高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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できたてほやほやです。
13時ごろ完成しました。 週一は結構辛い。
次回は対セシリア戦予定。
怒るセシリアと、可変装甲まで展開して戦う潤。
まあ、うん、どうなるかは分かりますよね。

そして一人シスプリコンプラウラ計画。


1-3

鈴の先導で、一夏たちがアリーナに向かっていると、アリーナに近づくにつれなにやら慌しい様子が伝わってくる。

先ほどから廊下を走っている生徒も多い。

どうやら本当に第三アリーナでなにか大事が起こっているようだ。

 

「ところで、なんだって潤がいきなり二年生と戦う流れになったんだ?」

「小栗のほうから吹っかけた、とは考えにくいな……」

「そんなんじゃないわよ。 ただ、ちょっと襲ってみて実力を確かめてみたかっただけでしょ」

「襲ってって……わあっ!?」

 

聞きなれない声色に反応したシャルロットだったが、声に反応して振り向いた先はついさっきまで誰も居なかったはずの場所。

居ないはずの場所に、いきなり現れた二年生らしき水色髪の生徒に驚く。

 

「なかなかいい反応してくれるわね。 合格よ、シャルロットちゃん」

「合格って、何がですか」

「潤くんにしろ、簪ちゃんにしろ、おとなしいタイプでお姉さん不満だったから」

「かいちょー、こんにちはー」

「ごきげんよう、本音ちゃん」

 

楯無の姿を認めた一夏とラウラが、少しだけ警戒態勢に入る。

潤は彼女をかなり信頼しているような印象を抱いたが、一夏にとってはおかしな人といった印象が強い。

ラウラは、……ただたんに苦手意識を持っているだけだが。

遅刻騒動といい、学園祭騒動といい、騒ぎの元凶なのだから。

ラウラはもっと警戒している。

 

「まあまあ、そう警戒しない」

「誰のせいですか、誰の」

「なんなら、同じ二年生として、今潤くんが何で戦っているのか教えてあげるけど」

 

それはちょっと気になる。

歩いている一組一同心の中で同じ事を考えた。

 

「素直でよろしい。 殆どの一年が知らないみたいだからおしえてあげるよ。 IS学園において、生徒会長という肩書きはある一つの事実を証明しているんだよね」

「……お兄ちゃんの生徒会入りは、次期の会長だという通告なのか?」

「そういえばラウラちゃんは知っていたわね。 そういうことよ」

「……ちゃん」

 

意外な呼ばれ方をして、ラウラがほんのり頬を紅く染める。

そして、若干気に入ったようだった。

 

「それで、潤さんが来期の生徒会長になるのと、今先輩方と戦うことに何の関連性があるのですの?」

「全ての生徒の長たる者は――最強であれ。 私が次期会長に潤くんを推薦している、それは私を除いて二番目に潤くんの方が強いということになってしまうの、それを認められる人もいれば、今日みたいに戦って確かめないと納得出来ない人もいる。 潤くんも強いし、純粋により強い相手と戦ってみたいって生徒も居るだろうから、ついでに参加しているかもね」

 

自分より強いと、認められるかどうか。

トーナメントを通じて直接叩かれた一年生は簡単に認められるだろうが、上級生や、代表候補生ともなると中々難しい。

特にセシリアは必ず勝ってやると気炎を燃やしていた。

あのすまし顔を歪めてやると言っていたあのとき以来変わっていない。

 

「で、学園最強の生徒会長さんは、あいつが勝てると思います? あいつってかなり強いけど、ISの実力って稼働時間に正比例するじゃないですか」

「ん~……、微妙な線ね。 ラウラちゃん、睨まないの。 潤くんが強いってことに間違いは無いし、普通の生徒じゃ無理なのは確かよ。 ただ、皆も知っての通りISにおいては稼働時間が物を言うの。 二年生の代表候補生だったり、その座を争ったことがある生徒だったりするとなると、才能だけじゃ決して勝てない。 その辺りは鈴ちゃんも詳しいんじゃないの?」

「サラ・ウェルキン、先輩もいらっしゃいますわね……」

「ああ、セシリアちゃんは、彼女から操縦技術を習ったんだっけ」

「専用機はありませんけれど、優秀な方です。 わたくしとブルー・ティアーズでも楽には勝てないでしょう」

 

楯無の言っていることは正しい。

何も間違っていない。

確かに潤のISの稼働時間は割と少ない。

しかし、彼女とて知らないのだ。

異世界で同種ともいえる兵器を用い、訓練では決して味わうことの出来ない死闘を繰り広げてきたこと。

潤が相対的に自分の実力を『所詮は二流』と評価しなければならない化け物が居て、そいつに対して時間稼ぎ用として戦わされたこと。

それをその目に焼き付けることになる。

 

「もう直ぐアリーナだね。 なんか、ISスーツで泣いている二年生の方がいるんですけど……」

 

ピットに近づくにつれ、二年生のため息と歓声で騒がしくなってきた。

会長の予測とはずれ、ラウラの予想通り、潤はかなりの大立ち回りを演じているらしい。

 

