無関心系総受け女子が、気が付かないうちにガチレズ幼馴染の毒牙にかかっていた話   作:百合代
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無関心系総受け女子が、気が付かないうちにガチレズ幼馴染の毒牙にかかっていた話

 県立百合高校。ある県のある市にある、名前に反して普通に共学の高校。

 

 新しくも古くもない、国立大学至上主義の先生が一定数蔓延る、そこそこの進学校である。

 

 そこで、戸村真澄は有名人であった。

 

 理由はいくつか思い浮かべられる。頭がいい、運動神経がいい、性格がいい、教養が深い、見た目がいい。

 

 しかしそのどれを差し置いても、「戸村真澄はレズである」を超える理由はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはある日の放課後のこと。

 

 戸村真澄は壁を背に、男に言い寄られていた。夢見る少女にとってあこがれのシチュエーション、いわゆる壁ドンと言うやつである。

 

 真澄の顎をクイと持ち上げたのは、芸能事務所にも所属しているイケメンの先輩であった。

 

 「ねぇ、真澄ちゃん。俺もう自分を抑えらんねぇわ」

 

 先輩が甘い声を囁いたことで、周囲を取り囲んでいた女子は悲鳴のような声を上げ、男子は唾を吐いた。嫉妬の嵐である。

 

 真澄は、熱っぽく蕩けた瞳で先輩を見つめて……なかった。

 

 真顔である。そこに感情のゆれはない。

 

 眉一つ動かさない鉄壁の表情に、イケメン先輩のプライドは少し傷ついた。今までの女は、こうするだけで嬉しそうに頬を赤らめ、黙って目を閉じたのだ。

 

 まあいい、唇の一つでも強引に奪ってやれば、その涼し気な顔も雌のそれに変わるだろう。

 

 そう考えたイケメン先輩は、ゆっくりと唇を近づけた。互いの吐息が分かるほどに近づき、野次馬から一際強烈な悲鳴が上がる。

 

 「あの、なんですか、これ」

 

 澄んだ声が響き、水を打ったように空気が静まり返った。

 

 イケメン先輩の渾身のキッスは、間に入った真澄の手のひらで拒絶されていた。

 

 イケメン先輩は困惑した。「なんですかこれ」ってなんだよ。キスに決まってんだろ。俺がキスしてやるって言ってんだよ。

 

 プライドがずたずたになってゆくのを感じた。あまりの衝撃に茫然とし、真澄の手のひらにキスしたままの間抜けな姿のまま固まっていた。

 

 野次馬も同様、時間が停止したように動かなかった。展開が予想外過ぎたのだ。誰もが学校一の美女もイケメンの手に落ちるものだと考えていた。

 

 差し出した手のひらでそのまま先輩を押しのけた真澄は、壁ドンからするりと脱出すると、先輩の唇が当たった手をスカートで軽くはらった。

 

 「……?」

 

 そして、硬直した先輩と野次馬を見て不思議そうに首をかしげつつ、帰路についた。

 

 その後、男子は憎きイケメンが撃沈したことに大いに喜び、また真澄を狙っていたものはその防御力に絶望した。女子はあからさまに落ち込んだイケメン先輩を嬉々として慰めた。

 

 そしてこの事件がきっかけで真澄にはレズ疑惑が浮上したのだ。

 

 真澄のあずかり知らぬところであったが、大変心外なことであった。

 

 真澄にだって恋愛感情がないわけではない。

 

 ただ、生まれつき無頓着に過ぎる性格をしていただけである。真澄はイケメン先輩がどれだけ魅力的であるかなど興味がなかった。自分がどれだけ魅力的であるか興味がなかった。

 

 ただ常識は持ち合わせていたので、好いてもいない男性とキスするのはおかしなことだと思い拒絶した。

 

 それだけだったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 場所は変わって真澄の部屋。高校生にして既にアパートで独り暮らし。

 

