アグニカ・カイエル バエルゼロズ   作:ヨフカシACBZ

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20話 業火5

鬼の角を持つ少女、星熊は医務室から抜け出し、通路を歩いていた。

全身は傷だらけ。

患者服がずれ落ちており、包帯には血が滲んでいる。

 

その右手には赤い斧が握られていた。

 

「フーーー……フーーー……」

 

彼女は家族を殺された。

復讐すべき相手はすぐそこにいる。

ドルトコロニーで虐殺の限りを尽くしたあの女、ジュリエッタ・ジュリスが。

星熊はジュリエッタの病室の前に立つ。

バン、とディスプレイに手のひらを叩き付けるが、関係者以外は立ち入り禁止の文字が浮かぶ。

 

「ウ゛ウ゛ッ……ガァ!!!!」

 

ディスプレイに斧を叩きつけて破壊。

その後、何度も何度もドアを斧で叩き、穴を開ける。

その穴から室内を覗くと、治療ナノマシン機に浸かっているジュリエッタが見えた。

 

「ガァァアアァアアアア!!!!!」

 

出鱈目にドアとディスプレイを叩き割る。

電気回路がショートし、偶然にもドアは開いた。

フラリと入り込む星熊。

 

全身の傷が開き、足から血が垂れて、赤い足跡を室内に残す。

ペタ、ペタ、と湿った足音を立てて、ジュリエッタの前まで来た。

 

星熊は振り返らないまま、後ろにいる昭弘・アルトランドとノルバ・シノに意識を抜けた。

 

「ジャマ゛ずるな゛よ」

 

ドスの効いた声で牽制する星熊。

それに対し、二人の返事は冷淡だった。

 

「しねぇよ」

 

「ああ。俺はただ……お前がどうするのか、見たい」

 

星熊を止めるのではなく、彼女の選択を見届ける。

特に昭弘は、最愛の弟をマステマの手で殺されている。

星熊もマステマの手先によって、大勢の家族を殺された。

 

復讐を成す瞬間というものを、自分の目で見定めたい。

 

星熊はボタンを押し、ナノマシンベッドの上蓋ガラスを開ける。

ジュリエッタの首から下、全身が見えた。

 

「なッ……んだよ、これ…………」

 

ジュリエッタ・ジュリスは両手両足を切断されており、神経を無理矢理繋げるケーブルを刺された痕があった。

背中には凶悪な阿頼耶識手術が施され、神経が浮き彫りになる症状が全身に広がっていた。

彼女の白い肌は、ほぼ全てが神経裂傷痕に覆われ、びっしりと埋め尽くされていた。

 

頭に血が上っていた星熊でも、一瞬で青ざめる、凄惨な光景。

 

この女は、自分の意思でやったんじゃない。

操られていたのだ。

 

「うっ……」

 

星熊は口を押さえ、膝をついて。

 

嘔吐した。

 

「げえッ ぇえ  ゲ ぇ」

 

膨大な復讐心も、ぶつけるべき相手を見失った事で、霧散してしまった。

その復讐心が突き動かしていた重傷の身体は、揺れる心に鞭を打つように痛んだ。

 

ガラン、と斧が床に落ち、星熊は自身の肩を抱いて、泣いた。

 

「うぅぅぅ…ううぅ、うううーー……!!」

 

同情、諦め、無情感。色々な感情がある。

だが恐怖が星熊の胸中を支配した。

圧倒的『憎悪』の残滓を見て、恐怖した。

 

 

昭弘とシノは、「そうか」と呟き、彼女を医務室に運ぼうとした。

その時、彼女の隣に、アグニカがしゃがみこんでいることに気付いた。

アグニカは星熊を抱き締め、後頭部を撫でる。

星熊はやるせなさをぶつけるように叫んだ。

 

「なんッッだよ あれぇ!!!!!!!」

 

 

300年前の厄祭戦の生き残り、マステマによる悪意の犠牲者。

つまり、第二次厄祭戦の犠牲者である。

 

「眠れ」

 

アグニカは魂の対話の能力を使い、星熊の意識を落とした。

力が抜けた星熊が、ダラリと横になる。

それを抱き上げ、昭弘に手渡す。

 

「すまん、頼む」

 

「ああ」

 

星熊を、彼女の家族の元へと送ってもらう。

 

ジュリエッタの方へ向き直り、その額に手を当て、魂の対話で語りかけた。

 

「ラスタルと不可侵条約を結んだ。

これで俺たちは、ラスタルの敵じゃない」

 

それを聞いてか、ジュリエッタの身体の強張りが、少しだけ解けた。

未だに後遺症と苦痛は続いているが、彼女の魂は、まだ肉体にある。

 

「お前ももう、敵じゃない。

誰もお前を傷付けたりしない」

 

ラスタルにはまだ、ジュリエッタは渡せない。

彼女が傷を癒し、心を再起させるまでは。

 

それだけ言うと、ナノマシンベッドを整え、アグニカは背を向け、姿を消した。

 

次の場所へと転送で飛んだのだ。

アグニカには準備を限界まで行う必要がある。

 

ジュリエッタは不参加の…

 

第二次厄祭戦 初となる

地球本土決戦の準備を。

 

 

 

 

『地獄の門』開門まで

残り8時間

 

 

 

三日月・オーガスの病室に行くと、アトラ・ミクスタがりんごを切っていた。

アグニカの顔を見ると、ビクリと怯えたような反応をする。

三日月は相変わらずで、ベッドに座り、左手でダンベルを持ち上げていた。

アグニカと目が合う。

 

「あぁ、なんか…ひさしぶり」

 

「そうだな」

 

マイペースな挨拶をする三日月と、静かに応じるアグニカ。

 

実際には二週間ぶりだろうか?

その間に起こった出来事が多種濃厚すぎて、随分久し振りに会う気がするのだ。

 

三日月はマステマに言われた言葉を思い出した。

 

『三日月はアグニカのクローン』

 

情報を簡単に伝えると、アグニカは驚いたような、どこか納得のいった表情になって、三日月を抱き締めた。

 

「ごめん……ごめんよ」

 

「え、なにが?」

 

三日月すらも、アグニカが厄祭戦を途中退場した歪みから産み出された存在。

人生を操られた者だった。

 

アグニカに抱き締められるなんて初めてのことだ。

今にも泣きそうなアグニカと、困惑する三日月。

アトラも放心していたが、すぐにジェスチャーで助け船を出した。

 

(なでなでだよ!)

 

「は?」

 

アトラが「女の子が泣いていたら頭を撫でてあげるべき」と唱えていたのは覚えているが、アグニカは男だし、どうしたらいいのか分からない。

取り合えず、背中をポンポンと叩いてやった。

 

三日月・オーガスは右腕が千切れている。

そこには『童子組』の得意分野である義手が取り付けられていた。

 

どこか似ている二人が抱き合い、無言で時間が流れていった。

 

三日月はガンダム・バルバトスの中の魂と対話したこと、そして前パイロットとの記憶を見たことを話した。

 

「そう……か」

 

アグニカは表情こそ変えないものの、悲痛さと無念さ、そして怒りを滲ませていた。

三日月はアグニカから見た彼女のことが気になった。

 

「どんなのだったの?」

 

「ん」

 

ガンダム・バルバトス・ホープのパイロット

エルピス・ルナレイス。

 

「よく笑うやつだったよ」

 

二十代の快活な女性。

三百年前のアグニカやソロモンの仲間。

パイロットとしての実力は初代セブンスターズにもついていけるほどだった。

 

「無理して笑うんじゃなくてさ、ほんとに明るいんだ。希望って言葉が好きだった。

子供が大好きでな。自分の事を「子供絶対守るお姉さん」とかなんとか……

鉄華団を見たら、滅茶苦茶お節介焼いてくると思うぞ」

 

「ふうん」

 

三日月が見たバルバトスの記憶にも合致する。

いつでもどこでも、エルピスという女性は明るくて、子供と希望を守ろうとした。

 

「だが……俺がマステマに気付かなかったせいで、死んだ。

死ぬより苦しい目にあって、死んだ」

 

「……」

 

望んでいた子供を殺され、自身もバルバトスの目の前で殺害される。

 

「…………殺してやる」

 

最終決戦に参加しなかったエルピスにすら、マステマの毒牙が向けられていた。

アグニカの胸にはドス黒い怒りが渦巻く。

 

だが、自棄になってはいけない。

狂うほどの怒りを忘れずに、尚且つ冷静に行動する。

 

その両立を果たして見せる。

 

と、そこで三日月の脳の障害について思い出した。

 

「三日月、今は感情の整理、出来るか?」

 

「んー、出来てるんじゃない?」

 

三日月はガンダム・グシオンとの戦いで脳に障害を負い、感情のストッパーが壊れてしまった。

一度怒り出すと怒りを沈められないし、悲しいと気分が落ち込み続ける。

 

アグニカの洗脳で治療も考えたが、失敗が許されない上、三日月は魂の力が強い。

セブンスターズの末裔や経済圏代表クラスだと、魂の対話が効きにくい相手もいた。

 

「先に試し撃ちというか、練習相手が欲しいな」

 

三日月への脳治療をする前に、モルモットとなる相手を探すべき。

しかしある程度魂の力が強く、失敗してもいいような相手。

そんな都合の良い人物がいるだろうか。

 

その時、ソロモンの魂の声を聞き、この場に呼び寄せた。

ソロモンも転送されることに慣れてきて、すぐに報告に入る。

 

「アグにゃん、南米大陸のマフィアを……」

 

仕事完了報告をしようとしたソロモン。

そしてアグニカの隣にいる三日月を見つける。

その瞬間、ソロモンの目と口が全開まで開かれた。

 

「ア グ にゃ ん に 似 た 子 供 が い るうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ビリバリベリバリビリビリバリィ!!!

 

ソロモンの外行き用に設えた紳士服が破れ去り、鍛えられた彫刻のような肉体がさらけ出される。

黄金に光る局部が病室を照らす。

 

「きゃあああああ!!」

 

アトラが目を押さえて絶叫。

ナースコールボタンを連打。

 

ソロモンが三日月に抱き付こうとして、三日月が突き出した左腕が顎にクリーンヒットしていた。

いきなり服を破けさせて抱きついてくる全裸の局部金色発光の変態が襲ってくれば、当然の自衛措置と言える。

しかしソロモンは脳震盪を起こしても三日月を抱き締める。

 

「ん素晴らすぃぃいいいぃいいいい!!!!!!!!

アグにゃんの遺伝子がああああああああああ!!!!こんなにもはっきりとおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

猛烈な勢いで頬擦りする全裸ソロモン。

三日月は物凄く嫌そうな表情。

アグニカの手刀がソロモンの首を打ち、二秒だけ気絶した後、復活。

 

人体の弱点である首への打撃を克服していたのだ。

 

ソロモンはギラリと目を光らせた。

その目はアグニカを見ることに特化しており、「光を操る」ニュータイプ能力と合わさり、アグニカの身体をレントゲン写真のように透かして見ることが可能となっていた。

 

ズズズ、という効果音と共に、ソロモンの目には、三日月の体内が筋繊維から細胞一つ一つに至るまで見えていた。

 

「うむ……やはり……そうか」

 

目を細めて納得するソロモン。

アグニカに匹敵する才能の持ち主。

三日月のパイロットとしての実力を正確に理解した。

だからこそ、圏外圏の杜撰な阿頼耶識手術でも適合したのだ。

 

「キミ、名は……何という?」

 

脳震盪の影響か、妙に間のあるしゃべり方になったソロモン。

 

マクギリスも三日月には一目置いていたが、やはり三日月とアグニカは凄く似てる。

 

「三日月・オーガス」

 

いつも通り、普通に自己紹介する三日月。

 

「オーガス……そうか。絶えたのだな、カイエルの名は。

300年も経っているのだ……致し方なきこと……」

 

「カイエル?」

 

ソロモンにも、三日月がアグニカのクローンであることを説明。

後でクローンを製造する研究所も襲撃しておく必要がある。

もぬけの殻かもしれないが、可能性は潰しておく。

 

ソロモンは指を立てて断言した。

 

「つまり……キミは……アグニカの……子孫だ」

 

「おちょくってんの?子孫じゃないって言ったでしょ」

 

三日月は早くも塩対応。

話を聞いてもなお、三日月をアグニカの子孫と言い張るソロモン。

 

「厄祭戦時代を知る者も……いまや私一人。

ガンダムの使い手は少ない……キミもアグニカの戦列に加わってもらおう」

 

「おい、三日月は治療が先だ」

 

ソロモンの食い気味の勧誘に、アグニカが杭を刺す。

アグニカの血を引く者で、ガンダムの使い手ともなれば、強い仲間意識を感じているのだろう。

 

「む……そういえば……腕がないではないか……止血は……しておこう……。

人間は……脆い」

 

唐突にスカーフで三日月の腕の付け根をギュッと巻いたり、頭を撫でたり、一緒に火星ヤシを頬張ったりと、親戚のオジサンのように世話を焼いていた。

 

「……なんで服破けたの?」

 

「心配はいらぬ……服が裂けた程度では……赤子も死なぬ」

 

「は?」

 

その後もソロモンは三日月に話し掛けていた。

 

アグニカはソロモンが集めた、地球圏のマフィアやテロリストの幹部集会の情報を見て、ニヤリと笑った。

 

「ちょうどいい」

 

ある程度ニュータイプの素質があり、死ぬ覚悟のある人間。

三日月の脳障害の治療法、その実験台になってもらおう。

 

アグニカは南米へと飛んだ。

 

 

 

地球にも犯罪者集団は存在する。

人間に悪人、罪人、落ちこぼれ、異常者、そして前科者が居る以上、その受け皿となる組織が必要となる。

社会から爪弾きにされた立場でありながら、社会に寄り添い、隙間に身を潜める者達。

 

地球に組織を作るのなら、ギャラルホルンとの繋がりは切っても切り離せない。

それぞれの組織は、何かしらギャラルホルンのおこぼれを貰うに特化した集団と言えた。

 

南米の犯罪組織、最大の麻薬カルテルである「シナモン・カルテル」のボス、アルカモネと幹部が、大会議室の大机に座っていた。

 

薬物を取り扱うため、医療分野で幅を聞かせるファルク家には頭が上がらない。

そのリナリー・ファルクから、この会議に出席するように命じられたため、渋々と参加した。

本来ならあまり大勢の前で顔をさらしたくない。

 

横長の会議用机。

質の良い木製机の上には、豪華絢爛な料理がずらりと並ぶ。

 

地球に存在するありとあらゆる犯罪組織、テロリスト達が集められ、席に座っていた。

SAUドナルド・ポーカーと繋がりの深い「ゴッドファーザー」のボス、アルル・パッチーノ、その右腕ジョー・ペッシ。

 

アフリカンユニオン、ドイツにて暗躍する保険金詐欺組織「13モンキーズ」のボス、レッドブルース・ウイルス

 

アーブラウの中国大陸を束ねる「三合会」ラウ・リューミン。

 

地球全土に車で荷届けし、絶対に検挙されない民衆の運搬組織「運び屋」のボスの老人、クリソト・トーストウッド。

 

