高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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こんな話書きたくなかった作者です。
こんなの主人公らしくないし、書きたくもない。 しかし今後のことも考えると書かなきゃいけないし、シャルルのことを投げっぱなしにするのも良くない。
次話がこんなんだから、前回で次の更新を戸惑ってました、はい。

潤の行動がちょっとおかしいですが、それは仕様です。
どういうことかといいますと、
4-5 高みを行く者
>魂魄の能力者はみんな普通のままではいられない
魂魄の能力者=キ○ガイ 潤=魂魄の能力者
潤=キ○ガイ 潤の何が異常なのかは推測してあげてね。


5-5 終わりの始まり

十二時三十分までに準決勝を全消化し、十三時四十分から決勝三試合が始まる。

決勝トーナメント、第1試合は、全校生徒はもとより、世界的にも注目されかねない戦いが始まろうとしている。

出場選手、ISにとって異例の男子三人が参加する戦い。

今まで全試合瞬殺という速攻で勝ち続けてきた、織斑一夏、シャルル・デュノアペア。

安定した試合運びで窮地とは無縁の戦いを続けてきた、小栗潤、更識簪ペア。

決勝トーナメントに限り、一つのトーナメントに絞って行われるため、ここ第一アリーナは超満員だった。

 

「へへっ、潤、手加減抜きだぜ!」

「一夏、気を付けてね。 潤はこの学年で一、二を争う強さだから」

「わかったよ、シャルル」

 

潤は、ラウラの件を自分で片を付けたいと思っている。

シャルルのことは一夏に丸投げしたが、ラウラの問題は一夏に任せられない、ちょっとした問題もある。

どうにかして諦めてくれないだろうか。

説得、してみるか?

頭の片隅でそんなことを考えながら、一回戦からなんら変わらないカウントダウンを見る。

三――、二――、一――

 

「「俺が勝つ」」

 

青空の元、奇しくも男子二人が同じ言葉を口にし、決勝トーナメントの火ぶたが切って落とされた。

簪にシャルルを牽制してもらう。

いかに一夏が未熟といえど、白式の攻撃力は絶大であり、零落白夜が当たれば瞬時に決着がつく。

先制は簪とシャルル。

開始直後という距離が開いている現在、銃を展開してすぐさま攻撃出来る素早さで先行を取る。

高速で放たれた弾丸は、潤の頭脇をすり抜けてアリーナのバリアに着弾。

牽制射撃にしろ、武装切替にしろ、シャルルと比べれば簪の方が若干遅い。

しかし、これは前もって何度も計測して求めた平均速度の結果からわかりきっていたこと。

此処までは想定内。

空を斬る音と、一夏の咆哮が響き、雪片弐型が潤に迫る。

 

「零落白夜は簡単に使わないか。 簪、プランAからBに移行」

『……わかった』

 

プライベート・チャネルを介して、プランA、白式のエネルギー切れを狙った持久作戦の変更を告げる。

二人してシャルルに銃撃を加えつつ、コストパフォーマンス最悪の零落白夜に対して逃げに徹するというもの。

プランB、接近戦に少し難のある簪をシャルルに充てて潤が援護、一夏を潤が抑え込む。

 

「一つ聞きたいんだが、何故お前がラウラに固執する?」

『セシリアと鈴を傷つけた! それで俺には充分だ』

 

同じく近接用ブレードを展開し白式の攻撃を直接受け、そこを中心に火花が宙に舞う。

お互い勢いよくぶつかったが、カレワラが汎用性と完成度の高さを目指したのに対し、白式は接近戦に特化した機体。

刃を重ね合わせての力比べは白式に軍配が上がる。

機体の性能差から有利を実感したのか、スラスター推力をあげて尚更押し込んでくる。

ダウンロードしなければ押し切られるかもしれない、潤は実戦で刃をあわせて一夏の成長を肌で感じた。

 

「なら俺がやっても問題ないな」

『俺がラウラに対してやるからこそ守ったって言うんだ』

「そうか、だからお前はラウラを認められないんだな……」

『認められない? 何を言ってるんだ?』

 

若干影を落とした潤などお構いなしに、競り合いで優勢と見た白式が連続攻撃に移る。

それは、一夏も無意識に潤の言葉を聞きたくないだけの様にも感じられたが。

潤はただその光景をしっかり見据えるだけだった。

 

「姉に守られている内に姉に憧れたお前、優秀な上官に惚れ込んだラウラ。 お互いに織斑千冬の力に憧れた」

『守る力と、争う力は違う!』

 

