高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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\ホンペーン/\ホンペーン/\石村屋!/\ホンペーン/


神の視点で書こうと思ってたんだけど、小説版読んだら主人公視点で物語進行してたんだよ。
だから、この作品も主人公目線で行こうと思うんだ。
不慣れだけど。おかしいところがあったら教えて欲しい。
誰々視点だと「○○side」とかも主流だよね。
合言葉は「こまけぇこたぁいいんだよ!!」AA略。

こんなこと書いた割に続きを書いたら、書けなくなった。
元に戻す、やっぱり慣れてる方がいいよ。
持続できる気がしない。




1-1 IS学園は新人キャンプ?
2-1 どうしてこうなった AA略


旅客機着陸支援から一夜。

夜討ち朝駆け上等とばかりに、押し寄せるマスコミ。

警察の護衛付きで病院についたものの、ぐるっと三六〇度囲むマスコミ陣、次々押し寄せる野次馬。

勘弁して下さい、と病院関係者に頭を下げられ、今度は夜の闇に紛れてヘリで移動開始。

東京のホテルに逃げ込むも、今度は政治家と各国大使館員が訪問し、再び夜の闇に紛れてヘリで移動。

 

――気づけばIS学園に到着していた。

 

身辺護衛の喧騒こそ異世界でも慣れ親しんだ光景だったが、自分が護衛対象となることはなかった潤は疲労困憊状態だった。

このような護衛も、不審人物の監視の必要性もわかってはいる。

第一人者が現れた以上、二人目が現れるのも時間の問題であり、もしも二人目が現れてもここまでの大騒ぎになるとは潤自身予想していなかった。

悪くて情報統制がなされたうえで、専門機関に軟禁される程度と踏んでいた。

 

 

 

 

 

潤も預かり知らぬことであるが、『打鉄を高次元で操る男性』というのは誰も想像できないレベルで社会を混乱に導いた。

前男性IS搭乗者の織斑一夏は、事実を知るものなら手を出しにくい事この上ない人物だった。

実の姉は第一回モンドグロッソという世界大会の総合優勝&格闘部門優勝者。

子供のころから親しく、家同士の付き合いのあった家の長女はIS開発者当人。

一度姉の関連で拉致されており、姉のIS関係者も気遣っている節があるなど非常に手を出しにくかったが、今回の男性適合者の小栗潤は違う。

 

国籍?

エルファウスト王国です。

知らない?

そうですよね。

 

もちろんこんな会話をする訳にもいかず、自分を証明できるのは学生手帳のみ。

しかも、その手帳を発行している中学校は存在しない。

記載されている住所は更地。

前日までいた病院では『記憶の喪失、もしくはここ十年ほどの社会常識を喪失している状態』と診察をされている。

つまり、彼に接触し、何をしようとも助け出す人間は皆無なのだ。

遺伝子研究所の人間は意気揚々と潤の前に姿を現し、

 

「血液とか、精液とか、可能な限り提供して下さい!」

 

と高らかに宣言し、断られた後は実力行使に打って出た。

こうして、警察が出張り事態が拡大すると、マスコミも介入しだす。

かつてピアノの鍵盤を叩いた自称記憶喪失の男性というだけで、お茶の間に電波を流した日本のマスコミは、いい視聴率の種を手に入れたとばかりに報道を開始。

青森空港で民間人が撮影していた映像は、インターネットに出回り、この三日で百万回は再生されている。

『彼は私の国の出身者だ! 保護させろ!』とハッタリを繰り出す大使まで現れる始末。

国際IS委員会は織斑一夏同様に身柄引き渡し命令を出したものの、どのように管理するのか具体的なプランはない。

身元のしっかりしている一夏ならともかく、潤の場合は下手な組織に預ければ闇から闇へと消えかねない。

各国は非常に希少価値の高い研究材料を自分の国へと招致しようとし互いに牽制しあう。

最終的に、現在の保護国である日本政府は、問題の先伸ばしを決定し――

 

