FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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面白いとおっしゃっていただきありがとうございます。

とても嬉しいです笑

ですが、本場はここではないという…。

評価や感想お待ちしております!
感想は軽い気持ちで書いて頂いて大丈夫です。




第七四刀  歴史とは所詮過去のもの

 

リュウマの手によりゴッドセレナに続き、同じスプリガン12のディマリアが殺害された。

 

その知らせはフェアリーテイルの投影されたデータにも現れていて、南に居るスプリガン12の一人(ディマリア)の点が消えたことに喜んだ。

だが、東のスプリガン12を示す二つの点が先程から動いていないことに、メイビスが妙な胸騒ぎを覚えていた。

 

そしてその胸騒ぎは……的中した。

 

 

「ほう……いいギルドだ。木に染みついた酒の匂い…古いギルドだと聞いていたが、改良したのか」

 

「…ッ!だ、誰だ!?」

 

「─────アルバレス帝国スプリガン12の一人……ジェイコブ・レッシオ」

 

「「「「───────────ッ!?」」」」

 

 

ギルドの門を開き入ってきたのが…ここからそう遠くない所に転移してから動いていなかった東のスプリガン12二人組の一人…ジェイコブだったのだ。

 

 

「何!?い、何時の間に!?」

 

「マーカーは…!」

 

「そのマーカーに意味はない。オーガストっていうすげー魔導士が居てな。あんた等のレーダーに映っていることを悟り偽装した」

 

「クソッ…!…一人で攻め込んで来るとはね…!」

 

 

マカロフがレーダーに映るマーカーを見てみれば、そこには確かに二つ存在しているので完璧に偽装されて騙された。

 

フェアリーテイル名井に居る全魔導士が戦闘態勢に移行して構える中、ジェイコブは悠々と歩いて余裕の表情で話を始めた。

語る内容は、カナが言った何故一人で来たのかということだ。

 

これはかけ離れている実力差故に舐めて掛かっているのではなく、ジェイコブには兵も居なければ部下も居ない…その分身軽に動くことが出来るからだ。

先程言ったオーガストという魔導士もここに向かっているが、ジェイコブ曰く…オーガストだけは怒らせてはならないとのこと。

 

この国には無いが、敬老の日の事を教え、西の大陸であるアラキタシアでは今日がその日らしい。

故にジェイコブはスプリガン12の中で最年長であるオーガストの仕事を減らすためにも一足先に来たのだ。

歩いてはカウンターの席に座ったジェイコブは、近くに居たキナナに酒を出してくれるよう頼んだが、マカロフがスプリガン12に飲ませる酒は無いと拒否した。

 

 

「そうか、そいつァ残念だ。アンタに敬意を表して人生最後の酒に付き合ってやろうと思ったのに」

 

 

上から目線の横柄な語り方ではあるが、先程から全員が座る最中に関しても隙を窺っているのだが…座る時の動作の途中ですら隙が見当たらない。

実力差を感じざるを得ない状況下で、ジェイコブは己の仕事は暗殺だと語り、仕事の成功率は100%…失敗したことが無いのだ。

 

勇ましい暗殺劇達成率に冷や汗を流しているマックスが、そんな堂々と正面から入ってくる暗殺者が居て堪るかと言った。

確かにとも言えることに、ジェイコブは良いところに目を付けたと賞賛し褒めた。

 

暗殺とは本来、標的に見つからないように体を影として闇の中に身を潜め、ただ静かに標的を殺していくもの。

だが、ジェイコブはそんなことはしなかった。

何故ならば……隠れる必要が無いからだ。

 

 

「隠れるのは死体と目撃者…そして誰も居なくなる」

 

「死体と目撃者…!?」

 

 

──────パンッ

 

 

立ち上がったジェイコブが両手を合わせて発生した音が鳴り響き、収まった時間にして0コンマ1秒……幽体であるメイビスを除いた全員が消えた。

 

目を見開いて呆然としていたメイビスは、ハッとしながらみんなの名を叫んで探すが見つからず、目の前に居るジェイコブがやったであろう事は一目瞭然だった。

みんなを消した張本人たるジェイコブはなんと……ゼレフと同じように見えない聞こえない筈のメイビスが居ることと、完全な居場所を捉え話し掛けた。

 

リュウマはフェアリーテイルの紋章が無くとも見ることも聴くことも出来たが、それは埒外の魔法操作能力と莫大な魔力のごり押し、そして幽体であるメイビスを捉える事が出来る能力を使ったが為だ。

だがジェイコブは何もしていないというのに居るのかどうかのみならず、居る場所までも割り出した。

 

それ等を踏まえた上でジェイコブが感知したことに驚いているメイビスに、ジェイコブは手を銃に見立てて魔力弾で()()()()()()()()()

実体の無いメイビスの攻撃をしたジェイコブに驚愕している内に、電撃による二撃目が入れられた。

 

やろうと思えばフェアリーテイルの紋章が無い者とでも会話が出来ることを知っていると言って話すように促し、皇帝…ゼレフの言うフェアリーハートがメイビスであるのだろうと宣い、メイビスに体がどこにあるのか問うた。

 

答えないメイビスに、ジェイコブは更に攻撃を加えていき無理矢理吐かせようとする。

攻撃に曝されている内……地下にあるメイビスを封印した蘇生用ラクリマに罅が入った。

 

 

「あぁあぁぁ────────────ッ!!」

 

「言えば仲間を返してやろう」

 

「んっぐ…!…え?」

 

「さっき消した奴等は死の狭間には居るが、死んじゃいねぇ…救えるのはお前だけだ」

 

「みんな……生きてる……」

 

─────仲間を取れば…世界を捨てる事になる…そもそもこの男を信用出来る…!?どうすれば…!

