当たり前で穏やかな日々   作:ぼのぼの

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1話

朝、目が覚めると妙な圧迫感があった。

 

「(あぁ、またか…)」

 

俺は横に目を向けると、そこにはガッチリと俺に抱きついている恵那の姿がある。

気持ちよさそうな顔をしながら寝言で「お兄ちゃん…」と言いながらぐっすり寝ている。

まぁ、これはいつもの事だ。

恵那は……恵那だけじゃく、風香やあさぎ姉もだが、度々家に泊まりに来ている。

 

「ほら、起きろー」

 

俺は恵那をゆすって起こした。

 

「おにーちゃん…おはよー」

 

そう言って俺の胸に顔を埋める。

恵那の目がショボショボしている。まだ眠たそうだ。

 

「ラジオ体操あるんだろ?」

 

俺がそう言うと、恵那は俺から離れてベットから降りる。

基本的に真面目な恵那は、サボるという発想がないんだろう。

 

「おにーちゃん…でてってー…」

 

今から着替えるのだろう。俺は言われた通り部屋から出る。

 

 

部屋から出た俺は洗面所で歯磨きと顔を洗う。

歯磨きって朝飯食った後じゃね?って思う人もいるんだろうが、朝起きたときの口の中に食べ物を入れたくないって理由で俺は先に済ます。

 

どうでもいい事だが、恵那も風香もあさぎ姉も、俺の家に自分の私物を置きっぱなしにしている。

割りと頻繁に泊まることが多い3人。毎回毎回荷物を持っていくのは面倒だとか、そんな程度の理由だ。

いや、理由なんてなしにただ自然とそうなっただけ・・・だろう。

1戸建ての家に一人暮らし。部屋も余ってるので1室は三姉妹の物置になってしまっている。

 

俺は洗面所から出ると、パジャマから着替えた恵那と鉢合わせた。

 

「ああ、着替えたか」

 

「うん。洗面所借りるねー」

 

なら、俺も着替えよう。

再び部屋に戻って私服に着替える。

そして部屋から出て、恵那と一緒に自宅を出た。

 

「じゃあ、行ってらっしゃい。」

 

「うん。あ、お兄ちゃんも行く?」

 

さすがに子供に混じってラジオ体操はしたくない。

 

「いや、俺はいいや。」

 

俺は恵那を見送って綾瀬家に入った。

 

 

 

「おはよー」

 

今更呼び鈴を鳴らす仲でもないので、勝手に玄関を開けて勝手にキッチンに入る。

 

「おはよータカ」

 

「おはよう、タカ君」

 

俺をタカと呼ぶ2人は、綾瀬家の母と父。

 

「今用意するから適当に座りなー」

 

「あんがと、ママさん」

 

朝食の準備は、いつもママさんが行う。

俺にとっては、第2の母と呼んでも差支えない人。

普段は優しい人だが、本当に危ない事をしたときは他人の子供であれ、ちゃんと叱れる人だ。子供の頃はよくイタズラをして怒られてたっけ…

 

「タカ君。新聞読むかい?」

 

「読み終わってからでいいよー」

 

椅子に座り、新聞を広げているのはパパさん。

この人もまた、俺にとって第2の父と言える人。

温厚で、いつも笑顔を絶やさない綾瀬家の大黒柱だ。

 

「昨日は恵那が世話になったね、ありがとう」

 

俺が冷蔵庫から牛乳を取り出してるところで、パパさんが新聞を読みながら俺に話しかける。

牛乳をコップに移して座り、それに答えた。

 

「いつもの事だし、別に問題ないよー。頻繁に泊まりに来てくれて、俺も楽しいよ」

 

「そうかい…ところで、恵那はともかく、あさぎや風香に手は…」

 

心配そうにこちらを見るパパさん。

まぁ、年頃だし心配になるか……家族同然とは言っても血の繋がりはあるわけじゃないし、パパさんって結構子煩悩のところあるしね。

 

「出してないから。泊まりに来る度にそれ言うなー。あさぎ姉も風香も兄弟としか見てないって」

 