こうして潤の意志などお構いなしに、IS学園入学が決定した。

 

これらが目を覚ましてから三日間の内に周囲で起きた出来事で、激動という言葉も生ぬるい事態が背後で起こった。

監禁⇒移動⇒監禁⇒移動を繰り返し、ようやく直接的な監視を抜けたのはIS学園の地に降り立ってから。

到着後出迎えに現れた、山田真耶という妙に頼りない教師に引き取られ教室前までついた。

とりあえず、連続移動も遂に終りを迎えた。

 

 

睡眠時間などお構いなしに続く騒動に、事の重大性を理解した後は薬物の恐れを危惧し、飲食の類は全て拒否した。

眠ってない、食べてない、飲んでない、体調は良くない。

以前も研究所に軟禁されたことがあるが、潤とて好んでモルモットになりたくはない。

 

「全員揃っていますねー。本当なら直ぐにでもSHRを行いたいんですが、――なんと! このクラスに入学式後に新たに一人このクラスに加わることになりました! 小栗潤くん、入ってきてください!」

 

異世界での年齢を考えれば、明らかな年下に君付けされるのも慣れなければならない。

変なことをしなければ、少なくとも三年間は安全に保護されて生きられるだろう。

ここにいれば生活する分には不都合は無い。

安易に街へ出向く事など出来ようはずも無い潤にとっては、これはむしろ「良し」といえる状況だった。

監視の類は受けるだろうが直接命の危険には晒されない。

 

 

――よし、行こう。

 

 

潤はそう考え自らの意識を喚起する。

卒業後はどうなるかわからないが、これからの展開次第でその運命を左右するかもしれない。

ドア開け、教壇に立つ。

周囲の視線は無視する。

今まで潤も尊敬、軽蔑、切望、憎しみ、同情、恐怖、怒り、様々な視線を浴びたが、この変な視線は初めてだった。

 

「ニュースで既に顔と名前はご存知かと思いますが、皆さんと同じく今日からこのクラスに入る小栗潤です。 よろしくお願いします」

 

軽く会釈をして前を見ると、またもや有り得ない物を見るような目で見られていた。

――なんだ、この変な間は。

戦勝パレードや、パーティーでの演説の具にされたとき以上の視線だった。

 

「ヤッッタアアァァァ!!」

 

沈黙を最初に覆したのは、同じ男性の織斑一夏だった。

実は、彼は結構まいっていた。

自分だけが男子という環境、入学式直前に現れた二人目は、期待していたのにも関わらず入学式にはいなかった。

数日前まで病院で眠っていたという報道を考えれば不思議じゃなかったが、一夏は潤の来訪を心待ちにしていた。

苦労は分かち合わなきゃな、という被害者意識で。

 

「俺、織斑一夏! いやぁ良かった、俺だけだったら耐えられなかったよ! よろしくな! 男は二人だけなんだ、仲良くしようぜ!」

「あ、ああ。 元気いいな、よろしく頼む。 ところで、山田先生が困っているぞ、座れよ」

 

注意されて、いまさら気づいたのか慌てて織斑が座りなおす。

 

(男二人の友情! これは――イイ!)

(今から始まる男のロマンス、悪くないわね……)

 

ドン引きした女子も女子で、立ち直りが早いというか別の意味で逞しかった。

 

 

空いている席は、廊下側最後尾。

最もクラスメイトの視線が集まりにくい場所だけあって、ちょっとだけ機嫌がよくなる。

いかに元軍人であろうとも、得手不得手は存在する。

裏方に徹してきた経歴から、大多数の脚光を浴びるのは未だに慣れていない潤だった。

 

さて、自己紹介。

 

