プロサバイバーぐだ子の人理修復(仮)   作:くりむぞー

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お待たせしました。
怒涛の召喚回です。

ついに奴が……来るッ!!


深き闇より出づる者

 ――特異点の単独攻略依頼が所長より出された後、ロマニが約束していた通りに僅かでも負傷が見られたり疲労困憊であると判断されたスタッフに対して、一時的な休憩を取るように指示が出されていた。それに伴い管制室がほぼガラ空きになると、私は抜けた穴を埋めるべく室内の一席に座ってある措置を試みていた。

 

 というのも、ただ単に電子化した所長にサポートAIらしくバイタルの閲覧や事象の解析、その他諸々の確認が出来るように調整するだけなのだが、外部からのハッキングや電子戦にも対抗するべく多段階のプロテクトを設けておく。

 特に、所長が敵の手に堕ちるなどの事が起きれば堪ったものではないので、そこら辺は厳重かつ入念に弄っておくと対象となる所長がその事で声を漏らした。

 

『なんか、拘束具付けられているみたいで嫌な感じね』

 

「それな」

 

 事実、彼女の今の身体には錠前をモチーフとしたアクセサリーが装着されており、それが防御プログラムとして機能し脅威から守る仕組みになっていた。

 今のところ外すには、私とロマニ・ダヴィンチ・マシュの四名の承認がなければならない設定にしているが、こちらから外すよう働きかけることなんてまず無いだろう。……それに何せ、私が最後に承認しない限り突破しようがないのだから、他の皆を脅したり操ったりしたところで意味はまるで無いのであった。私が操られるかは別としてな。

 

「お気に召さないのだったら、ガチの拘束具にチェンジするけど……鎖がジャラジャラ付いたやつとか」

 

『悪化してんじゃないっ!! そこはもっと抵抗をなくしていく感じにするでしょうが!!』

 

 冗談だよ、半分本気だったけどさ。

 ――ともあれ、所長が本格的にサポートへと回ってくれれば、スタッフが過酷な状況の中でハードワークを強いられることも少なくなり、ストライキを始めとする内部的なトラブルに私が頭を悩ませることもなくなるだろう。……あ、所長にだって勿論休みは与えるよ。仕事を押しつけ過ぎて拗ねられたら一気に効率落ちるし。

 

「しっかし、解せないなぁ……」

 

『何がよ?』

 

 いや、特異点の発生した場所だよ。

 殆ど詳細な情報は引き出せてないとはいえ、人類史丸ごと焼き尽くすのに何故そこを選んだのか法則性が見出だせないのである。

 何か今の歴史を揺るがしかねない重要な出来事があったのだとは推測されるも、そんなものは探せばいくらでも出てくるというものだ。例えば、第一特異点の舞台であるフランスであるならば、ジャンヌ・ダルクの時代より後に起きたフランス革命の時代が候補に入っていてもおかしくはない。……マリー・アントワネットが処刑されることがなくそのまま生涯を終えるだけで、恐らく様々なことがひっくり返り人類史に影響を及ぼすはずだろう。

 

『言われてみれば、わざわざ百年戦争の時代を選んだ意味がわからないわね』

 

「――だろう? 無作為に選んだにしては違和感を感じざるを得ない。それに、7つである意味もいまいちよく分からないんだ」

 

 7つに区切らずとも一番古い時代に干渉して、土地を住めない環境にするだとかその時代の人類全てを根絶やしにするだとかしてしまえばいいはずだ。……歴史の修正力云々を気にしての特異点の乱立、複数展開なのかもしれないが、7つ発生させれば気にしないで済むようになってでもいるんですかね? だとしたら歴史って結構ガバガバだな。

 

『……賛同者がその時代に居たから、なんて理由じゃ弱いわよね』

 

「理由の一つとしてあってもおかしくはないと思うけど、それだけじゃないだろうなってのが率直な解答かな」

 

