高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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ドリーの専用機変更
これで後々のものが色々と面倒になるが私は気にしない
とりあえず元の話数に戻るまでは毎週更新で頑張ります


2-1 貴族の心得
1-1


男は、年端も行かぬ少女の手を取ったまま、自らの宮殿の最深部に足を踏み入れた。

大理石で出来た扉を開く。

そこは、広大なただの部屋だった。

横は大体三十メートル奥行きは、そうなく、あっても十メートルかそこらだ。

明かりが一切無いので何があるのか良く分からないが、階段から僅かに入り込む光が反射されているため、奥に何か金属か鏡か何かがあるようだ。

男、エルファウスト王国の国王は、その手に幼子、ドリーを引いたままゆっくり歩き出す。

 

「人には、無限の可能性がある。 少なくとも、生まれた直後から片手程度の可能性しか持たぬものは居ない」

「……私も?」

「無論」

「でも……私は、私は――」

「人には可能性が見えぬのだ。 あまりに大きすぎるが為に。 ゆえ、ドリー、貴様にもある。 可能性が」

 

魂魄の能力者とは、須らくこの王の子である。

反抗期の連中や、親離れしたくてたまらない連中も居るが、この王の能力の一部を与えられたひ弱な存在である事実は否定できない。

例えそれが、自分の魂から得られたものでない出来損ないだとしても。

 

「昔、ここに潤を連れてきたことがある」

「……!」

「ここに在るのは、俺の信ずる唯一の神の姿だ。 俗世の連中の言うような人が作った偶像などではない。 確かに存在するもの――」

 

潤の名前が出た瞬間、幼子が年不相応の表情を浮かべる。

憎悪か嫌悪に近い表情だったが、不意に付いた明かりと、廊下の光を反射していたその正体に魅せられて直ぐに年相応の顔に戻った。

アイオライト、サファイア、ブルーダイヤモンド、ベニトアイトといった青い宝石郡。

ルビー、ロードライトガーネットといった赤色の宝石郡。

緑も黄色も、白も黒も、金も銀も、ダイヤモンドから純金までが集まって、一つの壁画を作り上げている。

極限の財を掛けながらも成金趣味のような雰囲気は一切無い。

荘厳であり、壮麗でもあるこの壁画に描かれていたものは、今はエルファウストと呼ばれる大地に蔓延っていた魔族を掃討し、人類の勝利を示すために国旗を掲げた戦士たちの絵であった。

旗を掲げる男たちの身元ははっきりしている。

その男たちの中で、しっかりとした英才教育を施された人は一人しか居ない。

当時は、例え貴族であろうとも満足な教育を受けられなかったが。

みすぼらしく、汚く、ボロボロの彼ら。

しかし、武威によって未開の大地を切り開き、英知を集め民に豊かさを与えた。

どれ程の苦難に塗れただろう。

それ程の挫折を味わっただろう。

強大な力を前に、挫折したことが何度あっただろう。

至難の道。

時に後ろ指を差される暗黒の日々。

しかし、この国王をして畏敬の念を抱く栄光を掴んだ。

追われ、逃げるだけの立場だった貧弱な人類が、大地を取り戻した瞬間、それがこの壁画の正体。

 

「『無限の可能性』、俺の信ずる唯一の神の名だ。 人は、何かを手にすることの出来る権利を持って生まれる。 ただ、万物となる可能性を持つがゆえに、何にもなれず、ただただ朽ち果てる可能性もある」

 

可能性を与えているのに『未来が無い』などと戯言を残す者が居るが、ただの箱入り坊やの戯言だ。

あらゆる可能性を持つ、ということは――必然的に『何にもなれなかった』未来を掴む可能性があるかもしれないということなのだ。

故に人は競い合い、奪い合い、可能性を絞り込んでいく。

殺し合いが、競い合いに変わっただけで、人類は千年前から何も変わっていない。

故に、競い合いを始める時期が遅かったり、争う事を止めたりしてしまえば、自らが望む『何か』になることは決してない。

例えば、十を超えた少年は、子役として舞台に上がれる可能性はゼロになる。

十九を超えた人は、十八歳以下の競技大会に出ることは出来ない。

三十になった者は、将棋などのプロになれない。

例外はあるが、いかに早く戦いを始められるかが全てを決めるのだ。

友と遊んだり、親が進める平均的な学問を修めたりするのもいいが、平均的な暮らしをする代償は、自分の未来に現れる。

それを差し置いて『この国には未来が無い』とは、呆れてものも言えない。

ドリーの手を離し、両手を広げて王は話す。 可能性の真実を。

 

