霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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死の海からの迷子

『・・・・・キュオオオオン・・・ジジジ・・・。』

 

『キィィィィン・・・ガリガリ・・・バリバリ・・・ジジジ』

 

岩山オアシス付近で度々目撃される岩石に足や車輪がついた様な物体が、奇妙な音を発している。

砂漠の民は今まで、見た砂漠の神の使者と思われる物体がこんな奇妙な音を発してはいなかったので、ますます畏怖の念を覚えるのであった。

 

「今まで新種の魔物だと思っていたモノ が、まさか岩山の主様の使者だったなんて・・・。」

 

「あぁ、あの神々しい紋章と大地を再生させる神通力、間違いない。」

 

「しかし、今まで言葉を発したことは一度もなかったと言うのに、我々には聞き取れない神の言葉を発するとは、きっと何かが起きたに違いない。」

 

「いや、洞窟の地底湖でちゃんと聞き取れる声で話したという事も聞くが・・・もしや、聞き取れる者と聞き取れない者が居るとか?」

 

「つまり、最初に神の声を聴いた子供たちや調査隊の者たちは特別な資質があるというのか?」

 

砂漠の民の守り手が歩哨に立ち村周辺を警備しているが、それなりに離れた位置に居ても砂漠の神の使者が発する音が聞こえてくる。奇妙な威圧感を感じつつも、砂漠の神に守られているという心強さから、守り手たちは気を引き締めて任務を続けた。

 

 

(うーん、スピーカーの原理は聞きかじった事はあるが、作るともなるとここまで難しい物とは・・・遠征部隊に搭載してみたが、操作し辛い外部環境ではまともな運用は出来そうもないな・・・かなりアナログな操作だし・・・。)

 

『キィィィィン・・・ジジジ・・・パリン!!』

 

(材質から見直した方が良いのか・・・うーむ、パピルス紙とかは使えないだろうか?いや、勝手に村の物を使っては失礼だし、常に物資が不足しているのだ、やはり私の力で何とかするしかないか・・・。)

 

(うん?あれは・・・砂鮫か?村周辺に接近するとは珍しい、何かを追いかけているのか?)

 

従属核を経由して砂鮫を確認すると、砂鮫の進行方向に人影が見えた。

明らかに焦っている様子で、岩山オアシスの村へ全力疾走している様だ。

 

(いかん、村人が襲われているではないか!・・・しかし、此処からでは手が出せない上に近隣に中継用の分身は設置していない、地形操作での救助は不可能・・・どうすれば!!)

 

村の守り手が、異変に気付き弓を構えるが、砂鮫は今にも村人に追いつき食らいつこうとしていた。

 

(!!そうだ、風の魔石と水晶スピーカーを組み合わせればもしくは・・・・頼むから効いてくれよ・・・。)

 

4つ足フレームの従属核は、上部から水晶板を生成し、従属核の内包魔力を絞り出してビー玉サイズの風の魔石を水晶板の手前に生成すると、水晶板が振動し、最大出力で音を発した。

 

『キィィィィン!!!!』

 

水晶板が耐え切れずに破裂すると同時に、小型の風の魔石を砕き魔力暴走を引き起こし、従属核の魔力制御能力で暴走魔力を一定方向に流し、音響ビームを砂鮫に照射する。

 

キシャーーーーーー!!?

 

「うわぁ!?な・・・何だぁ!?」

 

捕食しようと口を開いた一瞬の無防備な体勢の真横から鼓膜を破壊せんばかりの強烈な音を叩きつけられ、砂から飛び出して、平衡感覚を失ったように転げまわる砂鮫。

 

村人は音響ビームの範囲外にいたために、何が起きたか分からず、殆ど頭の中を真っ白にしながら砂鮫から逃げ続ける。

 

「食らえ!・・・よし、今だ!逃げろ!!」

 

守り手たちが、サソリの尻尾から抽出した毒の毒矢を砂鮫の急所である柔らかい腹部や眼球に撃ちこみ、逃げる村人を援護する。

 

