モモンガ、アルベドの乳を揉み、自分のアレがリアルよりご立派である事を確認する
ムササビ、娘に心をへし折られるのを精神の沈静化で回避する
アウラ、ギルド武器でぶん殴られ流血する
マーレ、姉を処分しようとする
シャルティア、ゲートから出てきただけ
ユウ、守護者統括の胸を触り続ける至高の御方(30代童貞)のアレを、実の父が覗き込むトラウマモノの事案を間近で見せつけられるが、父により丸め込まれうやむやにされる15の夜
「責があるなら、この私だけだ」
モモンガさんは支配者の顔をしていた。さっきまで大粒の涙を流していたのに、それを微塵も感じさせない。
だけど表面上は気にしてないように振舞っているが、モモンガさんのダメージは深刻だろう。親戚の子供とかと遊んでいて、ちょっとした拍子に転ばしてしまうだけでも、心にくるものがあるのに、あんな流血なんてさせたら……胸中察するに余りある。
それでも、すぐに切り替えられるのがモモンガさんだ。あのアクの強いみんなをまとめていただけはある。
オレも切り替えないと。
アウラとマーレを見て、とりあえずオレ達と敵対はないと判断する。
当面の危機が去ったのは喜ばしいが、先を見据えた場合は手放しで喜べない。
推測通りの可能性が大いにあるからだ。どのケースか見極めないと大惨事になる。知らぬ間に忖度して、気付けば良かれと思って悪事を働いているなんてのは容易に想像できる。ナザリックのNPCのほとんどはカルマ値がマイナスに偏っているのだから。根本の価値観に相違がある。
「おや、私が一番でありんすか?」
空間に影で形作られた扉が現れる。〈
〈
そして、パットがこれでもかと詰め込まれた大きくて小さい胸。オレもあの人にイラストを依頼していたら、ユウが巨乳になっていたのだろうか。ないな、そんなモノが上がってきたら、今のように自分で描いているな。巨乳のユウなんてユウじゃない。
シャルティアがゆっくりとこちらに歩いてくる。
趣味の良い香水の香りが鼻孔をくすぐる。爽やかさの中に上品さがある芳香がシャルティアによく似合う。
不意に「……くさ」とアウラが呟いた。オレとモモンガさんは、思わず腕を上げて自分の匂いを確認してしまう。まだ大丈夫だと思いながらも加齢臭が気になる、お年頃の二人なのだった。
「モモンガ様、違います。モモンガ様はいい匂いがしますよ」
オレはショックで手に持っていた杖を落とす。『モモンガ様は』か、まだ若いと思ってたのにな。そうか、オレもう加齢臭がするのか。20代からする人もいるって言うし、しょうがないか。今度、シャルティアに香水を分けてもらおうかな。はあ、ヤバイ、かなりショックだわ。強制的に沈静化はされないけど、ダメージがデカい。
「ち、違います。ムササビ様。アンデッドだから腐っているんじゃないかなって」
――ふう、アウラの無邪気な追い打ちで精神の沈静化が起きた。冷静に考えたら、これシャルティアに向かって言っていただけだな、腐るようなモノの一切が失われたんだし。良かった~、オレじゃなかった。
嬉しさのあまり心の中で盛大にガッツポーズをする。
「お父様、急にガッツポーズをしてどうしたんですか」
喜びが心の中では収まり切れなかったようだ。
知らずにガッツポーズを決めていたオレの首に、シャルティアが腕を回し抱き着く。
「ああ、愛しの君」
シャルティアは妖艶な表情を浮かべている。これが美女にされたのならドキリともしただろうが、シャルティアでは背伸び感が先行してしまって微笑ましいだけだった。
「この鎖骨の美しいフォルム、この肩甲骨の滑らかな感触。たまらんでありんす」
シャルティアの指が肩甲骨の上部を這い回る。
「シャルティアよ、あまり撫でまわさないで貰えないか」
たまらんってなんだよ。それに手つきが妙にこなれてて怖いよ。ペロロンチーノ、こんなのが理想だったの。
