものの、元々体が弱いという病弱体質に重なり、重度の魔力欠乏症を患ってしまった。

 

そんな話がグラミーの耳に届いたのは実に7日後の事だった。

 

 

『レイラ様…本当に…本当に……申し訳ありません…!』

 

『いいえ、気にする事はありませんよグラミー』

 

『…この鍵は私が持つのに相応しくありません。どうかレイラ様の手に……』

 

『私にはもう、星霊魔法は使えません』

 

『でしたらルーシィ様に…!レイラ様に似てきっと立派な星霊魔導士になるでしょう…!』

 

 

「…………。」

 

 

映像を見ているブランディッシュは、映像が流れていく内に顔を俯かせて何とも言えない気持ちになってきていた。

 

 

『私の家に古くから伝わるエクリプスの開放が…私の代で終わって良かったわ。あの子には自由に生きて欲しいもの……』

 

「…………。」

 

 

ルーシィも今は亡き母の言葉にどう言ったらいいのか分からず、ブランディッシュと同じように顔を俯かせた。

 

 

『そういえばブランディッシュは元気かしら?』

 

『えぇ、それはもう。アクエリアスが居なくなれば淋しがるでしょう』

 

『ルーシィと同じ歳でしたね』

 

『えぇ、今度お連れしますね』

 

『お友達になれるといいですね』

 

『なれますとも』

 

 

「…………。」

 

「…………。」

 

 

奇しくも敵同士であったルーシィとブランディッシュの母親は、自分達が仲の良い友達同士になれるだろうと、嬉しそうに…楽しそうに話していた。

 

その後もレイラはグラミーと共に仲の良い会話を続けて、遅くなる前に帰らなくてはならないグラミーはハートフィリア家から出て帰路についた。

 

しかし……そんなグラミーは背後から男にナイフで刺された。

 

 

「お母さん…ッ!!」

 

『お前の所為で…!レイラ様が…!!お前の所為でェ…ッ!!』

 

『ゾルディオ…さん……!』

 

 

背後から刺したのは、同じくハートフィリア家に仕えていた使用人の一人であるゾルディオであった。

映像なので抗うことなど出来ないが、ブランディッシュは泣きながら映像に向かってやめるよう叫んだ。

 

 

『えぇ……私の所為ですとも…当然の…報いよね……』

 

『よくも……よくもレイラ様をォ…!グスッ…!』

 

『…お願いがあります…ゾルディオさん…』

 

 

刺されているにも拘わらず、グラミーは泣きながら己の背から貫いて腹にまで突き出ているナイフを持つゾルディオの方に振り返り、涙を流しながら告げた。

 

 

『娘には…ブランディッシュには手を出さないで…。私の命と引き換えにお願いしているの…分かってくれる…?』

 

『あぁ…あぁあぁああぁあぁ……!』

 

 

「お母さーーーん…っ!!!!」

 

「─────っ!!」

 

 

泣き叫ぶブランディッシュを……ルーシィが強く抱き締めた。

 

 

「あたし達…今からでも友達になれないかな……ママ達みたいに…」

 

「うぅっ…グスッ……」

 

 

泣いているブランディッシュを頭を撫でながら慰めているルーシィは、今はまだ直ぐに返事が出来ないと分かっているので急かすことはしなかった。

そんな二人を見ていたアクエリアスは、言い辛そうにルーシィに見せたい物があると行ってルーシィにとある映像を見せた。

 

それは……過去に一度だけ…アンナ・ハートフィリアが全ての星霊の鍵を集め終わる前に、アクエリアスの鍵を所持していた女性が、戦いに於いて初めて……代償召喚術のみで呼び出せる星霊王を召喚した時の映像だ。

 

だが……映った映像を見て息が止まった。

 

 

何故なら……映像の向こうに────

 

 

『……………………。』

 

 

──────リュウマが居たのだから。

 

 

「え…?これって……」

 

「……今からさっきと同じ、約400年前の映像だ」

 

