竜司side
凛とニコさんのバカ二人が身体を暖めるためシャワーを浴びている間、氷麗は暖炉の準備をして、茜は虎亜が作っておいたココアを暖め直す。
虎亜が希さん達に何があったかを訊ねる。
「一体何があった?」
希「実は……ニコっちのリストバンドが野性のリスに取られちゃって……」
花「リスは途中で落とした落としたんだけど、それを取ろうとして足を滑らせて、崖まで止まれなかったみたいで……」
希さんと花陽が事情説明する。
それにしても川に転落してよく怪我1つもしなかったな。
そして2人が川に落ちるまで気づかなかった俺達も俺達だが……。
シャワーを浴びてきた2人がリビングに戻ってきて、ソファーに座ると、凛の頭を嵐助が、ニコさんの頭を虎亜がタオルで拭く。
茜は温めておいたココアを2人の前に出した。
穂「凄い!本物の暖炉!」
このアホは2人の心配すらしていない。
ニ「少しは心配しなさいよ!?」
ニコさんよォ、今回限りはアンタの言い分は正論だ。
なンならもっと言ってやれ。
希「静かにしないと、上で海未ちゃん達が作業してるんやし」
穂「あ、そっか」
盾「捗ってるかな~?」
だったらいいがな……。
すると穂乃果が突然こンな事を言い出す。
「あ、じゃあ海未ちゃん達には私が持って行くよ」
穂乃果にしちゃあ、ナイスな気遣いだ。
褒美に何かしてやるか。
「俺も行くぜェ」
「竜ちゃんも?」
「お盆持ったままだとドアが開けにくいだろうがァ」
「ぁ……ありがとう、竜ちゃん」
「はっ!……礼なンざいらねェなァ」
俺は杖をつきながら、穂乃果と共に上へと続く階段を上り始める。
「そう言えば、真姫ちゃん何処にいるんだろうね?」
「あァ?そういやピアノの所に居なかったな……」
「うん……」
一体何処に行きやがった……?
そうこうしているうちに海未が作業しているであろう部屋の前に着いた。
「静か……みんな集中してるんだなあ……」
「部屋に1人だけだったら普通は静かなのが自然だろうがァ」
逆に一人でハシャいでたり、誰かと話すような声がするなら、それはそれで気味が悪いっつーの。
お盆を持っている穂乃果の代わりにドアをノックするが、中からの反応がない。
「入るぞ海未」
断りを入れてから部屋のドアを開けるが、海未の姿はなかった。
「あァ?」
トイレか?
「ねぇ~竜ちゃん。これ見て」
と思ってたら、穂乃果が机の上を指差していたので、俺も穂乃果がいるところに行くと1枚のメモ紙が置かれていた。
「あァ?……『捜さないで下さい』……ンだこれ?」
何さらっと失踪してンだよアイツ……。
そりゃノックしても反応無いわけだ。
「ことりちゃぁぁあん!」
穂乃果がことりがいるであろう部屋に突撃していった。
「海未ちゃんが……だぁぁあー!!!?」
「あァン?……うるせェなァ……」
穂乃果の後に続いて部屋に入るが、やはりことりも海未と同じように失踪していた。
穂乃果の視線は壁に掛かっている額縁に向けられていて、その額縁にはピンクの紐で『タスケテ』 と書かれていた。
ンだァ?
この思わせぶりな演出はァ?
えらく余裕があるじゃねェか。
俺は他に何か無いか部屋を見渡すと、ことりの部屋の窓が開けられている事に気づいた。
その窓からは、ロープに見立てたカーテンが外に向かって垂らされていた。
穂乃果と一緒に窓から身を乗り出し、外を見てみると……。
こ「はぁ~…」
海「はぁ~……」
真「はぁ~………」
木の下で海未とことりと真姫が体育座りで三角形に向かい合い、溜め息をついていた。
おいおい………どォいう状況だこりゃ?
