あと、すまない、アーチャーを心は硝子ネタで殺してすまない。
本当に済まないと思っている(キリッ
……合流して早々に何処をほっつき歩いてたんだと所長に咎められたが、まさか怪我人のはずのマシュやレイシフト適性がないと聞いていた貴女が特異点Fにやって来ているなんて思うわけないだろう。
アナウンスだって「マスター1人しかいねえけど転送するぜっ!!」って言ってたし、それ以上のこと把握するとか無理過ぎるでしょ。エスパーじゃないんですから。
そういやシルバお前、気づくの遅れたけど何さらりと一緒にレイシフトできてんだよ。お前も適性あったとかマジ驚きなんだが。
「何でだろうな?」
「えっ、この子シルバさんなんですか!?」
おう、耳も尻尾も本物だぜ。あっ、今更思い出したけどパンツ履いてねーじゃねえか……待ってろ、今出してやるから。
リュックをがさこそ漁りシルバに縞々のやつをパスする。危険地帯で堂々と幼女にパンツを渡すこの緊張感のなさは何なんでしょうね。私のせい? 確かにそうだが言ってくれるなよ。
「それでマシュは、走馬灯を見る直前になってカルデアで事前に召喚されていたらしいサーヴァントとミラクル・フュージョンをしたわけだけど、副作用とか普段と何か違うところとかない?」
「いえ特には。身体能力が向上したことや魔術回路が活性化している以外には目立ったところはないようです。精密検査の必要はあるとは思いますが」
「そう……ならいいんだけど」
ありそうでなさそうとか、なさそうでありそうっていうのが一番怖いんだよなぁ。
気になるのは、正体を告げずに力だけ与えて消失したというところだが……随分と一方的だな。間接的に協力はしてるけど非協力的というか何というか。やむを得ない事情があったのかそれとも―――。
カルデアを信用しきるのはまだ早いという警鐘なのかと頭の片隅に置いておき、私は情報共有のために話を進めた。
「カルデアの復旧状況は? 連絡は取れたの?」
「はい、ドクターを中心に復旧中だそうで、負傷した47名のマスター候補の皆さんは所長指示の下、コールドスリープによる延命措置が図られました」
……やはりそうなったか。有事の機能として装置に組み込まれていたようだけど、このタイミングで使うことになるとは設計者も思わなかっただろうなって。
他スタッフに関しては負傷はしているものの大事には至っていないとの事だった。と、ここで私の通信機に通信が入り、人伝ではなく目視でカルデア側の無事が確認された。
タイミング的に丁度いいので、キャスターの兄貴にこちらの目的を知ってもらい改めて協力を仰げるよう頼み込む。かくかくしかじかまるまるうまうま。
「――ま、大方把握したぜ、そっちの事情は。やっぱこの狂った聖杯戦争を終わらせるにはお宅らの力が必要みてえだな」
「……聖杯戦争、ということはキャスターさんを除いて他に残り6騎のサーヴァントがいるということですが」
冬木のマスターはどいつもこいつも全滅の模様とのこと。気づいたらいなくなってたとか。その辺り、異変と密接な関係がありそうだなって。
「んにゃ、アサシンとライダーはオレが片付けたんで残り3騎のはずだ。さっきまで4騎だったが状況が変わってな……そこのマスターの嬢ちゃんを襲っていたアーチャーが消滅した」
はい、貴女達が合流するまでにアーチャーに1時間ほど襲われていました。あとついでにお腹が空きました、なんかくれ。ありがと、ドライフルーツうまー。
「……? キャスター、貴方が倒したということ?」
「違えよ、倒したのは嬢ちゃんだ。師匠が鍛えただけのことはあったぜ」
「「――えっ?」」
