男の身体と首が離れ、ゆっくりと崩れ落ちる。だが倒れる事はなく、地面に触れる前に黒い霧と化し霧散する。そして男のいた場所には、男の持っていた杖のみが残された。
『…逃げた?まぁ、杖だけでも確保すれば良いか…』
杖には、禍々しい目を象った何かがはめられている。恐らく、これが
『能力を奪う事の出来る杖…か』
ともあれこれを確保しておけば賢者も来る。私は杖に手を伸ばし、
突如杖から噴出した白い魔力が私の腕を貫いた。
『う…⁉︎』
咄嗟に飛び退いた私の前に、黒い霧が吹き荒れる。霧は杖を覆い隠し、そのまま空へ飛び上がりその姿を変えていく。
「ックク、何不用心に手ェ出してんだよ!あっさりオレが退いたせいで油断しちまったか?」
霧の中から現れた男は瞬時に杖を振りかぶり、私に飛びかかってくる。
『チッ…私を嵌めるとはね!』
前面に魔力を展開し、壁を作って距離をとる。だが黒い壁の中心を、白い光を帯びた杖が突き崩した。
突いた勢いのまま、白い光が放たれる。身体を捻って避けるが、腕を掠めた。すると掠めたところが僅かに
『この、魔力…いや能力はー!』
「察しがいいな。そう、テメェの具現化能力は鬱陶しいけどよ…コイツさえあれば話は別だ。なんたって…テメェの
連続で光が荒れ狂う。少しずつ掠めながらも、私は魔力を練り上げる。
『調子に乗るもんじゃないよ……【月蝕】!』
空が黒く染まりゆく。練り上げた高密度の魔力で、前方を一息に圧し潰す様に叩きつけた。
手応えはあった。だが魔力の収まった所から黒い霧が吹き上がり、男の身体を再構成していく。
『私の天敵はもういない。居るならせいぜい、最下層の地獄だろうさ』
新たに魔力を展開する私を前に、男は堪える様な笑いを浮かべていた。
「あぁ、そうかもな…っと、悪りぃな、時間切れだ。テメェの相手はこんなもんでいいだろ」
『何…?』
「こっちも色々都合があんだよ。テメェからその桜の能力ぶん取るには俺じゃ力不足なんでな…次の異変に向けて、ここらで退かせて貰うぜ」
男の身体が霧散する。私が刀を振るうよりも速く、黒い霧は空へと舞った。
「1つ教えてやるよ。テメェらが俺達を逃せば逃すほど…賢者を憎む、テメェの
霧も、男の気配も、完全に消え去って。私はしばし、立ち尽くしていた。
『地獄から、這い上がる…。下らない。死者が這い上がって来た所で何を出来る訳でも無い』
あんな言葉を気にかけている暇は無い。私はただ、気に入らないからアイツらを止めるだけだ。
『さて、あっちも加勢しないとね』
煌達はやはり苦戦しているようだ。2人を追って、私は長い石段を跳んだ。
▼▼▼
「おおおッ!」
「……」
闇雲に刀を振るう。黒く染まった刃は、いつもより速く、重く振るう事が出来た。
だが、俺と男では元々の技量が違いすぎる。どれ程速く振るっても、男に一撃も入れられてはいない。
「無駄だ。少しばかり力が増した所で、貴様は私には勝てん」
「そうだろうよ…でも、俺しか居ない訳じゃねぇ!」
飛び退いた俺を追う男の真横に斬撃が突き刺さる。足を止めた男に向けて、更に斬撃が叩き込まれた。
「ええ…私も、まだ戦えます!」
刀を構える俺と妖夢に対し、男はゆっくりと剣を掲げた。その刀身に、青い光が宿っていく。
「…まだ立つか。ならばその思いに敬意を表し、我が全力で貴様らを斬り伏せるとしよう」
男の剣が暗い光を放つ。青く輝く切っ先が、俺と妖夢に向けられる。
それを見た俺と妖夢は同時に男へと突っ込んだ。
「それでも私は…負けません!【未来永劫斬】‼︎」
「死ぬわけにいくか…!【ブレイズリベリオン】!」
研ぎ澄まされた剣閃が、赤黒い炎が、放たれる。同時に男も、剣を振り下ろす。
「我が一閃……喰らうが良い!」
振り下ろされた剣と、俺達の斬撃が衝突する。
その、寸前。
「ックク、そこまでにして貰うぜ?テメェらに付き合う暇無くなっちまったからよ」
3つの剣が、見えない透明なナニカに阻まれた。そのままナニカに押し返される。
「きゃっ…!?」
「うお…!」
上空を見やる。そこにいたのは、黒いローブをまとった魔法使いの様な男だった。
「お前、紅魔館の時の…!」
「……何故邪魔をする?」
戦いを止められた男が、魔法使いに食ってかかる。言葉は普通だが、切っ先が今度は男に向けられていた。
「テメェに言ったのは足止めだけだろうが。それに時間ねぇっつってん……!チッ、もう来やがったか!」
弾かれたように男2人が後ろへ跳ぶ。同時に辺りの空が一瞬のうちに黒く染まった。
「煌さん!」
妖夢に腕を引かれて石段の上へ避難する。黒い空が急速に、文字通り落ちてきていた。
『ーー【月蝕】!』
石段が、空に押し潰されていく。そんな様子を半ば呆然と眺めていると、見知った人影が俺の隣に降り立った。
『間に合わなかったか…隙デカいなぁコレ』
「カガチ…何でここに…」
『戻って来ないからやっぱり苦戦してるんだろうなーって思ってさ。後はまぁ…あの黒ローブを追ってね』
そう言ってカガチは空を見上げた。そこには無傷のままの男2人が悠然と立っていた。
「随分早く来たもんだ…退くぞ。剣ぶん回すのはまたの機会にしとけや」
「……良いだろう。奴らは未だ、私の剣を受けきれまい」
男達の背後に黒い影のような空間が滲み出る。影はそのまま、男達を飲み込んでゆくーー
「ま、待てよ!お前ら、何でこんな事…!」
いきなり現れてわけの分からない事をして去っていく。そんな男を見て咄嗟に出た言葉だった。
「何で、か?そうだな…テメェらに分かりやすく言ってやるなら…
「世界征服…?そんな事、今の幻想郷で出来るはずありません!」
「それはテメェの思い込みだろ?俺は出来ねぇ事はやんねェよ。最も俺と、俺の目的については…そこの亡霊もどきがよぉく知ってるだろうけどな!」
そう言い残して、2人は影の中に飲み込まれてしまった。残された俺と妖夢は、カガチに向き直った。
「カガチさん。貴方は、彼が何者か、彼の目的が何なのか…知ってるんですか?」
『…ああ。知ってるよ』
「じゃあアイツは、アイツらは一体何なんだよ!」
俺達の問いに、カガチはどこか気だるげに話し始めた。
『彼は…キャスト。数百年前、この幻想郷が出来た時に、
…それを滅ぼそうとした妖怪だ』
Q.次回でやっと妖々夢終わりってマジ?
A.マジ。いつ終わるか作者自身分かりません。
Q.原作キャラの見せ場は?
A.全員は無理だけどある程度あるから出てくるまで待って。