ーーーーーーー
とりあえず海未、ことり、真姫の3人を連れて戻った俺と穂乃果は3人をソファに座らせ、全員を1ヶ所に集めて落ち込んでいた理由を尋ねた。
「「「「「「スランプゥ!?」」」」」」
盾「つまり~、今までよりも強いプレッシャーが掛かってるって事~?」
海「はい……気にしない様にはしているのですが……」
こ「上手くいかなくて、予選敗退になっちゃったらどうしようって思うと……」
海未とことりの2人が項垂れる。
真「わ、私はそんなの関係無く進んでたけどね」
氷「って言ってる割にはペンが進んでいないみたいだな?」
凛「氷麗くんの言うとおりだにゃ!譜面が真っ白にゃ!!」
真「って、勝手に見ないで!」
氷麗にツッこまれるだけじゃなく、凛に真っ白な譜面を指摘された真姫は頬を膨らませた。
花「確かに、3人に任せっきりっていうのも良くないかも……」
火「だな……」
蒼「適材適所ってのは確かにある。だがそれを理由に海未達がこんな風になってちゃ、グループとしてアウトだ」
蒼燕の言う通りかもなァ。
作詞ができるのは海未、衣装を作れるのがことり、作曲をできるのが真姫。
元々グループ内にピンポイントでこれだけできるメンバーがいる事自体が奇跡に近い。
だから全員それに甘えてしまっていた。
自分には出来ないから出来るヤツに任せる。
その甘ったれた考え、そして妥協が招いた結果がこれだァ。
それに予選相手にはあのA-RISEもいる。
プレッシャーは更にデカイだろうな。
絵「そうね。責任も大きくなるから、負担も掛かるだろうし…」
希「じゃあ皆で意見出し合って、話しながら曲を作っていけば良いんじゃない?」
ニ「そうね。せっかく全員揃ってるんだし、それで良いんじゃない?」
虎「具体的にはどうする?」
虎亜の問いにニコさんが腰に手を当てて自慢気に言う。
「しょうがないわね~。私としては、やっぱり『にこにーにこちゃん』に、曲をつけ…」
希「なーんて18人で話してたら、いつまでたっても決まらないよ?」
絵「そうね…」
希さんの言う通りである。
話し合うに越した事はないが、それでは意見がバラバラになる可能性も否めない。
茜「ならいい方法がある。ユニット作戦だ」
そンな時に頼りになるのが、我らが茜だ。
『ユニット作戦?』
茜の言葉に全員が疑問を浮かべる。
茜は黙って割り箸を取り出し、3色のマジックペンで箸の先を塗り潰してからジャラジャラとシャッフルする。
まずは3色に塗った箸を1本ずつ用意し、それを海未とことりと真姫に引かせる。
3人に引かせたあと、残りのメンバーや俺たちにも箸を引かせる。
絵「なるほど、だからユニット作戦ってことね?」
茜「その通りだ」
絵里さんの言葉に茜は頷く。
ウルトラマンが感心するように言う。
『彼は頭がいいな……』
まァ、中学の時は3年の学年で第一位だったような緋ィィ村くゥゥンだからなァ。
そして今度は全員で外の芝生に出る。
茜「じゃあ赤を引いた人はことりを中心とした衣装班に、青を引いた人は海未を中心とした作詞班に、そして黄色を引いた人は真姫を中心とした作曲班にそれぞれ別れてくれ」
するとことりのところには穂乃果と俺、イクスと花陽、朱雀が、海未のところには盾、凛と嵐助、希さんと茜が、 真姫のところには絵里さんと蒼燕、ニコさんと虎亜、氷麗が集まった。
穂「よーしっ!じゃあユニット作戦で、曲づくり頑張ろー!」
「「「「「「「「おー!!!」」」」」」」」
真「おー」
穂乃果が音頭を取り、みんなで1つの曲作りが始まった。
竜司side
朱雀side
ユニット作戦が開始され、ことりを中心とした衣装班は川の近くにテントを建てている。
朱「ここはこうすればいいんじゃないの?半透明な生地を使って……」
こ「あっ、そうだね。ありがと♪キーくん」
僕はことりの衣装案にアドバイスしているのだが、高坂穂乃果は気持ち良さそうに眠っている。
何しにきたのこの子?
