クトゥルフ神話TRPGもっと流行れー
――ありとあらゆるモノが焼ける臭いがそこら中に漂っている。
一体何事だと目を開くと、視界に映るもの全てが炎に包まれていた。
……一目でカルデアの管制室内ではないとわかるが此処は一体何処だ。私は藤丸立香だ。それはわかってるからいい。
というか何だ、さっきから頭を小突いてくる奴は。起きてるっつーの。
「おっ、気がついたかリツカ」
「何だこの、痛Tシャツしか着てないケモミミ幼女……どちたの、迷子かな?」
「……お前、わかってて言ってんだろ」
サーセン。そう怒るなよロリっ子め。
起きたての私に辛く当たる、『SAN値直葬』と書かれたTシャツ姿の謎の白髪犬耳幼女の名前は、シルバ。
――つまりは、直前までカルデアに一緒に居た狼だ。何を隠そうコイツはとある実験施設で保護した人狼であり、私が保護することで保健所送りを回避している運の良い奴だ。
なお、名前の由来は出会った時に首にぶら下げていた銀の弾丸に由来していたりする。まあ、今はそんなことはどうでもいいので現状把握を優先しよう。
「で、ここは何処なのさ」
「――ん、多分、冬木ってところだろ。アナウンスでも言ってたじゃんか」
だろうな。そうだろうとは思っていたけどさ。冬木って常時炎上しているのが名物でしたっけ。オールウェイズ本能寺の変か何かかよ。たまげましたな。
……冗談はさておきだ。火のないところに煙は立たないのだから、何か異変が起きて炎上するに至ったのだろうなと見当をつける。
ガス爆発や爆破テロの線をまず第一に疑ったが、その程度で人類の未来が消失するならとっくに世界は何度も終わってるという話になった。だとすればなんだ、何処ぞの馬鹿が邪神を複数召喚するなりして戦い合わせたか? いやでも、もし仮にそうなら今でも戦っていて炎上どころじゃないはずなんですが、別に何にも居ませんね。
「というか、さっさとイス人の誰かに連絡して『本当に未来なくなったの?』って質問しとけばよかったわ」
イス人とは旧支配者の一つであり、大いなる種族とも称される存在のことだ。時間と空間を超越する技術力というか科学力を有しており、大体の連中は生物もとい人間の肉体に憑依し気に入ったこと、興味を持ったことに関して知識を収集したりしている。
また、時間を見守るタイムパトロールめいた事をしている存在もなかにはいて、結構トラブルに対して助言やフォローをしてくれる事もしばしばあった。
余談だが、結構仲が良いので個人的に連絡先も交換していたりする。電話すると高確率で渋いおっさんヴォイスなんだが皆そういうのが好きなの? ダンディフェチ?
「……ま、電波立ってねぇし無理なんですけどね」
「えっ、向こうに電波もクソもないだろ?」
そーでしたね。相手、圏外何それ美味しいのって感じで連絡してきますしおすし。
のんびり知り合いのイス人の誰かが生き残っていて連絡してくるのを落ち着いて待ちましょうか。別に知り合いのまた知り合いでもOKよ。
問題はこっちの生存に気づいてくれるかどうかだが。
「大丈夫だろ、お前なら無事なんじゃねーかなってきっと向こうにも思われてるはず」
「………」
「――察した。もう言われたことあるんだな、悪かったよ」
イス人に限らず、似たようなこと言われまくった私の気持ちがわかるものか。わかってたまるものかよオオオオオッ!!!
私だって殺されたら死ぬんです……って何言ってんだ私。……いやうん、軽く思い出したけど死んだことに近い状態にされても何か復活してたわ。じゃあ、前言撤回。殺しても多分死なねーわ。本当に何言ってんの私、病院行く?
残念ながら冬木の病院も絶賛炎上中のようです。ちっ、使えねーなおい。
誰だよ放火したの。私が受診できないじゃないか。絶対許せねえし、とっちめてやるよ。
……そんなわけで、意味不明な動機で異変解決、またの名を特異点探索を私は開始する。
「んで、真面目な話だけど何が原因でこうなってるんだと思う?」
「ヤバイ兵器使ったにしては原型留め過ぎてるし、壊れ方も燃え方もなんか不自然だな。……何ていうか、何時ぞやの忍者連中がガチでやり合ってた時に似てるかなぁ」
あー、言われてみればそうかもしれない。あの忍ぶどころか暴れてる人達、任務の度にガチな戦闘でガチな技使って毎回被害出してるし。
某有名な鬼が復活されかかっていた時に嫌というほど実感した。あいつら加減てものを知らないんだもの。無駄に血の気多いし。復活しちゃった時に止めるの苦労したわー……何で私ごと殺しにかかるのかな。一人だけ違うゲームをしている感じで返り討ちにしてやったけどさ。
……話を元に戻すが、ケースとしては確かに酷似してると言ってもいいだろう。つまり、特異点Fで暴れまわっているのは忍者だったんだよっ!! な、なんだってー!!