「そうかい。いや、別に信用してないわけじゃないんだけどね。やっぱり、タカ君も成長しているわけだし……」

 

「んー……泊まりに来させなければいい?」

 

「いや、それはそれで娘達からの反感が……」

 

ままならないなぁ・・・

そん時、朝食を作り終えたママさんが俺の前に皿を出す。

今日の朝食は、トーストにベーコンエッグにサラダ。

綾瀬家では、朝ごはんはパンの割合が高い。

 

「あんがとー。ママさんはどう思う?」

 

「私?んー……問題ない……というよりも、問題があっても問題ないって感じかしら」

 

「母さん!?」

 

パパさんが焦ったように言う。

 

「お父さんも考えてみてよ。よく分からない男に娘達をやるよりも、子供のときから知っているタカにやったほうが安心だと思わない?それにタカは、既に働いてるから収入面も問題ないし」

 

「ん、んぅ……」

 

パパさんが唸りながら考える。

 

「タカは、実際どう思ってんの?言っとくけど、客観的に見てもうちの娘のどれもスペックは高いと思うわよ。私の娘だし。」

 

んー・・・

 

「現状では、3人好きだけど、家族愛だからねー。今後もしかしたらそれが変わるかもしれないけど、今の所はないなー」

 

「ふーん」

 

その後も食べながら話して、パパさんは出勤した。

パパさんの夏休みはまだ先らしい。その後すぐ、眠い目を擦りながら風香が先に起きてきた。

 

「おはよー。」

 

「はよー。夏休み3日目でもうダラけてんのか。」

 

俺がそれに答えて、風香が椅子に座ってこちらを見る。

 

「ダラけていーじゃん、折角の夏休みだよ。」

 

「まぁ、それもそうか。」

 

俺は食べ終わって、席から立ち上がる。

 

「あら、もういいの?」

 

「ん。仕事あるし…食い過ぎると眠たくなる。ごちそうさん」

 

「がんばれー」

 

風香から声援を貰って俺は綾瀬家から出た。

これが大抵いつもの朝の風景の一つ。

 

 

 

「あー…疲れた。」

 

俺は時計を確認すると、12時前。時間は少し早いがそろそろお昼にしようと思った。

 

「様子見ついでに、昼飯にでも誘ってみるか」

 

俺はポケットに財布を入れて、家から出る。

目的地である小岩井家に向かう。

 

 

家の前に着いて、俺は呼び鈴を鳴らすと、家の中からドタドタ音が聞こえ、扉が開け放たれる。

 

「ジャンボ!・・・・あべた?」

 

俺はあんな巨人じゃねーとツッコミたいと思ったが、まずは挨拶からだな。

 

「よう、よつば。元気か?」

 

「うん!げんき!」

 

まぁ、よつばだし愚問だったな。

 

「なんでジャンボさんと勘違いしたか聞きたいが、中に入っていいか?」

 

「どうぞどうぞ!」

 

そう言って俺は家に上がる。

よつばの話では、ジャンボさんが来るらしい。

タイミング的にそうだと思ってたから、勘違いしたとか。

 

「あれ?風香もいる。」

 

「あ、タカだ。」

 

俺がリビングに行くと、そこには風香と何かを書いてる小岩井さんがいた。

 

「何書いてんすか?」

 

「町内会の加入書。」

 

ああ、そういうのもあるのか。

 

「じゃあ、それ書き終わったら昼飯食いに行きましょうよ。美味い定食屋あるんですよ。」

 

「そうだなぁ、色々買うものあるからちょうどいいか。」

 

俺は部屋を見渡すと色々不足してるのが分かった。

 

「そういえば、カーテンとかないっすね。」

 

「ん。後は風呂マットとか洗濯機とかテレビとか」

 

「ないない尽くしですね。なら、ホームセンターと電気屋行けば全部揃いますね。」

 

その時、風香が思い出したように声をあげた。

 

「そういえば、テレビならうちに一つ余ってますよ。」

 

