首無しパパとモン娘たちの魔族復興計画   作:十三塚
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助っ人

 ラクスの話をまとめるとこうだ。

 元々、バーニングヘルでのハイゼルは魔族でも異端の存在だったらしい。

 どうも思想の不一致があったようで、同じ『古きものたち』からも爪弾きにされていたということだ。

 そこで、ハイゼルは当時、丁度魔属領と人間領の境であり、山脈によって区切られていないためにどちらも手を出すのに躊躇していた空白地帯に、自身を慕うものたちを連れ新たなる国を作った。

 無論そんなことを両陣営が見逃すはずもなかったのだが、人間たちはそもそも魔族たちに真っ向からぶつかって勝利する術を持たない。

 また、バーニングヘル側も残った古のものらが仲違いをはじめ、国内で紛争状態になり、サンクチュアリどころではなくなってしまった。

 こういった次第で、サンクチュアリは危ういながらも平穏を維持してきた。

 

「後に分かったことですが、当時バーニングヘル側の内紛は終結したばかり。目下の問題が片付いたことで、サンクチュアリに矛先を向ける気になったのでしょう」

 

「随分な偶然もあったものだな……同じ強さを持つものたちが、圧倒的な物量を仕掛けてきたのだから、敗北も必至といったところか……」

 

「あの時ナイルさんたちがきてくれてればねぇ―……」

 

「ん? リア、誰だそれは?」

 

「ああ、ナイルさんっていうのはね、お父様と同じ古きものの一人で、元の種族はオーガの……なんだっけ、ラクス」

 

「鬼と呼ばれる種族です、お嬢様」

 

「ああ、そうそう。その人はお父様と仲が良くて、あのときも海を越えて助けに来るつもりだったらしいんだ。すっごく力持ちでね! 今のお父様とどっちが強いかな?」

 

「お嬢様。さすがにかの御方と比べては……しかし、そうですね。確かにあの時、ナイル様の援軍が来てさえいれば、結果ももう少し違ったかもしれません」

 

「それほどか? しかしのう、ラクスとやら。相手は比べ物にならぬ程の大軍じゃったのじゃろ? いくら古きものとはいえ、一人でどうにかできるとは思えぬ。第一国を挙げてとあらば、相手にも何人もの古きものどもがおったはずじゃ」

 

「ウィキエンド様の言うことはもっともな疑問です。しかしながらそれでも尚、あの御方のお力は他に見ぬほどでした。そもそも、バーニングヘルが我らに手を出せずにいたのは、無論国内問題もあったのでしょうが、一番の原因はハイゼル様そのもの。恐らく他の『古きもの』らを同時に相手取ったとしても、本来のハイゼル様であれば勝利を収めることすら不可能ではなかったでしょう。そしてナイル様は、ハイゼル様が唯一己と互角と認めていた御方です」

 

「ほぉー……」

 

 驚嘆の吐息を漏らすウィキと共に、異形もまた驚きに目を見張っていた。

 ラクスの言葉は、言ってみればハイゼルがその気になれば単騎で世界を相手取れたという意味だ。

 もっとも、ラクスの贔屓が多分に入っているのであるうが、全くの虚言だとも思えない。

 

「それにナイルさんたちはね、海の向こうの――ここだね。ここに住んでたから、私たちみたいに力が落ちてたりとかもなかったと思うんだ」

 

 そう言って、リアは大陸から離れた場所にある、四方を海に囲まれた小さな島を指差す。

 

「それなりに遠いな。しかし、何故ナイル公とハイゼル公は同じ場所に留まらなかった?」

 

「うんとね、ナイルさんの眷族の数が多すぎて、サンクチュアリだと狭すぎたっていうのがひとつめ。でも、それはお父様はなんとかできるって言ってたんだけど……ナイルさんが『同じ国に二人の王なんて御免だぜ! あいつらも気に入らねぇし、海の向こうにでもどっか探しにいってくんぜがははー』って」

 

「……がはは?」

 

「一字一句、その通りに申しておりました」

 

 子供らしい脚色だという線はラクスの言葉により即座に否定される。

 

「……ま、まあそれはそれとして、何故、ナイル公の援軍は来なかった? 相手の進軍速度がそれほどまでに早かったのか?」

 

「それもありますが……」

 

「……あのね、サンクチュアリが攻められたってのはナイルさんの耳にもすぐに届いたみたいで、すぐに全軍を向かわせたらしいの。けど、途中で嵐に遭ったらしくて……しかも船にぎゅうぎゅうに詰めてたせいで上手く船を動かせなくて、ほとんど海に沈んじゃったって……ぼろぼろになってやっと着いた何人かの人たちから聞いたんだ」

 

「……」

 

 異形は言葉を失う。

 

「ナイルとやらは馬鹿なのか?」

 

 異形が口には出せなかったことを、ウィキが代弁してくれた。

 

「あっ、いや、そんなことは、な――ない、よ? ね、ね? ラクス?」

 

「畏れ多く、私の口からは何も申し上げられません」

 