自分が中学入学した当初はどうだったか。

思い返してもなかなか記憶が定まってこない。

田舎町の、六百人程度が全校生徒の中学校、最初はどんな自己紹介をしたか。

この世界で既に強烈な足跡を残してしまったが、ふとした所で平成の日本を思い返す。

思い返せば中学卒業せずに十年以上たっていた。

 

――いつか、本当に帰れる日は来るのだろうか。

 

「織斑君。織斑一夏君!」

「はっ、はい!?」

「あ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?」

 

周囲の笑い声に視線を上げれば、真耶が身を乗り出して一夏に話しかけていた。

 

「あ、あの、大声出しちゃってごめんなさい。 でも、『あ』から始まって今『お』なんだよね。 自己紹介してくれるかな? ダメかなぁ?」

「いや、あの、そんなに謝らなくても……、えーと。 織斑一夏です。 宜しくお願いします」

 

なんか周囲の女子の雰囲気がおかしい。

状況確認をするため、クラスを見渡した潤の最初の感想がそれだった。

副担の真耶は、副担任に相応しい未熟さを示したので気にもしなかったが、クラスがおかしい。

女子ってこんなガツガツ行く性格だったか?

無論最近の女尊男卑の風潮など知らない潤は、クラスメイトと一夏の姿を興味深げに観察していた。

長い沈黙の後、一夏は息を深く吸い、吐き出す。何か話すのでは、と全員思わず身構えるが……

 

「以上です!」

 

何人か身構えていた女子がすっころんだ幻覚を見た。

あれ、自己紹介って、所属と、階級と、名前を言うものじゃなかったっけ?

異世界の風習と習慣に馴染みきっていたため、同じ男子は驚かなかったが。

 

「あ、あれ? ダメでした?」

「ん、まちがったかな?」

 

そんな一夏の後ろから近づく人影が1つ。

 

グシャァ!

 

「いっ!? げっ! 千冬姉ぇ!?」

「学校では、織斑先生だ」

 

どうやら担任らしい女性が出てきて場を収めた。

うずくまる一夏をよそに話を進める副担任と担任。

そして生徒に向き合うと千冬は話し始める。

何にもなかったかのように言い放っているが、一夏は中々起き上がらない。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。 君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ」

「キャァ!! 千冬様! 本物の千冬様よ!」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

「……なんだこいつら」

 

潤の唖然とした言葉ははっきり声に出てしまったが、それを気にする人間など誰もいなかった。

理由は『クラスの大半が叫び声を上げていたから』という状況だったから。

このクラスの人間は腐ってもエリート候補生たち、だったはず――。

 

「……毎年よくこれだけ馬鹿者が集まるものだ。 私のクラスにだけ集中させているのか?」

「お姉様! もっと叱って! 罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾をして~!」

 

なんだこれ、上品性の欠片もないじゃないか、リリムかお前ら――。

そこで、ふと相方だった女性の顔を思い浮かべる。

小柄で、茶色い髪色で、ツインテールで、顔をチデソメタ……。

 

「――」

 

何か、得体の知れない恐怖感が頭を横切った。

狭い廊下、蠢く何か、頭に響く声。

血まみれの顔。

そこまで幻視して、急に沸いて出てきた頭痛に邪魔をされた。

勝手に出てきたとも思える嫌悪感に、言い知れない不安を感じ――

 

バンッ!

 

一夏の頭が机に叩きつけられた音で目が覚めた。

 

「静かに! 諸君らにはこれからISの基礎知識を半年で覚えてもらう。 その後基本動作は半月で体に染み込ませろ。 いいか、いいなら返事をしろ。 良くなくても返事をしろ」

「「「「はい!」」」」

 

その言葉に、何故か懐かしい雰囲気を感じ取った小栗はようやく復活した。

そして、この悲しい現実に、こう思わざるをえなかった。

 

一体どうしてこうなった。

 

ここは何処の新人キャンプだ。

何も変わってないじゃないか。

あの世界と。

周囲は変態だらけだし、嫌な事ばっかりおこる。

上に立つ人間は相変わらず畜生肌だし。

ああ、永久凍土の祖国が懐かしい……。

自分以外1名除いて全員女子である。

近くの女子と目が合った。

 

「どうしたの~?」

「い、いや、何でもないんだ」

 

そういえば、もう七十時間ほど寝てなかったとどうでもいい事を考え前に目をそらす。

掌で目を覆った。

 

 

どうしてこうなった! どうしてこうなった!