「ドリー。 俺はお前に可能性を与えよう。 自らの望みを叶える機会を与えよう。 お前の望みは何だ?」

「私は……、私は――私を受け入れてくれた、全ての人を守りたい」

 

少女が紡いだささやかな願い。

身寄りの居ない彼女を受け入れてくれた、人たちを全て守りたい。

しかし、その願いのなんと傲慢なことか。

 

「連中の組織名は『亡国機業』。 社会悪の一部だ。 それを守るということ、どういう意味か分かっているな?」

「……はい」

「ならば、貴様にとっては全てが敵だ。 社会も、人も。 時に、正義でさえ。 それでもなお、想い成し遂げたいと言うのであれば、我が手をもう一度取るがいい」

 

手を差し伸べる王。

ドリーは、全く迷うことなく手を取った。

王は満足げに頷くと、もう片方の手で、パチンと音を立て――その音が鳴るや否やたちどころに地面に魔方陣が現れ、半壊状態の機体が競りあがってきた。

 

「『シックザール』。 嘗て潤の操る『ヒュペリオン』と死闘を演じた機体の、残骸。 これを、ISと戦えるように、ISに改修してやる」

「シック、ザール……。 運命?」

「飲まれるか、切り開くか……。 それは、貴様次第だ」

 

ドリーの手がシックザールに触れる。

低い唸り声をあげる、その機体へと。

 

 

 

---

 

 

 

何故か、背中がぞわぞわした。

潤が虚空に意識を向ける。

かつて無いほどの悪寒、旧科学時代の旧ヒュペリオンと戦った、あの怨敵が生き返ったかのような感じだ。

もっと注意深く考えてみたかったが、流石に目の前で剣を構えている一夏を無視するわけにはいかない。

 

「うおおおぉぉぉ!」

 

眩い白が迫り、僅かに迸る赤を纏った白黒が回避していく。

ビームライフルを展開、大幅に距離をとって白式をまとった一夏を狙い撃つ。

一夏は遠方からライフルを連射する潤に対して、エネルギーを無効化するシールドを展開して一直線に突き進んだ。

本来白式にシールド機能は存在せず、射撃武器も使用できないはずだった。

その存在しないはずのシールドでビームを防ぎ、零落白夜を展開した。

一撃必倒の刃を出したことで、その攻撃を警戒した潤が後方に瞬時加速をして再び距離をとる。

 

「くっ、素早いな。 だが、弾幕射撃は途切れた、これなら!」

 

近づいては離れを繰り返し、全く刃を合わせようとしない潤に対し、今度は左手の多機能武装腕・アームド・アームを開いて荷電粒子砲を展開した。

シールド、射撃武装……、この二つは本来一夏の専用機である白式には搭載されていない武装だが、合宿で第二形態に移行した結果、多機能武装として搭載された。

元々射撃武装やシールド等の後付武装を欲しがっていた一夏だったが、白式がそれを嫌がっていたため搭載できずにいた。

後付武装に使用されるバススロットは各機体別に全く違う。

コアの好みのような物も存在し、潤の使用するヒュペリオンの様に『なんでも来いよ! どんどん使えよ!』といった物から、白式の様に『剣一本以外いらない』という物までピンキリである。

しかし、潤とシャルロットと射撃に関する知識習得の為、射撃武器を使用した結果、第二形態では射撃・格闘・防御をこなす《雪羅》が生み出された。

万能武装として優秀な性能だが、余りある欠点が存在するが。

 

「威力ならこっちが上だ! このまま押し切ってやる!」

「狙いが甘いな……。 狙撃中に片目を瞑るのもナンセンスだ」

 

最大距離を開けている潤に対して、狙撃を行っているが……、やはり銃撃は不慣れであるらしい。

余りある欠点があるというのに、数打ちゃ当たるとばかりに連射するのも微妙なところである。

狙撃に限らず、銃の照準をつける時は、片目を瞑らないようにするのは軍事的な観点からすれば常識である。

片目を瞑ると視界が狭くなるし、顔面の筋肉を引きつらせ、それが手や体の筋肉にも影響して射撃の精度が落ちるからだ。

通常の中距離射撃では両目をしっかり開けているのを考えれば、こういう場面に出くわしたことがないのかもしれない。

アームド・アームから射出される高火力の荷電粒子砲、それが地面に着弾した時に巻き上がった土埃に紛れてある武装を展開する。

 

「頼むぞ、フィン・ファンネル」

 

