偉い人達が私を対リンドウの暗殺者と勘違いしている   作:九九裡

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リンドウさんは復帰するまでは大剣型のみでしたが、うっかり銃を話に組み込んでしまっております。
ピッコロ大魔王(旧)が悟空に『5秒で倒す宣言』した時に指が一本増えましたが、そんな感じだと思って気になさらないで下さい。うっかりしてたんです……すみません。


ヴァリアントサイズ

鎌をぶん回しながら私は危機感を覚えていた。

 

「ふっ!ふんッ」

キィン、キィン!

 

この音だ。ザシュ、ザシュではなくキィンキィン。攻撃が通っていない。

今思い出したのだ。

テスカトリポカ切断通らねEEEEEEE!

 

私の鎌の相性悪すぎでしょ。切断全振りなんだけど!メテオの破砕が効く部位……前面装甲は上についてないし!排熱機関は高過ぎて届かないし!あああああああああウゼエええええええ!!

そして貴様一回一回飛び跳ねるたびにミサイル撒き散らすんじゃねえ!ミサイル炸裂させるんじゃねえ!ウゼエんだよテメェくそ死ねッ!

 

……落ち着け。落ち着け私。精神が前世側に寄って来てるぞ。それはまずいから。非常にまずいから。

以前前世の残滓が覚醒した時はしばらく二つ名が【ジキルアンドハイド】だったから。もちジキル私ね。記憶も感情も共有されるけど態度が豹変しちゃうからね。

 

……鎌が効かないのは仕方ない。どうせ必要なのは足止めだ。ユウとコウタが任を終えるまで、精々ヤツの足元をチョロチョロすればいいのだ。あっリンドウさんが前面装甲壊した。

よし。私は足元を捕食でチョロりまくってリンドウさんをバーストさせ続け、尚且つオラクル貯めてメテオブッパしてやろう。

 

あっちょ、待ってリンドウさん。それ濃縮アラガミバレットだよね?範囲広いよね。おい待て、待て、待っ。

 

「射線を開けてくれえ!」

 

ぐぁああああ!やりやがった!やりやがったぞこの人!危うく吹っ飛びかけたわ!ヤバいテスカトリポカがジャンプしようとしてる退避!

 

「コウタたちはまだ?」

「ああ。まだ内部の犯人の制圧に手間取ってるらしい」

 

インカムで通信した内容を教えてくれた。ううむ、やっぱり対人戦闘もイケる私が突入すべきだったか?でも流石にテスカトリポカを数日前にコンゴウ倒したユウとコウタにやらせるのはキビシイだろうし……。

 

「リンドウさん!」

 

ユウとコウタが気絶した子供二人を背負い、下手人らしきおっさん達をふん縛って引っ張って教会から出て来た。子供のひとりは中学生くらいの女の子で、もう一人は小学校低学年くらいの男の子。私は叫ぶ。

 

「早く護送車まで運んで!」

「ハイッ!」

 

護送車の方向へ駆けて行く二人。あともう少しテスカトリポカを引きつけて撤退すれば……!

 

「っ、アグネス!乱入……中型だ!1分後!……チクショウ!出現位置は護送車のすぐ近くだ!」

 

ッッ!!最悪だ!

どうあってもユウ達が護送車に着いて一時退避するよりソイツが先に来るのが早い!あの二人だけでは、子供たちを庇いながらじゃ絶対に対応しきれない!

私はテスカトリポカにロケット弾をブチ込み、怯んだ所に声をかける。

 

「……リンドウさん。行って」

「だが…………いや。すまん!必ず戻る!」

 

リンドウさんは背を向け、一目散に走って行った。

テスカトリポカが咆哮する。怒りで活性化させてしまったようだ。びりびりと空気を震わせる咆哮を受けながら、私は腰のポーチから一本の無針注射器ーー圧力で打ち込む奴だーーを取り出した。中にはサファイアブルーの、蛍光質の液体がチャプン、と揺れている。

 

「……ツェロ。力を、借りるよ」

 

躊躇なく首に注射器を押し付け、薬液を注入。空になった注射器を投げ捨てた。カラン、と音を鳴らす。体の内部、心臓を意識するようにカチリとスイッチを切り替え、一つのタガを外した。直後ーー

 

「う……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

血液が煮え立ち、沸騰するに等しい激痛が私を襲う。同時ーー神機が()()()()()()()()()()。結合が乱れ、刃はぐらつき、砲は付け根から唸り、盾は連結部と共に波打つように動き出す。内部から黒い何かがはみ出るように蠢いているのが見えた。