砂鮫は苦しそうにもがくが、次第に動きが鈍くなってきて、体を痙攣させる。

最後には、増援の守り手たちが大槍を集団で砂鮫の弱点部分に突き刺し止めを刺した。

 

(見事な連携だな、しかし何で砂鮫がこんな所まで?見たことも無いサイズだ・・・。)

 

大物の砂鮫の死体に集まる岩山オアシスの村人たち、村の有力者たちが深刻そうな顔で縄で引きずられる砂鮫の死体を横目に何かを話している。

 

「父さん、この砂鮫って・・・。」

 

「あぁ、死の海で確認されている大砂鮫だ。幾ら交易路から外れた砂漠の端だからと言って、砂の粒子の荒い場所まで現れるとは・・・。」

 

「見たことも無い大きさだね、お母さん、あの砂鮫って特別大きな種類なの?」

 

「ラナよりも私の方が詳しいぞアイラ?死の海と呼ばれる、やたらと細かい砂粒の領域があってな、少しの重さの物でも砂に飲み込まれてしまうため、サボテンなどの植物が根付きにくい場所で、殆どの生物は近寄らない場所なのだが、砂が細かいが故に大型の魔物が身を隠しやすいので、巨大な魔獣の楽園となっているのだ。」

 

「おじいちゃん物知り!・・・あれ?ってことはあの砂鮫ってそこから来た魔物なの?」

 

「あぁ、しかも死の海の生物の中でも比較的小型の部類だ、通常はもっと大きな奴に食われるのだが、きっとそいつから逃れるために泳ぎにくいこの場所まで住処を追われたのだろうな。」

 

「アイラ、岩山で遊ぶのは良いけど、絶対に砂地に出ちゃだめよ?もしあなた達に何かあったらお母さんは・・・。」

 

「あー・・・うん、そこは大丈夫だよ、わたしお姉ちゃんだし、むしろラーレとジダンを窘める側だから。」

 

「うふふ、私の可愛い子供たち、みんな私の宝物よ。」

 

「きゃっ!?も・・もう!お母さんたらっ!」

 

アイラを抱き上げ村の門に向かうラナ、アイラはラナの胸元でもがくが途中で抵抗を諦め、ぼーっと運ばれてくる砂鮫を眺めるのであった。

 

(死の海の魔物・・・か、確かにその単語は何度も村の中で耳にしたし、大体の位置は把握しているが、分身体の損失を避けるために探索はしていなかった・・・こうなると、大型種の砂鮫が迷い込んだ原因を調査しなければならなくなったな・・・。どうしたものか)

 

迷宮核は、オアシスの水脈調整の作業の傍ら、新たに発生した問題に頭を悩ませつつ複数に分けた思考のリソースを死の海の領域の探索用フレームの開発に充てるのであった。

 

「・・・それでさ、命からがらあの化け物から逃げ切った訳だが、砂鮫が苦しみ始めなかったら今頃食われていただろうな、思い出すだけでも体が震えるよ。」

 

「守り手たちが言うには、砂漠の神の使者様が鋭い緑色の光を放ったら、砂鮫が横から殴られたように吹っ飛んで、苦しみ始めたそうだぞ?」

 

「え?じゃぁ、使者様は俺を救ってくれたというのか?」

 

「一瞬の出来事だから、あんまりはっきりしていないんだが、恐らく何か魔法を使ったのだろう、それもあの巨体の砂鮫が自由を奪われるくらいに強烈な・・・。」

 

「おお・・・まさに、砂漠の神様のご加護だ・・・そう言えば、最近使者様を村周辺でよく見かけるようになったが、これを見越していたのでは・・・・。」

 

「きっとそうだろう、そう言えば何か奇妙な音を発していたそうだが、神の言葉で使者様同士で連絡を取り合っていたのかもしれんな。」

 

「はぁ、神の声を正確に理解できたのは村長の所の末っ子ジダンと取り巻きの悪ガキども、後は魔術師達くらいか・・・全く羨ましい限りだよ。」

 

命からがら砂鮫から逃げた男・・・行商キャラバンの連絡員は、雑談仲間と輸入品の果実酒を飲みながら談笑を続けるのであった。

 