「じゃあ…こ、この人ってリュウマの…ご先祖…?」

 

「……もう分かってんだろ?何時間か前にも初代マスターから説明されただろうが。それは本人だ」

 

「で、でもっ……」

 

 

どうしても最後まで信じ切れていなかったルーシィの目に映っているのは、何度も見てきた愛しい彼の顔。

 

しかしその顔は表情というものが窺えず、何時ぞやに見た3対6枚の黒白の翼を携え、真っ黒な軽装の鎧を着て頭にサークレットを付けている姿であり、腰には変わらずの純黒の刀を差していた。

 

それまではまだ着ている服が違う程度だったのだが……彼が立っている場所が問題だった。

 

彼が立っている場所は…後ろに数多くの兵を従えながら先頭に立ち……前には黒く埋め尽くされた敵兵と思われる兵士の大軍が居た。

 

斯くして見た映像は……説明された通り王として君臨する殲滅王(リュウマ)の姿であった。

 

 

『────ククク……』

 

 

映像は進み、中にいるリュウマが突然無表情を一転させて嗤い始めた。

何処までも相手を侮辱し見下している…冷たい目だった。

 

 

『目先の欲に目が眩み、よもや我が国の領地を奪いに来るとは……フハハッ─────不敬にも程があろう』

 

 

嗤い終えたリュウマは─────

 

 

 

 

『征け──────皆殺しだ』

 

 

 

 

─────大軍の中へと飛翔した。

 

 

映像の中でリュウマは人を紙のように引き千切り、魔法で灰に変えては逃げ惑う兵士を一人も逃がさず蹂躙した。

みるみる映像の中が地獄絵図に変わり、その光景をリュウマ本人が作り出しているということが信じられず、口を押さえて込み上げてくる嘔吐感に堪えていた。

 

リュウマの国の兵士も屈強で、一人で数十人ずつ殺し回っては大地を死体の山に変えていく。

殺している数は当然の事リュウマが頭が何個も飛び抜けており、腕の一振りで数万人が死んでも当然の結果であった。

 

 

『……代償召喚術…星霊王召喚……お願いします星霊王よ…我等に勝利を…!!』

 

 

そこで映像がリュウマに蹂躙されている所から少し離れた所に移り、兵士の中で唯一鎧など着ず、巫女のような服を着ている女性が宝瓶宮の扉を掲げて砕き…召喚した。

 

 

『フハハハハハハハハッ!!繊弱軟弱貧弱惰弱ッ!!貴様等はこの程度の力で我等フォルタシア王国に刃向かうか!?なれば笑止千万ッ!!精々残してきた者達(友人知人家族)を想いながら死に絶えるが良いッ!!』

 

『────そこまでだ。荒ぶる獣が如き人間よ』

 

 

そこで大きな体と膨大な魔力を持ち、剣の切っ先をリュウマに向けて戦闘態勢に入っている星霊王が現れた。

言葉で止められたリュウマは魔法での殲滅を一時取り止め、目前に浮いて相対する星霊王を初めて視界に捉えた。

 

 

『願う古き友の為…貴様等を星霊王の名の下に殲滅する』

 

『ほう…?不敬にもこの我を含めて殲滅すると…?フハハッ─────吠えたな。塵芥(ちりあくた)の星霊如きが』

 

 

途端……リュウマの体から可視出来る程の純黒なる魔力が放出され─────消えた。

 

 

『その程度の力しか持たぬ存在が、誇り高き翼人一族が王たる我の御前に立つな』

 

『────ッ!?…ヌゥ……無念…な…り……』

 

 

星霊王の背後に立っていたリュウマは、一瞥すること無く言葉を吐き付け…星霊王は体を縦から唐竹の一刀で真っ二つにされて消えてしまう。

 

全天88星を統べる星々の王である星霊王の力は、凄まじいの一言である力を持ちうるのだが……殲滅王の前には吹けば飛ぶ埃に違いなかった。

その後に兵士達はフォルタシア王国の兵士達に蹂躙され……1時間も掛からない殲滅戦となってしまった。

 