 

 

頭の中で臆測ではあるが全てのことを思い返して計算し葛藤していると……

 

 

「とりあぁ───────────ッ!!!!」

 

「ごはっ…!?」

 

 

奥からルーシィがタウロスのスタードレスを着て跳び膝蹴りをジェイコブの後頭部に入れた。

筋力が増強されたことでジェイコブは易々と飛んで行き、ギルドの机や椅子を巻き込んで倒れ込んだ。

その後からハッピーも現れ、メイビスはルーシィとハッピーだけであろうと他に仲間がいたことに喜び、誰も居ないことに気が付いたハッピーに、仲間が全員ジェイコブにやられて消されたことを教えた。

 

立ち上がったジェイコブがギルド全体に魔法を発動したのに何故健在であるのか困惑していると、ルーシィとハッピーはニヨニヨしながら教えた。

 

今から凡そ5分程前……ナツの容態はどうかと診ていたルーシィは、謎の光の波動が迫ってくるのに驚いて目を瞑ると…ホロロギウムの中に居た。

空間の歪みを感知したホロロギウムは、自動的に門を通ってルーシィとハッピーと寝込んでいるナツを体の中に確保して凌いだ。

 

 

「何で裸なのよぉぉっ!!」

 

「と、申されましてもそういう防御魔法なので」

 

「あたしには心に決めた人が居るのっ。ハッピーあたしの壁になって!」

 

「ルーシィ待って痛い痛い痛いよ!オイラ潰れちゃうよ!」

 

「うっさい!」

 

「と、申しております」

 

 

ルーシィは純情なので、決めた人以外の人との肌の接触を阻む為に、ハッピーを使って同じく全裸の寝ているナツとの間の壁として押し付けた。

 

取り敢えず助かったルーシィは、ホロロギウムから当分この防御魔法は使えないということを警告されて頷き、全裸のナツに毛布を被せることに四苦八苦していると…上からメイビスの叫び声が聞こえてきたのだ。

それでハッピーと共に急いで上に上がって現在に至るといった具合だ。

 

星霊の加護に守られたと自慢するルーシィに、ジェイコブはメイビスに条件の変更を言い渡し、内容を…これからルーシィをバラバラに解体していくから気が向いた時に情報を吐けとのことだ。

伝え終えたジェイコブは早速ルーシィへ懐から出したナイフを投げ付けた。

 

突然の事に出遅れたルーシィは、仕方ないので腕を犠牲にでもして受け止めようとすると…ナイフを受け止めて溶かした男が現れた。

 

 

「うしっ…充電完了!」

 

「ナツ…よく眠れた?」

 

「おう!」

 

 

駆け付けたのは……ナツだった。

 

ルーシィからギルド内の仲間全員がジェイコブにやられたことを知らされ、さっさと倒して救い出すと宣言したナツは真っ正面から突っ込んでいった。

殴り掛かるナツにそう簡単にはやられないジェイコブは避けるがナツは追撃を行い、避けられないと悟って腕で防御すると、腕に奔る衝撃に驚いた。

 

炎で殴ってくることもそうだが、防御した腕が痺れ掛ける程の威力に、ナツという魔導士を多少舐めていたことを考え直して戦闘に入る。

相手がスプリガン12の一人であるといっても、互角にやり合うナツではあったが、姿を消したり匂いを消したり…果てには突如違うところに出現したりと、流石は暗殺魔法の天才というだけはあった。

 

腹を殴ってダメージを与えた時、ジェイコブは懐に入っているナツの首を腕で覆ってロックし、そのまま後ろに倒れては床に頭を叩きつけて腕を拘束した。

藻掻くが拘束から抜け出せないナツに、これから地獄を見せてやると言いながらルーシィの方にナツの顔を向ける。

 

 

ルーシィの服が…透け始めた。

 

 

スタードレスが透けていっては下着姿となり、顔を赤くしながら何てことするのかと叫んでやめさせようとするが……拘束中のナツは興味無さそうだった。

しかし、ジェイコブは違った。

 

出来るだけ顔を仰け反らせて、梅干しを食べた後のような顔をしていた。

まさか…と思ったルーシィが話し掛けると、ジェイコブは極度の女嫌い…というよりも苦手意識を持っているようで、女の下着姿も見ることが出来ないのだ。

 

悪どい顔をしながら名案を思い付いたナツは、ジェイコブが目を瞑っていることを良いことにあたかもルーシィが服を脱いでいっていると思わせる事を叫ぶ。

するとジェイコブは混乱しては困惑して慌て、メイビスとルーシィとハッピーもそれに合わせて乗り、作戦失敗だと服を戻した瞬間……目前に迫っていたルーシィとナツの蹴りが腹部に突き刺さった。

 

不意打ちが決まったことに喜んだのも束の間…大人を舐めていると激怒したジェイコブは、これから捕らえた仲間達を1人ずつ殺していくと言い出した。

やめろと叫ぶナツを尻目に、中にはスプリガン12のブランディッシュが居るとルーシィが叫んだ。

 

訝しげな表情をしたジェイコブは、翳した手の平の上に渦を巻いている球の中を覗き込むと、ルーシィの言っていた通り本当にブランディッシュが居たことを確認した。

序でにブランディッシュの部下も。

 

巻き添えにすればディマリアがうるさいとぼやきながら跳ばした空間からブランディッシュと、ブランディッシュの部下であり殺そうとしたマリンが出て来た。

 

と…ここでマリンがジェイコブにお礼を言おうとして立ち上がると……自分が目の前に立っていた。

 

 

「アッシがもう一人いるーーー!?」

 

「合格~~~~♡」

 

「──────『ジェミニ』っ!!」

 

「ピーリッ/ピーリッ」

 

 

さり気なくルーシィがマリンのことをジェミニにコピーさせたのだ。

己より強い者をコピーさせることが出来ないのでジェイコブをコピーすることは出来ないが、この場ではマリンが居てくれて助かった。

 

何故ならば……マリンは空間を使う魔法を無効化出来るのだから。

発動された空間の掟の所為もあって、星霊であるジェミニとルーシィのスタードレスが消えるが、その代わりに死の狭間に捕らえられた仲間達を取り戻すことが出来た。

 

 

「オレのトランスポートが…!」

 

「これは全ての空間魔法を無効化するの」

 

「クソッ…!クソッ…!クソォッ!!」

 

 

悔しさで顔を歪めたジェイコブがもう一度全員消してやろうと、手を合わせる動作をしたところ…合わせる間にハッピーが入り込んでいた。

 

 

「ネコーーーーーーーー!!??」

 

「痛い……」

 

 

隙が出来た間にマカロフが右腕を巨大化させ、ジェイコブをギルドの壁を破壊しながら外へと殴り飛ばした。

ギルドの壁を壊すなと、自分のことを棚に上げて叫んでいるナツを掴んで、お前が言うなと言いながら飛んで行ったジェイコブに向けてナツを投擲した。

 