(はぁ、何だか最近私がますます神様扱いされるようになってしまっているな・・・正直うんざりしているが、ここで下手な事をすれば砂漠の民がまとまらなくなってしまう。頃合いが来るまで裏方に徹するべきだろうか・・・。)

 

(ふむ、交易は砂漠の希少品との交換で順調に販路を開拓している様だな、上手く軌道に乗れば岩山オアシスも大きく発展するだろう。)

 

(死の海調査用のフレームの構想も進んだし、風の魔石を利用したホバー推進のテストを少し離れたところで行ってみるか、機会があるか分からないが水上での運用も考慮して水魔石で小さな泉を作って実験してみても良いかもしれないな。)

 

(現時点では分身体の損失は1体も無いが、まだフレームの運用技術が未熟な時に足を砂鮫に破壊されて立ち往生した時は、流石に焦ったな・・・魔力切れで動けないから僅かな魔力で岩壁を作って身を守るしかできなかったが、回収用の分身体で砂鮫を追い払っていなかったら分身体を砕かれていたかもしれん。自衛用の機構と予備の魔力は必要だな)

 

迷宮核は、遠征用従属核に自衛用にあえて脆くした光の魔石を多数搭載するようにしている。フレームの形状は地形に合わせて様々だが、従属核本体を守る外殻の上部の穴から射出され、地面に落下するとともに光の魔石が砕け散るようにしてある。

強烈な閃光を放ち、視覚があまり発達していない砂鮫や巨大サソリすらも暫く気絶させることが出来るので、砂漠の生物の命を奪う事なく無力化する自衛装置として重宝しているのだ。

 

そして、今回新たに音響ビームが自衛装置として加わり、従属核は歩くスタングレネードと化する事になった。

 

(死の海は、あの巨大な砂鮫すらも餌とする怪物が生息する危険地帯・・・分身体を調査に向かわせるにせよ、子供だまし程度の自衛手段じゃ無意味かもしれない。)

 

(この世界は弱肉強食・・・それは食う場所のないであろう私の身ですらも例外ではない、生物の命を奪う覚悟、死の海では今まで以上に分身体の損失を覚悟して万全の態勢で挑むべきだろう。)

 

コアルーム内に小さなラジコンの様な物体が風を下部に噴射しながら、地面を滑っている。それ以外にも、小さな蜘蛛、車輪、ボール、ソリ、魚など様々な形状の物体がそれぞれの動作をしながら地面を這っていた。

 

(・・・・しかし、実験のためとはいえミニチュアフレームは子供のおもちゃみたいだな・・・傍から見ても子供部屋状態だ・・・終わったら解体してしまおうか・・・。)

 

迷宮核は、従属核に機動力を持たせるため様々なフレームを試作しているが、それら試作品が岩山オアシスの外で大型化され、稼働実験が行われるまで通るものは少なく、さらにその中から採用されるものは更に少ない。

 

今でこそ、従属核のパッケージ化が進んでいるが、それは無数の候補の中から勝ち抜き採用されたものであり、魔石の力でごり押しする仕様の武装従属核も候補上位に残っていた。迷宮核の温厚な気質に合っていない事と、ランニングコストが高すぎるので配備を見送ったが、死の海調査に限ってはそんな事を言っている余裕もないのだ。

 

(まぁ、最悪フレームを破棄して上空に打ち上げた後、空から帰還させる方法もあるか、全く魔力消費に優しくないなぁ・・・。)

 

 

迷宮核は、厳しい砂漠を生き抜くために日夜研究を続けるのであった・・・・。

 

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武装従属核フレーム

 

まるで戦車を思わせる強靭な外殻と、砂鮫の息の根を止める事が可能な武装を搭載している従属核の重武装フレーム。

油圧アームで突き刺す単純な攻撃法から、粒状の火の魔石の力を開放し発生した爆圧を直接目標に当てたり、破片を浴びせたりする殺傷力の高い攻撃法もある。

従属核のフレーム全般に言える事だが、水力タービンを動力としているので全くノイズが無い訳でも無いが、地球の化石燃料動力の自動車に比べると稼働音は低い。


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