 特異点に足を踏み入れていない状況で思い描ける予想はこれぐらいが限度というものだ。

 今以上に情報を入手し考察を続けたいのであれば、やはりレイシフトの予定を早めるほかあるまい。……だが、急がば回れという言葉に従い、私は慎重に事を運ぶことを選ぶ。

 

「何にしても、サーヴァントを呼ばないことには何も始まらないか」

 

『――言っておくけど、触媒になるものなんて用意出来ないわよ』

 

「わかってるよ」

 

 過去の遺物、それもレアなアーティファクトともなれば入手が困難であることぐらい経験から百も承知である。

 となると、自前で用意するしかないのだろうが、生憎と言っていいほど所持品にはろくなものがなかった。HPL所縁のものばかりである時点でおわかりいただけるだろう。

 下手に触媒として用いて、間違いで神話生物でも呼び出してしまったらカルデアは大混乱じゃきっと済まない。よって、戦闘用に使う以外に絶対に使用しないことにしておく。

 なら、その上でどうするかって話になるわけだけど、ぶっちゃけ何も思いつかなくて絶賛お困り中だ。どうしようもないね。

 

「……ふむ、であれば無触媒召喚に賭けるしかないけれど―――君の場合、そう無策に走る必要はないんじゃないかな?」

 

「あ、ダウィンチちゃん」

 

 回転する椅子を小刻みに揺らして唸っていると、様子を見に来たと思われるダウィンチが珈琲が入った紙コップをデスクに置き口を挟んでくる。

 

『無策に走らなくていいって、どういう意味よダウィンチ。何か良い考えでもあるの?』

 

「なに、こういう時ほど人と人との繋がりが役に立つってことさ。……つまり、藤丸君。君自身が触媒(・・・・・・)となってしまえばいいんだよ」

 

「……?」

 

 突拍子もない意見に目をパチクリさせていると、私より先に意味を理解したらしい所長が叫ぶように解説する。

 

『貴女、冬木でスカサハに師事してたって言ってたじゃない! その縁があれば―――』

 

「ああ、うん」

 

 師匠を呼べるかもしれない、か。どうやら、縁という見えない糸であっても所縁の品並に十分触媒としては機能するらしい。

 ……理屈はわかったけれども、一つだけ問題があるのを忘れてはならない。

 ご存知だとは思うが、あの人は基本死ねない身体なのである。それ故に座というやつに登録されようがない彼女を、どうやって此処に呼び寄せるというのか。そこら辺を疎い私にもわかるように説明してほしい。

 

「いいや、多分死んでいるから召喚はできると思うよ」

 

「……その根拠は?」

 

「だって、人類史が丸ごと燃やし尽くされてるんだぜ。影の国がどんな異境にあるかは知らないけれど、この地球上の何処かにあるなら人理の一部に含まれる。含まれるなら影響を受けて消滅してしまっていてもおかしくはない」

 

『逆説的に捉えれば、影の国が滅んでいるのなら女王たるスカサハも死んでいる(・・・・・・・・・・)、と世界に解釈されてしまっても何ら不自然じゃない……』

 

 あー、何となく理解したよ。短く纏めると、師匠も災難だったなってことか。

 どうせなら戦いの中で果てたかっただろうに、災害に巻き込まれるみたいに散ってしまうなんて、さぞかし―――ブチ切れているでしょうねっ!! こりゃあ、案外こちらから呼びかけなくとも自分から突撃してきそうな気がするぜ(ガクブル)。

 

「スカサハ師匠以外に来てくれそうなのは、冬木で約束をしたクーフーリンの兄貴ぐらいか……数としてはまだまだ揃えないと不味いなぁ」

 

『他に呼べば来てくれそうな相手に心当たりはないの?』

 

「……うーん」

 

 心当たり……心当たりかぁ。

 今まで色々なやべーやつと関わり合いを持ってきた私だけども、いざそいつを紹介してくれみたいに懇願されるとどう返答していいのやら困ってしまう。

 ていうか、召喚しても問題なさそうな知り合いってそもそも何人いたっけって話である。まともじゃねえHPL関連は抜きで考えると、残るは公安隠密局のサポートで関わったクソ忌々しい忍者共関連だけとなるわけだが、思い返しても心底疲れたことしか記憶に残っていない。そう―――