投げられたことで直ぐに追い付いたナツは、モード炎竜王となって魔力を溜め込み、炎竜王の崩拳で下に広がっていた川の水ことジェイコブを更に吹き飛ばした。

手加減無しの全力殴打に耐えきれず、ジェイコブは戦闘不能となり、スプリガン12の一人を倒したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スプリガン12のジェイコブを見事打ち倒し喜びを分かち合っているメンバー達は、ジェイコブの言っていたオーガスト…魔導王と呼ばれた男がここへとやって来ることに警戒していた。

だからこそメイビスの智恵を借りようとするのだが、何処にも見当たらず何処にいるのかマカロフが聞いた。

居所はマックスが知っていて、傷を回復させるために地下へ行ったのだと言う。

 

場所は変わり、そのフェアリーテイルの地下。

メイビスはカナを連れて地下へとやって来ていた。

カナも何故地下に連れてこられたのか細かい説明をされないままついてきたので、豪華な扉を開けて入った時に見たメイビスの体…永久魔法フェアリーハートを物珍しそうな目で見た。

と言っても、実際にラクリマの中に人が入って封じられているのだから、そもそもが珍しいのだが。

 

これが永久魔法フェアリーハートであると説明されたカナは、メイビスに何故自分をここに連れて来たのか問うことにした。

問われたメイビスは、先程戦っていたジェイコブの魔法と、ナツとルーシィの戦い方からゼレフを倒す算段を付けたと答えた。

 

驚きで見返すカナに、詳しくはまだ言うことが出来ないが…先ずはメイビスの本体である体をラクリマから出さなくてはならないと言い、カナは中に居るメイビスの体がゼレフとのアンクセラムの呪いによって死ぬ一歩手前にいることを思い出すが、メイビスは理論上は生きていると教えた。

それも全て生き返らせようとして、数々の魔法を使って実験を繰り返したプレヒトのお陰とも言える。

 

では、どうやって外に出すのかという話題に、メイビスはカナの顔を真っ直ぐ見て妖精の輝き(フェアリーグリッター)を思念体のメイビスに全力で撃ち込むのだと言う。

呆然としているカナに、ラクリマをよく見るように言い、それに従い目を向けて見ると、僅かながらラクリマに罅が入っていた。

 

ジェイコブに攻撃されたメイビスに影響され罅が入ったと予想され、メイビスの計算によれば思念体を消滅させることでラクリマを破壊することが出来るのだという。

聞き終えたカナは、到底そんなこと出来ないと否定的な返しをするのだが、全てはゼレフを倒さんが為と真っ直ぐ見詰めて覚悟を決めているメイビスの目に根負けし……右腕を構えた。

 

 

「『妖精の(フェアリー)──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、途中でジェラールと合流を果たしたエルザとカグラは、スプリガン12の一人であるナインハルトという者と対峙していた。

 

最初、他でも無いジェラールの手によって殺されたカグラの実の兄であるシモンが現れ、魔法を使った突然の襲撃に遭い…殺されて死んでしまい、もう会うことが無いと思われた兄と対面し…カグラは涙を浮かべて体から力が抜けてしまった。

焦がれた兄との再会に嬉し泣きしながら近づこうとしたカグラも止めたのは、ジェラールだった。

 

 

「ッ!貴様…!何を────」

 

「クスッ…これが君達のヒストリア…愛と友情と家族と…“死”……そう、とても美しいヒストリアだよ」

 

 

ここで登場してきたのが、ナインハルトだった。

辿り着いた敵船の畳まれた帆に座っていたナインハルトは、降りること無くエルザ達を見下ろして語る。

ナインハルトは相手の心を見透かして読み取り、見て…心の中にある沢山の想いがある。

彼はその想いを具現化させることが出来るのだ。

 

生命の創造……美しい歴史(ヒストリア)……。

創り出したのはナインハルト…つまりその具現化された者がいつ消えようとも彼次第ということだ。

 

 

「カグラ…大きく──────」

 

「───っ!!お兄ちゃん…!!」

 

「…ッ!落ち着け!!あれは奴が作った幻だ!!」

 

「黙れ!!」

 

 

嬉しそうな顔で成長したカグラのことを見て、言葉を交わそうとしたその時…具現化されたシモンはナインハルトの手により、強制的に爆発して消された。

また、実の兄を失ったと思ったカグラの心臓は大きく鼓動を刻み、正気に戻そうとしたジェラールを視線だけで殺さん程の眼力で睨み付けた。

 

 

「幻とは少し違うよ。見ただろう?私の生み出す生命は魔法を使える。記憶も人格もあるんだ」

 

「…………………。」

 

 

ナインハルトは愉快そうに笑いながら魔法を発動させ、休んでいたラクサスの所にはプレヒトを…グレイとリオンの所には、嘗てゼレフ書の悪魔を倒すために氷となった師…ウルが……エルザ達の前にはリュウマが倒した斑鳩が居るのだが、これはリュウマが斑鳩を倒す前にエルザが一度剣を交えたということで記憶に残り、ヒストリアとして現れた。

他にもゼレフ書の悪魔であり、タルタロスの一人だったキョウカとカグラの兄のシモンが現れる。

 

グレイとリオンも意図しない死せし師と戦い、力をつけた筈の二人を一人で追い詰め、休んでいたところに現れたプレヒトと戦うラクサスは、多種多様な魔法を駆使して向かってくることに悪戦苦闘する。

 

帆から降りてきたナインハルトを前にして俯いて固まっているカグラは、向かって来る斑鳩とキョウカを前にしても動けずにいた。

このままでは戦えないということで、エルザとジェラールが前に出ようとするが……固まっていたカグラが手を出して静止させたことにより止ざるを得なかった。

 

俯いていたと思われたカグラが見ていたのは……左腰に差されている刀…揺兼平。

これは……過去と決別するように…出来るように…もう怨みに取り憑かれないようにと師匠であり恋い慕うリュウマから手ずから賜った宝物であった。

 

大魔闘演武で蓄積された怨みの大きさにより、手にしていた怨刀・不倶戴天に心を支配されて暴走を起こし、師匠のリュウマの手を煩わせてしまった。

真実を打ち明けたエルザから掛けられた言葉に涙を流し、抱き合って感傷しあうその二人を見ていたリュウマに、これからはもう己を見失わないと誓ったのだ。

 

 

「…スゥ…フゥ……私は師匠に後ろを振り向かないと誓い、この刀を賜った。

 

私は決めたんだ…上を向き後悔の無いよう、天国に居る兄に顔向けできるよう幸せに生きていくのだとッ!

 

 

そんな私はもう惑わされないッ!!