――ダウンロード開始、四十二通りの技術を取得。

突如地力の差などお構いなしにカレワラが白式を弾き返した。

際限などないように、両者は激突を繰り返し火花を散らす。

剣の理を知らぬものが見れば七対三で潤が有利に見える。

だがその真相とも言える内容は、およそ逆に三対七で一夏優勢な内容だった。

入る角度が二、三度、タイミングがコンマ二秒程遅ければ、潤が押し込んでいるような光景は見れなくなる。

元々は訓練用機の接近戦ブレードと雪片弐型が、まるで吸い寄せられるかのように何度も衝突しあった。

白式の世代差と、機体コンセプトの差を利用した連撃を、全てを受け流していく。

 

「そうとも、だからお前が憤るべきは力に意味を見いだせない心の弱さなんだ。 だけどお前はそこに目がいかない、何故だ?」 

『何故って――』

 

ラピット・スイッチ。

シャルルとは違いマルチタスクを用いた異質な速度のそれで、六十二口径連装ショットガン、レイン・オブ・サタディを実体化する。

ISは人間と違って片手で軽々しくブレードを持てる。

一夏の連撃の合間を見計らって、ショットガンを連射。

ゼロ距離ショットガンの威力を恐れたのか、一夏が距離を取っていく。

押されていた圧力から解放された中で、不思議なぐらい頭が冴え渡り、潤の言いたいことが分かってしまった。

幼い頃から織斑千冬に守られてきたことからこそ、『誰かを守ること』に強い憧れを持っていた一夏。

姉の様に誰かを守りたいという意志は姉に与えられたもので、自分の心から生まれた意思ではない。

ラウラと同じく、心の意思が弱い状態のお前では、今回の件は任せられないから諦めろ。 そう潤は言いたがっている。

不思議なくらい冴え渡る考えに導かれて気付いた答え、それに対して一夏が表情を荒げて激高した。

 

『そんなの、気にする問題じゃない!』

「違う!」

 

そんな、あやふやな意思のままで剣を握れば、何時かきっと後悔するぞ。

潤の体験談、口が裂けても言えない内容だが、半分でかかった。

両者開始時点以上に距離をとって意識を試合に戻す。

距離を離した一夏に対してミサイルランチャーを実体化、離れたのが仇になったことを察したのか、ミサイルから逃げるために一夏が更に距離を取って宙に遁走した。

 

「簪!」

 

当初立てたプランB通りに、一夏を抑え込むことに成功した潤は、簪の援護に向かう。

一夏には量子格納数八発中七発というを大盤振る舞いでばら撒き、残段数一のミサイルランチャーはアリーナに捨てる。

簪は明らかに分が悪そうだったが、何とか耐え抜いていた。

 

『……トラッププラン?』

「そのつもりだ。 気付いた方が任意で発動しよう。 外すなよ」

 

フィールドを見渡して、早くも状況を把握した簪が潤の行動を鑑みて尋ねる。

この全く焦らない相方は、こういう時非常に頼りになる。

シャルルはミサイル七つに追われる一夏を見て、新手の潤に気を配るより一夏を優先したらしい。

簪には背を向けて、焔備を構えると、一夏を必要に追い回すミサイルに銃口を向けた。

勿論それを黙って許す訳がなく、シャルルは一夏を救うために焔備2丁からくる弾雨を浴び、シールドエネルギーを5割削られる。

シャルル残三割、一夏残り六割、簪残り六割、潤残り九割。

 

「援護してやれなくて悪かったな」

『別にいい……。 私も…………フランス代表候補生と戦ってみたかったから』

「お前結構いい女だな。 今まで気遣いとは無縁の連中ばかりだったからなぁ……」

『えっ? ……あ、い、いきなり、なにを』

「来るぞ、散開だ」

 

シャルルのシールドエネルギーの減りを知って、遂に零落白夜を出した一夏が真っ直ぐ突っ込んでくる。

トラッププランは、先ほど潤が捨てたミサイルランチャーの射撃にある。

あれは1発しか残弾が無いのでパージしたのではなく、遠距離制御で射撃させるために捨てたのだ。

後は、シャルルをあの場所に誘導してやれば片が付く。

既にアンロックは発行済みで、簪か潤の意思1つでミサイルが発射出来る状態だ。

 

『お前は、俺と違って頭も良いし、言い分も正しいかもしれない。 それでも俺は、大切な奴らを守れる男になりたい!』

 

上段から振り下ろされた零落白夜は、今度は温めておいた近接ブレードに阻まれ、綺麗に受け流される。

現代のパンチングマシーン換算で、魔法を使って平然と十t出しかねない奴と戦うにはどうするか。

潤の剣がその答えとなる。

受けるのではなく、流す。

防ぐのではなく、払う。

白式という接近戦パワータイプを操る一夏は、驚異の技術力でカレワラを操る潤を押し込むことはできなかった。

 