「ところで、モモンガ様はなぜ人間の姿をしているのでありんすか」
背伸びして首に抱き着いたままのシャルティアはモモンガさんの方へ顔を向ける。
「う、うむ。それはだな……」
「美の結晶たる、あのお姿はどうしたでありんすか」
あれ、この言い方と感じからして、オレの骨の美しさはモモンガさんの骨より劣っているって事か。種族レベルの差かな、オレはストレートにオーバーロードまでしかとってないけど、モモンガさんはそれに10レベル分、他の種族を取っていたはず。種族レベルが高いほど、美しい骨になるのか。
モモンガさんの骨はレベルの高い美しい骨。うん、言葉にするとなんか笑えるな。
「これには、少し訳があってだな……」
モモンガさんが答えあぐねていると「モモンガ様、お父様、コキュートス達が来ましたよ」とユウが遥か遠くにいるコキュートスを指差した。ナイス話題転換だ、ユウ。
第五階層守護者『凍河の支配者』コキュートス。武人武御雷さんが作った昆虫型のNPCで冷気をまとう武人の中の武人。
2.5メートルほどの二足歩行の昆虫のような姿をしている。ライトブルーの身体には四本の腕と身長の倍ある尻尾が生えており、全身には無数の鋭いスパイクがついている。
コキュートスはそこまで凝った設定じゃなかったから警戒はそれほどいらないだろう。それに貴重なカルマ値プラス勢だし。
モモンガさんがコキュートスに声をかける。
「良く来たな、コキュートス」
「オ呼ビトアラバ即座ニ、御方」
発声器官がないからかコキュートスの声は人のモノではない硬質な音だった。
左右に開いた下顎から白い息が漏れる。強力な冷気があたりを満たし、空気中の水分が凍り付く。この場には冷気耐性を持っていない者はいないので問題がない。モモンガさんの冷気耐性も種族レベル由来なので失われてはいない。ここでモモンガさんが氷漬けになってたら、コキュートスが切腹しちゃってたな。
モモンガさんはコキュートスと雑談を交わしている。
オレはその隙にずっとくっついたままのシャルティアを引き剥がす。なんだかアウラがイライラしている感じだったので、離れた場所に下ろす。なんだか親戚の家に来て子供と遊んでる気分だ。
「デミウルゴス、ソレニアルベドガ来タヨウデスナ」
コキュートスが向いた先にはデミウルゴスとアルベドが闘技場入口から歩いてきている。
第七階層守護者『炎獄の造物主』デミウルゴス。ウルベルトさんが作った悪の結晶。相当の拘りをもって作られた悪魔。要注意人物。
1.8メートルの身長、浅黒い肌、東洋系の顔立ちに丸メガネをかけて、漆黒の髪をオールバックにしている。赤色系統の三つ揃えを着こなしていて、出来る人間感がひしひしと伝わってくる。
服装に見合う立ち振る舞いに教養や礼儀作法が備わっている。
これにあの悪逆非道な設定が乗っかっているんだろ。あの中二露悪趣味野郎、マジ厄介。ホント、あんまり悪事を働かせないように注意しておかないと、ウルベルトさんが悲しんじゃうよ。あの人は悪に拘りがあるだけで、悪人なんかじゃなく普通の常識人なんだから。殺人モノの推理小説が好きでも、現実の殺人は好きじゃないのと一緒なのだが、こんな簡単なモノさえ理解できない人間が多い。まして種族そのものが違うのに理解し合うなんて。
十分に近づいてからデミウルゴスが口を開く。
「皆さんお待たせして申し訳ありませんね」
聞き心地の良い声が耳から滑り込む。これは『支配の呪言』の力だろうか。レベル40以下にしか効かないスキルだ。この場で効果があるのはユウだけである。
「これで皆、集まったな」
「――モモンガ様、まだ二名ほど来ていないようですが?」
