偉い人達が私を対リンドウの暗殺者と勘違いしている   作:九九裡

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今回原作既プレイの方は素通りで問題ありません。
ほぼ原作まんまなので読んでも萎えます。次回の最初に簡単なあらすじを記載します。


終演、次いで開演

 

〈side・アグネス〉

 

別にどうということもない、普通の任務だった。

私とアリサは贖罪の街にてオウガテイル二体とコクーンメイデン五体をさっくりと片付け、極東支部からの迎えを待っていた。

私がシャボン玉とかあれば吹かしたい気分の中、アリサはリンドウさんにアドバイスされたからか、ボンヤリと空を眺めている。動物の形の雲は……あれはペンギンっぽいな。

このまま眺めているのも良かったが、何となく話したい気分だったので、話しかけてみることにした。

 

「前々から思ってたんだけど」

「はい?」

「コクーンメイデンのモデルはどう見ても鉄の処女(アイアンメイデン)だよね」

 

その台詞に、アリサは困ったように眉尻を下げる。

 

「……すみません。分かりません」

「そう?説明すると、アイアンメイデンとはーー」

 

……鉄の処女(アイアンメイデン)。あのえげつない、しかし実際には使えないとも言われている拷問具だ。コクーンメイデンというアラガミの見た目は、どう見てもそれだ。

そしてアラガミは食べたものの性質を取り込む。ということは、アラガミがアイアンメイデンを食べた結果がコクーンメイデンということになる。

つまりこの現代までアイアンメイデンが残ってたわけだ。博物館とかにあったのかなぁ、なんて考えたりして。

 

「……なるほど。確かにそうやってアラガミのルーツを考えるのは面白いですね」

「でしょう?そのうちもっと変なのも出て来るかもね。……アヒルのボートとか?」

「ぷっ」

 

白いアヒルのボートのようなアラガミ……そのシュールな絵面を想像したのか、アリサは小さく吹き出した。

ーーああ。ここにみんなが居たら良かったのに。そうしたらきっと、もっと楽しい話が出来ただろう。

私も薄く微笑んで、アリサにゆったりと近づくと、精一杯背伸びをして、その頭をそうっと、そうっと撫でた。

 

「アグネス、さん?」

村中から糸一本ずつ集めれば(С миру по нитке)裸ん坊にシャツがやれる(— голому рубаха)

「え」

 

突然私がロシア語を喋ったからか、ポカンとするアリサ。仲良くなりたいと頑張って勉強した甲斐があったというものである。

その白い両ほほに手を添えて、目を合わせる。

 

「誰かを頼ることを忘れないで。きっと第一部隊のみんながあなたの手を掴んでくれる」

「は、はい……」

 

ほんとうに。忘れないでね。

そうすれば。

あなたは自分(あなた)を好きになれるよ。

私のようには、ならないで。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side:アリサ〉

 

透き通るような笑みでした。

私の頭を帽子の上から壊れ物のように撫でて、翡翠のような瞳で私の目を覗いたアグネスさん。

彼女はとても強い人です。技術、知識、戦闘能力、どこを取っても優れていて。新型神機使いで、本部からの転属でーー

彼女は、とても、強いはず。

なのに。

私にはその時だけ、彼女がまるでヒビ割れた、触れただけで崩れてしまいそうな、脆く儚いガラス細工に見えたんです。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

さあ、終わりの時間だ。

 

幕は降り、舞台は閉じる。

 

幸せの刻(ハッピーエンド)を噛み締めろ。

 

『次の開演をお待ち下さい』

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side:アグネス〉

 

数日前と同じく、贖罪の街。リンドウさん、アリサ、そして私は探索任務を受けて教会周囲を練り歩いていた。ユウたちはまた別のミッションを受けている。確かーー『蒼穹の月』。

 

「これは、いよいよキナ臭くなってきたな」

 

そんな疑念に満ち満ちたリンドウさんの言葉を私は黙して聞いていた。神機を構えたまま周囲を警戒して歩く。アリサも心なしか不安そうに見えた。私も不安で仕方ない。いや、昨日までは自信満々だった。計画通りに事が進めばリンドウさん助かるヤッター!と思っていたのだ。

いたのだ(過去形)。

今朝方早くに支部長に呼び出されたのがこの不安の原因だ。いよいよリンドウさん失踪ターン来たなと覚悟した私に下された指令はなんとーーリンドウさんの抹殺だった。もう一度言う。リンドウさんの抹殺だった。

 

「……」

「アグネスさん?」

「何でもない」

 

何でもなくないよヤバいよ!!