「全てを話してくれたシャルルすら満足に守れそうにない奴が良く言う」

『シャルは関係ないだろ! それに俺はあいつに三年の猶予を作ってやれたんだ! 三年あれば、俺だって何か思いつく!』

 

そのシャルルが、一夏と潤が織りなす乱舞の合間を狙って射撃を加えてくる。

以心伝心、かもしれないが、こちらも最低限のことは事前に決めてある。

何せ彼らの実力は本人たち並みに潤が把握しているのだから。

簪が物理シールドを展開して、シャルルの銃弾を防ぐ。

もうシャルルにはシールドエネルギーの残量が少ない。

 

「お前は本当に三年猶予が出来たと思っているのか! お笑い種だな!」

『何言ってやがる! 規則がそれを保証しているだろうが!』

「だったら! 何故俺たちは入学初日から女子と相部屋になった! 何故俺は今でも本音と同じ部屋で生活している! 何故一組には日本人が多く、これ程まで専用機持ちが集まる!」

 

一夏が引っ越しして一人部屋になった際、結構な数に聞かれた。

どうして小栗くんと相部屋じゃないの、と。

のほほんさんは本題に入る前に躱され、潤は察しろと言って答えてくれなかった。

 

「箒はハニートラップ対策、本音は生徒会からの監視、クラスメイトは身元の調べやすい日本人、有事の際の専用機持ち! 全部外部からの干渉に備えたものだ!」

『IS学園は、最初から外部から干渉を受ける前提で動いている? でも、デュノア社が表だって法を破るなんて――』

「シャルルの存在そのものが表だって規則を破っている」

 

痛いところを突かれてしまった、そう一夏は感じた。

法律を制定したからと言って犯罪が無くなるのか。

減るかもしれないが、犯罪が消滅した国家なんて何処にもありはしないと、そんな簡単な事を忘れていた。

約束事を守らない奴らが居るから、警察はいるし、軍隊はあるし、刑務所は存在する。

ならどうすればいいのか――。

 

「もし父親が病気で危篤だから本国に戻れと言われたら? 帰らないなんて選択肢は周囲が許さない」

『……じゃあ、俺は、どうすれば!』

「守るだけではなく、道を示さねばならない。 今のお前にはそれが出来んのさ」

 

再び剣の押収の合間を縫って、今度は超長距離射撃パッケージ『撃鉄』を実体化させる。

またゼロ距離ショットガンの再来かと思いきや、銃口はあらぬ方向を向いている。

その銃口の先には、ブレードを両手に果敢に接近戦を挑もうとする簪と、逆転を狙って六十九口径パイルバンカーを構えたシャルルが居た。

 

一発目は外したが、パイルバンカーは連射可能な仕様となっている。

シールドエネルギーが少ない状態で接近されれば負ける。

しかし、潤の機体は未だほぼ無傷のままで、ここで逃げても埒が明かない。

形勢逆転を狙ってパイルバンカーを使って、潤のサポートをこなせる簪を落とすしかない。

 

「……焦ったかな」

 

物理シールドを展開する暇も無かった。

簪が思わず目を瞑る。

今まさにパイルバンカーはリロードして、再びラファール・リヴァイヴ最大火力の砲火が――。

 

『嘘…………』

しかし予想していた衝撃は何時までも来ない。

簪が目を開けると、パイルバンカーの薬莢排出部分が誤作動を起こしている。

呆然自失としている、それがシャルルを見た簪の印象だった。

簪の感想通り、恐らく狙って撃った潤以外は、アリーナ中の殆どの生徒も唖然としていた。

ISのセンサーを信用して、接近戦の応酬のただ中で、薬莢排出部分を精密狙撃した。

 

『シャルル下がるんだ!』

 

状況を早めに察した一夏が、シャルルに警告する。

シャルルと簪が同時に気付くが、ブレードを持っていた簪、頼りにしていた武装が使用できなくなったシャルルでは初速が違う。

シールド部分で防御するも、シャルルは更にエネルギーが減った。

 

「簪!」

 

こくん、と首を動かして簪が駆け寄った一夏とシャルルから距離を取る。

その最中、仕込んでおいたミサイルランチャーが火を噴いた。

二人纏めて当たってくれたのは予想外だったが、棚から牡丹餅とはこの事だろう。

地を跳ねる専用機2人に、セカンダリのグレネードをご馳走して、遂に決着はついた。

 

 

『試合終了! 勝者、小栗潤、更識簪ペア』




直前の5-4に大事な小話が追加されてます。 見てくれれば幸いです。
それと明日の12:00に更新します。
2013/10/04 現在

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