「ニンジャ、殺すべし……ッ!!」
「何故そうなるんだよ」
「いや、シルバが似てるっていうからさ」
本当はもっと別の連中の仕業だってことは理解しているよ。
――何せ、さっきから遠くで
……あっやべえ、別に挑発してないのに殺意が増しましたよ。なるほど、仕掛けてくるんですかそうですか――ふーんじゃあ、逃げるのではなく対応してやろう。
シルバに背中にでも捕まっとけと指示を飛ばしておくと、さも気づいていませんよーという雰囲気を醸し出す。ほーれ、狙え狙え。私は此処にいるぞー。
その数秒後、予想した通りに何かが複数飛来し、確実に射抜かんと私に迫った。
「……はっ、悪いけど、その程度じゃ私は殺せないよ」
対し、私は片足を大きく浮かせる動作し、直撃まであと10m以内と近づいたところで思いっ切り――足元を踏み込んだ。
次の瞬間、アスファルトの道路は即席の盾となって私の前に立ち塞がり、矢に見立てたらしい無数の剣を受け止めていた。俗に言う、畳返しである。お見事っ!
続けざまに爆発もしたようだが、その時には攻撃の有効範囲外に私は出ていた。
「げえっ」
そこへ幾らか殺意の増した一撃が接近する。
今度は量より質ということで、威力も高めてきたようである。その証拠にギュンギュン音を鳴らしながら風を切っており、直撃したら死ぬよー直撃しなくても死ぬよーと告げてきている。うわっ、何処の新型ミサイルだよ。どうすんのあれ……迎撃ミサイルシステムはどうしたー!?
「素直に回避だな」
「それ以外あるのかよ」
回避してまた回避してても一向に事態は好転しないことは百も承知である。
でも、チャンスは後から回ってくるってよく言うでしょ。待て、しかして希望せよって。だから耐えるのもまた大事。
なので、暫く幼女抱えながらパルクールをキメることを選択した。……オラ、見えてんだろう。華麗な動きで貴様の戦意喪失させてやるよ! フハハハハハハハッ(泣)!!!
***
――なんか飽きてきた。しぶといっていうかしつこいわ、あんにゃろう。
かれこれ1時間ぐらい耐久してるのに何で諦めてくれないんスかね。しつこい男は嫌われるよ? 男かどうか知らんけど多分男だ(暴論)。
「まだ終わんないのかー」
私だって止めたいわ。でも、私が死ぬまで狙うのを止めないって向こうも決め込んでるみたいで一向に決着がつかないのさ。
いっそのこと、全身フル強化でとんずらしてしまうのもアリだろうか。うーん、出来なくもないけどもリベンジってことでまた襲い掛かられる展開が見えているな。一難去ってまた一難で対策も立てる必要が出てくるしタイミングの問題が……ああもう結局、埒があかないな。蒸し暑いのに頭冷えてきたわ。
「止めぬなら 殺してしまえ ホトトギス」
「急に何俳句詠んでんだよ」
「真面目に考えて、此処でずーっと立ち往生しているのはどうかと思った」
さっさと冬木市大炎上の真相を突き止めてカルデアに帰らなきゃ。
マシュがあの後どうなったのかも気になるし、ロマニや47人の適性者とその他スタッフが生きてるかも気になってるんだよ。
……えっ、実は帰れないって事になったらどうするかって? 安心しろ、私はいざという時の『門の創造』を取得している(ドヤァ)。他の呪文と組み合わせれば自力でも何とか帰れるだろうとは思っている。思っているだけで上手くいくとは言っていない。
「今、門を作って戻るっていうプランは?」
「爆破された直後のカルデアに、再レイシフトを準備する余裕があるとは思えんだろ」
そのせいで滅び確定、お疲れ様でしたってなったら戦犯私やん。だから、何も解決しないまま帰るのはパスで。何かしら成果残さないとヤバイって頭が警鐘を鳴らしてる。
「なら、どう倒すんだよ。距離があり過ぎるぞ」
「――それは理解してる。ま、何とかしてみせるよ」
シルバにリュックごと私から降りるようにお願いし、かつその中身から包帯を巻くように呪詛で保護されたあるモノを取り出してもらう。
……それは、先端が禍々しく捻じれ、この世のモノとは思えない残虐な生物の口をイメージさせるような杖のようなものだった。