ポーカーフェイスを作りつつも冷や汗をだらだら流し、内心で絶叫する。

何考えてんだ支部長!私はあくまでスパイじゃなかったの⁉︎なんで暗殺業務まで私に流してんの⁉︎いやまあ私以外に依頼された方が厄介だけどさあ!

私のこと暗殺者とかと勘違いしてない?お陰で練りに練った救済プランがめちゃくちゃだよ畜生!おらこっち向け!

脳内で意地でもこちらを向こうとしない支部長の股間をげしげしと蹴り上げていると。

アリサが突然ひゅ、と息を呑んで立ち止まった。

私も即座に意識を切り替えた。

……確かに一瞬、獣の遠吠えのような何かが聞こえた気がする。来た、かな。プリティヴィ・マータ。ヴァジュラの上位種。そのさらに上の接触禁忌種、ディアウス・ピターまでもが。

 

「どうかしたか?」

 

歩みを止めたアリサを訝しんでリンドウさんが振り返る。

 

「い、いえ、問題ありません。側面クリアです」

「……後方も同じくクリア」

「……そうか。進むぞ」

 

僅か一瞬瞑目したのち、リンドウさんは歩き始めた。

……動悸が収まらない。バクバクという音が、耳に響いてとても五月蝿いのだ。上手くいかなかったらどうしよう。失敗したらどうしよう。そんな良くない想像ばかりが、脳裏を掠めては消えていく。

 

やがて歩いていくうち、教会の裏手から、入り口へと回り。

 

「何?」

 

反対側から回って来た、ソーマ達とかち合った。

 

「お前ら?」

「あれ?リンドウさん、何でここに⁉︎」

「どうして同一区画に二つのチームが……どういうこと?」

 

コウタやサクヤさんが口々に疑問を呈する。通常、任務を行う際には、編成した四人一組のチームで区画が被らないようにアサインする。同じ区画に強力なアラガミ二体が集まったりしてしまえば、二対二チームとは言っても人数に直せば二対八、すなわち混戦は避けられない。ゲームのようにフレンドリーファイア防止機能がない以上、仲間に神機をぶつけたり誤射したりで重篤な怪我を負う危険がある。

だというのに。今現在この小さな区画に、二つのチームが集められていた。紛れもなく支部長の策略だ。ここまでは、原作通り。

 

「……考えるのは後にしよう。さっさと仕事を終わらせて帰るぞ。俺たちは中を確認、お前たちは外を警戒、いいな」

 

全員が困惑を隠し切れずにいるが、それでも頷く。

リンドウさんを先頭に、私とアリサも教会の中へと入った。

そして。

 

「Grrrrrr……」

 

割れたステンドグラスの向こうから進入して来たーー女人面の氷獣。

 

「プリティヴィ・マータ……!」

「下がれ!!アリサは後方支援を頼む!アグネスは前に!」

「Ghooooo!!」

 

こちらへ大口を開けて飛び込んでくるプリティヴィ・マータ。三人とも後方へ大きくバックステップし、神機を構える。

リンドウさんと代わる代わる斬り込むーーけれど。

 

「アリサぁ!どうしたあ!」

 

叫ぶリンドウさん。それに反応することなく何事かを呟きながら、一歩一歩、逃げるように後退していくアリサ。明らかに様子がおかしい。両親をディアウス・ピターに目の前で喰われたトラウマが、同種のプリティヴィ・マータを見て蘇っているのか。或いはーーオオグルマの、洗脳か。