「ちょっ、ずるいずるい!! ずるいよラクス!」

 

 この二人の態度が何よりの証左である。

 

 

 結局、力を失っているうえに援軍も何もない状態ではまともな戦いにならず、ハイゼル公は生死不明。

 サンクチュアリは地図から姿を消し、サンクチュアリはまたも空白地帯へと戻った。

 ラクスはハイゼルの命で件の水晶を使い、現在に至るまでリアと共に身を隠し続けているということだ。

 この場所も、拠点を転々とし続けての何個目かのものらしい。

 

「しかし、よく今まで見つからなかったものじゃな。例の水晶があったとはいえ」

 

「ハイゼル様のおわした居城の周囲には元々特筆すべき産出物もない上、大地もそれほど肥えておらず起伏激しかったため、それほど開拓に熱心ではないのでしょう。お嬢様の存在も知られてはいないはずです。何より、この一帯はモンスターと成り果てた元サンクチュアリの住人たちが闊歩する危険地帯。所領とする利点がほぼ皆無なのです」

 

「なるほどのう……話は分かった。それで、そろそろ昨日の話に戻ろうと思うんじゃが……どうじゃろうか、我が君。こやつらにまだ何か聞きたいことがありますかの?」

 

「いや、今のところはこれで十分だ。少し頭の中を整理したいしな……」

 

「了解ですじゃ。で、どうなんじゃ。人間の国に行くのか? ここで籠城か? はてまたバーニングヘルとやらに勇気を出して行ってみるか?」

 

「……それなのですが、まず、人間界にしろ、バーニングヘル側にしろ、両陣営の近況をまず確認してからにしたいと思います」

 

「それができれば苦労はないのう。なにかアテでもあるのか?」

 

「はい」

 

「なに?」

 

「あっ……! そうか、ラクス! トラちゃんだね!?」

 

「ええ……できればあの者に託すような真似はしたくないのですが……」

 

「ト、トラちゃん?」

 

「うん。さっき言ったナイルさんの眷族で、あの時海に沈まずにサンクチュアリまで辿り着いた人たちの一人なの。今でもここじゃ中々手に入らないものとか……ラクスが言ったみたいに、ほかのところの情報とか。色々持ってきてくれてるんだよ」

 

「ほほう。それで、その――トラとやらは今どこに?」

 

「不幸中の幸いと言うべきか、決められた周期で彼女はここに報告にやってきます。そして、次の来訪は丁度この時節――と言うより、いつもに比べ大分遅れています。何もなければよいのですが……」

 

 

「大方自分の主人に欲情する変態メイドが嫌で近寄りたくないのじゃろうよ」

 

 

 一瞬、時が止まったようであった。

 

「――え?」

「……は?」

「……」

 

 言葉の意味を介していない様子のリア、気のふれたものを見るかのような視線を向ける異形、そして何をも発しないラクス。

 三者三様の態度を前に、残る一人――一冊は。

 

「え……へえぇ!!?」

 

「ちっ、ちがっ、わしじゃない! わしではないぞ!!」

 

「お前……自殺願望があったのだな。悪いが、自ら死を望む者に助け舟は出せん。あきらめろ」

「ねーっ、どういう意味なの?」

「どうやら私の躾は無駄だったようですね。よほど命が要らぬと見えます」

 

 ラクスは、ゆっくりとした所作で椅子から立ち上がる。

 バタバタと空中で乱れ飛びながらあらゆる言葉で慈悲を乞う言葉と共に、違う違うと喚き散らすが、覆水盆に返らず。

 一歩一歩、ラクスがウィキの元へ歩を進めていく。

 ウィキの狼狽は極みに達した。

 

「おべがいじゃああ信じてええええ!! わしじゃない! わしじゃはーっ! 笑わせおるわ! 胸ばかりでかい脳内花畑のくせして、なーにを偉そうに! まったく、ちゃんちゃらおかしいぜ!」

 

 

「……ぜ?」

 

 異形は、再度暴言を吐いたウィキの言葉に違和感を感じる。

 

「あっ、しまった」

 

 そして続けざま、四人の誰でもない声が聞こえた。

 

「わしじゃないいいい!!」

 

「……そこっ!」

 

 胸元から短剣を取り出したラクスは、ウィキの背後の虚空に向かい放つ。

 

「じゃわーーーっ!!」

 

 すぐ横を刃先が飛んで行く恐怖にウィキが悲鳴を上げる。

 ――と。

 そのまま壁に向かい飛んで行くと思われたナイフが、何もない空中で静止した。

 

 

「がははー! みつかっちゃったんだぜ! しかしあぶねーなぁ、トラちゃんがケガしたらどうするつもりだったんだぜ?」

 

「いっそ、そのまま腐れ死ねばよかったものを……」

「あーっ! その声!」

 

 リアの気色ばんだ声に合わせ、なにもない虚空から人の姿が現れる。

 

「よう、鬼メイド! お嬢! そんでなんか変な連中! トラちゃんがきてやったぜー!」

 








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