ジャパリパーク召喚 導かれしフレンズたち   作:ロウロウ

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仕事の都合でかなり遅れが出てしまいました。申し訳ありません。本編に関してはもう暫くお待ちください。

今回は番外編です。小豆バー公式化記念。小豆バーには多分に誇張が含まれているのでご注意下さい。また、どん兵衛ネタも一部含まれます。

時系列は異変解決後になります。


ばんがいへん:あずきばー

ジャパリパーク ゆきやまちほー 温泉旅館

 

 

「――フフフフフフフフフフフーン♪」

「やめて頂戴」

 

両手をフリフリさせ、楽しそうに鼻唄を歌うキタキツネに対し、ギンギツネは顔を真っ赤に染めながらツッコみを入れる。

”ふっくら”なお揚げが入った”もっちりカップうどん”を作る為、キタキツネの言葉に乗せられて恥ずかしい踊りを披露した彼女は、雪があったら飛び込みたい気分に駆られていた。結局踊ってもカップうどんは完成しなかったので尚更だ。

 

「っていうかキタキツネ!貴女絶対これの作り方分かってたでしょ…!?何が『踊ったら出来る』よ!」

 

ギンギツネはお湯を掛けて完成させ、食べ終えて空になった容器をキタキツネに突き出す。

 

「え~、何の事~?僕には全然分かんないや~」

「記憶喪失中の口調で惚けるな!」

 

当然、ヒトが居た時代の記憶を取り戻したキタキツネは、カップうどんの作り方など十二分に理解していた。ギンギツネに踊りを行わせたのも、ちょっとだけ彼女をからかってみようと思ったからに過ぎない。

 

「全くもう…兎に角この話はこれでおしまい。さっきの事はさっさと忘れて頂戴」

「えー、何でよー?ギンギツネの踊り、なかなか良かったじゃん?顔を真っ赤にした時とか結構可愛かったし――」

「はいはい!次行くわよ、次!」

 

ギンギツネはカップうどんに関する話を強制的に終了させ、次の話題へと移った。部屋の端に設けられた冷凍庫から和風テイストな袋が2つ取り出され、2人の前に並ぶように置かれる。

 

井戸村屋史上硬さMAX!!スーパー小豆入りバー!!

 

袋にはこの様な文章がデカデカと書かれていた。

 

「これって…ただのアイスじゃない。これの食べ方も調べろって事?」

 

キタキツネは袋を開き、中からキンキンに冷えたアイスを取り出してまじまじと観察する。

 

「えぇ。ハカセたちがそう言ってたわ」

 

アニュンリール皇国との紛争が終結して1ヶ月。ヒトが暮らす国々との国交樹立に向けて動くジャパリパークには、異変解決を支援してくれた日米露3ヶ国の外交官が訪れていた。

この時、此度の件を聞きつけた一部の民間企業が、宣伝を目的に自分たちの商品を使節団に預けていた。新しく現れた市場にいち早く参入し、他企業に対する優位性を確保する為だ。『ふっくらカップうどん』を製造した『ニッセン』、そして『スーパー小豆入りバー』の『井戸村屋』も、その中の一つだ。

しかし、ハカセたち長は他国の外交官たちとの交渉で忙しい。故に他のフレンズたちに商品評価を行わせ、その報告を元に輸入の是非を決める事になった。

 

「…それにしてもハカセたち、何であんなに泣きそうな顔をしていたのかしら?」

 

カップうどんと共に小豆バーを受け取った時、ハカセも助手も口周りを手で押さえながら、涙目で震えていた。一体何があったか気になったが、どうやら喋れるような状態ではなかったようで、結局分からずじまいだった。

 

「変な色してるわね。本当に美味いのかしら?」

 

暫くアイスと睨めっこをしていたキタキツネは、大きく開いた口の中にアイスを入れ、

 

「あむっ!」

 

思いっきり噛り付いた。

 

ガリッ

 

「…ガリ?」

 

同時に何やら妙な音が聞こえた。ギンギツネが音のした方を見ると…

 

「――――!!!」

「ど、どうしたのキタキツネ…!?大丈夫!?」

 

