偉い人達が私を対リンドウの暗殺者と勘違いしている 作:九九裡
尚、今回怒りのパワーで目覚めたアグネスのキャラが崩壊しかけますが、作者はアリサさん大好きです。アンチヘイト的な意図はありません。
闇の中で。いや、これは確かに真っ暗だけど……闇じゃない。……やっぱり真っ暗でも、ない。真っ黒。真っ黒の中、黒の中で。
青白い、振り子のようななにかが揺れていた。
その振り子には、三日月の口が付いていて。
それは私を
『おいおい。まぁた使ったのかよ?ご使用は計画的に、だろ?』
それはゆらりゆらり、黒に残像を残しながら私に言う。
『ツェロの時もそうだ。お前は何もかも遅いんだよ』
……。
『そんなんじゃまた、取り零すぜ』
……私は、アナタとは違う。今度こそ、助けてみせる。私には
『ニンゲンひとり殺せなかったお前がぁ?友達候補ひとり救えなかったお前がぁ?挙句守られて生きて来たお前がぁ?お前に何が、できるんだよ?』
けらけらけら。
けらけらけら。
嗤う、嗤う、嗤う三日月。
『そもそもシナリオだってもうアテになんねーだろうよ。お前が割って入らなければ、みんなハッピーだったのに、お前が割って入ったせいで、みんなハッピーの可能性がぶれたんだ。ーーいや、違うな』
何が。
『そも、お前が生まれた時点でこの世界は歪んでる』
……。
『お前は疫病神だ。そんなお前に救えるものなんて、何一つとしてねーだろーよ』
けらけらけら。
けらけらけら。
私が思うに、一つだけ。
……馬鹿なの?
『あ?』
昨日は救えた。子供を二人。
『……』
おやおや黙っちゃっていかが致しました?え、何?まさかそのお年でもう痴呆にございますか?プッスー。今度からお爺様とお呼びして差し上げましょうか。
『……テメェ』
あれ、怒っちゃった?怒っちゃった?
……でもま、黙ってなよ。どうせアナタには何も出来ない。ただのギャラリーなんだから。
ーーせいぜい黙って見届けろ。
『……チッ。くだらねぇ』
振り子は黒の彼方に消えて行った。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「……」
目を開くとそこは知ってる病室だった。なんだよ、私ちょいちょい病室にお世話になりすぎじゃない?超デジャブなんですけれども。
「あら?起きたのね、アグネス」
あっ、サクヤさん。お疲れ様です。おお、お見舞いのカゴに……ジャイアントコーン?
サクヤさんを見るとふいっと目を逸らした。ちょっとサクヤさん?さりげに私に押し付けるおつもりで?せめてメロンとかバナナにして下さいよー。ないはずだけど。まだ存在自体が。
サクヤさんはこほんと咳払いして。
「そ、それより。神機が暴走しちゃったらしいじゃない。大丈夫?」
あー、そういう処理のされ方したのか。その言い方ならギリギリ事実で事実じゃないし、誤魔化しきれるだろう。あの切り札も十四歳の時から今回抜きで一回しか使ってないし、大丈夫だ。
「なんとか生き延びたけど、死にかけた。まる」
「まる?まあ、生きてて良かったわよ。ゴッドイーターは命が資本だからね」
健康じゃないところが物悲しいよね。命の軽さを物語る、流石ブラックの代名詞フェンリル。
「何日くらい寝てた?」
「2日は寝てたわよ。みんな代わりばんこにお見舞いに来ようって話してたんだけど、あと1日は安静にしてなきゃ駄目よ?」
ういういマム。
ジャイアントコーンでも齧って大人しくしてますよー。ところで、
「みんなは?子供たちは?」
「問題なく無事よ。子供たちもあなたにお礼を言いたいって「絶対連れてこないで」……分かったわ」
流石は衛生兵曹長、私のウィークポイントを考慮して下さる。いやもうね、ほんと無理なの。ごめん。ほんとごめん。けどお礼とか感謝とか、遠くでして貰うのは全然構わないけど、私の目の前ではやめて下さい。そうだ、何ならこのジャイアントコーンあげてください。
「人から貰ったものをいらないからって人に回すんじゃないわよ……」
「……釈然としない」
若干おまいうじゃないけど、なんか似たようなことを言いたい気分だね。
「変わったこと、あった?」
「そうね。あなたやユウと同じ、新型の神機使いが配属されたわ」
……おっと?