フィン・ファンネルはブルー・ティアーズと同じく、ビット型の兵器である。

操作方式が全く違うので、外見と攻撃方式が似ているだけであるが。

シールドとなっているアンロック・ユニット、その裏側に設置されているファンネルラックからフィン・ファンネルが射出される。

閉じていた棒状のマシンがコの字型に開いていて、フィールドギリギリを通って、一夏が目を閉じている方向に向かわせる。

勘付かれないようにビームライフルで一夏を牽制することも忘れない。

 

「二学期初の実践訓練。 小栗くんが割って入った事には驚きましたが、気合入ってますね、二人共」

「……ああ」

「この試合、若干織斑くんが優勢でしょうか?」

「いや、小栗を甘く見すぎだな、山田くん。 奴は強い。 それに、何か狙いがあるようだし、織斑の奴は何も考えずに飛ばしすぎだ」

 

九月三日、二学期初の実践訓練は、一組二組の合同で始まった。

クラス代表どうしでバトルを始める予定だったが、会長からの依頼で一夏の強化を頼まれていた潤は、第二形態になった白式と一夏の戦力評価の為に自ら立候補した。

また、実戦経験が少ないヒュペリオンのテストにもなる。

完成初期段階では自殺紛いと言われた可変装甲に対応するため、ヒュペリオンには第三世代特有のイメージインターフェイスが、機体各所に操作を補助している。

しかし、合宿での一件から束博士に対して不信感を持った潤は、その博士が作り出した制御モジュールと、機体そのものに対しても不信を持った。

その結果、不信の脳波を読み取ったイメージインターフェイスは、ヒュペリオンの性能を落とす結果になった。

それも、夏休み終了前には幾分か解消したが。

 

「今! 当たれ!」

「うぉ!? ビーム? どこからだ!?」

 

遠方から迂回させていたファンネルが、想定の位置にたどり着いたことを知って攻撃させる。

片目を瞑るということは視界が半減するのとほぼ同義。

それに、このフィン・ファンネルでの奇襲攻撃は、一夏にとって青天の霹靂、慮外の範疇であったことも成功の一因でもある。

一夏はフィン・ファンネルと似たような兵器を知っているので、その特性もよく知っている。

一学期の入学当初から何度も手合わせしている、セシリア・オルコットの専用機、ブルー・ティアーズ。

あれは毎回命令を送らねばならず、使用中は制御に集中するためにそれ以外の行動が難しくなる筈だった。

 

「行け! フィン・ファンネル!」

 

一夏の警戒が潤から外れた瞬間に、隠す必要は無くなったとばかりに残り全てのファンネルを一斉展開する。

奇襲に用いた物と合わせて十二の砲門が一夏を包囲していった。

ただ包囲するだけでなく、一夏の反撃を受けて消耗しないように一定の距離を保ちつつ、緩急を付け、左右に振り、対狙撃制動を行う。

それらファンネルの一斉攻撃に伴って潤も瞬時加速で接近する。

 

「ビットを展開しながら戦えるのか!?」

「墜ちろ!」

 

ビットの合間から、中距離で狙撃する潤に対して、一夏はアームド・アームでシールドを展開しつつ勢いよく逃げていく。

アームド・アームはエネルギーを無効化するシールドを展開できる。

それで、ファンネルもビームライフルも無力化したが、それが今回の潤の狙いでもある。

 

「イチかバチか! ――って、ああ!?」

「よし! 体力切れだ」

 

このままではジリ貧と思った一夏が、零落白夜を出して瞬時加速でビームの雨を突っ切ったが、斬りかかる直前にその零落白夜の輝きが消滅した。

余りある欠点、それはアームド・アームも零落白夜自分のエネルギーを消耗する、いわば自分のヒットポイントを削る諸刃の剣であること。

ただでさえ燃費の悪い白式は、第二形態となって『肉を斬らせて骨を断つ』といった特色を数段向上させたのである。

体力の無くなった白式と一夏は、ファンネルから射出されるビームの雨に消えていった。

 

 

 

----

 

 

 

「はぁ……、それにしても、第二形態になっても歴然とした差があるなんてな……」

「スラスターもそうだし、武装も防御も燃費の悪さが目立つ。 そろそろオート化されている部分に手を出さないと発展が見込めないかもな」

「オート化されている部分?」

「PICや、荷電粒子砲の出力関係。 背中のウイングスラスターの調整とか、機体制御の問題もある」

「それに近距離戦闘と遠距離戦闘の即時切り替えと基本戦闘スタイルの見直し。 それと双方の訓練……、やることだらけじゃないか」

 