減刑、刑務所内での優遇、仮出所、果ては脱獄まで担当する「繋がれざる者」のボス、ジャンゴ。その幹部クリスタル・ヴァルツ、レオ・ディカプリオス。

 

通信傍受、盗聴器による監視網を構築する「アンタッチャブル」のボス、エリオット・ネス。

 

 

圏外圏からの相談役として、「テイワズ」のナンバーツー、ジャスレイ・ドノミコルスがきっちりとしたスーツ姿で座っていた。

 

 

そしてもう一つ、ヤクザと呼ばれる組織の人間。

オセアニア連邦に属する日本のマフィア「山□組(やましかくぐみ)」のボス、ビート・北野である。

 

 

「チッ…汚ねえ黄色人種が見えちゃあ、メシも喰えたもんじゃねえ」

 

シナモン・カルテルのボス、アルカモネが悪態をつく。

それを幹部が笑いながら諌めた。

 

「いいんですかいボス?こいつらも一応は同盟なんでしょう?」

 

「ハッ。日本産商品を横流ししてるだけのコソ泥じゃねえか。同格なんかじゃねえ。

それにこいつらは英語なんて分かりゃしねえよ。笑って誤魔化すだけさ。

なあ糞日本野郎(ファッキンジャップ)?」

 

「へへっ」

 

北野は歯を見せて笑った。

そしてこっそりとテーブルの下へと手を伸ばした。

 

共通言語は英語ということになっている。

訛りや英語以外の表現に聞こえる言葉も、スラングとして存在するのである。

 

アルカモネは幹部へと視線を向けた。

 

「な?分かってねえだろ?」

 

「ハハハ。バカ猿だ」

 

嘲笑を浮かべる幹部達。

 

その瞬間、机の下にガムテープで止めていた小型マシンガンを引き抜き、北野が乱射した。

アルカモネは蜂の巣になり、血を噴き出した。

 

「ファッキンジャップくらい分かるよバカヤロー!!!!!」

 

北野が怒声を上げる。

それをアグニカは後ろから見ていた。

誰もアグニカの存在に気付いていない。

 

アグニカはこの場に居るマフィア達に洗脳をかけ、感情のストッパーを破壊した。

 

「実験スタートだ」

 

一気に殺気立つ幹部会一同。

美味しい料理の皿をひっくり返し、怒声や机を叩く音が反響する。

 

「どこでチャカ抜いてんだこの猿ぅ!」

 

「うっせんだよバカヤロー!!

これがチャカに見えんのかよ豚ぁ!

白豚ァ!!」

 

「糞がぁ!!舐めてんじゃねーぞこの野郎!!」

 

「舐めてなんかいねーよお!!」

 

「オイゴラァ!!!」

 

「なんだよバカヤロー!!」

 

「ふざっっけんじゃねえぞテメェ!!」

 

「巫山戯てんのはそっちだろバカヤロー!

ガタガタ言ってんじゃねえぞコラ!!」

 

「アホォ!!ぶち殺すぞゴラこの野郎!!」

 

「やれよ!!持ってんのは飾りか!?」

 

「やっすい飲み屋ちゃうぞここはあ!!

会議の意味分かっとんのかダボォ!!」

 

「うるせーんだよタコお!!

揃いも揃ってバカヅラ晒しやがってボンクラぁ!!!!!!!」

 

「んだとてめこのやろお!!!

喧嘩売ってんのかゴラァ!!!!!」

 

「売るじゃねーよバカヤロー!!

もうやっちまったよバカヤロー!!!

てめぇらもやるかバカヤロー!!!!!」

 

「殺したるッッッ!!!!」

 

ほぼ全員が銃を取り出している。

部屋に入る前のボディチェックなどまるで無意味だったと分かる。

これが他者を出し抜こうとする汚職の集大成である。

北野は煽るように手を振った。

 

「おお殺れよ!!殺れっつってんだコラ!!」

 

銃を突き付けられても動じない北野。

その目は焦点が合っていないようにも見えて不気味だった。

頬の皮がピクピクと痙攣している。

 

「クソジャップおらぁ!!とっとと謝罪せんかいオラァ!!」

 

「侘び入れんのはそいつだろバカヤロー!!!」

 

「お!?侘びもクソもあるかいボケコラそのゴミ(アルカモネの死体)連れて山帰らんかいクソ日本猿アホンダラァ!!!!!!」

 

「テメーらアメ公も穴ぐら帰れよバカヤロー!!

あの隕石ッ!ヘヘッ(笑)隕石落ちてきたアメリカによお!!」

 

「なにわろとんじゃいアホンダラ!!!!!!!!

人が死んでんねんぞ!!!!!!!!!」

 

「笑ってねーよバカヤロー!!

ヘッ……(時間差)

バカヤロー!!!!!」

 

「アメリカなんてもうねーんだよクソ猿!!!」

 

「知゛ら゛ね゛ー゛よ゛バ゛カ゛ヤ゛ロ゛ー゛!゛!゛!゛」

 

「舐めてんじゃねーぞこの野郎!!

や゛っ゛ち゛ま゛う゛ぞ゛ご゛ら゛あ゛!゛!゛!゛!゛」

 

「殺れよ!!!!やーーれっつってんだオラ!!!口だけかジジイおい!!」

 

「ぶちころっそこんにゃろふ!!!」

 

「ごちゃごちゃウルセーんだよバカヤロー!!

やんのかやんねーのかはっきりしろコノヤロー!!」

 

「おうこらクソ猿ぅ…いい加減にしろ老いぼれが!!

ただじゃおかねーぞコラ!!!」

 

「ただじゃおかねーならどうすんだよコノヤロー!!!!やってみろ!!!!」

 

「後悔せえよ!!!」

 

「さっさとしろよバカヤロー!!

時間の無駄だっつってんだコノヤロー!!

こんな大袈裟なもんいらねーんだよバカヤロー!!

俺らぁな!!テメェら殺すのも虫歯抜くのも同じなんだよバカヤロー!!!!!!」

 

「ドブカスがぁ!!

おお!!こいつ地下にぶちこめ!!後悔させてやる!!!黄色い猿がよお!!」

 

どの時代、どの組織にも人種差別は存在する。

色つきとして幼少期より迫害されてきた北野は我慢の限界だったのだ。

 

「顔が白けりゃ偉えのかよ三下ァ!!いつの時代の話してんだコラ!!色なんざ死にゃ一緒だろがよブタぁ!!!」

 

「一緒にすんじゃねえよサルゥ!!皮剥いでやっからなぁゴラァ!!!」

 

その瞬間、ブチギレたアルル・パッチーノが西洋剣を掴んで、ビート北野へ襲いかかった。

机の上を掛け、北野へと剣を振り下ろす。

しかし北野は即座に杖を抜き、仕込み暗器の日本刀で受け流す。

アルル・パッチーノは左手の拳銃で北野の左手と腹を撃ち抜く。

 

「いってぇコノヤロー!!」

 

北野は痛みなど感じていないかのような俊敏な動きで仕込み刀を振るう。

逆袈裟懸け斬りにする刀の軌道を、アルルは拳銃を盾にすることで防御。

アルルは西洋剣を振りかぶっている。

北野は振り抜いた体勢のまま。

攻撃した直後ゆえに隙ができている。北野の防御は間に合わない。

アルルの方が速い!!

 

しかし北野が斬ったのは、アルルの足元の机だった!

 

斬られた机が谷に落ちるようにパックリと割れる。

当然、その上のアルルは体勢を崩す。

それでも執念の斬撃を放つ!

北野の肩口に大きな傷を付け、鮮血が舞う!

しかし北野は居合いの構えを整えていた!

 

銀色の閃光が走る!

 

目にも止まらぬ居合い斬り!

 

ビート・北野の仕込み刀が、アルル・パッチーノの首をぱっくりと斬り裂いたのだ!!

 

烈火の如き流血が北野を染め、ピクリと頬をひくつかせた!

ドウと倒れるアルル・パッチーノ!

 

皆が倒れた机の後ろへと隠れて身を隠す!

 

銃の硝煙に反応した火災報知器が鳴り響き、スプリンクラーが作動。

豪雨の中、一人佇むビート・北野。

水に濡れたスーツがもの悲しい。

 

倒れたアルルへ向けて、北野が言葉をかけた。

 

「こんな狭い所で、そんな風に刀つかんじゃダメだよ……」

 

しかしもう一人だけ、椅子に座ったまま動かない老人がいた。

 

眉間にシワが入った、短い白髪の老人。

 

『運び屋』クリソト・トーストウッド。

 

落ち着いた声色で、北野に話しかける。

 

「俺も日本に友達がいるよ」

 

「へえ、どんな奴だ?」

 

「山田っつってな…泥棒だったよ」

 

「へへへっ」

 

「けど悪い奴じゃなかった。

だからまあ、やりたくはねえんだが…

日本人の大好きな『けじめ』だからなぁ」

 

クリソトは懐から拳銃を取り出す。

 

そこからは一瞬だった。

 

時間が飛んだのかと錯覚するほど、クリソトの拳銃は北野に狙いを定め、引き金を引いた。

ガンマン時代の早撃ち。

 

北野は右目を撃たれて大きく仰け反る。

 

サングラスが砕け散り、後方へ吹っ飛んでいった。

 

後退り、両手で右目を押さえている。

相変わらず無表情で、頬だけがピクピクと痙攣している。

血が滴り、彼の足元にポタポタと落ちた。

 

北野が手を下ろすと、そこには火花を散らす機械の義眼が露出していた。

 

これにはクリソトも驚く。

 

「おめぇさん……盲目だったのかい」

 

驚いたのも束の間。

北野は両手で目を押さえていた。

では北野が持っていた仕込み刀はどこへ行った?

地面に落ちた音はしなかった。

 

床を見て、流れるように自分の胸を見た。

 

ビンと鉄の揺れる音。

 

仕込み刀はクリソトの心臓に突き刺さっていた。

 

拳銃で撃たれるのと同時に、仕込み刀を投げていたのだ。

その精度は鮮やかで、全く痛みを感じなかった。

「刺した」というより、肋骨を「すり抜けた」と表現するべきだろう。

クリソトは口から血のあぶくを漏らした。

 

「老いたなぁ……何も感じねえ」

 

痛みも、敗北の悔しさも。

ただ終わりの時が来たとだけ、分かった。

 

「やるねえ」

 

「へへっ……アンタもな」

 

北野とクリソトは歯を見せて笑い合う。

クリソトは椅子からずり落ちるように倒れた。

フラフラと立っている北野。

 

そこへ「繋がれざる者」の幹部であり「ウォール街のウルフ」の異名を持つ青年レオ・ディカプリオスが、ナイフを持って突撃し、北野の脇腹を刺した。

 

「う゛ッ!!」

 

北野が苦悶の表情。

レオはやってしまったという表情で、血に濡れた手を見た。

北野がついに尻餅をつく。

 

「いてぇなコノヤロー!!」

 

北野は床に落ちていた拳銃で、弾のある限りレオを撃った。

レオは死の舞踏を躍りながら血を撒き散らし、頭蓋骨を床に打ち付けた。

 

「ヒューー……ヒューー……」

 

肺に血が入ったのか、ゴロゴロと嫌な呼吸音を出している北野。

そこへマフィア達が戻ってきた。

 

満身創痍、血のカーペットにあぐらをかく北野。

他にはアルカモネ、アルル・パッチーノ、クリソト・トーストウッド、レオ・ディカプリオスが血溜まりに沈んでいる。

 

北野は死に体とは思えないほどの大声を出す。

 

「満足かコノヤロー!!

コソコソ逃げ隠れやがって虫けらかテメェら!!」

 

日本のヤクザが世界中のマフィアに銃を突きつけられている状況。

そんな中、争いを好まない組織が仲裁に入る。

 

「分かった!!一度落ち着け!!」

 

しかしアグニカによって感情のストッパーが外れたマフィア達は、損得も関係なしに喚き叫ぶ。

 

「ああぁ??何が分かったってんだボンクラぁ!!」

 

「誰にクチきいとんじゃボケェ!!!」

 

「おめぇだよおめぇ!!目ぇ腐ってんのかオラ!!目暗かゴラ!!!」

 

「やめねえか!!!」

 

「黙りやがれ!!!」

 

「おうじゃあどうすんだよぉ!?どうするか言ってみろってんだオイ!!!」

 

「チャカ仕舞えオラ!!」

 

「どうするか言ってつってんだよ!!二度言わせんじゃねえ!!!」

 

「いい加減にしろバカ!!殺すぞテメェ!!」

 

「それしか言えねえのかバカ!!低脳か揃いも揃ってオラ!!馬鹿面晒しやがってオイ!!」

 

「誰に口きいてんだゴラ!!」

 

「おめぇだよおめぇ!!!

何べん言わすんだジジイボケコラ!!老害!!!」

 

「糞チビぃ!!風穴開けてやるぞオラァ!!!!」

 

「図体ばっかデケェな白豚あ!!節穴はテメェだよぉ!!」

 

「ずざまずっぞっじゃがまじっじゃぼけえ!!!!!」

 

「お゛お゛!?」

 

「ほえちらかしやがてあほんだらあ!!!!」

 

「何言ってんのか分かんねーよジジイ!!!!」

 

「殺゛す゛ぞコ゛ラ゛!!!!」

 

「やれっつってんだよ!!!

どう すん だって言ってだ!!!

頭湧いてんかテメェ!!!!」

 

「死゛ね゛オ゛ラ゛!!!!!」

 

とうとう沸点を越え、引き金に指をかけた。

 

パン、と乾いた発砲音。

 

北野の心臓を狙った銃弾は、彼を庇ったジャスレイ・ドノミコルスの腹部に当たった。

 

「なっ!?」

 

マフィア達は驚愕の表情。

 

「あんた……」

 

北野でさえ信じられないという顔をしている。

 

テイワズのナンバーツーであり、顎が無い瞳の綺麗な大男。

その不気味な雰囲気から、皆が目を逸らしていた人物が、ここで介入してきた。

 

ジャスレイは肝臓を撃たれていた。

急所を撃ち抜かれて大量出血。

銃で撃たれてトップクラスに痛い場所だ。普通なら意識を失うような激痛が襲っている。

 

だがジャスレイは死なない。

アグニカが彼の魂を身体に押さえつけているため、苦痛はあっても死には至らない。

まるで磔にされて禿鷹に肝臓を啄まれるプロメテウスである。

 

その瞬間、ジャスレイが奇声を上げた。

 

「うおあああああああああ!!!!!」

 

ジャスレイは自分の指に噛み付いた。

 

ゴリ、ガリッ、と石を砕くような音がする。

 

唾液と血でまみれた指を、ジャスレイは吐き出した。

血みどろの床の上にボチャボチャと落ちる。

親指、人指し指、中指、薬指、小指。

それが二本ずつ。

 

両手の十指を噛みちぎったのだ。

自力で、痛みを堪えながら。

 

理解不能の行動に、マフィア達は硬直状態だ。

 

ジャスレイは息も絶え絶えに呟く。

 

「この場は、地球圏を治めるカシラ達の、話し合いの席ですけぇ……流血沙汰は、堪忍してくだせえ」

 

日本では良く馴染まれている、腹切り嘆願。

本来意見を通せるはずのない殿様にお願いごとをしたい時は、腹を斬って命と引き換えに、喋る時間をいただけるのだ。

ジャスレイのやっていることはそれである。

 

あまりの激痛に血管が浮き出るほど強張っている。

顔色は青く、脂汗が止まらない。

 

「相談役を任されたのは、俺ですけえ……

この場の粗相は、全て、俺が引き受けますけえ……!

