過去と未来のSTRATOSPHERE   作:尾河七国

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本編突入までどれくらい時間かかるのやら……

ともあれFile.08、どうぞ



File.08《セカンドコンタクト》

「…私達、これからどうなるんだろう」

「とりあえず話せばわかる方々のようですから、大事に越した事はないかと……でも不安に思えてしまいますよね、やっぱり…」

「あとは本部の司令達っスよね。俺たちの安否は絶対知らないだろうし、ミハっちに至っては怪我して寝てるし……」

 

 

 IS学園の職員室隣にある会議室。

 外で数名の教職員に監視されながら待機するエド達の空気は酷く重苦しいものだった。事情聴取はするとは言っていたものの、話す真実を信じてもらえる確証ははっきり言ってない。あの有名な偉人・織斑千冬が相手だったとしてもその不安は拭いきれることはなかった。様々な心境が巡って、彼等は先程からずっとこの有様なのである。

 

 再び沈黙が室内を満たすかと思われた時、それまで黙っていたゲオルクが足音を聞きつけた。

 

 

「……来たようだな」

 

 

 その一言に全員の顔が一気に強張る。音から2、3人程度。それが近づいてくる度に彼らの表情に真剣味が帯びてゆく。

 

 そして、会議室の扉が開かれた。

 

 

(ガチャッ)

「待たせてしまってすまなかったな。こちらの準備不足で少々時間が掛かってしまった」

 

 

 入ってきたのは千冬と真耶だった。二人は座る五人の前に立ち、話を切り出す。

 

 

「さて、これから君達に対する事情聴取を行う」

「「「「「……………」」」」」

 

 

 不穏と静寂が拍車をかけ、一気に会議室内が緊迫した雰囲気と化す。生唾を飲み込む者、玉のような汗を流す者、いずれもこの環境にただならぬ心構えをする者がほとんどだった。

 次の一言は一体何なのか。エド達が注目する中、千冬が放った言葉は……

 

 

 

 

 

「……とその前に。ようこそ、TPSからやってきた未来人の諸君。君達の事情は大体把握している。だからそこまで緊張した表情をしなくてもいい」

(((((……あれ?)))))

 

 

 まさかの歓迎だった。

 

 

「あ、あのー、ちょっといいですか?」

「なんだ?」

「確かに僕達はあなた方からすれば未来人に当たりますが……どうしてそれを知っているのですか? 僕らは一言も未来からやって来たなどと口にはしていませんが……」

「あぁその事か。実は先程、君達の仲間の一人を介してそちらの上層部との情報交換を済ませた。だから既に君達の身分確認は取れている。六名ともTPS実行部隊の緊急事態処理班『ドラゴンエマージェンシー』のメンバーであるとな」

 

 

 千冬はトウキから説明された内容の一部を口にする。その彼女の一言に、ゲオルクが何かを察した。

 

 

「仲間の一人……? ってことはまさか!?」

「その通りだぜゲオルク!」

 

 

 待ってましたとばかりに扉を開けたのは、復帰して千冬達と共にやってきたミハルだった。次の瞬間重苦しかった室内が一変し、メンバーの表情が明るさと安堵に彩られる。

 

 

「「「「「ミハル (君)(兄)(ミハミハ)(ミハっち)!!」」」」」

 

 

 全員が席を立って、罰が悪そうに笑うミハルに駆け寄った。一番初めにマツリが飛びついて顔を埋め、その後に肩に手を置いたり小突いたりと、各々彼の無事を喜んだ。

 

 

「悪りィな皆、色々心配かけちまって」

「もう…っ! 心配かけさせないでよこのバカ兄!!」

「ごめんなマツリ。だからって泣かなくてもいいんだぞ?」

「バッ…!? なっ、べ、別に泣いてなんかないわよ!!」

「マツリちゃん、目尻に涙浮かべて反論しても説得力g (ゲシッ!) イッデェッ!?」

「うっさい! 涙なんか浮かべてないっての!!」

 

 

 余計な一言でマツリに向こう脛を蹴られるジャン。しかもそこは怪我をした場所でもあり、患部を抑えてのたうち回る始末。これは痛い。

 

 

