偉い人達が私を対リンドウの暗殺者と勘違いしている 作:九九裡
注意、この先目を覆うような駄文が広がっています。
それでも読んでやるぜ仕方ねーな、という心の広いお方はどうぞお進み下さい。
「……行ってきます。そのうち帰省する」
「気をつけて行くのよ」
「わかってる」
私は心配そうに手を振る母さんにひらひらと手を振った。荷を背負おうとした所で、私に突進してくる影……!
「アグネスゥウウウ!」
「死ね、クソ爺」
「ぐっは!」
私の上段回し蹴りを首に頂いて、我が家の老害こと祖父は吹っ飛んだ。それでも尚這いずって近寄らんとして来る……!
「アグネス……本当に行ってしまうのかの」
「寄らないで。触らないで。息しないで」
「行かないでくれアグネス!わしゃ寂しいんじゃ!」
「死ね」
「孫娘が会話のキャッチボールしてくれなくて辛い」
この爺は昔から孫バカであり、無駄にフェンリル本部でも権力も持っているクソ野郎なのだ。私が仲良くしたかった友達もことごとくこの謎の独占欲に駆られた爺に追い払われ、人と話す機会が抹消された私は、言語能力と表情筋が死んだ。ぶっきらぼうで無表情になったせいで友達などますます出来なくなった。密かに枕を濡らした。
しかし!今日私は爺の支配から脱却する!
アラガミの動物園と名高き極東支部へ転属するのだ!極東支部以外ではザイゴートが最強みたいな流れがあったけど、これで漸く神機が強化できる。転属願い出して良かった。ほんと良かった。
「でも大丈夫なの?極東支部ってやっぱり危ないんじゃ……」
「問題ない」
母さんは心配そうに言うが、極東支部には是非行きたいのだ。私が自殺志願者という訳ではなく、第一部隊の面々を見たいからである。『GOD EATER』をプレイしていた記憶を持つ者として。
唐突だが、私には生まれた時からいやにハッキリとした前世の知識があり(おそらく高校生男子)、人格が混ざり合ったもののほぼ主導権が今生の『私』にあるため、我がことのようには感じられないものの、異世界……平和な21世紀初頭日本の知識が頭に詰まっている。その中にこの『GOD EATER』世界の知識もあった。この先終末捕食が起こるらしいので母さんには心配を掛けると思うが、それを差し置いても私は世界が救われる様を間近で見てみたいのだ。いやだって、神薙ユウとか凄いじゃん。あれもう完全に
あとアリサさんの下乳も是非生で拝んでみたい。
「アグネスよ!やはり危険じゃ、行くべきではない!こっちにうわらべっ」
手首を掴んで引っ張ってきた爺の力を利用して投げ飛ばした。ゴッドイーターになったのも適正が高いからとかでほぼ無理矢理だったけど、爺を容易くあしらえるようになったのはホントに助かった。お互い合気道とか柔道とかやってたから力負けしてたけど逆転したし、偏食因子のおかげかな?
「行ってきます、母さん」
「気をつけてね、お土産もよろしくねー。明太子がいいかなー」
博多に行くことは殆どないと思うよ、母さん。
サカキ博士に頼めたらいいけど。
アグネス・ガードナー。十六歳。私は歴史の証明者への一歩を踏み出した!
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家から出て行くアグネスを爺は悔しげに見ていた。
(アグネスが……アグネスがワシを置いて出て行ってしまうううう!)
アグネスは唯一の孫であり、幼い頃は「おじーちゃーん」とトテトテと歩いて寄ってきて、宝石のような笑顔を見せてくれていた。そんな可愛い孫を爺は溺愛し、爺から見たアグネスは爺フィルターによって女神もかくやの美少女に見えているが、実際にはかなりの美少女に変わりないが別に女神でもなんでもない。明るい茶髪に翡翠の瞳を持ち、ダウナーな雰囲気を漂わせ、尚且つ衣服は基本ジャージの上と体操着の短パンにブーツという、『取り敢えずある物を着た』という色々とおかしい格好が、彼女の美少女成分をかなり抑えていた。頭頂から生えたアホ毛が風にそよぐ。無表情と投げやりに聞こえるコミュ力も相まって退廃的な印象だ。あまり関わりたくない感じの。
しかし自重を忘れた爺にとってはそんなこと関係ない!
昔はともかく今はエスカレートしすぎて孫に嫌われている爺は、この後に及んで策を巡らせた。
(無理矢理連れ戻してはワシが嫌われてしまう!)
