高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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勢いでここまで書いた。
以降不定期更新予定(キリッ



1-2 ところがどっこい夢じゃありません AA略.

侮っていた。 古新聞を捲りながらも潤の頭を占めるのは全て落胆の感情だった。

最初に小栗潤の誕生した世界をAとして、悲惨な戦争を繰り広げた異世界をBとすれば、自分の家族が存在しなかったAと似たC世界が無いといえるのか。

元々異世界で骨を埋める気で剣を取ったのは、何を隠そう潤自身の意志である。

現在旅客機で北海道に向かっている最中ではあるものの、潤は『この世界』の情勢理解に努めていた。

医者の説明では脳医学の権威が札幌にいるらしく、記憶喪失の様な扱いになった潤はその医師の診察を勧められたからだ。

どうも周囲の大人達は、A世界とC世界の差分の混乱を記憶喪失として処理したらしい。

警察の付き添いがあるのは、国籍も、データも、存在すら立証できない人間を監視するためだろう。

 

潤が寝込んでいる四日の間に、様々な日本の組織が情報を調べたらしいが、どんな些細な情報も上がってこない。

ある日突如として田んぼの畦道に倒れ込んでいた学生服の男。

戸籍情報なし。

捜索依頼なし。

学生手帳は存在しない学校の物。

歯の治療を受けた形跡もなく、手術を受けた形跡もない。

異世界から時空を超えて出現したという事実など立証できず、人数もたいして割けないので、もしかしたら永遠の謎になるかもしれない。

 

刑事のおっさんのノートPCを立ち上げ、インターネットを立ち上げる。

隣に座る刑事の怪訝な視線などお構いなく、幾つも頂戴した過去の新聞の事象をつぶさに見て回る。

何も持ってこなかった潤の鞄には、昨今の主要なニュースの古雑誌、古新聞で溢れかえっていた。

生きている限りどのような状況下におかれようと、最善の選択肢を考え実行し、困難の打破を考えるべきである。

戦争慣れしてしまったせいで、思考も随分逞しくなっているらしい。

 

 

 

 

 

隣の刑事は報告された情報と現状の彼を比べて少し感心し、そして記憶喪失とされている彼を怪しんでいた。

彼の精神力の高さと、妙な情報処理能力の高さに。

彼は既に現実を認識しさらにそれに対応しようとしている。

 

篠ノ之博士の発明。

IS。

世界で唯一男として動かした織斑一夏。

それ以外にも、彼の記憶になかった大規模なニュースを徐々に網羅しつつある。

 

ISに至っては特に関心を引いたのか、細部の書物を読ませろと催促され、本屋に立ち寄ったら十冊近くレジに運び込んでいた。

経費で買ったものなので懐は痛まないが、専門職を目指す人間が読む代物を読み進む姿は記憶喪失患者とは思えない。

旅客機内でも本の内容で幾つか質問されたが、ただの刑事には返答に困るような質問ばかりされている。

結局、どうにもできずノートPCを貸し与えると、すぐさま目当ての情報を見つけて読みだした。

 

 

――本当に記憶喪失なのかよ、この坊主は。

 

 

そう考えるのも無理はない話である。

大の男でも持ち運びに窮する大荷物を、こともあろうに片手で軽々持ち上げた光景すら見ているのだ。

情報処理能力といい、身体能力といい、精神力の強さといい、記憶を失う前は何をしていたか。

記憶喪失でないとすれば、どうして路上で学生服を着たまま倒れ込んでいたのか。

刑事の何かを探る視線などお構いなしに、問題の少年はインターネットの情報に満足したのか初心者用参考書を開く。

開いたページから理解しがたい文字の羅列に、頭の固い刑事は目を背けた。

 

 

 

 

 

能力は不完全、しかし、気休め程度に使えなくもない、か。

幾度となく試したが、異世界で使えた能力が使えないことに若干苛立つ潤。

前の世界で使えた能力が、今の世界で使えない可能性は考慮していたが、現実に直面すると不憫で仕方がない。

異世界の、……陳腐な言葉でいうならば魔法は使えなくなっていた。

いや、十全に使えないというだけで、片手の数くらいはグレートダウンして使える。

 

