高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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ヒュぺリオン開発裏話


6-4 天才の思い

潤がヒュペリオンで合宿先まで高速移動し始める少し前、合宿先に移動していた一年は全員ビーチに並んでいた。

午前中から夜までISの各種装備試験運用とデータ取りを行う予定になっている。

特に専用機持ちは、本国から大量の試験運用の装備が送られてくるので尚更大変だった。

 

「ようやく集合できたか。 ――おい遅刻者」

「は、はいっ」

 

千冬に呼ばれて身を竦ませたのは、意外や意外、最も時間に厳しそうなラウラだった。

海に浮かれるような性格でもなく、水着も絶滅危惧種の様なスクール水着と、身嗜みにも無頓着なラウラにしては大変珍しい。

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

「は、はい。 元々広大な宇宙空間における作業を想定していたISは、相互位置情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っており、現在では操縦者会話等に用いられています。 それ以外にも自己進化の糧としてシェアリングと呼ばれる共有をコア同士で行っていることが判明しました。 これらは篠ノ之束博士が自己発達の一環として無制限展開を許可したため、現在も進化の途中であり、全容はつかめていません」

「よし、流石に優秀だな。 遅刻の件はこれで不問にしてやろう」

 

そう言われて、ふうっと息を吐いて安堵するラウラ。

時間に厳しい軍隊で、自分の上官だった千冬が、遅刻者に対してどれだけ厳しく対処したか知っているのは当然かもしれない。

その後、専用機持ちは、専用パーツの装備を行う。

専用機を持たない生徒は、各班に別れて振り分けられたISへ装備試験を行う手筈になっていたが、打鉄用の装備を運んでいた箒は、千冬に呼ばれた。

 

「ああ、篠ノ之。 お前はちょっとこっちに来い」

「はい」

「お前には今日から専用――」

「ちーちゃ~~~~~~ん!」

 

要件を言い終わる前に、謎の声と地鳴りが、四方を切り立った崖で覆われていたビーチに木霊した。

乱反射する音から何とか発生源を突き止めた一年一同の目には、その崖から猛烈な速度で、砂埃すらあげて駆け下りてくる人影を捉えた。

ヒラヒラドレスにウサギ耳、滅茶苦茶インパクトのあるその人は崖の中腹から飛び上がると、一直線に千冬の近くに降り立った。

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ――ぐぬぬっ」

「うるさいぞ、束」

「ぐぬぬぬ、相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

その束と呼ばれる人物を、咄嗟に空中でつかんだ千冬。

狙ったのか偶然なのか、恐らく狙ってやったことだろうが、指が食い込むほどに顔面を締め付けている。

それすら難なく振りほどいた変人に、ラウラの背筋に冷たい物が走った。

一度罰で千冬のアイアンクローを受けたことのあるラウラは、その痛みを良く知っており、その光景を見て思い出し痛みが出てきた。

 

「じゃじゃーん! やあ!」

「……どうも」

 

その束と呼ばれる妙な人は、次の標的を箒に定めたらしい。

砂浜だという事を微塵も感じさせない速度は、全く予想外のもので誰一人事態に付いていけなくなった。

 

「えへへ、久しぶりだね。 こうして合うのは何年ぶりかなぁ? おっきくなったね、箒ちゃん。 特におっぱいが」

「殴りますよ」

「な、殴ってから言ったぁ……。 箒ちゃんひどーい! ねぇいっくん酷いよねぇ?」

 

何処から取り出したか定かでないが木刀を構える箒。

頭を押さえながら涙目になって訴える妙な女性。

そんな二人のやり取りを、『いっくん』と呼びかけられた一夏を含めて、一同はぽかんとして眺めた。

 

「おい、束。 自己紹介位しろ」

「えー、めんどくさいなぁ。 私が天才の束さんだよ、はろー。 終わりっ!」

 