ナチュラルに私が自力で倒したことバラすなよキャスニキィ……後でこっそり話すか、聞かれるまで答えないつもりだったのに。ほーら、二人共ドン引きしちゃってるよ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。貴女、一般枠のマスターのくせにサーヴァントを倒したですって!? それにキャスターの師匠に師事受けていたってどういうことッ!?」
どういうことなんでしょうね。ウィ◯ペディアにでも調べれば載ってるんじゃないかな(適当)。
……痛ってえ、頬を叩くなよ。食べ物食ってるんだから。はいはい、わかったから食べ終わったら説明するって。少女食事中。
「一般枠だからといって、本当に只の一般人とも限らんってことだよ(もぐもぐ)」
『まさか本当は魔術師だったなんて言うんじゃ……』
ロマニよ、悪いがそんな普通のオチではない。『魔術』という存在を知っている一般人に近い立場にいると言ったほうがいいかもしれないが、伝わりにくいので特別に身分を明かすことにしよう。
背負ったリュックの隠しポケットから縦開きの手帳のようなものを私は取り出し、全員に見えるように公開をする。
――黒革の中身を開くとそこには私の顔写真と、およそ現代にいる人間ならばすぐにわかる立場を示すエムブレムが輝いていた。あんまり人に見せたくないし見せるなって言われてるけどこの状況なら仕方がないか。
『――け、警察ぅ!?』
そうです、ポリスマンです。正しくはポリスウーマンだが。
「表向きは警視庁の広報の仕事をしているただのお姉さん(笑)なんだけど、実際は公安X課っていう極秘捜査専門の部署に所属もといねじ込まれていてね。その極秘っていうのがまあ……『怪奇現象』の調査とかで、キャスターの師匠ともその延長線で出会ったりしたんだよ」
「……その、『怪奇現象』というのは?」
「わかりやすく言うなら今みたいな異常事態のことかな。本来はHPL……あー、これ言っちゃっていいんだろうか」
下手に首を突っ込んでもらいたくないから話したくないんだが、話さなきゃ納得しないと思うので当たり障りのないように話す。てか、私のせいでもう片足突っ込んじゃってるよね。開き直っちゃうか。
「主に神話生物……そちらでいう幻想種に似たり寄ったりの連中が起こす事件の調査を引き受けているんだよ。ちなみに、私達の界隈じゃHPLに関わった一般人を『探索者』だとか『サバイバー』って呼んでいてね、かくいう私もその一人だよ」
「その、戦って勝てる相手なのですか、神話生物というのは?」
「……基本は勝てないと言っていい。奴らに出くわしたのならまず逃げるのが正しい判断だよ」
たとえ魔術師だろうとなかろうとね。神話生物は物理的な攻撃もしてくる上に、そこに在るだけで精神を侵してくるのだから。
『けど藤丸君、君は倒していそうな様子だが………』
「そりゃあ、倒さなければならない状況下にいたからね。そうでなきゃ脱出できないとか最悪世界が滅ぶとかあったんだよ」
抑止力? 勿論動くこともあったさ。守護者だっていう赤いフードを被った無口なガンマンと共闘したこともあるぐらいだ。でも、毎回駆けつけに来てくれるとも限らず、その場にいる人間で始末をつけなければならないこともあった。
……ん、サーヴァントが奴らの相手をしたらどうなるかって? 勝つか負けるかは私でも答えられないかな。心がタフでも死ぬときゃ死ぬし。さっきのアーチャーみたいに。
「――ね、ねえ、貴女がカルデアに来たのも、そ、その神話生物とかいうののせいだったりするの?」
そう思いたくなるのもわかるが、勧誘自体は本当に偶然なんだよなぁ。
で、その偶然から組織自体の在り方を怪しんで来たわけなんで、特にHPLが絡んでいるとかそういう事ではない。ただの個人的な興味本位である。紛らわしくてすまない。あと神話生物は今回関係ないと思う。むしろ、被害被っているのではないかな?