肉体強化。

少なくとも刑事の男性が運搬に苦労するような荷物は片手で操れる。

 

自己感情操作。

上手くできない。 物凄く痛いが、結構痛いに変わるくらい。

 

ダウンロード。

全盛期の四割程度。

 

マルチタスク。

同時に処理できる考え事は五つ位で限界で、安定を求めるなら3つ。

補助があればだいぶ変わるような気がする。

 

戦い方をダウンロードで習得して、マルチタスクで処理し、副作用の痛みを感情操作で打消し、肉体強化で使いこなす。

十年近くも使い続けた戦闘スタイルである分使用に淀みはない。

これ以外全く使えないのは不便だがこの状況にも慣れなくては、そう思いつつ小栗の目はIS関連に行く。

 

IS、インフィニット・ストラトスか……。

 

何の因果か知らないが、実は潤のいた異世界には旧科学時代の遺産として似たような兵器が実在していた。

使用可能な状態で見つかったのは、僅か二機のみだったが内1機は何を隠そう小栗潤自身が使用していたのである。

最も博物館に保管されているほど旧式であり、メンテナンスも千年以上されてないだけあって、性能はこの世界のISに長があるが。

しかも、兵器用と競技用で求めるものの違いがあれど、細部は非常に似ている。

その他の違いとして、この世界のISと旧科学時代のパワードスーツを比べるとISは随分大型化されている。

 

――まさか、この世界と異世界には接点でもあるというのか? いや、考えすぎか。 しかし……。

 

淀みなくページを進めつつ考えに没頭するが、この時札幌行ANA117便はとある問題を起こしていた。

 

 

「お客様の中にISでの飛行訓練を受けたことのある方はいらっしゃいませんか?」

 

 

CAの声が静かな旅客機に響いた。

若干涙声のその内容は、この一一七便に大きな問題が起こっていることを告げていた。

 

「……おい、おっさん。 寝てる場合じゃないぞ」

「分かってる。 今日は厄日だな、警官なんてなるんじゃなかったよ」

 

今度は「飛行機の操縦経験がある方」を探しているCAの方に刑事が歩んでいく。

監視され、保護される立場にある潤も、それとなくついて行った。

 

「お客様は?」

「警察です。 何が起こったか説明願えますか」

 

男2人連れに若干期待したCAは、パイロット経験者ではないことに露骨に落胆するものの警官手帳を見て襟を正した。

やはり周囲に聞かれるわけにはいかないのか、CAに連れられ操縦席方面に向かわされる。

見慣れぬ操縦席には、顔を真っ赤にしたどう見ても健康でないパイロットが1名座っていた。

他にはCAの責任者、医者と思わしき男性、身なりのしっかりした会社員風の男が居た。

 

「私は警官だが、君は?」

「私はISの打鉄・カスタムを運搬していた。 場所を取る量産機を、専用機のように待機状態にして運用できる新技術の確認作業だった。 乗客にISを乗りこなせる人がいれば、展開、装着の補助、諸々のオペレートをする予定だった」

 

会社員の男はアタッシュケースを開くと、黒い腕時計を見せそう説明した。

CAの説明はこうだ。

最初の異変は機長から起こった。

なんでもフライト後に急に体調を悪くし倒れこんだらしい。

偶然ファーストクラスに居た医師の診断によると、客から風疹をうつされたのだろうとの検診だった。

問題はそのあと。

なんとも間が悪いことにエンジントラブルが発生。

近くに着陸可能な場所もなく、フライトに問題ないことから進路をそのままに進むも、1人になった副機長は心臓に持病を持っており、連続して発生した大問題にプレッシャーを感じ発作を起こしてぶっ倒れた。

結果、病気で歩くことさえ困難な機長が操縦しているらしい。

 

