箱庭の空   作:白黒yu-ki
<< 前の話 次の話 >>

9 / 32
第九話 実戦、そしてレベルアップ

冒険者の服に着替えた俺は、今まで着ていた喪服が結構な荷物になると気付いた。肩掛け鞄は持っているが、流石に喪服までしまえる程大きいものではない。鞄の中身は財布と空のペットボトル、後は携帯電話と充電器。どれもこちらでは使えないものだ。当然ながら元の世界の通貨は使えないし、携帯電話は圏外になっていたため、電源を落とした。こちらの科学レベルではコンセントなどないだろうから、この充電器も役に立たない。都会で住んでいたアパートには災害用に手回し式の充電器を購入していたが、持参はしていない。そう考えるとああいった道具は出先では全く役に立たないなと苦笑した。

 

要は災害に対する意識が高い者しか有効活用できないのだ。それが低い奴、俺のことだな。まぁ、実家に帰るだけでそれに備える人種を考えると日頃から受けているストレスが半端なさそうだ。

 

結論として、元の世界で必須な財布と携帯電話以外はどうでもいいということだ。俺は空のペットボトルとそれ単体では役立たない充電器、そして喪服を捨てる事にした。

 

「え、捨てちゃうんですか?」

 

服屋の店員さんが慌てて俺を引き止める。

 

「ええ。邪魔になりますし、最悪また買えばいいかなと」

「あなたのその服はおそらくこのシアール大陸では売ってないと思いますよ。私も初めて見た衣服です」

 

予想はしていたが、やはり思っていた通りだった。

 

「それでも構いませんよ。それとも買い取ってもらえますか?」

「い、いえ、とんでもありません! ウチみたいな田舎店ではとても買い取れるようなお金は置いてありませんよ!」

 

女店員は諸手を振って拒否した。その目は喪服をロックオンして離さなかったが…。一体何ダールで売れるのか気になるところだ。それでも現状お荷物である事には変わりない。

 

「それじゃ、差し上げます」

「えええええっ!?」

 

驚く女店員を余所に俺は喪服をテーブルに置き、店を後にした。後はペットボトルと充電器。そこらにポイ捨てするほどモラルがない訳ではない。かといってゴミ箱など見つからない。そんなことを考えて歩いていると井戸が見えてきた。町の人たちが自宅に持ち帰るであろう木桶に井戸から水を汲み、生活用水を確保していた。

 

「そうか、捨てる必要はないんだ」

 

俺は井戸に行き、井戸の水でペットボトルの中を軽くゆすぎ、冷たい井戸の水をペットボトルの中に入れた。大聖樹の森へ行くにしても水分は大切だ。これだけでは心許ないが無いよりはマシか。

 

「あの、にいさん、それなんだい?」

 

水の入ったペットボトルを見上げていると、順番待ちしていた町人のおばさんが声をかけてきた。

 

「ペットボトルのことですか?」

「へっとぼとる?」

「ペットボトルです。中に水などを入れて持ち運べる容器ですよ」

「へー! そんな便利なのがあるのかい。この辺じゃ見たことないな。にいさん、帝国辺りから来たのかい?」

「帝国?」

「違うのかい? マリアリア帝国ならそんな最新な物も売ってるのかと思ってね。ゲンテンなんて片田舎の町にはそんな道具はなかなか流れてこないからね」

 

マリアリア帝国、か。おばさんの言い方から察するに大きな都市のようだ。大聖樹の森に出掛かりがなかった場合はそちらに向かってみるとするか。もしかしたら図書館もあるかもしれない。そこで元の世界に戻れる情報が僅かでも得ることができれば良いが…。問題は文字が読めないことだな。それは追い追い考えよう。

 

長くなりそうなおばさんの話を適当に切り上げ、俺はゲンテンの町を出てボードを出現させる。

 

ーーーーー

生明光太郎

職業:

レベル:1

HP :35

MP :0

力 :66

体力 :96

素早さ :75

知識 :25

幸運 :10

 

スキル:チェンジ

ーーーーー

 

これが今の俺の能力だ。レベルがある程度上がったら大聖樹の森に行くとして、試しておきたいことが幾つかある。俺は職業欄に手を触れ、ある職業を思い浮かべる。するとその文字が浮かび上がってきた。

 

ーーーーー

生明光太郎

職業:武闘家

レベル:1

HP :60

MP :0

力 :100

体力 :110

素早さ :100

知識 :20

幸運 10

 

スキル:チェンジ

ーーーーー

 

職業に合わせて能力の変化も確認した。ほとんどの能力が上がる中、知識が下がっているのが気になるが、脳筋ということなのだろうか。今の自分にそれが反映されているのかは分からないが、暫くはこの職業でレベルを上げていくとしよう。

 

最初に戦う相手は草原にいた巨大な蛾。田舎暮らしの自分にとっても驚きのサイズであり、体長は1メートル程だろうか。虫嫌いの人が見たら卒倒しそうなキモさだ。

 

まずは先手必勝。

俺は背後から駆け出し、蹴りを見舞う。俺の蹴りは巨大蛾の背中にヒットし、地面に叩きつけた。蛾の反撃に備えて俺は警戒したまま構えるが、それ以降蛾が動くことはなかった。レベル1ではあるが、パラメータは高いということか。これくらいの相手であれば何とかなりそうだ。

 

それから1時間、俺は巨大蛾を蹴りまくり、ボードを確認した。

 

ーーーーー

生明光太郎

職業:武闘家

レベル:3

HP :75

MP :0

力 :108

体力 :117

素早さ :106

知識 :21

幸運 :10

 

スキル:チェンジ

武闘家スキル:回し蹴り

ーーーーー

 

レベルが上がり能力も変化している。そして武闘家でのスキル、回し蹴りが使えるようになったらしい。

 

「スキル無くても使えそうな気はするんだが…」

 

試しにその場で回し蹴りをしてみる。素早く、キレのある蹴りが空気を裂く音がした。

 

「おー!」

 

運動に自信がある訳ではないが、今までの自分では経験したことのない蹴りだった。これはスキルの恩恵というものなのだろう。

 

俺はボードの職業欄に手を触れて武闘家の文字を消す。

 

ーーーーー

生明光太郎

職業:

レベル:1

HP :35

MP :0

力 :66

体力 :96

素早さ :75

知識 :25

幸運 :10

 

スキル:チェンジ

武闘家レベル3

武闘家スキル:回し蹴り

ーーーーー

 

 

「ん?」

 

武闘家から元の空欄職になるとレベルが1に戻ってしまった。ということはレベルは職業毎に存在するという訳か。武闘家のレベルをどれだけ上げても、他の職になってしまえばレベルはその職に応じて変化してしまう。好みの職を上げれば良いのだろうが、これはゲームでいうやり込み要素というものだろうか。

 

ふと思い、俺は先程の回し蹴りを放ってみた。先程の空気を裂くような回し蹴りとは違い、違和感のない自分の普通の蹴りだ。どうやら武闘家スキルは武闘家でなければ使うことができないらしい。

 

『チェンジ』について、まだまだ色々と実験をしなければならないようだ。






※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。