高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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早く仕上がってくれましたが、今回は若干短め。
次話は長くなる可能性大。

そして作品最強の機体が登場。
何のシステム(ガンダム関連)が起動したのか皆も考えてみよう。


3-11

二年生のレースが終了した。

抜き、抜かれ、撃墜したりされたり、白熱した非常にレベルの高い白熱したレース展開だった。

今年度のIS学園では、行事のたびに都度色々あったため、生徒のレベルや、教師たちの熱意がかけているのではと心配してた各高官らも安心した様子だった。

彼らは海上で二人の専用機持ちが、亡国機業と戦っていることを知っている。

自身の危険を知っていながらも、安全に今回の催しが遂行出来ていることに、費やしてきた莫大な金や時間が無駄にならないことを安堵した。

こうなる可能性は最初から分かっていたのだから、対処できて当然、それが彼らの考えだった。

 

『二年生のレースが終了しましたので、一年生は準備をお願いします』

 

担任の千冬でなく、副担任の真耶でもない声に若干当惑しつつも、一夏は白式をその身にまとう。

困惑はしたが、何が何でも一組が中心になる必要も無いので、すぐさま当惑は霧散した。

 

「そういえば、シャルはどうしたんだ? ラウラもいないようだけど」

「いえ、見ていませんが……」

「もうレースの準備が始まるってのに、……もしかして、亡国機業――って、うおぉ!?」

 

レース開始十分前になろうかというタイミングで、未だメインの格納庫に顔を出さないシャルとラウラを心配する一夏。

その心配げな台詞が終わるより先に、背後に位置していた搬入口が轟音をたてて左右に開いた。

結構な振動と、身体を震わすような轟音に思わず身体が跳ね上がる。

そこから現れたのは、リヴァイブに搭乗したシャルロットだった。

だったのだが――。

 

「シャル、それって――」

「ああ、一夏、待っててくれたんだ。 って、もう開始十分前か」

「そうだけど、その機体って……、まさか新型か?」

「――うん。 今届いたんだ。 デュノア社の最新型、第三世代型IS『カレワラ・ラファール・リヴァイヴ・フュズィオン』」

「デュノア社? なぜデュノア社の名前が出てくる? 縁を切ったのではないのか」

「お前と束博士ほどではないが、シャルロットとデュノア社も複雑な関係なのだ」

 

今さっき第三世代型ISが届いた。

しかも断絶したはずのデュノア社から。

当然箒が漏らしたように、その関係について疑問に思うのは当然だろう。

それを聞いて、事情を知っているラウラが割ってはいった。

束博士を例えに出したことで面倒な事態であることを察した代表候補生達は、おのずと関係性に踏み込むのを止めた。

デュノア社に関しては触れることすら難しいことを叩き込まれた一夏も当然口を噤む。

しかし、気になるものは気になる。

デュノア社ではなく、その機体が。

ぱっと見はリヴァイブに酷似している。

特にブースターに関してはリヴァイブのものをそのまま流用しているらしく、その為誰が見ても最初はリヴァイブと勘違いしそうだ。

ここに関してはシャルロットが習熟訓練を行わずとも操縦を行えるようにするための、制作者側の工夫といったところだろう。

リヴァイブと違う点は、機体にカレワラと思わしきデザインが感じ取られることと、ヒュペリオンから流用されたと思われる赤色のラインが機体を彩っていることだ。

 

「ふぅん、強そうね。 特に赤のラインと縁の黒のコントラストが強烈」

「色の話しても意味ないだろ、鈴。 だけど、オレンジに黒に赤って毒キノコの警戒色みたいで、あぶっう!?」

 

注目の的となっているパトリア・グループの系譜。

そのラインをなでた、一夏の背筋が凍った。

 

「ど、どうしたの一夏?」

「――……。 シャルロット、これは、不味い」

「なにが不味いのだ、一夏」

 

ただならぬ様子に、箒の問いかけを最後に誰も言葉を発さない。

千冬の弟であることのみを買っているラウラは、その直感だけは馬鹿に出来ないとその先を待った。

セシリアと鈴は不思議そうにするだけだ。

当然シャルロットは気が気でない。

 

