比企谷家のペットな居候   作:心折
<< 前の話

25 / 25
おひさです。


夏休みになれば面倒事が減ると思ったか、愚か者。

 校長の長い話も無事突破し、ホームルームでの成績表の返却も突破し、無事帰路についたわけだが。

 

 

「何故だ」

 

「さあ」

 

 

 片手に握られたくしゃくしゃの紙。夏休みに学校に来いと言う通達である。

 

 

「なんでお前はこの学校に入れたんだ…」

 

「そんなこと言われてもわからないわ」

 

 

 その文面には命令口調でもなんでもなく、ただ端的に、文字が並んでいる。

 

【椎名ましろさんのテスト得点が足りないため、補習。】

 

 なんとましろではなく、俺にこの手紙が来たのだ。つまり学校側が言いたいのは、

『椎名さんだけだとどうせ来ないので保護者として同伴しなさい』

 ということであろう。ふざけろ。

 夏休みに学校に来なくていいように、赤点取らないように必死に数学を勉強した自分が馬鹿らしい。こいつの朝の支度だけでどれ程のカロリー持ってかれてるのか分かってるのか。分かるはずないか。

 

 

「…行くの?」

 

「そりゃお前…」

 

 

 行かなきゃ駄目でしょと言いかけたとき、1つの妙案が閃いた。

 

 第2の飼い主、雪ノ下さんに擦り付けよう(ゲス顔)

 

 この間の花火でそれなりに仲良くしてた記憶があるし、なんなら当然のように補習の由比ヶ浜氏(本人確認無し)もくっつけてしまえばゆるゆり天下の完成じゃないか。

 ktkrですわ。これで俺は1人まったりと夏休みを満喫できる。まぁ初めの一週間は課題に費やすだろうが。

 

「ま、学校には連れていくから、後は雪ノ下あたりに助けてもらえ。迎えには行くから」

 

 雪ノ下さんへの負担が凄まじいものになるだろうから流石にお迎えくらいは行かなくてはならないだろう。

 

「八幡は来ないの?」

 

「家でゆっくり課題してる」

 

「課題なら学校でやった方が早く終わるんじゃないの?」

 

 

 …。

 

 何だろう、この感覚。まるで正しいルートを進んでいたはずなのに、隣から『ここからショートカットできるよ』と言われているようだ。違うんだ…それはこだわり勢からしたら全くの蛇足なのだ…。しかれども、ましろの言うことは正鵠を射ており、どうにも口を噤むほか無かった。

 

「ねえ」

 

「わかった、わかったから。行けばいいんだろ」

 

「…ん」

 

 納得したのか、それっきり口を閉ざしてしまい、家まで会話が生じることは無かった。そんな沈黙も悪くないと感じてしまうのは、隣にいるのがこいつだからだろうか。そんな感情を持ったことに人知れず肩をすくめる。そんなモノ鼻で笑って投げ捨てる。ただの昔からの慣れから来る安心感だ。

 

 

 ***

 

「で?明日からも学校に行くと?」

 

 通い妻をしてくれた小町が口の中のものを咀嚼し終えてボヤくように零す。

 

「まあな。俺は別に家にいてもいいんだけどな」

 

「それはいいの」

 

「お、おう」

 

 俺のことはいいんですって。酷いなー。お兄ちゃん泣いちゃうよ?泣いて喚いて叫び回るよ?本格的に嫌われるからやらないけど。

 

「ましろさんと一緒に遊びたかったのになー」

 

「私も」

 

 そう言って俺に抗議の視線を送ってくる。いや俺悪くないですやん。

 

「いや、そもそもの問題考えてみろよ。お兄ちゃんが面倒を見なかったのが悪い。以上」

 

「いや、お兄ちゃんが面倒を見なかったのが悪い!以上!…あれ?」

 

 ふむ。どうしたものか。こうなってしまうと進学校である総武高はなかなかに補講者を見逃してはくれない。しかし確かましろは無記入での0点だったらしい。そうなれば話は変わる。その場合、欠席扱いとなって、教師陣からの視線も緩くなるはず。ましてや、教室の癒しペット状態のましろにそうそう不幸な仕打ちはしないだろう。今では平塚先生すらその虜なわけだし。この間、何があったのか、大泣きしていた平塚先生に抱き枕にされていた無表情のましろのあの光景はシュール極まりなかった。

 

「とにかく、暗記できるところは暗記しとけよ?お前は暗記に関しては誰にも負けないんだからよ」

 

「…」

 

「わかったか?」

 

「…ごみいちゃん、こうなることが分かってて…?」

 

「…言っておくが放置していた訳では無いぞ。結果論だ。一応由比ヶ浜までもがコイツを勉強会に連れ出そうとしてたんだが、小テストに関してはお得意の記憶術で躱してたから、勉強が実は全くできない事実が姑息なガキがドア裏に隠れるように潜んでやがったんだよ」

 

 しかも無意識下に。

 

「失礼よ」

 

「そう思うなら器用に立ち回ってんじゃねぇよ…。今の今までテスト無記入とか聞いてなかったわ」

 

 全く…ステルスヒッキー顔負けの立ち回りしやがって。柄にもなく感心したわちくせう。

 

「…ふ」

 

「あーお前そのドヤ顔すぐ引っ込めろ。今まで破られてこなかった影の薄さで負けたことに若干の敗北感なんて全く感じてねえよこの野郎」

 