とはいえ、一夏の専用機最大の問題は、潤が指摘した燃費の悪さにある。

継続戦闘能力が二割向上するだけで大分違ってくるという程に。

男子専用とかしている広いロッカールームで、男二人で話し合う。

 

「……そういえば、潤って機動制御に関してはほぼ一流なんだよな?」

「誰の台詞だよ。 人騒がせな」

「千冬姉だよ。 ちょっと頼み事なんだけど、訓練というか、基本戦法とか、機動制御も含めてお前にも色々教えて欲しいんだけど」

「そんなことか。 勿論いいぞ。 早速今日の放課後から始めるか」

「よっしゃ! 何時までも女の子にやられっぱなしってのも情けないし、男同士で秘密の特訓だ!」

「俺たち二人で行動して秘密って訳にはいかないだろうけどな」

 

一夏の訓練を専属的に行うことで起こる騒動を考え、苦々しくも潤が笑う。

夏休みに専用機持ちたちが一夏の家にやってきた日から、こうやって潤はよく笑うようになった。

どういった心境の変化なのか良く分からないが、一学期当初の接触を嫌がるかのような態度が嘘のようだ。

その潤は目の前で何かを見とがめて、さっさと制服に着替えだした。

 

「それじゃ、授業も近いからさっさと着替えろよ。 俺は飲み物でも買って待ってる。 ただ、時間がやばくなったら先に行くぞ」

「ああ、分かった。 俺も少しさっきの戦闘を見直したらすぐ行くよ」

 

潤の目の端に僅かに写ったのは、水色の髪の毛。

以前会長が、『私の方からも一夏くんと顔合わせする』と言っていたのでその時が来たのかもしれない。

会長の性格、一夏が女性をあしらう事の出来ない性格を思い浮かべ、これから始まる一夏の苦難を思って潤は少し黙祷した。

潤がロッカールームを出るのとほぼ同時に、一夏の背後に現れ両目を手で塞ぐ。

 

「だーれだ?

「えぇ? だ、誰だ?」

 

同級生同士しか付き合いのなかった一夏からすれば、若干大人びた声がかかる。

そのくせ、会長らしいというか、心の底からいたずらを楽しむ子供のような声色も含んでいる。

 

「はい、時間切れ」

 

そう言って一夏の視界を解放する。

声の主を確認しようとした一夏の頬を、何時も手にしている扇子で少しだけ押さえつけた。

新しく生徒会に入った男の子が、こういう事に対して無駄に耐性があったので反応を面白がっている節もある。

 

「んふふふふ♪ 引っかかったなぁ♪」

「あの……、あなたは?」

「……それじゃあね。 潤くんも、もう行っちゃたし、キミも急がないと、織斑先生に怒られるよ」

「……潤くん? 潤の知り合いだったのか?」

 

リボンの色を見るに彼女が二年生であるのはわかる。

潤の知り合いを頭の中で描いていくと、タッグトーナメントでパートナーだった少女のことが思いついた。

眼鏡をかけている点、自信の無さそうな雰囲気、それらの差異から真逆の印象を受けるが、髪色や顔立ち、瞳の色まで似通っている。

考え込んでいて、はっ、と今の最大懸念を思い出して時計を見て、既に授業開始から三分ほど経過しているのを視認した。

 

「だあああ! ま、不味い! 怒られる、というか殺される!」

 

背中に紅蓮の炎を纏った鬼教官・織斑千冬が脳裏によぎる。

先生なのに教官と称されるのが似合う日本で唯一といっていいあの教師は、洒落を洒落にしてくれない。

きっととんでもない罰を受けるに決まっている。

 

「……ほう、それで遅刻の言い訳は以上か?」

「いや、だから……あの、あのですね、だから、見知らぬ女生徒が」

「それでは、お前は名前も知らない初対面の女子との会話を優先して遅れたのか」

「ち、違います。 そうだ、潤! あの人、お前のこと名前で言ってたぞ、知り合いじゃないのか!?」

 

そしてやっぱり、慈悲の一つもない千冬に問い詰められる一夏。

走っている最中に、茫然自失としたまま考えていたことが、綺麗さっぱり抜け落ちてしまったらしく、簪と似ていることなど忘れてしまったらしい。

それでも潤の名前を言っていたことを思い出して、廊下側最後尾から二番目に座る潤に助けを求める。

 

「名前で呼んでいる相手だけでは情報不足だろ。 外見の特徴は?」

「二年生のリボンで、全体的に余裕を感じさせる態度だったけど、子供っぽい雰囲気もあった。 あっ、高そうな扇子を持ってたな。 水色の髪の毛で、向こう側が見えないっていうか、神秘的な――」