片手で口元を押さえ、前歯から来る猛烈な痛みに耐えるキタキツネ。只ならぬ様子にギンギツネは心配そうに声を掛ける。

 

「かっっっっっっっっったーーーーーー!!!!」

 

ようやく痛みが和らいだキタキツネが最初に発した言葉は、アイスに対する評価を端的に表していた。

日本一の硬さを誇る小豆バーは、彼女の歯に強烈なダメージをもたらした。それでも何処ぞの皇太子の様に歯が折れなかったのは、フレンズの強靭な肉体故だろうか。

 

「何なのよこのアイス、幾ら何でも硬すぎでしょ…!こんなの食べ物じゃないわ、食べ物っぽい兵器よ!」

「だったら漕げば良い…じゃなくて、そんなに硬いの?」

 

ギンギツネも袋からアイスを取り出し、恐る恐る噛んでみる。そのあまりの硬さに、彼女は表情を歪ませた。

 

「本当…何て硬さなの?まるで鉄の塊を食べてるみたいだわ…」

「クソっ、全然噛めない!こうなったら…野生解放!!!」

「!?ちょ、ちょっと…!」

 

むきになったキタキツネは野生解放を発動させ、瞳を虹色に光らせた。仮にも食べ物?相手にサンドスターの無駄遣いである。

そして歯の強度と顎の力を大幅に強化した彼女は、改めて勢い良く噛り付いた。果たしてその結果は…

 

ガリッ!

 

「くぁwせdrftgyふじこlp――!!!!」

「もう、無茶するから!」

 

再び激痛でゴロゴロと床の上を転がるキタキツネ。畳の上に落ちた小豆バーには、僅かながらに彼女の歯型が付いていた。野生解放したフレンズの圧倒的パワーに耐えるとは、恐るべき食品である。

 

「こ…こんなのお手上げよ。どう考えても食べられる訳ないじゃない!」

 

野生解放しても食べられない程の硬さ。小豆バーは歯の代わりにキタキツネの心を折ってしまったようだ。

 

「そういう訳にもいかないでしょ?食べなきゃ評価しようがないんだから。兎に角、何とか良い方法を見つけないと」

 

そう言うギンギツネだったが、彼女もこれ程の硬度を持つ食品?の上手い食べ方が思い付かない。お湯で溶かして食べるという手もあるが、それではきちんとした評価が出来たとは言い難い。しかし他の案が全く浮かばず、ギンギツネは内心頭を抱えた。

その時、畳の上で仰向けになっていたキタキツネがある事を思い出す。

 

「あっ、そうだ」

「どうしたのキタキツネ?何か良い方法が見つかった?」

「かばんやマコトたちに聞いてみるってのはどう?」

 

任務の関係上、現在もパークに滞在中の柚崎ら日本勢、そしてかばん。特に日本人である柚崎たちならば、このアイスの良い食べ方も知ってるかもしれない。

 

「良いわねそれ!早速あの子たちの所に行きましょう!」

 

2人は柚崎たちが寝泊まりしている、ロッジ『アリヅカ』へと向かった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

ジャパリパーク ロッジ『アリヅカ』

 

 

「……」

「え?何これ…?」

 

ホールへ入ったギンギツネたちの目に飛び込んだのは、複数のフレンズたちが床に転がってプルプル震える光景だった。無事な者たちが数名、彼女らの介抱にあたっている。

 

「あぅ…は、歯が痛い…」

「大丈夫だよアリーシェちゃん、何ともないみたいだから…ってあれ?キタキツネにギンギツネちゃん?」

「あ、本当だ!どうしたの二人とも?」

「こんちには。お久しぶりです」

 

コウの歯を診ていた黄色髪の女性自衛官――柚崎が此方に気付いた。彼女に続いてかばんとサーバルも振り向く。

 

「ういっす。ところで一体何があったのよマコト?随分とカオスじゃない」

「長老様…!?大丈夫ですか…!?」

 

挨拶もそこそこに、キタキツネは柚崎にこの状況の説明を求めた。ギンギツネは悶えるコウに気付き、彼女のそばに寄る。

コウは痛みに耐えながらも何とか言葉を絞り出す。

 