「やっぱりこうなるか。 お兄ちゃんは――お兄ちゃんより、我が兄、あにき、の方が言いやすいな。 ちょっと調べてみるか。 『お兄ちゃま』、これはないな。 『あにぃ』、候補に入れよう。 『お兄様』、おお、かなりいいな。 『おにいたま』、論外だ。 『兄上様』、私が日本人ならありかもしれないが……。 『にいさま』、お兄様とどう違う? 『アニキ』、候補として問題なし。 『兄くん』、本当に使われているのか疑問の湧く珍しい呼び方だ。 『兄君さま』兄上様と一緒だな。 『兄ちゃま』、なんだこの変な呼び方は。 『兄や』、これは……嫌では……ない……」

 

自分より強いと認めた潤が、二年生に苦戦するなど、彼女にとっては屈辱にも等しい。

潤がラウラの期待通りの強さを発揮しているのを確認し、安心したラウラは、『兄』への呼び方について調べだした。

この少女、常にマイペースである。

ブツブツ言って調べ物をし始めたルームメイトの手を取って、一夏たちと一緒にピット近くの巨大スクリーン前までたどり着いた。

その時、まるで図ったかのように鳴り響く爆音、思わずラウラが顔を上げた。

ヒュペリオンのプリセットの一つ、ロケットランチャーの爆風。

爆発と粉塵の中から出てきたのは、ボロボロになったリヴァイブ。

間合いを開いて仕切りなおしを行おうとしている様には決して見えず、命からがら逃げるように見える。

逃げ出したリヴァイブが画面を通過すると共に、ほぼノータイムで距離を詰めてきたヒュペリオンが画面に現れる。

 

「ぐ――ぐうぅ……なんで、こんな的確に――」

「畳み掛ける!」

 

潤の裂帛の声と共にファンネルが主出され、まるで別々の人が動かしているかの様に有機的にリヴァイブに迫っていく。

その編隊は恐ろしい速さでリヴァイブすら追い越して背面に展開されていく。

逃げ道を塞ぎ、間合いを詰めた潤は、なんとISで格闘戦を始めた。

殴り、殴り、相手が武器を出した瞬間ビームサーベルを展開、先に手を斬り上げて反撃の機会を殺す。

その光景を見て、会長の顔が疑問に歪む。

 

「ISでISを殴るのか~。 流石おぐりん、非常識だなぁ」

「僕と戦った時もそうだったけど、あの量子展開、どうやっているんだろうね。 ほぼノータイムで武器が出ているんだけど」

 

そのまま二、三回相手を切り裂いた潤は、リヴァイブを蹴り付けた上でファンネルの一斉攻撃を開始した。

逃げから始まり、殴られ、斬られ、蹴られ、武器は封じられてバランスを取ることもできず、蹴られて墜落していく相手になすすべは無い。

 

「おおおおおおおっ!」

 

雄叫びと共に連射されるビームライフル。

三人目となる、二年生クラス代表との戦いは、こうして幕を閉じた。

 

 

 

---

 

 

 

潤がピットに戻ってきた。

これで対二年生クラス代表三連勝。

最初は半分健闘を称え、半分ひやかしていた二年生は、あまりに一方的な勝利を潤が挙げるため、今となっては賞賛の言葉ばかりになっている。

二年生同士で戦っても、コレだけ圧倒的な差が生まれることは少ない。

一年坊主がちょっと調子に乗っているみたいだから、現実を見せてやろうと意気込んで戦って見たら、逆に現実を見せ付けられた。

とにかく状況のコントロールが神業的に上手く、先読みの深さが尋常でない。

どんな手を打っても『そう来ましたか。 ではこう返しましょう』とばかりにいとも容易く対処されていく。

心を読めるとしか思えない、パーフェクト勝利を献上した二組クラス代表の叫びは、一組と三組のクラス代表が抱いた感想と一緒だった。

ヒュペリオンを解除、オートで出来る範囲のメンテナンスを実施させると、隣に控えていた簪からタオルが手渡される。

 

「潤、お疲れ」

「ああ、ありがとう」

 

渡されたタオルを使って豪快に顔を拭いて、ついでに髪の毛に付いた汗もふき取っていく。

二組代表は箒といい勝負レベルだったが、一組クラス代表と三組代表は中々の強敵だった。

 

「これで三戦連続完勝、流石だな、副会長」

「三組クラス代表がやたら強かったです。 かなりやりにくくて、最後まで油断なら無い相手でした」

「……二年三組は、イタリア代表候補生……だったような」

 

賞賛から始まる千冬の歓迎を受けている内に、一夏たちも潤の周囲に集まってきた。

 

「一夏か。 ちょっと避けえぬ戦いだったんだ。 悪いが講義とかは明日に持ち越しでいいか」

「ああ、かまわねぇよ。 しかし、派手にやっているんだな。 途中一人泣いてたぞ」

「たぶん、それは……二組、クラス代表……。 損傷率、打鉄87%、ヒュペリオン、0%の……完全敗北」

「損傷ゼロ!?」

 