あー・・・そういえば、古いから買い替えてたっけ。

 

「あれってまだ使えるの?」

 

「うん、古いだけだから。どうでしょう?」

 

風香が小岩井さんに言う。

 

「そりゃ助かる!よつば、姉ちゃんがテレビくれるってさ!」

 

「やさしいー!!アイスクリームもくれるのか!?」

 

なぜ、アイスが出てきた。

 

「まぁ、あったらあげるよ。」

 

風香が苦笑いで言う。

 

「じゃあ、取りに行きます?すぐに渡せてますよ。」

 

その時、ピンポン音が鳴った。

恐らく来ると言っていたジャンボさんだろう。

よつばが出迎えに行った。

 

「うーす。ヤンダ暑いから来ねぇって。やっぱダメだー」

 

リビングに入ってきたジャンボさんに風香が一言。

 

「でか!!!」

 

身長210㎝もあるし、驚くのは当然だろう。

 

「うーっすジャンボさん。」

 

「お、アベタも来てたか。それで―――――」

 

ジャンボさんが風香を見て動きが止まった。

 

「うわ!!美少女だ!!」

 

そしてジャンボさんが小岩井さんの胸ぐらを掴む。

 

「おいコイ!!この犯罪者ァ!!」

 

「犯罪じゃねぇ!!」

 

ああ、連れ込んだように見えるのか。

一瞬冷静になったジャンボさんが風香に年齢を聞いた。

 

「あんた何歳?」

 

「16歳です」

 

「未確認飛行物体発見!!」

 

「おちつけ!!」

 

ジャンボさんが慌てたように言う。

そんなに女子高生が貴重なのか・・・

 

「あ!なんでズボン履いてんだ!!カッコつけてんじゃねぇ!!」

 

「ズボンくらい履かせろ!」

 

「なんだと!?やるかぁ!?ホアーッ!!!」

 

「チョアーッ!!!」

 

「どっちもがんばれー!!」

 

よく分からないポーズを取りながら2人が向かい合い、よつばが2人を応援する。

この2人は本当に・・・

 

俺が手を叩いて2人に言う。

 

「はいはい。じゃれるのはそれくらいにして。風香の紹介させてくれー」

 

「うるせーガキは黙ってろ!」

 

「そうだ!ガキは静かにしてろ!」

 

ジャンボさんと小岩井さんが止まろうとしない。

 

「よし、ならば戦争だ。」

 

止まらないなら俺も参戦しようじゃないか。

 

「なにこれ・・・」

 

 

 

落ち着いたところで、風香を紹介する。

 

「俺の幼馴染で「よつばのともだち!!」・・・の、風香です。」

 

俺の台詞によつばが割り込んだが、まぁいいだろう。

 

「綾瀬風香です。よろしくー」

 

ペコって軽く頭を下げる。

 

「で、こっちが「ジャンボだ!!」・・・・ジャンボさん。」

 

「ジャンボです。よろしく。」

 

「よろしく・・・(それ名前じゃない・・・)」

 

「しかし、アベタがこんな美少女と幼馴染なんて初めて聞いたぞ。」

 

ジャンボさんがそう言う。

 

「美少女・・・あさぎ姉ならともかく、風香が美少女かー」

 

「文句ある?」

 

ジっとこちらを見る風香に俺は顔を逸らした。

 

「ビミョーミョ?」

 

「惜しい、美少女だよ。綺麗な女の子って意味」

 

「おー!ふーかきれいだって!」

 

「いやぁ~」

 

風香が照れる。

しかし風香よ。照れ隠しでよつばの髪をピコピコ動かすのはやめい。

 

「で、美少女風香ちゃんちにテレビを貰いに行くのだ。」

 

「じゃあ、俺は車を貰おう。」

 

「あげません」

 

そして俺達は綾瀬家に向かう。

 

 

 

綾瀬家についた俺達は……

 

「奥さん、車ください」

 

初対面の人に向かって第一声に車を下さいって凄すぎだろ。

 

