箱庭の空   作:白黒yu-ki
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第二十一話 海賊頭領

俺の思考が再起動を果たしたのは10秒程経過してからだった。

海賊から救い出したナギにキスされてしまったことは理解した。全くもって唐突すぎる。若い娘が

いきなりあんな行為をするなんて何を考えているのだ。いや、この考え方の方が乙女なのか? 思考は再起動を果たしたがまだ正常な働きを成していないようだ。

 

俺は能力ボードを開く。ヒレでは目の前に開かれたボードに届かないので口をつけて職業欄を空欄に戻す。そして俺はようやく元の姿を取り戻した。元の姿に戻ったのは良いが、海の中にいたので服はずぶ濡れだ。俺は水を含んで重くなった服にやれやれとため息をつき、海から上がった。予想はしていたが、目の前の姉弟は今の現象を目の当たりにして呆然自失としていた。なにせ目の前でイルカが人の姿になったのだ。ナギたちからすれば精霊が人の姿になった、ということか。

 

「に、兄ちゃん・・・? 溺れ死んだんじゃ・・・」

 

「勝手に殺さないでもらえるか?」

 

ユウドから素っ頓狂な呟きが聞こえ、俺は思わず突っ込む。隣に立つナギは先程の俺と同じように思考が止まってしまっているようだ。そんなナギを見ていると先程の行為が思い出されて気恥ずかしく、俺は思わず顔をそらす。

 

「あ、あなたは今日お店に見えたお客様・・・? え、どういうことですか? あなたが精霊様だったのですか?」

 

ナギは未だ混乱しているようだ。どう説明したものか悩む。もういっそ精霊でもいいかと俺は投げやりに結論づける。イルカにチェンジしたスキルのことを説明するには時間がかかりそうだし、そして更に困難なのが身の上の証明だ。この世界に戸籍といったシステムがあるのか不明だが、俺はどこどこで生まれ、どこどこで育ったという経歴がこの世界では証明することができないのだ。それならいっそ精霊ということでごまかしておこう。ナギとユウドの視線がこちらに向けられている。俺は二人と向き合い、「実はそうなんだ」と頷いた。

 

「訳あってこの大陸を旅しているんだ。今回シイカのこの事件に居合わせたのは偶然だけどね。詳しい事は話せないけど、この事は他言無用でお願いしたい」

 

遠回しにこれ以上追求してくれるなという意味を含んだ言葉を二人にかける。ナギにはそれが伝わったようで、跪き、祈るように両手を合わせて「分かりました」と言った。

 

「精霊様のお慈悲に感謝致します。精霊様…海賊たちの件に手を貸して頂けるのでしょうか?」

 

「そんな畏まらなくても良いよ。他の精霊は知らないけど、俺には普通にしてくれていいから」

 

「え、は、はい、分かりました」

 

俺にそう言われ、ナギは驚きながら俺に促されるように立ち上がる。

 

「ナギ、君の質問に答えると一応はそのつもりだよ。自信がある訳ではないけどね。これから海賊のアジトに潜入はしてくるけど、君たちは…シイカに帰ってもらおうにも途中でモンスターに出くわすと危険か。どうしようかな」

 

この場で待ってもらっていても良いが、どちらにしてもモンスターへの遭遇の危険が付きまとう。モンスターが近寄らない方法などあるのだろうか。そういえば町の中にはモンスターが入り込んでくる事はない。そこに何かヒントが隠されている気がする。

 

「モンスターは町の中にまで入ってくる事ってないのかな?」

 

「え、はい、そうですね。各町はソラシアール様が創り上げたとされる結界石がその土地に宿されていると聞いています。ソラシアール様の守護がある為、モンスターは入り込まないらしいです」

 

「結界石…結界か…」

 

一応試してみるか。俺は能力ボードを開いて職業欄に触れる。そしてその文字を浮かび上がらせた。

 

ーーーーー

生明光太郎

職業:結界師

レベル:1

HP:34

MP:65

力:47

体力:98

素早さ:66

知識:24

幸運:18

 

スキル:チェンジ、神眼

結界師スキル:守護結界(小)

ーーーーー

 

スキルを分析すると、範囲は三メートル。効果は一時間モンスターの侵入を拒む、ということらしい。俺はナギとユウドに向かって手を振るう。すると二人が立つ場所からボンヤリと暖かさを感じた。地面には三メートル程の円が刻まれている。

 

俺は職業を空欄職に戻すが、結界の効果は持続していた。取り敢えず一時間は大丈夫そうだ。

 