 

 

来るなら来い…人の心を覗き込み、剰え贋作を生み出し愚弄するその醜悪極まる営為…腐りきり舐めきったその精根…ッ!

 

 

この私が叩き斬ってやるッ!!」

 

 

腰に差した震刀・揺兼平の柄に手を掛けたカグラは弾丸のように飛び出して疾風の如く駆ける。

 

そんなカグラの前に最初に出て迎撃に向かったのは、あのエルザを以てしても見事としか言えないであろう斑鳩だった。

本来リュウマの手によって淘汰された斑鳩だが、一度カード化されたエルザを斬ったことから記憶に残り、ヒストリアとして具現化されたのだ。

 

 

「無月流・『夜叉閃─────」

 

「─────遅いッ!!『震撃(しんげき)』ッ!!」

 

 

空中で回転しながら迫る見事な剣術を前に、振り切られる前に懐へと飛び込み、刀を抜いていない納刀の状態で魔力を流し刀全体を超震動させた後、穿ち抜くように捉えた鳩尾に鞘の切っ先を叩き込んだ。

震動に体中へと衝撃が浸透する打撃を受けた斑鳩は、爆散するように光の粒へと返還されて消えた。

 

たった一撃であの斑鳩を倒したのか…と、驚いているエルザだが、更に奥からはエルザを苦しめたタルタロスの一人であるキョウカが立ち向かう。

魔法ではなく呪法という力を使い、己の力を毎秒毎に無限に強化していき、相手の痛覚等を操作する恐るべき力を使うのだ。

 

カグラへ片手を翳したキョウカは、速攻と云わんばかりにカグラの体に微風が当たるだけで失禁するほどの感度になるよう痛覚を敏感にさせた。

しかし……カグラは止まらなかった。

 

 

「この程度の痛みが何だッ!こんなもの…師匠に施された修業に比べれば何てことは無いッ!この私が痛みを受けた程度で止まると思うなァッ!!師匠直伝─────『震透滅脚(しんとうめっきゃく)』ッ!!!!」

 

「がァああァ──────────ッ!!!!」

 

 

震刀・揺兼平から伝わる超震動を脚へと流しながら、キョウカの腹部に蹴りを突き刺したインパクトの瞬間……体内を破壊する禁じ手である衝撃波を送り込み、体内の臓器を破壊をして…内部で反響を繰り返して破壊をし続ける技を打ち込んだ。

 

力が…何者にも負けず、大切なものを守れる程の圧倒的力が欲しいと述べるカグラに、であれば守る為に生かす戦法を捨てて…相手を効率的に殺す術をリュウマは幼き子供に与えた。

使い方を間違えるなとだけ言われて教えられたカグラは、言われた通り間違えること無く、明日を夢見て上を向き生きる己の事を…記憶にある優しい兄を愚弄した男を倒さんが為に使った。

 

体内をこれでもかと破壊されたキョウカは、与えた痛み以上のしっぺ返しを受けて光へ還った。

キョウカから受けた痛みを知っているエルザからすれば、あの痛みに耐えるほどの修業とは一体何をしたのか気になるところではある。

ジェラールはカグラがこれ程の強さを持っているとは思っておらず、若しかしたら背後からこれを打ち込まれたのではと考えて顔面蒼白となる。

 

そして最後の相手は……唯一の家族であった兄…シモンだった。

 

 

「綺麗になったな……カグラ」

 

「お兄ちゃんっ……ずっと大好きだ…だけど私はもう前を向くと…前に進むと決めたんだ…!!」

 

「……それでいい」

 

「……っ……っ!───────御免(ごめん)ッ!!」

 

 

一瞬だけナインハルトの魔法に抵抗し、両手を広げて受け止める姿勢になった兄シモンを……カグラは己の手で斬り決別の一撃を入れた。

 

 

─────じ、実の兄を斬ったッ!?それも私が具現化させたというのに具現化された者が抵抗したッ!?それも奥に居るあの髪の色ッ…魔力ッ…まさかアイリーン様のっ……いや、それよりも……この女の強さは桁違いすぎ────

 

 

「辿り着いたぞ…目前だ…目と鼻の先だ…貴様は私の目先に居るッ!最早この領域は私の射程圏内だァッ!!」

 

「ひィ…ッ!?」

 

「覚悟ォッ!!奥義─────」

 

 

ナインハルトは瞳に恐怖の感情を浮かべて、他に盾となる者を具現化させてこの場を凌ごうとするが……カグラはそれよりも先に震刀・揺兼平を抜刀した。

 

其れは……覚悟によって…そして決別によってより洗練された…正に神速の抜刀であった。

 

 

「──────『冥燈鬼紉(みょうとうきじん)』ッ!!!!」

 

「ぐあァ────────────ッ!!!!」

 

 

─────速い……全く捉えられなかったッ!

 

─────これが…シモンの妹……カグラの本気の力なのか…!

 

 

擦れ違い様に滑るように放たれた抜刀は決まり、斬られたナインハルトは振った衝撃で生まれた斬撃により断たれた船と共に海へと身を投げ出された。

 

 

そう他人には明かせないような哀しいヒストリアがあった。

 

 

だが、何時までも心に溜め込んでいて良いものではない。

 

 

人は哀しいからこそ前に進み生きていき、あった哀しみを超える新たな出会いに巡り会うのだと…カグラは綺麗な緋色に染まった空を見上げながら心の内で綴り…刀を納刀した。

 

 

カグラの眼は……もう涙を流していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の記憶にある人物をヒストリアとして具現化させる魔導士であるナインハルトを倒したことにより、他の所でも具現化されていたプレヒトとウルは消え去った。

だが、ただ消えていくのではなく、カグラがナインハルトを倒すと同時にラクサスとグレイとリオンは、それぞれの相手を倒していた。

 

嘗て世界を統べり世界最強の称号を手にしていた殲滅王…リュウマ・ルイン・アルマデュラを師としていた唯一の弟子…子供でありながら一年の修業のみで教えることは無いとまで言わしめた剣の天才の女…カグラの力を目の当たりにしたエルザとジェラールは、ものの見事に固まってしまっていた。

 

だがそれもそうだろう…単独でスプリガン12をあっという間に倒してしまったのだから。

そんなカグラは無表情をままでエルザとジェラールの元に行き……ジェラールの頬を全力で殴りつけた。

 

 

「ぐはッ……!!」

 

「カグラ…!」

 

「……お兄ちゃんを殺した罪は消えない。一生貴様の心の中で罪悪感として巣くい、私の心の中には過去の出来事であろうと哀しみとして残り続ける」

 