手に持ち振り回す自身でさえ恐怖を感じざるを得ないそれは段階的に伸びるように加工されており、持ち手部分を強く引っ張ると杖でなく身の丈以上の槍へと変貌する。
「……ムーンビーストの槍か」
正直、イソギンチャク野郎共との戦いに良い思い出ないし気持ち悪くて廃棄処分したいんだけど、加工した人が余計なことしてくれたせいで捨てても手元に戻ってくるんだよなぁ。軽くじゃなくてガチでホラーだよ。
……おのれエロタイツのお姉さん。いつかひいひい言わせてやる、覚えてろよな。
ところで、攻撃が突然収まったな。向こうもいい加減ケリを付けるつもりなのだろうか。
「なら文字通り、――
名前も姿も知れぬ相手に引導を渡すというのは初めての体験だ。だがある意味面白いと言えるだろう。
……らしいこと思っちゃってるけど、本当に誰なんだよ。挨拶ぐらいしに来いよ。忍者連中だってそのぐらいはしたぞ。忍者じゃないからしなくてもいいだろとか言い訳は結構な。
両脚に強化を施し、私はムーンビーストの槍を蹴り上げて上空に先行して打ち上げる。
続けて自身も槍に追いつかんと大きく跳躍を行い、回転する槍との間隔や角度を計算及び調整をする。
「我は――相容れぬ者を残酷に穿つ。心を侵す恐怖を此処に」
穂先が先程から攻防を繰り広げる相手が潜伏する先へ向けたれたと同時に、足の甲に槍の石突を密着させ……それを蹴り放つ。
「蹴り穿つ――
私を敵だと認識するのなら相応の報いを与えよう。これが因果応報の一撃だ。
さあ、足掻いてみせろ。当たれば最後、お前は想像を絶する惨たらしい最期を遂げるだろう。
……殺意の念がこれでもかと込められた呪いの槍が、赤い空を黒く染め上げるようにして飛んでいく。すれ違いざまに向こうからも赤い猟犬が私を狩ろうと牙を剥いて駆けて来ていた。
「……私が勝つか、そちらが勝つか勝負だな」
自由落下を続けるこちらの動きに合わせて矢は動いていた。ほう、追尾性能付きとは手が込んでいる……さながらティンダロスの猟犬並のしつこさと言ったところか。
「リツカっ!」
「大丈夫だ、心配するなって」
恐らく着地の寸前で決着がつくだろう。運命のジャッジまであと50m――30mだ。
誰のものでもない無機質なカウントダウンが自然と耳に聞こえる。残り10m……どうなっても良いように着地の態勢になる。
「6、5、4……」
もうすぐ目と鼻の先だ。死の恐怖がすぐそこまで迫っているというのに私は落ち着いていた。
死と隣り合わせになり過ぎるとこんな境地に立ってしまうのか……ああ、それが逆に末恐ろしいと―――感じた。
……戦いの果てに、大きく彼岸花が咲いた。
***
真剣白刃取りで格好良くキャッチして速やかにブレイクするつもりだったのに、思わぬ介入によってそれは阻止されてしまった。
……誰やねん、目の前に火の玉放ったの。矢を破壊してくれたのは感謝するけど危うく火傷するところだったわ。未遂で済んだから結果オーライだけど。
「――おっと、すまねえな。死なせるには惜しいと思って、つい割り込んじまったぜ」
声がする方を振り向くとそこには、青いフードを着込んだ木杖を持った男が出現しており、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。一般的なイメージと違うがいかにも魔法使いっぽかった。
とりまシルバは私の後ろに隠れていろ。
「……誰?」
「オレか? オレはキャスターのサーヴァントだ。――嬢ちゃん、アンタ魔術師だろう?」
サーヴァント。追い出されたブリーフィングで説明されていた、時間軸に囚われない……英雄を使い魔にした存在。基本的に剣が得意ならセイバー、弓が得意ならアーチャー、槍が得意ならランサーなどとクラスが分類されているらしい。
男がキャスターと名乗ったということは魔術に長けているということだが、今のクラスに内心満足していない様子が顔に出て窺える。……もっと得意とする獲物があるということかな?