侘びでも何でも……!!

なんなら、指の10本でも、20本でも、詰めますけえ!!」

 

ジャスレイは頭を下げ、額を床に擦りつけた。

 

「これで、勘弁してくだせえ!!!!!」

 

マフィアのボス達は圧倒され、言葉を失っていた。

 

「お……」

 

『三合会』のラウ・リューミンは舌が回らず、言葉が出ない。代わりにクルクルと指を回す。

 

「冷やしてやりなさい」

 

「う、ウス!」

 

ラウの部下がグラスを冷やす用の氷を袋に詰め、ジャスレイの傷口を押さえた。

 

一気に感情が冷やされ、沈黙が支配する会議室。

 

「非礼を詫びます。そして、彼の男気に報いると誓いましょう」

 

『三合会』のラウ・リューミンは、ジャスレイの行動に「黄金の精神」の光を見出だし、腹を割って話すことを誓った。

他のマフィア達も、口々に賛同と謝罪、宣誓した。

 

担架で運ばれようとするジャスレイの前に、北野が杖をついて現れた。

 

「悪かったよう」

 

そう言うと短刀ドスを取り出し、ギコギコと小指を斬った。

ハンカチに包んだ指を、そっとジャスレイに渡す。

 

「これで勘弁してくれ」

 

制御の聞かないヤクザ、「その男、狂暴につき」とまで呼ばれた北野が、ペコリと頭を下げたのだ。

ジャスレイの行動は、この場の悪人達の心を一つに纏めあげた。

派手さや奇抜さではない。

身体を張って筋を通そうとする「男気」。

そこに惚れ込んだのだ。

 

その後、マフィア達の会合は滞りなく進んだ。

 

医務室に運ばれたジャスレイ。

部下に肩を貸してもらい、やっとの思いで歩いていた。

そこにアグニカが歩いてきた。

 

「お疲れさん」

 

手刀でジャスレイの腹を刺した。

笑顔で。

血が舞い散る。

悪役の親玉が、用済みの手下を殺処分する時のような台詞と共に。

通り魔のように唐突で、一瞬のことだった。

 

「ぐぼおえあ゛ぁあ゛ァあ゛あ゛あ あ゛あ゛あ゛ぁあ゛あ゛!!!!!!!!」

 

ビチャビチャと血を吐くジャスレイ。

これ以上彼の身体に血液は残っているのだろうか?

苦痛と絶望に満ちたジャスレイはブルドック犬のように顔の皮がだれていた。

 

乱暴に手刀を引き抜くアグニカ。

ズボリと冗談のような音。

 

膝をつくジャスレイ、腹の穴を見て一言。

 

「な…………な゛ん゛じ゛ゃ゛あ゛こ゛り゛ゃ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

部下は気絶させられていたので、誰もその問いに答えることはない。

ベチャリと血の池に倒れるジャスレイ。

 

ジャスレイは見た目からは想像もできない弱々しさで、「しに……たく……な」と呟いていて涙を流していた。

 

まさかのジャスレイ死亡か。

そう思われた時、アグニカは優しく微笑みかけ、手のひらを開いて見せた。

 

そこにはジャスレイの腹にあった銃弾がコロリと。

 

アグニカはジャスレイを殺すのではなく、手術を施していたのだ。

麻酔の時間は間に合わないので、ジャスレイの痛みは度外視で、速効性を重視したからショッキングな光景になってしまったが。

その後、部下を起こして簡単な治療をさせ、ジャスレイの肩をポンと叩いた。

 

「ゆっくり休めよ」

 

魂の力の強い者の脳構造と、感情フルスロットルの脳波データ。

そして熱を急激に冷やした時の反応。

欲しいデータは全て手に入った。

 

アグニカは満足げにその場を後にした。

 

 

『地獄の門』開門まで、残り7時間

 

 

宇宙、険しいデブリ帯の中に浮かぶ、金平糖のような岩の塊。

その中に巣食うように基地が建設され、厄祭戦で廃棄された。

今は鬼と呼ばれる異形の者が住み着いている。

 

童子組の総本山『鬼ヶ島』

 

阿頼耶識手術に失敗した者を助ける技術を実現させた偉人。

組長として角つきの子供達を束ねる存在

 

『鬼神』酒呑童子。

 

厄祭戦時代の科学者と肩を並べられるほどの偉業を成した人物だ。

アグニカは鬼ヶ島に姿を現し、酒呑童子と対談していた。

 

酒呑童子は肌が赤い。酒を飲んで酔っていると言われても、度を越えている。

肌の異常か、手術によるものか。

彼の肌は真っ赤だった。

ゴツゴツと岩肌のように固まっていて、尚且つ筋肉質だ。

 

泥酔したように虚ろな目元。

しかし眼光は鋭く、アグニカを見定めようとしている。

 

緑と黒の市松模様の和服を、ゆったりと着こなしている。

自室で酒を飲んでくつろぐ格好だ。

 

地球圏の代表者達への強襲とは違い、今回のアグニカは事前にアポイントメントを虎熊童子経由で取っている。

手土産の酒も、カルタから貰ってきた。

 

酒呑童子は酒の入った瓢箪を、ドンと床に置く。

 

「まあ座りねえ」

 

低くてしゃがれた声だったが、どこか安心感のある声質だった。

鉄華団のビスケットが200年くらい年老いたらこんな声になるかもしれない。

 

アグニカはドカリと腰を下ろした。

それを見てニコリと笑い、酒呑童子は盃を渡し、トクトクと酒を注いだ。

 

「飲みねえ」

 

「いただこう」

 

アグニカはクイッと酒を飲んだ。

辛口の日本酒だ。冷たくて喉が気持ちいい。

 

さっきの北野といい、今日はカルタの故郷に縁がある。

 

「ワイらも、子供らがテロで死んでのお」

 

ジュリエッタ・ジュリスによるドルトコロニー大虐殺事件。ドルトの童子組の支部も被害に合い、組員は全滅していた。

 

「ちと我慢の限界だったんよ」

 

元々は虐げられ、捨てられた者達の受け皿だ。

日の当たる場所を避け、細々と暮らしてきたというのに。

積極的に狩られるとなれば、堪忍袋の緒が切れる。

 

「大元は俺に原因がある。

出来る限りの補填はする」

 

「ほお?」

 

「「復讐」は俺に任せて欲しい。

奴らを皆殺しにすると約束しよう」

 

「そうか。そうか」

 

酒呑童子は満足げに頷いた。

さらに幾つか言葉を交わしたが、お互いがお互いを害する存在ではないと確認し、最低限の信頼関係は構築できた。

 

「やられたら「返し」をせにゃならんが、ワイらも家を守らにゃならん。攻めに走り回ってくれる若い衆が居てくれりゃあ、有り難いのお」

 

「地球全戦力は掌握した。虎熊や金熊達をもう少し貸しておくてくれ」

 

「おお、ええよ。

星熊は元気か?」

 

「今は寝かせてる。安静にすれば、精神的にも立ち直るはずだ」

 

「そうか、そうか」

 

やはり組員の安否は気になるのだろう。

後で会わせてやろうと思った。

 

「それと、童子組の『角』を少し分けて欲しい」

 

「ええよ」

 

童子組の角と、アグニカのFAOを組み合わせれば、三日月の脳治療が安全確実かつ短時間で完了する。

 

フェイト・アーラヤ・オペレーション。

 

『転送装置』と阿頼耶識手術を組み合わせた医療技術。

アグニカが考案し、実践したもの。

 

第一被験者はマクギリス・ファリド。

その後、マフィアの幹部らで実験してデータを取り、三日月の治療へと踏みきる。

 

「その代わり、診てもらいたい奴がいてなあ」

 

「ん?」

 

酒呑童子がよっこらしょと身体を起こす。

後ろに控えていた秘書らしき和服の女性が奥に引っ込み、車椅子を押してきた。

 

そこには肌が透き通るように白い、白髪、白眼の女性が座っていた。

ピンク色の麻の葉模様の、肌触りの良さそうな和服を着ている。

 

やや部屋の照明が落とされ、暗くなった。

映画館で照明が暗くなるような感覚。

美人である彼女をジロジロ見られないようにするため……という訳でもなさそうだ。

 

「ワイの嫁や」

 

「……茨木童子と申します」

 

「アグニカ・カイエルです」

 

アグニカが紳士的に会釈する。

童子組のナンバーツー、茨木童子。

 

「暗くてスマンのお。あんまり光が強いとキツイ言うからな」

 

光に弱い鬼、茨木童子。

酒呑童子は肌が赤いが、茨木童子は真っ白だ。

紫外線で皮膚が損傷するアルビニズムだろうか。

人工灯の優しい光にすら耐えられないとなると、さらに深刻な先天性の皮膚症か遺伝子疾患かもしれない。

 

「太陽光なんぞ浴びたりしたら、皮膚が焼けて灰になるんや」

 

まるで吸血鬼伝説だ。

 

「ペラグラか?」

 

ペラグラとは「肌の痛み」を意味する言葉で、栄養失調による皮膚症である。

体内でアミノ酸のバランスが極端に崩れることで、皮膚を万全に作れなくなって発症する。

日光など強い刺激に晒されると、皮膚が硬くなってヒビ割れ、剥がれ、肉がボロボロと落ちる。

まるで焼け爛れて灰になるように見えなくもない。

 

栄養失調なので全身に異変が起きる。

体内も胃腸炎などを発症し、固形物が食べられなくなるために果汁や肉汁を吸う他になく、嘔吐を繰り返す。

肌の痛みや視力の変化により、太陽の光から逃げるようになる。一種の光線過敏症である。

皮膚症なので銀などの金属にも拒絶反応を示すことがある。

脳にも影響が現れ、狂暴性が増し、最後は死に至る。

 

人類が宇宙に進出し、コロニーでの生活を始めた頃、その劣悪な環境から、栄養失調症など日常茶飯事だった。

救いを求めて宗教への執着も強くなる。

太陽光への信仰は絶対正義。

 

吸血鬼のような症状を出した人間は、悪の怪物として断罪するのにうってつけの人材だっただろう。

 

肉片も残らないほど苛烈な拷問と迫害を受け、発症者は皆殺された。

 

スペースヴァンパイア事件は、人類の未熟さと環境の不完全さが産んだ不幸な一例。

 

それを現代でも見ることになるとは。

 

「まっ、寝たら治る言うんやけどな!ガハハッ!!」

 

酒呑童子は辛気臭い空気を吹き飛ばすように、快活に笑った。

 

茨木童子は眠っている間に阿頼耶識でコンピューターに意識を繋ぎ、スーパーコンピューター並みの処理能力を発揮する。

 

「分かりました。診察します」

 

「おう、頼むわ」

 

アグニカは茨木童子の手を触診した。

魂の対話で、遺伝子レベルの診察を瞬時に行う。

 

10分ほどじっくりと、アグニカにしては長時間、慎重に見て判断した。

 

「ナノマシンの暴走だな」

 

アグニカの結論は、茨木童子の細胞が、ナノマシンの機能を変化させる性質だとした。

 

対策として、ナノマシンの方を改良し、変化させられない機能にすることで、太陽光を克服できるだろうと語った。

 

酒呑童子も茨木童子も、これには大いに喜んだ。

 

魂の対話で喜んで貰ったのは、実は初めてことかもしれない。

アグニカも無意識のうちに嬉しくなって、茨木童子に念入りな治療を施した。

 

 

『地獄の門』開門まで、残り6時間

 

 

三日月への脳の手術は上手くいった。

 

次はマクギリスが集めたガンダム・フレームのチェックに行く。

 

マクギリスと『星屑の儀』を交わした直後に与えた任務だったが、その頃はマクギリスとマステマの繋がりを知らなかった。

時間に余裕が出来た今、機体とパイロットの詳細を知っておきたい。

ガンダムフレームの戦力は貴重だ。

地獄の門が開いた時も、役に立つと確信している。

 

太陽の中から回収された『ガンダム・パイモン・サン』

ガンダム・フレーム9号機。

ガンダム・バルバトスの一つ後の機体。

モビルアーマーから奪い取ったビームシールドと熱排出機能により、300年間太陽の表面に浮遊していてフレームは無傷だったという化け物。

 

 

デブリ帯から回収したガンダム・フレーム4号機

『ガンダム・サミジナ・クワイエット』

 

特定の座標に留まり続けることが出来る『停止』の能力をもつ。

移動エネルギーの完全な焼失という稀有な兵装ナノマシンを操る。

その名も『全てが静止する日』。

 

 

ガンダム・フレーム18号機

『ガンダム・バティン』

四肢を全て大型スラスターに変更し、機動力に全てを振った高速モビルスーツ。

スラスターの青い光しか残らないことから、異名は『蒼白公』と名付けられていた。

ギャラルホルン武器庫『参』番、「飢餓」の倉庫に保管されていたモビルスーツ装甲を『ジオング・フルアーマー』と組み合わせ、オールレンジ高速通過による遊撃機として完成していた。

新たな名は『ガンダム・バティン・ジオング』

 

 

ガンダム・フレーム25号機

『ガンダム・グラシャラボラス』

 

個人業で宇宙海賊をしていたハンソロ・フォードをモンターク商会を通してマクギリスが勧誘。

幾度となく逃走しようとしたハンソロとこの機体を、マクギリスは執念で捕まえていた。

 

エイハブウェーブを一時的に探知されにくくする超音波と、姿を透明にするステルス迷彩を取り込んだ特殊装甲が一番の強み。

さらにグリフォンの翼を模した大型の推進機があり、機動力は抜群だ。

厄祭戦時代の『グラシャラボラス』のパイロットはアグニカとバエルに心酔しており、翼を模した推進機もバエルのスラスターウィングを真似したものだ。

 

小型のモビルスーツ運搬用船『ミレニアム・ファルコン』と揃えて、貴重な戦力となるだろう。

 

この四機に加えてもう一機、つまり5機のガンダム・フレームを、マクギリスは手元に集めていたことになる。

 

 

ファリド家のモビルスーツ倉庫。

連れられてきたのは、一人の改造人間だった。

それは童子組よりも異形の怪物。

 

強化人間と呼ばれていたもの。

 

『ガンダム・アモン・サヴァイヴ』のパイロット

『カイト・アヤワスカ』である。

 

 

「ヴァェベヴギジ、ヅディュガァオアオブリビバ……ボガブ」

 

完全に意味不明な呟きを放っている。

 

多腕、多眼、多神経、呼吸器官の変性、頭蓋骨の一部除去による脳の肥大化。

異常なまでに伸びた黒髪は、井戸の中から這い出てきた女の幽霊のようにも見える。

 

自然主義の地球圏の人間には、まさに恐怖と嫌悪の対象でしかないだろう。

 

アグニカは真っ直ぐとカイトの目を見ていた。

 

そして魂の対話を試みた。

手を前に掲げる。

 

カイトの見る景色が変わった。

ここは彼の精神世界。仲間と共にいるはずの月面基地。

しかしカイトは一人で立っていた。

 

「あ、あれ?みんなは?」

 

「よお」

 

カイトはビクリと反応する。

後ろには少年の姿をした魔王が立っていた。

ガンダム・アモンのデータベースに残っていた、厄祭戦の記録に頻出する人物と凄く似ている。

アグニカは歩み寄っていく。

 

「よ……あ、アンタは?」

 

「俺はアグニカ・カイエル。お前はなんという?」

 

「やっぱりアグニカ……

俺は……カイト。カイト・アヤワスカ」

 

「カイトか。分かった」

 

アヤワスカは強力な幻覚作用をもたらす植物を指す。

おそらく薬物による強化手術の記憶を、自分の名前にしたのだろう。

 

「お前の仲間に会いたいか?」

 

「え……そりゃ…もちろん。でも、いないはずがないんだ。俺たちはずっと一緒だったし、なんで今は……」

 

「周りのことなんて気にするな。

お前はお前のままでいい。

会わせてやるよ」

 

彼らの魂は既に旅立っている。

カイトの魂についていた、仲間の魂の「残り香」を見せる。

彼女らの魂を再現したに過ぎない。

 

それでも、カイトにとっては充分だった。

 

今までのような幻ではない、本当の彼らの魂。

自分が見せる幻影ではなく、アグニカによって見せられた幻影だからこそ、理性的に見ることが出来た。

客観的に見ることで、気付かなかった情報も見えてくる。

 

「みんな……ごめん……!ごめんよ!!」

 

カイトは滂沱の涙を流し、膝をついた。

 

「ごめん!!みんなを、守れなくて!!