二名ほど、か。階層守護者が集める場に領域守護者に過ぎないユウが居ても不思議に思わないようだな。オレがずっとユウを連れていた記憶はNPCにもあるようだ。なら、ギルメンだけで会議をしている時もユウがその場に居た記憶があるのだろう。と、なると本当にユウをオレの娘と認識しているのだろうか。それとも、娘の役目を負って生まれたNPCと認識しているのだろうか。これも確かめないとな。
守護者の相手をモモンガさんに任せ、思索に没頭しているとアルベドの声が聞こえた。
「では、至高の御方々に忠誠の儀を」
守護者達とユウが一斉に頷き、神の使徒もかくやと隊列を組む。アルベドが一歩前に位置し、その後ろを守護者が横一列に並ぶ。さらにその後ろにユウが立つ。ユウさえも畏まった顔をしている。端に立つシャルティアが一歩前に進み出る。
「第1、第2、第3階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」
跪き、臣下の礼をとる。それに続きコキュートスが続く。
すごい嫌な予感がする。これは完全にオレ達を神と崇めているよな。無い胃が痛む。すでに失った臓腑がひっくり返りそうだ。
続く、アウラ、マーレ、デミウルゴスが一糸乱れぬ完璧な動きで臣下の礼を取る。
そして、ユウさえも臣下の礼をとる。――ふう、沈静化が起きるほどショックだったのか、オレ。いやいや、予想はしていただろう。こうなる可能性は大きいと踏んでたじゃないか。
「――我らの忠義全てを捧げます」
最後にアルベドで終わる。
七つの下がった頭。一切の身じろぎもない。もの凄いプレッシャーを感じる。何千人の前で訓示をした経験はあるが、これとは比較にならない。
思わず隣に立つモモンガさんを横目で見ると、口を半開きにして『絶望のオーラⅤ(即死効果)』を垂れ流していた。
何してんのモモンガさん、
いやいやモモンガさん、落ち着いてくださいよ。ここでモモンガさんだけ『絶望のオーラⅤ』を使っていたらテンパってるのがバレそうなのでオレも使用する。モモンガさんのオーラはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで強化されているので、オレも負けじと課金アイテムをこっそり使いオーラを強化する。もちろん、これで即死耐性を施しているNPCが死ぬ事はない。
未だオーラと後光を背負いながら固まるモモンガさんにオレはメッセージを使う。この時、口を動かしたら不味いので腹話術で会話を試みる。舌の無い体で腹話術って、もうこれ分けわかんねえな。オレの口の中すっからかんだぞ。
『落ち着いてください、モモンガさん。』
ハッとして、我に返ったモモンガさんは重々しく口を開く。
「面を上げよ」
一糸乱れぬ動きで皆が頭を上げる。こう思ってはいけないのだろうが、さながら独裁国の兵士のようだ。これのかじ取りをしないといけないのか。頑張ってください、モモンガさん。
「現在、ナザリックでは異変が起きている。各階層を調べた結果、何か異変があったか」
しかし守護者の誰も異変は発見できていないようだ。これはセバス待ちだな、と考えているとセバスが小走りで帰ってきた。
こちらまで来たところで片膝をつこうとするので、オレはそれを押しとどめる。
「儀礼は良い、それよりも報告を皆に聞こえるように」
セバスから語られた内容は、ナザリックの周囲1キロが『何の変哲もない草原に変わっている』に尽きた。
これは想定の範囲内である。これで懸念の一つだった、外にいるツヴェークの侵入がなくなった。外にNPCが出られる世界で、モンスターが拠点に入ってこれないと思うのは虫が良過ぎる。代わりに周辺地理から調べないといけなくなってしまったから、どちらが良かったかはまだ不明だが。
問題はここがユグドラシル内のどこかなのか、それとも全くの異世界か、だ。ただ後者だろうな、と漠然と思っている。ここに至ってまだユグドラシルのどこかなんて思える訳がない。