「……まあ、そーですけど」
「さっきの戦いっぷり、なかなかやるじゃねえか。あのアーチャーの野郎を仕留めちまうとは驚いたぜ」
そうか、相手をしてたのはアーチャーのサーヴァントだったのか。しかも、こちらの槍が
……実はあの槍、当たるか当たらないかの判定がそれなりにシビアなのだ。逐一説明すると、まず到達する直前で宇宙的恐怖(ニャルラトホテプとムーンビーストの愉快な仲間たち)を幻覚として見せ、相手のメンタル……要は精神力と対抗させる。
もし恐怖に打ち勝つことが出来れば、槍は不発となり即座に私の手元に戻ってくるのだが、耐え切れなければわかるな? 投擲した槍以外の無数の槍が周りの空間から出現し全身を串刺しにするのである。……ああ、なんて酷い。誰が作ったんですね――こんな今しがた私の上に突き出した手の中に戻ってきた物騒なモノ。
「オレもランサーのクラスで呼ばれていればああ出来たんだがな……明らかにオレよりランサーの適性低い奴に枠を横取りされちまったのさ」
だから不満そうにしていたのか、そりゃあ災難だったねー。
……いやまて、私ったらこの男とナチュラルに世間話してるけど大丈夫なんだろうか。敵意だとかそういうのは無いから自然と会話してしまったが、貴方唐突に「じゃあ戦おうぜ!」ってなったりはしませんよね。
「何だ警戒してんのか? ……安心しな、こっちもようやく話の通じるまともな奴に出会えてホッとしてんだ。――しっかし、久しぶりに見たぜ、あんな風な槍の使い方する人間をよぉ」
槍をオーバーヘッドの如く蹴るのがそんなに珍しいのだろうか。世間一般常識的には異常だってことはわかるが。
「……褒めてる? 貶してる?」
「褒めてるぜ。今の時代じゃ、ああいったことするのいないだろ。何処の誰仕込みだ?」
住所不定の女王の、おっぱいエロタイツ師匠ですが何か。
いやねえ、高3だった頃にムーンビースト共だらけの場所に閉じ込められて、奴らの槍パクって一人戦国無双していたことがあったんですよ。何故か私だけ狙わず皆ばかり狙うから、余計に頑張らざるを得なかったんですわ。
その後に元の世界へ戻る予定だったけど、私だけ「ドキッ!死霊だらけの謎世界」に転移させられてちゃったんです。笑い事じゃねーですね。その上、連戦続きで満身創痍状態だったんもので、いざ戦うってなった時超死ぬかと思いましたよ。
そんな時に現れたのが師匠で、折角だから鍛えていけと1ヶ月ほど監禁されました。もう二度としたくないねあんな修行。
―――何、どうしたのキャスター。めっちゃ心当たりがあるって? 私が貴方の妹弟子に当たる? ハハハ、そんなバカな。
「マジすか」
「マジだよ」
「「………」」
何とも言えない空気が流れる。思わぬ接点に驚きを隠しきれない……あ、もしよかったらこの槍いる? 槍使って暴れたいんでしょ。遠慮なく使ってって……持つだけで呪われそうだからいらない? そうですか。
両手と首をブンブン振って全力で拒否られたので、渋々とリュックの奥深くに封印する。
気を取り直して、第一村人じゃなくて第一市民でもなくて、第一サーヴァントの兄弟子クー・フーリンさんにお越しいただいた私は、正確な現状把握のために一体何が起こったのかを確認しようとした。
そんな時、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。神話生物だったら帰れ。私の退散の呪文はよく効くぞ。
「――ぱ……い」
「――じまるー!」
「うん?」
走って近づいてくる音も徐々に聞こえており、数にして二人分が耳に届く。間を開けず姿も遠くから見えてきた。カラータイツというマニアックなモノを履いている女性と―――片目が隠れた女騎士?
「知り合いか?」
「だと思うけど……あれ?」
出会って早々に喧嘩したせいもあって印象深いオルガマリー所長はともかく、あんな微妙にエロい鎧を装着した大きな盾を持った美少女なんていましたっけ。マシュに心なしか似ているような気もするけど、彼女は重傷でそれどころじゃないんだよなぁ。――えっ、本人? 再生能力でも持ってたりしたの?
私の困惑を置き去りにして4人と1匹は合流を果たし、奇妙な炎上都市冬木の探索は幕を開けた。
アーチャーのSAN値チェック失敗のお知らせ。
出番ないまま終わりましたが安心してください、次のアーチャーならもっと上手くやってくれるでしょう。