 

 

 

 ある時は、強大な力による世界征服を目論んだ馬鹿の後始末に追われ―――

 

『――うっははははははは!! よい、よいぞ! 宴の準備をせい!』

 

『裸マントに何故なるんですかあああああ!!!』

 

 

 ある時は、丁重にお帰りして頂くために全力で接待を行い―――

 

『……どおれ、うちが一献注いだろか? ――うふふ、あははははっ!!』

 

『衛生兵ーっ!! 衛生兵ーっ!!』

 

 

 ある時は、属性過多の奇妙な生き物と某少年漫画もビックリな格闘戦を―――私は繰り広げる羽目になっていた。

 

『全力でいくぞ……これが手加減だ!』

 

『……犬なのか猫なのか狐なのかはっきりしろよぉぉぉ!!!(全力で防ぎつつ)』

 

 

 

 

 ――あかん。ピンポイントで召喚できそうなっていうか、召喚されていた相手のことがフラッシュバックしてしまった。

 一応、神話生物よりかは遥かにまともであると言えるが、来てしまったら来てしまったで騒がしいことこの上ないに決まっている。……ええい、これも人理修復のためだ。上手くコミュニケーションを取って立ち回ってやればいいんだろ畜生め!!

 やけくそ気味に"いる"と二人に答え、私は決意がブレないうちにと管制室を素早い足取りで去り、廊下ですれ違いそうになったマシュを拉致して一直線に英霊召喚システムが設置されている部屋へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 はい、そんなわけで待望のサーヴァント召喚のお時間となったわけであるが、その為には前提としてマシュが持っている盾を召喚の起点として設置する必要がある。……というわけで、勢いで連れてきてしまった彼女にさっくりと事情を説明し、冬木でエミヤを召喚した時のような環境を作ってもらう。まあ、決められた場所に盾を寝かせるだけなんだけどね。

 動かぬように内蔵された固定具でしっかりと止め、カルデアの電力に接続されたことを室内のモニターの表示より確認する。――魔力の供給に異常はなしと。

 

「――ほう、ようやく召喚か」

 

「あ、エミヤ」

 

 ものの数分で準備が整ったところに、一仕事終えたばかりの様子の現在カルデア唯一の男性サーヴァントが顔を出してきた。……え、ダヴィンチちゃんもそうだろうって? 性転換してるからノーカウントってことでよろしく頼むわ。女性としてカウントしていいのかもわからないがな!

 ……それはさておいて、特に何も指示出してなかったし管制室でも姿を見かけなかったはずだが、何処にいて何をやってたのエミヤさんや。

 

「食堂だ。休ませるというのに調理場へ立たせるわけにはいかなかったからな、代わりに私が立って料理を作っていた」

 

「へえ、ちなみに本日のメニューは?」

 

「オーソドックスにカレーだ。辛さは残念ながら選べないが味はこの私が保証しよう」

 

「カレーですか、いいですねっ!」

 

 聞けば幼い頃から家族のためにご飯を作っていて、紆余曲折を経た末に気づけばシェフ顔負けの腕前にまで登り詰めていたのだとか。

 弓兵なのに近接戦も行えて更に料理も出来るとか、もう訳が分かんねえなこの人。執事の仕事も出来る? そうですか。

 

「……やっぱ、別の道を歩んだ方がよかったんじゃないの」

 

「言うな」

 

 今ならシェフエミヤとかバトラーエミヤを呼べたりしませんかねって思ったが、私の表情を読んで理解した様子のエミヤが全力で止めてくれと肩を掴んで懇願してきたので、今回は諦めてあげることにした。向こうから来たら知らんけどね。

