箱庭の空   作:白黒yu-ki
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第八話 チェンジ

異世界に来て2日目。

少しずつこの世界の情報を得て、そして自分のスキルが発動した。

 

「ぽほー」

 

俺の姿は完全に鳥になっていた。

そして鳥となった俺を見つめるティア。ティアに抱き抱えられた俺は既に脱出不可能となっている。いくらティアが幼い子供だといっても、鳩と同じくらいの大きさの鳥が力で勝てるはずがない。しかし相手は子供だ。まだ何か手はあるはずだ。

 

 

「コウタロー?」

「………」

 

俺は体全体を脱力した。つまり死んだフリをしたのだ。野生動物の知恵だが、なかなかに有効だと思う。

 

「心臓も止めないと死んだフリしても意味ないよ?」

「ぽ!?」

 

ティアにすぐさま見破られる。それもそうだ。離れている状態ならまだしも、今のように抱えられていては心臓の鼓動に気付かれてしまう。実際に仮死状態になって死んだフリをする動物もいるにはいるが、俺にはやり方すら分からない。そこでふと気付く。やり方が分からないのであれば、例え職業を変えて姿も変わったとしても技術的な面は身につかないのではないか。つまり今の状態であれば、いくら鳥の姿をしていても空の飛び方は練習が必要だということだ。

 

便利なスキルではあるが、使いこなすには時間がかかりそうだ。

 

 

このスキルについてはとりあえず後で考えよう。当面の問題は目の前の少女だ。ティアは俺の顔をじーっと見つめ、何か思いついたように俺の体をそっと地面に下ろした。好機を逃すものかと俺はすぐさまティアと距離を置く。当然飛ぶことはできないので走った。すぐにヘンリー宅な建物の陰に入り、ボードを出現させようとするが、そう楽に事は運ばなかった。建物の陰からこちらを観察する視線を感じ、そちらを振り向くとティアが隠れて凝視していたのだ。

 

あくまで俺(鳥)の正体を生明光太郎と疑っているようだ。だがこれだけ距離が離れていれば問題ないだろう。

 

俺はボードを出現させ、職業欄に手(翼)を当てる。ティアの驚いている顔が見えたが、俺はすぐさま職業欄にある鳥を消し、新たに『透明人間』と浮かび上がらせた。するとすぐさま俺の体が消えて透明になる。ボードを消せばこれ以上つけられる心配もない。ティアがこちらに駆け寄って来たが、俺は足音を殺し、ゆっくりとその場から立ち去った。

 

 

ヘンリー宅から離れた場所で人目につかないように元の姿に戻す。試しに行った事だが、職業の枠に当てはまらず職業を変更させる事ができ、それは自分の姿をも変える事ができる。拙いゲームの知識だが、その知識だけに頼っていては発見できなかったスキルだろう。それよりもこのスキル、世界に何人か使える人間がいるのだろうか。この世界の常識を把握できてない俺からしてみても、このスキルは世間を混乱させるものだと理解できる。『チェンジ』は他人に知られないようにして、この世界の常識などを把握する必要がありそうだ。どこかに図書館でもあると良いのだが…。

 

ヘンリー宅まで戻ってくると、玄関前にティアが立っていた。俺は僅かに警戒しながら「ただいま」と伝えた。ティアは「おかえりなさい」と言うと俺の顔をじっと見上げてくる。

 

「コウタロー…ぽほー?」

「…ぽほ? 鳥の鳴き声のモノマネかな。なかなか上手じゃないか」

 

俺は動揺した感情を無理やり偽り、建物の中に入った。

 

「…なんで鳥の鳴き声ってわかるの?」

 

俺にはよく聞こえなかったが、ティアは小さく呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

大人三人でティアの今後を話し合った。

最初に出た案はグリーンがティアを引き取ること。提案したのは俺だ。グリーンは資産もある程度あり、小さな子供を養うくらいはできるだろうと考えたのだ。ヘンリーも賛成してくれた。ただ一人、ティアはその案に渋っているようだった。身元の引受人がそんなにポンポン変わっては本人も気になる部分があるのだろう。俺に何かを訴える視線を向けられた気もするが、そのような感情を含んだ視線なのだろう。

 

「ありがとうございました。アザミさんのお陰で命を拾う事ができました。友人を失った事は悲しい事ですが、今回あなたに受けた恩は決して忘れません」

 

「いえ、気にしないで下さい。今後の旅はもっと慎重に行って下さいね」

 

俺はそう告げてヘンリー宅を出た。

グリーンからお礼として僅かばかりだがこの世界のお金を頂いている。500ダールという金額が多いのか少ないのか分からないので、どこかの店に入ってそれを判断するしかないだろう。

 

「まずは…」

 

これからどうするか考えていると周りからジロジロと視線を感じた。そこで今の自分の姿に気付く。ヘンリーに服を返したため、今の俺は喪服姿だ。こちらでは珍しい…もしくは存在しない衣類と思われ、大変目立つ。

 

「まずは目立たない服を買うか」

 

俺はそう決めて町の中の服屋を探した。

 

 

 

 

 

ゲンテンの町は比較的小さな町のため、服屋は一軒しかなかった。看板の文字は読めないが服の絵が描いてあるので間違いはないだろう。

 

「服を見せて下さい」

 

俺はそう言って店の中に入ると、店主と思われる女性が奥から顔を覗かせた。30代前半と思われる女性が「いらっしゃい」と笑顔で出迎えてくれた。

 

「安くても良いので何か一般的な服を下さい」

 

店内に様々な服が陳列されているが、一般的な服は自分では判別できない。こういったのは店員さんに聞くのが一番だ。ごく稀にカモと見られて高い買い物をさせられる場合もあるが…。

 

「一般的…ですか? それならこちらの布の服が数点ありますよ。ですがお客さん、この町の人じゃありませんよね。それなら旅がしやすいように旅人の服や冒険者の服はどうでしょうか?」

 

「何か違いがあるんですか?」

 

「そうですね、布の服に比べて後者の服は破れにくい素材になっています。もちろん刃物に耐えられる程強くはありませんが、世界を旅している冒険者さんは大体こちらを利用されてますね」

 

「それじゃあ、そちらにしようかな。いくらですか?」

 

「ありがとうございます。旅人の服なら10ダール。冒険者の服なら30ダールとなります」

 

話を聞くと布の服は3ダールらしい。感覚的には1ダール1000円といったところだろうか。ということは500ダールは50万円か。命の恩人とはいえ、これをポンとくれるグリーンは案外裕福なのかもしれない。実家暮らしの頃からお小遣いでお金をもらったことがない俺から見れば、信じられないくらいの大金なのだ。働くようになってからはお金もそれなりに入ってはいるが、同僚たちと違って小さい頃の俺は毎月お金ではなく食べ物や道具をもらっていた。ある月は釣竿だったり、ある月はイナゴだったり…。それを伝えた時の同僚たちの憐れむ顔が忘れられない。

 

まぁ、今の俺は大金持ちということだ。

 

「冒険者の服を下さい」

 

元の世界に戻るまでの僅かな時間くらい、贅沢しても構わないだろう。

 

俺は店員さんにそう伝え、冒険者の服を購入した。

後は軽くレベル上げをして大聖樹の森へ向かうとしよう。








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