 

 

変な電波を受信している気もしなくはないが、一つ確かなことがある。

全校生徒、女子大多数、男子二名。

この奇妙な現象の原因はなんなのか。

ここはいったいどこなのか。

説明は難しい。

ただいえることは…。

そう、そもそもの始まりは、いきなりファンタジー世界に飛ばされ、ようやく日本に帰還した昼下がりまで遡るということだ。

 

 

 

 

 

最早どうしようもない事態を飲み込めず現実逃避していたが、何とか一限目はクリアした。

すると、休み時間になった途端、すぐ右側の廊下に女子生徒がやってくる。

すぐ目の前にいた潤の姿を見るや否や、ビクっと体を震わせると廊下の端っこに離れていった。

何か一組に用かと思って無視したが、そのまま廊下の端で動かずに教室を覗いている。

目を向けると視線が合い、再び体を震わせると顔を背ける。

これは、男子生徒が珍しくて見に来ただけか、と気付いて放っておいたが――――、数分後盛大に後悔した。

 

しまった、やってしまった。

 

そう潤は気付くべきだった。

気付いたとしてもどうしようもなかったが、割と真剣にさっさと一夏と顔合わせでもやっとけば良かったと後悔した。

戦場で有名を馳せた人間でも、廊下側の異様な雰囲気は如何ともし難いらしい。

ちらっと、すぐ右側の廊下を向ける。

あれから同じ様に男子生徒見たさにやってきた女子たちは、その数廊下を埋め尽くさんとする程で、一夏が教室中央だという事もあり廊下に近い潤が視線を独占していた。

潤が視線を向けた事を察した数人がすぐさま目をそらしたが、雰囲気だけは『早く話しかけて!』と継続して訴えかけている。

 

 

……織斑、お前なんとか――ってあの野郎、目をそらしやがった。

ええいっ、ままよ!

 

 

「…………何か、用でもあるのか? 質問でもあるなら答えるけど?」

 

意を決した声は、戦場で響く彼の勇猛な評価も打ち消すかのようにか細いものだった。

 

「ハイハイハイ!」

「やった! 遂に来た、話しかけられちゃった!」

「きれいな声、澄んで聞こえる~」

 

 

 

――ジョンが嫌がっていた気持ちも解るな…。

 

潤は質問の波にいい加減付き合いきれなくなっていた。

好奇心だけで話しかけてくるだけの奴ならまだいいが、中にはスパイの類の奴もいる。

所属国家不明の男性IS適合者、政財界の有力者も確保に躍起になるのは潤とてわかっている。

逆の立場ならとっくに拘束して研究所に軟禁している。

その重要性も、希少性も理解できないほど子供ではなかったが、全く人が減らないとなれば切りどころに困ってくる。

 

「好きな女の子はいますか? 彼女はいるんですか!?」

「二つともない」

 

「ズバリ女性のタイプは!」

「凛々しい人? 物静かな女性? いや、すまない、考えたことがない」

 

「趣味は?」

「読書と、ペットの世話、あとは釣りかな。 今はペットがいないけど」

 

「記憶喪失って報道されていたけど、真実は!?」

「いや、記憶の混乱、ね。 記憶にある企業、両親、実家が存在しないだけさ」

 

「なんであんな器用に打鉄を動かせたの?」

「コアの情報が開示されない以上憶測でしかないが、コアにも人間との相性があるんじゃないか? でないと、初めてであれだけ動かせなかったさ」

 