俺、皆を思い出せなくて!!

向き合わずに、逃げた……!

本当にごめん!!」

 

途中で死んでしまった仲間と、紡ぐはずだった物語を、頭の中で再現していたに過ぎない。

彼らの死を、受け入れていなかったのだ。

死者を悼むことが出来なかった。

 

それでも、残したものはある。

生き延びたカイトがいる。

ガンダム・アモン・サヴァイヴは、生きている。

 

幻影の仲間達は、皆がカイトを抱き締めた。

 

「ごめん……ありがとう」

 

やっと、仲間の死を悲しいと思えたのだ。

 

カイトは彼らとずっと抱き合い、涙を流していた。

魂の残り香が消えるまで。

 

 

 

 

アグニカや鉄華団の物語が進む裏で、もう一つの物語も歩を進めていた。

 

月のアバランチ・コロニーで活動する複合企業『タントテンポ』。

マフィアとしての側面も持っており、首領であるテッド・モルガトンの死後、血みどろの跡目争いが行われていた。

首領テッドを暗殺するつもりだった傭兵の少年アルジ・ミラージは、同じくテッドを狙う幹部のロザーリオの手先に襲われる。

テッドに死に際に託された『ガンダム・アスタロト』に乗り、テッドの護衛であるヴォルコ・ウォーレンと共に、テッドの一人娘、リアリナ・モルガトンを守ることになる。

 

亡き父の意思を継ぎ、タントテンポのボスとなるべく動き回るリアリナ。

 

アルジには「家族を殺したガンダムに復讐する」という目的が。

ヴァルコには「家族が遺したガンダムを修復する」という目的があった。

 

幾度となく戦いを切り抜け、互いに信頼関係を結び始めた頃、首領テッドを殺したのは銀行部門担当のロザーリオであると判明。

 

彼の乗るガンダム・ウヴァルと激戦を繰り広げる、アルジとガンダム・アスタロト。

 

銀行の頭目でありながら卓越した操縦技能を持つロザーリオに対し、苦戦を強いられるアルジ。

 

特にウヴァルの方に搭載されたオリジナル兵装「カンメッロ・バンク」

 

ラクダのコブのような二つのタンク。

その中にはエイハブ粒子を圧縮、高速展開することで、ビームを始めとして火炎放射や氷結弾など、六種類の属性攻撃を可能とした魔法の兵装である。

 

それをマイニングハンマーと連携させることにより、実力差のあるアルジをさらに追い詰めていた。

 

「くっ……」

 

アルジ・ミラージは右腕が義手であり、阿頼耶識には及ばないものの、モビルスーツと一体化して戦うことが出来ていた。

しかし折り畳み式デモリッションナイフを破壊され、打つ手なしと諦めかけていた。

 

その時、アバランチ・コロニーの上空から、黄金に輝くモビルスーツが飛来した。

 

「なんだ!?」

 

これにはロザーリオも驚愕する。

 

黄金の装甲を持つグレイズ・フレーム。

 

それはガンダム・オセがアグニカに破壊されたため、修理中の代替機として乗り込んだカルネシエル家所有のグレイズ

 

『テルギア・グレイズ』。

 

乗っているのは当然ソロモンである。

 

「これを使え!!」

 

ソロモンはバエルソードをアスタロトの眼前に突き刺した。

 

もしここで、ソロモンがガンダムフレームに乗って現れていたら、ガンダムを憎むアルジには信用されなかっただろう。

しかしアルジは藁をも掴む思いで、バエルソードを手に取った。

 

そこからの戦闘は、ロザーリオにも、そして裏から操っていた女ナナオ・ナロリナにとっても予想外だった。

 

右腕だけ完全覚醒したアルジにより、バエルソードを使いこなしたアスタロト。

その猛攻によりウヴァルのマイニングハンマーとカンメッロ・バンクが破壊され、ロザーリオは戦意を喪失。

 

アスタロトと、アルジ・ミラージの勝利となった。

 

この戦いでは誰も死者は出なかった。

 

父の仇を捕まえ、別物とはいえガンダムを倒し、アスタロトの装甲の大部分を取り返した。

アルジ、ヴァルコ、リアリナの三人は、目的を達成したのだ。

 

謎の全裸の男、ソロモンの協力によって……

 

 

 

ここまでが、アグニカが他の場所で洗脳を施していた間にソロモンが成し遂げた事である。

アグニカの仕事が減り、死者も出なかったために戦力として吸収できる。

素晴らしい戦果だ。

 

無愛想ながらも助けられた恩には報いるアルジ。

カルネシエル家の人間と聞き、相談に乗ることで仲良くなったヴァルコ。

タントテンポのボスになる大義を抱く姿にアグみを感じたソロモンにより、一方的な協力を申し出られたリアリナ。

 

月鋼の主要人物達と、一応の仲間となったソロモン。

 

彼の紹介により、アグニカがこの場に訪れた。

転送によって瞬時に現れ、ざっと三人を見た後、リアリナの額へと手を伸ばした。

 

その腕を、アルジの義手がガシリと掴み、ヴァルコは仕込んでいた拳銃をアグニカに向けた。

 

刺すような殺気を向けられたアグニカは、ニコッ!と笑顔全開になった。

 

アルジの義手は鉄を握り潰す握力がある。

「サンタナ・スタンダード」と呼ばれる義手の性能基準の約2倍、握力1950kg/c㎡という異常なまでの性能に魔改造されていた。

 

その握力をもってしても、アグニカの腕は折ることが出来なかった。

アルジの頬に冷や汗が流れる。

 

ヴァルコは目の前の男を脳内記憶チップで検索にかけた。

すると「アグニカ・カイエル」というワードがヒットし、その瞬間に記憶チップがフリーズ。

ウォン、という音と共にブルースクリーンが映し出され、文字化けした。

 

「なんだ……これは」

 

ヴァルコの頬に冷や汗が流れる。

 

次の瞬間には、アグニカの姿が消えていた。

アルジの前にソロモン、ヴァルコが居た場所にはナナオがいた。

 

「「ッ!?」」

 

アルジとヴァルコは瞬時に状況を推察。

 

(場所がーーー)

(入れ換わっーーー)

 

アグニカの『フェイト』の転送能力により、居場所を変更されていた。

 

後ろを振り返ろうとした瞬間、二人は頭を殴られる感覚と、洗脳される感覚を同時に味わった。

 

 

 

「はっ!?」

 

ヴァルコ・ウォーレンは手術台の上で目を覚ました。

低血圧のような寝起きの頭痛がして、頭を押さえた。

 

彼はアグニカによる脳内改造手術を「フェイト・アーラヤ・オペレーション」の技術によって施されていた。

 

先ず脳内の記憶チップのバージョンアップ。

そして以前の手術の影響で低下した身体能力と空間認識能力を改善。

脳の構造を歴戦パイロット並みのものとした。

 

「お前にも戦ってもらうぞ」

 

おそらく手術後に呟いたのであろうアグニカの言葉が、妙に頭に残っていた。

 

 

 

アグニカはアルジの顎を掴み、じっと目を合わせていた。

 

アルジ・ミラージの記憶にあった、シャトルを撃墜したガンダム・フレームの姿を見ている。

黒いシルエット、ツインアイの輝き、爪のようなマニピュレーター。

 

確かにガンダム・フレームだ。

 

だがアグニカの出した答えは違った。

 

 

 

「『ルキフグス』だ…………」

 

 

 

セカンドシーズンのガンダム・フレーム。

バエルに似た神々しい見た目で、全長は100メートルという規格外モビルスーツ。

転送装置を応用した『無制限刀剣投擲装置』を使い、アグニカの目の前でヴェノム・エリオンを殺し、その魂の血を浴びせ、バエルゼロズを地球に叩き落とした宿敵。

 

『陰蟲王』ガンダム・ルキフグス。

 

 

「驚いた……俺とお前は、同じ(かたき)を持つらしいな」

 

アグニカには珍しい親近感。

同じ敵を心の底から憎む同志。

 

アグニカはアルジを仲間と認めたのだ。

 

その後ろで、ソロモンは服を弾けさせた。

 

「アグにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ビリバリベリバリボリバリ!!!!!!

 

「きゃあああああああ!!!!!」

 

リアリナが絶叫しながら通報。

裸への羞恥というより常識外れの狂人への恐怖からの叫びである。

 

蚊帳の外だったサンポ・ハクリ、ユハナ・ハクリ兄妹やジャンマルコ・サレルノがドアの影から覗いていた。

 

アグニカは音の振動を転送して無音状態を成し遂げており、気にも留めていない。

 

ソロモンは新たな同志誕生の歓喜破衣というより、アグニカが仲間意識を向けたことへの嫉妬破衣であった。

 

アルジは力への執着が強い。

圧倒的な強者であり、力を分け与えてくれて、仇の情報を持つアグニカに、アルジは片膝をついた。

 

アルジとアグニカの間に契約が成立。

基本的にはリアリナを守りつつ、仇のルキフグスを倒すために、SAUアーブラウ防衛戦に参加する運びとなった。

リアリナもそれに納得している。

 

ロザーリオなど悪徳幹部は洗脳して改心させた。

リアリナと一悶着あったが、それも一応は解決したらしい。

 

ガンダム・フレームを操れる優秀なパイロットは一人でも多く欲しい。

 

謎に包まれたメイド、ナナオ・ナロリナも仲間になった。

 

「まあ裏切られると面倒だから洗脳はするが……」

 

「ギャアアアアアアアア!!!!!」

 

アグニカの力技により、ナナオも裏切ることのない頼もしい味方と化した。

 

 

『ガンダム・アスタロト』は全パーツを集められ、完全体へと復元されたのだった。

 

 

ガンダム回収の旅は続く。

 

 

海の底の避難所、深海都市『アトランティス』のボス、『海神』リヴァイアサン・アッカーマン。

 

彼はアグニカとの戦闘でアグニカを三回殺し、さらに17発の致命傷を与えた。

敗北した後も、自室を爆発させて海水を流し込み、アグニカを道連れにしようとするなどの根性を見せ、アグニカを大いに喜ばせた。

海中での揉み合いでさらにアグニカの背中を刺すという化け物っぷり。

 

アグニカは不死身なので深海10000メートルの水圧に潰された程度では死なない。

 

リヴァイアサンを生きたまま回収し、深海都市アトランティスを支配し、守護神として奉られていた『ガンダム・フォカロル・ウォーターワールド』を回収。

ガンダム・フレーム41号機であり、リヴァイアサンの乗機。

 

エイハブリアクターから疑似重力を発生させ、深海の水圧を無効化するという規格外の装備を持つ。

しかし水位をあげたり地上に出たりすると、逆に自ら発生させる重力によって、内側から破裂してしまう。

まるで深海魚だ。

 

 

 

宇宙資源探索者ギルド『トゥームレイダー』

その女頭領『ジュリ・アンジェリーナ』

彼女が所有していた『ガンダム・シャックス』を奪いに、ピラミッドのようなデブリ内基地でアンジェリーナに戦いを挑んだアグニカ。

 

真空の宇宙空間でレイピアを武器にして一騎討ちに持ち込む。

 

不死身なのだから宇宙服を着る必要がないという事実に今更ながら気付き、ヘルメットを脱いで「コロンブスの卵だな……」と呟きながら生身で斬りかかってくるアグニカに対し、アンジェリーナは恐怖に震えながらも戦い、そして敗れ、洗脳された。

 

ガンダム・フレーム44号機『ガンダム・シャックス・マレフィセント』

 

コウノトリの大きなクチバシを彷彿とされるリュックサックの中に、他機のエイハブリアクターを搭載し、エイハブウェーブを偽装することができる。

他にも出力同調を無理矢理させることで、ダインスレイヴのような高出力の兵器も使うことが出来る。

 

 

 

厄祭戦よりも前に存在したという、「最初の宇宙海賊」の魂が宿るツインエイハブリアクターを心臓にしたガンダム

 

『ガンダム・ウァレフォル』

 

ガンダム・フレーム6号機。

バルバトスやバエル、アモンと同じシングルナンバーの機体だ。

 

『海賊王』伝説に取り憑かれた少女「ミラ・ジョジョウィッチ」は、ウァレフォルに乗って全ての海賊組織を束ねるという夢を追い掛けていた。

 

マクギリスはシンパシーを感じたのだろう。

 

その夢に自らの理想と清廉な風を見た。

 

あろうことか手術直後の身体に鞭を打ち、ガンダム・アスモデウス・ベンジェンスに乗り、阿頼耶識適合後の初陣として出撃。

 

『ウァレフォル』は盗賊に関する技能を多く持っており、装備もどこかから盗んできたものばかり。

それでも使い込ませるのはウァレフォルの汎用性の高さと、ミラの執念による修行の成果だった。

 

それらの多彩な攻撃を、三つの顔から見た高速処理能力により、マクギリスは全て見切っていた。

それどころか、水の流れのように、力に逆らわず、受け流し、いなし、かわしてみせた。

 

「完全に覚醒したな……」

 

アグニカも満足げに頷く。

 

まるで波紋の消えた水面。

(なぎ)』のような剣さばき。

 

全ての攻撃を無効化されたミラは、四大天使ウリエルが使っていた『太陽槍ブリューナク』を取り出した。

これにはアグニカも素直に驚いた。

 

ウァレフォルとブリューナクによる音速を越える刺突に対し、アスモデウスは合体剣シャミールを融合させ、攻撃を真っ正面から受け止めた。

 

そして直後に前蹴りを炸裂させる。

 