 

один(アジン)……два(ドゥヴァ)……три(トゥリー)……」

 

虚ろな目で、迷子のような顔で。アサルト形態の神機を持ち上げ、ロシア語で『いち、にの、さん』と唱えながらーーその銃口をリンドウさんに向けている。

オオグルマに施された、『両親を捕食したアラガミは雨宮リンドウと橘サクヤである』という洗脳によって、アリサは銃を構えている。

けれど私の知識(きおく)通りなら、リンドウさんに『混乱した時は空を見て、動物に似た雲を探すんだ』というアドバイスを受けているアリサは、洗脳暗示との間で板挟みになって錯乱し、空を遮る天井へと弾をぶちまけるはずだ。

それでいい。

その方が私の予定通り進む……けれど。

ああーーそんな哀しそうな顔、しないでよ。

見ていられなくなっちゃうじゃないか。

 

「……リンドウさんごめん。すぐ戻る」

「ッ⁉︎アグネ……うおっ!」

 

馬鹿だな、私も。彼女と境遇が似てるところもあるから、同情(シンパシー)だなんて。

私は駆ける。神機を持って、彼女の前まで。

そして。何れは彼女が思い出す、この言葉を。

彼女が忘れてしまった、その子の代わりに届けよう。

まだ思い出せはしないだろう。

それでもきっかけになればいい。

ユウが後はなんとかしてくれる。

彼女が幸せになりますように。

 

「アリサ」

「アグネス、さん?」

「大丈夫だよ、アリサ。

悲しみは海にあらず、(оре не море, )すっかり飲み干せる(выпьешь до дна)。だからーー」

 

笑ってて。

私は天井に向けてロケット弾をぶっ放した。

砕け散る天井。ガラガラと降り注ぐ瓦礫の隙間。

最後まで笑顔でいる私と対象的に、唖然としてへたり込んだアリサの様子がいやに目に付いた。

 

「アグネス⁉︎」

「……リンドウさん。ごめんね」

 

瓦礫で通路が完全に塞がったのを確認して振り返り、本気で踏み込む。問答無用で繰り出した私の拳をリンドウさんは躱すけれど……取った。通信機。私のそれも耳から外し、足下に転がして踏み潰す。バキャン、と甲高い音を立てて、通信機はただのガラクタに変わった。

これでくそったれの盗み聞き達にも聞こえない。

 

「始めよう」

 

リンドウさんを向こう岸まで送り出す。

悲劇はもう見飽きたでしょう?これからは喜劇を贈りましょう。

新しい舞台の、幕開けだ。

 

 

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〜報告書〜

 

第一部隊は任務中、贖罪の街にてヴァジュラ神属の接触禁忌種、【プリティヴィ・マータ】の大群と遭遇。()()によって退路を塞がれた第一部隊隊長雨宮リンドウ及び隊員であるアグネス・ガードナーを残し第一部隊は撤退。

ある事務員のミスにより同一区画での任務受注など問題も見られたが、【プリティヴィ・マータ】発生との関連性は見られず、事務員に関しては()()()()()()()()()()

また、同隊隊員のアリサ・イリーニチナ・アミエーラの精神状態は芳しくなく、メンタルケアが必要と思われる。

最後に捜索隊による活動の結果、

 

雨宮リンドウはMIA(作戦行動中行方不明)とし、除隊死亡扱いとして二階級特進。

アグネス・ガードナーは【贖罪の街】内部の教会にて発見されたが、出血多量により現在も昏睡状態である。

アグネス・ガードナーの状態から雨宮リンドウの生存確率も低いとして、捜索隊の再編成は現在、予定されていない。

 

 

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とある一室にて雨宮リンドウは目を覚ました。がばり、と身を起こして、掛けられていた柔らかい毛布に気がつく。

 

「ここは……」

 

ゴッドイーター用に割り当てられた自室に似ているが、やや違和感を感じる。日本と違う……まるで外国のような。

 