「身辺調査とかちゃんとやってなかったでしょ、スカウト担当の連中ェ……」
「アロハシャツで勧誘してくる辺りいい加減だったと思う」
『ははは……しかし藤丸君、逆に考えて君はカルデアに不利益を齎すような真似をする存在ではないということだよね』
……まあね、それだけは今のところ保障してあげてもいいだろう。
話が大分逸れたので戻すが、アーチャーを撃破したことによって残る相手は3騎となったわけだがキャスターが言うには戦うのはあと2騎で十分だそうだ。
その理由を聞くと3騎のうち、1騎はバーサーカーのサーヴァントであるそうで真名がヘラクレスだという。特定の場所から動かなく、まともに戦ったところで骨が折れる上に特に得られるものはないというのがシンプルな答えで、藪をつついて蛇を出す必要はないとして全会一致でスルーすることが可決された。
ただし、急に動き出してこちらに襲い掛かってくる展開を想定しておくことだけは忘れないでおく。
「道中仕掛けてくる可能性が高いのはランサー辺りだな。アイツの石化は強力だ、喰らわねえように注意しな」
「石化というと、メドゥーサがパッと思いつくけど」
「……正解だと思うぜ。髪はヘビみてぇに操ってやがるし、ランサーの奴は女だ。こんだけ材料揃ってりゃあ、誰だってその名前を思い浮かべるだろうよ」
ただおかしな点もあり、得物の槍が鎌であったとのこと。おい、ランサー詐欺じゃねえかとは突っ込んではいけない。しかも縁のあるそれお前の武器じゃないだろ。適性低いってそういうことかよ。
「最終的にオレらが倒さねえといけねえのはセイバーだ。アイツが突然暴れ出したせいでどいつも狂っちまいやがってこの有り様だ………奴が何考えてやがるのかホントわからねえが、何か知ってると見ていいだろ」
セイバーの正体については一言、「誰もが知ってる聖剣使い」と教えてもらっただけで何者であるか判明した。聖剣って言ったらまず思いつくのがエクスカリバーだからね、しょうがないね。
よもや、かのアーサー王伝説の騎士王がこんな大惨事を引き起こす元凶になろうとは思わんかった。益々裏に何かあると思えてきたけど、その前にエクスカリバーの一撃に私ら耐えられるのだろうか。ちょっと冷や汗出てきた。
「――対策は?」
「役割決めりゃあ現状の戦力でもギリギリ行けなくはねぇ……が、それは何事もなければの話だ。セイバーの信奉者になってやがったアーチャーがくたばった事でバーサーカーが奴の守りにまわってる可能性もある」
イージーモードで行くつもりがハードモードを選択してしまった感が強いな。もしくはベリーハードか。
私にとってはよくあることだが、皆を付き合わせるわけにも行くまい。当初のレイシフト後の予定に従ってサーヴァント召喚による戦力強化を行うとしよう。
***
召喚が行いやすいという霊脈の強いポイントをロマニのナビゲートに従って目指したら、件の場所は誰かが爆発オチでもしたかのような惨状だった。
聖杯戦争の影響だということはわかっているのだけれど、此処だけ相当被害が大きく別の要因があるのではないかとついつい疑ってしまう。一般通過ゴジラでもおった?
「元々はアーチャーが陣取ってた場所なんだがな。奴のマスターとも知らない仲じゃねえから複雑な感じだぜ」
「顔見知りだったんですか?」
「なに、結構な確率でアーチャーが消えちまったマスターの嬢ちゃんに召喚されて、オレと何度も殺りあってたって程度のことだ」
召喚中に襲撃を受けないよう場所を確保し、魔法陣代わりになるというマシュの盾を水平に設置する。
で、私は魔力を全然気にしないで、特異点探索に協力してくれる乗り気なサーヴァント出てこいやってすればいいんだっけ。
通常は呼びたい存在の縁の品物を用意するのが一番だそうだが、この非常時に誰も持ち合わせているはずがない。……そう、誰も、持ち合わせていないのであるっ!
「完全ランダムの運ゲーかいな」
「変なの召喚したらただじゃおかないわよ」
承知してますって。責任取って速やかに退去していただくのでご安心ください。
皆が見守る中で令呪が宿った右手を突き出し、いざ英霊召喚の時である。助けて、ヒーロー!!
光の奔流が三重の渦となって閃光を発し、人類史に刻まれた英雄を此処に呼び込んだ。
「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した……君が、私のマスターかね?」
「あっはい」
赤い外套の日に焼けたっぽい肌をしたイケメンがマシュの盾の上からポワッと現れ、これまたイケヴォイスで自己紹介をした。ホントに召喚できるもんなんやね、凄いわー。素直に驚きである。
――あれれ、後ろで待機してるキャスニキはどうして震えとるん? 腹でも壊したんか?
すると、ワナワナと震えていたキャスターはアーチャーを指差してこう言った。
「コイツ化けて出やがったぞ、オイ!?」
えっ、なになにどういうことなの? 化けて出たって……ああ、あのアーチャーってこの彼のことだったの? だったらやべえじゃん絶対恨まれてるわ。謝っといたほうが良い? ジャパニーズ土下座の真髄見せたほうが良いですか?
「いきなり何だね、ラン……でなくて、今はキャスターか。君らしくもない反応だが」
それなんスけど、此処で行われてた聖杯戦争に貴方が召喚されていたらしくでですね。先程倒したばかりなんです(全力で目逸らし)。
「そういうことか……キャスター、もしや君が召喚されていた別の私を倒したのかね?」
「いや、この嬢ちゃんだが」
「なんでさ」
だーかーら、兄貴は正直に答えるなよ。ややこしくなるから黙っていておくれ。アーチャーも後退りしないでいいから。何もしないから、ねっ?