「…あー、再会の喜びを堪能しているところ悪いがそろそろ事情聴取をしたいのだが? 後でたっぷり時間をとらせてやる」

「あ、忘れてた」

 

 

 ひとまず千冬の一言で全員着席。窓側にミハル達が一列に並び、対面した通路側に千冬達が座る。そんな形で落ち着いたので、改めてミハル達の事情聴取が始まった。

 

 

「では君達六名の氏名と年齢、出身地を聞かせてもらおう。…そうだな、最初に山田君と通信を交わした君から」

「わかりました」

 

 

 千冬に指名され、まずはエドから順に自己紹介をすることに。

 

 

「エドワード・オルコットと申します。出身はイギリスで、15歳です」

「ゲオルク・ボーデヴィッヒです。歳は18でドイツ出身」

「メイラン・ファンやで〜。中国生まれの大阪育ちで〜、16歳や〜」

「自分はジャン・デュノアっス。生まれはフランスで歳は15っス」

「俺はミハル・オリムラ。日本出身で15歳だ。んでこいつが…」

「妹のマツリです。年齢は14歳です」

 

 

 一通り自己紹介を終えると、内容を書き取っていた真耶があることに気づく。

 

 

「えっと、ミハル…君とマツリさんは日本出身と仰いましたが、漢字の方はどういった表記なんですか?」

「あー、漢字表記はこれだ」

 

 

 渡されたメモの切れ端にミハルがペンで二人分の名前を記入し、真耶に手渡す。

 

 

 "織斑三春 織斑祭"

 

 

「あれ? この苗字ってまさか……」

「そうだぜ。実は俺達兄妹、千冬さんの生家の子孫なんだ」

「ええっ!?」

「まぁ正確に言えば、千冬さんの弟さんである織斑一夏さんと篠ノ之束博士の妹さん・篠ノ之箒さんの子孫なんですけどね」

「…やはりそうか」

 

 

 これで千冬が感じた、妙な既視感の正体が判明した。二人は千冬の弟と親友の妹との子孫だったのだ。確かに二人の顔立ちやパーツのつき方は千冬と相違する箇所がある。多少の違和感は篠ノ之家の血によるものだった。

 

 

「驚くのはまだ早いで〜。うちらも少なからず関わったり、これから千冬やん達が関わる事になる先祖の子孫なんや〜」

「え、言っちゃっていいんスか? それ」

「別に構わないと思うぞ。現に俺達の姓は先祖のそれと変わりない。恐らく大体察しがついていると思うぞ? 特に…俺なんかは、な」

 

 

 隠す必要はないと、ゲオルクは千冬に顔を向ける。

 

 

「…あぁ。ボーデヴィッヒ、君の言う通りだ。教職に就く前にいたドイツ軍で教官をしていた頃の教え子に、"ラウラ・ボーデヴィッヒ"という軍人が確かにいた」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……間違いなく俺の先祖です。ドイツ軍のIS配備特殊部隊『シュバルツァ・ハーゼ』隊長とドイツ代表候補生の肩書きを持っていて、後にドイツ軍の事実上トップにまで登り詰めたと両親から聞かされています」

 

 

 ゲオルクの話を聞いて、僅かだが千冬の表情が明るくなった。まるで心残りが少し解消されたかのように短い溜め息をつき、静かに瞑目する。

 

 

「むぅ〜。教え子やんの事もええけど、ウチのことも忘れたらあかんで〜? ウチの先祖も千冬やんと関わってんねんやから〜」

 

 

 置いてけぼりを食らいたくないと、ここでメイランが割って入ってきた。体を大きく揺らして存在をアピールするものの、千冬と真耶の視線はおよそ16歳とは思えぬ豊かな産物に行ってしまうわけで。千冬はともかく真耶まで目を見張ってどうする。

 

 

「む、すまないな。少し出しゃばり過ぎたか」

「そら、ゲオルグやんのご先祖様に比べたら影は薄いけどな〜。ん? どうしてん二人とも。口開けっぱにして」

「あ…あぁいや、何でもない。それでメイランは中国人なんだな?」

「せやで〜。4歳くらいに日本の大阪に移り住んだんや〜。あ、これウチの漢字表記な〜」

 