「なんじゃ、もう起きたのか」

 

年老いた男の声がした。どこから聞こえてきたのか。辺りを見回すが声の主は見当たらない。

 

「下じゃ、下」

 

言われるがままにベッドの脇を覗き込むとーー

 

「はっ?」

 

鎖でこれでもかと雁字搦めにされた芋虫のような老人と目が合った。その意味の分からない存在に、理解が追いつかず惚けるリンドウへと、老人はぐるぐる巻きのまま真面目な顔で言う。

 

「初めまして、雨宮リンドウ。あの子が世話になったようじゃの」

「……ッ、あんたは」

「わしはエイブラハム・ガードナー。アグネスの祖父じゃよ。早速で悪いが、この鎖解いてくれんか?あの鬼女がハンダゴテとか千枚通し持って戻ってくる前に。まじでぶっ殺されかねん」

 

ここは欧州、フェンリル本部。

雨宮リンドウはこの魔窟で、アグネス・ガードナーの過去と対面するーー

 

 





……ふぅ(シリアスで疲れた)。
どうも、九九裡です。

【悲報】アグネスさん、リンドウさんへのアリサの自責を減らす代わりに別のトラウマを呼び起こしかける。

大丈夫、ユウならなんとかしてくれる(希望)!
分からない方はGOD EATER小説版の地下をどうぞ。或いはwikiなどでも……?
そしてやっと予定量の四分の一くらいまで到達しました、しかしシリアス地獄はここからなのだ。
余りにシリアス書きすぎて辛いので、バレンタインネタを途中まで妄想し……諦めました。諦めました(二度目)。
『最後まで書いてよ!最後まで真面目にバカやってよ!』という感想が万が一多数寄せられた場合、番外ifとして書きます。
以下、その残骸。↓

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「うおおおおっ!」

細い一本線の通路で、私に向かってーー否、私の後ろの扉を抜けようと走りこんで来る男達。その数、五人。

「通してもらうぞ、ガードナァァ!!」

決死の形相でこちらを突破しようとするその熱気、熱量は眼を見張るものがある。
けどな、大の男が少女に突っ込んで来るな。
そう内心で愚痴りつつ、私は両の太ももに手を伸ばして銃を引き抜いた。

ドパパパパパァン!!

反応さえ許さず男性諸君の額に赤色が弾ける。二丁拳銃から放たれた弾丸が、狙い過たず脳天に直撃していた。これぞ脳天直撃弾……え?違う?

「ち、くしょ……」

泣きそうな声で、大切なものを取りこぼしたように倒れ伏す男達。その弛緩した拳から、赤に塗れてしまった紙切れが零れ落ちる。
その紙にはこう記されていたーー

『バレンタイン義理チョコ抽選券:サクヤ』

OK、こいつらの顔は覚えた。後でリンドウさんにチクろう。
……私はガンスピンをして拳銃をホルスターにしまった。
そう、別に極東支部で仲間割れが起きている訳ではない。これは男達のチョコ獲得の為のイベントなのである。私が放った弾も赤のペイント弾だ。実弾じゃないぞ!

『アグネス・ガードナーによってさらに五名が脱落!残りは二十名となりました!無策で突っ込んでいては勝てないぞー!』

尚、この光景は一般に向けてもアナグラヘ公開されており、そういったエンターテイメント的な意味でもイベントなのだ。バレンタインなので派手に楽しんでもらおうという企画である。
この義理チョコ抽選券を見れば分かると思うが、門番たる私の背後の扉の先には、トラップを避けつつ進んでいくとポストが用意されており、そこにこの抽選券を放り込めば義理チョコ抽選に参加できるという仕組み。ポストは他にも用意されてはいるが他の門番が待ち構えているのでーー