 女子にしては飾り気が薄く、家具も色合いもいたってシンプルな内装で、真澄の物事に関する関心の薄さがそのままレイアウトに現れていた。

 

 そんな真澄の部屋が、幼馴染である香村稲荷は大好きであった。

 

 香村稲荷はガチレズだ。本人がかなり必死に隠しているのでいまだに家族にすらばれてはいないが、本当は初恋から片思いの相手まで女性という筋金入りのレズであった。

 

 そんな彼女は、真澄のシンプルな部屋を、「素材の味が活きるいい部屋」だと評価していた。

 

 もっと直球に言えば、余計なものがなく、いつもかたづいているため、純度の高い真澄の匂いを思いっきり楽しめる天国だと思っていた。

 

 そんな部屋に、今日も稲荷は来ていた。

 

 別に珍しいことではない。小学校からの幼馴染である二人は良く一緒に過ごしているのだ。

 

 稲荷も初めて真澄の部屋に訪れたとき、つまり初恋にして絶賛片思い中の相手の部屋に初めて入ったときはドキドキしたものだが、当然その時から今の今まで間違いが起こるはずもなく、すっかり慣れてしまっていた。

 

 はずだった。

 

 稲荷は自分の隣に座って、テレビを垂れ流しにし、スマホをタプタプ弄っている真澄を見た。

 

 いつもと変わらず、涼しげな横顔。

 

 化粧っ気もなく、さらさらの黒髪もダッカールで簡単にまとめただけ。アイボリーのカットソーにワインレッドのロングマキシスカートという出で立ち。

 

 高校生とは思えない落ち着き。

 

 教室でおっぱいおっぱいと騒ぐしか能のない男子高校生では到底釣り合わない高嶺。

 

 見慣れた筈のその横顔を見て、稲荷は顔が熱くなるのを感じた。

 

 (ま、真澄ちゃんが実はレズって、ほ、本当なのかな……)

 

 稲荷は、過去に類を見ないほど心臓が高鳴っていた。いま学校の話題を独り占めしている噂。もはや叶うまいと思っていた恋を照らす希望の光。

 

 「戸村真澄はレズ」かもしれないという可能性。

 

 初めてその噂を聞いたとき、稲荷にはそんなまさかとしか思わなかった。あの、そもそもからして恋愛にすら興味がなさそうな真澄が、同性愛者なわけないと。

 

 しかし、こうも思った。

 

 もしかして、自分と同じで、今まで隠してきたんじゃないだろうか。

 

 考えてみれば、真澄はこれまで一度も誰かと付き合ったことがない。今まで、それは真澄が恋愛に興味がないからだと思っていたが、本当は女の子が好きだったからなのではないだろうか。

 

 自分がそうであったように。

 

 そう思うと、確かめたくて仕方がなかった。

 

 (今日が勝負だ香村稲荷!)

 

 稲荷は今日、噂の真偽を確かめるために、真澄の部屋に来ているのだ。

 

 「真澄ちゃん、膝枕してー」

 

 「ん」

 

 稲荷が膝枕をねだると、真澄はスマホから目を離すこともせず、膝を伸ばして差し出した。

 

 (この程度は日常茶飯事。まだまだ序の口だ)

 

 稲荷は差し出された太腿に頭をのせた。程よい肉付き。少し香る真澄の匂い。

 

 鼻血が出そうになるのをぐっと堪え、次の策に打ってでる。

 

 スマホを弄くっているのとは別の、フリーになっている真澄の手。

 

 それを握った。

 

 柔らかかった。

 

 細くて、肌触りが良くて、少し冷たくてずっと触っていたくなる。出来ることならこの手で頬を撫でてほしい。もっというなら、全身を……。

 

 そんな欲求に抗い、恋人繋ぎに留める。ついにぎにぎしてしまうのは許してもらいたい。

 

 真澄を見ると、別に気にした様子はなかった。嫌がってもないし、逆に照れているわけでもない。

 

 (全然動じてない……。やっぱりレズなんてただの噂だったのかな)

 

 期待なんて殆どしていなかった。けど、何処かで落ち込んでいる自分がいた。

 

 しょんぼりしつつ真澄の手を弄くっていると、真澄の方からも握り返してきた。

 

 えっ、と思い真澄の顔をうかがうも、普段と変わらない表情だ。

 

 ただ、じゃれついてくる稲荷を相手しているだけらしい。

 

 (そうだよ、まだじゃれついてるだけの段階なんだよ。……レズかどうか調べるなら、もっと踏み込まないと!)