相手の武器を叩き折るキックが決まり、体勢を崩したウァレフォルのコクピットを殴り付け、ミラに嘔吐させて無力化に成功、捕獲した。

 

初陣でガンダム・フレームと戦って覚醒、勝利するという華々しい戦果をあげたマクギリス。

その精密な剣の腕は、もはやニュータイプと言っても過言ではないレベルまで練り上げられていた。

 

アグニカの負担を減らしたという意味では最高に良い働きだったと言える。

 

 

『地獄の門』開門まで残り5時間

 

アフリカンユニオン代表、デイビット・クラウチの紹介により、ザルムフォート家の当主ジルト・ザルムフォートと面会し、即座に洗脳。

 

その息子であり、ガンダム・ダンタリオンのパイロットであるザザ・フォッシルと面会。

その実直な性格をアグニカは気に入り、念入りに洗脳をかける。

その足でモビルスーツ倉庫へと行き、『ガンダム・ダンタリオン・ナラティブ』の前に立った。

 

「よお『痩せっぽち』」

 

ドクロをモチーフにしたフェイスガード、細身のシンプルな装甲。

重装備重装甲のガンダムが多い中で、ダンタリオンは作られたコンセプトの違いから、このようなほっそりとした体型になっていた。

 

『モビルアーマーの捕獲』

 

71番目にロールアウトされたダンタリオンは、今までの戦闘用ガンダム・フレームの情報から美味しい所を抽出し、そこから次のステップへと進むことが期待された。

 

ガンダム・フレームとモビルアーマーの武装が組み合わされることで、常識を超越した力が得られることは分かっている。

 

モビルアーマーは無傷で捕獲することが出来れば、戦局を引っくり返すことができる。

 

敵を捕まえて戦力にする作戦であるSAUアーブラウ防衛戦にて、これほど役に立つ機体もあるまい。

 

早速ダンタリオンを作戦の主軸に埋め込んだ。

 

 

 

ギャラルホルンの内部統制部隊「オレルス」を全員洗脳にかけ、指揮官であるジジル・ジジンもまた、味方につける。

彼はヴァルキュリアフレームの『オルトリンデ』に乗る歴戦の兵士である。

 

ジジルは「暗殺されそう」という理由でアグニカから身体強化手術まで施される優遇ぶりである。

 

 

火星にあった『ガンダム・フラウロス』も回収し、修復を済ませている。

 

『ガンダム・ダンタリオン』のモビルアーマー捕獲用「サイコ・キャプチャー」によるモビルアーマー『ハシュマル』捕獲作戦が実行される。

 

ハシュマルが起動した瞬間にアグニカが無言の『バエル・スパーダ』を繰り出したことにより、抵抗らしい抵抗も出来ないまま、ハシュマルは捕獲された。

 

統制AIはピーコックファンネルのように改造済み。

 

「あれから……」

 

アグニカが思い出すのは、ルシファーとの最後の戦い。

邪魔に入ったハシュマルを、ジーンが乗るガンダム・フラウロスが捨て身の体当たりで火星に落としたことを思い出す。

 

「長かったな……」

 

300年だ。

アグニカは数ヵ月ほどしか休んでいないが、休暇としては充分だった。

 

今はただ、地獄の門のために備えるだけだ。

 

 

『地獄の門』開門まで残り4時間

 

 

船の操縦席に体当たりして人を圧殺することに性的興奮を覚える凶悪殺人犯「カート・ラセル」が『ガンダム・オロバス・デスプルーフ』を使ってデブリ衝突事件を自作していたことには流石のアグニカもドン引きしていたが、彼の足を銃で撃って無力化し、難なく回収。

彼の「ホワァイ!?」という泣き言は無視して洗脳した。

 

ガンダム・フレーム55号機

『ガンダム・オロバス・デスプルーフ』

 

タイミングを指定して硬化させることで、ナノラミネートコートよりも衝撃耐性を発揮する「ショッキングナノコレワアーマー」を採用した機体であり、戦い方はほぼ「体当たり」一卓というピーキーな機体。

それでも天性のタイミングを見計る才能がない限り、逆に圧死するのは自分の方という賭けのような装備だ。

 

 

 

『竜殺しの大剣』アスカロンから紹介されたガンダム・フレームは二機。

 

ガンダム・フレーム63号機

『ガンダム・アンドラス・トップガン』

 

地球の戦闘機乗りだったジャック・リーチャーは、相棒のグースに死相が出ていることに気付きながらも、自分が相棒を守れると過信し、結果として死なせてしまう。

自信を失ったジャックは地球から逃げ、宇宙で孤独なモビルスーツ乗りとして転々と渡り歩く。

 

彼は他者の死ぬ前兆が見えるニュータイプだった。

 

黒い鎌を持ち、死ぬ運命にある者を見抜き、執拗に追いかけるガンダム・アンドラス。

ジャックとアンドラスは惹かれ合うように出会い、数々の悪魔的戦禍を残し、最終的にアスカロンの軍門に下った。

 

 

もう一機はガンダム・フレーム45号機

『ガンダム・ヴィネ・96』

 

『獅子頭王』の名を持つ、ライオンの鬣のような毛状アンテナが特徴的。

噛み付いて固定するアギトのようなトラバサミを幾つも装備し、大型モビルアーマーに組みついて撃破する戦法を得意としていた。

これはバエルゼロズと戦ったガンダム・マルコシアスとよく似ている。

 

パイロットは元ギャラルホルン内部統制局の敏腕エージェント『クワイガン・ニーソン』。

ライオンのような勇猛な顔と、チワワのようにつぶらな瞳を持つ男。

妻に先立たれ、愛する娘と二人暮らしだったが、娘の友達が秘密で企画した宇宙旅行で何者かに拉致され、娘が行方不明に。

娘の友達の死亡は確認されたが、クワイガンは諦めていなかった。

 

そして、娘を拐ったのはコロニー落としの「赤雨旅団」。

つまりマステマである。

 

クワイガンは喜んで強力を受けてくれた。

 

 

 

セブンスターズのガンダム・フレームは、バクラザン家の『ガンダム・ウェパル』が行方不明。

 

エリオン家の『ガンダム・ハルファス・ストライク』は没収。

配下の家のパイロットにでも使わせる。

 

同じくファルク家の『ガンダム・ゼパル・シールダー』

 

クジャン家の『ガンダム・ソラス・グラーブ』もアグニカが没収。

 

 

これにて、火星にてアグニカが確認した26機のガンダムフレームは、全て掌握した。

 

01 ガンダム・バエル

02 ガンダム・アガレス・ショコラーデ

04 ガンダム・サミジナ・クワイエット

06 ガンダム・ウァレフォル

07 ガンダム・アモン・サヴァイヴ

08 ガンダム・バルバトス

09 ガンダム・パイモン・サン

 

11 ガンダム・グシオン・ファントムペイン

16 ガンダム・ゼパル・シールダー

18 ガンダム・バティン・ジオング

21 ガンダム・モロクス・ナルカミ

 

25 ガンダム・グラシャラボラス

29 ガンダム・アスタロト・オリジン

32 ガンダム・アスモデウス・ベンジェンス

 

36 ガンダム・ソラス・グラーブ

38 ガンダム・ハルファス・ストライク

41 ガンダム・フォカロル・ウォーターワールド

44 ガンダム・シャックス・マレフィセント

45 ガンダム・ヴィネ・96

47 ガンダム・ウヴァル

 

55 ガンダム・オロバス・デスプルーフ

57 ガンダム・オセ・ライトニングヒーロー・ジーク・アグニカ

 

63 ガンダム・アンドラス・トップガン

64 ガンダム・フラウロス

66 ガンダム・キマリス

71 ガンダム・ダンタリオン・ナラティブ

 

それら全てを戦闘用に調整し終わる頃には、いよいよ地獄の門が開くまで、

 

残り3時間を切っていた。

 

 

 

防衛線は東西南北の4つで特色を変える。

 

「北」は水による槍とミサイル攻撃。

「東」は塹壕からの一斉射撃。

「南」は電線と雷の列車砲撃。

「西」は風による弓兵の撃ち下ろし。

 

『地獄の門』の中心と思われる魔王城を中心に、十二の方面に多重縦深の防衛線を張った。

 

それらに「ガンダム・フレーム」という最後のピースを嵌め込んでいく。

 

 

水の「北」方面には

『ガンダム・バティン・ジオング』

『ガンダム・キマリス』が強力なホバリングで水上から、

 

『ガンダム・フォカロル・ウォーターワールド』

『ガンダム・オロバス・デスプルーフ』が水中から攻撃する。

 

 

土の「東」方面には

 

『ガンダム・ガミジン・クワイエット』が敵の運動エネルギーを相殺し、スパルター・フレーム「レオニダス」や『ガンダム・ゼパル・シールダー』の盾の陣形を補助する。

 

塹壕からの射撃部隊には

『ガンダム・ウァレフォル』

『ガンダム・グシオン・ファントムペイン』

『ガンダム・アスタロト・オリジン』

『ガンダム・ソラス・グラーブ』

『ガンダム・ウヴァル』

『ガンダム・フラウロス』が参加。

 

土の中に潜んで敵を挟み撃ちにする強襲部隊として、

 

『ガンダム・シャックス』がエイハブウェーブの反応を打ち消し、

『ガンダム・アスモデウス・ベンジェンス』が敵の攻撃を凪のように払い、

『ガンダム・ダンタリオン』が捕獲する。

 

 

雷の「南」方面。

 

『ガンダム・アガレス・ショノラーデ』は磁力の力を駆使して前面を防御。

『ガンダム・アモン・サヴァイブ』は敵の運動エネルギーを自分の力に変え、さらにアガレスの磁力までをも放射エネルギーに変える。

 

 

風の「西」方面。

 

『ガンダム・パイモン・サン』には大量の酸素が風によって吹き掛けられ、全身がメラメラと燃えている。

これで敵を押し止める。

 

『ガンダム・アンドラス・トップガン』と

『ガンダム・ヴィネ・96』は近接戦に備える。

 

 

カルタが支配する空、宙域からは

 

『ガンダム・ハルファス・ストライク』による空中戦装備での降下攻撃セットと、

 

光が集まる場所で力を発揮する『ガンダム・オセ・ライトニングヒーロー・ジーク・アグニカ』

 

そして空の味方を透明化する『ガンダム・グラシャラボラス』が強襲する。

 

これで本当に防衛線は完成した。

 

 

 

『地獄の門』開門まで、残り2時間

 

 

今日も今日とてテレビ局がテロリストに占拠され、犯行予告と宣誓を垂れ流していた。

 

宇宙はテロリストの標的と考え、地球に降りようとする者は多かった。

 

大気圏を浮遊するシャトルが一機。

 

政治家や高官らしか乗れない地球降下シャトルにて、ギャラルホルン最高司令官の立場にあるはずの、

 

イズナリオ・ファリド『特務』大将が乗っていた。

 

シートを後ろまで倒し、聖書を顔に被せてぐーすか眠っている。

 

イズナリオの記憶は曖昧だ。

おぼろげに思い出せるのは、朝方にマクギリスと話していたことだけ。

 

(マクギリス……アゾート剣……うっ、頭が!)

 

気圧の影響か、頭痛がしたので思考を止めた。

シートに座りっぱなしのためか、背中も刺されるように痛い。

浮かび上がる記憶の流れに身を任せる。

 

(私は…………ああ、そうか。

マクギリスが飛行機の便を手配してくれたのだったな)

 

愛する息子に背中を押され、こうして出張に出ていたのだ、という記憶が用意されている。

 

そんなシャトルをテロリストが襲った。

地球圏内に入った高高度で、侵入ポッドを連結させ、そのままシャトルへ雪崩れこんできたのだ。

 

通路からアサルトライフルの射撃音が鳴り響く。

政治家達が怯える中、イズナリオは寝たふりを続ける。

 

少しして、顔を骸骨のマスクで隠した、緑色のジャージのような服を着た武装集団が入ってきた。

リーダー格とおぼしきカボチャ頭の男が、シャトルの乗客リストを確認し、点呼を取っている。

どうやらギャラルホルンへの身代金要求の人質にされるらしい。

 

「おい!」

 

テロリストの下っぱがイズナリオの頭を小突いた。

聖書がずり落ち、イズナリオは背伸びをする。

 

「ん? んん~~……よく寝た。今何時だ?」

 

「死ぬ時間だよオッサン」

 

アサルトライフルを突き付けられても、イズナリオは動じない。

カボチャ頭のリーダーが制止する。

 

「待て。お前は誰だ?」

 

「『特務』大将」

 

余裕を持って優雅な態度を崩さないイズナリオ。

カボチャ頭はリストを苛立たしげに確認し、驚愕する。

 

「なっ……!?イズナリオ・ファリドだと!?」

 

「あ?誰すかそれ?」

 

部下は能天気に聞き返す。

 

「ギャラルホルンの中で今一番偉い奴だよ」

 

「ハァ!?なんでそんな奴がここに!?」

 

「知るか!!…とにかく、お前は逃がす訳にはいかねえ。

テレビ中継に出てもらうぜ。

ギャラルホルンの「大将」殿」

 

カボチャ頭がイズナリオの首にかけていたマフラーを掴んだ。

 

イズナリオは腕を払って抵抗し、唾を飛ばしながら叫んだ。

 

「ふざけるな!!

私は「大将」じゃない!!!