 

「……私はお前に真実を見せる為に連れて来たが……ブランディッシュの小娘の話の他に()()()()()この記憶を見せる為にも連れて来たんだ」

 

「…っ……思い出した?」

 

「そうだ。私はつい最近までこの事を知らなかった。星のアーカイブにも載っているが閲覧出来ないように魔法で封印を施されていた。……恐らくあのリュウマっつー男が意図的に…それこそどうやってか知らないが星のアーカイブに干渉して記憶を覗かせないように封印を施したんだろう」

 

「……………。」

 

 

リュウマは知っていた…星霊が星のアーカイブなるものを持っていて、今までに起きたこと…星の記憶を覗いたり見せたりすることが出来ることを。

だからこそ常人には到底不可能である星のアーカイブに干渉し、殲滅王として人をゴミのように蹂躙した記憶を覗かせないようにした。

 

他にも、星霊王含めた星霊全ての記憶を弄くり、殲滅王たるリュウマ・ルイン・アルマデュラに関する記憶を消去した。

だからこそ…星の記憶で共有される筈の記憶を辿り、リュウマの事を初めて相見える人間だと感じていた。

 

記憶が戻ったのは、ただ単純にリュウマが封印を解いたからに他ならない。

理由としては…そう……封印しておく必要が無くなったから。

最早見られようが知られようが、リュウマが止まることは無いからこそ…封印を解いたのだ。

 

 

「こんな…ことって……リュウマが…あんなに簡単に人を……!」

 

「……仕方ないだろう。殺し方はどうあれ…400年前は力が全てだった時代だ。だからこそ常に戦争は起きていたし、平穏や安寧は一時的なものか、国の大きさと兵力に一存されていた」

 

 

現代人には理解出来ない、“戦う”という事に関しての根底の考え方の違い。

それに今…ルーシィは心を揺さぶられていた。

 

 

 

 

──────“理解が出来ない”

 

 

 

 

リュウマが恐れていたものが今…真実を知ったルーシィの心の片隅に隠れていた。

 

 

 

 

だが…それも仕方ないと言えよう。

 

 

生きた年代…時間…場所…状況…思想…全てが違い過ぎるのだから。

 

 

「だ、誰か…助けてっ…ナツが…ナツがっ!」

 

 

星のアーカイブから帰って来て泣いているブランディッシュとは別に暗い表情をしているルーシィが居る医務室に、ナツを担ぎ込んでいるハッピーが駆け込んできた。

 

騒ぎに駆けつけたポーリュシカが、倒れて目を開けないナツを診てみると……長年の魔力のオーバーヒートの所為でアンチエーテルナノ腫瘍が出来てしまっていると宣言した。

体の中に悪性の塊が出来ていて、早く取り除かなければ本当に死んでしまう病気である。

 

長年の魔力のオーバーヒート……イグニールの力を開放するために無理をしたが為だった。

イシュガルに治せる者は居らず、ポーリュシカはリュウマならば治せるかも知れないと言うが…ここには居ない。

絶体絶命かと思われたが、泣き止んでいたブランディッシュが魔封石を解いてと言い、腫瘍の場所さえ分かれば己の使う質量を操る魔法で極限まで小さくして消滅させられると言った。

 

敵の者なのに信じられるかとポーリュシカは言うが、先程の事でルーシィはブランディッシュに頼りお願いした。

 

斯くしてナツのアンチエーテルナノ腫瘍はブランディッシュの魔法によって消滅して危機的状況を凌いだが……ルーシィの頭の中にはリュウマの事が抜けきらなかった。

 

 

「リュウマ……何処に居るの?……会いたいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────マグノリアから東部

 

 

ここでは……一つの戦いが終わりを迎えようとしていた。

 

 

「何だよォ…?オレ一人にこの様か?聖十の称号が聞いて呆れるなァ?」

 

