【旧式】トリコの世界にいた美食屋兼料理人が遠月学園に入学する話【凍結】   作:YUETU
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おい、Duelloしろよ(挨拶

 ニコニコ動画でこの一文が飛び交ってるのを見て笑いが止まりませんでした。

アリスの白の悪魔の名前と能力ですが、使い方を誤ればかなり危険な能力です。解説は次の話でやりますが、少しだけ能力についての記述があります。


本戦第四試合開始・悪魔との対話



「う、麗ちゃん! 大変ですぅ~!」


「どうしたの、由愛ちゃん?」


「今、通達が来て……兎に角、これを見てください!」


 放送室にて。司会進行を務める川島 麗の元に、慌てた様子で佐々木 由愛が入って来る。ただならぬ様子に然しもの麗も驚き、理由を聞くも答えは帰って来ず、差し出された紙を見ると、その理由が分かった。選抜の真っ最中にも拘らず、食戟が申請され受理されたのだ。お互いの賭けの内容も書かれており、何度も食戟の司会進行を務めてきた麗は対戦相手の名前を見て即座にその意図を納得した。
 美作 昴の、対戦相手を踏み躙る悪辣な手法が、再び行われようとしているのだ。しかも、多くの食通たちが来訪しているこの大舞台で、だ。麗は私情を挟まず、月天の間に訪れている人すべてに行き届くように音声のスイッチをONにした。


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『秋の選抜、第四試合! タクミ・アルディーニ選手と、美作 昴選手の対決におけまして、食戟が行われるとの事です!』


「選抜の真っ最中に、食戟!?」


「そんな事出来るの……!?」


 観戦している者達の多くは選抜という大舞台で、遠月伝統の料理対決・料理人としての格付け合戦ともいえる食戟が行われると聞いて驚き、その内の選手の名前に憶えのある者達はいち早く納得していた。美作 昴が、また傍迷惑な勝負を行おうとしているのだと。

 裏では食戟管理局が正式な食戟として受理した事を、総帥である薙切 仙左衛門に伝えており、仙左衛門も納得していた。時も場も問わず、両者が認めれば何処でも行えるのが食戟である――と。

 タクミは自分と弟の愛用している包丁、メッザルーナを賭け。昴は自分の発言の撤回と、兄弟に対しての謝罪を平伏してする事を賭けた。タクミは勝手に包丁を賭けてしまう事をイサミとイタリアにいる父に詫び、昴はタクミの内心が分かっているのか、下卑た笑みを浮かべていた。入場し、両者が睨みあう。昴は更に挑発した。


「出来の悪い、取り柄のない弟を持つと兄貴は大変だよなぁ?」


 タクミは何も言い返さず、ただ右手に持っていた白い手袋を昴の足元に投げた。どう見ても料理の際に付ける物ではなく、タクミの手のサイズにも合っていない。昴が訝しむと、タクミは内心で怒りを抑えながら語る。


「拾え」


「はぁ?」


「それを拾い上げれば、闘いを受託した証となる。それが決闘――Duelloのやり方だ!」


 イタリア人は受けた屈辱は必ず返すと言い、勝利したら改めて平伏し詫びる事を要求した。昴は嘲笑いながら、了承を返した。


「調理、開始!」


 仙左衛門の掛け声と共に、勝負開始のゴングが鳴った。昴と食戟をして負けた者達は内心でタクミが勝つ事を願うも、いつものやり方なら……と諦めの境地に立っていた。


 そしてその考えは、的中する事になる。


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「ん、んぅ……こ、此処は……?」


「起きたか?」


「きゃぁっ!?」


 自分が液体の中に入っている事に気づき身体を起こすと、衣服を何も纏っていない事に気が付いた。何故? と考える前に男の声が聞こえ、咄嗟に局所を隠した。既に意識を失っている時に見ていたのだが、それを彼女が知る筈もなく。男は分身に持って来させたスーツを手渡すと、アリスは引っ手繰るように受け取り自分の身体を隠した。それでも局所が強調しているうえに、下が隠れていない。液体で濡れて結局は隠しきれてない事実に、羞恥で顔を真っ赤にするアリスを見ても、男としての本能など男はまるで反応していなかった。

 アリスを連れ戻すのに三日、裏の世界(チャンネル)があったとはいえ肉体を一度消し飛ばしたために裏の世界(チャンネル)の精度が格段に落ちていた。そのため、現実時間にして一日経過する事になってしまった。嘗て負かした相手に襲われ尊厳を蹂躙された記憶は消え去り、服を破かれ襲われそうになった所を助けられたという記憶に書き換えられた(・・・・・・・)アリスは、未だに顔を赤くしながらも犯人はどうなったのかを聞く。男は何も言わず、離れた場所に置かれた車を指差した。