 

 稲荷は気合いを入れ直した。

 

 「ま、真澄ちゃん」

 

 「なに?」

 

 真澄の名前を呼んでから、稲荷は後悔した。何も考えていなかったのだ。

 

 真澄にじっと見つめられ、どんどん顔が赤くなって行く。背中に汗がにじんできた。

 

 思わず顔を背ける。

 

 (な、何か言わないと。何か……踏み込んだこと…………。そうだ!)

 

 「真澄ちゃんはさ、誰かと付き合いたいとか思わないの? その、この前もさ、カッコいい先輩に言い寄られてたのに、追い払っちゃってたし」

 

 稲荷が聞いたのはイケメン先輩撃沈事件のことであった。この事件は、真澄にレズ疑惑が浮上するきっかけになったものだ。

 

 実際稲荷も気になっていた。いくら恋愛に興味のない女の子でも、あんなにカッコいい先輩に言い寄られたら、少なからず嬉しいはずだ。

 

 自分のように、ガチレズでない限りは。

 

 「私、あの先輩のことほとんど知らないし。そんな人に詰め寄られても、困るだけだよ」

 

 真澄は心底面倒くさそうに答えた。もしかしたら、既に学校でも同じようなことを何度も聞かれたのかもしれない。

 

 (ちょっと悪いこと聞いちゃったかな)

 

 稲荷は反省した。

 

 ともかく、真澄はガチレズだから先輩をフった訳ではないようだ。

 

 まぁ、イケメンに詰め寄られたら誰であろうとときめくのは、恋に恋するおにゃのこぐらいのものだろう。精神年齢の高い真澄が、そんな短絡的な恋に落ちるわけがない。

 

 それに、よくよく考えれば、稲荷も美人さんだったら誰でもいいわけではない。

 

 いや……、ちょっとはときめくだろうが、稲荷は真澄一筋だ。心に決めた人がいれば、どんな誘惑だろうと揺らぐ気は、……揺らぐ気は…………。

 

 (ま、まさか! 真澄ちゃんには既に心に決めた人がいるから、先輩にときめかなかった!?)

 

 新たな可能性が出てしまった。

 

 これは迅速に尋ねなければ!

 

 「じゃ、じゃあ、真澄ちゃんは誰なら言い寄られてもいいかなぁって思うの?」

 

 声が震えてしまったが、仕方のないことだろう。

 

 稲荷に問いかけられた真澄は、「んー」と考えていた。即答ではないということは、頭に思い浮かんだ人でもいたのだろうか。

 

 稲荷は心がキュウと縮こまるのを感じた。

 

 「別にいないかな」

 

 「よかった……」

 

 「ん?」

 

 「なんでもないよ、全然!」

 

 思わず安堵を口に出してしまい、慌てて誤魔化す。

 

 しかし良かった。自分の真澄はまだ誰にも心を奪われていないらしい。顔がにやけるのを隠すため、真澄のお腹に顔を埋めた。真澄の匂いが一杯で、クフフと笑ってしまう。

 

 我ながら変態だ。

 

 「稲荷くすぐったい」

 

 「んふふ、ごめん」

 

 体内にマスミニウムをチャージし、稲荷は元気を取り戻した。

 

 (さて、真澄ちゃんに思い人がいないとは分かったけど、レズとは確定していない)

 

 稲荷は次の作戦を考えるため、頭を悩ませた。ついでに真澄のひんやりした手を自分の目の上に被せる。

 