「でか!!どーしたのあんた!?」

 

「父方の先祖がきりんでして」

 

「え!?あ!冗談だわ!?」

 

風香が家に上がるので俺も上がった。

 

「前のテレビ、よつばちゃんちにあげようと思って。」

 

風香の姿を見て冷静さを取り戻したママさんだったけど、ジャンボさんから目を離せないようだった。

まぁ、日本で身長2m越えを生で見るのは珍しいししょうがないか。

 

「あーいいよいいよ。邪魔だから持ってっちゃってー」

 

そのとき、小岩井さんの陰からよつばが出てきた。

俺はそれを見て風香の後に着いていった。

 

 

「これです」

 

風香に案内されて俺達はテレビを見る。

サイズ的にジャンボさん1人で充分だな。

 

「これならジャンボ1人で「3人で持とうな」」

 

小岩井さんも同じ事を思っていたが、ジャンボさんに拒否られた。

 

「いえ、これ2人のほうがいいでしょ。逆に3人って邪魔になりそう。」

 

バランス的に1人いらないだろうしな。

 

「なら、コイとアベタだな。バランス的に。」

 

「や、1番力のあるジャンボさんと持ち主になる小岩井さんで。」

 

「いや、1番力のあるジャンボと次点で力のあるアベタで。」

 

「「「・・・・」」」

 

俺達は顔を見合わせあって戦闘態勢に入った。

 

「「「さーいしょはグー!!!」」」

 

 

・・・・・・・

 

 

 

「一番の力自慢が持たないってどう思います?」

 

「理不尽だと思う。」

 

「ハッハー!!敗者が何か言ってるが聞こえないなー!!」

 

結局ジャンケンに負けた俺と小岩井さんが持つことになった。

2人でテレビを持って綾瀬家を出ようとしたところで、あさぎ姉がちょうど帰ってきた。そしてジャンボさんを見たあさぎ姉の一言。

 

「でか!!」

 

この家族みんな同じ反応しかしないな。

さて、とりあえず紹介しておこう。

 

「あさぎ姉、このデカイ人がジャンボさ「竹田隆です」……」

 

このオッさん……

 

「そんなに大きいと服を探すのも大変そうですねー」

 

「いえ!俺は裸でも大丈夫ですから!」

 

「・・・・」

 

うん、平常運転だな。

そしてあさぎ姉は部屋に帰って行った。

 

「い、いかん緊張してしまった!俺、なんか変なこと言ったか!?」

 

「安心しろ、いつもと変わんねーよ。」

 

「ですね。いつものジャンボさんです。」

 

その時、アイスを持ったよつばがこちらに来た。

ああ、本当にアイスを貰ったんだな。

 

「どーしたー?」

 

「あ!いいな!いや、よつば、今すっげぇ美女がいた!」

 

「びみょ?」

 

「微妙じゃねぇ!美女だ!」

 

「びじょ…えっと…ふーかといっしょか?ふーかはなんだっけ?」

 

「ん?……少女だな」

 

「あれ!?『美』は!?」

 

うん、やっぱりあさぎ姉と比べると風香は…その…あれだな。

 

「では、もらっていきます。」

 

「「「ありがとう、美少女風香ちゃん」」」

 

風香が塩を持って投げつけるのを見た俺達は外に出た。

 

「あれ?恵那か」

 

恵那もちょうど帰ってきたらしい。

 

「あ、おにーちゃんとよつばちゃん。」

 

そしてジャンボさんを見た恵那も…

 

「でか!・・・あ、すみません、大きいですね。」

 

「がおーっ!!!」

 

恵那は驚いて恐怖したのか家に逃げるように走ったが途中で転んでしまった。

 

「テメー!おっさん何やってんだコラァ!!」

 

俺はジャンボさんの腰を蹴りつける。

 

「グハァ!!」

 

よつばが恵那にフォローしてくれてるから大丈夫だと思いたい。

その後、俺達はテレビを置いた後、買い物と昼飯を食いに行った。

 


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