 

ーー神機暴走状態。

 

表現として一番近いのは、GE2RBで有名な、ブラッドレイジだろうか。短時間ながらも神機の暴走状態を支配し、大幅に出力強化されるあの力。だが……私は支配などしていない。

 

私に「喚起」能力などない。

 

感応制御システムの補佐も受けていない。

 

言うなれば私は今、神機からの感応波逆流による精神汚染を直接受けているのだ。このままの状態でいれば、ただのゴッドイーターなら廃人と化すのに五分と持たないだろう。

……だが。

 

「あ゛あ゛あ゛ッッ!!」

 

地面にヒビが入る程のパワーで踏み込み、瞬く間にテスカトリポカの懐に入り込む。鎌を振るいーーごく一瞬の間に幾度となく傷口を抉るように斬りつけた。テスカトリポカが悲鳴を上げる。

あの薬液は精神汚染を抑制する効果があるし、私自身神機の暴走に耐えられる体で生まれて来た。命を勘定に入れなければ30分は持つだろう。

 

「フーッ……フーッ……フーッ」

 

早ク済ませて貰わないと、私が呑まれてしマう。

神機が見せる、過去(わたし)自身に。

 

「ァアアアアアアアアア!!」

 

突喊。全力で振り抜イた変異する戦鎌(ヴァリアントサイズ)がテスカトリポカの横っ腹を深々と切り裂く。ヴァリアント……Variant。意味は変異。変化。私はヴァリアントサイズと最初聞いた時、一字違イのValiant……勇猛という意味だと思っていた。実際には間違いで、鎌が伸びることから変異だったわけだけれど。それでも今はーー私が振るうのは!

変異する戦鎌(Variant scythe)』である以前に……

勇猛なる戦鎌(Valiant scythe)』!

 

足元に潜り込み、一閃、二閃。ジャンプして幹竹割、1秒後ミサイルが飛んでくるのでバックステップで退避及びリザーブ。サイズに再び変形!踏み出す!

 

恐れるな、前を向け。

 

足を止めるなーー進め!

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・リンドウ〉

 

「これでーーっ、終わりだぁっ!」

 

護送車の目の前をウロウロしていたシユウは、最後に俺の一撃を喰らって地に伏し、動かなくなった。コアを回収してる暇はねえ!

 

「コウタ!お前は護送車を開けた安全な場所まで動かせ!ユウ!お前は着いてこい、アグネスを助太刀しに戻るぞ!」

「はい!」

「おっし!俺免許取ってないけど……言ってる場合じゃないもんな!」

 

行くぞ!早くあいつのところに戻らねえと……!テスカトリポカを一人で抑えるのは相当厳しいはずだ。

あいつは暗殺者なのかもしれないが……それでも第一部隊(うち)の隊員だ!命の重さを知る、俺たちの仲間だ!

全力で走り、贖罪の街、その広場に辿り着く。そこにはアグネスの姿もテスカトリポカの姿も見受けられなかった。

どこだ……?

 

「あぁアうあヲあ……」

 

この声……教会か!

ユウも声を聞きつけたようで、互いに顔を見合わせ頷くと急いで教会の中へとーー!

 

そして。

 

教会の中には。

 

斃れたテスカトリポカの上に佇み、外が見える穴からオレンジの夕陽を眺めているアグネスの姿があった。

 

「アグネス……?」

 

かつん、と鳴った靴音に、アグネスの肩が反応し、徐ろにこちらを振り向いた。

 

「うイ?」

「ーーッ⁉︎」

 

その顔を見た途端、これまでに感じたことがない程の悪寒が背筋を走った。右眼だけから滂沱と涙を流しながらーーアグネスの口元は、弧を描いていた。なんだ、これは。そして何よりーーあの、絶えず蠢いている神機。暴走してやがるのか⁉︎

 

「ア、はーー」

 

よろり、よろりと止まりかけのコマのようにアグネスがこちらに向き直る。良く良く見ればその背中から、不定形な金色の靄のようなものが出ているようにも見えた。アグネスは神機をテスカトリポカの死骸から引き抜き、構えた。ーーこちらに向けて。

 

「なっ……おいアグネーー」

「かえせ」

「グッ!」

「リンドウさん⁉︎」

 

たった一歩で5メートルはある距離を詰めて来たアグネスが振るった大鎌を咄嗟に掲げた大剣で受けたがーー重い!出力が上がってる、完全に暴走してやがるな!