まじっすか。それはもしかしなくても下乳さんでは?
いらっしゃったか、GOD EATERの代名詞が!……流石に言い過ぎか。
早く会ってみたいなぁ。
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「はぁ?あなたが第一部隊の最後のメンバーですか。アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします。……それにしても暴走とか、神機の安全管理もできないって、本当にベテランのゴッドイーターなんですか?普通あり得ないですよね?まだジュニアスクールの子供みたいだし……」
……。
皆さん、私は今初期アリサ節を食らったよ。絶句したよ。頭が真っ白だよ。胸部と身長を見下ろされて、戦闘力五のゴミを見る目で見られたよ。
視界の端でコウタが慌てて何か言おうとしてユウに押し止められていた。多分暴走のことを私の切り札の件で私の非じゃないとか言おうとしてくれたんだろう。気持ちは嬉しいありがとう。でも言っちゃダメだ。ユウナイス。
「あの、話聞いてますか?黙られても何も分からないんですけど。耳正常に機能してますか?」
ボルケーノ……。
……正直ね?画面越しに見た時もちょっと思ったけど、それでも二次元だしね?まあ可愛いなHAHAHA、的な対応だったよ。けどさ、考えてみて。初対面で先輩に向かって偉そうにこんなこと言う奴現実で目の前にいたらどう?
ーークッソムカつくよね。やっぱりツンデレは現実に要らないよね。
あれあれ、私の脚につけたホルスターにオートマの拳銃が入ってるよ。抜いて撃ったって許されるよね?撃っちゃう?撃っちゃうか。支部長も別に丸め込めばいいし。よし撃とう。
「死ね」
「待ってぇえ!アグネスさん待ってぇえ!」
コウタが泣きながらルパンダイブして来た。怒りで活性化していた私は反応が遅れて押し倒される。その隙にユウがびびって混乱したアリサをエレベーターに誘導しようと……裏切り者どもがぁ!
私は覆い被さってくるコウタを押し退けようとしながら絶叫した。まさしく絶叫、である。テスカトリポカにもキレなかった私は今、キレた。
「ふざけんじゃねえぞテメェ!ロシアの養殖真珠が目上への礼儀も知らねえのか!豚にでも下賜されてろクソアマが!おいバカラリー、離れろボケが!テメェから脳漿ブチまけてやろうか!」
パァンパァンパァン!
弾丸はコウタのこめかみを掠り、左脇を潜り、股間の手前の床に穴を開ける。
「ぎゃあああ!お願いアグネスさん落ち着いて!アグネスさんがキレた!暴走したー!」
「殿中でござるー!殿中でござるー!」
「おいそっち押さえろ!放すなよ!」
「放せ馬鹿どもが!殺す!誰がガキだテメェこそ礼儀もデリカシーもねえくせに大人を自称してんじゃねえよ!眉間に一発撃ち込んでやるから逃げんじゃねえぞクソが!」
どこかで振り子が爆笑している気がするがそれどころじゃない。私は怒りのままに暴れまわり、六人がかりで押さえつけられた。
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やり過ぎた。反省はしている、後悔も若干。自分が短気だという自覚はあったがあそこまでキレるとは思わなかった。自分だって初対面のくせに人のこと言えない。仲良くなりたいと期待してたぶん、落差もひとしお。はぁ、結構自己嫌悪。
迷惑かけて私を取り押さえた六人にはゴールドチケットをお詫びにあげた。ヒバリさんにも謝った。顔引き攣ってた。よろず屋さん?知らぬ。……冗談です回復剤99個買いました。
コウタにも謝った。
「暴言吐いてゴメン。あと取り押さえてくれてありがと」
「あぁ、はい……」
ぐでぇっと疲れたようにソファに座り込むコウタ。遠巻きに何人かが私の方を見ている。と、コウタがはっとして生唾を飲み込み、
「アグネスさん、あれが素なんですか?」
恐る恐る聞いてきた。まさか。私は目の前の代替コーヒーをかき混ぜながら答えた。
「あれは昔、私が乖離性人格障害だった時のなごり……みたいな感じ」
「乖離性人格障害?」
知らないか。まあ半分は前世を隠すための設定として使ってるけどね。
「平たく言えば二重人格。ストレスで現実逃避するときに、自分の代わりに人格を作って押し付ける」
「えっ?じゃあアグネスさんが……」
「……色々あって。今は完治したけど、感情の振れ幅が私のキャパシティを超えると、態度がああなる。アレが元は私の作った人格、みたいな、ね?」
さっきの私は完全に人格が前世化していた。ブチギレるとああなってしまうのだ。爺にもアレでオラオラしたことあるし。
回想していると、コウタが気まずそうにしていた。私の少し暗めの過去を聞いたからかな?