 気を取り直して、盾より浮き出た魔法陣の真正面に立ち令呪の宿った右手を前に伸ばすと、此処カルデアと英霊の座との間に繋がりが出来たかのような感覚が走った。まだ微弱だが、これから強烈なものになろうとしていることは否応なしにわかった。

 

「そういや、エミヤがマスターだった時ってどんな感じにサーヴァントを召喚したの?」

 

「ん? ……聞いてどうすると言いたいところだがまあ、君とは雲泥の差だったさ」

 

 カルデアのように魔力供給は気にしなくともよい……なんてことはなく完全に自己負担だったそうで、何と聖杯戦争の中盤まで英霊と魔力のパスもまともに繋がっておらず、魔力供給なんて何それ状態だったそうだ。

 召喚自体も命からがらの末の、偶然の産物のようなものだったらしく、驚いたことにその状況を作り出した犯人たる襲撃者はランサーとして呼ばれたクーフーリンの兄貴であった。……対し、エミヤが召喚したのは―――

 

「私達が特異点Fで出会ったセイバーだ。但し、反転していない状態のだが」

 

 だからあの時、兄貴と同じように面識がある感じだったのか。……素の彼女ってホントはどんな風だったの?

 

「凛々しい王様という側面を持った少女……だろうな。あの頃は、よく私の料理を本当に美味しそうに食べていたよ………大量に」

 

「……大量に?」

 

 急に額を抑えて彼はボヤくと、エンゲル係数が一時期尋常じゃないぐらいに跳ね上がったのは良い思い出かもしれないと言って、深い溜め息をついて瞳を彼方へと向けた。……相当に酷かったんだな、食に関しての事情は過去といい未来といい。

 念の為、今後彼女が仲間として加わろうともカルデアの食事情に多大なる損失をもたらすことがないように今のうちに祈っておく。

 ――そうして、英霊を呼ぶということだけに再度意識を集中させ、普通ならば届かないはずの場所へ至るイメージを強く持つ。その刹那、盾からは光帯が展開し天を突き抜ける勢いで魔力の柱が建った。

 

「――サーヴァントの反応を確認、……来ますッ!」

 

 モニタリングから英霊の存在を感知したことをマシュが私に伝えると同時に、溢れ出た光は儚く消え去るように消滅していく。

 その中心には黒の装いを身に纏った人物が得物を支えに直立している姿があり、顔はまだ見えなくとも活気に満ちているとこちらに認識させるだけのオーラが滲み出ていた。……暫くして、隠れていた部分からも光が失せ、室内が元の明るさを取り戻していくとそこには――軍服の少女がいた。

 召喚をした反動を含めて私は固まると、そんな事を余所に少女は自己紹介の口上を述べた。

 

「わしこそが魔人アーチャーこと第六天魔王ノブナガじゃ! そなたがわしの―――ってお主は………」

 

「あっ」

 

 ……やめてくだされ、やめてくだされ。

 そんな玩具屋で目当ての物を見つけて、はしゃいでしまっている子供みたいな瞳で私の事を舐めるように見るのはやめるのです。思わず逃げ出したくなるじゃないですか。

 真面目に逃走を図りたいと思うこの頃であるが、マシュやエミヤが見ているなかで無様な姿を見せるわけにもいくまい。したがって、大いに迷っていると……その思いを蹂躙するように向こうは大声を以って話しかけてきた。

 

「その頬の傷に、何度も死線をくぐり抜けてきたと感じさせる風貌……やはり立香か貴様ッ!!」

 

「アッハイ」

 

「……お知り合いなんですか、先輩っ!?」

 

 バリバリのお知り合いみたいですね、反応からわかる通りに。杞憂だったらそれはそれで面倒くさかったがね。

 どう知り合ったかについてはまあアレですよ、織田信長の分け御魂……分霊を代々受け継ぎ守ってきた一族の少女が誘拐され、忍者共に交じって事件解決に乗り出したのであるが、その中に首謀者と繋がっていた奴が居た挙句に隙を突かれて進められていた儀式を完成されてしまったのだ。

