割烹着の悪魔な隣人さん。   作:イリヤスフィール親衛隊

5 / 5

この一週間は連日小説情報スクショ不可避だったよ……。

【前回】
ありがとうございます!(建前)
もっとやれぇ!(本音)

【今回】
まじでありがとうございます!(白目)
も、もっとやれぇ!(白目)


いや、すいません冗談です調子乗りました。ちょっとこわいくらいに評価を受けてしまっているんですが……変わらずマイペースで執筆していきたいと思いますので、よろしければこれからも応援していただけたら幸いです、はい。



⑤ふあんとふまん

 

 

 

届かない。

 

届かない。

 

届かない。

 

……届かない。

 

掌に握り締めたのは、虚しく空をきる感触だけ。

 

『おまえでは無理だ』

 

男が忌々しげに吐き捨てた。

 

届いて貰っては困る。

 

届かせるものか。

 

届かれて堪るか。

 

おまえでは届かない。

 

おまえなどに届かせない。

 

……。

 

男の言葉など意にも介さないとばかりに。再び、性懲りもなく手を伸ばした。

 

たとえ、空の月には届かずとも。それが水面の月ならば、届かぬ道理はないと。

 

―――届かせてみせる、絶対に

 

それは心象の果てを示す丘の黄金と、その果ての先に広がる可能性の欠片、そのお伽噺。

 

『おまえでは無理だ』

 

『おれに無理だったのだからな……』

 

 

 

…………

 

 

 

寝覚めれば、言い知れぬ悔しさだけが胸の内で渦巻いていた。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

思えばいつもこうだ。いつもこうだった。あなたの存在はいつだって想いを惑わせる、鈍らせる。

 

世界が変われどもそれだけは変わらなかった。別人なのだと思いたくても思えないほどにあなたは優しくて、温かくて。

 

それで、こちらがなにかを決意した時に限って、まるで狙い済ましたかのようなタイミングで心を揺さぶってきて……。結局、最後にはこちらが折れてしまって、押し切られてしまう。もちろん、本人にそんな気はさらさらないことはわかっている。

 

わかっている。脆いのは自分だ。弱いのは自分だ。わかっているのに、それでも甘えてしまう。

 

甘えたい。

 

甘えていたい。

 

もう少しだけ、あと少しだけ、そうやってずるずると引き延ばして、それを仕方がないことだと自分の中で正当化しようとしている自分がいる。

 

嫌いだ、弱い自分が。嫌いだ、優しいあなたが、あなたたちが。そして、どうしようもないくらいに愛しい。お兄ちゃん……兄さん…………。

 

ごろん、と布団の上で寝返りをうった。体の向きを反した先には静かに寝息を立てている兄さんの姿が。手を伸ばしかけて、その手をぽすんっと布団へと落とした。

 

最初こそ、同じ部屋で寝ることには難色を示した兄さんであったが、居候の身でひとつしかない寝室を占領するのは気が引けると説得したことが功を奏して、しぶしぶながらも納得させることに成功した。

 

まあ、当然のごとく布団は別々となってしまったが、そこまでは求めていなかったので善しとする。流石にそれは恥ずかしいし……。

 

改めて、兄さんの顔を見やる。穏やかな寝顔だ。見ているだけで安心してしまいそうなほどに。ほっと一息吐いて、今度こそと手を伸ばした。

 

そっと額に触れて、前髪を掻き分けるように撫でる。そして、前髪の下から表れた一条の傷に、僅かばかりに眉根をひそめた。

 

「魔力…………?」

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

―――服を買いに行こう

 

「え?」

 

あまりにも唐突すぎたためであろう。美遊ちゃんは進めていた箸をとめて呆けた声をあげた。

 

美遊ちゃんを保護してから丁度一週間目の土曜日。雲ひとつない快晴の朝のこと。朝食の場でひとつ提案を美遊ちゃんへと投げかけた。

 

というのも解決すべき目下の案件として、琥珀さんから指摘されていた美遊ちゃんの衣服の問題。学校やアルバイトで時間がとれず後回しとして目を背けていたのだが、本日は学校もなく、アルバイトも店長に無理を言って二週連続で週末の非番をいただいている。つまりは向き合うべき時がきたのだ。

 

この一週間ほどは小さい頃に使っていたもの引っ張り出してきて、比較的着れそうなものを選んだり、軽く仕立て直したり、それでどうしようもないものの場合は琥珀さんにお願いして容易してもらったりでなんとかやり過ごしていたのだが。

 

琥珀さんの「流石にいつまでも男の子のお下がりというわけにもいかないでしょう?」と有無を言わせぬ笑顔の提案もとい「え?まさか女の子に服も買ってあげられないほど甲斐性なしなわけないですよねぇ?」という半ば脅迫染みたそれには首を縦に振らざるを得ず。

 

こうして切り出した提案も内心では苦々しくも弱々しい笑みを浮かべていたりする。解決しなければならない問題であることは重々承知しているし、このままではいけないこともわかっている。

 

美遊ちゃんのために服を買うこと自体に否定的な気持ちはなく、それどころか諸手をあげて賛成してあげたいほどだ。

 

では、どうしてこうも乗り気でない風であるのか。乗り気でないというより、単に不安なのである。

 

女の子の服は高い。女の子の服は高い。大事なことなので二回言った。そう、高い買い物が不安なのである。

 

倹約を心掛けてきたこれまで、高い買い物といえば家電製品が関の山であった。それだって必要にかられて買ったにすぎない上にそうそう買い替えることのないものだ。

 