「『特務』大将」だ!!!!!!!!」

 

「なっ!テメェ!!」

 

カボチャ頭が激昂し、銃を向けた。

カメラは二人の一瞬を撮している。

 

その瞬間、イズナリオの頭の中に、愛しの息子、マクギリスの声が幻聴として鳴り響いた。

 

(父上、その『偽者』らを、消してしまいましょうーーー)

 

その瞬間、イズナリオの雰囲気が変わった。

 

俊敏な動きでカボチャ頭のアサルトライフルを奪い取り、その頭を短く撃ち抜いた。

 

「あッ!?」

 

周りのテロリストが銃を構えるが、イズナリオの投げたナイフが深々と眉間に突き刺さり、天井に銃を乱射。

乗客らが頭を下げて悲鳴をあげる。

 

イズナリオはカボチャ頭のリーダーを盾にして拳銃を撃ち、テロリストどもを次々と殺害。

操縦席をハイジャックしていたテロリストも問題なく殺害。

ついには一人で赤雨旅団のテロリスト達を殲滅してしまった。

 

激戦であったにも関わらず、首にかけたヘイムダル召喚の儀の証明マフラーはしっかりと巻き付けられていた。

 

その勇姿はテレビ中継で全世界へと配信され、ギャラルホルンの圧倒的な力を誇示した。

 

信じられない戦闘力とカリスマ性を身につけたイズナリオ『特務』大将。

それもそのはず、彼はアグニカによって改造され、頭の中にマクギリスの声が響いてトランス状態になり、アグニカの意のままに操られる人形と化していた。

 

にわかテロリスト達を殲滅するなど朝飯前である。

 

無事地球に降下したシャトル。

 

降下先のSAU首都ワシントンでは、ギャラルホルン兵達がこぞって集結し、敬礼を向けていた。

 

イズナリオはそのままヘリポートに止められた、エイハブウェーブ影響下でも飛ぶことが出来る「クァプコン社」製ヘリコプターの元へと歩いていく。

パイロットはスターセフ・ジョージョー。

 

そしてそのヘリコプターに吊るされた透明な箱、

 

『硬化テクタイト複合の強化ガラス」で作られた「空中指令室」へと足を踏み入れた。

 

自らも最前線で指揮を取る勇姿に、皆が称賛の拍手を送る。

 

闇夜の地平線へと、イズナリオ『特務』大将は飛び立っていった……

 

 

ひとたび戦争が開幕されれば、指導者は民衆の戦意を駆り立て、維持できるようにしなければならない。

最も有効な手段は「言葉」、つまり演説である。

 

数々の演説を見ると、いくつかの種類に分けることが出来る。

 

一つは、絶叫するようにがなり立てる「獅子吼」型。

もう一つは、静かに語りかける、あるいは民衆の高さにまで降りて、その立場で話をする「炉辺談話」型。

うるさいか静かであるかの違い。

 

その二つを両方使い、緊張と弛緩を繰り返し、聞く者の意識を引き続ける「落差」型もある。

 

SAU代表、ドナルド・ポーカーや、

アフリカンユニオン代表、デイビット・クラウチが「獅子吼」型で演説。

いかに赤雨旅団が悪辣で鬼畜非道であるか、敵を貶め、その罪を断罪するという上から目線での演説に終始した。

 

アーブラウ代表、アンリ・フリュウは歳のためか、あまり激しい演説は好まない。民衆の少し上の立場から、優しく優雅に語りかける口調を崩さない。

被害者への追悼の意、混乱を抑えて欲しいこと、そしてギャラルホルンやクーデリアは信頼に足るということを穏やかに説明。

蒔苗との関係も、ドナルドとデイビットが和解したことを例えに出し、今は協調するべき時だと説明。「好き嫌い」や「敵味方」というはっきりした言葉は避ける。

 

アーブラウ名誉顧問、蒔苗東護ノ介や、オセアニア連邦代表、スィーリ・メッレーナ・シソーファツゲンは、ジェットコースターのように激しく上下する「落差」型を使う。

ここで戦わないことがいかに愚かで怠慢かを説き、その一方でお前ら情けなくないのか、と優しく寄り掛かるしゃべり方をして、開いての心を揺らす。

 

四大経済圏の代表や、セブンスターズの当主達は、それぞれが演説をすることで自陣の部下達の士気をあげていた。

 

一人の指導者に全てを委ねるのではなく、各方面から演説をすることで、組織全体が戦争に向かっていると示すのだ。

 

そして近年はあまり使われなくなった型がもう一つ。

 

それは「憑依型」である。

 

 

イズナリオ・ファリド『特務』大将は、ガラスの空中指令室に入ったまま、空を飛んでいた。

それを見た兵士達が指を指す。

 

「あ!あれは……!」

 

「ファリド特務大将!!」

 

「特務大将殿!!最高司令官殿!!」

 

「来てくれたんですね!!」

 

「イズナリオ様ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ギャラルホルン兵から万雷の拍手で迎えられる。

 

アーブラウ・SAU防衛戦の上空に、イズナリオ『特務』大将を乗せたヘリコプターが飛来した。

スポットライトが煌々とその勇姿を照らす。

 

まさかの特務大将が現地入りということで、防衛線の前線から後方まで、一気に士気が上がった。

 

そこですかさず、マクギリス・ファリドがガンダム・アスモデウス・ベンジェンスに乗って登場。

 

「聞け!!全てのギャラルホルン兵士達よ!!!!

我が父イズナリオ・ファリド『特務』大将は!!!

地位も名誉も捨て!!ただ『世界の光』であることを選んだ!!

彼の内には、かのアグニカ・カイエルの魂が宿っている!!!!!」

 

マクギリスはイズナリオから託された『アゾート剣』を振りかざす。

それはファリド家当主としての権限を与えられた証。

イズナリオはギャラルホルンの本当のトップとして、アグニカの魂が入っていると説く。

 

アグニカは『魂の対話』の力で、イズナリオを経由して語りかけているので、

 

本当の意味で、イズナリオの中にアグニカがいる。

 

イズナリオは静かに、語りかける。

 

「奴らは我々に興味がない」

 

奴らという敵、我々という味方。

明確な彼我の差別をして、結束を固める。

 

「秩序も、平和も、我々の築きあげてきた全てを、奴らは興味がないと吐き捨てた。

奴らは破壊と殺戮のみが目的だ。

それを邪魔しなければ、我々のことなどどーでもいいのだ」

 

イズナリオの声だからこそ出来る、どこか投げやりな台詞。

しかしここから声のトーンに落差を入れる。

 

「さ せ る か よ」

 

若き頃のアグニカを彷彿とさせる、殺意に満ちた声色。

 

「髪を掴んで引きずり出し、こちらを振り向かせてやろう。

その間抜けな面を、出てきた端に、横合いから思いきりぶん殴ってやろうじゃないか!!!!」

 

戦意鼓舞の基本台詞「思い知らせてやる」を、アグニカなりに短くアレンジした内容。

 

「天使を殺せ!!!!!

角笛の音色に合わせて歌え!!

奴等に思い知らせてやれ!!!

我々の正義を!!!!!

踏み潰されるのは!!!!貴様らの方だと!!!!!!!!」

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」」」」

 

 

「ギャラルホルンの正義は!!!!

我々にある!!!!!!!!!!!!!」

 

「「「「う゛おおお゛おお゛おお゛おお゛おお゛おおお゛おおおお゛おおおお゛おおおお゛おおお゛おおおおおおおおお゛おおおお゛おおお゛おおお゛おお゛おおおお゛おおおおお゛おお゛おおお゛おおおお゛おおお゛おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」」」」

 

 

皆が武器を掲げ、拳を上げて雄叫びを上げる。

イズナリオ『特務』大将の演説は効果絶大で、兵は恐怖を忘れ、闘志の炎を胸に宿した。

 

これは正義執行であり、攻撃であり、地球を守る崇高な行為。

その自己肯定こそが、兵達に力を与える。

 

雄叫びが夜の空に、どこまでもいつまでも響いていた。

 

 

『地獄の門』が開くまで、あと1時間。

 

バエルゼロズの修復はまだ完了していない。

局地戦闘型への改造が完了するのは、おそらく防衛戦の中盤以降だろう。

 

それまでアグニカは、他の機体を乗り継いで戦うことになる。

 

三日月の容態が落ち着くまでの間、ガンダム・バルバトスをアグニカの乗機とし、指令室代わりにする。

 

装備は300年前のデータを元に作らせ、取り寄せたもの。

 

『ガンダム・バルバトス・ホープ』

 

エルピス・ルナレイスが見た『希望』を、アグニカは『暴力』で勝ち取る。

 

 

アグニカの待機する仮の場所としては、SAU首都であるワシントンとする。

ここが落とされれば本当に不味い。

 

アグニカはバルバトス・ホープの肩に乗り、真っ暗な夜空を見ていた。

 

300年前の厄祭戦は、人類側もモビルアーマー側も同時進行で軍備を拡張してきた。

しかし今回の第二次厄祭戦は、一度始まれば一気に戦況が動く。

一から十までが一瞬で起こるのだ。

 

転送装置が可能にした、新しい戦争の形態。

 

自分についていけるのか。

しっかりと準備できたか?

即座に対応し、勝利することが出来るか?

 

「……」

 

やれるだけはやった。

それでも足りないのなら、自分が無理をすればいい。

 

そんなアグニカの背後から、ソロモンが機体を登ってきた。

戦闘前なのでパイロットスーツだ。

 

「アグにゃん」

 

「ソロモンか」

 

ソロモンは小さなカバンの中から、水筒とマグカップを取り出した。

コポコポと液体を注ぎ、湯気が立っている。

黄金色の液体が満ちた器を、アグニカに手渡し、自身も持つ。

 

「黄金だな。レモンティーか?」

 

「コーヒーだが?」

 

「そうか……」

 

あり得ないとは思いつつも、口をつけてみるとコーヒーだった。

舌か目のどちらかがイカレてしまった可能性がある。

 

ズズ、と黄金コーヒーを啜る音が響く。

しばし無言の時が続く。

先に口を開いたのはソロモンだった。

 

「また始まるな」

 

「ああ」

 

二度と繰り返さないと誓った仲間達に、申し訳が立たない。

だからこそ、死にもの狂いで、第二次厄祭戦は終わらせる。

 

「またぞろ大勢死ぬな」

 

「…そうだな」

 

第二次厄祭戦がどれほどの被害を及ぼすか、アグニカにも正確には分からない。

前回の失敗を踏まえた上で、転送装置というギミックまで加わった戦争では、より効率的な大破壊が可能だ。

生き残る者など、いないのかもしれない。

 

「だが、生き残る者も居るだろう。

余のように」

 

「……お前は例外だろ」

 

「そんなことはない。余は何も特別ではないし、選ばれた訳でもない」

 

「特別じゃなくて変態なだけか」

 

「そうだ」

 

「即答するな」

 

アグニカは肩をすかして笑う。

 

「余が死んだ時は、マクギリス。

彼がソロモンになればいい」

 

「あいつが?お前に?

マクギリスに裸族のケがあるのか?」

 

「あるかないかで言えば、「大いにある」!!」

 

「知りたくなかったな……そんなこと」

 

マクギリスに『アグニ会』次期会長の座が譲渡されると、仮契約が結ばれた。

 

「あまり自分を責めるな、アグにゃん。

人類史は早かれ遅かれ、こうなっていたさ」

 

「そうかな……そうなのかなあ…………」

 

アグニカにもそれだけは分からない。

第二次厄祭戦は自分が原因が発生した歪み。

だがアグニカが最初からいなかった世界では、厄祭戦はどうなっていたのか、思い描くことが出来ない。

 

ソロモンはマグカップを突き出す。

 

「自分が存在することを喜べ、アグにゃん。

自分のやれることをやるというのは、とても素晴らしいことだぞ」

 

「……」

 

アグニカは無言でマグカップを差し出し、乾杯のように小突いた。

 

「ありがとな」

 

ソロモンは歓喜の絶叫を上げながらパイロットスーツ(時価3千万円相当)を引き裂きながらバク宙でイルカのように跳び跳ねて地面へと落ちていった。

 

アグニカは空気が抜けるように笑い、マグカップを落として転送し、コクピットへ飛び降りた。

 

「やってやるさ 最後までな」

 

バルバトス・ホープと阿頼耶識を繋ぐ。

そして彼女の魂に語りかける。

 

 

「行こう」

 

 

 

(さら)に夜は闇に沈む。

 

夜深し(ヨフカシ)の世界は極まった。

 

 

 

残り時間は5分を切った。

 

 

人類側の準備は完了している。

 

防衛線は静かだった。

準備が完了して待機の状態であり、動く者が少なくなったこともある。

しかし皆が睨み付ける先、魔王城から異様な空気が流れていることを、誰もが理解しているのだ。

 

ピンと張り詰めた雰囲気。

魔王城の周りには風も吹いていない。

 

無音。

空気が停止している。

沈黙が痛い。耳鳴りが止まらない。

モビルスーツのフレームが、震えるように軋む音が聞こえた気がした。

 

誰も声を発しない。

時おり、モニターの音が響くだけ。

口にする言葉を思い付かない。

 

気付けば、手が痺れるほどに操縦管を握り締めていた。

ほぐすように手を開閉する。

 

各パイロットのバイタルサインは総じて緊張を表している。

 

鉄華団団長、オルガ・イツカでも、こうした待機の時間は苦手だ。

多くの団員の命がかかっている。

前線指揮はオルガの得意とする所。

自分の長所で仲間を守れるというのは、悪くない。

 

ガンダム・グシオンに乗った昭弘、

ガンダム・フラウロスに乗ったシノ。

どちらも気持ちを刃物のように研ぎ澄ませている。

 

ガンダム・キマリスに乗るガエリオ・ボードウィンは、マクギリスの潜伏位置を常にチェックしつつ、割り振られた仕事は成し遂げるつもりでいる。

今は仮面を被るように、無言で腕を組んでいた。

 

皆、糸が張り詰めている。

千切れて倒れてしまうのが怖い。

そんな不安定な面持ちで、落ち着かない。

 

早く時間になってくれとさえ、思う。

 

 

いよいよ時刻間近だ。

 

あと10秒。

 

時を刻むタイマーの数字と、魔王城を映すモニターを交互に見る。

最後の10秒だけが異様に長く、身体が硬くなるのは何故だろうか。

 

始まるのだ。

コロニー落としと同等か、あるいはそれ以上の、凄惨で大規模な戦いが。

 

 

刻針は始まり(ゼロ)に至るーーー

 

 

SAU北米大陸 

ミズーリ州カンザスシティ

旧エリオン家総本山跡地

 

ポストディザスター323年

3月30日

午前0時00分00秒

 

 

『地獄の門』

 

ーーー開門ーーー

 

 

主にガンダムに乗ったパイロット達が、上空を映した映像に歪みのようなものを見た。

 

上を見上げる。

隣の戦友につられて、自分も上を見る。

 

空を見た。

 

魔王城の上空に、黒いモヤがかかった。

 

見えにくいけれど、天使の輪っかのように、巨大な円が浮かび上がっている。

 

エンジェルリング。

 

空間が揺らいだ。

たわむように歪んだかと思うと、

薄氷を踏み抜くように空が割れた。

 

エンジェルリングの中が、地盤沈下のように落ちた。

空が落ちてくる。

 

夜空という黒く広いキャンパスに、より黒い穴が開く。

 

ドロドロの液体が流れ落ちてきた。

 

ドス黒い粘性の液体に見える。

 

それが巨大な穴から大量に落ちてくる。

 

遠くから見ても膨大だと分かる量が、

遠くから見ても巨大だと分かる広さで。

 

「なんだあれは……水!?油か!?」

 

漆黒の液体が、雪崩れのように落ちている。

空中にぽっかりと空いた大きな穴から。

留まることを知らないように、次から次へと落ちてくる。

 

「黒い液体が!」

 

「赤くねえか!?赤と黒!!」

 

「燃えているように見えるぞ」

 

「重油…?」

 

「廃棄物か!?」

 

「産業廃水で水攻めだとでも!?」

 

通信が錯綜する。

皆が口々に、その不穏で奇怪な現象を叫ぶ。

 

アグニカは「それ」に名前をつけた。

 

「泥だ」

 

その名称は一瞬で伝播する。

 

「泥!?」

 

「ドロ……」

 

「地獄の泥……」

 

「なんで……泥」

 

『地獄の門』は空に開いた。

下向きに扉を開き、大量の『泥』が流れ落ちた。

 

その量は凄まじく、巨大な建造物であり、天高く伸びていた『魔王城』を瞬く間に呑み込み、塗りつぶしてしまった。

上から蜂蜜をブチ撒けたかのような、ゆっくりと、しかし確実に垂れ落ち、広がっていく。

白い魔王城を黒く囲っていく。

こうして見ると、あの魔王城は『フレーム』のような骨格で、この泥こそ受肉した装甲のように見える。

 

何故最初から気付かなかったのか。

『ルキフグス』は陰蟲王だ。

光を遠ざけ、防ごうとする。

ならば自身の城を覆い隠すくらいは当然やってのけるだろうに。

 

直径一キロはある大穴から、絶え間なく流れ続ける「地獄の泥」

 

黒い液体の中が赤く光っている。

『泥』は表面が淡く燃えている。

燃えながら流れてきている。

さぞ高温なのだろう。

 

あれに呑み込まれれば人体などあっという間に炭化する。

 

溶岩の如き『業火』だ。

 

「あっちぃ」

 

鉄華団のチャドは汗をかいた。

温度が3℃上がっている。

 

百キロは離れた塹壕の気温を、一瞬で3℃上げるほどの熱量。

 

まるで人類の憎悪を液状化し、顕現させたかのような……

 

「観測班からの映像、出ます!」

 

拡大画像を皆が見る。

あの泥の細部を静止画で見つめる。

 

皆が息を呑んだ。

 

あれは液体ではなく、赤い目を持った黒いボディの殺人兵器だった。

 

「プルーマ!?」

 

ギャラルホルン兵士なら、知識として知っている。

モビルアーマーの随伴小機。

一体一体がモビルスーツと同じかそれに近い全長をした、古蟲のような見た目の無人兵器。

 

見る者全てに吐き気を催させる。

 

夥しい量のプルーマが、地獄の門から溢れ出しているのだ。

まるで土砂崩れ。

人間より遥かに巨大なプルーマが、群体として移動し、流体に見えている。

 

「泥じゃない……」

 

「あれ全部がプルーマだってのか!?」

 

「数は千や二千じゃ効かないぞ……」

 

数万、いや数億匹のプルーマが、流れ落ちるように押し寄せているのだ。

 

 

地獄の門から流れ出たのは、泥のような『天使の羽(プルーマ)』の群れ。

 

隙間を埋めるように、大小揃ったプルーマ達が、蠢きながら、意思を持って群集体として動いている。

 

それがついに地面に広がり、泥の塔を形作る。

一拍の間を置いたかと思うと、

 

一気に、

 

一斉に前進を開始した。

アメーバのように全身を広げて進む。

この世の終わりの大洪水。

地獄の釜が溢れたかのような、熱々の泥、天使の羽の群れ、殺戮兵器の鉄の津波!!