 で、その儀式というのが分霊を利用した織田信長本体の復活だったらしく、見事に目的を達成されてしまったわけだが……犯人側が思っていた通りの織田信長は召喚されることはなかった。奴らはどうも、一般的に知られている男性としての織田信長を復活させたかったようであるが、ご覧の通り本人は女性である。

 そこで食い違いが生じて、復活を目論んだ側は逆ギレの末に怒りを買って始末されてしまい、残された面々は当然ながら困惑。次は自分達の番かと身構えるも、当人にその気はなかったようで私が交渉役となりその場は治めたわけだった。

 

「――ま、大体そんな感じじゃな!」

 

「いや待て、その儀式というのは聖杯戦争や英霊召喚のシステムとは違うのか?」

 

「違うね、多分」

 

 先の案件で使われていた召喚の手法は冬木やカルデアのように英霊を使い魔として扱うわけじゃなく、生贄や長期に渡って蓄積した生命エネルギー諸々を使って本人そのものを現世に呼び出し、思う存分好き勝手してもらう主従関係もクソもない仕組みになっていたはずだ。

 だから、召喚した本人であろうとも気に食わぬと言われれば殺されるし、それを防ぐ手立てはないようなものだった。令呪なんてなかったというヤツですね。

 精々関わってしまったのなら、機嫌を損ねないように行動するのみである。

 

「しかし、わしが座で茶を飲んでる時に呼び出すとは突然過ぎるのぉ……まあお主との仲じゃし、是非もないよネ!」

 

「茶を飲んでたって……エミヤ、もしかして座って割とゆるい感じなの?」

 

「そんな訳がないだろう、と返したいが正直私にもよくわからん場所だ。個人の在り方が様々であるように座の在り方も違うのだろう」

 

 成程、死後の世界の何でもありの空間と解釈すればいいか今は。お休みのところお呼び立てしてしまってごめんなさいね、信長様。

 などと、へこへこ平謝りしているとマシュが何かに気がついたらしく前に進み出て言った。

 

「……ところであの、信長さん。貴女の背後にいるのは――どなたでしょうか?」

 

「むっ……ああ、そうじゃ此奴の事を忘れとったわ」

 

 そう言って彼女は右手で乱暴に後ろにいる誰かの首の辺りを掴み、悪戯をした猫を摘み上げるが如くこちらに掲げた。

 視界に収まるのは、レースクイーンに近からずも遠からずの格好をした……バイザーで視界を閉じた長髪の美女であり、何処かで会ったことのあるような既視感を私達に抱かせた。

 すると、今度はエミヤが驚きを露わにして叫ぶ。……もしや、兄貴と同じように腐れ縁?

 

「ライダー!? ……いや、此処ではメドゥーサと言った方が正しいか」

 

「あれ、メドゥーサって言ったら特異点Fでランサーだったあの……」

 

「そうだがこの彼女は同一人物にして、あの彼女とは全く別の存在だ。在り方としては神話の伝承通りで問題ない」

 

 じゃあ、冬木で戦ったハルペー持ちのメドゥーサとは違ってこっちはペルセウスに狩られた方の彼女なわけだな。ライダーと呼んだのは彼女の血より生まれたペガサス辺りが恐らく由縁だろう。

 とりあえず、何時までも首根っこ掴んでると苦しいと思うので下ろしてやり、召喚は一度中断して彼女の介抱にあたることにする。

 

「おい大丈夫か、ライダー……」

 

「……うっ、あ、あ……ここは―――貴方は、アーチャー!?」

 

「予想通り、私の知るライダーのようだな……目覚めたばかりで悪いが状況は理解しているか?」

 

 その問いかけに彼女は一瞬考え込んだ後に肯定の意で頷くと、エミヤが差し伸べた手を借りてすくっと立ち上がってみせる。

 

「ノッブにお茶を渡していたら、突然何かに引っ張られた気がしたのですが……こんな形で召喚されることになるとは思いもしませんでした」

 

「引っ張ったというか、巻き込んだんじゃがな! どうせならついでに沖田の奴もアホ毛でも掴んで連れてくればよかったわ」

 

 うん? 沖田ってあの新撰組の沖田総司ですかね?