 めっちゃ気持ちいい。

 

 このまま眠りに落ちてしまいそうであった。

 

「稲荷、ちょっとごめん」

 

 突然、真澄が手を引き抜いた。真澄の手で勝手に心地よくなっていた稲荷は、名残惜しそうな声を漏らす。

 

 何をするのかとみていると、真澄は「暑い」と言いながらカットソーを脱ぎ始めた。

 

 膝枕されていた稲荷からは、真澄の胸が服を脱ぐ際に持ち上げられ、そして改めて重力に従い落ちてくる様が見えた。ミルクのように甘い香りが稲荷の鼻腔をくすぐる。

 

 稲荷はこぽりと漏れそうになった鼻血をぐっと飲み込んだ。胸を見て興奮する変態などと思われては一巻の終わりである。

 

 いやしかし、先ほどの景色は圧巻であったと稲荷は思った。真澄の胸は、D寄りのCだと思っていたが、今ではC寄りのDまで育っていそうである。

 

 それが今、稲荷の目の前に、タンクトップの薄い生地一つの向こう側にあるのだから、これが興奮せずにいられようか。

 

 (っは! そうか! 真澄ちゃんがレズなら、私のあられもない姿をみて興奮するかも!)

 

 稲荷、天啓を得たり。

 

 そうだ。もし、真澄がレズであれば、性的興奮の対象は女性。稲荷の誘惑に反応を示すようなら、レズの可能性が濃厚である。

 

 幸いなことに、稲荷は自分の見た目に自信があった。プロポーションは、真澄と比べたら肉感的だが、それがエロいと言い切ってはばからないデリカシーゼロの男がいたし、顔だって、並み以上でなければ月一で告白されたりはしないだろう。

 

 すこし恥ずかしくもあったが、真澄に見られるのならば本望。

 

 「そうだねー。今日は暑いよね~」

 

 我ながら大根だとは思ったが、緊張しているのだ、仕方がない。

 

 稲荷はワイシャツのボタンを二つほど外した。ブラをつけていなかったせいで、稲荷のけしからん胸がトロリとこぼれ落ちそうになる。

 

 (どうだ真澄ちゃん! 絶景だろう!)

 

 チラと真澄のようすを窺う。

 

 (あれ? 真澄ちゃんちょっと気にしていた?)

 

 サッと目を逸らされてしまったが、真澄がこちらを見ていたような気がした。

 

 (こ、これは攻めの一手だよ!)

 

 稲荷は決意を固め、真澄の膝枕から体を起こした。そして、真澄の背後に回ると、抱きすくめるように腕を回した。もちろん、胸はしっかりと真澄の背中にくっつける。

 

 「真澄ちゃん、さっきからスマホいじってばっかでつまんない」

 

 あえていじけているだけで、他意はないというように演技した。真澄に色仕掛けをしているだけで自分が興奮してしまうが、そこをなんとか堪える。

 

 息遣いが熱を帯びてしまうのだけはどうしようもなかった。

 

 「いつものことじゃん」

 

 真澄はなんでもないように答えた。だが、やはり稲荷の行動が気になっているようだ。

 

 さっきからスマホのゲームのコンボが3以上繋げられていない。

 

 (効果ありか? ここは、攻めるしかないか……。ええい、攻めきれ香村稲荷!)

 

 稲荷は意を決して仕掛けることにした。勝算はある。

 

 これまでの真澄の反応が示している。

 

 稲荷は真澄の耳元に唇を近づけた。

 

 そして、甘く囁いた。

 

 「真澄ちゃん、もしかして、私に抱きつかれてドキドキしてる?」

 

 真澄の体が強張った。いつも涼しげにしている顔が、いまは驚愕の色に染まっていた。

 

 スマホを弄る手も止まっている。

 

 「…………てたんだ」

 

 「え? 何て言ったの?」

 

 「稲荷も、私のことレズだって思ってたんだ」

 