どっちにしても、防衛能力の強化をやらなければいけない。
モモンガさんが守護者達に指示を出している。主に警備と指令系統に関してだ。ただ、九、十階層にシモベ(オレ達が手作りしていないNPCモンスター)が進入するのにアルベド達が難色を示したがモモンガさんが非常事態だと退けた。これで内の守りは大丈夫だろう。次は外の守りだ。
「ア、いや、マーレよ、ナザリック地下大墳墓の隠蔽は可能か」
あれ、モモンガさん、今アウラと言おうとして止めた。ここでヘタレないで。そんな気の使い方したら、アウラちゃんが余計に気に病んじゃうよ。
「ま、魔法という手段では難しいです」
ただ壁に土を掛けて植物を生やせば可能だと提案するマーレ。オレは間髪入れずにそれを褒める。
「なるほど、いい案だマーレ。モモンガ様も異論は無いですね」
マーレが話している時に、僅かだがNPC達に不穏な空気が流れた。だから、アルベドが発言を遮る為にオレは言葉を発した。
間違いなく好意的な意見ではないはずだ。おそらく壁に土を掛ける行為を不敬だとでも思ったのだろう。会社の会議の時によくこんなやり取りがあったなと懐かしくなる。こういう盲信に近い手合いはしばしば激昂してしまう為、取り扱いには注意なんだよな。大事な物に対する比重が他人と違い過ぎるのだ。それは分からなくはないのだが。それを許していては思考が硬直してしまう。この未だ何が起きたかわからない状況でそれはまずい。
モモンガさんはマーレの案を取り入れ、詳細を詰めていた。マーレに全権を任せ、どうやら周囲に丘をつくり地形ごと変えてしまうらしい。
目的の為なら、こういうある意味とんでもない案を採用し、大胆な手段であろうと他人に全てを委ねられる所がモモンガさんの強さだ。責任ある地位に就くとこれがなかなかできない、当たり前であるはずの困難な行為。当たり前を当たり前にやる、学生の自分ならピンとこなかっただろうが、社会人になってわかるその難しさ。オレもこの姿勢を見習わなければ、今ほど優秀な経営者にはなれなかっただろう。
さて、
「アルベドよ。ナザリックに土を掛ける行為を不快に思う気持ちはわかる。我も思うところがないわけではない。だが、モモンガ様も我もナザリックのみんなが何より大事なのだ。決して、ナザリックを軽んじている訳でない。ナザリックという我が家より、お前たち家族が大切なだけなのだ。それだけは分かってほしい」
相手の性格が分からないからあまり気の利いた事は言えない。そういう時は本心を包み隠さず言うに限る。分かり合おうとする者同士に限り、話せば分かり合えるのだ。
さっきまで微動だにしなかったNPC達がプルプルと震え出した。え、なに怖い。ダブラさんと見たホラー映画のワンシーンみたいなんだけど。こういう、動かなかった人間がプルプル震え出したら、だいたい中から化け物が現れるのが相場なんだが。うちの子達はほぼ異形種だから元々化け物だけど。
「我々シモベには勿体なきお言葉」
守護者が泣き出した。ある者は号泣。ある者はむせび泣いている。これが神の言葉を聞いたモノの反応なのか。自分の想定が甘かったと痛感する。有体に言って、ドン引きである。
もっと言葉を選らばなければ。そもそも当たり前だけど神になった経験なんてないんだから、手探りになるのは仕方がない。
「ム、ムササビさんは何か聞きたい事とかないですか」
このタイミングで話を振らないで。でも、そうだな、何か聞くなら主要メンバーが揃っている今がチャンスなのは間違いないんだよな。では、素朴な疑問から初めてみるかな。
「汝らは何故、人間の姿をしているモモンガ様が分かったのだ」