こ「穂乃果ちゃーーん…………はぅ~」
ことりが呼び掛けるが起きない。
朱「外に出ようか?」
こ「そうだね…」
テントの外に出ると、天青竜司が川で釣りをしていた。
曰く、魚がいるから夕食にはもってこいだそうだ。
こ「すぅーはぁー。気持ちいい~」
気候の良さに、ことりが深呼吸して、うっとりしている。
そこへ、小泉花陽と火神イクスがきた。
花「ことりちゃん。どう?進みそう?」
こ「うん!キーくんがアドバイスしてくれるから、イメージがかなり沸いてきたの♪」
ことりが僕の方を見ながら言う。
こ「あっ、それは?」
ことりが小泉花陽の両手に持つかごに気づく。
その中には白いコスモスの花が入っていた。
朱「コスモスだね……」
花「綺麗だなって思って。同じ花なのに、1つ1つ色が違ったり、みんなそれぞれ個性があるの。今回の曲のヒントになるといいな♪」
こ「ありがと~。花陽ちゃん」
花「フフ……」
やさしい子だね…。
花「……何だか……」
こ「うん…」
花「眠くなっちゃうね…」
こ「うん…」
火「じゃあ昼寝するか?時間になったら起こしてやるから」
花「いいの?イクスお兄ちゃん」
火「ああ…」
こ「じゃあ、お言葉に甘えて♪キーくんも一緒に寝る?」
ことりは自分の膝を叩いて言う。
朱「…………」
しばらく考える。
ことりの膝……柔らかい膝……ことりの膝枕。
朱「よし寝よう」
『恭弥ッ!?』
エースの驚く声がして、なんか止めにかかってくるが僕はそれを無視。
花「イクスお兄ちゃんも一緒に寝よっ♪」
火「よし来た」
顔は変わらずの凶悪人面だけど心なしか嬉しそうで、親指を立てる火神イクス。
こうして僕らはテントの中に入り、僕はことりの膝に頭を乗せ、火神イクスは小泉花陽の膝を枕にして昼寝を始めた。
朱雀sideoff
蒼燕side
作曲班の俺たちは別荘から少し離れたところに、テントを張っている。
が、それに不満のあるニコがテントから顔を覗かせた後、文句を言う。
「って、どうして別荘があるのに、外でテント張らなきゃいけないのよ!!」
それに絵里が理由を言う。
「少し距離取らないと、三班に分けた意味が無いでしょ?ちょうど別荘にテントもあったし」
虎「張ったのは俺達だがな?」
虎亜の言う通り、テントは俺と虎亜と氷川の3人がかりで張った。
その間この女子3人は優雅にティータイム。
こういうのは俺達の仕事だとは分かってはいるが、目の前でされると流石に腹が立つ。
ニコがげんなりした顔で言う。
「こんなのでホントに作曲出来るの~?」
こんなのって言うな。
これでも一番デカイ奴選んだんだぞ!?
真「私はどうせ後で、ピアノのところに戻るから…」
真姫の言葉にニコはまだ納得してない顔で、絵里はそれを見て微笑む。
氷「じゃあ、俺たちは食事でも作るか?真姫が少しでも集中出来るように」
真「……!~~~ッ!」
氷川が真姫の頭を撫でながら言うと、真姫は顔を真っ赤にさせた。
蒼「いや、氷川は真姫と一緒に考えてろ。食事は俺と虎亜とで作る」
この中で真姫を除いて音符とかがまともに分かるのは、氷川しかいないからな。
絵「あら蒼燕、私だって料理の1つや2つくらいできるんだからね?」
ニ「ちょっと待ちなさい。ニコだって料理の腕は相当なんだから手伝わせなさい」
ここで絵里とニコの2人が立候補。
確かに夏合宿の時に虎亜が言ってたように、ニコは料理が上手いのかもしれないが、絵里はどうだったか?
絵「私の腕に不安があるなら共同作業しましょう?新婚夫婦みたいで面白いかもねっ」
蒼「勝手に言ってろ」
言って、真姫と氷川以外の俺たちはテントを出た。
この時の俺の顔が少し熱かったのは気のせいだ。
クォーターって恐ろしい。