「俺、初めてISを触ったとき、電撃が走るような感覚があった。 白式に初めて触ったときは、馴染んで、俺を待っていたかのような不思議な、でも温かな、そんな、本当に暖かい感情が入り込んでくる気がしたんだ」

「それで?」

「この機体は違う。 これは違う。 この機体は――」

 

ゴクリ、誰かが唾を飲む音が聞こえてきそうなほどの静寂。

ただならぬ空気が支配している。

 

「うぐっ!」

 

静寂を最初に抜け出したのはセシリアの、小さな悲鳴だった。

頭に走る鋭い痛み。

ここ最近問題になっていた、ヒュペリオンの展開装甲が開いた合図。

セシリアの脳裏に、若干追いつめられているヒュペリオン、そして、祖国が手放さなければならなくなったサイレント・ゼフィルスの姿が浮かび上がった。

思わず格納庫の外、海岸側に足を進めるセシリア。

追いかけようにもレース開始直前となったため、セシリアを追いかける者はいない。

そんな中、渦中のフェズィオンから静かにシステム音声が響いた。

 

「エ……ム - ……テム …………イ」

 

 

 

----

 

 

 

美しくも恐ろしい雨が降り注ぐ。

潤は元より、その弾雨を見るのは二度目の簪も難なく回避行動に移る。

予定通りことが進んでいると準備万端な潤はなんともないが、戦闘前のブリーフィングで敵戦力が集中することを話されなかった簪は苦虫を噛んだ様な表情を浮かべた。

流石にここまで状況が至れば敵の狙いと、……ついでに潤が何を考えているのかも察した。

その予想が当たっているのか、それとも外れたのかは置いておいて。

そして、予想通りサイレント・ゼフィルスの遠距離攻撃までもが流星の様に閃き、海面に着弾した。

水蒸気爆発によって生じた煙の向こう、銃口を向けた姿を二人は視認した。

 

『――小栗、状況を説明しろ!』

「サイレント・ゼフィルスとシックザールが現れました。 戦力を集中しこちらを叩く算段のようです」

『ま、まさか、お前? くそっ、――この馬鹿が……』

 

当然簪が気づいた事と同じような内容に千冬もたどり着く。

 

「ヒュペリオンはファンネルを五機残してエネルギーダウンした以外は、ほぼ万全の常態。 消耗したのは打鉄弐式のみか」

「……」

 

それは亡国機業側にとっては慮外の状況だった。

これでは戦力を逐次投入しただけの様に見えてしまう。

本当ならば、ヒュペリオンに相応の消耗をしいて、一気呵成に攻め立てる算段だったのだ。

この案は潤から見ても理にかなったもの。

使い捨ての戦力で持続力の低いヒュペリオンに消耗をさせ、しかる後に本命で叩く、――素晴らしい作戦だった、はずだったのだ。

 

「織斑先生、作戦を立案した私を責める気持ちは分かりますが、山田先生の出撃をお願いします。 それと、消耗した簪は撤退させます。 可変装甲を展開し回避に専念しますので、再合流が出来次第攻勢に転じましょう。 ここは耐える場面です」

『………………いいだろう。 こちらからの救援だが、出入り口の全てをシックザールに潰された。 生きている遠方のルートは時間がかかり過ぎるため、岩盤を発破して出撃しても問題ないか調査中だ。 持ちこたえられる自身はあるか?』

「――無論問題ない」

 

出入り口全てを潰されたのは潤の計算外だった。

事前に地図を閲覧し、隠し出口の巧妙さに満足して『これなら同時に全て、とはいくまい』と太鼓判を押していたのに、だ。

内通者――その単語が脳裏によぎる。

しかし目の前に敵がいる状況のため、雑念を振り払う。

 

「簪、アルミューレ・リュミエールで守る。 打ち合せどおり捕虜を確保し、補給のため一時撤退してくれ。 俺は殿として残る」

 