オレの質問にみんながちょとんとしている。あれ、思っていたリアクションと違うな。さっきまであんなに泣いたのに、何この落差。なんか不味かった。
「確かに、私もそれが不思議だったのだ」
モモンガさんの発言に場がざわめく。なんだ、何が起きているんだ。
意を決したようにアルベドが口を開く。どうやら、オレ達には絶対なる支配者の気配のようなものがあるようで、NPC達はソレを感じ取れるらしい。シモベ同士も揺らめくような気配がするらしく、それで仲間の判断をしているそうだ。
「モモンガ様は何か感じられますか」
魔王のように鷹揚に首を振るモモンガさん。魔王ロールしている時のモモンガさん、マジカッコいい。
アルベドが守護者を代表するように恐る恐る口を開いた。
「そ、それは至高の御方々がオーラの中心にいる為にわかりにくくなっているのかと」
……え、なんかフォローされてる。これはそんなにも当たり前の能力なのか。現実世界で神を感じられるとか言うと病院行きだけど、神が同じ場に住んでいるナザリックでは神を感じられない方が病院行きになるのか。確かに考えてみればそうか。
ここは少し、俺達の能力に対する評価を下げておこうか。
「ふむ、なるほど、汝らは我々に無い能力を持っているのか。今まで気づかなかったぞ。この様に、我々とて万能ではないのだ。これからも、我々が出来ぬ事、不得手な事やそれ以外の事に関して、汝らの協力を必要とするだろう。その時はよろしく頼むぞ」
「我々は至高の御方々のお役に立てる事が至上の喜びでございます」
アルベドが代表して述べる。これはあんまり評価が下がってないな。なかなか骨が折れそうだ。頭が良いと誤解されると、どれだけ否定しても謙遜と受け取られるように、一度上がりきった評価を覆すのは難しい。相手が勝手に良いように解釈するからだ。もちろん、どん底まで評価を下げるのは簡単だ。だけど今はほどほどの評価でとどめないといけない。
モモンガさんが一歩前に出た。
「今度は私が皆に聞こうか」
何を聞くのだろう。モモンガさんは頭が切れるから、どんな問いが出るか楽しみだ。
「私とはどのような人物だ」
直球ぅ! モモンガさんたら、わぁ大胆~。
なんて心の中でふざけているうちに、モモンガさんが次々と守護者達から褒め称えられまくって赤面している。あれ、うちのギルマスこんなにアホだったか? こうなるのは目に見えてたでしょ。もっと頭の切れる人だと思ってたのに。アバターはポーカーフェイスだから、わからなかっただけかな。
最後にアルベドは「愛しい人」と言っていたが、そんな設定はなかったような――やはり、他にも法則があるのか。
テキストがそのまま反映される。テキストが無ければ製作者の性格が反映される。この二つ以外の何かがあるのか。例えば、与えられた役職で設定が付加されるとか、か。ずっと玉座の横にいるのだから、そういう感情があった方が自然だからか。それとも、ただの熟知性の法則か。
後でモモンガさんと話をしておかないと。はあ、やる事が山積している。
とりあえず後は部屋に帰って、モモンガさんとその辺を詰めるか。
「では、ムササビさんはどのような人物だ」
暴投ぅ! モモンガさん、マジ天然。もうオレ帰る気満々でしたよ。
モモンガさんの言葉に従い、さっきと同じようにシャルティアから答え始める。
「マジ今すぐヤリたい骨」
「ウホッ良イ骨」
「あたしを見る目がペロロンチーノのようにいやらしい骨」
「僕のスカートがひるがえるとねっちょりとした視線を向ける骨」
「聡明なる頭脳と慈悲深き御心を併せ持つ、素晴らしき勝ち組のファッキンクソ骨野郎!」
「「「「……」」」」
暴言を吐く階層守護者とあまりの事態に絶句する執事と統括と聞いた本人であるナザリック支配者と骨。
ああ、素晴らしい忠誠心だわ。マジで。