「……なんか、すみません」
「気にしてないよ?悪いのは私。コウタも、止めてくれてありがとう。止められなかったら私、あの子殺してたかもしれないし」
「ははは……えっ、冗談ですよね?」
「ひゅーひゅひゅー」
「ちょっと下手な口笛吹かないで!こっち見て!ダメですからねアグネスさん!」
コウタは長男なだけあって、確かに諌め役としての、隊長たりうる資質はありそうだ。
……あとでアリサにも謝りに行こう。流石に悪いことしたし。
サクヤさんにこっぴどく叱られた。ちょっと泣きそう。
リンドウさんには苦笑いで諭された。ごめんなさい。
ソーマには呆れた目で見られた。そんな目で見ないで!
サカキ博士は床に開いた穴を見てニコニコ笑っていた。怖い。謝るから許して。初恋ジュースだけは!
エリナちゃんにメッされた。もうしません。
カノンに慰められたので腹いせに揉んだ。余計凹んだ。
翌日、ユウ付き添いでアリサの部屋に謝りに行った。
言い過ぎた。ごめんなさいと言うと、アリサは私のホルスターのついた太ももをチラ見しながら頷いた。マジごめんなさい。
「あの、私も初対面の方に些か失礼でした。すみません」
「うん。謝罪を受け入れる。私もすみませんでした」
「はい。謝罪を受け入れます。……あの、昨日とキャラ違い過ぎません?」
「「こっちが素」」
ハモった。おや、ユウには分かるのか。びっくり。
「話してれば分かりますよ」
これが主人公補正か……?それともユウの人徳か。ひとしきり感心して、私はアリサに向き直る。
「分からないこととかあったら、気軽に聞いて。アラガミの行動パターンとか、バレットエディットなんかも、結構詳しいから」
「アグネスさんはそういうの本当得意だから、聞いてみるといいよ」
「はい……改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
しっかりと握手して、その日は別れた。アリサは戸惑いはまだあったみたいだけれど、少しは仲良くなれそうでよかった。根はいい子らしいし、あんまり喧嘩はしたくない。みんなにも迷惑かけるし。
……そう言えば私は感応現象とか起こらなかったな?互いの奥底に秘めた心とかが伝わるアレ。
まあ起こったら困ったけど。
全ての事件解決まであと3週間はある。目一杯毎日を楽しんで生きて行こうじゃないですか。
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〈side・リンドウ〉
バァン、と俺が叩きつけた手のひらが、サカキ博士の机で鳴った。目の前には眼鏡をかけた我らが博士。珍しく強張った顔をしているが、それは俺も同じだろう。俺はできるだけ平時の声を装って聞いた。
「悪い、サカキ博士。もう一度説明してくれるか?」
「何度説明しても同じだよ、リンドウ君」
サカキ博士はこめかみを押さえて、律儀にももう一度説明してくれる。
「調べた結果、この青い腕輪の中の薬液は決して強制鎮静剤なんかじゃない。ーーこの薬液は、神機とその適合者の感応経路を、適合者に強いダメージを与えることで無理矢理引き千切るための薬だ」
「彼女は暴走を意図的に引き起こし、その力を利用。収束の際にはその腕輪で無理矢理
それ自体は、確かに危険そうだ。だが、決定的な危険じゃない。サカキ博士は続ける。決定的な言葉が紡がれる。
「問題は暴走によって肉体に与えられる負担と、この経路を引き千切る際に与えられるダメージだ。これ自体は、暫く安静にしていればすっかり治るだろう。最低一月。しかし彼女は暗殺者『
「彼女の命は、あと一月と持たないだろうね」
勿論勘違いだァアアア!
正式サブタイトルは絶望の足音(笑)。
あと何故か感想に返信したら感想欄からその感想が消滅したんですがそれは。