「ま…マコトの国から頂いた"あずきばー"を食べようとしたら、こんな事になっちゃたのよ…。マコト、本当にこれは食べ物で合ってるのかしら?」

「え?うん、小豆バーは歴とした食べ物だよ。ただ井戸村屋のはすごく硬い事で有名でね、確かに歯が傷付くヒトも何人かは出てるよ。これで刀が作られる位だし」

「やっぱり兵器か何かでしょ、それ!?」

 

さらりとすごい事を宣った柚崎に即座にツッコみが入る。武器の材料に使われるなど冗談にしか聞こえないが、確かにこの硬度ならと不思議と納得してしまう。

 

「もうキタキツネったら何言ってるの?これは兵器じゃなくて食べ物よ、食べ物」

「うぅ…魔力で顎と歯を強化して歯型すら付かない食べ物って何なのかしら…?」

 

度を超えた硬さのこれを食べ物と称するとは…一体日本人はどんな食生活を送っているのだろうか。コウは別の意味で日本に興味を抱く。

が、それ以上に…

 

「というより…。そんな硬いアイスをマコトはよく何事もなく噛み砕けたものね…。私は貴女の顎と歯がどうなってるのか気になってしょうがないわ…」

 

多くのフレンズたちが悶える中、唯一柚崎だけは強靭な硬さを持つ小豆バーをボリボリと食べていた。

 

「はぁっ…!?嘘でしょマコト!?あれを食べれたの…!?」

「うん、私もビックリしちゃった!さっきのマコトちゃん、すごかったな~!」

「ま、待ってよ。そんな大した事じゃないってサーバルちゃん。私はただ普通に”しゃりしゃり”食べただけだから…!」

 

柚崎は両手の平を顔の前に出し、ブンブン振って否定する。

 

「大した事じゃないって…あんな鉄みたいなの簡単に食べられるわけないじゃん!何かコツとかあるんでしょ!?」

「いやいや、本当に大した事はしてないって!」

 

キタキツネは驚愕しながらも食べ方のコツを聞き出そうとするが、当の本人は考え無しに齧っただけだと繰り返す。こいつはヒトを辞めてるのではないかと思うキタキツネだった。

 

 

 

 

ようやく回復したフレンズたちも含め、この場に居る全員が一つのテーブルに腰掛ける。

 

「はあ……酷い目に遭ったのだ。フェネックとゴールは大丈夫なのか…?」

「大丈夫だよアライさ〜ん。私はアイス?を舐めて味わったからね〜。ゴールさんは?」

「まだちょっと痛むけど取り敢えず大丈夫みたいネ…。それにしても何て硬さなのネ……魔獣の私ですら碌に噛めないなんて…」

 

先ほどの事で疲労が溜まったのか、アライグマはテーブルに突っ伏して大きく息を吐く。そんな彼女の両隣にフェネックと、狼の耳と退化した羽、そして一本の角を頭から生やした少女――フレンズ化したゴウルアスの二人が座る。

ばすてきトリオはフェネック以外の二人が、日本最強の硬さを誇る小豆バーの餌食になっていた。

 

「ところで二人はどうして此処に?その口ぶりから大体予想はつくけど…」

「えぇ。アンタにそのアイスの食べ方を教えて貰いに来たのよ」

 

キタキツネはそう言って、テーブルにあった未開封の小豆バーを手に取る。おそらく今の自分たちを同じ様な目に遭ったのだろうと、柚崎は何となく察した。

 

「そうだったんだ。でも生憎私には上手い食べ方なんて分からないわよ?せいぜいキャンディみたいにペロペロ舐めるくらいかな?かばんちゃんとサーバルちゃん、フェネックちゃんはそうやって食べてたしね」

「はぁ。割と地味ね」

 

柚崎の答えにご不満な様子のキタキツネ。

 

「地味って…食べられるならそれで良いじゃない?」

「私はね、マコト。もっとこう…印象に残るような方法で食べてみたいのよ。ニホン人のアンタなら色々と知ってそうだと思ったんだけど」

「そんな無茶な。私は動物好きだけど、食べ物に関してはそこまで興味とか拘りとかないし、大した知識も持ってないよ」

「…ったくしょうがないわね。コウ。アンタは何か良い案持ってない?」

 