「エンジントラブルの規模は?」

「爆発の恐れはありませんが、二次災害を防止するため電力供給をカットしているので推力不足です。 墜落こそしないものの青森空港に目的地を変更せざるをえません」

「ISパイロットを募集したのは何故?」

「電力供給カットの影響で右着陸用タイヤに影響が出ています。 このままでは最悪胴体着陸です。 着陸の補助をお願いしたく」

「現地からISパイロットを呼べばいいのでは?」

「問題は燃料と時間の問題です。 東北陸北海道共に現地にISを使える人間が出払っており、遠方から呼べば先に燃料がつきます」

 

今日は厄日だ。

先ほどの刑事の言葉だが、小栗潤自身使わずにいられなかった。

胴体着陸はリスクが高すぎる。

それに現在操縦中の機長は、健全に操縦する健康レベルを大幅に下回っている。

このまま胴体着陸などすれば――。

刑事も同じ答えに辿り着いたのか顔を青くしている。

 

「うわっ!」

 

いきなり機体は激しく揺れ、機内は急激に傾いた。

周囲にいた大人たちも床に倒れ伏していく。

唯一立ったままの潤は操縦席に目を向けると、必死になって機体を正常にさせようと奮闘する機長の姿を目撃した。

 

 

パイロットの操縦技術をダウンロードすれば動かせるか?

――NO。ダウンロードは不完全。 精密機器のダウンロードは負荷が多く、動かせたとして次の問題が発生する。

 

レバーを奪って操縦?

――NO。現状でそれをやれば制御不能になりかねない。

 

副長席に座ってアシストする?

――NO。機長は正常に判断する力を失っており、素人が横に座れば何をしでかすか予測できない。

 

 

何かを得るには、何かを捨て無ければならない事態が多々起きる。

こんなことをすれば、後々どんな事態を引き起こすかわからない。

だが、やらねばならない時とは存在する。

小栗潤という人間は命を拾う代わりに、今後の平穏を捨てた。

 

 

 

あたふたするスーツ姿の男から、アタッシュケースを奪取し、待機状態の打鉄を奪い取る。

 

 

異世界で類似のパワードスーツを着用していた。

 

 

いかにISが女性専用としても織斑一夏という前例はある。

 

 

 

ダウンロード開始――ISコアとリンク

 

パイロットの操縦経験習得

武装情報取得

打鉄制作理念取得

パイロットの感情の取得

 

コア情報――これはリスクが高すぎる

読み込み不可能状態のままダウンロード続行

 

 

それらを順次脳に焼き付けていく。

同時に機体の設計概念や、パイロットの訓練情報などのいらない情報も入ってくるが無視する。

今は機体を動かすことだけを――。

 

皮膚装甲展開

スラスター正常起動

ハイパーセンサー最適化

 

コア側からの接触を確認――?

 

歓迎の意思――?

 

「コアに自己意志まであるのか!? いや、後回しだ、装着完了、コンディション良好。 よし打鉄いけるよな!」

 

打鉄が体にフィットする。

狭い操縦室に、突如として武者姿のISが現れた。

 

「君は!? 男じゃ!?」

「そんなこと言ってる場合か! CAと刑事のおっさんは乗客へ状況説明を。 スーツのおっさんはオペレーションを頼む。 俺は外部から機体を安定させる。 扉を開けろ。 小栗だ、【 打鉄 】出るぞ!」

 

その後の展開は、特筆すべき場面は特になかった。

不自然なほど練度の高い打鉄のパイロットは、見事に機体の補助を1人でやってのけ、着陸の援護までやってのけた。

それは世界で2人目の男性IS適合者が現れた証左であり、救急車等と共にやってきたマスコミによって、その事実は一瞬で世界中を駆け巡った。

 

 

貴重な男性適合者の2人目は、一夏と共にIS学園に保護され――

 

 

 

そして、物語はIS学園へと移るのだ。




続け
DVDBOXを購入して勢いで書きました。
小説はこれから読みます。
ふと思ったけど、使用者以外の人が待機状態のISを運搬できるのだろうか?
私にはわかりませんが―――命だけはお助けくだされ

2013/07/14 投稿 微修正
2013/07/31 微修正

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