 そう言う真澄の表情には、照れや戸惑いなんて甘酸っぱい感情は浮かんでいなかった。ただ、深く悲しんでいた。

 

 稲荷は顔から血の気が引いていくのを感じた。

 

 自分はとんでもない勘違いをしていた。

 

 常識的に考えて、好きな女の子が自分と同じ同性愛者である奇跡なんて起こるはずもない。

 

 だと言うのに、自分は噂に踊らされて、勝手に舞い上がって、取り返しのつかない過ちを犯した。

 

 いくら真澄が普段から動じない性格をしていたとはいえ、レズだレズだと噂されて傷ついていないわけがなかったのだ。

 

 実際にレズの自分だって、それがバレるのが怖くて隠してきたじゃないか。

 

 なのに、自分の欲望にばかりにかまけて、真澄の気持ちなんて考えていなかった。

 

 大好きな人を傷つけてしまった。

 

 そう自覚して、唇がワナワナと震えた。何か言わなければ。謝らなければ。そう思えど、言葉が出てこない。

 

 「今日の稲荷はいつもよりじゃれついてくるなって思ってたけど、からかってたんだね。『レズが女の体に興奮するのか試してやろう』って」

 

 「……ち、違う」

 

 稲荷は必死で否定しようとした。

 

 からかうつもりなんてなかった。ただ、確かめたかった。真澄がレズなのか否かを。

 

 そうしないと辛かったのだ。

 

 既に諦めて、真澄が男の人と結婚したとしても笑顔で祝福しようと決意するくらいには割りきっていた恋心が再び熱を持ってしまって。

 

 切なくて辛かったのだ。

 

 だから、確かめたかった。

 

 それも、真澄の震えた声を聞くと喉に詰まって出てこなかった。

 

 「稲荷も私のこと気持ち悪いって、思ってたんでしょ……」

 

 真澄の目に涙が浮かんでいた。

 

 あの、周囲の人間なんかより幾分も落ち着いてて、大人だと思っていた真澄が、泣いていた。

 

 それは真澄の抱えてきた不安の発露だった。周囲から奇異の視線にさらされて、面白がられて。

 

 でも事実無根なのだから反応したら負けだと、独り静かに戦ってきた不安が、一番身近な存在、稲荷にすらからかわれていたのだと気がつき崩壊したのだ。

 

 稲荷は気がつけば涙を流していた。自分に泣く資格なんてないと思いながら、止まらなかった。

 

 バカな自分を後悔した、嫌悪した。真澄のことが大好きなのに、気持ちに寄り添えなかったことが悔しかった。

 

 「からかってない」

 

 稲荷は思わず、真澄の唇を奪っていた。

 

 「んっ!?」

 

 真澄の口から驚きの声がくぐもってきこえる。

 

 ぷあ、と唇を離し、お互い顔を見つめ合うかたちになった。

 

 「ごめんね、真澄ちゃん。レズは私なの。ずっと、ずっと真澄ちゃんのこと性的に好きだった。本当に気持ち悪いのは、私なの」

 

 気がつけば独白していた。真澄を傷つけてしまった分、自分も傷ついて、そして真澄に気持ち悪がられることが贖罪だと思った。

 

 「……どう、いう」

 

 真澄はいまだに状況が理解できていないようだった。頭が働いていないのかもしれない。

 

 「そのまんまの意味だよ。真澄ちゃんがレズって噂を聞いて、舞い上がっちゃって、……確かめたくて……それで」

 

 「それで、積極的だったんだ」

 

 稲荷は真澄の確認にしっかりとうなずいた。 同時に強く目を瞑った。

 

 幼馴染だと思っていたのに、ずっと恋愛対象に見られていたなんて、どう感じるだろうか。

 

 罵倒されても、叩かれても仕方ないと思った。全て受け入れる覚悟だった。

 

 だが、真澄はなにもしなかった。

 

 黙って立ち上がると、そのまま部屋を出ていこうとした。

 

 「ま、待って!」

 