「あ、ああ……(この俺が、彼女に怯えているだと……!?)」
しねえって言ってんだろ。さっさと現状理解して、どうぞ。
その前にクラスじゃない方の自己紹介もよろしく。緊急事態だしカルデア所属になるから真名隠しなんて特に意味がないでしょ。今後アーチャーばかり増えたら、◯◯のアーチャーっていちいち呼ぶことになるし。ちょっとかっこいいと思った自分がいるけど今はスルーだ。
「――なら、その要請に答えよう。私はエミヤシロウ……この冬木出身の未来の英霊だ。主に投影と強化、解析を得意としている魔術使いだ」
ご当地サーヴァントだったのか。じゃあ冬木の案内は彼に任せても問題なさそうである。
投影はよくわからないが、解析が使えるのかー……どんな能力か想像がつくので予め自分から警告しておくけど、私と私の荷物に貴方の魔術は使わないようにね。再度貴方を召喚するハメになるから。強制コンテニューは嫌じゃろ?
「……どういう事だ?」
「呪いのアイテム盛り沢山で調べたりしたらもれなく貴様の精神がイカれる。アンド、私が殺したアーチャーみたいに死ぬ」
「――何故そんなものを携帯しているのか問い詰めたいが止めておく。ご忠告どうも」
聞き分けが良くてよろしい。
アーチャー改めエミヤを新たに一行に加えた私達は、セイバーが立て籠もる大空洞を目指す上でどうしても通過するしかない穂群原学園への道程を辿り始めた。
途中、亡者の群れが徒党を組んでやってくるが、所詮我らの敵ではない。連携した動きで処理し先を急ぐ。
……気になってたけど、マシュは軽々と盾を振り回しすぎじゃね。実は盾が軽いのかと思ったけど普通に重かったわ。タックルされたら気絶余裕だと思う。
――峰打ち? それでどうにかなる問題じゃないと思うぞ、マシュよ。
「ランサーを片付けたら一旦突入前のブリーフィングをしようか」
「……それは良いけれど、ほぼ対策については纏まっていなかったかしら」
そうだが、話し合いたいのはその事ではない。特異点Fの異常とカルデア爆破事件についてである。
別々に起こった事件ではあるが、私にはどうも繋がっている感が否めなかった。
考えてもみてほしい。特異点Fが観測されたからカルデアはレイシフト実験をすることになった。でも、その矢先に爆破テロが起きた……まるで、『特異点Fにレイシフトして欲しくなかった』みたいじゃないか。
であれば、あの爆破は私を含めた48名の適性者を狙ったものだと考えるのが妥当だろう。――が、謎はまだまだ残っており、暴くための時間が必要不可欠だった。
さらにもう一つ、謎以外にも解決しないといけないことが在る………
(マスター、彼女だが指摘した通り既に―――)
念話越しに大きく距離を取りながら、遠巻きに護衛を行っているエミヤからの報告を受け、予想通りやることが増えてしまったなと私は深く溜め息を付く。
後回しにしようがしまいが同じ反応をされることがわかっているので、とっとと終わらせてしまいたいと感じるしかなかった。
「リツカ」
「どうしたシルバ、何か見つけたか」
「――いや、アレ……人だよな?」
群がる敵を千切っては投げ、穂群原学園の外観が少しずつ見え始めた距離まで近づいたところで、シルバが何か見つけたのか顎を使い皆に見るように促した。
……確かに近くの道を行き交うような人の姿は複数見えるが……おかしな事に一ミリも動いていない。
即ちあれは、かつて人であったもの。……恐怖の存在から逃げようとしたが敢え無く犠牲となった哀れな人間の成れの果てだった。
たとえ呪いを解呪したところで息を吹き返すことはないだろう。
「ちっ、胸糞わりぃな……」
(ああ……そうだな)
アーチャーとキャスターが同時に吐き捨てるように言ったところで、殺意が彼方より発生し突き刺すように私達に襲いかかり背筋が強張る。
向けられた方向を察し警戒の目を瞬時に飛ばした先には、無数の鎖が結界のように張り巡らされていて校舎に侵入させまいと立ちはだかっていた。
そして、その上には食べごたえのある獲物がきたと心からほくそ笑む―――堕ちるところまで墜ち切った女神という名の怪物が舌舐めずりをしており、ジャラジャラと音を立てて踊るように動き出す。
「……さあ、狩りの時間です」
――美しくもない汚れきった月を背に、不死殺しの刃が真っ直ぐに私達へと迫った。
過剰戦力で次回アニメ版ランサー戦です。