『ナメた真似してくれるじゃない』

『フハッ、無様だね!』

『あははっ! 痛かったの? ねえ!』

『ねぇねぇこの程度なの? あなたって!』

『あれー? 逃げちゃうのぉー⁉︎』

『このままだとあなた、穴だらけだよ!』

『断末魔、素敵だったよ!』

『ア ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ !!!』

……通信機から聞こえて来る音声からして異常なーし。カノン戦線異常なーし。ないったらないの。向こうから聞こえて来る断末魔なんてアーアーキコエナーイ。

「チョコレートゼロワン。こちら異常なし」
『ゼロツー。こちらも問題ありません』
『ゼロスリー。こっちも大丈夫よ』
『あはははは!!……あ、ゼロフォーも大丈夫です!』

何故私がこんなクソイベに参加することになったのか。
事の発端は二週間前にさかのぼる。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

唐突ではあるけれど、2月とはイベントが多い。
節分にバレンタイン、それにふんどし祭りとか煮干しとかネクタイ。
まあバレンタインとふんどし祭りは日付被ってるから、その日は男性は二種類に分かれて行動するのだろう。

即ち、勝ち組(バレンタイン派)負け組(ふんどし祭り派)である。

誤解のないよう告げておくと、この世界にもバレンタインはある。GE2のダウンロードコンテンツで、エイジス島にてヴァジュラに追われながら飛行機から零れ落ちた無数のチョコを回収するミッションがあったし。
……確かそのチョコ、売ったらそこそこ小金稼ぎになったような。仮にもひとからの好意を売れるシステムェ……。
とにかくだ。バレンタインがあるということはまあ、ゴッドイーターの男性諸君の反応もチョコかふんどし、どちらかに分かれるわけで。
……やめよう、この話は。
前世の記憶も持ってる私からすると大変哀れみを覚える。

話は変わるが、2月3日は節分である。
節分について簡単に言えば、毎年変わる鬼門の方向を向いて、恵方巻きをもっしゃもっしゃ黙って食べたり。
豆を「鬼は外、福は内」と言いながら家の中から外へ投げたり、鬼役の人にバチバチ投げつけたりするイベントなのだ。地味に痛い。
日本人は後者をMAMEMAKIと呼ぶ。
転生してから16年ちょい、日本から遠く離れた本部生まれ本部暮らしだった私は、これまで当然豆撒きなんてやってないのでわりと豆撒きに参加した時の記憶も曖昧である。バレンタインが血で血を洗う宴というのは覚えているのだが。
と、そんなことを会議中に考えていたのだが、サカキ博士が指し棒でホワイトボードを叩いた音で我に帰った。
周囲には私と一緒に召集された第一部隊の面々に加え、エリックやカノン他の防衛班、ツバキさんやリッカ、ヒバリさんまで勢揃いしている。オオグルマ?ペッ!知らないクソ野郎ですね。

「というわけで、最近は誰も彼も働き詰めだったからね。極東支部も慰労会を行おうと思うんだ。良い案はあるかい?」

と、サカキ博士。
慰労会か。こんなに大勢で集まるのって私の歓迎会以来かな?歓迎会……お礼、感謝……うっ、頭が。
慰労会と云うならまあ、飲み会みたいにするとか、簡単なレクリエーションみたいなのにするとか、そういうのだろうか?
まあ間違っても激しい運動会みたいなのにはーー

「はい!はいっ!射撃大会がいいと思います!」
「「「ヤメロォ!」」」
「えっ?」

とある誤射姫の提案に各所から異口同音で静止が掛かった。

「なにかまずいですか?」

全部かな!きょとんとして首を傾げるカノンを前に、私含め殆どの人が首を横にぶんぶんと振っている。ある意味壮観な眺めだな……。

(射撃大会ってそれあなたが一番提案しちゃダメなやつよね!?)
(誤射姫ぶっちぎりの大活躍だろ。背中から撃たれたやつが上半身と下半身泣き別れ的な意味で)
(何故か射線上に人がいるアレですねわかります)
(慰労会じゃなくて疲労会だろそれは!)