 稲荷は真澄のスカートにすがり付いた。

 

 なんでも受け入れるつもりだったが、捨てるような態度は堪えた。何か言って欲しかった。

 

 「こんな時に言っても、信じてもらえないかも知れないけど、好きなの、……ホントに、真澄ちゃんのこと大好き! だから……、その、私のことキライになっても、この気持ちだけは信じてほしいの…………お願い…………」

 

 最後は絞り出すような声になった。何を言ってるのかもわからなかった。涙でグズグズになって、ちゃんと言葉になっているのかも怪しかった。

 

 ただ、必死だった。

 

 すがるように真澄の顔を覗くと、真澄は戸惑いを隠せないようで、瞳が揺れていた。

 

 「……少し、落ち着きたいから」

 

 それだけいうと、真澄は稲荷を振り払って、玄関を出ていった。

 

 稲荷はベッドに突っ伏して泣いた。真澄の残り香を感じながら、これを感じられるのは今日が最後だと思って何度も真澄の名前を呼んだ。

 

 そして、疲れきった稲荷は、そのまま眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 「起きて、稲荷」

 

 肩を揺さぶられて稲荷は目を覚ました。

 

 顔をあげると、真澄がいた。出ていったときとは違って、いつもの涼しげな顔だ。でも、そのなかに少しだけ、優しさが滲んでいるような気がした。

 

 「ご飯作ったから、食べよ?」

 

 真澄に言われて、稲荷は自分のお腹が空いているのを感じた。泣くというのは存外体力を使うのだ。

 

 真澄の部屋にあるローテーブルには、稲荷の大好物ばかりが並んでいた。

 

 「ど、どうしたの、これ」

 

 稲荷が戸惑って尋ねると、真澄は稲荷の手を優しく包み込んで、微笑んだ。

 

 「稲荷に元気になってほしくて……、あと、ちょっとしたお詫びかな」

 

 稲荷はもう枯れるまで泣いたというのに、また目頭が熱くなってくるのを感じた。

 

 ずっとレズであることを隠してきた自分が勝手に自爆しただけなのに、慰めてくれる。

 

 それだけではない。稲荷を振り払って部屋を出ていったことを悪く思ってくれているらしい。

 

 ああ、自分が好きになった人は、どれだけ器が大きいのか。

 

 感極まって、強く抱きついてしまった。

 

 「お詫びなんてそんな、真澄ちゃんが謝ることじゃないのに……」

 

 「謝ることだよ。それよりほら、ご飯冷めちゃう」

 

 真澄は稲荷の頭を撫でて落ち着かせると、食卓の席につかせた。

 

 その後は、楽しい時間が過ぎた。稲荷は自分の思いを伝えた上で真澄と過ごすのは初めてだ。

 

 後ろめたさがなにもない状態で一緒にいることが、こんなに明るいものだとは思わなかった。

 

 自然と笑顔が溢れた。

 

 本当の自分を知っても一緒にいてくれる真澄が嬉しかった。

 

 一緒に食べるご飯も今までになくおいしかった。

 

 気持ちを受け止めて貰えた稲荷は最強だった。

 

 遠慮なく「あーん」をねだると、真澄は困った顔をしつつ食べさせてくれるし、一緒にお風呂に入ろうと言っても、「変なことしないでね」と言われるだけで一緒に入ってくれる。

 

 夜、同じベッドで寝たいとねだると、布団を持ち上げて迎え入れてくれた。

 

 もう、死んでもいいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「稲荷、さっき私が言ったこと、覚えてる?」

 

 布団のなかで、お互いの息遣いが分かるくらい密着していたとき、真澄がそんなことを言った。

 

 「え、と、どれのこと?」

 

 稲荷は疑問符を浮かべた。今日は話したことが多過ぎて、どれのことなのか分からなかったのだ。

 

 「ご飯の時の、『ちょっとしたお詫びかな』ってやつ。……私、稲荷に謝らないといけないことがあるの」

 