 

そう語るカグラの瞳には…もうジェラールに対する憎しみや殺意や怨念は宿っておらず、しかし何処までも冷たい炎を宿していた。

 

殴られて地面に転がったジェラールは口の端から流れる血をそのままに、立ち上がってカグラの元へと戻ってきた。

エルザはこの二人の遣り取りに口を出す権利は持ち合わせていないため、少し離れたところで見守っているしかなかった。

 

 

「あぁ…承知している」

 

「……聞くところによれば、当時は操られていたと聞く、しかしどんな大義があろうと事情があろうと、貴様が私のお兄ちゃんを殺したことは覆らない。…貴様が事情がどうあれ、また道を違えたその時は…この私が躊躇い無くこの手で引導を渡してやる。それを努々忘れるな」

 

「……あぁ。オレはもう間違えない。……本当に…すまなかったっ」

 

 

カグラに対して深々と…それはもう心の底からの謝罪を行ったジェラールのことを見下ろし、カグラはその場から踵を返してエルザに港を奪還したことを伝えに行こうと告げた。

 

そして最後に、振り向いたカグラはジェラールに言葉を投げた。

 

 

「過去の過ちを清算したいと宣い日々を償いで修めるのであれば、過去に巻き込んだ者達の為に此から先も償い続けろ。私は貴様を到底赦すことも出来なければ赦すつもりも無いが…赦せるよう努力をしよう。だから早急にその頭を上げ、今はゼレフを倒すために奔走しろ。……私からは以上だ」

 

「……すまない。そしてありがとう。心から感謝する」

 

──────カグラ…やはり立派になった。それに…フッ…まるで話し方がリュウマのようだ。子が親に似ると云うように、弟子は師に似るのだな…頼もしい。

 

 

エルザとカグラはジェラールとは別れ、港は奪還してスプリガン12の一人を倒したことを伝えに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ジェイコブを倒し終えたフェアリーテイル内では、ジェイコブがここに来ると言っていたオーガストをどうするかという議題を持ち上げて話し合っていた。

取り敢えずマカロフは、スプリガン12の最強と呼ばれるオーガストを単独で倒せる訳が無いだろうとナツに叫んだ。

 

しかし、そこに助けてくれたから良い奴だと認識したが故に、ナツに牢から出して貰ったブランディッシュが周囲を驚かせながら現れ、オーガストが最強であるという状況に否を唱えた。

であれば何なのかという問いにブランディッシュは、正確に言うとオーガストは最強の一人であるのだそう。

 

ルーシィが代表としてどういうことなのか問えば、ブランディッシュからあなた達は勘違いを起こしていると言われた。

確かにオーガストは最強かも知れないが、スプリガン12にはもう一人の最強が居るとのこと。

 

オーガストを最強の男と称すならば、彼女は最強の女であると言い、名を……アイリーン・ベルセリオン…それは緋色の絶望と呼ばれていると教えた。

 

やっとアルバレスの情報を話す気になってくれたのかと言ったマカロフに、一度だけという条件で話すように決めたらしいことを話した。

ブランディッシュとてアルバレス帝国の人間である。

なればこそ、そう簡単に祖国を裏切ることなど出来る事は無いのだ。

だから味方にはならないが、ブランディッシュはルーシィに借りがあるからと……自分がオーガストに交渉を持ち掛けると宣言した。

 

交渉?と、ナツが首を傾げていると、ブランディッシュはアイリーンを除いてオーガストに勝てる者など居ないと述べた。

ただ1人例外としてオリヴィエも居るが…彼女はもう居ない。

 

オーガストはアルバレス…いや、アラキタシアでは人々から厄災と呼ばれ、アイリーンとは絶望と呼ばれる双璧。

アイリーンの方は元々親しい訳ではないので交渉等無理な話になってくるが、オーガストの場合はブランディッシュが小さい頃からの仲なため交渉次第では退いてくれるかもと述べる。

 

フェアリーテイルのメンバー達も感嘆の声を上げ、一条の光を見つけてホッと一先ず安心し、マカロフはその交渉が上手くいくならこれ以上無きありがたい話だと前向きに検討する。

しかし、唯一難色…というか、否定する者がいる。

 

 

「マスター!信じちゃいけねぇッ!これは奴の策だッ!!逃げるための罠でしかないッ!!」

 

「信じないならそれで構わないけど。私はあなた達の味方でも無いから」

 

 

全く信用していないのは、メストだった。

ブランディッシュとしては、ここで信用されず罠だの何だの言われようと味方でもないので嘘をつく必要など無いのだが、信じないならばそれでいいという考えだった。

 

なので直ぐに信じないならばそれでいいと答えたのだが、メストはそれでもブランディッシュを睨み付けていた。

不穏な空気が流れる中、そんな空気を破ったのはルーシィだった。

 

全く疑うことも無く、即行で信じたルーシィに嘘だろうと焦るメストだったが…結局多数に押されて交渉してもらうということになってしまった。

それでも、メストはブランディッシュを睨み付けていた。

 

 

「うしっ!オーガストはオレが倒す!」

 

「話聞いてたのかしら!!??」

 

 

ナツは最後までおバカさんのままである。

 

 

 

 

だが…こうしている間にも…フィオーレ北方にある霊峰ゾニアに……そのアイリーンは居た。

 

霊峰ゾニアは嘗て、黒き天女(てんにょ)と白き天女(てんにょ)が争った地とされ、戦いの末に白き天女が勝利を収め、この山々には永遠に白い雪が降るとされている大地である。

 

そんな所をアイリーン隊として部下であるジュリエット・サンという真っ白な服装と髪の少女と、真っ黒な服装と髪であるハイネ・ルナシーと共に歩っていた。

 

部下の二人が話をして、アイリーンが静かに歩みを進めている途中…先程の霊峰ゾニアで起きた戦いの話を二人に聞かせ、一人の男のために白き天女と黒き天女が争ったと…話を終わらせて素敵だと評した。

 

 

「だけど…ここは少し寒いわ」

 

 

アイリーンは手に持つ身の丈を超えた長い杖の先を地面に刺すと……雪が消えて()()()()()()()()()()()

 

その光景を、先程北方に到着して、なんとアルバレスの大軍とスプリガン12の一人に全滅させられ、木で作った十字架に磔にされながら運ばれているセイバートゥースを助け出したガジル、リリー、レビィ、ミラ、エルフマン、リサーナは驚愕した。