それに比べて服はといえば、特に美遊ちゃんくらいの年頃の子どもの服は成長期のこともあって買い替える頻度は必然多くなる。しかも、女の子ともなれば服の値段は嵩むというもの。

 

安物でいいのではとも思わないこともないし、もしかしたら美遊ちゃん本人もあまり高いものは遠慮するかもしれない。いや、遠慮してしまうのだろう。そこは本当にできた娘だと思う。だが、残念で面倒なことに、こちらに妥協する気がないのだ。

 

高い買い物はたしかにこわい。しかし、妥協する気は一切ない。どうせ買うなら良いものを買ってあげたいし、なによりそこで妥協したら男として失格な気がする。あと、琥珀さんから絶対白い目を向けられる。

 

そんなこんなというわけで、ニヤニヤ顔の琥珀さんから「いやぁ、絶好のデート日和でよかったですねぇ」というからかいを存分に含んだ「いってらっしゃい」を背に受け、僅かに一週間ぶりとなる新都へと赴くこととなった次第である。

 

 

 

…………

 

 

 

「シロウ?」

 

恥ずかしそうに俯く美遊ちゃんの手を引き、軽くウィンドウショッピングしながら良さそうな服屋を探していると声をかけられた。

 

あれ?デジャヴ?先週もこんなことがあったなと思いながら声の方へと振り向けば、そこに居たのは白混じりの銀髪と赤い瞳をした綺麗な女性が。

 

容姿だけ見ればイリヤちゃんやセラさんとそっくりなのだが、その気だるげで呆っとした覇気のないアンニュイさが二人とはまた違った独特な雰囲気を醸し出している。

 

リズさん。本名をリーゼリットさんと言って、イリヤちゃんやセラさんが呼ぶ通称がリズなのでリズさんと呼ぶことになっている。セラさん同様にアインツベルンさん家のお手伝いさんである。

 

それにしても珍しい人と出会ったものだ。セラさんに比べてリズさんはあまり外出をするイメージがないと思っていたのだが……。

 

仮にアインツベルンさん家の住人に外で出会う可能性があるのならばまずセラさん、次にイリヤちゃん辺りだろうと勝手に思っていた。そんな旨の言葉を思わず漏らしてしまった。

 

「……セラやイリヤの方がよかった?」

 

なんだろう……。どことなく不機嫌というか、なにやら語感に微かな刺が含まれていたような気がしてならない。

 

なにかまずいことを言っただろうか。そう思い、おそるおそるリズさんの顔を伺い見るも、そこにはやはりいつもの無表情しかない。考えすぎか……?

 

「家にいてゲームばっかりしてないで、たまには外に出てろって。あと、掃除の邪魔だからってセラに追い出された」

 

リズさんはなんでもない風に答えながらも、不満気に溜め息を吐いた。

 

……。…………。……こんなんでも一応はセラさん同様にアインツベルンさん家のお手伝いさんである。

 

「あれ?」

 

なにかに気づいたようにリズさんの視線がそちらへと向けられた。それはこちらの背後側。服の裾を伸びてしまいそうなくらいにはぎゅっと握って。隠れるように、それでいてなにかを気にするように、顔を半分だけ出して様子を伺っている美遊ちゃんの姿があった。

 

「だれ?」

 

―――あー……

 

どうしよう。なにも考えていなかった。セラさんたちに対するうまい説明を考えなければなと思っていたのにも関わらず、すっかり失念していた。

 

とりあえず、近しい人からしばらく預かって欲しいと頼まれているのだと答えておく。いくらでも逃げが効くずるい言い方になってしまったことはこの際ご愛敬である。

 

最初に言い淀んだのも正直マイナス点だろう。へぇ、と納得したようなご様子のリズさんを見て安堵の息を吐く。危ない。セラさん相手だったら確実にアウトだった。

 

「これは……イリヤに強力なライバル出現か。でも、おもしろいから黙っておこう」

 

物言いはよくわからないが、どうやらここで見たことは黙っておいてくれるようだ。

 

「あ、暇だから着いて行っていい?」

 

それは別に構わないと返せば、美遊ちゃんの服の裾を握る力が強くなった。どうしたのかと見やればなにやら不満そうに睨まれる。

 

む……。せっかく服を見に行くのならば同姓の意見はとても貴重ではないかと思うのだが……。そう言うとどこか諦め混じりの溜め息を吐かれた。とても解せないが、一度許可した手前いまさら袖にするというのも……。

 

「服?この娘の?ならイリヤが使ってる店を知ってる」

 

こっち。そう言って、着いて行くというより着いて来いというように、先頭立って足取り軽く歩き出したリズさんの勢いに引っ張られる形でこちらも歩を進める。

 

歩きながら、背後に張りついたままの美遊ちゃんへと目を向けた。やはり少し機嫌が悪い。拗ねているようだ。

 

前へと向き直り、鼻唄を歌いながら歩くリズさんを視界におさめて、今度はこちらが小さく溜め息を吐いた。

 

はてさて、どうやってこのお姫様の機嫌を直したものか……。

 

 

 

 






次回:続デート篇(大嘘)

美遊ちゃんとのデート回はここで切る可能性有り。理由は描写力に著しく欠けるから。すまない……力不足なんだ………すまない…………できるかぎり頑張ってみるが……期待は低くもっていて欲しい。まあ、いまのところ書くつもりですが。

日常シーンならいくらでも書ける(根拠のない自信。問題はいつ本編に突入するかだ……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。