ワォ……みんなの思考が手に取るように分かるんですけど。
いやしかし、ブラストの誤射は正直シャレにならないんだよほんとに。この間なんてユウに誘われて何人かと行ったミッションで、誤射姫さんたら爆心地とクレーター生み出して『ヤム……コウタァー!』を一日のうちに三回やったんだぞ。ゴッドイーターが肉体が偏食因子のおかげで丈夫だと言っても限界はある。強化ロケット弾程度ならヤムチャで済むけど、最大級のメテオとか喰らったら普通に死ぬから。
余りに有名なカノンの悪癖に、現場に出ないサカキ博士までもが顔を引きつらせている。彼は困ったように、しかしそれでもマーカーを手に取った。

「う、うん……一応、候補として書くだけ書いておこうか」
「んん……そうだな。書くだけ書いておこう。書くだけ」
「なんでそこまで書くだけを強調するんですかぁ!?」

自分の胸に手を当てて考えなさい。
抗議するカノンからみんなが君子危うきに近寄らずとばかりに目を逸らし、私もまた手元のコップの中身に視線を落として、ちびちびと口をつけていた。その態度でワタシカンケイナイヨーと全力で主張する。
しかし。視線を逸らした先で私と目が合ったエリックが、ぽんと手を打って起死回生の策のようにーー

「師匠の流星◯条(ス◯ラ)教習会とかどうだろうか?」
「あっ、それいいですね!」
「……ガフッ!!」
「アグネスさん!?」
「メディーック!衛生兵!衛生兵!」

真っ赤な液体を吐いて崩れ落ちた私を咄嗟にユウが支えてくれた。落ち着けコウタ、今君の手元にもある野菜ジュースだから!吐血チガウ!
そしてエリック貴様ァ、何をしてくれとんのじゃコルァ。流星◯条(ス◯ラ)教習会ってなんだ!やめろヤメルンダそれだけは。これ以上私のブラックヒストリー継承者を増産しないで。カノンも食いつくな、サカキ博士とリンドウさんも「やむなしか……」みたいな顔をするんじゃなぁい!

「でもそれ、ブラスト使い以外はどうするんだ?」
「大丈夫でしょ。アグネスはバレットエディットに関しては何処からどう見てもゴッドイータートップクラスだもの」

疑問を呈したリンドウさんにサクヤさんがフォローを入れる。嬉しいお言葉。しかし今だけは辞めて欲しかった!
まずい。このままだと流星◯条(ス◯ラ)が普及したが最後、私は二度と汚染()された地上を歩くことは出来なくなってしまう……!取り敢えず何か代案をッ!
私はコップをローテーブルに叩きつけ注目を集めつつ、気管に入ったジュースで噎せながらも必死に声を出す。

「私にッ……ゴフ、いい考えがあるっ……!ゲホッ!」
「アグネスさん、ティッシュティッシュ」

背中をさすられながら息を整えーー

「豆撒きとバレンタインのコラボレーション……即ちMAMEMAKI×VALENTINEを提案するっ!」
「どうしよう地雷臭しかしないんだけど」

アンタが言うなサカキ博士!初恋ジュース程じゃないぞ!
セリフがフラグだったのは認めるけど。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

という経緯である。
うん……結論、私のせいだった。
私が豆の代わりに銃弾をばら撒いて義理チョコの抽選券を男達に渡すとか言ったせいか。いやだって仕方ないでしょ。黒歴史をばら撒くよりマシです。
カノンだってほら。仲間に当てちゃいけない状況だから誤射するんだよ。つまり当てていいなら誤射じゃない(錯乱)。


▲▽


はい。作者が指を動かすといつの間にか誤射姫大暴走。リンドウさんの次に動かしやすいです。
そしてバレンタインネタだというのにチョコを渡すシーンに辿り着けなかった……でもシリアス詰まりしてたのでバカな話を書けてすっきりしました。
次話からようやくタグの独自設定の後ろの(予定)を外せる。
アグネスの過去、リンドウさんとアグネスの脱落した第一部隊、支部長、オオグルマくたばれ……etc。
これからもお付き合い頂ければ幸いです。

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