人形のようなあの少女が去って、その背中がどんどん小さくなる。そして俺の視線はシャルへと移る。あの少女と同じ金髪に碧色の目。
「よかったのか?」
俺はシャルにそう問いかけた。あの少女の、本来なら美しいはずの碧の瞳はまるで底なし沼のように濁っていた。サラサラと風に揺れる金髪。宝石のような瞳。白く滑らかで日焼けを知らない肌。細い手足に小さな身体。10歳を少し上回ったくらいとしか思えない幼さがある顔。まるで人形のようだ、と思った。目に光がないからなのか、少女はとても儚く見えた。仲間のNo.4に人形を作るやつがいるが、奴の言う通り“目”でその人形が生きるか死ぬかが決まるようだ、と思った。
「あれを逃がして」
“あれ”とはあの少女のことだ。俺はこう考えていた。あの少女はシャルに会いに来ていたのでは?、と。偶然にしては出来すぎていたからだ。あくまでも推測だが、なんらかのツテか能力使ってシャルの所属している幻影旅団を探し、そして見つけた。そして、見つかってしまった。彼女は姿を見せるつもりはなかったのだろう。でなければ逃げるはずがない。彼女にとっては不運だろう。いや、必ずしも不運とは言えない。その“不運”のおかげでシャルや俺たちは彼女の存在を知ることができたのだから。
「もう会えないかもしれないぞ?」
俺の口元が弦を描くのがわかる。彼女が自ら会いに来る可能性は低いだろう、と至っているからこそシャルに挑発的な笑みを浮かべた。
「いーの。会いたくなったら会いに行くから」
いつもと変わらない余裕ぶり。頭の後ろに手を組みながら俺の方を振り返ってそう言った。まるでシャルの目は新しいオモチャを買い与えられた子供のように思えた。まぁ、心配しなくともこの男の情報収集能力を駆使すればあの少女も呆気なく見つけるだろう。なにしろ幻影旅団の情報担当なのだ。ハンターライセンスがあるから金さえあればどんな情報でも手に入る、といつか言っていたのを思い出した。
「フッ……相変わらずのマイペースぶりだな」
仕事ではきちんとするが、マイペースなのが玉に瑕だ。蜘蛛の仕事で駆り出された時はマイペースさはどこかへ消えるが、それ以外では全く違う。めんどい、ダルい、やる気出ないの三拍子だ。金を出すと言えば、仕方ないなぁ、と渋々だが。
「…リア…か。…………」
シャルはそう呟くように言うと最後にブツブツなにかを言っていた。聞いていなかったので、なにを言っているかはわからなかった。なにかいったか、と問えば別に何でも、といつもの胡散臭い笑みに戻っていた。さっきまであの少女に向けていた純粋な笑みとは大違いだ。