そう言ってくるりと回って、ウサギ耳を真似るかのように手を頭に乗せて動かす。

ぽかんとしていた一同も、ようやく目の前の女性がISの開発者にして天才科学者・篠ノ之束だと気付いたらしく他クラスまで含めてにわかに騒がしくなる。

基礎理論、実証機、そして未だブラックボックスのコア、それら全てを一人で開発した科学者、その開発されたものを学ぶ一人として無関心ではいられないのだろう。

 

「うっふっふ。 さあ、大空をご覧あれ!」

 

殆どの生徒が束博士の言われた通りに、その指先の空を見上げる。

そして、その物体を認める間もなく、金属の塊であるそれは砂浜に落下した。

菱形をした銀色のそれは、次の瞬間その中身の全容を、その場にいる全員に知らしめた。

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製の『第四世代型IS』だよ」

「だ、第四世代?」

「各国ともやっと第三世代型の一号試験機が出来た段階ですのに……」

「なのにもう……」

 

各国代表候補生が思わず口に出してしまったが、それと同様に衝撃を受けていた真耶や一般生徒もぽかんとして静まり返っている。

第四世代、ありとあらゆる状況に対応可能なリアルタイム・マルチロール・アクトレスを目標とした世代。

その異常性を思い知った生徒は、さもお通夜の様に押し黙った。

各国が多額の資金、膨大な時間、優秀な人材の全てをつぎ込んで競っている第三世代型の完成、それが茶番になってしまったのだから。

 

「なんでそんなに驚いているのかなあ? もう二機も実験機があるのに」

「に、二機も第四世代型実験機があるんですか!?」

 

驚きの声を上げた真耶に大層機嫌を良くした束博士は意気揚々とそれを喋りだした。

その二機の正体は、共にIS学園の男子生徒が専用機として使っているIS。

 

「具体的には白式の『雪片弐型』と、ヒュペリオンの『可変装甲』が該当するね。 両方ともこの束さんの設計だよ」

「えっ!?」

 

驚愕の瞳が白式を使用している一夏に集まる。

零落白夜発動時に開く『雪片弐型』の機構がまさしくそれとは、当の一夏も大層驚いた。

しかも、言葉通り受け取るなら、白式とヒュペリオンは第四世代という事になる。

 

「白式が攻撃用、ヒュペリオンは機動用、といってもヒュペリオンは草案だけ提供したから、純然たる束さんの作品じゃないけどね。 それを踏まえて紅椿は全身に可変装甲を発展させた展開装甲にしてありまーす。 さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズ始めようか」

 

深紅の装甲を身にまとった紅椿は、目の前の箒を主人と判断してか、その装甲を開いて受け入れる体勢になる。

自動的に膝を落とすその姿は、武者の様なイメージを周囲に植え付けた。

装着が完了すると、コンソールを開いて指を滑らせて束博士が設定を完了させていく。

更に六枚もの空中投影ディスプレイを呼び出すと、膨大なデータに目配りして、同じく六枚展開したキーボードを叩いている。

それはもう、キーボードを操作しているというよりは、ピアノを弾いているかのように滑らかでいて、数秒単位で切り替わっていく画面に素早く対応している。

そのデータ変更に伴って、紅椿が箒の体に合わせて微量に変化していく。

 

「あの専用機って篠ノ之さんが貰えるの……? 身内ってだけで」

「だよねぇ。 なんかずるいよねぇ」

 

ふと、群衆の中からそんな声が聞こえた。

それに素早く反応したのは、意外な事に束博士だった。

 

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」

 

ピンポイントで指摘された女子は気まずそうに作業に戻った。

その言葉は辛辣であったものの、間違いのない真実でかなり厳しい意味を示していた。

 

「後は自動処理に任せておけばパーソナライズは終わるね。 あっ、いっくん白式見せて。 束さんは興味津々なのだよ」

「え、あ。 はい」

 

周囲に困惑と悲哀をぶちまけながらも束博士の手は止まらず、遂に調整が終えた束博士は一夏の白式に興味対象を向けた。

全てのディスプレイとキーボードを片付け、白式を展開した一夏に近寄る。

データを見せてね~、と力ない声色で白式の装甲にコードを差し込み、紅椿と同じように投射型ディスプレイを開いた。

お目当てのデータ、各ISがパーソナライズによって独自に発展していくその道筋、人間で言えばいわば遺伝子とも言えるフラグメントマップを探し当てる。

 