 

防衛線に動揺が走る。

 

「これは!?」

 

「敵の移動ルートは!?」

 

移動ルートごとに、しっかりとした対策と防衛線を築いてきた。

即座に対応する準備がある。

だが、この物量、進行速度、そして進行方向は。

 

「す……全てです!全方位に移動を開始しました!!!!!」

 

「なんだと!?」

 

12方向、全て。

全方位に全力で大軍が押し寄せる。

 

超大量のプルーマの群れで体当たり。

どんな防衛線も物量で押し潰し、飲み干すつもりなのだ。

 

「そんなことが可能なのか!?」

 

力任せに全ての場所を押し潰す。

そんなことが出来るのなら、それこそが最強にして唯一の勝ちパターンだ。

 

それが出来ないからこそ、人は戦略を作り出した。

 

ガエリオ・ボードウィンは部下のシグルスを落ち着かせる。

 

「何を慌てている?元々全方位で戦うつもりで、備えてきたのだろう?」

 

「う…しかし」

 

そしてアグニカは不敵に笑った。

魔王は地獄の泥を見て笑った。

厄祭戦時代からすれば、まだ驚くような量ではない。

一つの場所から纏まって出てくるのは初めて見るので、群集体恐怖症の人間にはキツイ光景かもしれないが。

 

とはいえ、兵は怯える。

神の怒りのごとき光景に。

絶望の象徴のような地平に。

どこか冗談のような夜空に。

 

「こんな……」

 

「勝てるのか……あんなものに」

 

不満が伝播していく。

しかし敵は止まってなどくれない。

 

「射程圏内まで、残り200秒!」

 

オペレーターの声で、皆が我に返った。

 

狙いを定めた必中攻撃範囲、キルゾーンに敵が入ろうとしている。

ここで撃たねば、準備してきた意味がない。

 

イズナリオ・ファリド『特務』大将が叫ぶ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

「我らは角笛の守護者!!!!

リンボの境界線!!!!!!

天使を狩る者である!!!!!!

 

これよりアグニカ・カイエルの魂の名の元に!!!!!!

『厄祭裁判』の判決を行う!!!!!」

 

夜空に照らされた空中指令室の、イズナリオが口を限界開口して叫ぶ!!!!!

 

「被告!!「赤雨旅団」!!

被告!!「モビルアーマー」!!

 

判決は『死刑』!!!!

死刑だ!!!!

死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!!!!!」

 

その狂気に満ちた激昂に、兵士達は「怒り」を思い出す。

恐れを捨て、奮い立ち、暴力装置に成り代わる。

 

「武器を取れ!!!!

構えよ!!!!!!

そこを見張れ! あそこを見張れ!

我らの敵を根絶やしにせよ!!」

 

全方位、全力戦闘体勢。

 

皆が銃を構え、狙いを定めた。

敵の頭蓋を撃ち抜くために!!!!

 

「目標「前方」!!!!!!!!」

 

ただ前だけを見ろ!!

敵だけを見ろ!!!!

敵を打ち砕け!!!!!!

家族を守れ!!!!!!!!!

 

 

「死  刑  執  行!!!!!!」

 

 

イズナリオ・ファリド『特務』大将の号令

 

一斉に銃撃が始まった。

 

塹壕から発射炎が花火のように煌めく。

耳をつんざく轟音の連続。

射撃の反動が地鳴りとなって塹壕を揺らす。

 

砲弾が雨霰と撃ち込まれる。

可視化されるほど大量の弾幕。

最初に撃った弾丸が、最先端に居たプルーマの眼球に叩きこまれ、爆散させて粉々に打ち砕いた。

 

それを皮切りに、プルーマは次々と被弾し、爆発し、破壊されていく。

 

怒濤の勢いで撃ち抜かれ、壊れ、火花を散らして爆発。

 

赤黒い泥の流れに、黄色い砲弾の軌跡が吸い込まれ、爆発が起こる。

 

「東」方面は塹壕からの集中砲火。

空の薬莢が排出され、塹壕の溝に流れ落ちていく。

弾丸を撃った発射炎の熱で、さらに気温が上がっている。

 

ジュウジュウと土が焦げる匂い。

 

コクピット内を揺らす衝撃。

ただひたすら引き金を引き、射撃する。

一心不乱に敵を討つ。

モニターに敵を捉えた瞬間には、銃撃の引き金を引いていた。

 

連続して弾を討つマシンガンや機関銃を装備した者は、絶え間無い射撃の振動で脳が揺れそうだ。

ガタガタと歯が軋むほどの振動。

両腕の発射炎で視界がチカチカする。

 

広い塹壕にいる全てのモビルスーツが、弾薬を惜しむことなく打ち出している。

 

「南」からは雷によって強化された列車砲の隊列による一斉射撃。

地平線をイルミネーションのように照らし、発射音で空気が揺れる。

音速を越えた砲弾が、美しい曲線を描いて落ちていく。

「泥」の波に突き刺さり、畑を耕すように爆発させ、大穴を開けた。

 

地面に這わせた電線、そこに高圧電流が弾け飛び、踏み込んだプルーマ達を爆発四散させた。

遠距離、近距離共に隙の無い、電撃による防衛線だ。

 

 

「西」は風の後押しを受け、弓兵達によって放たれた矢が空を埋め尽くし、プルーマの泥へと突き刺さった。

銃撃とも砲爆とも違う、縦に貫通していく弓矢は、他の防衛線に劣らぬ撃破数を叩き出す。

 

さらに泥の中に残った弓矢は、プルーマ達を切り裂き、邪魔をし続ける。

これが数百から数千本と刺さる頃には、自分の動きで自分達を傷付ける茨の毒となっていた。

 

 

「北」は地面に水が流れていく。

さらさらと小川のようだった水流が、水位を上げ、一瞬で膨大な量に膨れ上がり、スカイブルー色の濁流となって、プルーマの泥と正面衝突した。

その濁流には、魚雷と槍が夥しいほど付いてきており、プルーマ達に強烈な一撃を叩き込んだ。

 

津波の音。

潮水が叩きつけられる音を、何千倍にも大きくした水の破砕音。

 

濁流同士がぶつかり合い、プルーマの泥が押し返される。

やはり「業火」であり泥の流れであるプルーマの群れは、水の力で洗い流すのが正解なのだろう。

「北」方面は上流から水が走る。

流動エネルギーは防衛線が有利だ。

 

 

業火の泥を、土、雷、風、水の力で押さえ込むことに成功している。

 

撃破され、転送されたプルーマの数は300万体を越えた。

 

解体修理工場はギアを全開にして回す。

これらのスクラップを、地雷として再利用するために。

 

射撃を続けながら、敵の前進が鈍ったことを確認する。

 

鉄華団のビスケットは、観測用のモビルスーツに乗って、隣の隊長機に乗ったオルガに話しかけた。

 

「いけそうだね、このまま」

 

「敵が何も手を打ってこなければな……」

 

 

地球を揺らすほどの大戦音。

人類の反撃は有効に見えた。

 

異変が起きたのは、四方面、ほぼ同時だった。

 

「東」

 

鉄華団が守護する塹壕の方面。

 

プルーマの泥の中から、無数の手が飛び出した。

手首だけが浮遊し、幽鬼のようにゆらゆら揺らめいている。

 

まるでモビルスーツのマニピュレーターを大きくしたような見た目。

アグニカは目を見開いて叫ぶ。

 

「『ハンズオブグロウリー』だと!?」

 

量産は不可能と言われた、超高性能なファンネルの一種。

二本で一組を形成する。

それらが武器を持って戦うなら、モビルスーツなど不要になるとまで言われた、戦争革命的な兵器。

 

百や二百は下らない。

数万体は見てとれるほど、大量に出現してきた。

そして一斉に、お互いとぶつかり合った。

 

『拍手』だ。

 

手を叩いている。

 

まるで見えない巨人が拍手を送るように。

 

魔術的儀式での『拍手』が現すものとは。

 

「喝采」「祝福」「歓迎」「始まり」

「合意」「誇示」「鼓舞」

 

「呼び出すこと」

 

「神への祈り」

 

 

拍手の音が空気を揺らし、射撃音も泥の音も塗り潰す。

 

限界を越えた音圧は、静寂にまで進化した。

 

空気が弾けるように、空間が破裂したかと思うと、巨大な物体が転送され、その姿を現した。

 

 

光の巨人だ。

 

黄色い発光が神々しい、天使の輪っかを持つ、一人の男の姿をした、光のシルエットが泥の上に舞い降りた。

ずしりと泥の波が沈む。

 

その光の巨人には足があり、腕があり、肩があり、顔があった。

ギザギザの歯を剥き出しにして、蒸気のような吐息が漏れている。

 

大きさはガンダム・ルキフグスを越えている。

 

正真正銘の化け物だ。

 

その巨大な光の巨人には、

鎧のような「拘束具」が巻き付いていた。

 

中心に紅く光るエイハブ・リアクターが見える。

その「拘束具」こそ、光の巨人を人間が理解できる形に留めているものの正体。

 

アグニカは憎々しげに叫んだ!!

 

「ラファエル!!!!!!!!!!!」

 

 

四大天使『ラファエル』

 

「神の癒し」を意味する真名。

 

その権能は「万物修復」。

 

外宇宙生命体の失われた技術の復元、兵器化が本当の役割である。

 

ラファエルが修復したのは、おそらく

 

「アダムスか!!!!!!!!」

 

最初の人類の遺伝子情報を修復し、あの巨大なバケモノを作り出した。

 

ニュータイプは初期の人類が持つ力なのではないかという一説を、馬鹿正直に実践したのだろう。

その最悪の実験の最悪の成果が、あのバケモノだ。

 

『ラファエル』の本体は「拘束具」に見える物体の方であり、光の巨人はあくまでウリエルの眷属。

 

だがラファエルはアグニカ達が破壊した。

あれは四大天使の予備パーツを組み合わせた、代替品の殺戮天使。

 

代行四大天使『ラファエル・スペア』

 

その全身は燃えていた。

 

『業火』を付与されていた。

 

 

「北」

 

ガエリオ・ボードウィンが配置された水の防衛線

 

 

水面に砲弾が着弾し、水柱が何本も立ち上がる。

噴水が上がり、カーテンのように視界を塞いだ。

 

水の流れには、魔術的に強い意味が込められている。

 

水が降りると、そこには波紋一つもない静寂、鏡のような水面が広がっていた。

 

水が盛り上がり、爆発するように飛び上がる。

 

水飛沫が舞い、うっすらと虹がかかる。

 

その虹を切り裂いて、

「炎」の十字架が顕現した。

 

炎の十字架から、無数の緑色の眼が開く。

その眼球から炎の涙がこぼれ落ちる。

まるで隕石のような炎涙は、水に飛び込んだ瞬間に蒸気をあげ、爆発するような水柱を立てた。

無数の眼球から無数の炎涙が流れ続け、水流はどんどん蒸発していく。

 

炎の十字架から大量の腕が伸びた。

 

その指は涙を拭う。

子供のようにごしごしと擦ったり、恋人の涙を優しく掬うようだったり。

物憂げな緑瞳のバケモノは、ギョロリと北の防衛線を見た。

 

水が燃えた。

 

化学式を完全に無視した発火現象。

それが、かの天使の持つ権能。

 

四大天使『ウリエル』

 

外宇宙生命体の資源的活用

 

それが本来の役割。

 

一番簡単な資源的活用方は、「薪」にすることだ。

つまり、燃やして熱エネルギーに変えること。

 

ウリエルはあらゆる物質、環境を「燃やす」ことが可能となった。

 

『炎の魔眼』

 

もう「太陽槍ブリューナク」や「銀河鉄道」で代用する必要もない。

 

ウリエルの権能『徹底破壊』

 

『神の炎』の異名の代行

ノアに大洪水を知らせた天の光

地獄の門が開かれた時、全ての罪人を焼き殺す炎の剣。

 

代行四大天使『ウリエル・スペア』

 

 

「西」

 

弓兵達が守護する風の防衛線

 

矢が全て曲がり、上に飛ばされ、動きを操られる。

蝶の羽のように広がり、敵の姿を彩る材料にされる。

 

青い鉄の(いばら)が出現した。

 

モビルスーツのフレームほどの太さ。

それが植物の成長を早送りで再生したかのように、どんどんと伸び広がっていく。

 

スカイブルーの宝石のような蕀は、山岳からプルーマの泥を見下ろしていた弓兵部隊の視界を埋め尽くすほど膨れ上がり、天高く伸びていく。

泥に根を張る様子は『(ハス)の花』を想起させる。

 

この世界のモビルスーツの定義は、動力源のエイハブ・リアクターと、骨格たるフレーム、そして有人コクピットがあることである。

 

人間の脳と脊髄を閉じ込めたコアとエイハブ・リアクターを中心にして、鉄の蕀がフレームを形作る。

 

それはつまり、モビルスーツの塊と言えた。

モビルスーツだけではない。

今まで作られた全てのモビルアーマーの基本フレーム構造も、既に蕀の中に形成されている。

 

300年前の厄祭戦に登場した全てのモビルアーマーが、あの蕀の中にある。

 

あとは装甲を「生やす」だけだ。

 

 

『神の人』という言葉が現すものは

 

「予言者」、つまりあらかじめその姿を見せ、知らせていた者。

あらかじめとは、前回の厄祭戦を意味する。

300年前の天使達は、今の蕀の塊の予言でしかなかった。

 

それら蕀の子らは「神によって神の元へと連れられた者」、

「神に従順な眷属」

「神に油を注がれた者(整備された者)」

「神と共に歩む者」を指す。

 

外宇宙に人類が活動可能な環境を『創造』すること

 

それが四大天使『ガブリエル』の本来の役割。

 

蕀の名は『天使の花園』

 

この蕀の塊の姿は、ガブリエルの権能『無限創造』であり、ガブリエルそのものなのだ。

 

代行四大天使『ガブリエル・スペア』

 

 

 

「南」

 

ガンダム・アガレスに乗るエウロパ達が守護する、雷の防衛線

 

泥の中から、ビームが照射される。

防衛線にではなく、上空に。

まるでスポットライトを集中して当てるかのように。

 

空間に赤色の球体が現れた。

それを中心にして、無数の円や線が走る。

惑星間の座標図のように、大小様々な球体が、その円をぐるぐると回転し始めた。

 

星を中心とした座標に到達した瞬間、高速機動しながら、大量のファンネルが姿を現す。

ピーコック・ファンネルに似ているが、違う。

 

そのファンネルはビームを爆発させながら広げていた。

この世界のビーム兵器は、圧縮したエイハブ粒子を高熱で打ち出すこと。

エイハブ粒子を超高密度で放出するファンネル。

 

エイハブ粒子には「転送装置」の力で瞬間移動するために必要になる要素。

それを散布するということは、この新しい戦争において最も大切なこと。

 

外宇宙生命体を「殺戮」することが本来の役割。

 

広い宇宙をくまなく探索し、知らない場所を無くし、「知らない恐怖」を無くす。

 

「アンチ・アブソリュート・テラー・ファンネル」

 

その中心には、重力の核となる天使

 

代行四大天使『ミカエル・スペア』が、出現した。

 

 

泥の中にガブリエルのフレームが血管のように通り、互いを繋ぎ合わせている!!