死の支配者が二人もいるこの場を、気まずい雰囲気が我が物顔で支配しちゃってるよ。どうしよ、これ。いや、幾分かはオレのせいなんだけど。
「ム、ムササビさん。その、これは何かの間違いですよ」
「いえ、気にはしていませんよ、モモンガ様。彼らの忠節は素晴らしい」
「気にしてない事ないでしょう。声が若干震えてますし、口もあごが外れちゃってるくらい開いてますよ」
パッと口を閉じる。口をあんぐり開けた神は信仰されなさそうだ。ロールはちゃんと出来ていたのに詰めが甘かった。
「貴方達、不敬が過ぎるわよ!」
立ち上がり振り返ったアルベドの怒声が気まずい空気を吹き飛ばす。やめて、気持ちは嬉しいけど、それはオレへの追い打ちになる。
デミウルゴスが片膝をついたまま、丸メガネをくいっと上げて答える
「アルベド、落ち着きなさい。これはウルベルト様をはじめ、至高の御方々がお決めになった事。他の守護者も至高の御方々の命に従ったまでです」
「わたしはペロロンチーノ様の命にしたがったまででありんす」
「我ハ武人建御雷様カラ」
「あたしはるし★ふぁー様が」
「ボクもるし★ふぁー様に」
守護者から口々に出てくるギルメンの名前。これは間違いない。
「良いのだ。アルベド。これは我が命じたモノだ」
そうなのである。モモンガさんは知らないけど、アレはオレ達の所業なのである。シャルティアの言葉を聞くまで忘れてたけど。いや、普通、不発に終わった何年も前の小さいイタズラなんて覚えてないよ。
オレはそっとモモンガさんに耳打ちする。
「あれは昔に仕込んだ軽いイタズラなんです。守護者がギルメンの事を聞かれたら、自動で答えるマクロを仕込んだんですよ。るし★ふぁーさんが10人くらいで飽きて止めちゃったけど、アウラとマーレ以外は製作者公認です」
「あ、つまり、あれはセリフを考えた人の名前ですか」
「厳密には、セリフのテキストを書き込んだ人の名前を上げていますね。マーレのセリフを考えたのは弐式遠雷さんだったはずですから。オレのは手始めで短いですけど、他の方のは長いですよ。特にシャルティアからぶくぶく茶釜さんへのと、デミウルゴスからたっち・みーさんへのセリフは」
しかし仕込まれたマクロも忠実に再現されるのか。これはオレ達みたいに誰かが勝手にイタズラしてたら不味いな。特にるし★ふぁーさん。イタズラ仲間として言える、あの人が他にイタズラしてないはずがない。
何よりマクロが再現されるとなると、オレが追加した条件付きのモーションもするのだろうか。それよりもヘロヘロさんが組み込んだ隠しコマンドが見つかるかもしれないのか。よし、色々終わったら探そう。
「汝らの忠誠、しかと見せてもらった。このように我々は例え不敬だろうと、その真意を重視する。何か我々に聞いておきたい事はないか。今、この時ならば例え、どのような問いだろうと全てを答えよう」
わずかな沈黙の後、アルベドが意を決したように口を開く。
「モモンガ様。ムササビ様。玉座の間で仰っていた、モモンガ様の力を代償にこのナザリックをお守りした結果、人間に戻られたとは本当なのですか。他の御方々も、それを阻止する為に旅立たれたと」
まさかオレ達がNPCの前でした会話すら逐一覚えているのか。オレはてっきり、おぼろげながら頭の片隅にある程度だと踏んでいたのに。この忠誠心の厚さからそういうの細かい記憶はないと思ってたんだが。
やばいな、オレとペロロンチーノが二人でする会話なんてカスだぜ。あんなの聞いてたら、ぶっちゃけモモンガさんもドン引くんじゃないかってなくらいにはドカスだぜ。え、てことはシャルティアにも聞かれてたって事か、もしかしてユウにも――ふう、精神が沈静した。いや大丈夫だ。そんな話をする時はユウを自分の領域へ帰らしていたから聞かれていないはずだ。
待てよ、ならオレ達がただの平凡な人間だと何故わからない?