 生きていた時代離れすぎているけど面識あって、しかも茶飲み友達だったりするんですか。たまげたなぁ。

 

「そうじゃよー、あやつとは腐れ縁じゃ。巻き込んでおけばセイバーかアサシン辺りで大活躍していたんじゃないかと思うが、待ってればまあそのうち追って此処に来るじゃろ」

 

「はあ」

 

「あと奴も女じゃから注意な?」

 

 偉人が実は女性だったってパターン多すぎやしませんか。えっ、慣れてしまえば気にならなくなるってエミヤさん……経験者は語るってやつですか、そうですか。

 あまり突っ込んではいけないと念を押された私は、改めて召喚されたばかりの二人に対してカルデアが抱えている問題について説明し、協力をしてくれないかと頼み込んだ。

 

「あの冬木に別の可能性の……ハルペーを手にした私が召喚されてしまうほどの揺らぎが起きているのでしたら仕方がありませんね」

 

「というか、世界丸ごと本能寺タイムとか馬鹿じゃねーの。そういうのは個人レベルで留めとけって話じゃ」

 

 受け答えから判断するに二人とも人理修復に協力してくれるようだ。長い付き合いになるとは思いますがよろしくお願いしますよ。

 ……さて、一人呼ぼうとしたら二人で思わぬ収穫だったが、それでもまだ人員としては足りなさ過ぎるので追加召喚行っておこうか。

 

「あと何人ぐらい呼ぶんじゃ?」

 

「4~5人ぐらい……特異点攻略組とカルデア防衛組に分けたいので」

 

 いずれは防衛組という名の待機組の方が多くなるとされるが、そうなれば私は攻略のことだけを考えていれば良くなるわけだ。

 どのぐらいの時期で形になるかはまだわからないが、特異点の攻略が折り返しになる頃には是非ともそうなっていて欲しいものである。

 ……はい、てなわけで先程と同じように集中をして英霊をこちら側へと招き寄せる動作をする。むっ、何だこの懐かしいような威圧感―――ハッ!?

 

「非常に霊器の高い反応です……!!」

 

 うん、何か光に混じって虹色の輝きが出てるし相当凄い英霊が出てくるんだろうなー(白目)。

 諦め半分の笑みを浮かべて待っていると、どう見ても見覚えしかない濃い紫の装束をした女性がこれまた見覚えのある槍を手にしてカルデアに殴り込んできた。

 

「影の国よりまかり越した、スカサハだ。……来てやったぞ、藤丸立香」

 

「はえーよ……もうちょっと勿体ぶって出てくるかと思ってた」

 

 ほら、こう演出的に凝った感じでイベントとか挟んでババンと格好良く出てくるかと思っていたんだが、すんなり出てきちゃいましたね。驚きたいけど逆に驚けないでござる。

 

「――なに、事情が事情だけにな。それにマスターがお主とわかれば行く以外に選択肢はなかろう」

 

「ははは、地獄の影の国ブートキャンプ再び……この際だからスタッフ全員巻き込んでやろうか」

 

「やめてさしあげろ」

 

 二つ返事で協力を取り付けられたのでどんどん次に行く。

 ――って、師匠人が召喚している横でルーン刻んで何やってんすか。指定した奴呼び出すだけだから安心しろって……あっ察し。

 有無を言わせない介入により確定ガチャを引かされた私は、元より召喚する予定であった彼を申し訳ない気持ちで呼び出すことになった。

 

「よう! サーヴァントランサー、召喚に応じ参上し………た!?」 

 

「久しいなセタンタ」

 

「――なあ、座に帰っていいよな嬢ちゃん」

 

 駄目です。どうせ返してもまた強制的に呼ぶように仕向けられるから……諦めてお互い地獄に落ちようや兄貴ィ。

 