「ん~、不思議な構築の仕方だね。 いっくんが男の子だからかな?」

「束さん、そのことなんだけど、どうして男の俺がISを使えるんですか?」

「ん? ん~……どうしてだろうね。 じゅんじゅんと違っていっくんの理由はさっぱりだよ。 ナノ単位まで分解すればわかる気もするんだけど、していい?」

 

分解の対象自分自身も含まれていると察した一夏だったが、それより、もっと気になる固有名詞がその前に出てきた。

その意味を知ることのできた、一組の面々の視線が束博士に集まる。

『じゅんじゅんと違っていっくんは知らない』、それは一夏とは違って潤なら理由を知っているという意味になる。

 

「た、束さん!? 潤が動かせる理由は分かったんですか!?」

「うん! 流石天才の束さんだよね、褒めて、褒めて! だけど、流石のいっくんにでも教えてあげないよ? メカニズムを完全に説明するにはコアの情報を詳細に知る必要があるからね」

「コア情報? 小栗はなんだってそんな……」

「じゅんじゅんの動かせる理由を解明するくらいなら、コアを量産出来るほど調べる方が早いって感じで意味不明な理由で動かしているからね。 束さんも同じ理由で動かせる事なんて出来ないよ、当然だけどね!」

 

千冬の問いかけにもそれ以上の開示を束博士は渋った。

実際のところ潤がISを動かせる理由を知ったのは、潤の異能である『ダウンロード』が強くコアに干渉した事を発端にしており、潤の魔法の力を説明出来ないという理由もある。

そして、束は個人的に潤に期待している事もある。

後三分くらいかな、と言って空を見上げる博士は、今最高に機嫌が良かった。

 

「あ、あのっ! 篠ノ之博士のご高名はかねがね承っておりますっ。 もしよろしければわたくしのISを見ていただけないでしょうか!?」

 

ちょっと気をよくして考え事をする博士に対して、一人の女生徒が声をかけた。

偉大な科学者を前に興奮しているのか、その目を輝かせ純粋に好意からお願いしたことは確かだ。

 

「はあ? 誰だよ君は。 金髪は私の知り合いにはいないんだよ。 そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再開なんだよ。 どういう了見で君はしゃしゃり出てくるのか理解不能だよ。 って言うか誰だよ君は」

「え、あの……」

「うるさいなあ。 それに今から束さんはヒュペリオンのデータを取って対策を練らなきゃいけないんだから邪魔だよ。 あっちいきなよ」

「う……」

 

先程までの親しげな雰囲気から一転、別人の様に冷たい言葉と視線を向けて拒絶した。

ここまで明確な拒絶を示されると、流石のセシリアもしおらしくなって引き下がった。

一夏の記憶が確かなら、束博士は昔からこういう人だった。

博士に曰く、『人間の区別がつかないね。 わかるのは三人と、あとなんとか両親かねえ。 うふふ、興味ないからね、他の人間なんて』とのことらしい。

千冬、一夏、箒以外には大体セシリアと似たような対応になる。

しかし、これでもマシになった方で、以前は完全に他人を無視しており、千冬の矯正で改善した方なのである。

 

「ヒュペリオンのデータ? 小栗は現在救療中だ、来てないぞ」

「そう思うだろうね、ちーちゃんなら。 だけどね彼は絶対ここに来るよ、私がそうしたからね」

「私がそうした、だと? まさか、呼んだのか、あの状態の奴を……。 いや、だと言っても奴は来られる状態ではない」

「じゅんじゅんはね、過去を引きずって生きてるから、そこを刺激して上げればどんな状態だって動くよ。 現にあの怪我を負ってなお水色髪と銀髪を助けようとしたしね」

「……お前は、小栗の何を知ってるんだ?」

「――真実かな」

 