宛てにならないと判断したキタキツネは、今度は長老として豊富な知識を持つコウに話を振る。コウは暫く考えた後、少し自信ありげに答えた。

 

「火属性魔法で溶かしてドリンクにして飲むとかは?」

「却下」

「あう…」

 

即答され思わず変な声が出るコウ。そりゃ却下されるだろう。液体にしたら最早アイスではない。ましてやキタキツネたちは魔法なぞ使えない。

 

「アイスって食べると"しゃりしゃり"するんでしょ?私はその"しゃりしゃり"を味わってみたいのよ。でもこんなに硬くちゃ噛む事も出来やしない!だから何とかしなさいよ!」

「ちょっとキタキツネ!こっちが教えて貰う側なのに失礼でしょ!」

「この問題をどうにかしないと私、全然安心出来ないのよ!」

「ちょ、ちょっと二人とも!喧嘩はだめだって!」

 

食べる事さえ叶わなかった事が悔しいのか、相当意地になってる様子。段々と口調が荒くなっていく。そんなキタキツネの態度に語気を強めて注意し始めるギンギツネ。次第に言い争いへ発展しそうになるキツネの子たちを、柚崎たちは止めに入るのだった。

 

そんな騒がしくなっていくフロア内で、唯一かばんだけは皿の上の小豆バーを眺めながら、静かに考え込んでいた。

 

「しゃりしゃり…しゃりしゃり…」

 

どうすれば柚崎やキタキツネが言う”しゃりしゃり”とした食べ方を味わえるのか?聞いてて心地良い効果音を小声で何度も呟きながら、自分の中にあるヒトという動物の記憶と、自身が今まで得た知識を頼りに最善解を構築していく。

 

「…そうだ!」

 

やがて何か閃いたのか、テーブルから勢いよく立ち上がる。先ほどまでの喧騒がピタッと止み、全員がかばんに視線を集中させる。

 

「かばんちゃん!何か良い事思い付いたの?」

 

サーバルはかばんの様子から何か閃いたのだと察し、興味津々な様子で尋ねる。そんな彼女にかばんは自信に満ちた笑顔でコクリと頷く。

一同の目の色が変わる。特に大きく反応したのはキタキツネだった。

 

「ほ、本当なのかばん!こんなに硬いアイスなのよ!」

「大丈夫ですキタキツネさん。僕に任せてください。…アリツカゲラさーん!!」

 

かばんはテーブルから離れると、アリツカゲラを探しに部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

『いただきまーす!!!』

 

それから15分後。一同はテーブルを囲む様に腰掛け、目の前に用意された美味しそうなデザートを堪能していた。

 

ガラス容器に入れられた、砕かれた氷の様な食べ物。その驚異的な硬さを持ってフレンズたちを苦しめた兵器…もとい小豆バー。それを粉々に砕いて作ったかき氷だった。

 

「う~ん、とっても”しゃりしゃり”してる!これよこれ!こういう食べ方がしたかったのよ!」

「おいしー!これなら安心して食べられるね!」

「噛まなくても口に入れるだけで簡単に溶けちゃうからね」

 

口の中に入ったかき氷は歯で容易く噛む事が出来、その度に”しゃりしゃり”と心地良い音が鳴る。キタキツネもご満悦な様子で食べ続ける。

 

「喜んで貰えて嬉しいです」

「それにしても小豆バーをかき氷にするなんて…考えたわね、かばんちゃん」

「前に図書館で読んだ本の中に同じ様なデザートが書いてあったんです。此処にこれがあるかどうかは賭けでしたけど、あって良かったです」

 

テーブルの中央には、アリツカゲラが倉庫から出してくれたかき氷機が堂々と鎮座している。柚崎にはその様子がまるで、”私のおかげだ。感謝しろよ?”と何だか偉そうに言っている様に見えた。

 

「しかし、こんなに硬い食べ物をよく簡単に砕いてしまったわね…。確か…”かきごおりき”だっけ?」

 