「この場所に結界をかけた。一時間はモンスターも入ってこない。俺が戻ってくるまでこの場所から動かないようにしていてほしい」

 

地面には描かれた円を見下ろしながらぽかんとしている二人に俺はそう説明する。

 

「え、それじゃあ、これは町の結界石と同じものですか? 精霊様…すごいです…」

 

「兄ちゃんすげえ」

 

ナギは驚き、ユウドは目をキラキラと輝かせている。これで当面は大丈夫だろう。効果は時間付きであるので、早く事を運んだ方が良さそうだ。俺は二人をその場に残し、海賊のアジトに向かった。

 

 

 

洞穴の手前で職業を『透明人間』にチェンジさせる。

これで視覚的に発見されることはないだろう。あとは気配を殺すだけだが、これが神経を使う。洞穴の中を覗くと、なかなか奥深い洞穴になっているらしい。サーベルを帯刀した海賊の姿が数人見てとれた。まずは連れられてしまったというシイカの人間を探すとしよう。いざ戦いになってしまった時に人質として使われては厄介だ。

 

俺は海賊たちを素通りして洞穴を進む。そのまま正面に向かっていくと部屋のような広い空間があった。そこのベッドで女性が横になっているのを発見するが、俺は思わず目をそらす。女性は裸であったのだ。海賊の仕業かと察し、周りに海賊の姿がない事を確認してその女性に近付く。

 

「大丈夫か?」

 

女性の目の前で透明化を解き、そう呼びかける。女性はいきなり目の前に現れた俺に驚き戸惑っている様子だった。

 

「警戒しなくてもいい、君たちを助け出しに来たんだ。シイカの他の人たちはどこにいるか分かるかい?」

 

「………ど、どうやってここまで? ここまで来るのに海賊たちに見つからなかったのかい?」

 

「詳しく説明している時間はないが、透明になるスキルがあるんだ。それより他の人たちの場所を知っているのなら教えてほしい」

 

「…この部屋から右に出て、一番奥の部屋だ。透明…そんなスキル聞いた事ないけど、そんなのがあるのか…」

 

女性は他の人たちの居場所を伝え、なにやらブツブツと呟いている。相手が裸なこともあり、あまりそちらを凝視できないが、怪我のようなものは無さそうだ。

 

「さぁ、ここから出よう。そこにある布を羽織ってついて来てくれ」

 

部屋の外に警戒を伸ばしながら女性の準備を促す。いくらなんでも裸で傍にいられては気が散ってしまう。俺だって年頃の男なのだ。

 

「そう言わず、もう少しゆっくりしていきなよ」

 

部屋の外に視線を向けていた俺の背に、女性がそう続ける。

 

 

瞬間、俺は背筋が凍り、咄嗟にその場を飛び退いた。その直後、先ほどまで俺が立っていた場所が弾けていた。地面を抉った物の正体は鞭。ベッドにいた女性が鞭を振っていたのだ。俺は着地して自分の失態を理解する。表情に出ていたのか、女性は嬉しそうに立ち上がって鞭をしならせている。

 

「しまったな…イメージが先行してしまっていた。海賊と言われて男だけだと思い込んでしまっていたか」

 

「ふふ、それは残念だったね」

 

そう、俺が犯した失態とは目の前の女性がシイカから連れられてきた被害者だと決めつけていたことだ。この人は…海賊なのだ。

 

「アタシがこの大陸で恐れられているシーサーペント海賊団頭領、ネリカ・ル・ネリカだ。覚えときな!」

 

ネリカの鞭が再度俺を襲った。




光太郎現能力
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生明光太郎
職業:
レベル:8
HP:54
MP:20
力:77
体力:117
素早さ:85
知識:32
幸運:18

スキル:チェンジ、神眼
武闘家レベル:10
武闘家スキル:回し蹴り、足払い、二段蹴り
転送士レベル:8
転送士スキル:物質短距離転送
魔術師レベル:6
魔術師スキル:ランク1火魔法、ランク1水魔法、ランク1風魔法
付与術師レベル:2
ドラゴンレベル:2
ドラゴンスキル:炎のブレス
イルカレベル:2
イルカスキル:クリック音
結界師レベル:1
結界師スキル:守護結界(小)
幽霊レベル:1
幽霊スキル:すり抜け、取り憑き
飛毒蛾レベル:1
飛毒蛾スキル:毒鱗粉
透明人間レベル:1
透明人間スキル:透明化
商人レベル:1
医者レベル:1
鳥レベル:1
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