今までにない不敵でいて、涙目になったセシリアが怖いと思うような壮絶な笑を浮かべて空を見る。

十――九――八――、と博士が正確に一秒を刻んでカウントダウンを始める。

その数字がゼロに近づくと、ISが高速移動している音がビーチに響いた。

そして、ゼロぴったりにそのIS、ヒュペリオンを纏った潤が現れた。

 

「――鈴……。 無事だったか……」

「やあやあやあ! ようやく、よ~~~~やく、直接話せる機会が出来たね! さっ、初めましてだけど、束さんは全く遠慮しないよ! さっさとデータ見せてね! もう束さんは待ちきれないよ!」

 

怪訝な顔で小煩く喋りかける女性を見る潤。

じゅんじゅんなる特殊な呼び方をされたのは初めてだったが、恐らく自分を呼びかけていることは察している。

それより、潤には確かめたいことがあった。

 

「織斑先生、山田先生、何があったんです? 鈴からはエマージェンシーが出ているし、お二人と委員会からISの使用許可が出されているんですが?」

「何――? 山田くん、凰、端末を調べろ」

「え――、あ、はい」

 

鈴と真耶が声をかけられて、急いで自分のISと端末を洗い出していく。

その二人が見たものは、気付かぬ内に何者かが先ほど潤が述べた通りのデータが送信された形跡だった。

束博士の言う通りならば、彼女が知らぬ間にハッキングしたことになる。

 

「怪我をおして来てこれか。 まあいい、取り敢えず安全そうで安心しました。 ――所で先ほどから纏わり付いてくるこの女性は誰です?」

「私が天才の束さんだよ、よろしくね! そんな事はどうでもいいよ! さ、ISを調べさせてね!」

「束? 束って、あの篠ノ之束博士ですか?」

「もちのろんだぜ! 君のヒュペリオン、その可変装甲の原案と基礎プログラムを作って、その後制御モジュールも作った天才博士だよ!」

「……は? ヒュペリオンが束博士の作品? ――……成程、ヒュペリオンの妙な違和感と、制御系の異常性はそういうことか」

 

着地したヒュペリオンの周囲をひょこひょこ動く女性が自己紹介する。

その名前が意味することを理解して、ようやくヒュペリオンの歪さに決着がついた。

つまり、ヒュペリオンは束博士の原案の元で設計され、そのまま機体を組み立てたものの、変態技術者達をもってしても博士レベルの理解力に到達できずに不安定な機体しか作れなかった。

それでも第四世代の実験機を作りたかった社長は強引に開発を推し進める。

よって不安定な部分を、今のパトリア・グループの技術力で何とか補った結果、特殊間接機構とナノマシンが採用された。

レベルの違いすぎる扱えないオーパーツを組み込むために無茶をしたものだ。

女性の正体を知って臨戦態勢を解き、考え事の為に動作を止めたのを、データ取得の了解と取った束博士はコードをヒュペリオンに差し込み物凄い勢いでデータを吸い出し始めた。

投射型ディスプレイとキーボードを、紅椿と同等数展開していることから、その真剣味は誰の目から見ても明らかだった。

セシリアは再び豹変した束博士と、自分が頼んで断られたことを頼んでもないのにやってもらっている潤を交互に見ている。

普段高貴な振る舞いを意識している彼女が、口を開いてパクパクしているくらいに。

 

「うんうん、思った通りとんでもないフラグメントマップだね。 ……フォーム・シフトはまだか。 まあ理由を考えれば当然かな!」

「なんなんだ、あんたは……馴れ馴れしい。 ――所で、何故こんなことを?」

「それは今のところじゅんじゅんには知る必要のないことだよ。 君は私が望むがままにヒュペリオンを使い続けるだけでいい、いいね?」

「――そうですか。 まあ、ありがたく使わせてもらいます」

 