 

「ゴッド…セレナ…!」

 

「これ…程……か?」

 

「無念…」

 

「ハァっ…ハァっ…メイビス……」

 

 

東から攻めてくる強大な魔力を持つ者を迎え撃つ為に出張った、イシュガル四天王とジュラが…たった一人……元イシュガル四天王の聖十大魔道序列一位…ゴッドセレナの前に倒れ伏していた。

 

ハイベリオンとウルフヘイムにジュラとウォーロッドが全員やられてしまっている。

それ程ゴッドセレナの力が凄まじいのだ。

止めはウォーロッドからさしてやろうと近付いてくるゴッドセレナに、此所までかと思いながら…メイビスの為にもと、最後の力を振り絞り道連れだと叫びながらゴッドセレナの足下から木の根を張り巡らせて動きを封じる。

 

その間に立ち上がったウルフヘイムがテイクオーバーしてゴッドセレナを巨大な獣の姿で殴り抜き、ジュラが岩鉄で出来た腕で追い打ちを掛ける。

それでもダメージが入っていないゴッドセレナに、ハイベリオンが密かに間接的に吸血魔法を施していたので、ゴッドセレナは身動きが取れず倒れた。

 

その場へ一緒に来ていた居たスプリガン12の一人であるジェイコブが加戦しようとすると、同じくスプリガン12の一人であるオーガストが止めた。

心配には及ばず…久々にゴッドセレナの力を見させて貰おうという話だった。

 

所戻り倒れていたゴッドセレナの目が、白が黒へ…黒が白へと反転すると魔力を開放した。

 

 

「──────『岩窟竜の大地崩壊』ッ!!」

 

 

「なッ…!?」

 

「ぐぁ────っ!!」

 

「うあぁあぁ─────っ!!」

 

「こ、これは……!?」

 

 

ゴッドセレナが両手を地に付けると同時……大地が読んで字の如く崩壊して爆発し、4人を吹き飛ばした。

大地の滅竜魔法か…!?と、ジュラが驚いているのも束の間……大きく振りかぶったゴッドセレナの腕に、強大な熱量が纏われた。

 

 

「──────『煉獄竜の炎熱地獄』ッ!!」

 

 

今度は莫大な熱が辺りを包み込み、大地を削りながら大爆発を引き起こしていった。

これも炎系統の滅竜魔法であり、多大なダメージを負いながらジュラは目を見開いた。

何故ならば……ゴッドセレナの攻撃はまだ終わっていないのだから。

 

 

「──────『海王竜の水陣方円』ッ!!」

 

 

次は莫大な水が押し寄せて4人を呑み込み、強力な水の流れが人を簡単に流していく。

まだ水に流されている4人に、ゴッドセレナは手に風を纏わせて風系統の滅竜魔法を使おうとしたが、オーガストからストップが入ってやめた。

 

ジュラが辛うじて意識を持っているが動けず…残りの3人は既に気絶してしまっていた。

 

この時点で4つの属性の滅竜魔法を使用したゴッドセレナではあるが……彼の力はこの程度のものではない。

体に埋め込めば滅竜魔法を使用する事が出来るラクリマをなんと……体に八つ埋め込んでいるのだ。

一つ入れただけでも失敗の可能性があり、勿論失敗すれば命の危険だってあるのだ。

 

だが彼…ゴッドセレナは体内に八つの属性を埋め込むことに成功した滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)である。

ハイブリットセオリー……竜の神に愛された男である。

 

 

「さて、出発だ。フェアリーテイルに向けて」

 

────こんな奴を……ギルドへ近付かせる訳には…!!