 「私のこと置いてきぼりにしてどっかいっちゃったことなら、私怒ってないよ? 寧ろ、戻ってきてくれたことに驚いてるくらいだもん」

 

 稲荷はクシシと笑った。真澄が一緒にいてくれるだけで喜びがあふれでて止まらないのだ。

 

 「……私が謝りたいのは、そこじゃなくてね」

 

 真澄はそう言うと、()()()()()()()()

 

 「んっ!? ……っ!?」

 

 深かった。真澄が稲荷の奥まで容赦なく入り込んでくる。ひんやりとしていた手とは違い、とても熱くて柔らかいものが稲荷の口内を蹂躙した。

 

 「はぁ……、はぁ……、なん、で?」

 

 息も絶え絶え、稲荷は尋ねた。

 

 真澄は、体の力が抜けた稲荷の上に跨り、両手を押さえつけた。真澄の顔が稲荷の耳に近づき、甘噛みされた。「あんっ」と、艶っぽい声が漏れる。

 

 真澄はそのまま、稲荷の耳元で囁いた。

 

 「ごめんね、稲荷。私がレズって噂、間違ってない」

 

 「へっ?」

 

 理解が追い付かなかった。

 

 噂が嘘じゃないってことは、つまり、真澄は……。

 

 「私も、ずっとずっと稲荷のことが好きだった。でも、隠してた。学校で私がレズって噂が流れて、バレちゃったのかなって不安だった。そしたら、今日の稲荷、探るみたいな事するから、怖くなっちゃって」

 

 真澄は稲荷の耳元に顔を近づけていて、稲荷からはその表情が窺えなかった。

 

 ただ、声の震えが、真澄が泣いていることと、喜んでいることを十二分に伝えてきた。

 

 「でも、今日。稲荷も一緒なんだって、両思いなんだって分かって驚いちゃって、気持ちを落ち着けるために稲荷のこと独りにした。だから、ごめんね」

 

 真澄の感情が爆発したような謝罪を聞いて、稲荷は胸が一杯になる思いだった。

 

 レズである自分と変わらず友達でいてくれるだけでこれ以上ないと思っていたのに、まさか両思いだったなんて、こんな幸運があろうか。

 

 「やっぱり真澄ちゃんが謝ることなんてないよ。だって、私、こんなに幸せなんだもん」

 

 稲荷は真澄の体を抱き寄せた。とても愛しげに。大切に。

 

 「─じゃあ、稲荷、これから私がすることも許してね?」

 

 「えと、何するの?」

 

 ただならぬ雰囲気を感じ、稲荷は少し寒気を感じた。

 

 稲荷を押さえ付け見下ろす真澄の様子は、明らかにいつもの真澄ではなかった。

 

 電気を消して暗くなった部屋のなかにおいて、怪しく光る瞳。上気した頬。

 

 元から持つ真澄の美しさと相まって、まるで、伝承にあるサキュバスのような危うさを感じた。食われる、と本能が悟る。

 

 「あの、真澄ちゃん?」

 

 「壊れないでね、稲荷」

 

 真澄はとても優しく、そのひんやりとしていた手のひらで稲荷の頬を包み込んだ。

 

 ……その夜、稲荷は初体験のことごとくを、真澄に貪られたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 県立百合高校。ある県のある市にある、名前に反して普通に共学の高校。

 

 新しくも古くもない、国立大学至上主義の先生が一定数蔓延る、そこそこの進学校である。

 

 そこで、戸村真澄は有名人であった。

 

 理由はいくつか思い浮かべられる。頭がいい、運動神経がいい、性格がいい、教養が深い、見た目がいい。

 

 しかしそのどれを差し置いても、「戸村真澄はレズである」を超える理由はなかった……。





(真のタイトル)ノンケだと思っていた幼馴染が実はガチレズで、告白した日の夜においしく頂かれる話

 タイトル詐欺すまん。

 需要があれば、二人のアブノーマルなプレイを書こうかなと思います。







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