束博士を怪しむ間もなく、痛みを堪える意識の裏側では、ヒュペリオンが膨大なデータを処理していた。

潤の体や、設定されていたデータに合わせて行われていたフィッティングが、束博士の手によって終わろうとしている。

ヒュペリオンの表面装甲と、内面装甲が小さな音を鳴らして変形、生成されていく。

ソフトとハードの両方を一斉に書き換えているので、束博士が行っている設定が如何に優れているのかわかる。

元より潤の為に作られた機体であるので、一夏のような劇的な変化は特に起こっていないが、それでも装甲が緩やかに変更された。

これでようやくヒュペリオンは、正しく潤の専用機になった。

 

「あー……ごほんごほん。 姉さん、こっちはまだ終わらないのですか?」

「んー、もう終わるよー。 んじゃ、試運転も兼ねて飛んでみて――」

 

ヒュペリオンからコードを引き抜いて、声をかけられた箒の方に向かう束博士。

用は済んだ、というか緊急事態でも何でもない以上、潤がココにいる理由はない。

会長も探しているだろうし、寮に帰らねばならない。

 

「……成り行きからこんな事してますけど、寮に帰っていいですか?」

「……」

「織斑先生?」

 

物凄い勢いで上昇し、エネルギー刃を使用して雲に穴を開けたり、束博士が用意した十六連装のミサイルを破壊したISをじっと見つめる千冬に声をかける。

しかし、その表情は険しく、まるで戦場に出る直前の雰囲気を持っており、潤の問いを聞いている様子はない。

 

「……あ、ああ、済まない、帰るんだったな。 ――いや、いくら原因が束のハッキングだといっても誤報と知ってISで移動するわけにも行くまい。 別に足を用意させるからそれを使用して……」

「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生っ!」

 

いきなりの真耶の大声に、潤に向かって話していた千冬が言葉の途中でそちらに意識を切り替えた。

何時も慌ただしく頼りない感じの真耶だが、今回は何時もの比ではない。

その真耶から手渡された小型端末を見て、千冬の表情が曇る。

その後、近くに潤がいたせいか、直様手話に変えてやり取りを始めた。

 

「そ、そ、それでは私は他の先生たちにも連絡してきますので!」

「了解した。 ――全員、注目!」

 

真耶が走り去った後に、手を叩いて視線を集めた千冬は険しい表情で事態の急変を告げる。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。 今日のテスト稼働は中止! 各班片付けを実施して旅館に割り当てられた自室に待機! なお、この命令に反した場合は拘束する! いいな!」

「はっ、はい!」

 

全員が慌てて動き始める。

接続していたテスト装備を解除、ISを機動終了させカートに乗せる。

その姿は今までに見たことのない怒号に怯えているかのようでもあった。

 

「布仏!」

「はい」

「小栗を山田先生の部屋に案内しろ。 ついでに、一応お前が付いていてやれ。 小栗、容態が悪化したら自己判断でISを装備しても構わない。 ただし旅館から出るのは禁止とする」

「了解」

 

そう言い放って専用機持ち、一夏、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、そして箒に対して集合をかける。

流石に今の潤には何も話す気はないらしい。

言われたとおり本音と合流する。

 

「一夏」

『潤か? 怪我大丈夫なのか?』

「大丈夫じゃない。 大丈夫でないが、お前に何をさせるのか知らないが、かなり嫌な予感がする。 せいぜい気をつけろ」

『ありがとう、頑張るよ。 じゃあな、話せて良かったよ』

 

珍しく落ち着きのない表情の一夏が画面に映ったが、通信を受け取って幾分表情を和らげた。

束博士はいつの間にか居なくなっていた。




つまりヒュぺリオンの開発は、以下の順序を踏んだんだ。
1.第四世代の草案やるから、潤が使用したコアを継続して使わせろよと脅す
2.社長快諾、開発陣に草案を丸投げして、これを元に作れと言う
3.開発陣、草案が理解出来ない
4.機動とのバランスが取れずに人間は乗れない状態に
5.どうにかこうにかして、草案に手を加えずに乗れるようにせよとの社長命令
6.間接機構とナノマシン考案で何とか乗れますよ、と仮完成
こんな経緯を辿ったから、ヒュぺリオンは超歪な機体だったんだよ!

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