 

 

意識を取り戻したウォーロッドが、歩ってフェアリーテイルに向かっていくスプリガン12の3人を睨み付けるように見ながら、悔しさで顔を歪めていた。

 

 

と…その時……この場を支配する魔力が…辺りを塗り潰した。

 

 

一様に背後を振り返るスプリガン12の3人は、沈み掛ける太陽の光の中に居るシルエットを見た。

 

 

人の形だ……しかし…背に翼を持っている。

 

 

スプリガン12の中でも極めて魔力の強いオーガストですら、何者なのか困惑する程の者だ。

 

 

 

 

 

「貴様等が────アルバレスの者共だな」

 

 

 

 

 

滅び(殲滅王)が現れた

 

 

 

 

 

姿の全貌が見えた時、意識を覚醒させたイシュガル四天王のウルフヘイムとハイベリオンは、聖十大魔道に入るということで見た顔写真を思い浮かべ、ジュラは何度も言葉を交わしたことのあるお陰で目を見開きながら、今までとは違う身の毛もよだつ魔力の異質さに震える。

 

ジェイコブは暗殺魔法の天才と称されてきただけあって、それ相応の強大な魔力の持ち主に会ったし、アルバレス帝国に居たオリヴィエの魔力を知っているので、驚きはイシュガル四天王とは違い少ないものの……冷や汗が止まらず服を濡らす。

 

オーガストはゼレフから顔写真を、話したことのあるオリヴィエから、己より魔力を持っていて…常人には前に立つことすら出来ない程の者だということを聞いていたが確かに……これ程の者は他に居らず、この者がここに居るということは、オリヴィエは敗北したのだろうと納得しながら杖を持つ手の力を強くした。

 

ゴッドセレナは確かに感じる魔力と気配が人間のそれとかけ離れているが、敵として知っている者が目前に居るという以上戦うことになるのは必定だろうと拳を構えた。

 

 

「あんたは知ってるぜ。聖十大魔道に最後に入ったリュウマだ─────え?」

 

 

 

「──────一人目」

 

 

話し掛けた瞬間……ゴッドセレナの視線は低くなり……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

リュウマは一歩だけ()()踏み込み……ゴッドセレナの頭を擦れ違い様に毟り取ったのだ。

 

 

「次は────貴様だ」

 

「───────ッ!!!!!!」

 

 

ゆっくりと振り向き…黄金に輝く縦長に切れた瞳孔を持つリュウマの瞳に見られた刹那……ジェイコブは走馬灯を視た。

 

人差し指を向け…先端に凝縮した魔力を放った瞬間……ジェイコブはオーガストの転移の魔法によってその場からオーガスト共々離脱し、放たれた魔力は数キロ先にあった大岩を消滅させた。

 

 

「ほう。転移系統の魔法を使えたか。……まぁ良い。早かろうが遅かろうが同じ死だ。征くぞイングラム」

 

「ま、まってよ…!おとうさんっ」

 

 

パタパタと飛びながらリュウマの肩に降りた子竜…イングラムを従えて歩き始めた。

 

 

「り、リュウマ殿…!」

 

「…………。」

 

 

名を呼ばれたリュウマは立ち止まり、手の上に波紋を作り出すととある物を一つ取り出して倒れ伏すジュラの目の前に放り投げた。

 

それは……聖十大魔道の証である紋章であった。

 

 

「そんな物はもう要らぬ。故に返還する」

 

「リュウマ殿…?」

 

「あぁ、それと─────」

 

 

序でと言わんばかりに、左手に持っていたゴッドセレナの頭を物を扱うが如くウォーロッドへと放り投げて渡した。

 

 

「その使いようの無い(ゴミ)をくれてやる。適当に燃しておくが良い」

 

「リュウマさん……」

 

 

最早自分の知っているリュウマとはかけ離れた言動と所作…魔力の異質さにジュラは恐縮し、嘗て共に戦った者が相手だというのに…()()()()()()()()()()()()

 

それを知ってか知らずか、鼻を鳴らしながら踵を返してその場から去り、フェアリーテイルがあるマグノリアに向かって足を進めて行った。

 

 

 

 

 

「所詮はこの程度か。─────つまらぬ」

 

 

 

 

 

 




話が全然進まないですねぇ…。


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