「あ、ライダーもいるじゃねえか……おめえも来てたのか」

 

「巻き込まれたクチですが、お互い頑張りましょう……」

 

「お、おう」

 

 冬木組の皆さん、そんな調子で大丈夫ですか。いやなんかホントごめんね……私の縁のせいで迷惑をかけてスマソ。

 

「気にすんな、切り替えははえー方だからな。落ち込んでるのは今だけの話だ」

 

「ほう、言ったな――」

 

「やっぱ何でもねえわ、うん」

 

 師匠も少しは兄貴に優しくしてあげてください。鞭も大事ですが飴も適度にあげないと意味ないっすよ。……それぐらいわかってる? いやいや絶対わかってないでしょ貴女。

 ……ええと、今のところ召喚できているクラスはアーチャー2人に、ランサー2人とライダー1人か。偏ってんなと文句を言いたいところだがしゃーないか。

 

「いざとなれば私が霊器を弄ってクラス替えをさせることも出来るが……一度弄ったら元には戻せんぞ」

 

「それって、呪いの掛け方はわかるけど解き方はわからないってことじゃないですか……お茶目さんかよ」

 

「――そうだが何か?」

 

「……自慢気に言うなよ、アンタ」

 

 ぐっだぐだになってきたので続きは後でやろうね!(確実にやるとは言っていない)。

 時間もあまり掛けていられないので飛ばしていくぞ! ……といっても同じ流れを只管繰り返すだけなんだけどね。

 衝動に任せてもはや勢いのみで礼節も礼儀も関係なしに臨むと、光の柱が出来上がった途端に誰かが飛び出してきた。……髪に可愛らしいリボンを付けた騎士?

 

「やっほー! ボクの名前はアストルフォ、クラスはライダー! よろしくね!」

 

「なん…だと……」

 

 これでライダーが綺麗に2人になったわけだが、重要なのはそういうことではなかった。

 何を隠そう男の娘、目の前にいるのは男の娘なのである。……生まれてこの方縁がなかった存在であり、この世にいるなんて諦めていた存在。それがこうして此処にいる現実を私は受け止めざるを得なかった。いえぇぇぇぇぇいいい!!!

 

「私は今、猛烈に感動している――ッ!!」

 

「あの先輩、もしかしてご縁は……」

 

「――なかったけど!! それがどうかした!?」

 

 自分でも驚きの気迫でマシュに返事をすると、無意識に流れ出ていた涙を拭くようにハンカチを渡される。やべえよ、拭いても拭いても溢れ出てくるわ。

 

「……ん、大丈夫? どこか痛かったりしないマスター?」

 

「ぐはっ(吐血」

 

「……今君が相手をすると追加ダメージを食らうだけだから、そっとしておいてやれ」

 

「うーん、よくわからないけどわかったよ!」

 

 余談だが、僅かに彼と関わり合いがあるとするならば、彼の親友たるローランが所持していたとされるデュランダルと思わしきモノの調査に携わったことぐらいだろうか。

 結論から言えば偽物だったのだが、本物に迫る切れ味はあり――何故か振るうと持ち主を全裸にする呪いが付与されていたりしていた。……時計塔のあの二人に出会ったのもそういやこの事件だったか。

 

「……振るったのか?」

 

「何か担い手として選ばれてしまったからね。かなり迷惑な話だけど」

 

 荷物の中に含んできてしまっているがこの先使うことはきっとないと思われる。デメリットが大きすぎるからね、特異点に持ち込むとか死んでも御免被りたい。

 

「セイバー、アサシン、キャスター、バーサーカーが0人なのは痛いけど、一先ずこの位で切り上げておこうか」

 

「そうですね」

 

「ああ、あまり一度に増えられてもコミュニケーションに困るだろう。それに初期戦力としては十分だ」

 