これで作戦は終了段階に入る。

可変装甲展開時のヒュペリオンに追いつける機体は現状存在しない。

たった十分逃げ回るだけならば、例え負傷していようとどうとでもないと断言できる。

致命的な――……、

 

「やだ」

 

――そう、致命的な誤算されなければ。

 

「あの、簪さん?」

「一人になんて――、絶対やだ」

「いや、あの、むしろ撤退してくれないと今後の展開が辛いんだけど」

「やだ」

 

簪の脳裏にあるのは、何時も何時も傷ついている潤の姿だった。

今回ばかりはそうならない。

そうしない。

私が絶対そうしない。

それが、今回簪が潤と一緒に出撃した理由だったのだ。

何となく自分の致命的な見落としに気づいた潤は、シックザールの攻撃を、大げさなぐらい距離をとって回避する。

やはり逃げる分には楽である。

 

「冷静になれ。 残弾も心許ない状況で、アウトレンジ機二期にクロスレンジ攻撃するつもりか?」

「だけど、わかる、けど、――やだ!」

「………………」

 

やってしまった。

読めなかったのは味方の動きとは。

作戦がガラガラと崩壊していく音が聞こえるような気がした。

これが正式な軍事行動だったら間違いなく軍法会議もの、過去の潤なら流れで撃ち殺している。

ファナティック・フォースは軍事行動に同行する場合、左官権限を付与され、かつ王直属の部隊とあって許されるのだ。

簪は部下ではないし、これは正式な軍事行動ではない。

むしろ指揮しているのは潤だが、立場のそれは完全に対等なものである。

 

「あ~、説明しなかった自分が悪い、のかな?」

「潤、くる!」

 

サイレント・ゼフィルスのビームを軽くいなし、邪魔になればアンロックユニットで防ぎ、考える時間を確保した。

事前に説明していれば聡明な簪なら、素直な簪なら、きっと聞いてくれただろう。

信用していなかった訳ではなかった。

軍とは結構こういう、目的を明確にしないまま指示を行うことケースが多いのだ。

○○時までにこの高山に行け、とか、誰々に合い荷物を受け取ってここに運べ、とか、一週間以内に誰々を暗殺しろ、とか。

その背景は開かされない。

これは、新しい注意点が見つかったことを収穫にしよう。

潤は前向きに切り替えた。

切り替えたが、努力が無駄になったことに若干ストレスを感じていた。

ドリーの再三に渡る砲撃。

ちょっと向き先が可笑しい意趣返しをすべく、海上に漂うそれを使用すべく潤はヒュペリオンを走らせた。

 

「う、ぃぃ、あああああウウウぁ!」

 

狙いが簪でなく潤であり、あまりの速度に狙いがつられず八割強がヒュペリオンの存在しない方向に飛んでいることを除けば見事な砲撃だった。

しかし、ドリーも無能ではない。

回避行動を予測したのか、潤の回避先にいくつものビームをまき散らしている。

潤は海上ギリギリを移動している。

簪も似たようなコースを選択して回避に専念している。

海面に沈むことで発する水蒸気を利用して、サイレント・ゼフィルスのビット攻撃から少しでも身を守るためだ。

潤には別の狙いがあったが。

 

 

――水蒸気が晴れていく。

 

 

マドカが気づくより先に、潤がなにをしたかを察したドリーは、自分がしでかしたことに身体を震わせた。

もとより精神が不安定だったこともあり、端から見てわかるほど動揺していく。

そんなドリーを見て、怪訝そうな顔をしていたマドカと簪も、水蒸気が晴れきって現れた光景に絶句した。

 

「お前……、……ごふっ……うえぇっ」

「――近くで遊んでいた、お前が悪い」

 

まさしく人間ガード。

海に落ち、薬が切れたことによって、動くことすらままならなくなったリヴァイブパイロットの一人を盾に使用した。

簡単な言葉とは裏腹に、目に映る光景は強烈だ。

潤は見せつけるように、手に残った人間を海に投げ捨てる。

狙いはドリーへの精神攻撃。

とはいえ、精神が不安定な相手への精神攻撃。

簪にもその狙いは伝わるものの、あまりにあれな光景に言葉を失っているようだ。

 