既に嫌われているが。
(そう……そうじゃ。いつもどおりちょっと悪印象を与える噂を極東支部で流させるか。肩身の狭い思いをすれば帰ってくるじゃろう。寂しがり屋じゃしの。帰ってきたところを慰めればなお良い)
好感度アップ待った無しじゃ、と笑う爺。最悪である。
そしてアグネスの偽装パーソナルデータ……本来の経歴の最後に最悪の一文を付け加え、極東支部のヨハネス・フォン・シックザール支部長及びペイラー・榊博士へと送るのだった。
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ヨハネス・フォン・シックザール支部長は本部より送られて来た資料を見て、
「ほう?」
ひとつ笑った。
自分の新たな駒となり得る少女に。
「本部からの転属……本人の希望のようだが、支援と考える方が適切か。有効に活用させてもらおう」
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「これは……!」
ペイラー・榊は急ぎ一人の男を研究室に招いた。
「おう、サカキ博士。呼んだか?」
研究室に入って来たのは雨宮リンドウ。第一部隊隊長である。
「リンドウ君……少々まずいことになったかもしれない」
サカキはリンドウに送られて来たパーソナルデータを見せる。リークとして匿名で本部から送られて来たデータ。それは正規の手続きで書き換えられたデータであるため真偽の確認に至らず、サカキはそれをそのまま正しいデータとして受け取ってしまった。
リンドウは書類を受け取って目を通し、唸った。
「こいつぁ……ヤバいな。こんなのが
「恐らくはヨハンが本部に手を回して招聘したんじゃないかな。できるだけ第一部隊から遠ざけるように配置しよう」
「んー……いや」
サカキの対応にリンドウは首を横に振る。
「こいつ、第一部隊に入れてくれ」
「な!正気かい?」
「ああ。知らないところで動かれるより目の前に居られてる方が監視もできるし、色々いいからな」
「……大丈夫だね?」
「心配すんなって。なんとかしてみせるさ」
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〜資料〜
アグネス・ガードナー(16)
(顔写真が載っている)
・十三歳でゴッドイーターに登録
・十四歳でヴァジュラを一対一で撃破
・同任務中、不測の事態によりボルグ・カムラン及びシユウ堕天種と遭遇するもこれを撃破
・十五歳で撃破数1000を達成
・先月十六歳となる
《以下、重要機密》
ーーまた、
ーー当ゴッドイーターは八歳から十三歳まで二つ名『
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「ふぉ?」
ヘリコプターの中でこっくりこっくり船を漕いでいたアグネスはパチリと目を覚ます。
「……獣神牙が落ちないんですけどの夢か」
以前にヴァジュラやらボルグ・カムランやら何やらを一斉に相手した半ば地獄を思い出しつつ、再び目を閉じる。
ハッチャケた爺によって知らぬ間に暗殺者の来歴を被せられた少女の『思ってたのとちょっと違う』日々が今、始まる……!
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〈side・アグネス〉
基地を飛び石のように移動した私は、数日かけて極東支部に到着した。
極東地域はかつての日本。その関東地区、神奈川と呼ばれていたエリアだ。
ちなみに、さらに細かく言うとアナグラが存在するのは藤沢市であり、主人公らが任務で訪れる殆どの区域も神奈川県なのだとか。ウィキで見たんだっけ。
内部居住区施設を中心として外部居住区が広がり、更にその周囲を対アラガミ装甲壁が覆っていた。しかし『極東支部』は、正確には中央施設のみのことだそうだ。まあ中央施設なくなったらここにいる人みんな死んじゃうしね。ご飯も食べられないし。
アナグラを通り、支部の中へ。エントランスに入ると……おお……ゲーム画面越しの景色が現実にあるよ……思わず周囲を見回して笑ってしまった。見慣れない人だからか、他のゴッドイーター達にえらく注目されているが、転校生はそうなるのが最早サダメだ。甘んじて受け入れよう。
えっと、まずはシックザール支部長のところに行かなきゃいけないんだよね。私は出撃ゲートから入って来たから、左のエレベーターか。
さて、行くとしましょう。迷いなくエレベーターに進み、最上階へのボタンをポチッとな。
エレベーターに乗る時まで注目されていたので、私は彼らに向かって一つ微笑む。ざわめきが起こったところで私は上階に運ばれて行った。
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〈side・リンドウ〉
今日は数日前にサカキ博士と話したアグネス・ガードナーがこの極東支部にやって来る日だ。極東支部に所属するゴッドイーター達は他の支部の連中と違って潜った修羅場の数も多い。そのぶん、あー、なんというか、転属して来た人間は戦闘経験のない新人でもない限り俺たちの雰囲気に当てられちまうんだよな。ガードナーがどんな反応をするかは分からないが……おっと。電話か?噂をすればサカキ博士か。
『そろそろ例の彼女が到着する予定だ。極東支部の中を一通り巡ってもらっても構わないが、あまり遅くならないようにしてもらってくれるかい?すまないが、万一迷子になっていたら連れて来て欲しい』
「あいよー」
さて、どんな人間なのかねえ。
そして15分後。
出撃ゲートを開けて入って来たのは、体操着を着た年若い少女だった。転属者が来ることはみんな知ってるから、注目を一身に浴びているんだが……まるで堪えた様子もない。無表情がまるで変わらない。
それどころか、周囲のゴッドイーターを一人一人舐めるように見渡して……
ニヤリ。
「!」
ガードナーは嗤った。禍々しく。
まるで笑い慣れていない人間の笑顔のようでもあったが、間違いなくそれは嘲笑であり失笑だった。
彼女は言外に言ったのだ。
なんだ極東支部もこんなものか、と。
ガードナーの経歴を知らないゴッドイーター達は各々腹立たしそうだったり不満そうではあったが、十四歳にしてヴァジュラとボルグ・カムランとシユウ堕天種を一遍に相手取れるゴッドイーターは極東支部でも多くない。
……本物が来ちまったな……。
ガードナーは体に刺さる視線もなんとも思っていないように威風堂々と進み、迷いなくエレベーターに乗った。その様には自分への絶対の自信が透けて見えた。
そして再びの歪んだ嘲笑。それを最後に彼女は支部長室へ昇っていった。やはり表情筋が引きつっているように見えたが、これだけ周りの連中がピリピリしているんだ。俺の間違いってことはないだろう。
それとさっきから『