 ある意味クラスが被っているのは交代がしやすいと考えてもいいかもしれない。

 それに、兄貴との約束も果たし、私の縁頼りの召喚も大成功と言える結果を残せた。……それじゃ、案内と説明を兼ねて一先ず食堂へ向かうとしようか。丁度私のお腹も空いたことだし。

 

「腹が減っては戦は出来ぬ、というやつじゃな!」

 

「戦に取り掛かるにはまだ段階踏んでないですけどね」

 

「アーチャー、早速何か作られていたのですか」

 

「ああ、カレーだがな」

 

「ほう」

 

「おっ、いいじゃねえか」

 

「食べる食べるー!」

 

 ナチュラルに一緒に食べる事になっているがまあいいか。人と人との付き合いに食事は不可欠だからね。

 というわけでぞろぞろと召喚部屋を揃いも揃って私達は出ることにすると、自分を最後尾にして次々と通路に英霊達は移動した。

 そして、私も続こうと足を部屋の外に出そうとした……その時である、スカサハ師匠がカッと目を見開いて異常に気がついた様子を見せ注意の指示をこちらへ飛ばしたのは。

 

 

 

「――立香、後ろだッ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 言われるがまま振り返った私の目に飛び込んできたのは、撤去を忘れ設置したままにしてしまっていた盾の上に広がる光とは真逆の闇であり、ついさっきまで見慣れていた召喚のそれとは異なるものであった。

 ……もしや早速敵側からの攻撃か何かと予想し、楽しい雰囲気から一転して皆が警戒にあたるもすぐに相手は姿を現そうとはしなかった。……即ち、こちらが戦闘態勢に入るだけの余裕はあるということだ。

 エミヤと兄貴が率先して私の前に立ち、他の皆が脱出経路を確保しようと動くなかで、私は早く外に出るように言われたが二手の中心を陣取ってどう転んでもいいように身構える。

 

「……来るぞッ!!」

 

 掛け声が室内に響いたのを引き金に闇は球体を形作ったかと思えば、内部に爆弾でも仕込んでいたかのように瞬時に爆発を起こした。

 反射的に目を片腕で覆い隠し、僅かに開いた視界から何が起きたのかを探るが、部屋全体をスモッグのようなものが覆い隠していて察知しようがまるでなかった。

 

「二人とも、無事!?」

 

「ああ、私は問題な―――ぐあッ!!」

 

「どうしたアーチャー!? って、うわっ何だッ!?」

 

 エミヤに何かがあったのを聞いた直後に、兄貴の方でも何かが起きたのが聞こえた。二人同時でないことから相手は単独で時間差でぶつかったのだと考えられた。

 ……やがて、私は気づく。二人が最後に確認された位置から計算するに、相手の目標は―――ただ一人であることを。

 

 それを把握した時にはもう遅く、私は何者かに襲われて床に押し倒されていた。

 

「くっ……」

 

「ミ、ツ、ケ、タ」

 

 片言のように聴こえる言葉で話すそれは、非人間的な獣の目をして自分を凝視する。

 また髪の輪郭が露わになり始めるとそれは触手のように独りでに動き、触れるものを絡め取って虜にしてしまう印象をこちらに与えた。

 ――間違いない、コイツを私は知っている。そう確信をした瞬間、師匠の手によって永久の闇は消し去られ、視界は元へと戻り襲撃者の姿を周囲に晒した。

 

 

 

「……ああっ、やっと会えたわ私の―――愛しい、愛しいリツカ!!!」

 

「お前は―――」

 

 

 

 安全を確保しようと駆け寄る皆を制止し、私は舌舐めずりして見つめてくるコウモリのような翼を生やしたゴスロリ姿の女性の名を口にした。

 

 

「――マイノグーラッ!?」

 

 

 外なる神の女神にして邪神の一柱たる、這い寄る混沌の従姉妹……今此処に顕現す。

 




神話生物がカルデアに現れてしまいました(

今月のFGOfesと10月の聖抜に当選したので楽しみです。
キャメロット評判良さそうでよかったです。

次回もお楽しみに。

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