「ゥ……ウゥ、うぁああああああウウウゥゥゥ!!」

 

精神攻撃を狙ったのはいいものの、効果は――あったような、無いような微妙な結果になった。

感情の爆発は相変わらず。

狙いに正確性は無くなった。

が、見方を変えれば無駄弾を適当にばら撒くようになったため、狙って避けるのが難しくなり、潤的には恐ろしいほどマイナスになった。

 

「っち」

 

ドリーを盾にし、逃げ回るサイレント・ゼフィルスに嫌気が差す。

可変装甲を開いているため警戒心MAXなのか、まったく近寄ろうとしてこない。

前回アレだけしこたま叩いたのを相当気にしているらしい。

シックザールに近寄ろうとすると、当然援護射撃をしてくる。

なる程どうしてシックザールもタッグで役に立つようだ。

その鉄壁の防御力を、まるでトーチカの様に機能させている。

潤は何も言わずに可変装甲を閉じた。

近接攻撃しか手段が残されていない簪は、アウトレンジ専用機に対しては戦力として数えられず、可変装甲展開しての速戦はサイレント・ゼフィルスが邪魔すぎて選択できない。

こうなれば、ヒュペリオンが最も苦手とする耐久戦をするしかない――背中を冷や汗が伝った。

 

「…………山田先生が来るまで耐久する。 いいな?」

「うん」

 

うん、じゃないが。

ミスした新兵をフォローすべく、潤は頭を高速させる。

可変装甲を開き、高速で逃げ回る案は採用できない。

簪の打鉄・弐式の最高速度を大幅に超えているため、簪が取り残されることとなるため敵の攻撃が集中する可能性が高い。

更識家、特に楯無の顰蹙を買うのは長期的に見て旨みが無い。

よって没。

 

「……うん」

 

足を止め、簪と連携してシックザールに挑むのは愚作。

下の下。

攻撃がばらけるため読み辛いシックザールの砲撃は、味方が増えたことで更に拡散するため被弾が嵩む。

前回の様に特攻を繰り返せばいいのだが、身体が持つかどうか未知数のため、不確定要素が多いためギャンブルとすら旨みがない。

よって没。

 

「……うん?」

 

タッグトーナメントよろしくサイレント・ゼフィルスを簪に受け持ってもらうのはありえない最低の選択肢だ。

残弾が心もとない現状、しかも万全の状態であっても簪ではサイレント・ゼフィルスを押さえきれない。

お互いの優位性を思う存分発揮し合えば、たぶん競り負ける。

よって没。

 

「……うん!?」

 

攻勢はありえない、守勢しか選択肢が無い。

しかし、相手は高機動射撃型と、高機動広範囲爆撃型、どちらも性能はいい。

押し切られる可能性はとても高いため、この状況下ではこちらが有利な地点まで少しずつ後退することが最善手だが、これをやるのは指揮官の許可が必要。

でないと政治的に不味いことになる。

何せ目指す場所はどう考えても本部の近く、……すなわち会場になる。

お偉いさんが沢山いらっしゃっている。

ここで拙い姿を晒すのは、潤の立場的によろしくないし、指揮官の千冬はいい加減更迭される可能性もある。

こちらに好意的な、立場ある人間が窮地に陥るのは旨みがない。

よって没。

 

 

――詰んでいるな、これは。

 

 

救いがたい結論が出た。

攻勢×、守勢×、後退or撤退×、敗戦濃厚。

真耶の到着タイミング次第で、もしくは更なるミスが生まれれば、両名共に落ちる。

距離を開けたため、無慈悲に捕虜候補たちが奪われていく。(潤視点)

どうやら、これ以上好き勝手させればドリーが爆発して攻撃の軌跡が読めなくなるので、それを嫌ったのかもしれない。

簪を先に落とすと後々の立場に響くので、どうやっても自分が消耗するしかない。

さあ、伸るか、反るか。

 

 

――もはやここから勝利はなし、いざ!

 

 

ヒュペリオンは、今再びシックザールに挑む。

 




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