コウは小豆バーを容易く粉々に出来る機械がある事に内心驚いていた。かき氷機に備えられた小さな刃では、この硬さには到底敵わないと思っていたからだ。

 

「日本製のかき氷機には小豆バーを粉砕出来るものもあるみたい。これ、かなり古いけど日本製みたいだしね」

「…とんでもない機械ね。刃にオリハルコンでも使ってるのかしら…?」

 

かき氷機には”Made in Japan”の文字が刻まれていた。見たところかなり古く、パークにヒトが居た時代に持ち込まれたものだろう。

 

(…あれ?)

 

その時何かに気付いた柚崎は、かき氷機を目を細めて注視する。

 

(うっすらとだけど…ペンで持ち主の名前が書かれているみたい。う~ん、何て読むんだろう?)

 

しかし長い年月の影響で文字が殆ど消え失せ、最早読む事は不可能に近かった。文字数は3文字のようだが…

 

何はともあれ。驚異的な硬度を誇る小豆バーは、かばんちゃんの叡智により無事みんなのお腹の中に収まりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――数十年前。

 

「う~ん、冷たくてすっごく美味しい!これって何なの、ミライさん!?食べるとすっごく”しゃりしゃり”ってするよ!」

「かき氷って言います。私の祖国、『日本』の食べ物なんですよ。暑い日にはピッタリのデザートです」

「この紫色の粒々は何なの?素朴な甘さが良いわね」

「これは小豆です。今回は私が日本から持って来たこの機械を使って、日本一硬いと言われるアイスをかき氷にしてみました。これなら硬いのが苦手な子も安心して食べられますよ」

 

サーバル、カラカルの二人に祖国日本のデザートを振る舞うミライ。この日のおやつは『井戸村屋』の『小豆バー』で作ったかき氷だ。

 

 




おまけ「しゅらば」

ムーラの相棒(イメージCV:井口裕香)


「ねぇ、ムーラ様。今度私とデートに行きませんか?この竜に乗って空の旅をしながら」
「あらエネシーさん、貴女またいらっしゃたのですか?主人には私が居ると何度も仰いましたよね?いい加減諦めてくれません?」
「あら、私こそ奥様が居ようが関係ないと仰いましたよ?絶対に貴女からムーラ様を奪ってみせますわ」
「…言ってくれるじゃない、この小娘が」
「…うっさい。年上だからって良い気にならないでよ」
「あぁ?」
「おぉ?」
(…北村さん。私、貴方の事一生恨みます…)

自宅の竜舎前で、それも相棒の前で睨み合う二人の女性に挟まれ、ムーラは国益の為にこの修羅場を作り出した元凶を恨んでいた。

「きゅる…」
「よしよし。俺が居るから大丈夫」

ムーラは怯える相棒を安心させつつ、この修羅場が早く終わって欲しいと神に祈るのだった。

その時、ふと彼が空を見上げると――。

「…なんだあれ?」

何やら天空の遥か彼方が一瞬光ったかと思うと、ほぼ真上から虹色の結晶のような物が落ちてきた。
それはピンポイントで相棒に直撃し、その巨体の全てを光で包み込んだ。

「あ、相棒!?」
「え!?」
「な、何なの…!?」

何が起きているのか分からず、狼狽する3人。しかし、こんな時でもムーラの妻とエネシーは、しっかりと彼に抱き着いていた。

「!?」

ムーラは更なる変化に目を見開いた。全身を光に包まれたワイバーンのシルエットが大きく――ただし体格はヒト並に小さく――変化していき、やがて光が消えると――。

「「「……は?」」」

3人とも同時に間の抜けた声を漏らす。相棒が居た筈の場所に相棒は居らず、代わりに一人の少女が地面に座り込んでいたからだ。年は日本でいう女子高生くらいだろうか。
よく見るとその少女はワイバーンの特徴を兼ね備えており、頭からはワイバーンの羽を、お尻の辺りには長く立派な竜の尻尾を生やしていた。目線を変えると、ムーラが前に相棒へ送った青いバンドを左腕に装着している。