 

迫り来るアルバレス帝国の軍隊と戦っている内に、膝元まで積もっていた雪が全て消え去り、遅れて輝かしいばかりの華々が満開に咲き誇っていくのだから。

 

スプリガン12の中で、最強の女であるアイリーンは…他にも来ていたスプリガン12のラーケイドとブラッドマンと共に……動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

所戻りフェアリーテイルは、オーガストの交渉に行くブランディッシュにはナツとルーシィとハッピーを付けて向かわせた。

道中絶対に手を出すなとナツに何度も何度も念を押しておくことを忘れない。

 

ブランディッシュによれば、オーガストはスプリガン12の中で本来温厚の性格で、殆どが話しが通じないのに珍しくも話が通じる相手なのだそうだ。

だがその一方で皇帝であるゼレフに対して忠義が厚いのだ。

どうやって交渉するのか聞いたルーシィに、さぁねとだけ答えて固まらせた直後、ナツは後ろに生えている木に話し掛けた。

 

すると出て来たのは……メストだった。

未だに信用していないメストは、向かったナツとルーシィとハッピーを追い掛けてここまで来たのだと言う。

どうしても信用しないメストに、ここまで来たのもアレだからと同行することにし、オーガストの元へと向かう。

 

流石に徒歩では向かえる距離では無いということで、無防備にも魔封石を外してしまっているブランディッシュの、物の質量を操る魔法でハッピーを超巨大にして乗り物として乗って行くことにした。

もふもふだと喜んでいるブランディッシュの横では、是非やってくれと頭だけを大きくした気持ちの悪いナツが

嬉々としていることに、何とも気楽だとルーシィは思った。

 

同時刻では、地下に居るカナがメイビスの思念体を何度目かも分からないフェアリーグリッターで消し去ってラクリマから出すことに成功し、北方の戦線では見事にやられてしまったことに、セイバートゥースのマスターとして如何なのかと気を落としていたスティング。

そこでユキノがマスターがそれでどうするのだと…渇のビンタを入れることで気を取り直したスティングの号令の元、セイバートゥースは戦線へと復帰した。

 

だが、そこにはセイバートゥース達を磔にした張本人たるスプリガン12の一人…ブラッドマンがガジルの元へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはどういう事だブランディッシュ」

 

「私はあなたと交渉しに来たの」

 

 

ナツ達は空を飛ぶ巨大なハッピーに乗り、確かに他のスプリガン12とは頭が一つも二つも飛び抜けている魔力と存在感を放つ老人…オーガストと会い、対峙していた。

 

話し始めて早々に、スプリガン12のジェイコブが殺されたのかどうか問うオーガストに、死んではおらず捕虜として捕まっていることを教えた。

では…と、一緒に来るはずだったゴッドセレナはどうしたのかと問えば、オーガストは胸に手を当て…共に居るとだけ答えた。

 

そんな遣り取りをしている二人を余所に、ナツとルーシィはブランディッシュも相当な魔力を持っているが、オーガストはそれが霞んで思えるほどの魔力の持ち主だと評し、ここまで同行したメストは頭の中でそれどころか次元が違うと感じていた。

 

一方でブランディッシュとオーガストの話は進み、ブランディッシュが拷問を受けた訳でも無さそうだと判断し、その上で我々アルバレスを裏切るのかと問うた。

 

 

「裏切る訳じゃない。私はアルバレスの人間…ただ、この戦争に意味を感じていないの」

 

「それを陛下への裏切りと言うのだよ。我々は陛下に命を捧げた身……陛下の戦いの意味を理解出来ぬのなら──────それは敵でしか無い」

 

 

段々と不穏な感じになっていっていることに冷や汗を流し始めたナツ達一行ではあるが、ブランディッシュは諦めず交渉を続けていた。

ブランディッシュはアルバレス帝国の陛下であるゼレフがやろうとしていることがただの大量虐殺であり、それが互いの国同士の理念を掛けた戦いではもう既に無いということを説く。

 

スプリガン12の中でも最も賢明であるオーガストならば、この戦いの行く末が何も無いことぐらい分かるはずだと力説し、行く末は陛下が……と続けたオーガストに自分で考えるよう強く出る。

そしてブランディッシュは自分で考えたと話し、後ろに控えるナツ達が悪い者達ではないことを説明した。

 

オーガストは恐れ知らずなのか、現状を理解していない単なるバカなのか…どちらかは分からないが睨み付けてくるナツの事を見て、密かに驚きを露わにしていた。

しかしブランディッシュの話に流され、驚いた時に出た少し見開いた目は元に戻った。

 

 

「……ふぅ。そうじゃな。ブランディッシュの顔くらいは立ててやらんとな」

 

「ありがとう♡おじいちゃん!!」

 

「お主を孫にした覚えは無いぞ」

 

「でも私にとってはおじいちゃんだもんっ」

 

「さっきまでの不穏な遣り取りは何だったのかしら……」

 

 

一先ずは交渉が成功したということで良いらしいと、肩の荷が下りたルーシィは安堵の溜め息を吐くが……事態は急変した。

 

 

「おじい…チャ──────」

 

「ん?」

 

 

言動が不自然になったブランディッシュを不思議に思ったオーガストだったが……ブランディッシュは突然懐から一本のナイフを取り出してオーガストの腹部に刺し…質量を操って体内で巨大化させて体を貫通させた。

 

 

「がッ……はっ……!?」

 

「きゃーーー!!??」

 

「何ィ!?」

 

 

「アハ…アハハッ……殺シタイ人ガ……目ノ前ニ……おじい………」

 

 

腹部に穴を空けられたオーガストは、手に持つ杖で体を支えようとするが膝から崩れ落ち、ブランディッシュは目の光が消えながら、血の滴るナイフを持ったまま震えている。

 

そんな状況で笑っていたのが……メストだった。

 

 

「メストオォォッ!!お前何したんだァッ!!」

 

「はっ…はははッ…!記憶を植え付けてやったんだよ。オーガストは必ず殺さねぇといけねぇ相手だってな」

 

「お前ッ!!!!」

 

「ギルドを守る為だ!!」

 

 

どんな大義があろうと……ここで最もやってはならないことに手を出した。

 

ルーシィは血の付いたナイフを見て震えながら涙を流しているブランディッシュに声を掛けたが、話がまだ出来ない。

 

 

そして……背筋を突き抜ける悪寒が奔る。

 

 