「そう、なのね……ありがとう、兄さん」


「………」


 身体の疼きが治まらないのか、アリスが身悶えしている。傷ついた身体の内側は癒水によって治癒され、清い状態に戻っていた。少なくとも、表向きは。アリスが襲われた事実は変わらないし、それを知る男と犯人は語る気はない。後者は物理的に永遠に黙らされているのだが、それは置いておく。アリスはこれからどうすべきかを悩んだ。携帯は壊されて存在しないし、自分はスーツ一枚しか身に纏っていない。下着を持ってきてほしいと内心で思っているが、異性の、それも気になっている相手に対して頼むのは気が引けた。自分の付き人にもさせた事がないのだ、はしたない女だと思ってほしくない。
 其処まで悩んで、アリスは犯人の事を思い出す。犯人の荷物の中に携帯があれば、助けを呼ぶことが出来る。もしくはお金があれば、公衆電話から掛けることが出来るかもしれない――と。尤も、後者の場合は数が少なくなって来ているから、あるかどうかも探してみない事には始まらない。しかも自分は公衆の面前に出れない姿だ。裸に近い格好でうろつくなど、痴女でしかない。軽いように見えても、貞淑な女なのだ。アリスは男に見られないようにしながら、火照る身体をどうにかしたい衝動を無理やり抑えつけて話し始めた。


「に、兄さん? わ、私を浚った犯人の荷物の中に、携帯電話がないか見てきてくれない? で、出来ればお金も……あ。あと、タオルも」


 アリスから背を向けていた男は、瞬時に動き車の中から鞄ごと荷物を持ってきた。その中を漁り、四角い機械と小汚い銅貨、薄汚れたタオルを見つけ出した。その他にはノートや手帳、赤い空箱が出てきた。空の箱の中は汚れていて、腐臭がする。アリスはタオルを受け取ると、少し逡巡して、身体を拭き始めた。そして液体がタオルに染み込んでいくと、徐々に赤黒く染まっていく(・・・・・・・・・)。その正体に気付いたアリスは恐怖からタオルを手放し、液体の海に浸かると顔を両手で覆い哭き始めた。
 男はタオルを改めて見る。匂いを嗅いで詳しく調べると――


「兄さぁん!!」


 アリスが癒水の入ったコフィンから出てきて、抱き着いて来た。涙と癒水で身体が汚れていく。男はアリスを持ち上げようとすると、激しく抵抗され更に強く抱き着かれる。局部が押し当てられるも、男はまるで反応していなかった。アリスの記憶から、リョウがアリスを落ち着けるために良くしていた事を真似る事にした。


「ふぇっ……!」


 頭を撫でて、抱きしめ返す。身体を震わせて一瞬恐怖で顔を歪めたのを男は見逃さず、アリスの体内(なか)にいる悪魔に無意識に殺気を向けた。殺意の余波で、アリスは意識を手放してしまった。悪魔はクスクスと愉快そうに笑うと、男に語り掛けてきた。アリスの口から、アリスの物でない妖艶な声が飛び出す。


『意外ね? てっきり男なら襲うと思ったのに……枯れてるの? アナタ』

「………」

『黙して語らず、って奴? アナタの中にいる悪魔、一体だけじゃないわね……黒、白、赤――』

「黙れ」

『やっと喋ってくれた♪ つまらない男は嫌いよ? この子も、私も!』

「興味ない」

『そう言わないで、お話ししましょう? ねぇ、リョウ――』

「消えろ」


 それだけ言って、男はアリスの中にいた悪魔を強制的に眠らせた。眠る前に悪魔が遺していった言葉を、忘れる事はなかった。男はアリスを抱きしめ、身体に着いた癒水と涙を掌から放出した青い炎で気化させた。気化した癒水は空へと昇って行き、やがて男の常人離れした視力でも見えなくなった。


『私に――ムネモシュネに、アナザを頂戴ね? 愛しい、愛しい、悪魔の愛し子(・・・・・・)ちゃん!』


「………」


 無意識にキスしてくるアリスを――正確には、中に潜む悪魔を見ながら。男は臨む戦いが出来ないだろう事を直感で見抜いていた。白のグルメ細胞の悪魔――ムネモシュネは、天性の魅了と誘惑によって他の悪魔を利用し、白の宇宙の一部を制した悪魔だった。捕獲レベルで言えば四桁は超えているが、戦闘力は四獣本体を少し超える程度だった。仮に戦ったところで、本気を出せずに終わるだろう。落胆しながら、口の中に舌を入れて来るアリスの身体を抱えて男は歩き始めた。車の元に辿り着くと、アリスを引き剥がして後部座席に横たえる。分身を傍に置き、アリスの様子を見ながら犯人の荷物を取りに向かう。すべて回収して、車ごと上空へと昇っていく。先程アリスによって阻まれた、タオルにべっとりとこびり付いた赤黒い液体――その正体を、男は振り返りながら学園へと飛んでいく。



 両足の代わりに尾びれを生やして(・・・・・・・・)産まれてきた娘を殺し、止めに入った妻をも殺してその血を拭き取った――グルメ細胞を持って産まれてきた同胞(・・)を悼みながら。男の背中、腰の辺りには、何かを切り取ったような痕が残っていた。





アリスの白の悪魔、ムネモシュネ。ギリシャ神話の女神から名前をいただきました。
他にも二つほど、日本神話から二つ候補がありましたが、見た目の問題からギリシャ神話の女神の名前を採用しました。

男の悪魔が一部、言い当てられてしまった……。まだ秘密にしておくつもりだったのに! おのれ、ムネモシュネ!!


「アリスの記憶は、私が書き換えたのよ」某カードゲームのラスボスを思い出しました。


余談ですが、また忙しくなってきたので数日程更新できません。申し訳ありません。