「…相棒?」

まさかとは思いながら、ムーラは謎の少女にそう呼び掛けた。それに対し、自分の体を混乱した様子で見回していた少女は、ハッとなって彼を見ると…

「…ムーラ?」

そう返して来た。これにムーラたちは確信すると同時に、全身に雷魔法を受けた様な衝撃が走った。

「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!『空から降って来た虹色の物体が相棒に当たったと思ったら、相棒が少女の姿になった』。な…何を言っているのか分からねーと思うが、おれも何が起きたのか分からなかった…。頭がどうにかなりそうだった…。魔法だとか科学だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと不可思議なものの片鱗を味わったぜ…」
「む、ムーラ様、落ち着いて下さい…!」
「っというより何処を向いて喋ってるの!?しっかりして貴方!」

混乱のあまり何処ぞのスタンド使いの様なポーズを取るムーラは、妻とエネシーに止められるまで神妙な面持ちで喋り続けた。

「嘘…言葉が通じた……私の…言葉が…」

いち早く混乱から脱した少女――ワイバーンのフレンズは、主人と会話が出来る事に気付き、わなわなと震えると。

「ムーラーーー!!!」

思いっ切りムーラに抱き着いた。少女の行動に動揺するムーラ。

「わぁっ!?ちょ、ちょっと君…!」
「ムーラ!ムーラ…!ずっと…ずっと貴方とこうしてお話したかった!!」
「……」

目に涙を溜めた笑顔で、何度も何度も主人の名を嬉しそうに呼ぶワイバーン。そんな相棒の姿に当初は動揺していた彼も、次第に落ち着きを取り戻していく。

(この懐きっぷり…未だに信じられないが間違いない。この子は紛れもなく俺の愛竜だ)

何故少女に変化したのかはさて置き、彼は子に対する親の様な笑みを浮かべながら、彼女の頭を優しく撫でる。それが心地良いのか、尻尾をフリフリと振る。

「…本当にお前なんだな。相棒」
「うん。変な光に追われて助かった事も、ムーラと一緒に巨大な鳥の群れから皆を守った事も!全部全部覚えてるよ!」

ワイバーンは妻とエネシーの方を向き、人懐っこい笑顔を浮かべる。

「変な光から助かったのは貴女のおかげだってムーラ言ってた!だから助けてくれてありがとう!貴女も無事で良かったね!……これをずっと伝えたかったんだ!」
「ワイバーンちゃん…」
「えと…あ、ありがとう?」

ムーラの妻もエネシーも、その明るい笑顔に吸い込まれそうになる。
先ほどまでの修羅場が嘘の様に消え失せていく。ムーラは修羅場から解放された事に一安心し、解放してくれた相棒と自分の祈りを聞いてくれた神に心から感謝するのだった。

…が、彼は即座に神に見放される事に。

「…まぁそれは別として」
「え?」
「何で私のムーラ様に抱き着いているのかしら?」
「え?え?」
「…それはこっちの台詞。と言うか…貴女たちじゃムーラを幸せになんて出来ないよ。ムーラが壊れちゃう。でも私ならきっと幸せに出来るんだから。…だからいい加減私のムーラから離れてくれない?」
「え?え?え?」
「へぇ…言ってくれるわね。妻の私を差し置いて幸せに出来る?笑わせないで頂戴」
「いや…あの…皆さん?これってまさか…」
「ムーラ様」
「貴方」
「ムーラ!」

3人の女性たちが一斉に自分を見る。顔は笑ってるのに目が全く笑ってない。先ほどまで輝かしい笑顔が絶えなかった相棒も、絶滅種でもないのに目から光を消していた。ムーラは全身が凍り付くのを感じた。

逃げたい。だが全員にがっちりと抱き着かれ、逃げられない。

「「「誰を選ぶの?」」」
(あぁ、空はこんなに青いのに…)

再び始まった修羅場の中心で、ムーラは現実逃避するように青い空を見上げるのだった。





(…恋愛って碌な事がないわね。私はそういうの遠慮しとこ)

少し離れた所から修羅場を眺めていたムーラの娘は、幼くして人生を悟るのだった。

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