「よォく解ったじゃろ…ブランディッシュ……」

 

 

刺されたオーガストの肌は、肌色から赤紫色色へと変化し、額の模様から線が体まで刻まれ……最初に感じた以上の…途方も無い魔力が溢れ出した。

 

 

「─────これが奴等のやり方じゃァ…ッ!」

 

 

オーガストは操られているブランディッシュに手を翳すと魔法で強制的に眠らせ、ナツ達を睨み付けた。

最早発せられる魔力だけで肌が痛くなる程の力の差を見せ付けられ、固まってしまっているところに、オーガストはたった一言だけ……溶けろ…と、言っただけで…其処ら一帯の大地が盛り上がり……大爆発を起こして炎の柱を立てた。

 

オーガストはその後、ブランディッシュを連れて何処かへと消え…ルーシィとハッピーとメストは、炎に対する耐性を持っているナツに助けられて一命を取り留めた。

 

 

ただ……メストの愚考と愚行により…スプリガン12の最強と戦わなくてはならない運命が…決定してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

フィオーレ西方では、ガジルがスプリガン12のブラッドマンという男に標的とされ戦っていた。

セイバートゥースの仇として戦っているものの、ブラッドマンは何かとガジルの攻撃から黒い霧のようになってすり抜けてはカウンターを入れてくる。

 

だがそこは鉄のドラゴンスレイヤーなだけあって頑丈なのだが…体が全て魔障粒子で形成されている故に、人に死を届けるという死神ブラッドマンは、徐々にガジルを追い詰めていく。

魔障粒子を放出しているので、近くに居る者達に離れるよう言うが、聖属性の文字魔法を使うレビィはその場を離れなかった。

 

何故逃げないと叫ぶガジルに、口元にmaskと描かれた文字魔法を見せて、ガジルを放って何処かに行かないと宣言した。

仕方ないので援護をして貰いながら戦うことにしたガジルだが、ブラッドマンが大した魔力を持っていないことを指摘すると……ブラッドマンは己が扱うのは呪法だと語る。

 

そう…スプリガン12のブラッドマンは人間ではなく…悪魔であったのだ。

それもタルタロスに居た悪魔達が使っていた呪法の全てを仕えるという…正に悪魔の最強。

 

又も呪法によって追い詰められていくガジルだが、レビィが賢明な機転の援護によって互角の戦いをした。

だが……ここでレビィは限界時間が来た。

 

突如血を吐くレビィに驚くガジルに、本当は魔障粒子とは皮膚から吸収するため、マスクをして鼻と口を防いだところで意味が無いことを教える。

ならば、何故ここに来たと叫ぶガジルに…レビィは助けたかったからと弱々しく答えた。

 

とうとう倒れてしまうレビィの為に、即行でブラッドマンを倒さなくてはならないと悟ったガジルは……魔障粒子を食べ始めた。

意識が朦朧としているレビィは、エーテルナノを破壊する魔障粒子を食べれば戻れなくなると叫んでやめさせようとしたが、ガジルは取り込み…黒い鉄…(くろがね)になった。

 

そこからは反撃の狼煙を上げ、今まで攻撃がすり抜けていたブラッドマンの体を捉えて着実に大きなダメージを与えていく。

レビィをギルドに連れて帰る為だけに力を得たガジルは、全ての力を籠めた拳でブラッドマンを倒した…のだが…。

 

ブラッドマンはタダでは死なぬと言いながら、己の体を使って黄泉への門を開いてガジルを捕まえて引き摺り込んだ。

少しずつ体が歪んだ空間のような門に吸い込まれていくガジルは、もう体も動かせない状況であるので無理だと悟り…レビィに別れの挨拶をし始める。

 

魔障粒子を吸い込んでしまって犯され始めているレビィは、無理な体に鞭を打ち…どうにかガジルを空間から剥がそうと近付くが……その体を駆け付けたリリーが抱き締めて止めた。

どうして止めるんだと叫ぶレビィに…リリーは悔しそうに…哀しそうに涙を流しながら首を振るだけだった。

 

 

「レビィ…オレはどうしようもねぇクズだった…お前に会えて良かった…!お前のおかげで…オレは少しはマシになったのかもしれねぇ…お前が……オレに人を愛する事を教えたんだ」

 

「…っ…ガジルっ……ガジルぅ…!」

 

「ガジル…ッ……!」

 

 

体は全部歪んだ空間に囚われ、後残すは頭のみとなる恐怖が募るであろう状況で……ガジルは笑っていた。

 

 

「今まで一度も考えなかったことを考えるようになった…未来…家族…幸せ……笑えるぜ…あのガジル様が…いっぱしの人間みてぇなことを………ずっと…ずっと二人で歩いていたかった…!未来を失うのがこんなに怖い事とは…思わなかったんだ」

 

「ガジル……!」

 

「オレの未来はお前に託す…」

 

「いや…!ダメ…ガジルっ!」

 

「オレの分まで生きるんだ」

 

「行っちゃやだぁ!」

 

 

涙を流して顔をぐしゃぐしゃにしているレビィに、あの

ガジルが優しく微笑み、同じく泣いているリリーに最後になるだろう頼みを託す。

 

 

「リリー。レビィを必ずギルドに連れて帰れ…必ずだ」

 

「……っ…っ……っ必ずッ!」

 

「………ギヒッ……──────────」

 

 

穴は閉じられ…その場にはガジルの姿など…無かった。

 

 

「いやあぁあぁあぁ…!!ガジルぅ…!!」

 

 

レビィの叫び声が虚しく……空へと木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我はスプリガン12の内二人を殺した。であれば残るは十か。彼奴等は人を殺そうとはせず生かしておこうとするだろうからな」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。何とも…浅はかな事よ」

 

「─────なるほど。やはりのこと、スプリガン12の殲滅がそなたの目的か」

 

「…………。」

 

「あれ?あれだれだろう?」

 

 

イングラムを肩に乗せて歩っていたリュウマの元に、緋色の絶望と呼ばれているスプリガン12の内、最強の女であるアイリーンが空を浮遊しながら現れた。

 

実際の所は広大な気配察知領域と感知能力をもっているリュウマからしてみれば、どれだけ姿を隠蔽しようと無駄なことではあるが…向こうから来るというのであれば是非は無しということで泳がせていた。

そして目の前に現れた最強と呼ばれているアイリーンを前にしても、リュウマが感じるのは…他よりかは多少出来るだろうという考えだった。

 