「さっきの答えじゃ説明しきれないほど上手く動かせていたけど、理解できている? イグニッション・ブーストとか」

「元々の打鉄保有企業のフィンランド技術者達のメンテナンスと、日頃の肉体トレーニングの成果だと思う。 火事場の馬鹿力は馬鹿にできない、そう思い知ったよ」

 

「本当に記憶喪失?」

「先ほども言ったが、俺には中学校に通った記憶も、部活で汗を流した記憶もある。 記憶喪失の判断は医師によるものだ。 自称じゃないさ」

 

「おぐりん、何部だったの?」

「お、おぐりん? ……ラグビー部だったよ。 毎日楽しかった」

「なんか男らしいスポーツだね~」

「実際素晴らしいスポーツだと思う。 日本じゃ有名ではないけどね」

 

 

……………

………

 

 

 

一夏は教室端に溜まっていく女性の波を見て、心の中で合掌していた。

最初は二、三人にだけ話しかけたであろう言葉は、一言で十人以上が参加する質問コーナーに変質していた。

織田信長が怒鳴り声で質問を上げると、配下全員が返答したという逸話を思い出した。

困っているのは声をかけた本人であるが。

すると、次から次へと質問者を捌いている潤を見ていた一夏にも声がかかった。

 

「ちょっといいか?」

「……え? 箒?」

 

 

 

徐々に増えていくクラスメイトを捌きながら廊下を歩んでいく一夏を見送る。

ぶしつけな質問にも順次答えていく。

それゆえに授業開始のチャイムが鳴った時は内心嬉しく思えた。

どうも現実感が未だにわかない。

最初の世界移動では、真夏の通学路から極寒の雪世界に飛んだせいで否応にも理解できた。

寝泊まりしたところも貴族の屋敷だった。

今度も居場所に困る。

いや、そもそも今の自分に居場所があるのか、と思うと憂鬱になる。

とりあえずチャイムも鳴ったし、最後の質問に答えて教科書を出す。

流石に技術者用の入門書と比べれば、広いが浅い。

 

「はい、授業始めますよー。まだクラス代表決めてないですから、相川さん挨拶お願いします」

 

真耶が入ってきて授業が始まった

飛行機の中で専門書の類を読んでいたので授業の内容は何とかなっている。

ダウンロードでどうにでもなると思うだろうが、この能力にはデメリットが多い。

現代の人にもわかりやすく言えば、『自分フォルダ』の中に『記憶.log』が存在し、それが記憶である。

ダウンロードとは、その『記憶.log』を対象の物体から得る力。

体験ですら『記憶.log』には含まれ、このことから汎用性が高い。

しかし、一度ダウンロードした『記憶.log』は削除できない。

ダウンロードを続ければ『記憶.log』はたまり続け、何時かフォルダの持ち主でさえ本当の『記憶.log』がわからなくなってしまうだろう。

 

戦争でも起こらない限り、そこまで『記憶.log』は必要でない。

緊急でなければ変な危険など済む方がいいとはわかっている。

 

 

――しかし、

 

 

「……ということですので、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ……」

 

流石にこれを覚えきるのは酷である。

読めるようになるのと、覚えるのは全く別の才能。

機内で読んでいたとは言え積み重ねた知識の厚さが他の生徒と歴然な差がある。

前世界は、魔法が武器として浸透しており、乱戦ともあれば剣で切り込む方が早いことも多かった。

兵器を運用するにあたり、覚えねばならない情報量に差がありすぎる。

 

「織斑君、小栗君、何か分からないところはありますか?」

 

悪戦苦闘している男子2人を見かねてか、真耶が尋ねた。

真耶の瞳には、顔を青くして教科書を見る一夏と、説明するたびに用語の説明箇所を調べるために参考書を開く潤が写っている。

最初にダウンロードしたとは言え機体の情報に法規と、名称の正式な呼び名はなかった。

 