 

 メイランはミハル達と同様に、"鳳美蘭"と記入して手渡した。

 

 

「鳳…成程、鳳鈴音の子孫か」

「確か鳳鈴音さんは中国の代表候補生でしたよね? でも織斑先生とどんな関わりが…?」

「鳳鈴音は一夏の幼馴染なんですよ。ちょうど篠ノ之箒が政府の保護プログラムで転校した入れ違いでやってきましてね。私も何度か顔を合わせています」

「そうやで〜。一つよろしゅうな〜」

 

 

 ほんわかとした笑みを浮かべるメイラン。それに思わず口元を緩める真耶だったが、今は事情聴取中。千冬の咳払いが意識を現実に引き戻した。

 気を取り直して真耶は書き取った紙に目を落とす。すると

 

 

「オルコット……そういえば」

 

 

 何かに気づいたように手持ちのファイルを一冊取り出し、手早く中の書類に目を通してゆく。しばらくしてあるページで手を止めると、そのページの書類を取り出してエドに差し出した。

 

 

「エドワード君、この女性に見覚えはありませんか?」

「…ええ、勿論。僕はこの女性の子孫ですから」

 

 

 それを見たエドはにっこりと答える。

 

 差し出した書類には一人の女性のプロフィールが記載されていた。ブロンドヘアーに縦巻きドリルロール、澄んだ碧眼の相貌をした顔写真の女性は確かにエドの顔つきとよく似ている。その隣には上流階級の人間が持ちそうな経歴や資格がズラリ。

 

 

「成程、メイランが言っていた関わることになる先祖とはこの事か」

「セシリア・オルコットさん……確かイギリスの代表候補生で、この当時新開発だったBT兵器を積んだISが専用機でしたよね」

「ええ。第三世代型の最新鋭機で、主力であるBT兵器は操縦者のイメージを反映・具現化することで複雑な独立可動ユニットを操作する事を目的とした『Bluetears innovation trial』────ブルー・ティアーズ革新型試作機の頭文字をとって『BIT』とも言われています」

「よく知っていますね。100年も前のISのデータだというのに」

「いえいえ、先祖と僕の戦闘スタイルは似て非なる部分が多いので、参考までに覚えていただけですよ」

「このような過去の機体のデータのみならず、我々TPSは過去のありとあらゆる情報を保有しています。万一の事件事象の際はそう言った過去の類例が大きく役立ちますから。実際に保有する情報で解決した事案は全体の解決数のほぼ七割を占めています」

「ほう…」

 

 

 この2046年の世界でも十分な発達を遂げているというのに、その100年後の世界はさらに今より発展した世界らしい。そう考えると今この世界が抱えている問題が霞んで見えてしまう。千冬は軽く頭痛を覚えた。

 

 

「情報保有はTPSだけの専売特許じゃないっスよ? 自分が元々勤めてたIS企業『デュノアコーポレーション』はISの開発やメンテナンスのみならず、TPSと連携をとって情報やデータを保有したり共有しているっス」

 

 

 そう言ってジャンはテクノブレスのクリスタル部に手をかざし、とあるエンブレムを投影する。それは"DCL"のアルファベットに翼と電子回路、地球を象ったロゴデザインで、その下には『デュノアコーポレーション』と表記されている。

 

 

「デュノアコーポレーション……? ひょっとしてこの時代のデュノア社の事ですか?」

「ええ、こっちじゃ改名してデュノアコーポレーションとして新たにIS企業として持ち直したんス。2046年の現在だと経営難で傾いてることは知ってると思うっスけど、その後継いだ新社長の工夫やアイデアで何とか持ち直したんス。そしてTPS設立と同時期に協力体制に入って、現在はISに関する製造や修理に設計、各地の研究所から寄せられたIS関連の研究内容などを保有しているっス」

 

 

 TPSの情報統括管理センターが保有する情報は過去に起こった出来事や報告書などが大半で、IS関連の情報はそれほど保有していない。ISに関する情報は膨大すぎて、TPSの管理センターだけでパンクしてしまうからである。そのためISに関しての情報が必要な場合は、デュノア・コーポレーション内の情報統括管理センターに問い合わせる必要があるのだ。