一夏と同じく潤の周囲に集まっていたシャルロットから驚愕の声が上がる。

暫く固まっていたが、正気に戻った後は普段から使っている端末に、潤と該当クラス代表との戦いをインストールし始めた。

セシリアや鈴はそちらの方に興味があったらしいが、一夏と箒はそのまま残る。

 

「おぐりん、これ、飲み物ね」

「ありがとな、本音」

「えへ~」

 

頭を撫でられ破顔させる本音。

その光景を見て、一夏と千冬などは、夏休み中のあの潤を何とかしたのは本音だったのかな、とわりと穏やかな目を向けた。

潤と本音の仲が急変してびっくりしている楯無やら癒子やらナギが居た。

簪は開いた口が塞がらなくなっていた。

唯一にして強大な恋敵に、なんか物凄い差をつけられたかのような錯覚すら覚えたのだから。

 

「よし、アートメンテナンスがそろそろ終わるか。 エントリーをして、と。 お次の相手は……、サラ・ウェルキン? 聞いたことがあるような、ないような」

「潤……代表候補生だよ。 その先輩」

「そうなのか……、じゃあ、どこかの本で見ただけか。 どおりで、記憶に残ってないはずだ。 簪、タオル、ありがとう。 洗濯して返すから」

「うん……。 あ、あの……!」

「なんだ?」

「あの、あの……、なんで、そんな……本音と仲いいの?」

 

本音と潤の仲の進展。

夏休みの、とある一日。

どこまで話したらいいものか迷い、ちょっと手慰みに爪をこすり合わせる。

言いにくい。

とても言いにくいが、何か言わないと引き下がってくれそうに無い。

 

「色々あったんだよ。 合宿のときとか、夏休みのこととか、本当に色々な」

「色々?」

「本音が自分を見つめなおすチャンスをくれた。 ラウラが俺に懐いているのと、同じ理由かな? 本当に、俺はいったい何時になったら一人前になるんだろうな」

「小栗」

「――分かっていますよ。 織斑先生」

 

こすり合わせていた爪を止めた潤は、千冬の言葉を聞いて、顔を上げた。

その顔は、意外なほど固く、不思議な緊張感を持っていた。

 

「ところでラウラ、そのサラ・ウェルキン先輩は強いのか」

「あ、ああ。 私とて油断が出来ん相手には、違いない」

「そうか……。 一夏」

「なんだよ、急に」

「次の戦いは、ビームライフルと実体剣、ビームサーベルの三つに絞って戦おう」

「はあっ?」

 

劇的な反応を示したのはセシリアだった。

セシリアにとってサラとは中々越えられない壁であり、実力を認めている相手だったのだから。

その相手に対し、潤は手心を加えて戦うと宣言している。

もし、それで勝つというのであれば、それは、セシリアに対する侮辱にも近い。

 

「何故その様な事をする? 相手に失礼だと思わないのか」

「箒、確かに俺は戦いに誇りを持ち込まない。 だが、武器が多少使えなくなった所で、真剣勝負に手を抜くと思われるのは心外だ」

「なら、先ほどの発言はどの様に説明していただけるのかしら!?」

「顔が近いぞ、セシリア。 強さには種類がある。 剣一本だけで世界のあらゆる猛者に勝ち得るもの」

 

一夏たちの頭に千冬の姿が浮かぶ。

潤と千冬の頭に浮かんでいるのは、潤が人間の限界点と断じた一人の剣士が浮かんでいた。

 

「射撃能力だけで、一度に多数を相手取るもの。 力、知恵、技術、速さ、なんでもいいが強さとは決して一つではない。 次の戦いは剣を主体に、銃撃戦を最小限に抑えねばならないお前に見せるための戦いにしよう。 白式でも行える戦いの流れ、今はそれを見ればいい。 では、織斑先生、失礼します」

「ああ、健闘を祈る。 ……よかったな、織斑。 よく見ておけよ」

「潤くんは、そこまで強いんですか」

「……怪我をして手術する前の全盛期ならば、私より強かったろうな。 私に勝ち筋が無いわけではないが、それでも相打ちが関の山か」

 

怪我ということにしておいたが、本当は世界を移動する前の復元だ。

願わくは、一度でいいから全盛期の潤と戦ってみたかった、それが千冬の素直な感想だ。

そんなことなど何も知らない一組面々と楯無は戦慄した。

どんだけ、強かったんだよ、と。

どんな大怪我をしたんだろう、とも。

 

「潤さんが……。 でも、――それじゃあ、あれは……」

「何だ、まだ気付いていなかったのか?」

「ラウラさん?」

「お前と兄の最初の模擬戦、打鉄の被弾箇所を拡大し、フレーム単位でゆっくり動かしてみろ。 それで分かるはずだ」

「――――――」

 

まもなくサラ・ウェルキンと潤の戦いが始まる。

その片隅で、怒りに打ち震えるセシリアの姿が見えるまで、あと少し。




来週は完全新規なので無理かもしれません。

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