「お兄ちゃん…」

 

 小町が何かを察した瞳で微笑みかけてくる。砂漠に遭難した時に見つけたオアシスの如く、俺は縋るように視線を向けた。

 

「わぁ、いつも以上に腐った目、してるよ?」

 

 オアシスではなく、毒沼だった。波一つない、透き通った、毒沼だった。

 

 ***

 

 遅めの昼食を終え、小町は食器の後片付け。俺は自室に戻って買い溜めておいた小説に手を伸ばす。しかし小町は働きすぎではないだろうか。手伝うと言っても聞かなかったが、これからは勝手に仕事を横取りしていこう。…まぁやってくれると他力本願に思っているところを見ると、惰性にこの状況が続きそうではあるが。

 

「……」

 

 そう言えば。

 

「あいつどこ行った?」

 

 いつも金魚の糞(失礼)のように引っ付いてくるましろが部屋についてこなかったということに一抹の疑問を覚える。まぁ今回本を読むに関しては願ったりな状況になった訳だが、突然いつもと違う動きをされるとどうもその事が頭の隅に居座り続ける。

 

「…まぁ、いいか」

 

 しかしアイツがいないこの状況が久しぶりだ。この部屋こんなに広かったんだな。

 読書に勤しむべく、表紙をめくる。

 …元一流のボッチは寂しさなんて感じねぇ。

 

 ***

 -比企谷家キッチン-

 

 男一人自室にこもりきりの中、キッチンでは姦しい話し声が響いていた。片や心底楽しそうに。片や甘い匂いを漂わせるキッチンに並べられた様々なフルーツに目移りをするのか、ウロウロと歩き回る。いつものポーカーフェイス(比企谷兄妹からすれば手に取るようにわかるが)はとどまるところを知らない。

 

「さて、驚きの事実を知りましたが、当初の予定通りましろさんとのお菓子作りを始めます!どんどんぱふぱふ〜!」

 

「よろしくね」

 

「いやぁ驚きましたよ!まさかましろさんがお菓子作りをしたいだなんて」

 

「…作ってみたくなったのよ。前の料理は出来なかったけど」

 

 以前、回転寿司を食べて感銘を受けたましろさんが、何を思ったのか自分で作ってみると、何故か塩さんまを購入し、3枚に下ろすのよねと、3つにぶつ切りにし、結局わからなくなってお兄ちゃんの部屋に”ドス”の持ち方で突貫してきたという話を聞いているため、正直腕前に難ありと言えるだろう。

 

「…へーぇ、そうですかー」

 

 とりあえず当たり障りのない返答を返しておく。若干呆れたような響きになってしまったが、ましろさんのことだ。目敏く指摘してきたりはしないだろう。

 

「舐めてもらっちゃ困るわ」

 

 わーお、そっちかー。焚き付けたつもりでは無いが、そういう形で捉えられてしまったようだ。まぁ今回作るのは混ぜて焼くだけのホットケーキ。そうそう失敗することはないと思うが…。神のみぞ知る領域の問題だ。

 

「じゃぁ、パパっとやっちゃいますか!」

 

「うん。やっちゃおう」

 

 お馴染みがんばるぞいのポーズで向かい合う。何故かその手に出刃包丁。

 

「ましろさん?!」

 

 どうやら一筋縄で上手くいくほど甘くないそうで。これはお兄ちゃんがましろさんをキッチンに立たせようとしないのわかる。

 …楽しいお料理になりそうだ。

 

 ***

 

 …下から小町の悲鳴が聞こえる。包丁だの火力だのと言っているので、あのバグったチャーリーとチョコレート工場状態のましろをキッチンに入れたらしい。…愚か者め。

 とにかく、忠告はしておいたはずだ。それを無視してキッチンという聖域にハルマゲドンを起こそうなど具の骨頂。つまり何が言いたいかと言うと、後片付けお願いねってこと。

 この間は何故か3等分にされたさんまがまな板に乗っていた。しかも何故か塩さんま。焼けば完成の物をなぜぶつ切りにしたのか皆目見当もつかない。そのまま焼いて食べましたが。

 

「まぁせいぜい、」

 

 頑張れよと呟こうとした刹那、ノックもなしに自室の部屋が開け放たれた。…そろそろ鍵つけようかな…。

 

「助けてお兄ちゃん!」

 

「回れ右。前へー進め」

 

「いっちに!…やってる場合か!」

 

 なんだよそのまま行っちまえよ、と内心思いながら想定している答えを得るために、こんな時の為にあるような常套句をボヤくように吐き出す。

 

「で?どうした?」

 

 その言葉によってか、みるみる内に小町の顔に生気が戻ってくるのが分かる。まぁ助けの理由はなんとなくというか、確信はしてるんだが、体裁良くした方が、俺の注意を無視して行ったことに対する罪の意識は薄れるだろう。

 

「えっとね…」

 

 我が愛しき妹は、俺の顔色を伺いながら口を開いた。

 

 

 

 

「『自分の血が隠し味ね』ってましろさんが…」

 

 

 

 俺は脱兎のごとく、自室を飛び出した。

 

 

 

 




スランプに陥り、何やかんやエタってたらだいぶ間が開きました。すみません。
(編集しました)





※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。