「なんだ、随分高評価じゃないか。 やっぱり会話を優先したんじゃないか?」

「引っ掻き回して楽しまないでくれよ!」

「はははは、悪い、悪い」

 

なんか半泣きになりそうな悲痛に叫ぶ一夏と、その一夏をからかって朗らか笑う潤の会話を聞いてクラスの反応が二分した。

一つは一夏が魅力的と思っていると判明した女子生徒に対するもの。

見知らぬ女生徒に鼻をのばしていると決めつけ嫉妬をする者と、純粋にその女生徒に興味を持っている者になる。

そしてもう一つ、どこか別世界の住人のようでいて、言い方は悪いがまるで作り物のような表情を浮かべていた潤が普通に笑っていることだった。

その笑みをどこか尊い物を見るかのような表情だった千冬は、咳払いを一回だけすると、何時もの調子に戻した。

 

「デュノア、ラピッド・スイッチの実演をしろ!」

 

シャルロットがまるで幽鬼のように立ち上がる。

この段階になってやり過ぎた事を察した潤だったが、少し遅かった。

 

「では、実演を始めます」

「あ、あの、シャルロット、さん?」

「始めるよ、リヴァイヴ!」

 

目の前でISが起動されたことを察した白式が、搭乗者の保護機能のため絶対防御を発動させる。

そんな一夏に対して遠慮する必要がないことを知ったシャルロットは、遠慮なく銃弾を叩き込んでいった。

 

 

 

本来だったら放課後から一夏の実力底上げを図る予定だったが、全身が痛いと言って寮まで足を引き摺って帰る一夏を引き止める事が出来なかった。

一夏は犠牲になったのだ、と下らないことを考えながら取り敢えず陸上部に顔を出して、トレーニングルームを使わせてもらう。

部長さんと、陸上部の面々から何故仮入部のままなのか、何故陸上部を選んだのか尋ねられ今更感が半端でないが、改めて言わせてもらった。

『女子』陸上競技部が正式名称の部活動に、男子が入部出来る訳ないじゃないですか、と。

そして、トレーニング機器は運動部が優先的に使用できる取り決めがあり、トレーニングルームの監督者から何処かの部活に所属するように勧められた事。

所属する部活の決めては、最初に織斑先生のシゴキでお世話になったからです、と。

特別な理由がある、と思っていた陸上部の面々が露骨に落ち込んでいた。

何故今になって聞くのかと逆に聞き返すと、新学期になってから急に接しやすくなったからと、引っ込み思案な部員はそういった。

 

「よう、遅れて悪いな」

「いいよ。 潤が手伝ってくれるだけで……、その、私は助かってるから」

 

部活が終わった後は、第二整備室に移動して夏休み後半からサボっていた打鉄弐式の開発に携わる。

お互いに誰かを頼ることなく、意固地になって自分の世界に引き篭っていた同士だが、夏を境に二人共ほんのり成長した。

潤は殺しきっていた自分を表に出す勇気を持ち、簪は誰かを頼る事と共に導き手を見出した。

閑話休題。

夏休みは主にソフト方面に力を入れていたが、今となっては完成度を高めるためにハード方面に手を出している。

ケーブル、高周波カッター、空中投影ティスプレイ、更には小型発電機を用いて、アーマーを開いて直接パーツを弄っていく。

微妙な出力コントロールや特性制御を行うにはこうするしかない。

潤が装甲を関係にあれこれ手を加え、その最中に簪は実際に打鉄弐式を纏って機体情報を参照している。

その合間にも、更に稼働率を向上させるために新たに必要なハードを模索し、データ蓄積と稼働試験を実施する。

 

「……完成度が高まってきたのもあるけど、大分行き詰ってきたな」

「そう、かな? ……一度、テスト……してみる?」

「――よし、明後日に一度第六アリーナでやってみよう」

「あ、あの、……その日は、飛行テスト……、付き合って、欲しいな……」

「勿論」

「ありがとう」

 

軽く微笑む簪に、同じく表情を和らげる潤。

ひと月で大分完成に近づいた打鉄弐式、この機体が空を飛ぶ日は近い。

明後日改めて飛行試験するにあたり、必要な計測装置と記録装置のセッティングを行う。

消灯時間二時間前に作業を終えて寮に帰り、明日に備えて休む。

休む前に部屋に来襲したナギや癒子、夏休み頃から希にやって来るようになった一夏と共にだらける。

こんな感じが潤にとってスタンダートな一日である。


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