 

「かえせ」

「アグネスさん、正気に戻ってくれ!」

「ツェろを、かエせ……!オおカミィイイイ!!」

 

横薙ぎの大払い。大剣の腹でガードし、ユウの側まで押し戻される。手がびりびりと痺れた。マズイぞ、このままじゃアグネスを元に戻す前に俺たちがやられちまう!

 

「リンドウさん、あの腕輪を!」

 

そうだ……道中渡されたあの青い腕輪!アグネス曰く強制鎮静剤だというアレを使えば、まだ。

 

「ユウ!俺が囮になる。お前が嵌めろ!」

「っ了解!」

 

ユウが俺から少し離れ、隙を伺う。

 

「殺してやル……狼、狼、狼!」

「うおおおおっ⁉︎」

 

再び突撃して来たアグネスの攻撃を受け、そのまま壁際まで後退させられた。

 

「潰れて死ね」

「いいや……こっちが王手だ!」

「グレネード行きます!」

「あ……?ぎゃっ!あああアあ!」

 

閃光、爆音。アグネスの足元にユウが転がしたグレネードが、アグネスの視線を奪った上で炸裂する。俺は直前にしっかり目を瞑っていたが、直接光を見てしまったアグネスは神機を持ったまま両手で目を押さえた。やたらめったら暴れ出す前に羽交い締めにする!

 

「ユウ、やれーっ!」

「はいっ!」

「放セ……放せぇ!」

 

駆け寄ったユウがアグネスの左腕に、渡されていた青い腕輪を手錠のようにがちん、と嵌めた。直後ーー

 

「あ……あぁああああああああああ!!」

「アグネスさん⁉︎」

 

アグネスは神機を取り落とし、左腕を抱えて地面に蹲った。背中からの靄は消失し、神機は蠢かなくなったが……本人の様子が尋常じゃねえ。

 

「くぁあああぁああああああああ!ぎぃ、ああああああ!!……あ、ああ……!」

 

アグネスはひとしきり叫ぶと、糸が切れた人形のように気絶した。

 

 

帰り道、護送車を俺が運転し、後部座席に眠ったままのアグネスと子供達を乗せ、犯人は目覚める度に念のため気絶させて(物理)、ユウとコウタに見張らせている。

 

「アグネスの様子はどうだ?」

「まだ起きそうにないです。顔色は悪くないですよ。でも、良かったですね。子供達が無事で」

 

コウタの言う通り、それは本当にそうだな。アグネスが言い出さなければこのミッションが出されることも無かっただろう。怖い思いをさせてしまったのが、後に引かなければいいがなぁ。

それにしても、ユウは先程から黙り込んでいる。

 

「……リンドウさん」

「どうした?」

「アグネスさんは結局、あのテスカトリポカを一人で倒したんですよね?」

「そうだな」

 

相性は最悪。だからーーきっとゴリ押しですり潰したのだろう。圧倒的な力で。

 

「アレは、何だったんでしょうか」

「……分からん。だがまあ、あれがなければアグネスも俺たちもやられてたかもな」

 

実際、俺にもさっぱりだ。

アレーーアグネスの暴走。だが、暴走の一言で片付けるには、些か強力過ぎた。十中八九間違いなくアレがアグネスの言っていた『切り札』だろう。

もう一度、調べ直す必要があるな。

 

『アグネス・ガードナー』本人。

 

切り札の『暴走』。

 

この『青い腕輪』。

 

アグネスを送って来た『本部』。

 

アグネスが恨んでいたように思える『オオカミ』。

 

そして、返せと慟哭していたーー『ツェロ』。

 

まずはこの青い腕輪について、サカキ博士に相談してみるか。

 

そう結論付けて、俺はアクセルを踏み込んだ。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

後々、俺は思うことになる。

あの時、アグネスに関して踏み入っていなければーーこうして向こう岸に送られることもなかっただろう、と。




今回書きながら妄想しました↓。今回シリアスが多くてやや過呼吸になりそうだったのでわずかながらのボケとして記載します。会話文のみですので絵面を想像しながらお読み下さい。そうしたらちょっと笑えますから、多分。








▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

ユウ「またせたな……かくごはいいか……」(ブ……ン)
アグネス「ま、まて!私が悪かった!二度と地球には来ない!」
リンドウ「へ、へへ……二度とだまされるもんか……やれーっ!!!!!」
アグネス「まっまてーっ!!!!!」
ユウ「魔貫光殺砲!!!!!!」(ゾォビッ!)

次は其之二百四 さようならリンドウさん

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

……いや、結構今回の話と似てません?
あっ、服もドラゴンボールで考えたら更に笑えて来た。

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