 

 

「まさにIS企業のトップにまで登り詰めたという事か……。ちなみにデュノア、先程『元々勤めていた』と言っていたが、どういう意味だ?」

「あー単純な職場交代っスよ。デュノア・コーポレーションは年に一回社内アンケートをとって、今の所属先からTPSへ配属したい人を調査するんス。自分もその一人で、前は情報管理職に身を置いていたっス」

 

 

 彼は胸ポケットから一枚のカードを取り出して机の上に提示する。カードはかつて彼がデュノア・コーポレーションにいた頃の社員証だった。いずれ戻る時のためにと、彼は肌身放さずに持ち歩いているのである。

 

 

 一通りミハル達の素性を聞き、背もたれに寄りかかって小さく溜息をつく千冬。無理もない。まさか全員がこの時代を生きる人間の子孫で、内二人が自らの生家の子孫だったのだから。いくら彼女でもあまりに情報量が多く処理が追いつかない。恐らく書き取りをしている真耶も同じであろう。

 次の聴取項目をどうしようかと悩んでいた千冬だったが、ふとゲオルクの顔が視界に入った時、ある事を思い出した。

 

 

「…成程、君達がどういった人間かはよくわかった。全員IS学園に何かしらの関わり合いを持つ人間を先祖に持っていること、そして君達の所属するTPSや未来のデュノア社の事についても。──────さて、ここから本題に入らせて貰おう」

 

 

 それまで頭の中を巡っていた混乱を振りほどくように、千冬は上半身を起こしてミハル達に向き直る。その相貌には先程とは違った真剣味が帯び、ミハル達も思わずそれに動揺。互いに顔を見合わせて耳を傾ける。

 

 

「ゲオルク・ボーデヴィッヒ」

「はい」

「君は確か医務室で私達にこう持ちかけたな。『乗ってきた機体を調べられるのは不味い』と」

「ええ、確かに言いました」

「では約束通り話して貰おう。君達が何故あの機体を調べられるのを恐れているのかを」

 

 

 千冬と真耶が最初に接触した時にゲオルクが待ったをかけたラズリフライヤーの調査。学園側は彼の要求通り調査せずにそのままにしている。

 頼んだ当人はエドとアイコンタクトを交わすと、真剣な表情で話を切り出す。

 

 

「─────わかりました、お話ししましょう。でもその前に一つだけ、これに関連したある事故についてお話しさせてください」

「ある事故だと?」

「はい。あの時ゲオルク君が口にした事の根拠ともいえる世紀の大事故が、我々から見て過去に起こりました。これはあなた方の判断次第では、この先の未来で起こってしまうかもしれない大事故です。それを踏まえた上で聞いて貰いたいんです」

 

 

 そう口にする彼らだけでなく、残りの四人も神妙な面持ちを向けている。只事ではないことは明白だった。

 

 

「……いいだろう」

「ありがとうございます」

 

 

 礼を述べ、静かな口調でゲオルクが語り出したのは衝撃の内容であった。

 

 

 

 

「───────『世界終焉の日(ユニバース・ラグナロク)』。それが、我々人類史上最も最悪とされた大事故の呼称です」

 

 

 

 

 ────────【次回予告】────────

 

 はい、マツリ・オリムラです。今回こそはまともに次回予告させていただきます。

 

 

(あれ? 今日ミハル君達は来てないんでしょうか?)

(いや、来てる筈っスよ? 自分が来た時には三人ともいたのを見てるっスから)

 

 

 次回の『過去と未来のSTRATOSPHERE』は、かなりシリアスな展開になっています。何故ラズリフライヤーを調べられてはいけないのか、そしてゲオルクさんが口にした『世界終焉の日(ユニバース・ラグナロク)』とは一体どんな内容なんでしょうか?

 

 

 次回、File.09『ユニバース・ラグナロク』

 

 

(あ、そういえば舞台の裏手に何やらモゾモゾ動く、粗大ゴミと書かれたゴミ袋が三つあったような……)

(………それ、中身アレなんじゃ…?)

 

 

 次回もお楽しみに!




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