 

それぞれの四大天使が、己の心象風景を具現化した空間を作り出す!!!!!

 

四機同時『固有結界』発動!!!!!!!

 

 

 

 

ミカエルの眼前に!!!!

 

アグニカはバルバトス・ホープに乗って躍り出た。

 

「ぶっ 殺 し て や る!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

さあ厄祭の英雄よ。

 

戦い、倒せ。

 




Q 一期の地球降下時って何月なの?

A カナダは四月まで雪が残っているらしいので、まあ三月末でも大丈夫と踏んで、この日時に決定いたしました。
後世の歴史に残る記録みたいな演出で好きです。
3月30日はエレン・イェーガーの誕生日だし。


そんな訳で皆様お久しぶりでございます。

いよいよ『地獄の門』開門です。

文字数は39000文字。
ま、普通だな。

本当は5月に投稿したかったのですが、無職転生のことしか考えられない時期があったために確実に投稿が遅れてしまいました。

早速まとめの方、はじめさせていただきますので!

初手で「シャイニング」の扉を斧で叩き割って「お客様だよ♪」するシーンをかましてくれた星熊ちゃん大好き。

白いタイルに赤い血で足跡っていうのは最高にクールでエッチだね!
緑色の入院服に赤黒い斧がまた映える!
色彩の暴力!(言いたいだけ)

重傷ジュリエッタの裸を覗く役目は二期ガエリオのものだったはずですが……次々とフラグを奪われていくガエリオの明日はどっちだ。
マクギリスルート一卓!
他キャラの好感度など要らぬ!!

他人に対しては冷たい鉄華団の一面を見せた、昭弘とシノの傍観シーン。
二人の視点から見て、星熊にこそ「復讐するは我にあり」状態ですので、止めに入る理由がなかったのでしょう。
タカキが人を殺すことにも遠回しに肯定的でしたし、家族の敵討ちなら邪魔をしない気がします。

しかしモーガン博士による狂気のスーパー阿頼耶識手術の惨状を見せられて戦意喪失。
修羅場を潜った星熊ですら直視できない悲惨な手術痕。
想像しただけで膝をつくほど恐ろしかったようですが、そのジュリエッタ拷問シーンを描写して読者様に読ませた外道作者がいるらしいですね。
人の心とか無いんか?

バエルゼロズ名物『嘔吐』

本日は星熊ちゃんの感情グルグルゲボーションからスタート。
うーん!美味しい!!

前菜から身体があったまってきたねー☆

崩れ落ちる少女を介抱するアグニカいいよね!
全部アグニカが厄祭戦の全フラグ回収出来なかったことから始まった負の連鎖。

つまり、これはお前が始めた物語だろ!!!!!!!!(マジキチスマイル)

まあ責任から逃れるつもりはないので、覚悟ガン決まりアグニカの邁進は止まらない。
ほんとは星熊ちゃんに付きっきりで看病してあげたいんだけどなー作者がなー。

相変わらず感情グチャグチャで整理が付かないまま、余韻を残して次の場所へ。

転送はキャラクターに感情の整理をさせないまま次の修羅場へ送れるから大好き!

アグニカと三日月の会話、くっっっそ久し振りですね……
今までは別行動だったり「力の世界」で眠ってたりしてたから……

最後の会話シーン、第九話「止まらない」からだとしたら3年と半年ぶり。
もう作者が書きたくないのかなと勘繰られるぐらいに間が開いてしまいました。
むしろもっと早く二人の絡みは書きたかったんですがねえ。
世界がそれを許してくれなかったんだ……(環境や時代のせいにする作者のクズ)

アトラが完全に「アグニカ=怖い人」として認識してくれているのが好ポイントです。
状況が変わったとはいえ、アグニカが戦乱を振り撒く魔王としての側面を持っていることは、今でも描写したいことの一つでありますので、アトラのように平和が一番という人種から忌避される描写はちょくちょく入れていきたい所存です。

エルピスさんはねぇ、死んだよ……
悲しいなあ……

バルバトスの前パイロットが惨殺されるシーンを書いた作者がい(略)
こわいなー戸締まりしとこ。

三日月がアグニカのクローンであるという情報を共有できたのも、思わずガッツポーズしたくなるほどの手応えを感じます。
よく頑張ってこの会話シーンを書いてくれた。
この残り時間を逃すと、地球本土防衛戦が落ち着くまで打ち明ける暇がないので、またリアルで数年後…ということになる最悪の未来が見える見える。

プルーマと大量に書いていて思い付いたのですが、ガンダムシリーズに「プルツー」や「プルトゥエル」が出てくるように、三日月にも型番があったりするのでしょうか?
「アグツー」や「アグトゥエル」という天使っぽいネーミングになって草バエルゼロズwwwwww


そして我らがアグニ会初代会長、ソロモン・カルネシエルさんが万を辞して登場。

三日月を見た瞬間に全裸開眼。

「透き通る世界」を見えていたり、首の弱点を克服していたりと、黒死牟のような何かになってしまったソロモンさん。

だって!
三日月の声優河西健吾さんが時透無一郎と同じだし!
三日月は右腕斬られてるし!
ソロモンが大好きな人の血筋だし!

ここまで揃ってて黙ってられるほど落ちぶれちゃあいないぜ!

こちらも書かねば……無作法というもの……


そして楽しい楽しいマフィア大集結会議室。

開幕早々に映画ブラザーをするビート・北野だいすき。
ファッキンジャップくらい分かるよバカヤロー!!!!!!!!!!!!!!!!
各国のマフィア集会であり、共通言語は英語という設定なのに何故か関西弁でヤクザの怒鳴り合いが始まるというカオスっぷり。

ビート・たけし VS アルパチーノ

なんだこの異種格闘技戦は……夢の対決じゃないかたまげたなぁ

本当は短機関銃を打ち合うイタリアマフィアのギャング抗争風の銃撃戦にする予定だったのですが、今話では誰も剣戟で戦っていなかったため、我慢できずに近接戦闘へと移行しました。

急に座頭市をやりだす北野さん好き。

そこへすかさずダーティーハリーでお馴染みのクリントイーストウッドと早打ち対決にもつれ込むの大好き。
声優はルパン三世と同じ人なのでイメージしやすい。

各国の有名俳優とバトルロワイヤルを繰り広げる北野さん。

最後はタイタニックで有名なレオナルド・ディカプリオに刺されて倒れる。
アウトレイジかな?

有名俳優を使い捨ての道具だ扱いして死体のように映すB級映画!
あーもう滅茶苦茶だよぉ!!(歓喜)

さらっと登場していたジャスレイ・ドノミコルスの「男気」によって場が治められる。
生きとったんかワレェ!
ひさしぶりじゃのう!(リアルタイムで3年半ぶり)

アニメ本編で死に際の「指の10本でも20本でも!」という台詞を本当にやってもらうことに。

まあ、彼も許されないことをしたけれどさ。
本作ではこんなに苦しんだし。
そろそろ許してあげてもいいと思うんだ。

だからバエルゼロズという作品において、

私はジャスレイを許します(魂の救済)

だから治療もしてあげたでしょ?(腹に手刀を突き刺して治療という鋼の錬金術師のホーエンハイムさんのような荒業)


場面は変わり、ついに『童子組』のボス、『鬼神』酒呑童子さんと御面談。

イメージは鬼化して千年生きた竈門炭治郎。
カウンセリングが極まって医療方面の礎と化した偉人。

あとアグニカさん、開戦まで七時間くらいしかないですけど、お酒飲んでて大丈夫かな?
まあフェイトの力でアルコールだけ転送して酔いをコントロールできるのかもしれないけど。
そもそも戦場の一兵士は緊張を誤魔化すために飲酒しまくってたはずだし、別にいいんですけどね。

比較的穏やかに話が進む酒呑童子との対談。
洗脳せずに有名人と話を終えた数少ないケース。
ここだけ終始穏やかなのいいよね。

酒呑童子の妻、茨木童子さんのイメージはやはり千年生きた竈門禰豆子ちゃん。
眠っている間だけネットにダイブしてめっちゃ働く系ヒロイン、かわいいね。

吸血鬼の正体についての資料が余っていたので長々と説明入れちゃってごめんね?

アグニカが禰豆子ちゃんの手をプニプニ触って触診してるシーンほんと好き。
のほほんとしてて好きだよ。


ガンダム・フレームを後半で一気に回収して回るアグニカ。
夏休みの最後の一日を一時間に圧縮して七回ぐらい繰り返していくかのような急ピッチ作業。
アグニカじゃなきゃ心か身体が壊れるか、そもそも不可能というタイムスケジュール。

これまた久し振りに登場したオリジナルキャラクター、カイト・アヤワスカ。
こいつも可哀想な奴なんすよ……

アグニカの力で仲間の魂に別れを告げ、正気を取り戻したカイト。
無事にアグニカパーティーへ編入されることになりました。
めでたしめでたし。

外伝「月鋼」の面々にも容赦なく『原作改編』の波が襲いかかる!!!!!!

ソロモンの黄金グレイズ「テルギア・グレイズ」は完結済みの名作『鉄華団のメンバーが一人増えました』の主人公アラズ・アフトル様が乗っていた作中最初の乗機から名を(勝手に)拝借。
ポーズは当然、バエルのポーズ。

月鋼の先のストーリーは、バエルゼロズがしかと受け継いでいきますぜ!
(原作改編に)ついてこれるかあああああああ!!!!!


何気に今回でマクギリスがガンダム乗りとして覚醒したのもここすきポイントですね。
CV櫻井孝宏さんなのをいいことに、『水柱』として奥義『凪』を使えるようになったマクギリス。
もはや敵無しでは?強すぎる。

そして何をトチ狂ったか、閃光のハサウェイを観て来た衝動から、シャトル内でイズナリオ様がハサウェイするという謎過ぎるシーンを追加。

もとより飛行機の予約など取っていなかったはずでは……???

ま、まあマクギリスの分はチケットなかったけど、イズナリオ様の分の(あの世行きの)飛行機の予約はしていたという意味だったんだね!(苦しい解釈)

ていうか背中刺されて一日もたってないのに元気だねイズナリオ様。

脳内でマクギギリスちゃんの声が響いてくるので全力全快。
「やはりお前は、私にとっての幸運の女神だよ……」とか普通に言いそうで怖いですね。

ギャラルホルン兵士は皆、イズナリオ様のことを『特務』大将と呼んでくれる良い子ばっかりなので、彼をただの大将呼ばわりしてブチギレさせる悪漢キャラが欲しいと思っていたので、カボチャ頭の偽マフティーは絶好の人材だった訳ですね。

イズナリオ様でハサウェイをやるというのはたぶん私が世界初なんじゃないかな?(オリジナリティーの主張)
つまり私が世界最速です(RTA)

そして無事にテロを生き延びたにも関わらず、『約束された墜落のヘリ』に乗り、死に最も近い特等席、ガラス張りの空中司令室に乗り込むイズナリオ様。

あーあ……(マキマさん)

時臣くん味の死亡シーンとマクスウェル味の死亡シーンで二度楽しめる。
こんなキャラを作ってくれて、サンライズさんありがとうやでホンマ。

本作の初期でアグニカが感知した26機のガンダムを全て回収。
ポケモン図鑑が埋まった時のような感動がありますね。


遂に始まってしまった第二次厄祭戦地球本土防衛線。

地獄の門は聖杯の泥ォ!!!!!!!

『Fate』パクるんだからこれぐらい当たり前だよなあ!?

この泥に呑み込まれたら黒化して敵のモビルスーツとして登場することになります。

そして楽しい一斉射撃!!
ヒャッハーーーー!!!!!!!!
これこれ!これよお!!
これが書きたかった!!!!(歓喜)

もう書きながら「うおおおおおお!!!」と雄叫びを上げていたので訳の分からない文脈になっていたかもしれませんが、ここは本当に積み重ねてきたものが動き出す第一歩なので、本話を投稿できて嬉しい。感無量でございます。

私も四大天使書きたいな~という欲求も、ここでなら一気にブチ撒けられる!!
我慢を知らない現代っ子であるヨフカシがあ!!!
ここぞとばかりに流し込んできたあ!!!

四大天使本体ではなく、予備パーツを繋ぎ合わせて作った紛い物。
それでも絶望感は半端じゃあない。

個人的に一番好きな武装はミカエル・スペアの「アンチ・アブソリュート・テラー・ファンネル」。
なんでATフィールドが存在しない世界にアンチATフィールドがあるのかは不明(笑)
でもかっこいいから好き。

宙域そのものを呑み込める『固有結界』を四機同時展開。

絶望かな。

それを覆してこそのアグニカ!
真の主人公ですよ!!!!!!


刻針が始まりのゼロへと至る今話、いかがでしたでしょうか。

次回からはジャンジャンバリバリ、地獄の厄祭戦を生放送!

第三章『混乱』にして、『業火』のタイトルに相応しい激戦を描いていきたいと思います!

それではまた次回!!(^ω^)

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