――そうか、リアルを理解できないのか。自分達がオレ達に生み出された存在だと自己認識しているから、ゲームのキャラだと認識できない。それが認識できないからリアルも理解できない。だから耐性等のゲーム内システムは知っているのに、GMコールなどのゲーム外システムが分からなかったんだ。これは間違いないな。
「申し訳ございません! 出過ぎた真似を!」
オレ達が沈黙していたのを、不評を買ったと思ったのだろうアルベドが跪き頭を下げる。これはなんとかしないと。
「良い、良いのだ。ただ、どう言えばいいかを悩んでいただけだ。我は全てを答えると言った。ならば全てを答えるのが我の務めだ。しかし、事これは重大な案件。少しばかりモモンガさんと相談をする。しばし、待て」
オレとモモンガさんは守護者を背にして少し距離を取り、小声で話す。
「どうします、モモンガさん」
モモンガさんは両手で顔を隠していた。
「恥ずかしい、アレがこんな事態を引き起こすなんて。どうしましょうムササビさん」
「いや、今はそんな事を言っている場合じゃないですし、それにアレはカッコ良かったですよ」
「普通にアレがカッコ良かったと断言できるムササビさん、素敵です」
だから、そんな場合じゃないって。モモンガさんやっぱ大物だわ。でも、今は守護者達が待っているので話を戻す。
「オレとしてはこれ幸いに、事実にしてしまおうと思います」
「事実に、ですか?」
「モモンガさんはこのまま、この期待に応え続けれる自信がありますか? オレはまったく無いです。特にアルベドとデミウルゴスの期待にはとてもとても」
「……私もないです。でも、どうするんですか?」
「そこはオレに全て任せてくださいませんか?」
「何か考えがあるんですね。分かりました、全てお任せします」
これがモモンガさんである。どうしてこれほど簡単に全てを委ねられるのか。いや、これはオレを信頼してくれているって事は理解しているけど、それでも凄いな。オレにはない強さだ。
オレは振り返り、守護者達の前まで歩いていく。
「アルベドが言った事は全て事実だ」
場がざわめくが手を上げて、それを抑える。
「アウラよ、今のモモンガさんに精神作用無効が失われているのは知っているな。我と同じアンデッドであるモモンガさんにだ」
アウラはバツが悪そうに「はい」と答える。うっ、思っているよりアウラの心の傷は大きい。これは後で何かしらのケアが必要だな。また一つ、頭の痛い案件が積み上がる。しかし、NPCに関しての予想が当たらない。やはり、まだ彼らを良く知らないからか。もっと交流を持たないといけないな。
「モモンガさんは力を使い果たし、アンデッドの力の一部が失われ、元の人間のお姿に戻られたのだ。そう、モモンガさんは元々は人間だったのだ。そして我も人間だ」
NPC達の衝撃はいかほどか。それはかの人間宣言すらも上回る驚愕は確実だろう。自らを生み出した神が神ではないと宣言しているのだから。これに乗じて、畳みかける。
「また、モモンガさんの聡明なる英知も失われた、我もモモンガさんほどではないが失われた。現在の我々の知能は、間違いなくアルベドやデミウルゴスを下回っている。我々は間違いなく弱体化してしまったのだ!」
「そ、そのような――」
デミウルゴスを手で制す。これはもう一押しだ。なんとしても我々の頭がアルベドやデミウルゴスより下だと信じてもらわないと、この先どうなるかわからん。この手なら忠誠心を下げないで、評価だけをいい塩梅で下げられる。
「あるのだ、デミウルゴス。受け入れがたいだろうが、事実なのだ。だが、我もモモンガさんも後悔はしていない。このナザリックが存続できるのなら、汝らが生きているのなら、我らの知など惜しくはない。我々の頭脳が失われようと、このナザリックにはアルベドがいる、デミウルゴスがいる。ならば憂いすらない!」
「そ、それほどまでに我々の事を」
丸メガネの奥から涙があふれている。
よし、とどめだ。
「汝らが生きている。それだけで我々アインズ・ウール・ゴウンが幸福に満たされる」
感動の嵐である。よし、今度は予想通りだ。だが心が痛い。少々汚い手と言うかなんというか。会社でするなら全然気にもしないが、身内相手だと騙しているような気がする。実際、騙しているんだけど。
しかしオレ達のハードルを下げつつ、忠誠心を保ち、今いないギルメンのフォローもできる。これ以外の方法が咄嗟に思い浮かばなかったんだから仕方がない。打てる手を打ち続けなければいけないのだ。未だオレ達は盤石ではないのだから。
未だ冷めやらぬ狂乱のごとき感激の中に異音が混じる。
グ~。