それもその筈…オーガストとアイリーンを目にも留めない程の高みへ居るのだから。

 

 

「愚かしくも己から殺されに来たか」

 

「そうではないわ。それにしても…とぉってもすごい迫力だこと」

 

 

そう言いながらアイリーンはリュウマの前に降り立ち、まるで普通の人を相手にしているような笑みを浮かべながら話し始めた。

 

 

「……我の前に降り立つ。この我を何者であるか心得ての狼藉か。将又(はたまた)単なる愚鈍か」

 

「勿論心得てありますわ……リュウマ・ルイン・アルマデュラ様?」

 

「……何?」

 

 

およそリュウマのことを知っているとでもいうような態度に目を細めるが、ゼレフが話したのだろうと適当に当たりを付け、肩に乗るイングラムに離れて見ているように言い付けた。

従ったイングラムを確認し、直ぐに殺して違うところに向かおうと一歩踏み出した。

 

 

「その口振り。多少は出来るのだろうな」

 

「えぇ。それはもう十分に。では……始めましょう」

 

 

そう言うや否や、アイリーンは手に持つ杖に初手とは思えない膨大な魔力を溜める。

杖は先端から眩い光を放ち始め、リュウマの方へと杖を向けると…リュウマは右の真横に迫ってきているものに気が付いて腕を出して受け止める。

 

迫り来ていたのは…巨大な炎の玉とも言えるものであり、アイリーンは杖から何かの魔法を放つように見せかけて違う方向からの不意打ちを行った。

生憎なことにリュウマには通じないが…リュウマは受け止めても尚押し込もうとしてくる魔力の玉に訝しげな表情をした。

 

 

「これは…大気への付加(エンチャント)か」

 

「ふふっ…ハッ!」

 

 

押し込んでいた炎の玉に魔力を急激に注ぎ込むことで威力が跳ね上がり、受け止めているリュウマの後ろの荒野を半円に抉り飛ばした。

衝撃で後ろへと後退したリュウマだが、地を削りながら着地した。

 

当然のこと、リュウマは真っ正面から魔法を受けたが傷一つ無い無傷な状態であった。

着地した時の前屈みな体勢から、立ち上がって体勢を整えたリュウマは面白そうな物を見たという笑みを浮かべた。

 

 

「大気であろうが水であろうが自然であろうが…対象が何であれ全てのものに魔法による付加を与える者……高位付加術士(ハイエンチャンター)か。良いだろう、ならば……凌げよ」

 

「っ!これは……」

 

 

アイリーンの周囲に囲うように展開されている、数にして小手調べの百の武器達。

それらを一気に射出して攻撃するが、当たれば致命傷になりかねないと…アイリーンはどうにか当たらないように付加魔法を掛けながら躱し、豊満な胸部を持って艶やかな体が行えるとは思えないような軽い身のこなしを見せて、宙で数回回転しながら離れたところに着地した。

 

実のところは何度か危なく当たりそうになってはいたが、間一髪のところで凌ぎきることが出来た。

その事に一つ溜め息を吐くと、あたかも余裕を感じさせるように薄い笑みを作った。

 

 

「あの程度は流石に避けるか。ゼレフが持つ駒にしてはそれ相応と云ったところか」

 

「それはありがとう。そなたは聞いていた話以上だわ。陛下が私にもオーガストにも無理だとおっしゃる理由が分かる…いえ、突き付けられるというもの」

 

「なれば何だというのだ。我は人でありながら人を超越せし人類最終到達地点。所詮は人の域すら…“最後の壁”にすら到達しておらん貴様等が足下にも至れる訳が無かろう」

 

「まぁ、それはおいおい辿り着きますわ。けど…私は真っ正面からそなたと戦いに来たのではなくってよ」

 

「…何だと?」

 

 

アイリーンは魔力を最初から密かに別として溜め込んでおり、今…それを解放した。

膨大な魔力が辺りを支配し、大地が輝き始める。

 

それを見遣ったリュウマは…驚きを現すように目を見開いた。

 

 

「陛下ははね。どこかゲーム感覚なの。しっかりして貰わないとね──────戦争を早く終わらせる為にも」

 

「何だこれは…?この我が識らぬ魔法だと?」

 

「そう…これは400年前にも…それ以前にも存在しなかった魔法…これは新時代の魔法なの」

 

 

眩い光を放ち、目に見える広範囲にも及ぶ仕掛けを施された魔法を前に、リュウマは頭の中にある全ての魔法の中に該当しない魔法であると結論付けた。

 

興味が湧いたリュウマの眼は、縦長に切れた黄金の瞳から一転し…五芒星が描かれている瞳へと変質していた。

 

 

「成る程。この大地全体に付加(エンチャント)させたのか」

 

「そうよ。()()()()()()()()()()()

 

 

広大な大地全体に及ぶエンチャントの魔法…リュウマはこれ程の事が出来る者に少し興味を持ち、貴様は一体何者かと問うた。

するとアイリーンは、ここで初めて名乗るのであった。

 

 

「私はアイリーンと申しますわ。直ぐに会うでしょうけど…さようなら─────リュウマ様」

 

「アイリーン…?貴様は──────」

 

 

アイリーンの魔法が発動され、フィオーレ中に居る魔導士が押し寄せる光を見た。

眩しさに目が眩み、腕で目を覆ってやり過ごし、再び目を開けた時…その時には先程まで見ていた光景とは別のものであった。

 

 

 

 

世界再構築魔法 ユニバースワン

 

 

 

 

「此処は……ほう…?この我をフィオーレ王国から跳ばしたか」

 

「あっ…おとうさんいたー!」

 

「む…イングラムも共に跳ばされていたか」

 

 

リュウマは全く見覚えのない大地まで跳ばされてしまい、幸いなことに共に跳ばされたイングラムを肩に乗せ、愉快そうに嗤いながら翼を広げた。

 

 

「王手を掛ける心算か。く…ククク……フハハハハハハハハッ!!!!」

 

「ふはははははーー!」

 

 

 

 

だが別のところでも…意図しない巡り合わせが行われ…出会ってはならない者同士を逢わせて王手を掛けた。

 

 

「ぜ、ゼレフ……」

 

「やぁ。メイビス」

 

 

 

 

 

フィオーレ王国の…大地が変形し、人がランダムに入れ替わってしまっていた。

 

 

 

 

 

 




カグラ強い…流石師匠がリュウマなだけあって強い…。

次回は少しの蹂躙が入るかも知れません。


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