「詳細に説明しろと言われれば困りますが、授業を受ける分には問題ありません」

「確かに入学決定も昨日でしたね。 授業後でも、放課後でも、何時でも分からないところがあれば聞いてくださいね。 何せ私は先生ですから!」

「りょ……、分かりました」

 

そう言いながら某電話帳と間違いかねない参考書を捲る。

大事そうな名称や言葉はノートに書き写す。

正直覚える量が多すぎる。

暗記に関してはダウンロードばかりに頼っていたので、今の潤には手に余る問題だった。

 

「先生!」

「はい、織斑君!」

 

今度は一夏から声がかかり、質問に張り切って答えようとする真耶。

しかし一夏の口から出た言葉は、大方の予想の遥か上をいくものであった。

 

「ほとんど全部、分かりません!」

「え……? ぜ、全部ですか? い、今の段階で分からないっていう人どれくらいいますか?」

『……』

「おい、小栗、嘘つけ!」

「今話しかけるな、俺はもういっぱい、いっぱいなんだ」

「やっぱりお前もわかって――

 

バッシャァ!

 

相変わらず凄い音である。

あの程度でどうこうなるほど人間の頭部は柔らかくないが。

 

「私語はするな、織斑。 入学前の参考書は読んだか?」

「えーと、あの分厚いやつですか?」

「そうだ。 必読と書いてあっただろ」

「間違えて捨てました」

 

ズパァァァァン!

 

再び妙に硬い出席簿が一夏の頭を叩く。

今のは仕方がない、潤も納得の一撃を頂戴した一夏であった。

ちなみにこのやり取りで、クラスの中で一夏の評価が大分決定したようで、憮然とした態度の女子も何人かいた。

特に顕著だった1人に金髪で巻き髪のイギリス代表候補生、セシリア・オルコットがいた。

 

「後で再発行してやるから一週間で覚えろ。いいな」

「いや、一週間であの厚さはちょっと「やれと言っている」……はい、やります」 小栗、何を自分は関係ないとばかりの顔をしている。 お前も、いやお前は三日だ」

「……わかりました」

 

 

 

 

 

さて、再び廊下に人が集まる前に、動かねば。

授業が終了した後、先ほどの人波を危惧してか、早速潤が立ち上がる。

『えっ、質問コーナーは?』とでも言いたそうな周りに座る女子の視線に耐えながら、一夏に近づく。

 

「よお、織斑。 頭は大丈夫か?」

「……あ、ああ、まだちょっと痛いけど。 それと一夏でいいよ。 俺も潤でいいか?」

「好きに呼べばいいさ。 同じ境遇なんだし、出来れば俺も仲良くしたいと思う」

「俺もだ。 よろしくな!」

 

一夏は元気を取り戻したかしっかりした声を出す。

2人はどちらともなく握手を交わす。

 

「左利きなのか?」

「……? ああ、そうか。 いや、ただの癖だ。 以前右手を怪我していた時期があったな。 気にしないでくれ」

 

差し出された左手を素直に握った一夏だったが、離した手を見て訝しんだ。

握手は原則「右手で」という意見がある。

しかし、潤のいた世界では、実は左手で握手するのが一般的である。

握手の習慣があった当初こそ、利き手を制することで、武器を隠し持っていないことを示す意味があったが、相次ぐ戦争で命とも言える利き手を差し出す人が減った結果。

特別な場でない限り、左手で握手する習慣に変わってしまったのだ。

 

こうした、ちょっとした文化的違いでも、もうあの場所とは何もかも違うことを実感する。

 

 

 

周囲から、

『どっちが受け? どっちが攻め?』

『一夏×潤、潤×一夏……、どっちもイイ! すっごくイイ!』

などと聞こえたが、聞いてない。

聞いてないぞ、そこの女子。




2-1と2-2を統合。
分ける必要ない感じだったし。

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