誰かのお腹が鳴ったのだ。ピタリと動きを止める守護者達。この中でお腹が空くのは、装備、種族の関係上モモンガさんしかいないのだが、何故かモモンガさんの方から音が聞こえたわけで。つまり、モモンガさんはこんな場面でとんでもない方法を用いて、自分の大人物ぶりをアピールしたのだ。いや、ホント、マジで、モモンガさんすげえ。
「流石はモモンガ様、大物でございます」
「それ、皮肉ですよね。ムササビさん」
真っ赤な顔をしたモモンガさんに、オレは真顔をもって、その答えとした。骨だから常に真顔だけど。とは言うものの、零時を回ってかなり時間がたっているんだ。オレは飲食不要があるけど、モモンガさんは無くなったから、そりゃお腹も空くはずだ。
「モモンガ様は何をご所望ですか」
「いえ、特には」
モモンガさん、食に関心が無かったからな。栄養は気にしてたみたいだけど。それならば、オレは一度だけでもいいから食べてみたかったモノがある。オレは守護者の方を向く。
「では、モモンガ様と我のドラゴンステーキを用意しろ。モモンガ様が人間に戻られて、初めての食事だ。腕の振るい甲斐があるぞ」
RPG系のゲームをする人間が一度は食べたいと思うドラゴンの肉。ああ、どんな味がするんだろうか。
オレ達は軽く守護者を激励してから、モモンガさんの部屋の前に転移した。
我らが造物主が去った。
ボク達を、――ボクを殺さんばかりの重圧が掻き消える。
レベル100のNPCならここまではならなかっただろうが、レベルが30しかないボクにとっては本当に死ぬところだった。
片膝をつき、頭を下げたまま誰も動かない中、誰かが安堵の息を漏らす。
「す、すごく怖かったね、お姉ちゃん」
「う、うん。そうだね」
アウラ様の歯切れが悪い。相当に尾を引いているようだ。それはそうだ、知らずとはいえモモンガ様を恐怖状態にしてしまったのだから。許されたとしても、自分自身を許せるかは別の問題なのだ。そしてそれはモモンガ様も。
それでも、である。
「アウラ様、お気持ちはわかりますが、そんなに気に病まないでください。モモンガ様もお父様もそれを望んではいません」
アウラ様は「うん」とだけ答えた。
我々の至上の喜びは、造物主たる至高の御方々のお役に立つ事、その次に相手をしてもらえる事。ナザリックにいる全ての者の共通認識である。もちろん、お父様の娘として生み出されたボクも例外ではない。『そうあれ』と生み出されたから『そうある』のである。
だからボクはお父様の娘だ。
大好きなお父様の大好きな言葉で言うのなら『
造物主たるお父様がそう望んだのだ。渇望したのだ。だからボクは
だけど、その日ではないこの時は、玉座の間でお父様から与えられた役目を遂行するだけである。守護者達が何を思い、何を考えているのかを伝える役目。大好きなお父様が望まれて、大好きなお父様の役に立つのなら、ボクはお父様さえも裏切れる。
守護者の方々は口々に至高の御方々の印象を述べ合う。
「あれが支配者としての器をお見せになられたモモンガ様なのね」
「我々が即死無効の装備を与えれてなければ、或いは」
「アレホドデアリナガラ弱体化シテイルトイウノカ」
「我々を安心させる為にあれ程のお力をお見せになられたのだろうね」
ボクは何もせずに、ただ話を聞き続ける。いつものように至高の御方々の偉大さを語り合うだけである。途中、セバス様が至高の御方々のお傍に仕える為、モモンガ様の部屋へと赴いた。
その後はアルベド様とシャルティア様の諍いが始まったので、飛び火する前にお
ボクはアンフィテアトルムのゲート前まで歩く。ゲート前に着き、周りに誰もいないのをよく確認する。
しっかりと確かめてから、るし★ふぁー様より秘密裏に頂いたリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い、偽りのお父様の元へと戻った。
このアルベドは至高の御方々に捨てられたと思ってないので病みません。
この作品では名言「デミウルゴス、皆に説明してあげなさい」が出てきません。
鈴木悟救済の為、モモンガさんの重荷は順調に消えていきます。
ただし、救済が順調に進むとは言っていない。
次回の投稿は1週間後くらいになりそうです
おまけ ある日のナザリック
るし★ふぁー「あたしを見る目がペロロンチーノのようにいやらしい骨っと」
ペロロンチーノ「いくら俺でも姉ちゃんのNPCには無理だよ!?」
武人建御雷「ウホッ良イ骨っと」
弐式遠雷「建やん、そんなこと書いたらまた黒歴史になるんじゃないか?」
ウルベルト「――ファッキンクソ骨野郎っと」
ムササビ「もしかして本音ですかウルベルトさん。それにみんな、骨、骨、骨、ってモモンガさんも骨だからね?」